説明

製造設備の操業支援システム

【課題】薄板製造設備の操業を行うに際して、オペレータの経験度合いに左右されることなく、コイルヤードでの確実な在庫管理を行うと共に、コイルヤードのコイル数に応じて、下流側設備や上流側設備の適切な操業条件を設定可能とする。
【解決手段】本発明は、処理対象材を処理する上流側設備2とこの上流側設備2で処理された処理対象材に対して後処理を行う下流側設備4と上流側設備2と下流側設備4との間に設けられた一時保管ヤード3とを有する製造設備1に設けられ、且つ製造設備1における設定条件の人的な変更作業を支援する操業支援システム10であって、操業支援システム10は、オペレータMが確認可能な表示器11を有し、表示器11は、一時保管ヤード3における処理対象材の数の推移情報を表示するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象材を上流側設備で処理し、その後、下流側設備へ受け渡してさらに処理を行う製造設備において、上流側装置と下流側設備との間に設けられた一時保管ヤードでの処理対象材の数の在庫管理を行うと共に、一時保管ヤードでの処理対象材の数に応じて、下流側設備や上流側設備の操業条件の一部又は全部を人的判断に基づき変更する際に、その変更作業を支援する支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
処理対象材を上流側設備で処理し、その後、下流側設備へ受け渡してさらに処理を行う製造設備を考えた場合、製鉄所内に存在するものとしては、例えば、薄板製造設備がある。
この薄板製造設備では、鋳片を熱間圧延装置で所定の厚さの圧延板に圧延し、その後、上流側設備である冷間圧延装置(TCM、タンデムコールドミル)により所定の厚さ、クラウン形状まで圧延を進める。圧延が終わった圧延材は、巻き取られてコイル材(処理対象材)とされ、一時保管ヤード(コイル材の一時的な保管場所であって、コイルヤードと呼ぶ)に一時的に保管されることとなる。その後、後工程を行う下流側設備に導入される。下流側設備としては、ECL(電気クリーニングライン)、CAL(連続焼鈍ライン)、CGL(連続メッキライン)などがある。
【0003】
下流側設備においては、複数のコイル材を接続して連続的に処理を行う。接続するコイル材としては任意のものは選べず、例えば、材幅が略同じであり且つ板厚も近い方コイル材が接続対象として選択される。併せて、処理内容が類似したもの同士を接続すれば、処理速度も大きく変更する必要が無く効率的な処理が行えるようになる。
このように効率的な後処理を行うためには、コイルヤードに所定数のコイル材がストックされていることが好ましい。とはいえ、コイルヤードの広さには限りがある故、多数のコイル材を保管しておくことは困難である。
【0004】
コイルヤードに保管されるコイル材の数(コイル数)を調整するに関しては、コイルヤードを含めた上流側設備及び下流側設備の操業条件を調整するオペレータが存在する。このオペレータは、コイルヤードに保管されるコイル数を勘案しながら、上流側設備の稼働状況や処理速度を調整すると共に、下流側設備の稼働状況や処理速度を調整する。このような調整を行ったとしてもコイルヤードに保管されるコイル数が上限を上回りそうな場合(コイル材が溢れる場合)には、別のコイルヤードへ仮置きするために搬送手段の準備や人員手配を行うこともある。とはいえ、コイルヤードにおけるコイル数の在庫管理は多くの条件から総合的に判断する必要があるため、難しい作業となっている。
【0005】
そこで、コイルヤードにおけるコイル在庫の管理を自動的に行う技術が開発されている。
例えば、特許文献1は、コンピュータにその幅、直径、及び三次元的位置を含む諸元が入力されたコイルヤード内の多種多様の鋼板コイルを、該鋼板コイルを出庫する前に、所定の順序で出庫できるように前記コンピュータ内で荷繰りを行う自動荷繰りシステムであって、前記コイルヤード内にあって出庫ライン毎に設けられた鋼板コイルを保管する一般保管エリアと、前記出庫ライン毎に出庫する鋼板コイルを段積みするための荷揃え場と、該鋼板コイルを吊り上げて搬送する自動クレーンと、該自動クレーンを制御して前記一般保管エリアに段積みされた前記出庫する鋼板コイルを他の鋼板コイルを動かすことなく、出庫の順番に取り出す手順を生成する前記コンピュータを有する制御装置とを備える自動荷繰りシステムを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−278616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した如く、コイルヤードの在庫管理を行うオペレータは、生産性を落とすことなく、コイルヤードにおけるコイル数が一定数以上とならないように、上流側の設備や下流側の設備の各種操業条件を制御している。