説明

複写防止インキ及び複写防止印刷物

【課題】カラー複写機等のデジタル機器の著しい発展により、印刷物の複写による偽造が多発しているため、それらを防止する複写防止印刷物を提供する。
【解決手段】基材の少なくとも一部に、複写防止インキによって印刷された複写防止印刷物を提供するため、カラー複写機によって複写を行った場合に一部のインキによって印刷された領域の色相が青味に変化する複写防止インキとして波長領域490nmの近傍にシャープなピークを有する複写防止インキであること特徴とする複写防止インキ及びそれを用いた複写防止印刷物に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価証券、証明書、入場券及び各種チケット等の貴重印刷物において、カラー複写機等による偽造を困難にする複写防止インキ及び複写防止印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スキャナ、プリンタ及びカラー複写機等のデジタル機器の発展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。その対策の一つとして、従来からメタメリズムを応用したメタメリックペアインキを用いる方法が多く試みられている。メタメリックペアインキを用いた貴重印刷物の目視による判別方法は、照明する光源の種類や特定波長を透過するフィルタの介在により、インキが同色と判断されるか、又は異なった色相として判断される特性を利用したものである。
【0003】
前述のメタメリックペアインキとは、特定光源下では等色として認識されるが、可視光領域の中で比較的視感度の低い特定波長では、異なる分光反射率を有した二種類のインキである。このインキを用いて形成する偽造防止技術及び画像印刷物は、特定光源下及び特定波長透過フィルタを介在させたときに、パターンを認識することができるようにメタメリックな性質を有している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、400nm、500nm、600nm又は700nmのうち、少なくとも一つの近傍にシャープなピークを有する色材を用いることにより、複写物の色相を異ならせることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、少なくとも500nm付近に分光反射率のピークを有するイエロー成分を含む任意の有色色料(第1の色料)及び分光反射率の全可視光領域に渡って30%以上の高い分光反射率を有する色料(第2の色料)を含むインキであって、第1の色料と第2の色料の配合比率を1:1〜1:20の範囲とすることにより、カラー複写機の感光体で認識されにくいイエロー成分が抜ける又は減少することにより、変色して複写される偽造防止インキ及び偽造防止印刷物が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、印刷物の基材表面のうち、顔料の重量比を1〜15%の範囲で含有する有色インキにより、可視情報が形成されている領域の少なくとも一部分と重畳している部分の分光反射率が40%以上とし、有色インキから得られる色分解成分であるイエロー成分が影響を受けて変色して複写される偽造防止印刷物が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭54−159004号 公報
【特許文献2】特開昭54−120009号 公報
【特許文献3】特許第2999354号 公報
【特許文献4】特許第3370753号 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のメタメリックペアインキは、可視光領域の中で、人間の視感度の低い650nm付近の反射率を異ならせることによりパターンを認識させるものであることから、特定光源下では等色として視認されても、特定光源下以外では、異なる色相として視認されるため、ペアインキの色相を合わせることが困難であるとともに、フィルタを介在させなくともパターンを視認されるという課題が残されていた。
【0009】
また、メタメリックペアインキは、波長領域650nm付近の反射率が異なる材料を用いることにより複写防止効果を付与していることが一般的に知られる公知な技術であり、材料の選定及びインキ設計方法がわかれば同様のインキを作製することができることから、精巧な偽造品を作製される可能性があるという課題があった。
【0010】
また、特許文献2のように、400nm、500nm、600nm又は700nmのうち、少なくとも一つの近傍にシャープなピークを有する色材を用いることについては、人間の視感度の低い領域を指定しているのみであり、具体的な方法等が開示されていないため、実現までには、数多くの課題が残されていた。
