説明

製錬ダストの分離装置、および、製錬ダストの分離方法

【課題】 製錬ダストからの不純物の回収率を向上させることができる、製錬ダストの分離装置および製錬ダストの分離方法を提供する。
【解決手段】 製錬ダストの分離装置は、製錬ダストを浸出液に導入することによって得られるスラリーが導入される分離槽と、分離槽内のスラリーに上昇流を生じさせる上昇流発生装置と、を備え、分離槽は、分離槽の上部に滞留するスラリーを排出するための排出口と、分離槽の下部に滞留するスラリーを排出するための排出口とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製錬ダストの分離装置、および、製錬ダストの分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬の過程で排出される製錬ダストには、銅が5wt%〜25wt%程度含まれている。製錬ダストから銅を回収する場合、例えばこのダストを酸で浸出し、浸出しない硫化銅やメタル銅は、重力による沈降を利用した湿式の分級装置で分離し(例えば、特許文献1参照)、浸出する硫酸銅は、中和もしくは硫化するなどして、鉛、ビスマスなどの不純物と分離され、回収する方法などが取られる。回収された銅は、製錬工程へ繰り返される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−231333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、銅分が鉛およびビスマスを主成分とする未溶解残滓に混入することがある。そこで、希硫酸を用いて銅分を溶解させる方法が考えられる。この場合、希硫酸濃度、温度、時間などの各条件を選択することによって、更なる溶解・回収が可能である。しかしながら、薬剤コストが増加し、大規模設備が必要となってしまう。特許文献1の湿式の分級装置では、銅の回収率を上げようとすると、銅に随伴する鉛、ビスマスなどの不純物が増加し、これらの不純物の繰り返し量が増加するという問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、製錬ダストからの不純物の回収率を向上させることができる、製錬ダストの分離装置および製錬ダストの分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る製錬ダストの分離装置は、製錬ダストを浸出液に導入することによって得られるスラリーが導入される分離槽と、前記分離槽内のスラリーに上昇流を生じさせる上昇流発生装置と、を備え、前記分離槽は、前記分離槽の上部に滞留するスラリーを排出するための排出口と、前記分離槽の下部に滞留するスラリーを排出するための排出口とを有することを特徴とするものである。本発明に係る製錬ダストの分離装置によれば、製錬ダストからの不純物の回収率を向上させることができる。
【0007】
前記上昇流発生装置は、前記スラリーを攪拌することによって上昇させる装置であってもよい。前記上昇流発生装置によって生じる上昇流の上昇速度は、前記スラリーに含まれるBi化合物の最小粒径および比重から求まる沈降速度以上であってもよい。前記上昇流発生装置によって生じる上昇流の上昇速度は、前記スラリーに含まれるBi化合物の平均粒径および比重から求まる沈降速度以上であってもよい。
【0008】
前記上昇流発生装置によって生じる上昇流の上昇速度は、前記スラリーに含まれるPb化合物の最小粒径および比重から求まる沈降速度以上であってもよい。前記上昇流発生装置によって生じる上昇流の上昇速度は、前記スラリーに含まれるPb化合物の平均粒径および比重から求まる沈降速度以上であってもよい。
【0009】
前記上昇流発生装置によって生じる上昇流の上昇速度は、前記スラリーに含まれるCuまたはCu化合物の最大粒径および比重から求まる沈降速度以下であってもよい。前記上昇流発生装置によって生じる上昇流の上昇速度は、前記スラリーに含まれるCuまたはCu化合物の平均粒径および比重から求まる沈降速度以下であってもよい。前記製錬ダストは、銅製錬工程の転炉から排出されるガスに含まれていてもよい。
【0010】