このとき、経験豊富なオペレータだと、過去の様々な経験を基に所望とされる設備の操業条件を選択できる。
しかしながら、経験の浅いオペレータの場合、コイルヤードにおけるコイル材の在庫数予測がうまくゆかず、上流側設備、下流側設備の的確な操業条件の選択が困難となる場合がある。
【0008】
この状況に対応すべく、特許文献1の技術を採用し、コイルヤードから最適な数のコイル材を出荷してコイルヤードでのコイル数を適切に調整できたとしても、上流側の設備や下流側の設備の各種操業条件を制御するには、コイルヤードの在庫数の推移を予測することが重要である。しかしながら、特許文献1に開示された技術では、コイルヤードの在庫数の推移を予測することは難しいのが実情である。加えて、コイルヤードの在庫数の推移予測には、膨大な設備の操業実績データを並列的に判断する必要があるため、経験の浅いオペレータでは対応不可能なことが多い。
【0009】
そこで、本発明は上記問題点を鑑み、製造設備の操業を行うに際して、オペレータの経験度合いに左右されることなく、一時保管ヤードでの確実な在庫管理を行うと共に、一時保管ヤードの処理対象材の数に応じて、下流側設備や上流側設備の適切な操業条件を設定可能とする製造設備の操業支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明に係る薄板製造設備の操業支援システムは、処理対象材を処理する上流側設備とこの上流側設備で処理された処理対象材に対して後処理を行う下流側設備と前記上流側設備と下流側設備との間に設けられた一時保管ヤードとを有する製造設備に設けられ、且つ前記製造設備における設定条件の人的な変更作業を支援する操業支援システムであって、前記操業支援システムは、オペレータが確認可能な表示器を有し、前記表示器は、一時保管ヤードにおける処理対象材の数の推移情報を表示するように構成されていることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記表示器には、一時保管ヤードに存在する処理対象材の実績数が表示されているとよい。
好ましくは、前記表示器には、一時保管ヤード内に存在可能な処理対象材の最大数が表示されているとよい。
好ましくは、前記一時保管ヤードに存在する処理対象材の初期数、上流側設備の処理速度及び下流側設備の処理速度を用いて、一時保管ヤードに存在する処理対象材の数の推移情報を算出するとよい。
【0012】
好ましくは、前記一時保管ヤードに存在する処理対象材の数を算出するにあたっては、前記上流側設備の処理速度を最低とすると共に、下流側設備の処理速度を最高として、一時保管ヤードにおける処理対象材の数の最少推移情報を算出し、前記上流側設備の処理速度を最高とすると共に、下流側設備の処理速度を最低として、一時保管ヤードにおける処理対象材の数の最多推移情報を算出し、前記表示器に、処理対象材の数の最多推移情報及び/又は最少推移情報を表示させるとよい。
【0013】
好ましくは、前記表示器に表示された処理対象材の数の推移情報を基に、上流側設備及び/又は下流側設備の操業条件を調整するとよい。
好ましくは、前記処理対象材の数の推移情報を算出するにあたっては、上流側設備及び/又は下流側設備の処理速度の実績値を基にして、上流側設備及び/又は下流側設備の処理量を算出するとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造設備の操業支援システムによれば、オペレータの経験度合いに左右されることなく、一時保管ヤードでの確実な在庫管理を行うと共に、一時保管ヤードでの処理対象材の数に応じて、下流側設備や上流側設備の適切な操業条件を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】薄板製造設備の操業支援システムの概念図を示したものである。