【0011】
また、特許文献3及び4は、可視光領域における分光反射率の高い、カラー複写機で再現され難い淡い色相のインキに限定することで、明度の高い黄色成分が抜けるか、又は減少するように設定することが必須条件であることから、全体の色濃度が低いものである。そのため、色再現領域が狭く、デザイン性に制限を与えるものであるため、課題が残されていた。
【0012】
本発明は、前述の点にかんがみなされたもので、メタメリックな性質を有し、視認する光源下による色相変化がほとんどなく、一般的に用いられる波長領域率650nm付近の反射率を異ならせる方法を用いずに、かつ、デザイン性等に制限を受けることのない色濃度の高い複写防止効果を有するインキ及び印刷物に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の複写防止インキは、カラー複写機による複製を防止する複写防止インキであって、18重量%から35重量%の着色顔料と60重量%から82重量%のワニスを少なくとも有し、波長領域400nmから630nmの範囲においてトップピークを波長領域480nmから500nmの範囲内に有し、トップピークの分光反射率は、波長領域440nmにおける分光反射率の1.6倍以上で、かつ、540nmにおける分光反射率の1.6倍以上の分光反射率を有し、波長領域440nm及び/又は540nmの分光反射率が25%以下の複写防止インキであることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の複写防止インキに用いる着色顔料は、波長領域490nmにおける分光反射率が60%以上の青色材料、黄色材料及び緑色材料並びに波長領域490nmにおける分光反射率が20%以上の赤色材料、橙色材料及び紫色材料から選択される少なくとも三つ以上を用いた複写防止インキであることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の複写防止インキは、酸化重合性又はエネルギー線硬化性のワニスを60〜85重量%含む複写防止インキであることを特徴としている。
【0016】
また、本発明の複写防止インキは、赤外線吸収特性、発光特性及び磁気特性等の機能性材料を含む複写防止インキであることを特徴としている。
【0017】
また、本発明の複写防止印刷物は、基材の少なくとも一部又は全部に前述の複写防止インキにより印刷された第1の領域を少なくとも有する複写防止印刷物であることを特徴としている。
【0018】
また、本発明の複写防止印刷物は、基材に、第1の色材と等色の色材により第2の領域が形成された複写防止印刷物であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の複写防止印刷物は、一般的なメタメリックインキとは異なる波長領域における反射率の差により効果を有する複写防止印刷物であることから、偽造品の製造が極めて困難であるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明の複写防止インキ及び複写防止印刷物は、多数の色相が再現可能であり、かつ、色濃度の高いインキが作製可能であることから、デザイン性に富んだ印刷物を作製することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】赤色及び紫色材料における分光反射率を示す図
【図2】黄色材料における分光反射率を示す図
【図3】本発明の複写防止印刷物における分光反射率を示す図
【図4】本発明の複写防止印刷物と複写物の色差を示す図
【図5】実施例1のメタメリックペアインキの分光反射率を示す図
【図6】実施例1の複写防止印刷物を示す図
【図7】実施例1の複写防止印刷物の複写物を示す図
【図8】実施例1の複写防止印刷物と複写物の色差を示す図
【図9】実施例2の複写防止印刷物における分光反射率を示す図
【図10】実施例2の複写物における分光反射率を示す図
【図11】実施例2の複写防止印刷物を示す図
【図12】実施例2の複写防止印刷物の複写物を示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載における技術的思想の範囲内であれば、その他種々な実施の形態が含まれる。
【0023】
本発明の複写防止印刷物は、特殊な顔料を用いることなく、一定の基準により顔料を混合することで、色濃度が高く、かつ、波長領域490nm付近にシャープなピークを有する、つまり、シャープなピークの裾野付近との反射率の差として、440nmにおける分光反射率及び540nmにおける分光反射率の1.6倍以上の分光反射率を有する色材を作製可能である。前述の色材を用いた印刷物をカラー複写機により複写した場合、人間の視感度の低い490nm付近のピークも感度良く読み込むことから、印刷物を視認した色と比較して、複写物が青味に再現されるため、カラー複写機による複写を防止することができる複写防止印刷物が作製される。
