説明

製鋼スラグ粉末を用いた多孔質固化体の製造方法

【課題】製鉄所で多量に排出される製鋼スラグ粉末を用い、吸着剤や調湿材、徐放材等として有用な、多孔質固化体を得ることを目的とする。
【解決手段】少なくとも粒度が355μm未満の製鋼スラグ粉末と粒度が355μm未満のシリカ含有物質粉末とを混合し、該シリカ含有物質粉末の種類に応じて塩基度を調節した混合物を得た後、該混合物を水熱処理して多孔質固化体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグ粉末を用いた多孔質固化体の製造方法に関するものであり、詳細には、製鉄所において発生する製鋼スラグ粉末を用い、例えば吸着剤や調湿材、徐放材等として有用な多孔質固化体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所において、製鉄プロセスで副産物として発生する予備処理スラグ、転炉スラグ、電気炉スラグ、鋳造スラグ等の製鋼スラグの粉末(製鋼スラグ粉末)は大量に排出されることから、その有効利用が要望されている。これらの有効利用として、埋め立て用資材、道路用資材、セメント用資材としての活用が知られている。しかし大量に発生することから、新たな処理による再資源化が強く望まれている。このような製鋼スラグ粉末の有効利用方法として、該製鋼スラグ粉末とSiO含有物質等を混合し、水の存在下で反応を生じさせて(水熱処理して)、有用な固化体を得る技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、石灰質原料として用いる製鋼スラグと珪酸質原料とからなる混合造粒物の水性スラリーを、動的運動を与えながら加熱加圧下で水熱合成することによって、軽量性、耐火性、気硬性を有し、不燃ボード等の材料として有用な、珪酸カルシウム水和物2次粒子を製造することが示されている。しかしこの技術では、加熱加圧処理の対象がスラリー状態であるため、熱的な損失が大きいと思われる。
【0004】
特許文献2には、製鋼スラグと、火力発電所等から副次的に発生するフライアッシュとを有効利用して、調湿材料を製造する方法が示されている。具体的には、フライアッシュに、Ca単体又は製鋼スラグの様にCa化合物を含む物質(このCa化合物を含む物質として、粒径が5mm以下であることが好ましい旨記載されている)を配合した混合原料を、水で混練してから、0〜260℃、大気圧〜2.5MPaの圧力下で養生して調湿材料を製造することが示されている。
【0005】
特許文献3には、粒径が5mm以下の粒子を含有する製鋼スラグ粉末とSiO含有物質粉末とからなる混合粉を、水と混練し、水分の存在下で固化させることによって、硬化体を得ることが示されている。また特許文献4には、粉状の製鋼スラグ粉末と、洗砂処理で発生する洗砂汚泥と、酸化カルシウム(CaO)源とを混練機で混合し、製団機を用いて塊状固体を得た後、水蒸気雰囲気中で高温高圧処理することが記載されている。
【0006】
上記特許文献1〜4の技術では、SiO含有物質として、珪酸質原料やフライアッシュ等を用いることが示されているが、これらを製鋼スラグ粉末と混合するに際し、例えばSiO含有量を制御して添加しても、水熱処理して得られる固化体として固化状態の良好なものが得られない場合がある、といった問題がある。
【0007】
また、製鉄所で多量に排出される製鋼スラグ粉末を用い、良好な固化状態を示すと共に多孔構造を示す多孔質固化体を、従来技術よりも容易に得ることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−239611号公報
【特許文献2】特開2002−348170号公報
【特許文献3】特許第3714043号公報
【特許文献4】特許第3840371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、製鋼スラグ粉末を用いて、良好な固化状態を示す多孔質固化体を、確実にかつ比較的容易に得るための方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し得た本発明の多孔質固化体の製造方法は、製鋼スラグ粉末を用いて多孔質固化体を製造する方法であって、少なくとも、粒度が355μm未満の製鋼スラグ粉末と、粒度が355μm未満のシリカ含有物質粉末を混合し、前記シリカ含有物質粉末の種類に応じて塩基度を調節した混合物を得た後、該混合物を水熱処理するところに特徴を有するものである。