前記分離槽の下部に滞留するスラリーを排出するための排出口を所定期間閉にした後に開にさせる開閉手段をさらに備えていてもよい。重力を利用して沈降速度の高い成分と低い成分とに分離する湿式の分級装置をさらに備え、前記分離槽に導入されるスラリーは、製錬ダストを浸出液に導入することによって得られるスラリーが前記分級装置において分離された前記沈降速度の高い成分であってもよい。
【0011】
本発明に係る製錬ダストの分離方法は、銅製錬ダストを浸出液に導入することによって得られるスラリーが導入される分離槽において、前記スラリーに上昇流を生じさせる工程と、前記分離槽の上部に滞留するスラリーを排出する工程と、前記分離槽の下部に滞留するスラリーを排出する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0012】
前記スラリーを攪拌することによって前記スラリーを上昇させてもよい。前記分離槽の下部に滞留するスラリーを排出する排出配管を所定期間閉にした後に開にしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製錬ダストからの不純物の回収率を向上させることができる、製錬ダストの分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】製錬ダストを回収する際に経由する煙道1の概略構成を説明するための模式図である。
【図2】製錬ダストから不純物を分離するための分離システム100の全体構成を示す模式図である。
【図3】分級装置の詳細図である。
【図4】分離槽の詳細を示す模式図である。
【図5】撹拌機の攪拌速度と、Biの移行率およびPbの移行率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0016】
(実施の形態)
まず、製錬ダストについて説明する。製錬ダストは、銅の製錬工程において排出される。図1は、製錬ダストを回収する際に経由する煙道1の概略構成を説明するための模式図である。煙道1は、1台以上の転炉2から排出される排気ガスが流れ込む水平煙道3と、水平煙道3の天井部に一端が接続して水平煙道3から排気ガスが流れ込む立ち上がり煙道を備えている。本実施の形態においては、4台の転炉2a〜2dが設けられている。また、3本の立ち上がり煙道4,5,6が設けられている。
【0017】
水平煙道3は水平方向にガスが流れるように形成されている。水平煙道3の側部には転炉2a,2b,2c,2dと接続する接続孔31a,31b,31c,31dが設けられている。転炉2a,2b,2c,2dから排出される排気ガスは、接続孔31a,31b,31c,31dから水平煙道3に流れ込む。
【0018】
立ち上がり煙道4の一端は、水平煙道3上の接続孔31aと接続孔31bとの間の通路の天井部に接続している。立ち上がり煙道5の一端は、水平煙道3上の接続孔31cと接続孔31dとの間の通路の天井部に接続している。立ち上がり煙道6の一端は、水平煙道3上の接続孔31bと接続孔31cとの間の通路の天井部に接続している。立ち上がり煙道4,5,6の他端は合流部8において合流している。合流部8には煙道9が接続されており、立ち上がり煙道4,5,6を流れる排気ガスは合流部8で合流した後、煙道9を通り、次工程に供される。
【0019】
製錬ダストの中で例として転炉ダストについて述べる。転炉の排気ガスから電気集じん機(EP)で捕集されるダストには、銅成分および不純物成分が含まれる。銅成分には、硫化銅CuS、硫酸銅CuSOなどの銅化合物、および、メタル銅が含まれる。不純物成分には、硫酸BiなどのBi化合物、硫酸PbなどのPb化合物などが含まれる。銅成分の一部は、その他のダストとともに水平煙道3中に落下し、また別の一部は、次工程へ供される。本実施形態に係る製錬ダストは、煙道1を経た排気ガスに含まれるダストのことをいう。
【0020】
製錬ダストは、その処理工程へと導入される。図2は、製錬ダストから不純物成分を分離するための分離システム100の全体構成を示す模式図である。図2に示すように、分離システム100は、ダストビン10、浸出槽20、ポンプ30、分級装置40、分離装置50などを備える。
【0021】
ダストビン10は、図1の煙道1を経由して回収された製錬ダストの導出口である。製錬ダストは、ダストビン10を介して浸出槽20に導入される。浸出槽20では、希硫酸などの浸出液が貯留している。製錬ダストは、浸出槽20の浸出液で浸出処理される。浸出処理された製錬ダストは、スラリーとして分級装置40に導入される。スラリーは、ポンプ30の圧送力で分級装置40に導入される。
