説明

複写防止印刷物及び不正複写判定方法

【課題】 性能の向上した複写機によって複写をした場合であっても、不正な複写であると判定することが可能な複写防止印刷物を提供する。
【解決手段】 複写防止印刷物1は、第1背景11及び第1背景11に形成された第1パターン13を有する第1複写防止部1と、第2背景21及び第2背景21に形成された第2パターン22を有する第2複写防止部2と、を備え、第1パターン13は、第1背景11に対して所定の色成分のスクリーン濃度が異なり、所定の色成分に対して補色となる光を照射することで顕在化し、第2背景21と第2パターン22は、網点のスクリーン線数が異なると共に、スクリーン濃度が同じ又はほぼ同じであり、第1の濃度以下で複写した場合、第1パターン13は、複写されず、第1の濃度よりも濃い第2の濃度で複写した場合、第2パターン22は、第2背景21よりも濃く複写されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、商品券、帳票、クーポン券、プリペイドカード等の不正コピーを防止する複写防止印刷物及び不正複写判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、商品券、帳票、クーポン券、プリペイドカード等の不正コピーを防止する対策として、コピーを行うとコピー品に対してコピーを行った旨の表示がなされる印刷物が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3509928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、一見すると一様に見えるが、スクリーン線の異なる複数の領域を有する印刷物が記載されている。この印刷物は、スクリーン線数の多い領域と少ない領域とで複写の再現性が異なることを利用して、複写が行われた際に、複写が不正であることを表示させるものである。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、複写機の性能の向上に伴い、スクリーン線数の多い領域と少ない領域との複写の再現性の差異が低減され、複写が不正であることを表示させることができなくなってきている。
【0006】
本発明は、性能の向上した複写機によって複写をした場合であっても、不正な複写であると判定することが可能な複写防止印刷物及び不正複写判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の複写防止印刷物は、第1背景及び前記第1背景に形成された第1パターンを有する第1複写防止部と、第2背景及び前記第2背景に形成された第2パターンを有する第2複写防止部と、を備え、前記第1パターンは、前記第1背景に対して所定の色成分のスクリーン濃度が異なり、前記所定の色成分に対して補色となる光を照射することで顕在化し、前記第2背景と前記第2パターンは、網点のスクリーン線数が異なると共に、スクリーン濃度が同じ又はほぼ同じであり、第1の濃度以下で複写した場合、前記第1パターンは、複写されず、前記第1の濃度よりも濃い第2の濃度で複写した場合、前記第2パターンは、前記第2背景よりも濃く複写されることを特徴とする。
【0008】
また、前記第1背景は、地紋模様を有することを特徴とする。
【0009】
また、前記所定の色成分は、黄色成分であり、青色光を照射することで顕在化することを特徴とする。
【0010】
また、前記第1パターンの黄色成分と、前記第1背景の黄色成分とは、以下の条件式(1)を満足することを特徴とする。
10≦Yc≦20 (1)
ただし、Ycは前記第1パターンの黄色成分と前記第1背景の黄色成分との差異(%)である。
【0011】
さらに、本発明の不正複写判定方法は、背景に対して、黄色成分のスクリーン濃度が異なるパターンを有する印刷物を複写し、前記印刷物を複写した複写物に青色光を照射して前記パターンが顕在化するか否かで、不正な複写か否かを判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、性能の向上した複写機によって複写をした場合であっても、不正な複写であると判定することが可能な複写防止印刷物及び不正複写判定方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の複写防止印刷物を示す図である。
【図2】実施形態の複写防止印刷物の第1複写防止部を目視した図である。
【図3】実施形態の複写防止印刷物の第1複写防止部に青色光を照射した図である。
【図4】実施形態の第2複写防止部を示す図である。
【図5】図8の一部を拡大した図である。
【図6】実施形態の複写防止印刷物を通常の濃度で複写した第1複写物を示す図である。