【0011】
前記シリカ含有物質粉末の種類に応じて混合物の塩基度を調節するにあたり、前記シリカ含有物質粉末として結晶質シリカ粉末を用いる場合は、前記混合物の塩基度を0.7以下とし、前記シリカ含有物質粉末として半晶質シリカ粉末を用いる場合は、前記混合物の塩基度を1.3以下とし、前記シリカ含有物質粉末として非晶質シリカ粉末を用いる場合は、前記混合物の塩基度を2.5以下とすることが好ましい。
【0012】
前記混合物のかさ密度は1.0g/cm以上1.9g/cm以下とすることが好ましい。
【0013】
前記シリカ含有物質粉末として、半晶質シリカ粉末および/または非晶質シリカ粉末を含むものを用いることが好ましい。
【0014】
前記混合物の水分量を、固形分に対する質量比で40%以上120%以下とすることが好ましい。
【0015】
また、前記製鋼スラグ粉末として、粒度が250μm未満の製鋼スラグ粉末を用いることが好ましい。
【0016】
前記水熱処理は、前記混合物を静置した状態で行うことが好ましい。
【0017】
本発明には、前記製造方法で製造された多孔質固化体であって、気孔率が50%以上70%以下であるところに特徴を有する多孔質固化体も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、製鉄所で多量に排出される製鋼スラグ粉末を用いて、固化状態が良好で、かつ多孔構造を有する多孔質固化体を得ることができる。この様な固化状態が良好かつ多孔構造を有する本発明の固化体(多孔質固化体)は、吸着剤や調湿材、更には有用成分を内包させて緩やかな放出を行う徐放材等への展開が可能であり、新しい利用方法の創出に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、製鋼スラグ粉末の粒度と、固化体の固化状態との関係を示したグラフである。
【図2】図2は、シリカ含有物質粉末の種類別かつ水熱処理時の処理温度別に、混合物の塩基度と固化体の固化状態の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一般に、製鋼スラグ粉末を用いた固化体の製造方法として、上記特許文献1〜4に示される通り、製鋼スラグとSiO含有物質等とを混合し、水の存在下で反応を生じさせて(水熱処理して)固化体を得ることが知られているが、本発明者らは該固化体として、固化状態が良好で、かつ多孔構造を有する多孔質固化体を、確実にかつ容易に得るべく鋭意研究を行ったところ、特に、水熱処理に供する混合物を、
(a)粒度の制御された製鋼スラグ粉末と、
(b)粒度の制御されたシリカ含有物質粉末とを混合して得ること、および、
(c)前記シリカ含有物質粉末の種類に応じて、この混合物の塩基度{CaO/SiO質量比[(CaO−mass%)/(SiO−mass%)]をいう。以下、「混合物の塩基度」を、単に「塩基度」ということがある}を調節すること
が重要であることを見出した。
【0021】
この様な条件を満たす方法で固化体を製造すれば、シリカ含有物質粉末の種類に応じて確実に、かつ、例えば特許文献3等に示されたような珪酸ソーダ等の添加物を添加せずとも、比較的短時間で、固化状態が良好かつ多孔構造を有する固化体を得ることができる。
【0022】
以下、本発明の多孔質固化体を製造する方法について、上記混合物を構成する原料から順に詳述する。
【0023】
〔製鋼スラグ粉末〕
本発明では、製鉄所で発生する予備処理スラグ、転炉スラグ、電気炉スラグ、鋳造スラグ等の製鋼スラグの粉末(製鋼スラグ粉末)を原料に用いることを前提とする。
【0024】
また、前記製鋼スラグ粉末として、本発明では粒度が355μm未満のものを用いる。
【0025】
上記製鋼スラグ粉末の粒度上限値は、下記の検討を行って決定したものである。即ち、シリカ含有物質粉末として、石英(粒度:63〜125μm)を用いると共に、製鋼スラグ粉末として種々の粒度のものを用い、後述する実施例と同様にして、混合し、250℃で16時間の水熱処理を行って、固化体を得て、該固化体の固化状態(以下、単に「固化状態」ということがある)を後述する実施例と同様の方法で調べた。
