説明

製造物の温度調整システム、及び温度調整方法

【課題】タンク温度の変動を抑え、温度調整に要するエネルギーの省エネ化を図ることが可能な温度調整システムを提供する。
【解決手段】製造物の温度を設定温度に調整するジャケット部18を備え、当該ジャケット部18に加熱あるいは冷却された熱媒体を提供して製造物の温度調整を行うシステムにおいて、設定温度よりも高温に保持された熱媒体を貯留する加熱タンク12と、設定温度よりも低温に保持された熱媒体を貯留する冷却タンク14と、加熱タンク12に貯留される熱媒体と冷却タンク14に貯留される熱媒体との間の温度に分布する温度調整されていない熱媒体を貯留する中間タンク16とを備え、いずれかのタンクに貯留された熱媒体をジャケット部18に選択的に供給して製造物の温度を設定温度に調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造物の温度調整システム、及び温度調整方法に係り、特に熱媒体を用いて間接的に製造物を加熱、又は冷却する場合に好適な温度調整システム、及び温度調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば健康食品などの分野では、製造物は醗酵や酵素反応などを行うタンクや反応釜などに入れられており、その周囲に設けられた温度調整用ジャケットタンクに供給される熱媒体により製造物の温度調整が行われている。なお、温度調整用ジャケットタンクに供給される熱媒体は、予め所定の温度に加熱、あるいは冷却されてタンクに貯留されており、これらの熱媒体が製造物の設定温度に応じて供給されることとなる。
【0003】
このような製造形態を採る背景には、製造物の熱負荷や温度調整の精度等が関わっている。一般に、製造物の熱負荷は時間の経過と共に変動し、熱負荷が最大になったときの状態で加熱及び冷却能力の設定が成される。しかし、熱負荷が小さい場合には加熱及び冷却能力の無駄が生じる。また、少ない熱量を補正するための温度調整はその精度が低下しがちとなるという実情があった。
【0004】
そこで上記のように、加熱及び冷却した熱媒体を蓄えるタンクを設けることで、これが製造物を加熱及び冷却する際の熱負荷を補うバッファとなり、加熱及び冷却能力の無駄を省くことができるようになるのである。さらに、各々のタンク温度が一定に維持されることで、製造物の温度調整を高い精度で実現することが可能となるのである。
【0005】
このように、熱媒体に温度変化を与えることにより製造物の温度調整を行うシステムとしては、特許文献1に開示されているようなものを挙げることができる。特許文献1に開示されているシステムは、熱媒体として温水を用いるものであり、この温水の温度を変化させることにより、製造物の温度を調整するというものである。そして、特許文献1では、製造物を加熱する際には温水にスチームを吹き込むことで熱媒体の温度を上昇させ、製造物を冷却する際には温水に冷水を混合することで熱媒体の温度を低下させるということを特徴としている。
【特許文献1】特公平7−16396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のように加熱、あるいは冷却された熱媒体を貯留するタンクからジャケット部に供給された熱媒体は、熱交換された後に再び貯留タンクに返還されることとなるのが一般的である。ここで、加熱時、あるいは冷却時の熱負荷が大きなものである場合、タンクに貯留されている熱媒体とタンクに返還される熱媒体との熱量の差が大きくなり、タンク内に貯留された熱媒体の温度が不安定となることがある。また、このような温度変動が生じた場合には、タンク内に貯留した熱媒体を再び所定の温度まで加熱、あるいは冷却するために大きなエネルギーが必要となる。
【0007】
そこで本発明では、上記従来技術の欠点を解消し、タンク温度の変動を抑え、温度調整に要するエネルギーの省エネ化を図ることが可能な、製造物の温度調整システム、及び温度調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
加熱タンク、あるいは冷却タンクに貯留された熱媒体の温度の変動を抑制するためには、温度変動を抑えるためのバッファとなる手段を備えれば良いと考えられる。また、必要とするエネルギーを少なくするためには、時間と共に温度変化が生じる熱媒体を有効利用すれば良いと考えられる。