【0024】
本発明の複写防止印刷物の色相については、特に限定されるものではないが、カラー複写機による複写物が青色に変色することから、印刷物の色相と複写物の色相が離れたものが好ましく、例えば、灰色、緑色、紫色及び褐色等の色相が作製可能である。
【0025】
本発明の色材に用いる顔料については、シアン、マゼンタ及びイエローの三原色の他に、橙色、緑色又は紫色等の中間色の顔料も使用可能であるが、これらを選定する基準としては、それぞれの色材における分光反射率が、波長領域490nmの反射率を一定以上とする顔料を選定することが望ましい。
【0026】
また、色材に用いる顔料については、特に限定されず、公知の顔料を使用することができる。例えば、酸性染料系レーキ及び塩基性染料系レーキ等といった染付けレーキ顔料、モノアゾイエロー、ジスアゾイエロー、β−ナフトール系、ナフトールAS系、ピラゾロン系及びベンズイミダゾロン系等といった不溶性アゾ顔料をはじめ、縮合アゾ顔料及びアゾレーキ顔料等のアゾ系顔料、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、インジゴ系、ジオキサジン系、キノフタロン系、イソインドリノン系及びジケトピロロピロール系等といった縮合多環系顔料等を使用することができる。
【0027】
各顔料の配合割合については、数種類の顔料を混合した際に発生する減色混合を意識する必要があるため、選定する顔料の種類によって異なるが、波長領域が490nmの反射率が60%以上の顔料を選定することが望ましい。そのため、490nm付近の反射率が低い赤色及び紫色顔料の選定が重要であり、これらの顔料は、490nmの反射率が20%以上であることが望ましく、20%以下の顔料を用いる場合については、前述の反射率が20%以上の顔料の50%以下の配合量とすることが望ましい。
【0028】
これらの条件については、各色の顔料をコンテント30重量%の原色インキとし、IGT・テスティングシステムズ・ジャパンのIGT展色機を用いて膜厚1μmの展色物を作成し、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計「U−4100」を使用して、分光反射率の測定を行ったものである。
【0029】
本発明の複写防止インキに用いることができる顔料として、赤色顔料については、波長領域490nm付近の反射率が低いため、再現するインキの色相によって異なるが、図1に示すような波長領域490nm付近の反射率が20%以上である赤色A、赤色B又は赤色Cのような顔料を10%以下の添加量で用いる。ただし、添加量を少量とした場合、例えば、前述の赤色Aを10%添加した単色のインキと比較して、波長領域490nmの反射率が低くなる割合分の添加量、すなわち、赤色Aの分光反射率が30%程度であるから、分光反射率が15%程度の赤色Fを用いる場合、赤色Aの50%以下である5%以下とすることで、20%以下の赤色顔料を用いることも可能である。
【0030】
さらに、赤色成分を含む紫色材料を用いる場合についても、前述の赤色D〜Gと同様の添加量とすることで、本発明の複写防止インキの材料として用いることが可能である。
【0031】
黄色顔料については、図2に示すように、波長領域490nmの反射率が40%以上である黄色顔料A、B、C及びDから選択される。より好ましくは、2Gから10GのC成分を多く含む黄色を選定することが好ましく、黄色材料A及びBを用いることが望ましい。黄色顔料についても前述の赤色顔料と同様のことがいえるため、添加量を調整することで他の材料を用いることも可能である。また、青色及び緑色顔料については、大半の顔料が波長領域490nm付近の反射率が60%以上であることから、特に限定されない。
【0032】
全体の顔料コンテントについては、減色混合による可視光領域全体の反射率が低くなることを考慮し、波長領域490nmの反射率を下げすぎない顔料コンテントとする必要がある。そのため、選定する顔料によって異なるが、色材の濃度等を考慮し、35重量%以下とする必要があり、好ましくは30重量%以下である。しかし、全体の印刷濃度が高いことが本発明の特徴であることから、着色顔料の配合割合は18重量%以上とする必要があり、好ましくは20重量%以上の顔料コンテントである。また、ワニスの配合量については、着色顔料の配合量に合せて60重量%から82重量%の範囲内とすることができ、それ以外に硬化性触媒、分散剤又は各種機能性材料等を添加することができる。
【0033】
次に、本発明の複写防止インキにおける配合割合の一例を以下に示す。なお、下記の配合に用いた緑色顔料、青色顔料及び黄色顔料における490nmの分光反射率は60%以上である。しかし、紫色顔料の分光反射率は20%以下であることから、5%以下の添加量となっている。