【0026】
尚、本発明において、例えば上記石英の粒度「63〜125μm」とは、JIS Z 8801に示されたふるいを用いて分級したときに、目開き125μmのふるい下であって、目開き63μmのふるい上にあるもの、即ち、63μm以上125μm未満であることを意味する(以下、その他のシリカ含有物質粉末の粒度や、製鋼スラグ粉末の粒度の同表現についても同じ)。
【0027】
上記の通り調べた固化状態の結果を図1に示す。この図1から、製鋼スラグ粉末の粒度が大きくなると、固化状態が悪くなる傾向にあり、固化状態の良好なもの(〇または△)を得るには、粒度が355μm未満の製鋼スラグ粉末を用いる必要があることがわかる。この粒度範囲の製鋼スラグ粉末を用いることによって、後述する混合物の塩基度やかさ密度も制御しやすくなる。製鋼スラグ粉末の粒度は、好ましくは250μm未満である。
【0028】
製鋼スラグ粉末の粒度の下限は、良好な固化状態を確保する観点からは特に定めないが、ハンドリングの観点からは10μm程度を下限値とすることが好ましい。
【0029】
〔シリカ含有物質粉末〕
本発明では、上記製鋼スラグ粉末と共に、シリカ含有物質粉末を用いる。シリカ含有物質粉末としては、石英、石炭灰、高炉水砕スラグ、水晶、珪砂、珪藻土、酸性白土、コロイド状シリカ、シリカゲル、合成シリカ等が挙げられる。
【0030】
(シリカ含有物質粉末の粒度について)
本発明では、シリカ含有物質粉末として、粒度が355μm未満のものを用いる。後述する表1のNo.18〜22を対比すると明らかなように、シリカ含有物質粉末の粒度を355μm未満とすることによって、固化状態の良好なもの(〇または△)が得られることがわかる。シリカ含有物質粉末の粒度は、好ましくは250μm未満、より好ましくは125μm未満である。
【0031】
また、この粒度範囲のシリカ含有物質粉末を用いることによって、後述する混合物のかさ密度も容易に達成することができる。
【0032】
尚、本発明者らは、シリカ含有物質粉末の粒度がより小さい場合にも、良好な固化状態の多孔質固化体が得られることを確認した。即ち、粒度が63μm未満の製鋼スラグ粉末と、これと混合するシリカ含有物質粉末として、粒度がそれぞれ、32μm未満、32〜63μm、63〜125μmである石英を用い、後述する実施例と同様にして、混合し、250℃で16時間水熱処理を行って、得られた固化体の固化状態を調べた。その結果、いずれの場合も固化状態は〇であった。
【0033】
シリカ含有物質粉末の粒度の下限は、良好な固化状態を確保する観点からは特に定めないが、ハンドリングの観点からは、シリカ含有物質粉末の粒度の下限を10μm程度とするのがよい。
【0034】
(シリカ含有物質粉末の種類に応じた、混合物の塩基度調節について)
上述した通り、種々のシリカ含有物質粉末の例えばSiO含有量を制御して添加しても、固化状態の良好なものが得られない場合があった。そこで、その原因を追究すべく、種々のシリカ含有物質粉末を用い、製鋼スラグ粉末の粒度やシリカ含有物質粉末の粒度、混合物の塩基度、水熱処理条件等を変化させて水熱処理を行った。
【0035】
その結果、良好な固化状態の固化体を確実に得るには、上記(c)の通りシリカ含有物質粉末の種類に応じて混合物の塩基度を調節することも重要であることを見出した。
【0036】
まず、水熱処理における固化には、混合物の塩基度が寄与することを説明する。図2は、後述する実施例の結果を用いて、シリカ含有物質粉末の種類別かつ水熱処理時の処理温度別に、塩基度と固化状態の関係を示したものであるが、この図2から、いずれの種類のシリカ含有物質粉末の場合も、塩基度が低い方が良好な固化状態が得られることがわかる。混合物の塩基度が高すぎると固化状態の良好な固化体を得ることができず、粉末状のままとなる。
【0037】
尚、混合物の塩基度は、多孔性にも影響を及ぼすと考えられる。即ち、水熱反応によってCaとSiを含む結晶物が生成するが、この結晶物には針状結晶が含まれ、針状結晶の成長に伴って微細な空洞が形成されるため、多孔性を示す固化体が得られると考えられる。そして、塩基度を調整することによって、上記結晶物の生成状態(成長状態)が制御され、多孔性と固化度合いの調整を図ることができると考えられる。