【図7】実施形態の複写防止印刷物を濃い濃度で複写した第2複写物を目視した図である。
【図8】実施形態の複写防止印刷物を濃い濃度で複写した第2複写物に青色光を照射した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照にして本発明にかかる複写防止印刷物について説明する。
【0015】
図1は、実施形態の複写防止印刷物Pを示す図である。
【0016】
実施形態の複写防止印刷物Pは、第1複写防止部1と、第2複写防止部2と、を有する。複写防止印刷物Pは、全面に、第1複写防止部1及び第2複写防止部2を印刷してもよいし、一部に第1複写防止部1及び第2複写防止部2を印刷してもよい。また、複写防止印刷物Pは、ドットを形成するインクジェットプリンタにより印刷することが好ましい。
【0017】
第1複写防止部1は、第1背景11と、第1背景11上に形成された所定の地紋模様12と、第1背景11上に形成された所定の第1パターン13と、を有する。
【0018】
第2複写防止部2は、第2背景21と、第2背景21上に形成された所定の第2パターン22と、を有する。
【0019】
図2は実施形態の複写防止印刷物の第1複写防止部を目視した図、図3は実施形態の複写防止印刷物の第1複写防止部に青色光を照射した図である。
【0020】
図2に示すように、第1複写防止部1は、第1背景11と、第1背景11上に形成された所定の図形及び/又は文字等からなる地紋模様12と、第1背景11上に形成された所定の図形及び/又は文字等からなる第1パターン13と、を有する。
【0021】
図1に示した第1パターン13は、第1背景11に対して黄色成分のスクリーン濃度に微妙な差異をつけて形成している。例えば、第1パターン13の黄色成分と、第1背景11の黄色成分とは、以下の条件式(1)を満足することが好ましい。
10≦Yc≦20 (1)
ただし、Ycは第1パターン13の黄色成分と第1背景11の黄色成分との差異(%)である。
【0022】
人間の目の感度は、波長により異なることが知られている。一般に明るい環境では緑色の感度が最も高く、黄色の感度が低い。したがって、人間の目には、第1複写防止部1の第1パターン13と第1背景11との差異が見えづらい。なお、黄色成分とは、565nm≦λ≦575nm程度の波長λを有する色成分である。
【0023】
特に、地紋模様12を形成すると、地紋模様12がカモフラージュとなり、目視では第1パターン13は、背景11とほとんど区別がつかない。したがって、第1複写防止部1は、通常、目視した場合、図2に示すように、第1背景11及び第1背景11上に形成された所定の地紋模様12のみを観察することができる。
【0024】
この第1複写防止部1に対して、黄色の補色である青色の光を照射すると、背景11と第1パターン13の黄色成分の微妙な差異が明確となる。したがって、通常、目視した場合に見えなかった第1パターン13が、青色の光を照射することで、図3に示すように、顕在化し、見えるようになる。なお、本実施形態では、第1パターン13の黄色成分に微妙な差異をつけて、黄色の補色である青色の光を照射する構成としたが、他の所定の色成分に微妙な差異をつけて、当該所定の色成分の補色である光を照射する構成としてもよい。
【0025】
次に、図1に示した複写防止印刷物Pの第2複写防止部2について説明する。
【0026】
図4は実施形態の第2複写防止部2を示す図、図5は図4の一部を拡大した図である。
【0027】
図4に示すように、第2複写防止部2は、第2背景21と、第2背景21上に形成された所定の図形及び/又は文字等からなる第2パターン22と、を有する。第2背景21及び第2パターン22は、図5に示すように、網点によって形成される。第2背景21と第2パターン22の網点のスクリーン線数は、異なるが、第2背景21と第2パターン22のスクリーン濃度は、同じ又はほぼ同じとする。
【0028】
第2背景21と第2パターン22のスクリーン濃度は、同じ又はほぼ同じとするので、第2背景21と第2パターン22は、肉眼では、ほとんど区別がつかず、第2複写防止部2は、一様に見える。
【0029】
従来の複写機では、第2複写防止部2を複写すると、「複写」の文字からなる第2パターン22が浮かび上がり、不正な複写が行われたことが明らかであった。しかしながら、現在の複写機は、性能が向上したことにより、通常濃度で複写をしても、複写物の第2背景21と第2パターン22は、肉眼では、ほとんど区別がつかず、第2複写防止部2は、一様に見える。しかしながら、濃い濃度で複写を行うと、第2複写防止部2は第2背景21と第2パターン22との線数の差からコントラストが大きくなり、「複写」の文字が浮き上がる。
【0030】