【0034】
(本発明における灰色インキの配合例)
紫色顔料 4.5重量%
緑色顔料 10.5重量%
黄色顔料 7.0重量%
青色顔料 0.5重量%
ワニス 62.5重量%
助剤 15.0重量%
【0035】
図3は、上記配合により作製したインキの分光反射率を示すものである。図3の分光反射率については、上記インキをIGT・テスティングシステムズ・ジャパンのIGT展色機を用いて膜厚1μmの展色物を作製し、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計「U−4100」を使用して、分光反射率の測定を行った結果であり、可視光下において目視で視認した場合に、灰色として視認される。
【0036】
また、人間の視感度の弱い490nm付近で形成されたピークが、波長領域400nmから630nmの範囲の中で最も高いピークであることがわかる。実際の分光反射率の値としても、440nmの分光反射率が12.98、490nmの分光反射率が23.56、540nmの分光反射率が11.48となっており、490nmの分光反射率は、440nmの分光透過率に対して1.8倍であり、540nmの分光反射率に対して2.05倍となっている。さらに、本願発明の特徴である、440nm及び540nmの分光反射率がともに25%以下となっていることから、濃度の高い色相であることがわかる。
【0037】
図4は、前述の展色物をカラー複写機により複写した複写物と展色物の色差を測定した結果である。使用したカラー複写機については、以下の通りである。複写機1 コニカミノルタ社製 C450
複写機2 コニカミノルタ社製 C252
複写機3 キャノン社製 イメージプレスC1
複写機4 富士ゼロックス社製 フジゼロックスドキュカラー4055F
複写機5 富士ゼロックス社製 フジゼロックスドキュカラー
複写機6 シャープ社製 MX−4500FN
上記6機種の複写機を用いて複写物を作成し、色差については、分光反射率は、GretagMacbeth分光光度計(SpectroEye グレタグ社製)を使用し印刷物の色相(L*、a*、b*)及び色差(ΔE)を算出した。
【0038】
複写物のΔEとしては、ほとんどの複写機による複写物がΔE6以上の色変化を有しているが、複写機3による複写物は、ΔE3程度と数値上は色変化の低い結果となった。しかし、本インキの配合としては、灰色を容易に再現するために必要となる黒色顔料を用いていないため、三原色をバランスよく配合することで再現しており、複写物に色変化が見られても、ΔEの数値としては低くなる。そのため、目視による評価では、すべての複写物に著しい色変化が確認された。
【0039】
色相としては、すべての複写物が青味方向にシフトしており、灰色から赤紫系の色相に変化した。これは、人間の視感度の低い490nm付近にシャープなピークを有するインキであることで、上述のピークを感じることなく灰色として視認されていたものを、複写機では、上述のピークを顕著に読み取り、展色物の色相を再現するために、複写物の色相が変化してものである。
【0040】
前述の実施の形態においては、色材をインキとして説明したが、インキを用いて印刷を行う場合、印刷する基材は特に限定されず、紙、プラスチック、フイルム、金属板に印刷することができるとともに、本発明の複写防止印刷物に用いるインキは、紙等の基材への印刷方式は特に限定されるものではなく、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、スクリーン印刷方式、フレキソ印刷方式、凹版印刷方式等の公知の印刷方式を使用することができる。
【実施例1】
【0041】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明するが、本発明の実施の形態は、下記の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載における技術的思想の範囲内であれば、その他種々の実施形態が含まれる。
【0042】
本発明の複写防止印刷物の実施例について説明する。まず、複写防止印刷物に用いる第1のインキとして、暗緑色のインキを作製した。第1のインキの配合を以下に示す。このインキに用いた黄色顔料及び青色顔料の490nmにおける分光反射率は60%以上である。また、赤色顔料については20%以上のものを用いたが、暗緑色を再現するために5%以下の添加量となっている。
【0043】
(実施例1における第1のインキの配合)
赤色顔料 4.0%
黄色顔料 13.0%
青色顔料 3.0%
ワニス 70.0%
助剤 10.0%
【0044】