【0009】
そこで、上記目的を達成するための、本発明に係る温度調整システムは、製造物の温度を設定温度に調整するジャケット部を備え、当該ジャケット部に加熱あるいは冷却された熱媒体を提供して前記製造物の温度調整を行うシステムにおいて、前記設定温度よりも高温に保持された熱媒体を貯留する加熱タンクと、前記設定温度よりも低温に保持された熱媒体を貯留する冷却タンクと、前記加熱タンクに貯留される熱媒体と前記冷却タンクに貯留される熱媒体との間の温度に分布する温度調整されていない熱媒体を貯留する中間タンクと、前記それぞれのタンクに設けられた温度検出手段によって検出された温度に基づき、いずれかのタンクを選択し、選択されたタンクに貯留された熱媒体を前記ジャケット部に供給して、前記製造物の温度を設定温度に調整する調整手段とを備えることを特徴とすることとした。
【0010】
また、上記のような構成を有する温度調整システムでは、前記調整手段は、前記加熱タンク、前記冷却タンク、及び前記中間タンクの中から、貯留する熱媒体の温度が前記設定温度の高温側と低温側とに位置する2つのタンクに貯留された熱媒体をジャケット部に供給すると良い。
【0011】
また、上記のような構成の温度調整システムでは、前記中間タンクに、貯留する熱媒体の温度調整を行う吸熱手段又は/及び放熱手段を備えるようにすることが望ましい。
さらに、上記構成の温度調整システムでは、前記調整手段は、前記加熱タンクあるいは前記冷却タンクに貯留された熱媒体よりも、前記中間タンクに貯留された熱媒体を優先して前記ジャケット部に供給すると良い。
【0012】
また、上記目的を達成するための本発明に係る温度調整方法は、設定温度よりも高温に設定された熱媒体、又は前記設定温度よりも低温に設定された熱媒体をジャケット部に供給し、製造物の温度を設定温度となるように調整する温度調整方法において、前記製造物を昇温させる際には、前記高温に設定された熱媒体と前記低温に設定された熱媒体との間の温度を有する中間温度熱媒体と前記高温に設定された熱媒体とを用い、前記製造物を冷却する際には、前記中間温度熱媒体と前記低温に設定された熱媒体とを用いることにより、温度調整時における製造物の温度勾配を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記のような特徴を有する温度調整システム、及び方法によれば、熱媒体の加熱時、あるいは冷却時に消費されるエネルギーのロスを抑えることができる。また、上記システムによれば、バッファとして中間タンクを設けたことにより、加熱タンク、あるいは冷却タンク内に貯留された熱媒体の温度の変動を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の温度調整システム及び温度調整方法に係る実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明に係る一部の形態を示すものであり、本発明はその主要部を変えない限度において種々の形態を採るものとする。
【0015】
まず、図1を参照して本発明の温度調整システムに係る第1の実施形態について説明する。本実施形態における製造物の温度調整システム10は、製造物を入れる温度調整用ジャケットタンク20、この温度調整用ジャケットタンク20の周囲に配置されたジャケット部18、加熱タンク12、冷却タンク14、中間タンク16、及びこれらのタンクを循環する熱媒体とを備えることを基本構成とする。
【0016】
前記ジャケット部18は上述したように、温度調整用ジャケットタンク20の周囲に配置された空間であり、空間内に供給された熱媒体と温度調整用ジャケットタンク20との間で熱交換を行わせる役割を担う。ジャケット部18には、空間内に熱媒体を供給する熱媒体供給配管18aと、熱交換が成された熱媒体を排出する熱媒体排出配管18bとが設けられている。
【0017】
