説明

製麺方法及びこの方法に使用される蒸し鍋

【課題】 そばやうどんを手打で作る場合、穀粉と水を混ぜたものを捏ねたり練ったりするとともに、平たく延ばす延ばしを必要としていた。このため、非常に時間がかかっていた。また、純粋な穀粉では延ばしのときに切れが生じるため、つなぎを入れなくてはならなかった。このような捏ねや練り及び延ばしを必要としないとともに、純粋な穀粉だけで製麺ができるようにした。
【解決手段】 穀粉と水をでき上がった麺に近い割合で混合したスラリー状の麺材を蒸し器に収容し、蒸し器内で発生した蒸気で麺材を上下から蒸すことで麺材を硬化させて板状麺とするとともに、板状麺を適当な幅に切断して麺とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捏ね、延ばしといった工程を省略しても、性状や味の変わらない製麺方法及びこの方法に使用される蒸し鍋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、手打そばや手打うどんは、穀粉と水を混ぜた塊を粘土のように捏ねたり練ったり(以下、捏ねという)して麺棒で延ばして麺生地とし、これを適当な幅で切断して麺とし、これを茹でて食していた。この捏ねは麺生地の密度を高めて適当な硬さと弾力性(コシ)を出すための重要な工程とされていた。特に、うどんでは捏ねたものを寝かせて熟成させたりもしていた。したがって、急に支度をしようと思っても間に合わなかった。ただ、そばでは捏ねた後に時間をおくと軟らかくなるため、捏ねた後は素早く延ばしていた。いずれにしても、捏ねや延ばしをするには、力も要るし、時間もかかる。また、水加減の調整等ある程度の熟練も必要であった。
【0003】
さらに、捏ねをするためには、水の量を穀粉に対して約半分程度に抑えてある程度の硬さを保たなければならないから、食するにはこれを軟らかくする必要がある。そこで、麺をある時間茹でて水を吸わせ、水の量が素材に対して1.5倍程度の食感のよいものにしていた。この茹でによっても、食するまでに時間がかかるものになっていた。また、茹でることによって穀粉の旨み成分が溶出し、味を落していた。
【0004】
一方、純粋な穀粉だけを使用すると、麺生地にしたときにぼろぼろになる(切れが生ずる)。特に、そば粉ではこの切れが大きいため、小麦粉、澱粉、山芋といったつなぎを添加していた。このため、そば以外の味がして本来のそばの旨みを損なっていた。また、うどんは切れの比較的小さい小麦粉を使用するが、この場合でも「ゆめ2000」といった味のよい小麦を小麦粉にしたものでは、100%純粋なものを使用すると、やはり麺生地に切れが生ずる。そこで、他の小麦粉や上記したつなぎを添加していたが、こうすると、せっかくの素材の味を落していた。
【0005】
なお、機械製麺の場合も同様であり、下記特許文献1に見られるように、そば粉や小麦粉に適当なつなぎを添加し、これを混練して麺生地を作り、圧延機で延ばして麺帯にするとともに、製麺機で製麺し、これを茹でたり、蒸したりして生麺を製作していた。この場合でも捏ね(混練)は不可欠であり、これを高温で行うと味の低下が起こるから、低温で相当時間混練しなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−197716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、捏ねや延ばしを必要としないで、しかも、つなぎを添加しなくても、製麺できるようにしたものである。この根底には、捏ねや延ばしをしなくても、十分にコシが出ることを見い出したからである。つまり、従来、必要とされていた捏ねや延ばしはあまり意味がないことを見い出したものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、穀粉と水をでき上がった麺に近い割合で混合したスラリー状の麺材を蒸し器に収容し、蒸し器内で発生した蒸気で麺材を上下から蒸すことで麺材を硬化させて板状麺とするとともに、板状麺を適当な幅に切断して麺としたことを特徴とする製麺方法を提供するとともに、これにおける穀粉が請求項2に記載した、そば粉、小麦粉、玄米粉、雑穀粉のいずれか又は混合したものである手段、請求項3に記載した、穀粉に副材を添加した手段を提供する。