【図2】薄板製造設備を概略的に示した図である。
【図3】支援モニタに表示される画面の一例を示した図である。
【図4】コイルヤードの在庫量の計算の流れを示したフローチャートである。
【図5】薄板製造設備内に配置された設備の処理速度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る製造設備の操業支援システムの実施の形態を、薄板製造設備を例示しつつ、図をもとに説明する。
図1は、本実施形態の操業支援システム10、及び操業支援システム10が設けられた薄板製造設備1を示した模式図である。
図1に示すように、薄板製造設備1は、上流側に熱間圧延装置で所定の厚さまで圧延された圧延板をさらに圧延する冷間圧延装置(TCM、タンデムコールドミル)が配備されている。この冷間圧延装置すなわち上流側設備2(図では設備Aと表記)により所定の厚さ、クラウン形状まで圧延が施される。
【0017】
圧延が終わった圧延材は、巻き取られてコイル材(処理対象材)とされ、コイルヤード3(圧延材を巻回してなるコイル材の一時的な保管場所、一時保管ヤード)に一時的に保管されることとなる。
その後、後工程を行う下流側設備4に導入される。下流側設備4としては、ECL(電気クリーニングライン、図では設備Bと表記)、CAL(連続焼鈍ライン、図では設備Cと表記)、CGL(連続メッキライン、図では設備Dと表記)などがある。
【0018】
ECLは、圧延材の表面に静電気などを発生させ、表面のクリーニングを連続的に行う装置である。CALは、圧延材を昇温させた後、所定の冷却速度で降温させて、連続的に焼鈍を施す装置である。CGLは、圧延材の表面に対し連続的にメッキを施す装置である。いずれの装置も、複数のコイル材(帯板)を接続し、連続的に処理を行う。なお、ECL、CAL、CGLは下流側設備4の一例であり、これに限定されるものではない。
【0019】
下流側設備4でコイル材を接続するに際しては、接続するコイル材として任意のものが選べず、例えば、材幅が略同じであり且つ板厚も近い方コイル材が接続対象として選択される。併せて、処理内容が近いもの同士を接続すれば、処理速度も大きく変更する必要が無く効率的な処理が行えるようになる。
なお、本実施形態の説明においては、上流側設備2、コイルヤード3、下流側設備4をまとめて、薄板製造設備1と呼んでいる。これは、図1の波線で囲まれた部分に対応する。薄板製造設備1の上流側には、前述した熱間圧延装置が存在し、この熱間圧延装置と薄板製造設備1との間には、ヤードA(コイルヤードA)が設けられている。
【0020】
薄板製造設備1の下流側には、各下流側設備4で処理が行われた後のコイル材がストックされるヤードB(コイルヤードB)〜ヤードD(コイルヤードD)が設けられている。ヤードB〜ヤードDに保管されたコイル材は、順次、さらなる下工程処理へと送られる。
このような薄板製造設備1においては、当該設備1をコントロールするオペレータMが存在する。このオペレータMは、生産性を鑑みつつ、コイルヤード3に保管されるコイル材の数(単にコイル数と呼ぶこともある)を調整すると共に、上流側設備2及び下流側設備4の処理速度などを調整する。とはいえ、コイルヤード3におけるコイルの在庫管理、それに伴う上流側設備2及び下流側設備4の処理速度の調整等は、様々な条件から総合的に判断する必要があるため、難しい作業となっている。
【0021】
薄板製造設備1における設備A〜設備Dの操業条件の調整は、経験を積んだオペレータMであれば、過去の様々な経験を基に条件を設定可能である。しかしながら、経験の浅いオペレータMの場合、薄板製造設備1の操業が困難となることが十分考えられる。特に、コイルヤード3の在庫数の推移を予測することは難しく、予測した在庫数に基づき、各設備の操業条件が決定される故、経験の浅いオペレータMでは対応不可能なことが多い。
【0022】
そこで、本実施形態の操業支援システム10は、コイルヤード3におけるコイル材の数の推移情報を提示するように構成することで、オペレータMの経験度合いに左右されることなく、適切な操業条件を設定することができるようにしている。
以下、本実施形態の薄板製造設備1の操業支援システム10の詳細を述べることにする。
【0023】