前記加熱タンク12は、温度調整用ジャケットタンク20の設定温度よりも高い温度に加熱された熱媒体を貯留するタンクである。加熱タンク12には貯留する熱媒体を所定の温度に加熱するための加熱設備22が接続されており、加熱設備22と加熱タンク12とを接続する循環路を成す配管21には、搬送ポンプ22aが設けられている。この搬送ポンプ22aによって送り出された熱媒体が、配管21を通って加熱設備22を通過し、加熱タンク12に戻るという工程を経ることで、加熱タンク12内に貯留された熱媒体は所定温度に保持されることとなる。また、温度が下がり易いタンク下層から熱媒体を抜き取り、加熱してタンク上層へ戻すという構成を採ることにより、タンク内に貯留された熱媒体を循環させることができ、タンク内に貯留される熱媒体の均熱化を図ることができる。
【0018】
このように、温度調整用ジャケットタンク20の設定温度よりも常に高温に保たれた熱媒体を貯留する加熱タンク12を備えることにより、タンク内に貯留した熱媒体を前記ジャケット部18に供給することで温度調整用ジャケットタンク20を急速に昇温させるということができる。よって、加熱タンク12には、前記ジャケット部18に熱媒体を供給する熱媒体供給配管18aに接続された熱媒体搬出配管12aと、ジャケット部18に供給した熱媒体が帰還できるように前記熱媒体排出配管18bに接続された熱媒体搬入配管12bとが設けられている。そして、熱媒体搬出配管12aには、熱媒体を搬送するための搬送ポンプ26が設けられている。
【0019】
前記冷却タンク14は、温度調整用ジャケットタンク20の設定温度よりも低い温度に冷却された熱媒体を貯留するタンクである。冷却タンク14には貯留する熱媒体を所定の温度に冷却するための冷却設備24が接続されており、冷却設備24と冷却タンク14とを接続する循環路を成す配管23には、搬送ポンプ24aが設けられている。この搬送ポンプ24aによって吸い出された熱媒体が配管23を通って冷却設備24を通過し、冷却タンク14に戻るという工程を経ることで、冷却タンク14内に貯留された熱媒体は所定温度に保持されることとなる。また、温度が上がり易いタンク上層から熱媒体を抜き取り、冷却してタンク下層へ戻すという構成を採ることにより、タンク内に貯留された熱媒体を循環させることができ、タンク内に貯留される熱媒体の均熱化を図ることができる。
【0020】
このように、温度調整用ジャケットタンク20の設定温度よりも常に低温に保たれた熱媒体を貯留する冷却タンク14を備えることにより、タンク内に貯留した熱媒体を前記ジャケット部18に供給することで温度調整用ジャケットタンク20を急速に冷却するということができる。よって、冷却タンク14には、前記ジャケット部18に熱媒体を供給する熱媒体供給配管18aに接続された熱媒体搬出配管14aと、ジャケット部18に供給した熱媒体が帰還できるように前記熱媒体排出配管18bに接続された熱媒体搬入配管14bとが設けられている。そして、熱媒体搬出配管14aには、熱媒体を搬送するための搬送ポンプ28が設けられている。
【0021】
前記中間タンク16は、前記加熱タンク12に貯留された熱媒体と前記冷却タンク14に貯留された熱媒体との間に分布する温度の熱媒体を貯留するタンクである。本実施形態の中間タンク16には、上述した加熱タンク12や冷却タンク14のような加熱設備22、あるいは冷却設備24が備えられていない。したがって、中間タンク16内に貯留される熱媒体の温度は、中間タンク16に供給される熱媒体の温度や、タンク周囲の環境温度に依存して変化するものとなる。
【0022】
このように、温度調整用ジャケットタンク20の設定温度に対し、時間の経過に伴って高温あるいは低温に変化する熱媒体を貯留する中間タンク16については、温度調整用ジャケットタンク20の温度、温度調整用ジャケットタンク20の設定温度、及び貯留している熱媒体の温度等を相対的に比較して、熱媒体の使用用途を変化させることができる。例えば、温度調整用ジャケットタンク20の温度が、中間タンク16に貯留された熱媒体の温度より低く、温度調整用ジャケットタンク20を昇温させたい場合には、前記高温タンク12に貯留された熱媒体よりも優先的に中間タンク16内に貯留された熱媒体を使用することにより、熱エネルギーの有効利用を図ることができる。また、温度調整用ジャケットタンク20の温度が、中間タンク16に貯留された熱媒体の温度よりも高い場合に、温度調整用ジャケットタンク20をさらに昇温させたい場合には、前記高温タンク12に貯留された熱媒体により温度調整用ジャケットタンク20を急速昇温させ、ある時点でジャケット部18に供給する熱媒体を中間タンク16に貯留された熱媒体に切り替えることにより、冷却作用が働き、温度勾配を調整することができ、設定温度に対するオーバーシュートを防止することが可能となる。なお、温度調整用ジャケットタンク20を冷却する場合も同様である。