【0009】
また、本発明は以上の製麺方法に用いる蒸し鍋として、請求項3に記載した、この蒸し鍋が鍋本体と、鍋本体に載せ架けるラックと、鍋本体又はラックに被せる蓋とからなるものであり、ラックが蒸気を通す孔があいた縁部と、縁部の内側に麺材を収容する凹陥した収容部が設けられたものであり、縁部の孔の外側を鍋本体の蓋受け部に載せており、蓋が孔の外側でラックの縁部又は鍋本体の蓋受け部に密着して被せられるものであることを特徴とする蒸し鍋を提供する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によると、穀粉にでき上がった麺に近い割合、すなわち、穀粉に対して1.5倍程度の水を加えたスラリー状の麺材を蒸し器に入れ、これを蒸すだけで麺材を硬化させて板状麺ができるから、後をこれを適当な幅で切断すれば、そのままで食することができる。したがって、蒸しや延ばしを省略でき、きわめて短時間でできるし、カンやコツといった技能も必要としない。さらに、つなぎを添加しないのであるから、穀粉の純粋な味を味わうことができる(美味)。なお、上記した穀粉と水の割合の麺材が蒸し上がってできた板状麺も穀粉と水の割合がほとんど変わらないことを確認している。
【0011】
請求項2の手段は穀粉の具体例を記したものであるが、そば粉はそばの原料になり、小麦粉はうどんの材料になるものである。最近では、健康志向から玄米や雑穀が注目を集めているが、これらを製粉したものを使用すれば、玄米や雑穀の麺を作ることができる。特に、年配者は玄米や雑穀は歯の関係で食べられないことが多いが、麺にすれば食べることができる。これにおいて、玄米粉や雑穀粉は単に水を加えて蒸すだけであるから、その有効成分も逃げない。
【0012】
請求項3の蒸し鍋を用いると、家庭で製麺が簡単にできる。すなわち、鍋の底に張ってある水が蒸発してできた蒸気はラックの孔を通して麺材の上方にも廻り、収容部の麺材を上下から均等に熱する。このとき、蓋はラック又は蓋受部に密着しているから、蓋の裏面に付いた蒸気が水滴となって滑り落ちてこの密着面に溜まり、所謂シールを形成することになるので、鍋内の圧力は上昇し、ドライで高温の蒸気を得ることができ、蒸し時間が短縮するとともに、板状麺が水っぽくならない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】蒸し鍋の断面図である。
【図2】ラックの平面図である。
【図3】蒸し鍋の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、まず、参考までに手打そばと手打うどんの製法について説明しておく。
[手打そば]
5〜6人分のそばを作るには、そば粉1Kg(つなぎを入れる場合はそば粉800gとつなぎ200g)に水450〜500ccを加えて混合し、これをボール等に入れて10分程度捏ねて粘土状の麺材とする。麺材は時間をおくと軟らかくなってしまうから、すぐに延べ板の上に取り出し、麺棒で延ばすとともに、切断して麺にする。この麺を茹でて麺としての食感を有するまで水分を吸わせるのであるが、茹で時間はそば粉100%のものでは15〜20秒程度でよいが、つなぎを入れたものでは、2〜3分程度が必要である。次いで、すぐに水洗するのであるが、この水洗の目的は主に延ばしのときに使用した打粉を洗い流すためであるが、同時に麺を引き締める効果もある。しかし、大量の水を消費するのが難点である。そして、茹で上がった麺を食するのであるが、必要分だけつけ汁に漬けて食する場合と、再度軽く茹でて丼の中に用意しただし汁の中に浸して食する場合とがあるのは周知のとおりである。