【0022】
図3は、分級装置40の詳細図である。分級装置40は、重力を利用して、沈降速度の高い成分と沈降速度の低い成分とを分離する湿式の分級装置である。図3に示すように、分級装置40は、略円柱状の分級槽41を備える。分級槽41の側面から内部へスラリー導入管42が設けられている。スラリー導入管42から分級槽41に導入されるスラリーは、重力によって底面側へと沈降する。この場合、沈降速度の高い成分が優先的に分級槽41の底面側に沈降する。沈降速度の低い成分は、分級槽41において、主として上部に滞留するようになる。
【0023】
分級槽41の底面は、鉛直下に向かって半径が小さくなる円錐の形状に形成されている。それにより、分級装置40において、沈降速度の高い成分が底面の中心部に向かって沈降する。分級槽41の底面中心部には、排出配管43が接続されている。分級槽41の下部に滞留する成分は、排出配管43から排出される。分級槽41の側面上部には、排出配管44が接続されている。分級槽41の上部に滞留する成分は、排出配管44から排出される。
【0024】
ここで、下記のStokesの式によれば、流体中の粒子の粒径が大きいほど沈降速度が高く、比重が高いほど沈降速度が高くなる。スラリー中の硫酸BiなどのBi化合物および硫酸PbなどのPb化合物は、他の粒子に比べて比重はほとんど変わらないが、比較的小さい粒径を有している。一方で、スラリー中の銅または銅化合物(例えば硫化銅)は、他の粒子に比べて比重はほとんど変わらないが、比較的大きい粒径を有している。それにより、分級槽41では、スラリーは、不純物成分(Bi化合物およびPb化合物)と、銅成分とにおおまかに分離される。排出配管44から排出されたスラリーは、不純物成分を回収するための工程へと供される。排出配管43から排出されたスラリーは、分離装置50へと導入される。
【0025】
【数1】

:粒子の終端速度(m/s)
:粒子径(m)
ρ:粒子の密度(kg/m
ρ:流体の密度(kg/m
g:重力加速度(m/s
η:流体の粘度(Pa・s)
【0026】
なお、分級装置40でスラリー中の不純物成分をある程度回収できるが、十分に回収できないことがある。また、煙道1で転炉からの排気ガスの流速を低下させることによって排気ガスから銅分を分離することが可能であるが、この場合には製錬ダストに残存する銅成分の粒径と不純物成分の粒径との差が小さくなってしまう。その結果、分級装置40だけでは銅成分と不純物成分との分離が困難となることがある。そこで、本実施形態においては、さらに分離装置50が設けられている。
【0027】
図4は、分離装置50の詳細を示す模式図である。分離装置50は、上昇流を利用して、沈降速度の高い成分と沈降速度の低い成分とを分離する装置である。図4に示すように、分離装置50は、略円柱状の分離槽51を備える。分離槽51には、スラリー導入管52が設けられている。スラリー導入管52の配置箇所は特に限定されるものではない。一例として、スラリー導入管52は、分離槽51の上面から分離槽51内部まで延びている。スラリー導入管52の出口の向きも特に限定されるものではない。一例として、スラリー導入管52の出口は、鉛直下側に向かっている。それにより、スラリーは、鉛直下側に向かって分離槽51に導入される。
【0028】
分離槽51内には、撹拌機53が設けられている。撹拌機53は、攪拌力を利用して、分離槽51内のスラリーの上昇流を生じさせる装置である。分離槽51の底面は、鉛直下に向かって半径が小さくなる円錐の形状に形成されている。それにより、分離装置50において、沈降速度の高い成分(銅分)が底面の中心部に向かって沈降する。分離槽51の底面中心部には、排出配管54が接続されている。排出配管54には、排出弁55が設けられている。排出弁55は、所定期間閉状態を維持し、その後開状態となる開閉手段として機能する。それにより、分離槽51の下部において銅成分を濃縮させてから排出させることができる。一例として、3時間程度の閉状態を維持することが好ましい。分離槽51の側面上部には、排出配管56が接続されている。分離槽51の上部に滞留する成分は、排出配管56から排出される。
【0029】