【0023】
このため、中間タンク16には、上記加熱タンク12や上記冷却タンク14と同様に、前記ジャケット部18に熱媒体を供給する熱媒体供給配管18aに接続された熱媒体搬出配管16aと、ジャケット部18に供給した熱媒体が帰還できるように前記熱媒体排出配管18bに接続された熱媒体搬入配管16bとが設けられている。そして、熱媒体搬出配管16aには、熱媒体を搬送するための搬送ポンプ30が設けられている。
【0024】
上記のような構成の温度調整システム10において、上記熱媒体搬出配管12a,14a,16aにはそれぞれ、制御弁32,34,36が設けられており、ジャケット部18に熱媒体を供給するタンクを選択的に指定することができる構成とされている。また、上記熱媒体排出配管12b,14b,16bにはそれぞれ、前記制御弁32,34,36に対応して開閉する制御弁32a,34a,36aが設けられており、いずれかのタンクから搬出された熱媒体に対応する量の熱媒体が、同一のタンクに搬入される構成とされている。
なお、本実施形態でいう熱媒体とは、加熱、冷却に使用可能な種々の流体とする。
【0025】
また、上記それぞれのタンクには図示しない温度検出手段が設けられており、使用する熱媒体を貯留するタンクの選択は、前記温度検出手段によって検出された熱媒体の温度、及び温度調整用ジャケットタンクの温度等を比較して判断を行う図示しない調整手段によってなされる。
【0026】
ここで、加熱タンク12、あるいは冷却タンク14の設定温度と環境温度との温度差を大きくするほど、熱媒体の加熱、冷却、あるいは保温に必要とされるエネルギー量は大きくなる。上記のような構成の温度調整システム10によれば、加熱、冷却に大きなエネルギーを必要とする加熱タンク12、あるいは冷却タンク14内に貯留された熱媒体に優先して、熱媒体の貯留にエネルギーを必要としない中間タンク16内の熱媒体を使用し、温度調整用ジャケットタンク20の温度調整を行うことを可能としている。このため、加熱タンク12からジャケット部18に供給された熱媒体の代わりにジャケット部18から加熱タンク12に排出された熱媒体を所定の温度まで加熱する行為、あるいは冷却タンク14から供給され、熱交換された容量の熱媒体を所定の温度まで冷却するという行為が減少されることとなる。よって、加熱、冷却に消費されるエネルギーを減少させることができる。
【0027】
以下に、上記構成の温度調整システム10を用いて温度調整用ジャケットタンク20の温度調整を行う場合について、温度調整用ジャケットタンク20内の製造物が変質(温度変化)しやすい物質である場合と、製造物が変質しにくい物質である場合について、いくつかの例を挙げ、それぞれのケースについて温度調整の方法を説明する。
【0028】
まず、製造物が変質しやすい物質である場合の例について、図2を参照して説明する。ここで、図2(A)は加熱タンク12、冷却タンク14、中間タンク16に貯留された熱媒体の温度、製造物の温度、及び製造物の設定温度の関係を示す図であり、図2(B)は中間タンク16及び製造物の温度変化の様子と、熱媒体が使用されるタンクとの関係を示すグラフである。また、図2は、製造物を加熱する場合の例を示す図である。
【0029】
図2(A)から読み取れるように、本実施例の場合、中間タンク16に貯留された熱媒体の温度Tよりも、製造物の温度Tの方が高温であり、温度Tよりもさらに製造物の設定温度Tの方が高温である。このような場合、製造物の温度Tを設定温度Tまで昇温させるためには、貯留する熱媒体の温度が、製造物の設定温度の高温側と低温側とに位置する2つのタンクを利用し、製造物の温度Tの温度勾配を調整しつつ昇温を図るようにすると良い。
【0030】
まず、製造物が設定温度Tよりもある温度Tだけ低い温度(T−T)に至るまで、加熱タンク12内に貯留された高温Tの熱媒体をジャケット部18に供給して製造物の温度Tを急速昇温させる。製造物の温度Tがある温度(T−T)に到達した後、ジャケット部18に供給する熱媒体を、中間タンク16に貯留された熱媒体に切り替える。これによりジャケット部18に残留する熱媒体の平均温度は低下することとなり、温度勾配が調整され、製造物が設定温度に対してオーバーシュートに至ることを防止することができる。