【0038】
上記図2からは、シリカ含有物質粉末の種類によって、固化状態が「×」から良好な状態(△や〇)へ移行時の塩基度が異なることもわかる。詳細には、石英の場合、混合物の塩基度が1を下回らなければ固化状態が「×」から「△」にならないのに対し、石炭灰の場合には、石英よりも高い塩基度で固化状態が「×」から「△」となり、また、非晶質シリカや高炉水砕スラグの場合は、更に高い塩基度でも固化状態は「△」または「〇」を示すことがわかる。
【0039】
上記結果について、十分解明したわけではないが次の様に考えられる。即ち、水熱反応における固化状態は、上述した混合物の塩基度の影響に加えて、シリカ含有物質粉末の結晶性の影響を受けるものと思われる。具体的には、シリカ含有物質粉末が、結晶質の状態であるよりも非晶質の状態である方が、水熱処理時に固化に有効な成分(シリコン)が溶出しやすく、反応が進み易い、即ち、CaとSiを含む結晶物(ケイ酸カルシウム水和物)の形成に有利であると考えられる。よって、シリカ含有物質粉末として、非晶質部分の割合がより高いものを用いれば、反応が促進される傾向にあり、良好な固化状態が得られる塩基度の許容範囲(上限)が大きくなる(広がる)傾向にあると思われる。
【0040】
この様な観点から、シリカ含有物質粉末の種類に応じて塩基度を調節する必要があり、具体的に調節するにあたっては、シリカ含有物質粉末の結晶性を考慮することが好ましい、と考えた。
【0041】
より具体的には、シリカ含有物質粉末を、結晶性の観点から、結晶質シリカ粉末、半晶質シリカ粉末(結晶質部分と非晶質部分のどちらも有するシリカ)、非晶質シリカ粉末に分類し、各種類のシリカ含有物質粉末ごとに塩基度の上限を決定することが好ましいと考えた。
【0042】
詳細には、結晶質シリカ粉末を用いる場合、水熱処理において、シリカ含有物質粉末からの有効成分が最も溶出しにくいと考えられることから、混合物の塩基度は0.7以下に抑えることが好ましい。上記塩基度はより好ましくは0.5以下である。
【0043】
尚、良好な固化状態を得る観点からは、塩基度の下限は特に定めないが、本来の目的である製鋼スラグ粉末の有効利用効率を高める観点からは、上記塩基度を0.3以上とすることが好ましい。
【0044】
前記結晶質シリカ粉末としては、石英、水晶、珪砂等が挙げられる。
【0045】
また、シリカ含有物質粉末として、半晶質シリカ粉末を用いる場合には、混合物の塩基度を1.3以下とすることが好ましい。上記塩基度はより好ましくは1.0以下である。また上記塩基度の下限は、上述の通り製鋼スラグ粉末の有効利用効率を高める観点から、0.3以上とすることが好ましく、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.7以上である。
【0046】
前記半晶質シリカ粉末としては、石炭灰等が挙げられる。
【0047】
更に、シリカ含有物質粉末として、より有効成分の溶出しやすい非晶質シリカ粉末を用いる場合には、混合物の塩基度の上限を2.5とすることができる。該塩基度は、より好ましくは2.0以下、更に好ましくは1.5以下である。上記塩基度の下限は、上述の通り製鋼スラグ粉末の有効利用効率を高める観点から、0.3以上とすることが好ましく、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.7以上、より更に好ましくは1.0以上である。
【0048】
前記非晶質シリカ粉末としては、コロイド状シリカや高炉水砕スラグ、珪藻土、酸性白土、シリカゲル、合成シリカ等が挙げられる。
【0049】
本発明においては、良好な固化状態の固化体が得られる「塩基度の許容範囲」を広げる観点から、シリカ含有物質粉末として、半晶質シリカ粉末および/または非晶質シリカ粉末を含むものを用いることが好ましい。例えば、石炭灰、コロイド状シリカ、高炉水砕スラグ等を含むものがより好ましい。
【0050】