操業支援システム10は、コイルヤード3におけるコイル材の数の推移情報を表示可能な表示器11(支援モニタ)を有している。加えて、操業データを入力値としてコイルヤード3におけるコイル材の数の推移情報を計算することが可能な数値モデル12(在庫量予測モデル12)を有している。
コイルヤード3におけるコイル材の数の推移情報を表示する支援モニタ11は、液晶モニタやCRTモニタで構成され、コントロール室内に設置されている。オペレータMは常にこの支援モニタ11を視聴可能な状態となっている。
【0024】
在庫量予測モデル12は、本操業支援システム10に設けられたコンピュータ13乃至はプロコン内にソフトウエアの形で実現されている。
具体的には、このコンピュータ13は、内部に演算装置を備えると共に記憶装置を備えていて、当該コンピュータ13に対する指示や外部からの信号を取り込むための入力装置や演算結果を表示する出力装置を備えている。
【0025】
在庫量予測モデル12はプログラム化されてハードディスクで構成された記憶装置に記憶されており、この在庫量予測モデル12をMPUなどで構成された演算装置により演算する。演算にあたっては、AD変換ボードなどで構成された入力装置を介して、操業中の上流側設備2及び下流側設備4から得られた実績値(処理速度など)や現時点でのコイルヤード3の在庫数などの実績値、コイルヤード3の初期数量などが入力され、在庫量予測モデル12の条件値として採用される。実績値は、キーボードなどの入力装置により直接入力されてもよい。
【0026】
演算装置で演算された結果(在庫量予測モデル12の予測値)は、記憶装置に記録されると共に、出力装置すなわち支援モニタ11に表示される。支援モニタ11には、入力装置を介して入力された「現在時刻におけるコイルヤード3でのコイル数の実績値」も同時に表示される。
本実施形態の場合、支援モニタ11に表示されるコイルヤード3におけるコイル材の数の推移情報としては、上流側設備2(設備A)の処理速度を最低とすると共に、下流側設備4(設備B〜設備D)の処理速度を最高とした場合を想定し、コイルヤード3におけるコイル数の推移を算出する。得られた推移は、コイルヤード3に存在するコイル数が最も少ない状況を示した「最少推移曲線」となる。最少推移曲線は図3のAラインのようになる。なお、図3のグラフの横軸は時間を示しており、単位は「勤」で示されている。1勤とは8時間勤務のことである。
【0027】
一方、コイル材の数の推移情報として、上流側設備2の処理速度を最高とすると共に、下流側設備4の処理速度を最低とした場合を想定し、コイルヤード3におけるコイル数の推移を算出することもできる。得られた推移は、コイルヤード3に存在するコイル数が最も多い状況を示した「最多推移曲線」となる。最多推移曲線は図3のCラインのようになる。
【0028】
また、コイル材の数の推移情報として、上流側設備2の処理速度を現状のままとすると共に、下流側設備4の処理速度も現状のままとした場合を想定し、コイルヤード3におけるコイル数の推移を算出することもできる。得られた推移は、コイルヤード3に存在するコイル数が標準的な(現在と同じである)状況を示した「標準推移曲線」となる。標準曲線は図3のBラインのようになる。
【0029】
本実施形態の場合、支援モニタ11は最少推移曲線、標準推移曲線、最多推移曲線の3本が表示されている。併せて、支援モニタ11には、コイルヤード3内に存在可能なコイル材の最大数が表示されている(図3の破線)。加えて、1勤〜4勤に亘るコイル数の実績値(図3の丸印)すなわちコイルヤード3に存在するコイル材の実績数も示されている。
【0030】
支援モニタ11を参照したオペレータMであれば(仮に経験の浅いオペレータMであっても)、「現状の操業条件を維持したまま操業を行っても、10勤近くまで、コイルヤード3はコイル溢れが生じない」、「上流側設備2の処理速度を上げると共に、下流側設備4の処理速度を落とすような操業を行った場合、最多推移曲線のように推移し、10勤近くにおいて、コイルヤード3でコイル溢れが発生する可能性がある」などの判断をすることができる。
【0031】
斯かる判断に基づいて、上流側設備2や下流側設備4の操業条件を適切にコントロールできるようになる。例えば、コイル溢れの危険性がある際には、上流側設備2の処理速度を控えめにしたり、下流側設備4の内、処理速度をアップ可能なものに対して、処理速度を増加させる。また、接続するコイル材の組み合わせを再検討し、下流側設備4全体としての処理能力を向上する。