【0015】
[手打うどん]
手打うどんは更に時間がかかる。具体的には、小麦粉1Kg(つなぎを入れることもある)に水450〜500cc、塩少々(30g程度)を加えて混合し、これをボール等に入れて10分程度捏ねて粘土状の麺材とする。うどんの場合はこのまま18°C程度で2〜3時間寝かせておく。そして、再度捏ねを行って更に数時間寝かせて熟成を行う。後はそばの場合と同じで、延ばした後に切断して麺にして茹でるのであるが、小麦粉を原料とするうどんでは麺としての食感を得るまでに通常15〜20分茹でる必要がある。
【0016】
これに対して本発明に係るそば又はうどんは次のような製法による。この場合、高温で効率のよい蒸し器を必要とするが、少量の場合は以下の蒸し鍋が適する。図1はこの蒸し鍋の断面図、図2はこの蒸し鍋に使用するラックの平面図であるが、この蒸し鍋Aは、鍋本体1と、鍋本体1の中に架設されるラック2と、ラック2の上から鍋本体1に被せられる蓋3とからなる。このうち、鍋本体1は、保温性と熱伝導性に優れたステンレスとアルミの多層体のものが好ましく、胴部1aの上端に外方に長く張り出した蓋受け部1bを有するものである。
【0017】
ラック2も同様な素材で構成され、外周に縁部2aが形成され、縁部2aの内周に凹陥した無孔の収容部2bが形成されたものである。これにおいて、縁部2aには多数の孔4が形成され、縁部2aの下にはその外周まで延びる板状のスペーサ5が適当間隔で放射状に形成されたものである。以上のラック2はその縁部2aが蓋受け部1bの内周に載せ掛けられて取り付けられる。このとき、スペーサ5はこの取付けのガイドとなるとともに、胴部1aの熱をラック2に伝導する役割を果たす。蓋3の素材も同様であり、椀を伏せたような被蓋部3aと、被蓋部3aの下端に鍋本体1の蓋受け部1bにぴったりと沿う合わせ部3bとを有している。
【0018】
図3はラック2の他の例を示す断面図であるが、本例のものは、縁部2aが鍋本体1の蓋受け部1bよりも更に外に張り出したものである。したがって、蓋3の合わせ部3bがラック2の縁部2aの上に被せられることになる。ラック2の着脱を容易にしたものであるが、ウォーターシールができる点は変わらない。
【0019】
以上の蒸し鍋Aの鍋本体1の胴部1aに水を張り、下から加熱すると、水は蒸気となって蒸発するが、この蒸気はラック2の孔4を通ってその上方に廻る。したがって、ラック2の上下を均等に加熱する。また、蓋3の被蓋部3aの裏面に付着した蒸気は水滴となって裏面を伝って落ちるが、この水滴は孔4を通って胴部1aに落ち、ラック2には落ちない。したがって、収容部2aに置いた蒸し物を水っぽくしない。
【0020】
また、蓋3の裏面を伝い落ちた水滴は合わせ部3aと鍋本体1の蓋受け部1b又はラック2の縁部2aとの間に溜まり、所謂、ウォーターシールを形成する。このウォーターシールにより、鍋本体1内は高圧になり、発生する蒸気を乾燥させ、かつ、高温にする。この点で、蓋3はある程度重量のあるものが好ましく、蓋受け部1b又は縁部2aと合わせ部3bは密着する形状で、ある程度の長さを有しているものが好ましい。
【0021】
次に、以上の蒸し鍋Aを用いて製麺するのであるが、それは次のようにして行う。まず、そばの場合は、そば粉にでき上がった麺と同じ割合になるように、具体的には、そば粉が1Kgであれば、水は1700cc程度を加えて混ぜ、これをスラリー状の麺材Nとする。この場合、つなぎは必要としない。そして、鍋本体1の胴部1aに水Wを張り、麺材Nをラック2の収容部2aに投入して蒸す。蒸し時間は麺材Nの量にもよるが、上記の量であれば、5〜6分程度で、麺材Nは硬化して板状麺N´となる。
【0022】