【0031】
次に、図3(A)及び図3(B)を参照して、中間タンク16に貯留した熱媒体の温度Tよりも低い温度の製造物を加熱する場合の例について説明する。なお、本実施例も、製造物が変質し易い物質である場合に関するものである。
【0032】
本実施例のようなケースでは、製造物の温度Tが中間タンク16に貯留された熱媒体の温度Tに至るまで、ジャケット部18に、中間タンク16内の熱媒体を供給して製造物を加熱する。その後、ジャケット部18に供給する熱媒体を加熱タンク12に貯留された熱媒体に切り替えて、製造物がある温度(T−T)に至るまで継続して加熱を行う。製造物の温度Tが、ある温度(T−T)に至った後、ジャケット部18に供給する熱媒体を再び、中間タンク16に貯留した熱媒体に切り替える。これによりジャケット部18内に残留する熱媒体の平均温度は低下することとなり、製造物の温度Tの温度勾配が調整され、製造物が設定温度に対してオーバーシュートに至ることを防止することができる。
【0033】
次に、製造物が変質しにくい物質である場合の例について、図4(A)、(B)を参照して説明する。なお、図面の構成については、図2と同様である。
【0034】
本実施例の場合、製造物の温度調整は、製造物が変質しやすい場合と同様である。すなわち、製造物の温度Tが、ある温度(T−T)に至るまでは加熱タンク12に貯留された熱媒体をジャケット部18に供給し、温度Tが温度(T−T)に到達した後にはジャケット部18に供給する熱媒体を、中間タンク16に貯留されたものとするという方法である。よって、このようなケースでは、製造物の変質特性に関わらず同様な加熱を行うことが可能であることが判る。
【0035】
次に、製造物が変質しにくい物質である場合において、中間タンク16に貯留した熱媒体の温度Tよりも低い温度の製造物を加熱する場合の例について図5(A)及び図5(B)を参照して説明する。
【0036】
本実施例のような場合、製造物が変質しにくいため、ジャケット部には最初から加熱タンク内に貯留された高温Tの熱媒体を供給する。中間タンク16の熱媒体を用いて製造物を加熱することも可能であるが、加熱に要する時間、及び熱媒体の量が多大となる。このため、加熱タンク12に貯留された熱媒体を使用して製造物を加熱する方が効率的に有利となるのである。加熱タンク12からジャケット部18に対する熱媒体の供給は、製造物の温度Tが、ある温度(T−T)に到達した時点で停止されて中間タンク16に貯留された熱媒体に切り替えられる。これにより、上記と同様、製造物の温度Tの温度勾配が調整され、設定温度に対してオーバーシュートすることを防止することができる。
【0037】
上述した実施例は全て、製造物を加熱する場合についての説明である。これに対し、製造物を冷却する場合には、上述した加熱タンク12に貯留された熱媒体をジャケット部18に供給するという行為に替えて、冷却タンク14に貯留された熱媒体を供給するという行為にすれば良い。例として図6を参照し、製造物が変質しやすい物質である場合において、中間タンク16内に貯留された熱媒体の温度Tよりも製造物の温度Tが高く、TをTよりも低い設定温度Tへ冷却するケースについて説明する。
【0038】
本実施例では製造物の温度Tが中間タンク16に貯留された熱媒体の温度Tに至るまで、ジャケット部18に中間タンク16内の熱媒体を供給して製造物を冷却する。その後、ジャケット部18に供給する熱媒体を冷却タンクに貯留された熱媒体に切り替えて、製造物が、ある温度(T+T)に至るまで継続して製造物の冷却を行う。製造物の温度Tが、ある温度(T+T)に至った後、ジャケット部18に供給する熱媒体を再び切り替えて、中間タンク16に貯留した熱媒体とする。これによりジャケット部18内に残留する熱媒体は加熱されることとなり、製造物が設定温度に対してオーバーシュートに至ることを防止することができる。
【0039】