また、前述の暗緑色メタメリックインキとのペアインキとして、可視光下では、等色として視認されるが、波長領域490nmにシャープなピークを有さない一般的な3原色の顔料を用いた第2のインキを作製した。第2のインキの配合を以下に示す。
【0045】
(実施例1における第2のインキの配合)
赤色顔料 3.5%
黄色顔料 10.5%
青色顔料 3.0%
ワニス 70.0%
助剤 13.0%
【0046】
前述のペアインキにおける分光反射率について、図5を用いて説明する。図5のペアインキは、視感度の低い波長領域490nm付近で反射率が相違しているが、肉眼で視認した場合、暗緑色の等色として視認される。しかし、カラー複写機で複写した場合、可視光領域の分光反射率を顕著に再現するため、第1のインキにおける波長領域490nmのピークを読み取り、490nmのピークに合せて450nm付近の反射率が高く再現されるため、複写物が青味に変色する。このインキの分光反射率の特徴としては、400nmから630nmの範囲内で490nm付近にトップピークを有し、かつ、490nmの分光反射率は、440nmにおける分光反射率の2.4倍、540nmにおける分光透過率の1.7倍の値を示している。
【0047】
一方、第2のインキについては、人間の視感度の低い領域に目立ったピーク等が存在しないことから、肉眼で視認した色相と略同等の色相として再現されるため、複写物は暗緑色のまま再現される。
【0048】
前述のメタメリックペアインキを用いてオフセット印刷により作製した複写防止印刷物について、図6及び図7を用いて説明する。図6の複写防止印刷物は、第1の印刷領域を第1のインキにより印刷し、第2の印刷領域を第2のインキにより印刷している。この複写防止印刷物を肉眼で視認した場合、第1の印刷領域と第2の印刷領域は等色のインキで印刷されているため、暗緑色のベタ刷り印刷物として視認される。
【0049】
この印刷物をカラー複写機により複写した場合、図7のように第1の印刷領域は、第1のインキにより印刷されているため、複写物が青味に変色し、星型の模様が現れる。一方、第2の印刷領域については、第2のインキにより印刷されているため、複写防止印刷物と同様の色相で再現されるため、星型の背景模様として視認される。
【0050】
また、第1のインキにより作製した展色物を前述の六種類の複写機によって複写し、さらに、ΔEを測定したデータを図8に示す。図8のΔEに示すとおり、すべての複写機により、高い色差を示していることがわかる。また、前述の実施の形態における灰色インキでは、複写機3による複写物の色差が低い結果であったが、暗緑色の第1のインキでは、高い色差を示していることから、複写機の種類によって、再現することができる色味が異なることが分かる。
【実施例2】
【0051】
次に、可視光下では等色として視認され、かつ、複写時に、赤色、緑色及び青色系統に色変化する三種類のインキを用いた印刷物について図9、図10及び図11を用いて説明する。前述の三種類のインキにおける配合は以下の通りである。
【0052】
(実施例2における赤味に変色するインキの配合)
紫色顔料 4.5%
赤色顔料 0.1%
黄色顔料 18.0%
ワニス 67.0%
助剤 10.4%
【0053】
(実施例2における緑味に変色するインキの配合)
緑色顔料 11.0%
赤色顔料 7.0%
黄色顔料 2.0%
ワニス 70.0%
助剤 10.0%
【0054】
(実施例3における青味に変色するインキの配合)
緑色顔料 4.5%
赤色顔料 6.0%
黄色顔料 10.0%
青色顔料 1.0%
ワニス 68.5%
助剤 10.0%
【0055】
前述の三種類のインキにおける分光反射率について、図9を用いて説明する。図9は、三種類のインキの分光反射率を一つのグラフとしてまとめたものであり、図10は、三種類のインキにおける複写物の分光反射率を示すものである。複写物については、コニカミノルタ社のC450を用いて作成し、分光反射率については、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計「U−4100」を用いて評価した。
【0056】
図9の分光反射率から分かるように、三種類のインキにおける分光反射率は、赤味に変色するインキ(7)が、650nm付近の分光反射率が大幅に高くなっているため、複写機が赤味の色を再現し、緑色に変色するインキ(6)が、580nm付近にシャープなピークを有しているため、複写機が緑味の色を再現し、青味に変色するインキ(5)が、490nm付近にシャープなピークを有するため、複写機が青味の色を再現するものである。この青色に変色するインキの反射率の特徴については、400nmから600nmの範囲内で490nm付近にトップピークを有し、かつ、490nmの分光反射率は、440nmにおける分光反射率の2.5倍であり、540nmにおける分光透過率の1.7倍の値を示している。
【0057】