この間、麺材は蒸気を吸うことともないし、また、麺材から出て行くこともなく、単に蒸気の熱でそば粉の組織・分子が膨張し、水と混在した状態になり、従来の製麺方法で得られた麺とほぼ同じ水分含量となる。この点で、麺材に加える水の量はそば粉の1.5倍程度が必要になるのである。うどんの場合も同じであり、小麦粉1Kgに水1700cc程度と塩を少々加え、同じように蒸せばよい。このときの蒸し時間もそばの場合と同じである。この他、玄米や雑穀を製粉してこれを素材とする麺も可能である。なお、食し方はつけ汁式と出し汁式とがあるが、前者の場合は氷水等に浸すと麺が引き締まる。
【0023】
以上の製麺方法によれば、食せる状態の麺がきわめて短時間にできる。すなわち、正味かかるのは蒸し時間の5〜6分だけである。この点で、不意に来客等があっても、即座に麺を提供できる。また、カンやコツといった技能も必要としない。なお、つなぎは入れないといったが、この方法は捏ねや延ばしを必要としないのであるから、これによって生ずる切れも発生しないから、その点でのつなぎは必要ないとしたものである。そして、材料と水を加えたスラリー状のものをいきなり蒸して固めるものであるから、これにつなぎを含む副材を入れたとしても、これらは麺に一体的に取り込まれる。なお、この副材としては、旨み成分、低カロリー成分、健康促進成分、薬剤成分といったものが考えられる。
【0024】
以上のようにして製麺された麺は、固さ、弾力性、色、艶といった性状は従来方法による手打そば、手打うどんと変わらない。一方、肝心の味の方であるが、発明者が本発明による方法で製麺した麺と従来の方法で製麺した麺を食べ比べてみた。結果は、そばにおいては両者はほとんど変わらないことを確認した。すなわち、コシも十分にあり、味においてはつなぎを入れないだけそばの味が濃いことがわかった。この点で、従来必要とされていた捏ねとこれに伴う延ばしは敢えて必要ないことがわかった。うどんの場合はコシにおいてはやや落ちるものの、味においてはつなぎを入れないだけ優れていることも確認できた。
【0025】
ところで、以上は蒸し鍋Aで家庭的に作る場合であるが、機械的に大量に作ることも可能である。図示は省略するが、蒸し器を大型にし、麺材を収容したラックを多段に架設したものでもよい(この場合、ラックを蒸し器の壁から離しておいて蒸気が上方にも廻るようにする必要がある)。そして、蒸し器に蒸気を供給するのであるが、供給途中の蒸気を加熱すると、ドライで高温になり、より高い温度で蒸すこともできる。以上はバッチ式であるが、連続式にもできる。すなわち、麺材を収容したラックをコンベアの上に載せ、コンベアを蒸気が逃げないように密封した蒸気室の中に通せばよい。
【符号の説明】
【0026】
A 蒸し鍋
1 鍋本体
1a 胴部
1b 蓋受部
2 ラック
2a 縁部
2b 収容部
3 蓋
3a 被蓋部
3b 合わせ部
4 孔
5 スペーサ
N 麺材
N´ 板状麺
W 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉と水をでき上がった麺に近い割合で混合したスラリー状の麺材を蒸し器に収容し、蒸し器内で発生した蒸気で麺材を上下から蒸すことで麺材を硬化させて板状麺とするとともに、板状麺を適当な幅に切断して麺としたことを特徴とする製麺方法。
【請求項2】
穀粉がそば粉、小麦粉、玄米粉、雑穀粉のいずれか又は混合したものである請求項1の製麺方法。
【請求項3】
穀粉に副材を添加した請求項1又は2の製麺方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの製麺方法に用いる蒸し鍋であり、この蒸し鍋が鍋本体と、鍋本体に載せ架けるラックと、鍋本体又はラックに被せる蓋とからなるものであり、ラックが蒸気を通す孔があいた縁部と、縁部の内側に麺材を収容する凹陥した収容部が設けられたものであり、縁部の孔の外側を鍋本体の蓋受け部に載せており、蓋が孔の外側でラックの縁部又は鍋本体の蓋受け部に密着して被せられるものであることを特徴とする蒸し鍋。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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