撹拌機53は、モータなどの動力を利用してスラリーを攪拌する。分離槽51内のスラリーは、撹拌機53によって上昇する。この場合、沈降速度の低い成分(不純物成分)が分離槽51の上部に滞留しやすくなる。それにより、スラリー中の不純物成分(Bi化合物およびPb化合物)を排出配管56から排出することができる。不純物成分が排出配管56から排出されずに沈降することもあるが、当該不純物成分は上昇流に乗って再度上部へと導かれるため、排出配管56から排出されやすくなる。したがって、有価物(本実施形態ではCu)の回収率を下げずに不純物成分の回収率を向上させることができる。その結果、不純物成分の銅製錬炉への繰返し量が減少し、銅製錬で製造される銅アノードの品質が向上する。また、攪拌によって、銅成分と不純物成分とが効率よく分離されるので、上記銅アノードの品質が向上する点に加えて、分離されたBi化合物、Pb化合物からBi,Pb等の金属精製を行うことで外販可能有価金属を製造できる。
【0030】
撹拌機53によって生じる上昇流速度よりも沈降速度の高い成分は、分離槽51の底面側に沈降しやすくなる。一方、撹拌機53によって生じる上昇流速度よりも沈降速度の低い成分は、分離槽51の上部に滞留しやすくなる。したがって、Bi分離の観点から、撹拌機53によって生じる上昇流の上昇速度は、スラリーに含まれるBi化合物の最小粒径および比重から求まる沈降速度以上であることが好ましく、スラリーに含まれるBi化合物の平均粒径および比重から求まる沈降速度以上であることがより好ましい。
【0031】
また、Pb分離の観点から、撹拌機53によって生じる上昇流の上昇速度は、スラリーに含まれるPb化合物の最小粒径および比重から求まる沈降速度以上であることが好ましく、スラリーに含まれるPb化合物の平均粒径および比重から求まる沈降速度以上であることがより好ましい。さらに、Cu回収の観点から、撹拌機53によって生じる上昇流の上昇速度は、スラリーに含まれるCuまたはCu化合物の最大粒径および比重から求まる沈降速度以下であることが好ましく、スラリーに含まれるCuまたはCu化合物の平均粒径および比重から求まる沈降速度以下であることがより好ましい。
【0032】
ここで、スラリー中の硫酸Bi(BiSO)の粒径1μm〜10μm(平均粒径が2.75μm)であるとする。硫酸Bi(BiSO)の比重は5.08である。したがって、上記のStokesの式によれば、硫酸Bi(BiSO)の沈降速度は、0.008〜0.780m/hr=0.13〜13mm/min(平均沈降速度=0.98mm/min)となる。
【0033】
スラリー中の硫酸Pb(PbSO)の粒径1μm〜10μm(平均粒径が2.75μm)であるとする。硫酸Pb(PbSO)の比重は6.2である。したがって、上記のStokesの式によれば、硫酸Pb(PbSO)の沈降速度は、0.01〜1.00m/hr=0.17〜16.7mm/min(平均沈降速度=1.27mm/min)となる。
【0034】
スラリー中の硫化Cu(CuS)の粒径10μm以上(平均粒径が40μm)であるとする。硫化Cu(CuS)の比重は5.60である。したがって、上記のStokesの式によれば、硫化Cu(CuS)の沈降速度は、0.882m/hr=15mm/min以上(平均沈降速度=235mm/min)となる。なお、スラリー中のCuの比重は硫化Cu(CuS)の比重よりも高いため、撹拌機53によって生じる上昇流の上昇速度は、スラリーに含まれる硫化Cu(CuS)の平均粒径および比重から求まる沈降速度以下であることが好ましい。
【0035】
なお、本実施形態においては、上昇流発生装置として撹拌機53を用いたが、それに限られない。スラリーを攪拌しなくても上昇させることができる装置であれば用いることができる。また、本実施形態においては製錬ダストの一例として転炉からのダストを用いたが、銅製錬のいずれかの溶錬炉で生じるダストであればよい。例えば、自溶炉からのダストを製錬ダストとして用いてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例について説明する。各実施例は、撹拌機53の攪拌速度を変更した場合の分離についての結果を示している。以下の実施例では、撹拌機53に備わる翼を4枚とし、翼径を680mmとし、翼の角度を45°とした。また、各実施例において、分級装置40に導入されたスラリー(原液スラリー)の各成分を表1に示す。また、分級装置40の排出配管43から分離装置50へと導入されたアンダーフロー(分級装置UF)および排出配管44から回収されたオーバーフロー(分級装置OF)の各成分を表2に示す。表2に示すように、分級装置40の排出配管43から分離装置50へと導入されたアンダーフローには、BiおよびPbが高品位で残っている。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