これらのインキを作製する上での顔料及び配合量の選定としては、赤味に変色するインキの場合、650nm以上の分光反射率を高くするため、650nmの分光反射率が低い黒色、青色又は緑色顔料を用いることなく、青味成分を有する紫色顔料を用い、褐色を再現するための青味成分を補うことで褐色を再現している。
【0058】
また、緑味に変色するインキは、580nmにシャープなピークを設けるため、緑色顔料を多く用いて青味成分を補うことで褐色を再現している。また、青色に変色するインキは、490nm付近にシャープなピークを設けるため、490nmより短波長側で分光反射率が90%程度となる10Gの黄色顔料を多く用い、かつ、490nmの分光反射率への影響を抑えるため、490nm付近の分光反射率が20%以上の赤色顔料を用いることで褐色を再現していることが特徴である。
【0059】
この三種類のインキを用いて作製した印刷物について、図11及び図12を用いて説明する。図11は、印刷物を可視光下で視認した状態であり、可視光下では等色として視認されるインキを用いているため、一色の背景模様として視認される。しかし、この印刷物を複写した場合、それぞれのインキが、赤味、緑味及び青味に変色するため、図12のように、三種類のインキが全て異なる色相に変色するため、二種類の模様が出現する。
【0060】
また、この三種類のインキを用いて複写後の色相を想定したRGBによるフルカラーの階調を有する複写物を再現することも可能である(図示せず)。
【符号の説明】
【0061】
1 実施例1の複写防止印刷物
2 実施例1の複写防止印刷物の複写物
3 実施例1の第1のインキにおける分光反射率曲線
4 実施例1の第2のインキにおける分光反射率曲線
5 実施例2における青色に変色するインキ
6 実施例2における緑色に変色するインキ
7 実施例2における赤色に変色するインキ
8 実施例2の複写防止印刷物
9 実施例2の複写防止印刷物の複写物
10 実施例2における青色に変色するインキで印刷した領域
11 実施例2における緑色に変色するインキで印刷した領域
12 実施例2における赤色に変色するインキで印刷した領域
A 実施例1における第1の印刷領域
B 実施例1における第2の印刷領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラー複写機による複製を防止する複写防止インキであって、
前記複写防止インキは、18重量%から35重量%の着色顔料と60重量%から82重量%のワニスを少なくとも有し、
前記複写防止インキの分光反射率は、波長領域400nmから630nmの範囲におけるトップピークを波長領域480nmから500nmの範囲内に有し、前記トップピークの分光反射率は、波長領域440nmにおける分光反射率の1.6倍以上で、かつ、540nmにおける分光反射率の1.6倍以上の分光反射率を有することを特徴とする複写防止インキ
【請求項2】
前記複写防止インキの分光反射率は、波長領域440nm及び/又は540nmの分光反射率が25%以下であることを特徴とする請求項1記載の複写防止インキ。
【請求項3】
前記着色顔料は、波長領域490nmにおける分光反射率が60%以上の青色材料、黄色材料及び緑色材料並びに波長領域490nmにおける分光反射率が20%以上の赤色材料、橙色材料及び紫色材料から選択される少なくとも三つ以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の複写防止インキ。
【請求項4】
前記ワニスは、酸化重合性又はエネルギー線硬化性のワニスであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の複写防止インキ。
【請求項5】
前記複写防止インキは、赤外線吸収特性、発光特性及び磁気特性から選択される少なくとも一つの機能性材料を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の複写防止インキ。
【請求項6】
基材の少なくとも一部又は全部に前記請求項1乃至5のいずれか一項に記載された複写防止インキにより印刷された第1の領域を少なくとも有することを特徴とする複写防止印刷物。
【請求項7】
前記複写防止印刷物は、前記複写防止インキと等色のインキにより第2の領域が形成されたことを特徴とする請求項6記載の複写防止印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−74102(P2011−74102A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223734(P2009−223734)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】