なお、一例として、図5(a)に示した第2背景21の網点のスクリーン線数は175(lpi)、図5(b)に示した第2パターン22の網点のスクリーン線数は45〜80(lpi)とすると、第2背景21及び第2パターン22のスクリーン濃度が同じ又はほぼ同じ10〜20%の間となり好ましい。
【0031】
図6は実施形態の複写防止印刷物Pを通常の濃度で複写した第1複写物P1を示す図、図7は実施形態の複写防止印刷物Pを濃い濃度で複写した第2複写物P2を目視した図、図8は実施形態の複写防止印刷物Pを濃い濃度で複写した第2複写物P2に青色光を照射した図である。
【0032】
図1に示すような第1複写防止部1及び第2複写防止部2を有する複写防止印刷物Pを通常の濃度で複写する。すると、図6に示すように、第1複写物P1の第2複写防止部2’は通常に複写されるが、第1複写防止部1’は、黄色成分による微妙な差異が複写により再現できない程度のものであるため、第1複写物P1の第1パターン13’は消えてしまい、再現されない。したがって、目視によっても、青色光を照射しても、第1複写物P1の第1パターン13’は、見ることができず、第1複写物P1は、不正な複写により作製されたものであると判別することが可能となる。
【0033】
次に、図1に示すような第1複写防止部1及び第2複写防止部2を有する印刷物Pを通常よりも濃い濃度で複写する。すると、図7に示すように、第2複写物P2の第2複写防止部2”は第2背景21”と第2パターン22”とのコントラストの差が大きくなり、複写の文字が浮き上がる。したがって、第2複写物P2は、不正な複写により作製されたものであると判別することが可能となる。
【0034】
なお、第2複写物P2の第1複写防止部1”は、通常に複写されているが、目視では第1パターン13”は、背景11”とほとんど区別がつかない。したがって、第2複写物P2の第1複写防止部1”は、通常、目視した場合、図7に示すように、第1背景11”及び第1背景11”上に形成された所定の模様12”のみを観察することができる。
【0035】
この第2複写物P2の第1複写防止部1”に対して、黄色の補色である青色の光を照射すると、背景11”と第1パターン13”の黄色成分の微妙な差異が明確となる。したがって、目視した場合に見えなかった第2複写物P2の第1パターン13”が、青色の光を照射することで、図8に示すように、顕在化し、見えるようになる。
【0036】
次に、実施例について説明する。
【0037】
以下の表は、背景11と第1パターン13の黄色成分のスクリーン濃度に差異をつけた場合の複写防止印刷物と複写物の状態を示す。表1は背景11と第1パターン13の黄色成分のスクリーン濃度の差異を10%とした場合、表2は背景11と第1パターン13の黄色成分のスクリーン濃度の差異を15%とした場合、表3は背景11と第1パターン13の黄色成分のスクリーン濃度の差異を20%とした場合である。また、Cはシアンのスクリーン濃度、Mはマゼンダのスクリーン濃度を示している。例えば、C20はシアンのスクリーン濃度が20%、M20はマゼンダのスクリーン濃度が20%であることを示している。
【0038】
表中、◎は、複写防止印刷物Pの黄色成分のスクリーン濃度に差異をつけた第1パターン13が十分隠蔽されて、目視では見えないが、青色光を照射することで確認できる場合、且つ、複写物は青色光を照射しても第1パターン13が見えない場合を示す。
【0039】
また、○は、複写防止印刷物Pの黄色成分のスクリーン濃度に差異をつけた第1パターン13が隠蔽されて、目視では見づらいが、青色光を照射することで確認できる場合、且つ、複写物は青色光を照射しても第1パターン13が見えない場合を示す。
【0040】
さらに、△は、複写防止印刷物Pの黄色成分のスクリーン濃度に差異をつけた第1パターン13が十分隠蔽されて、目視では見えないが、青色光を照射しても確認しづらい場合、且つ、複写物は青色光を照射しても第1パターン13が見えない場合を示す。
【0041】
また、×は、複写防止印刷物Pの黄色成分のスクリーン濃度に差異をつけた第1パターン13が目視で見えてしまっている場合、且つ、複写物は青色光を照射して第1パターン13が見えてしまっている場合を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
表1〜表3からわかるように、背景11と第1パターン13の黄色成分のスクリーン濃度の差異が10%〜20%で、背景がシアン単色又はマゼンダ単色の場合には、シアン又はマゼンダのスクリーン濃度を20%以下とすると好ましい。また、背景11と第1パターン13の黄色成分のスクリーン濃度の差異が10%〜20%で、背景がシアンとマゼンダの混合の場合には、シアンとマゼンダのスクリーン濃度をそれぞれ15%以下とすると好ましい。
【0046】