上記混合物の塩基度の具体的な調節は、製鋼スラグ粉末とシリカ含有物質粉末に含まれるCaOとSiOの含有率を把握し、混合物の塩基度が上記推奨される範囲内の塩基度になるように、製鋼スラグ粉末とシリカ含有物質粉末を混合して調整することができる。本発明では、製鋼スラグ粉末とシリカ含有物質粉末の使用量としてそれぞれの質量割合を制御する必要はなく、混合物の塩基度が上記推奨される範囲を満たすように、製鋼スラグ粉末とシリカ含有物質粉末の使用量を調整すればよい。
【0051】
(混合物のかさ密度について)
本発明では、更に、混合物のかさ密度を調整することが多孔質固化体を得る観点から好ましい。具体的には、混合物のかさ密度を1.0g/cm以上とすることが好ましい。より好ましくは1.1g/cm以上である。一方、混合物のかさ密度が高すぎても、所望の固化状態と多孔性を兼備する固化体が得られ難くなるため、混合物のかさ密度は1.9g/cm以下とすることが好ましい。より好ましくは1.8g/cm以下である。
【0052】
混合物のかさ密度の調整は、容器中に粉体を圧密せずにゆるやかに充填した後に、目的のかさ密度になるまで、容器内の試料に圧縮力をかける、またはタップを(場合によっては複数回)適宜行うことによってできる。
【0053】
(混合物の水分量について)
混合物の水分量は、固形分に対する質量比で40%以上120%以下とすることが好ましい。上記水分量が40%未満であると、均一な含水状態が得られにくく、部分的に水熱処理されない、などの不具合が生じ得るためである。一方、水分量が120%を超えると混合物を構成する粉体と水とが分離してしまうため好ましくない。熱効率の観点からは、上記水分量を80%以下とすることがより好ましい。
【0054】
前記混合物を得るための混合方法は、特に限定されず、均一な混合が得られる公知の方法を採用すればよい。例えばミキサー、ニーダー、単軸の混合機、二軸の混合機などを用いることができる。
【0055】
前記混合物には、上述した製鋼スラグ粉末、およびシリカ含有物質粉末の他に、固化のための添加物を更に加える必要はないが、得られた多孔質固化体を、例えば肥料等として用いる場合には、栄養素の徐放を目的として水溶性の養分等を、予め混合物に混合させてもよい。
【0056】
〔水熱処理について〕
次いで、上記混合物の水熱処理を行う。水熱処理では、例えば容器に入れた混合物を、水熱固化装置(オートクレーブ)中で、常法により水熱処理して多孔質固化体を製造すればよい。一般的な水熱処理条件として、水熱処理温度:130〜300℃、水熱処理時間:1〜24時間が挙げられる。好ましい水熱処理温度は150〜250℃であり、好ましい水熱処理時間は2〜16時間である。
【0057】
この水熱処理は、混合物を静置した状態で行うことが好ましい。静置した状態で水熱処理することによって、製造過程における多孔質固化体の破壊を防止することができる。
【0058】
〔多孔質固化体について〕
上記方法で得られる多孔質固化体は、気孔率が50%以上70%以下を満たすものである。気孔率が50%以上であると、多孔体としての機能を発揮し、吸着剤や調湿材、徐放材等への展開が可能となる。前記気孔率は好ましくは55%以上である。一方、気孔率が大きすぎると多孔質固化体の強度が低下するため、前記気孔率は70%以下とする。前記気孔率は好ましくは68%以下である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0060】
〔実施例1〕
表1および表2に示す粒度の製鋼スラグ(転炉スラグ)粉末と、表1および表2に示す粒度・物質名のシリカ含有物質粉末とを、均一になるよう混合した。混合物の質量(水分添加前)は5.0gである。また、得られた混合物の塩基度は表1および表2に示す通りである。
【0061】
尚、用いた製鋼スラグ(転炉スラグ)粉末、石炭灰、高炉水砕スラグの主要な化学成分の割合は、下記表3に示す通りである。
【0062】
上記混合物を、底のある円筒状の型(直径約18mm)に入れ、水分を加え、混合物の水分量が、固形分に対する質量比で40%以上120%以下の範囲内となるようにした。そして、上記型のままオートクレーブ中に入れ、静置した状態で、表1または表2に示す温度の飽和蒸気圧条件下で、表1または表2に示す時間の水熱処理を施して、固化体(直径18mm弱で高さが1cm弱)を作製した。そして、得られた試料(固化体)を用い、下記に示す方法で固化状態の評価を行った。その結果を表1および表2に示す。