(実施例1)
【0039】
実施例1では、撹拌機53の攪拌速度を65rpmとした。表3は、分離装置50の排出配管54から排出されたアンダーフロー(UF)の成分を示すとともに、分離装置50の排出配管56から排出されたオーバーフロー(OF)の成分を示す。表4は、分離装置50の排出配管54から排出されたアンダーフロー(UF)の成分を示すとともに、分級装置40の排出配管44から排出されたオーバーフロー(OF)および分離装置50の排出配管56から排出されたオーバーフロー(OF)を合流させたものの成分を示す。表3および表4における移行率は、分級装置40に導入されたスラリーの成分に対する移行率である。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
表3に示すように、BiおよびPbの大半は、分離装置50で分離することができた。したがって、分離槽51内で上昇流を生じさせることによって、銅成分からBi化合物およびPb化合物を効率よく分離できた。
(実施例2)
【0043】
実施例2では、撹拌機53の攪拌速度を40rpmとした。表5は、分離装置50の排出配管54から排出されたアンダーフロー(UF)の成分を示すとともに、分離装置50の排出配管56から排出されたオーバーフロー(OF)の成分を示す。表6は、分離装置50の排出配管54から排出されたアンダーフロー(UF)の成分を示すとともに、分級装置40の排出配管44から排出されたオーバーフロー(OF)および分離装置50の排出配管56から排出されたオーバーフロー(OF)を合流させたものの成分を示す。表5および表6における移行率は、分級装置40に導入されたスラリーの成分に対する移行率である。
【0044】
【表5】

【0045】
【表6】

【0046】
表5に示すように、BiおよびPbの大半は、分離装置50で分離することができた。したがって、分離槽51内で上昇流を生じさせることによって、銅成分からBi化合物およびPb化合物を効率よく分離できた。また、上昇速度を実施例1に比較して遅くすることによって、分離装置50のアンダーフロー(UF)への銅成分の回収率が向上した。これは、銅成分の沈降が促進されたからであると考えられる。
(実施例3)
【0047】
実施例3では、撹拌機53の攪拌速度を20rpmとした。表7は、分離装置50の排出配管54から排出されたアンダーフロー(UF)の成分を示すとともに、分離装置50の排出配管56から排出されたオーバーフロー(OF)の成分を示す。表8は、分離装置50の排出配管54から排出されたアンダーフロー(UF)の成分を示すとともに、分級装置40の排出配管44から排出されたオーバーフロー(OF)および分離装置50の排出配管56から排出されたオーバーフロー(OF)を合流させたものの成分を示す。表7および表8における移行率は、分級装置40に導入されたスラリーの成分に対する移行率である。
【0048】
【表7】

【0049】
【表8】

【0050】
表7に示すように、BiおよびPbの大半は、分離装置50で分離することができた。したがって、分離槽51内で上昇流を生じさせることによって、銅成分からBi化合物およびPb化合物を効率よく分離できた。また、上昇速度を実施例1,2に比較して遅くすることによって、分離装置50のアンダーフロー(UF)への銅成分の回収率がさらに向上した。これは、銅成分の沈降がさらに促進されたからであると考えられる。
【0051】
図5は、撹拌機53の攪拌速度と、Biの移行率およびPbの移行率との関係を示す図である。以上の結果から、分離槽51内においてスラリーに上昇流を生じさせることによって、銅成分からBi化合物およびPb化合物を効率よく分離できることが実証された。
【符号の説明】
【0052】
10 ダストビン
20 浸出槽
30 ポンプ
40 分級装置
50 分離装置
51 分離槽
52 スラリー導入管
53 撹拌機