【0032】
なお、図3のグラフの更新は、現場で必要とされるタイミングで行われるとよい。例えば、在庫量予測モデル12は1勤ごとに再計算され、図3のグラフは1勤ごとに更新されてもよいし、生産計画が見直されたタイミングで、図3のグラフが更新されるようにしてもよい。
ところで、コイルヤード3におけるコイル数の推移情報を計算する在庫量予測モデル12としては、マス保存則の考え方を用いた様々なものが考えられ、そのいずれを採用してもよい。本実施形態の場合、図4のフローチャートに示す在庫量予測モデル12により、在庫量を算出するようにしている。
【0033】
在庫量予測モデル12では、まず、図4のS1に示すように、コイルヤード3の初期在庫量Inv(1)を、プロコンに納めたれたデータベースより読み込む。
次ぎに、S2において、各設備の生産予定情報(どの順序で何を生産するかが示された生産スケジュール)を読み込むようにする。同時にS3において、各設備の生産能力情報(処理速度や焼鈍パターンなど、コイル材ごとの生産条件)を読み込むようにする。
【0034】
S4において、読み込んだ設備の生産予定情報及び各設備の生産能力情報を基に、各設備での処理の終了時間を導出する。この終了時間を求めることで、例えば一日の終わり又は1勤が終了するまでに、どの順番のコイル材まで処理が終了しているかを知ることができるようになる。
その後、S5でi=1とし、S6において、下流側設備4(出側設備)のi勤目終了時での生産量In(i)を計算する。
【0035】
同様に、S7で、上流側設備2(入側設備)のi勤目終了時での生産量Out(i)を計算する。
S8において、i+1勤コイルヤード3における在庫量Inv(i+1)を算出する。Inv(i+1)は1つ前の勤における在庫量Inv(i)と、S6にて求めた上流側設備2(入側設備)の生産量In(i)と、S7にて求めた下流側設備4(出側設備)の生産量Out(i)とから、「Inv(i+1)=Inv(i)+In(i)−Out(i)」で算出される。
【0036】
S9にて、i=i+1とし、S10で、最終勤まで計算を進めたか否かを判定する。最終勤まで進んだ際には、計算を終了し、最終勤ではない場合には、S6に戻る。
なお、S6,S7にて、設備のi勤目終了時での生産量を求めるに際しては、上流側設備2や下流側設備4の処理速度の実績値を基にして、各設備の処理量を算出することが好ましい。
【0037】
なぜならば、図5に示す如く、各設備には、複数のコイル材が接続されて連続的に導入されることとなるが、その際、コイル材ごとに設備での処理速度が変更される。理想的な操業計画では、処理速度は処理されるコイル材に対応して、階段状に変更されることになるが、現実には、このような速度変化を行うことは設備的に困難を伴う。そこで、図5の破線に示すように、実際の処理速度は、接続された2つのコイル材の低い速度に合わせるようにしている。そのため、設定処理速度と実際の処理速度はコイル切り換え時の前後でずれた状態となる。
【0038】
このずれを無視したまま設定速度を用いて、S5,S6にて、設備のi勤目終了時での生産量を求めると、推定したコイル在庫量の推移には大きな誤差が含まれることになる。
それ故、本発明の支援システムにおいては、実際の速度(図5の破線に示される速度)を用いて、S6〜S8を行い、コイル在庫量の推移を算出するようにしている。
以上述べたように、圧延材を圧延する上流側設備2と、この上流側設備2で圧延された圧延材に対して後処理を行う下流側設備4と、これら上流側設備2と下流側設備4との間に設けられたコイルヤード3とを有する薄板製造装置1に設けられた操業支援システム10を用いることで、オペレータMは、コイルヤード3におけるコイル数の推移情報が表示される表示器11を参照し、この表示器11に表示されたコイルヤード3のコイル数の推移を基に、上流側設備2や下流側設備4の操業条件を調整することで、コイルヤード3におけるコイル溢れやコイル欠損状況を確実に回避することができるようになり、薄板製造設備1において、製造が一時的に止まるなどの悪状況を確実に回避することが可能となる。