【0063】
(試料の固化状態の評価)
試料を指で圧縮して固化状態を調べ、下記基準により評価した。そして本実施例では、△および○を合格とした。
【0064】
(固化状態の評価基準)
○:強く固化し、指で圧縮しても崩壊しなかった。
△:得られた状態では固化しているが、指で圧縮すると崩壊した。
×:固化せず。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
表1および表2より、次の様に考察することができる。
【0069】
No.(表1または表2のサンプルNo.を示す。以下同じ)1〜22は、シリカ含有物質粉末として石英を用いた例である。
【0070】
このうち、No.1〜3は、製鋼スラグ粉末とシリカ含有物質粉末の粒度が同じで、水熱処理温度をいずれも180℃とし、混合物の塩基度のみを変化させた例である。No.4〜8は、上記水熱処理温度を250℃とした例である。
【0071】
No.9〜11は、シリカ含有物質粉末として、製鋼スラグ粉末よりも粒度の大きい粉末を含むものを用い、水熱処理温度をいずれも180℃とし、混合物の塩基度のみを変化させた例である。No.12〜16は、上記水熱処理温度を250℃とした例である。
【0072】
これらNo.1〜3、No.4〜8、No.9〜11、No.12〜16のそれぞれのグループの結果から、混合物の塩基度を調節すれば、良好な固化状態が得られることがわかる。具体的には、結晶質シリカに分類される石英を用いた場合、前記混合物の塩基度を0.7以下とするのがよいことがわかる。
【0073】
No.17は、製鋼スラグ粉末とシリカ含有物質粉末の粒度を、どちらも63〜125μmで同じとし、混合物の塩基度を0.5、水熱処理温度を250℃としたものであるが、良好な固化状態が得られている。
【0074】
No.18〜22は、製鋼スラグ粉末の粒度、混合物の塩基度、および水熱処理条件を一定とし、シリカ含有物質粉末の粒度のみを変化させた例であるが、これらの結果から、シリカ含有物質粉末の粒度を355μm未満とすることによって、良好な固化状態が得られることがわかる。
【0075】
No.23〜41は、シリカ含有物質粉末として石炭灰を用いた例である。
【0076】
このうち、No.23〜25は、製鋼スラグ粉末とシリカ含有物質粉末の粒度が同じで、水熱処理温度をいずれも180℃とし、混合物の塩基度のみを変化させた例である。No.26〜31は、上記水熱処理温度を250℃とした例である。
【0077】
No.32〜34は、シリカ含有物質粉末として、製鋼スラグ粉末よりも粒度の大きい粉末を含むものを用い、水熱処理温度をいずれも180℃とし、混合物の塩基度のみを変化させた例である。No.35〜39は、上記水熱処理温度を250℃とした例である。
【0078】
これらNo.23〜25、No.26〜31、No.32〜34、No.35〜39のそれぞれのグループの結果から、混合物の塩基度を調節すれば良好な固化状態が得られることがわかる。具体的には、本発明において半晶質シリカ粉末に分類される石炭灰を用いる場合、前記混合物の塩基度を1.3以下とするのがよいことがわかる。
【0079】
No.40、41は、製鋼スラグ粉末とシリカ含有物質粉末の粒度を、それぞれ63〜125μm、125〜250μmで同じとし、混合物の塩基度を0.5、水熱処理温度を250℃としたものであるが、どちらも良好な固化状態が得られている。
【0080】
No.42〜47は、非晶質シリカ粉末(シリカゲル)を用いた例である。またNo.48および49は、高炉水砕スラグを用いた例である。
【0081】
このうち、No.42〜44は、シリカゲルを用い、製鋼スラグ粉末とシリカ含有物質粉末の粒度が同じで、水熱処理温度をいずれも180℃とし、混合物の塩基度のみを変化させた例である。No.45〜47は、上記水熱処理温度を250℃とした例である。No.48および49は、高炉水砕スラグを用い、水熱処理温度をいずれも180℃とし、混合物の塩基度のみを変化させた例である。
【0082】
これらNo.42〜44と、No.45〜47と、No.48および49のそれぞれのグループの結果から、混合物の塩基度を調節すれば良好な固化状態が得られることがわかる。具体的には、本発明において非晶質シリカ粉末に分類されるシリカゲルや、高炉水砕スラグを用いる場合、前記混合物の塩基度を2.5以下とするのがよいことがわかる。