従来では、製造物の加熱、冷却を行う際には全て、加熱タンク12あるいは冷却タンク14に貯留された熱媒体が使用されていた。これに対し、本実施形態のように温度調整がなされていない中間タンク16内に熱媒体を貯留し、この中間タンク16に貯留された熱媒体を利用することで、大きなエネルギーを必要とする高温の熱媒体、あるいは低温の熱媒体を製造する量を減らしつつ従来と同様な熱量を得ることが可能となり、結果として省エネ効果を奏することができるようになる。
【0040】
次に、図7を参照して、本発明の温度調整システムに係る第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態に係る温度調整システムの殆どの構成は、図1に示した第2の実施形態に係る温度調整システム10と同様である。したがって、その構成を同様とする箇所には、図1に付した符号に対して100を足した符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0041】
本実施形態の温度調整システム110は、中間タンク116に対して吸熱手段、又は放熱手段、あるいはその両方の手段(以下、これらをまとめて、吸熱/放熱手段115aと称す)を接続し、中間タンク116に貯留された熱媒体の温度を調整可能な構成としたことを特徴とする。中間タンク116と吸熱/放熱手段115aとを接続する循環路115を成す配管には、搬送ポンプ115bが設けられている。ここで、吸熱/放熱手段115aとは、具体的には、ヒーティングタワーや冷却塔のように、省エネルギーでの加熱、冷却を可能とする手段のことを指すものとする。このように、中間タンク116内に貯留される熱媒体の温度を少ないエネルギーによって多少なりとも温度調整可能な構成とすることにより、製造物の温度調整を、より効率的に行うことが可能となる。なお、他の構成、作用効果等は、上述した第1の実施形態に係る温度調整システム10と同様である。
【0042】
上記実施形態に係る温度調整システム10,110は、いずれも従来の温度調整システムに対して省エネ効果を奏することができる旨記載した。以下に具体的数値を用いた例を示し、省エネ効果を説明する。
【0043】
以下の例は、5mの容積を有するタンクに満たされた100℃の製造物を0℃まで冷却する場合に関するものである。ここで、製造物の比熱を2[KJ/kg℃]、単位質量を500kg/mとした場合、製造物を冷却する際に必要とされる熱量は、
【数1】

ということになる。
【0044】
そして、中間タンクに貯留された熱媒体の、ある時点での温度を80℃とし、中間タンクの熱媒体により、製造物と熱媒体との温度差の半分を冷却することができると仮定する。そうすると、実質的な冷却温度は90℃となり、製造物を冷却する際に必要とされる熱量は、
【数2】

ということになる。
【0045】
ここで、500MJの熱量分を消費するために冷却器が必要とする電力量を145kWhとすると、450MJでは、約131kWh必要なことになる。この実施例の場合、中間タンクを設けることにより、冷却機が消費する電力量を約10%低減することができることとなる。この消費エネルギーの低減効果は当然に、中間タンクの初期温度に依存して増減することとなるが、いずれの場合においても低減効果を得ることはできる。
【0046】
また、上記第2の実施形態のように中間タンクに冷却塔を備えた場合、同じ条件においても、さらに大きな省エネ効果を期待することができる。例えば、冷却塔における冷却作用により、中間タンク内の熱媒体の温度が80℃から50℃にまで冷却された場合、中間タンクに貯留された熱媒体によって製造物の温度は75℃にまで冷却することができる。75℃の製造物を0℃まで冷却するために必要とされる熱量は、
【数3】

であるため、冷却器が消費する電力量は約109kWhということになる。そして、冷却塔による中間タンク内の熱媒体の冷却に消費される電力量を約5kWhと仮定すると、電力消費量の合計は約114kWhとなり、第1の実施形態に係る温度調整システムよりもさらに高い省エネ効果を得ることができることがわかる。なお、この場合でも、中間タンク周囲の環境温度や熱媒体の初期温度によってその効果に差は生じるが、省エネ効果を奏することに変わりは無い。
【0047】
表1に、上記実施例に係る温度調整とエネルギーについての関係をまとめる。
【表1】