【0039】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0040】
例えば、オペレータMに各種情報を提示する表示器11として、視覚に訴える支援モニタを例示したが、オペレータMに対し音声で情報を伝える機器を表示器11として採用してもよい。
ところで、本発明に係る製造設備の操業支援システムの実施形態を説明するにあたり、薄板製造設備を例示したが、本発明はそれに限定されるものではない。例えば、鉄鋼分野であれば、「スラブ、ビレットなどの半製品を製造する設備」にも適用可能である。この場合、上流側設備は連続鋳造機、下流側設備は圧延機であり、処理対象材はスラブ、ビレットなどの鋳片となる。また、本発明のシステムは「高炉原料を製造する設備」にも適用可能である。この場合、上流側設備は原料船からの荷揚げ設備(リクレーマー)となり、下流側設備は焼結機、ペレット製造機、又はこれらに原料を運ぶ原料コンベアなどが相当し、処理対象材は鉄鉱石、石炭などとなる。本発明が非鉄金属(アルミ、銅、チタン等)の製造設備にも適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0041】
1 薄板製造設備
2 上流側設備
3 コイルヤード
4 下流側設備
10 操業支援システム
11 支援モニタ
12 在庫量予測モデル
13 コンピュータ
M オペレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象材を処理する上流側設備とこの上流側設備で処理された処理対象材に対して後処理を行う下流側設備と前記上流側設備と下流側設備との間に設けられた一時保管ヤードとを有する製造設備に設けられ、且つ前記製造設備における設定条件の人的な変更作業を支援する操業支援システムであって、
前記操業支援システムは、オペレータが確認可能な表示器を有し、
前記表示器は、一時保管ヤードにおける処理対象材の数の推移情報を表示するように構成されていることを特徴とする製造設備の操業支援システム。
【請求項2】
前記表示器には、一時保管ヤードに存在する処理対象材の実績数が表示されていることを特徴とする請求項1に記載の製造設備の操業支援システム。
【請求項3】
前記表示器には、一時保管ヤード内に存在可能な処理対象材の最大数が表示されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造設備の操業支援システム。
【請求項4】
前記一時保管ヤードに存在する処理対象材の初期数、上流側設備の処理速度及び下流側設備の処理速度を用いて、一時保管ヤードに存在する処理対象材の数の推移情報を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造設備の操業支援システム。
【請求項5】
前記一時保管ヤードに存在する処理対象材の数を算出するにあたっては、
前記上流側設備の処理速度を最低とすると共に、下流側設備の処理速度を最高として、一時保管ヤードにおける処理対象材の数の最少推移情報を算出し、
前記上流側設備の処理速度を最高とすると共に、下流側設備の処理速度を最低として、一時保管ヤードにおける処理対象材の数の最多推移情報を算出し、
前記表示器に、処理対象材の数の最多推移情報及び/又は最少推移情報を表示させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造設備の操業支援システム。
【請求項6】
前記表示器に表示された処理対象材の数の推移情報を基に、上流側設備及び/又は下流側設備の操業条件を調整することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の製造設備の操業支援システム。
【請求項7】
前記処理対象材の数の推移情報を算出するにあたっては、上流側設備及び/又は下流側設備の処理速度の実績値を基にして、上流側設備及び/又は下流側設備の処理量を算出していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の製造設備の操業支援システム。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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