【0083】
〔実施例2〕
表1および表2におけるサンプルNo.4、20〜22、28、48および49については、混合物のかさ密度についても下記の通り測定した。
【0084】
(混合物のかさ密度)
直径が18.3mmの円筒管に、別途質量測定済みのスラグ粉を投入し、タッピング後、粉体層高が安定してから層高を測定してスラグ粉体の体積を算出し、かさ密度を求めた。その結果を表4に示す。
【0085】
【表4】

【0086】
表4より、かさ密度は、シリカ含有物質粉末の種類に関係なく、一定範囲内となっており、良好な固化状態が得られていることがわかる。尚、No.22は、シリカ含有物質粉末の粒度が大きすぎるため、固化状態が×になっている例である(表1)。
【0087】
〔実施例3〕
表1および表2におけるサンプルNo.4、17、28、40および41については、得られた固化体の気孔率についても、下記の通り測定した。
【0088】
(固化体の気孔率の測定)
固化体を任意に粗粉砕し、水銀圧入法(測定には、島津製作所製 細孔分布測定装置 オートポア9520形を使用)で試料の気孔率を求めた。
【0089】
その結果、No.4の気孔率は59%、No.17の気孔率は55%、No.28の気孔率は67%、No.40の気孔率は59%、またNo.41の気孔率は65%であった。これらより、本発明の方法で製造した固化体は、一定の気孔率を有しており、多孔構造を示す多孔質固化体であることがわかる。尚、表1および表2におけるその他の本発明例においても、上記サンプルと同様に、気孔率は50%以上70%以下の範囲内にあった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグ粉末を用いて多孔質固化体を得るための製造方法であって、
少なくとも、粒度が355μm未満の製鋼スラグ粉末と、粒度が355μm未満のシリカ含有物質粉末を混合し、
前記シリカ含有物質粉末の種類に応じて塩基度を調節した混合物を得た後、
該混合物を水熱処理することを特徴とする製鋼スラグ粉末を用いた多孔質固化体の製造方法。
【請求項2】
前記シリカ含有物質粉末として結晶質シリカ粉末を用いる場合は、前記混合物の塩基度を0.7以下とし、
前記シリカ含有物質粉末として半晶質シリカ粉末を用いる場合は、前記混合物の塩基度を1.3以下とし、
前記シリカ含有物質粉末として非晶質シリカ粉末を用いる場合は、前記混合物の塩基度を2.5以下とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記混合物のかさ密度を1.0g/cm以上1.9g/cm以下とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記シリカ含有物質粉末として、半晶質シリカ粉末および/または非晶質シリカ粉末を含むものを用いる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合物の水分量を、固形分に対する質量比で40%以上120%以下とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記製鋼スラグ粉末として、粒度が250μm未満の製鋼スラグ粉末を用いる請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記水熱処理は、前記混合物を静置した状態で行う請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法で製造された多孔質固化体であって、気孔率が50%以上70%以下であることを特徴とする多孔質固化体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87032(P2013−87032A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231111(P2011−231111)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】