54 排出配管
55 排出配管
100 分離システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製錬ダストを浸出液に導入することによって得られるスラリーが導入される分離槽と、
前記分離槽内のスラリーに上昇流を生じさせる上昇流発生装置と、を備え、
前記分離槽は、前記分離槽の上部に滞留するスラリーを排出するための排出口と、前記分離槽の下部に滞留するスラリーを排出するための排出口とを有することを特徴とする製錬ダストの分離装置。
【請求項2】
前記上昇流発生装置は、前記スラリーを攪拌することによって上昇させる装置であることを特徴とする請求項1記載の製錬ダストの分離装置。
【請求項3】
前記上昇流発生装置によって生じる上昇流の上昇速度は、前記スラリーに含まれるBi化合物の最小粒径および比重から求まる沈降速度以上であることを特徴とする請求項1または2記載の製錬ダストの分離装置。
【請求項4】
前記上昇流発生装置によって生じる上昇流の上昇速度は、前記スラリーに含まれるBi化合物の平均粒径および比重から求まる沈降速度以上であることを特徴とする請求項1または2記載の製錬ダストの分離装置。
【請求項5】
前記上昇流発生装置によって生じる上昇流の上昇速度は、前記スラリーに含まれるPb化合物の最小粒径および比重から求まる沈降速度以上であることを特徴とする請求項1または2記載の製錬ダストの分離装置。
【請求項6】
前記上昇流発生装置によって生じる上昇流の上昇速度は、前記スラリーに含まれるPb化合物の平均粒径および比重から求まる沈降速度以上であることを特徴とする請求項1または2記載の製錬ダストの分離装置。
【請求項7】
前記上昇流発生装置によって生じる上昇流の上昇速度は、前記スラリーに含まれるCuまたはCu化合物の最大粒径および比重から求まる沈降速度以下であることを特徴とする請求項1または2記載の製錬ダストの分離装置。
【請求項8】
前記上昇流発生装置によって生じる上昇流の上昇速度は、前記スラリーに含まれるCuまたはCu化合物の平均粒径および比重から求まる沈降速度以下であることを特徴とする請求項7記載の製錬ダストの分離装置。
【請求項9】
前記分離槽の下部に滞留するスラリーを排出するための排出口を所定期間閉にした後に開にさせる開閉手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の製錬ダストの分離装置。
【請求項10】
重力を利用して沈降速度の高い成分と低い成分とに分離する湿式の分級装置をさらに備え、
前記分離槽に導入されるスラリーは、製錬ダストを浸出液に導入することによって得られるスラリーが前記分級装置において分離された前記沈降速度の高い成分であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の製錬ダストの分離装置。
【請求項11】
前記製錬ダストは、銅製錬工程の転炉から排出されるガスに含まれていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の製錬ダストの分離装置。
【請求項12】
銅製錬ダストを浸出液に導入することによって得られるスラリーが導入される分離槽において、前記スラリーに上昇流を生じさせる工程と、
前記分離槽の上部に滞留するスラリーを排出する工程と、
前記分離槽の下部に滞留するスラリーを排出する工程と、を含むことを特徴とする製錬ダストの分離方法。
【請求項13】
前記スラリーを攪拌することによって前記スラリーを上昇させることを特徴とする請求項12記載の製錬ダストの分離方法。
【請求項14】
前記分離槽の下部に滞留するスラリーを排出する排出配管を所定期間閉にした後に開にすることを特徴とする請求項12または13記載の製錬ダストの分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−71283(P2012−71283A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220001(P2010−220001)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(500483219)パンパシフィック・カッパー株式会社 (109)
【Fターム(参考)】