上記のように、本発明の温度調整システム及び方法によれば、エネルギーロスとタンク温度の変動を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
上記実施形態において熱媒体は、液体であるように説明したが、本発明を実施する上では、必ずしも液体とする必要は無く、熱媒体を気体とすることもできる。この場合、配管に備えられる搬送ポンプは、搬送ファン等に置き換えるようにすると良い。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第1の実施形態に係る温度調整システムの構成を示す図である。
【図2】変質し易い物質を加熱する際の第1のケースにおける温度関係を示す図である。
【図3】変質し易い物質を加熱する際の第2のケースにおける温度関係を示す図である。
【図4】変質し難い物質を加熱する際の第1のケースにおける温度関係を示す図である。
【図5】変質し難い物質を加熱する際の第2のケースにおける温度関係を示す図である。
【図6】変質し易い物質を冷却する際のケースにおける温度関係を示す図である。
【図7】第2の実施形態に係る温度調整システムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10………温度調整システム、12………加熱タンク、14………冷却タンク、16………中間タンク、18………ジャケット部、20………温度調整用ジャケットタンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造物の温度を設定温度に調整する温度調整用ジャケットタンクを備え、温度調整用ジャケットタンクのジャケット部に加熱あるいは冷却された熱媒体を提供して前記製造物の温度調整を行うシステムにおいて、
前記設定温度よりも高温に保持された熱媒体を貯留する加熱タンクと、
前記設定温度よりも低温に保持された熱媒体を貯留する冷却タンクと、
前記加熱タンクに貯留される熱媒体と前記冷却タンクに貯留される熱媒体との間の温度に分布する温度調整されていない熱媒体を貯留する中間タンクと、
前記それぞれのタンクに設けられた温度検出手段によって検出された温度に基づき、いずれかのタンクを選択し、選択されたタンクに貯留された熱媒体を前記ジャケット部に供給して、前記製造物の温度を設定温度に調整する調整手段とを備えることを特徴とする温度調整システム。
【請求項2】
前記調整手段は、前記加熱タンク、前記冷却タンク、及び前記中間タンクの中から、貯留する熱媒体の温度が前記設定温度の高温側と低温側とに位置する2つのタンクに貯留された熱媒体を前記ジャケット部に供給することを特徴とする請求項1に記載の温度調整システム。
【請求項3】
前記中間タンクに、貯留する熱媒体の温度調整を行う吸熱手段又は/及び放熱手段を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の温度調整システム。
【請求項4】
前記調整手段は、前記加熱タンクあるいは前記冷却タンクに貯留された熱媒体よりも、前記中間タンクに貯留された熱媒体を優先して前記ジャケット部に供給することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1に記載の温度調整システム。
【請求項5】
設定温度よりも高温に設定された熱媒体、又は前記設定温度よりも低温に設定された熱媒体をジャケット部に供給し、製造物の温度を設定温度となるように調整する温度調整方法において、
前記製造物を昇温させる際には、前記高温に設定された熱媒体と前記低温に設定された熱媒体との間の温度を有する中間温度熱媒体と前記高温に設定された熱媒体とを用い、
前記製造物を冷却する際には、前記中間温度熱媒体と前記低温に設定された熱媒体とを用いることにより、
温度調整時における製造物の温度勾配を調整することを特徴とする温度調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−224097(P2008−224097A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60630(P2007−60630)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】