このように、複写防止印刷物1は、第1背景11及び第1背景11に形成された第1パターン13を有する第1複写防止部1と、第2背景21及び第2背景21に形成された第2パターン22を有する第2複写防止部2と、を備え、第1パターン13は、第1背景11に対して所定の色成分のスクリーン濃度が異なり、所定の色成分に対して補色となる光を照射することで顕在化し、第2背景21と第2パターン22は、網点のスクリーン線数が異なると共に、スクリーン濃度が同じ又はほぼ同じであり、第1の濃度以下で複写した場合、第1パターン13は、複写されず、第1の濃度よりも濃い第2の濃度で複写した場合、第2パターン22は、第2背景21よりも濃く複写されるので、性能の向上した複写機によって複写をした場合であっても、不正な複写であると判定することが可能となる。
【0047】
また、第1背景11は、地紋模様を有するので、地紋模様12がカモフラージュとなり、目視では第1パターン13は、背景11とほとんど区別がつかなくなり、好ましい。
【0048】
また、所定の色成分は、黄色成分であるので、人間の目には、第1複写防止部1の第1パターン13と第1背景11との差異が見えづらく好ましい。
【0049】
また、第1パターン13の黄色成分と、第1背景11の黄色成分とは、以下の条件式(1)を満足するので、人間の目には、さらに感度が低くなり、第1複写防止部1の第1パターン13と第1背景11との差異が見えづらく好ましい。
10≦Yc≦20 (1)
ただし、Ycは第1パターン13の黄色成分と第1背景11の黄色成分との差異(%)である。
【0050】
さらに、不正複写判定方法は、第1背景11に対して、黄色成分のスクリーン濃度が異なる第1パターン13を有する複写防止印刷物Pを複写し、複写防止印刷物Pを複写した複写物に青色光を照射して第1パターン13が顕在化するか否かで、不正な複写か否かを判定するので、性能の向上した複写機によって複写をした場合であっても、不正な複写であると判定することが可能となる。
【0051】
以上、複写防止印刷物をいくつかの実施例に基づいて説明してきたが、本発明はこれら実施例に限定されず種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1,1’,1”…第1複写防止部
11,11’,11”…第1背景
12,12’,12”…地紋模様
13,13’,13”…第1パターン
2,2’,2”…第2複写防止部
21,21’,21”…第2背景
22,22’,22”…第2パターン
P…複写防止印刷物
P1…第1複写物
P2…第2複写物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1背景及び前記第1背景に形成された第1パターンを有する第1複写防止部と、
第2背景及び前記第2背景に形成された第2パターンを有する第2複写防止部と、
を備え、
前記第1パターンは、前記第1背景に対して所定の色成分のスクリーン濃度が異なり、前記所定の色成分に対して補色となる光を照射することで顕在化し、
前記第2背景と前記第2パターンは、網点のスクリーン線数が異なると共に、スクリーン濃度が同じ又はほぼ同じであり、
第1の濃度以下で複写した場合、前記第1パターンは、複写されず、
前記第1の濃度よりも濃い第2の濃度で複写した場合、前記第2パターンは、前記第2背景よりも濃く複写される
ことを特徴とする複写防止印刷物。
【請求項2】
前記第1背景は、地紋模様を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の複写防止印刷物。
【請求項3】
前記所定の色成分は、黄色成分である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複写防止印刷物。
【請求項4】
前記第1パターンの黄色成分と、前記第1背景の黄色成分とは、以下の条件式(1)を満足することを特徴とする請求項3に記載の複写防止印刷物。
10≦Yc≦20 (1)
ただし、Ycは前記第1パターンの黄色成分と前記第1背景の黄色成分との差異(%)である。
【請求項5】
背景に対して、黄色成分のスクリーン濃度が異なるパターンを有する印刷物を複写し、
前記印刷物を複写した複写物に青色光を照射して前記パターンが顕在化するか否かで、不正な複写か否かを判定する
ことを特徴とする不正複写判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−250457(P2012−250457A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125131(P2011−125131)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】