説明

複写防止用紙

【課題】外観を損なわずに、機密情報などの複写を防止可能な複写防止用紙を提供する。
【解決手段】シート状の紙材2の表面に、可視光によって励起されて不可視の赤外光を発光する蛍光体が塗布されることで、複写防止用紙1が構成される。例えばユーザーが、室内で複写防止用紙1を見た場合、紙材2の表面に塗布された蛍光体は、室内光に含まれる可視光によって励起されて不可視の赤外光を発光する。つまり、蛍光体の励起光がユーザーによって視認されることはないので、複写防止用紙1の外観(見た目)が損なわれることを防止できるという利点がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写防止用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コピー機やスキャナなどによる機密情報の複写を防止するための各種の複写防止技術が知られている。例えば特許文献1には、紫外線または赤外線によって励起されて可視光を発光する蛍光体が紙材の表面に設けられてなる複写防止用紙が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された複写防止用紙を複写機で印刷する場合、紙材の表面に設けられた蛍光体が、複写機の光源から照射される光に含まれる紫外線または赤外線によって励起されて可視光を発光する。これにより、複写防止用紙に印字された情報(印字情報)とは異なる情報が印刷されるので、複写防止用紙の印字情報が複写されることを防止できるという具合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−88546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術では、複写防止用紙の印刷が行われない場合であっても、紙材の表面に設けられた蛍光体は、例えば室内光に含まれる紫外線や赤外線によって励起されて可視光を発光する。したがって、例えばユーザーが、室内で複写防止用紙を見た場合、当該ユーザーの目には、蛍光体から発光された可視光が入射される。これにより、複写防止用紙の外観(見た目)が損なわれるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、外観を損なわずに、機密情報などの複写を防止可能な複写防止用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の複写防止用紙は、紙材と、前記紙材に設けられ、可視光によって励起されて不可視の赤外光を発光する蛍光体と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複写防止用紙は、可視光によって励起されて不可視の赤外光を発光する蛍光体を備えるので、例えばユーザーが、室内で複写防止用紙を見ても、蛍光体の励起光が当該ユーザーによって視認されることはない。したがって、外観を損なわずに、機密情報などの複写を防止可能な複写防止用紙を提供できるという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本実施例の複写防止用紙の模式的な断面図である。
【図2】図2は、本実施例の蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
【図3】図3は、本実施例の蛍光体の作成結果の一例を示す図である。
【図4】図4は、本実施例の蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
【図5】図5は、変形例の複写防止用紙の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る複写防止用紙の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
図1は、本実施例の複写防止用紙1の概略構成を説明するための模式的な断面図である。図1に示すように、本実施例の複写防止用紙1は、略矩形のシート状の紙材2と、紙材2の表面に形成された蛍光層3とを備える。紙材2の材料としては、上質紙,OCR紙,ノーカーボン紙,アート紙などの紙類が挙げられる。
【0012】
蛍光層3は、可視光によって励起されて不可視の赤外光を発光する蛍光体を含んで構成される。より具体的には、蛍光層3は、上述の蛍光体と、クレー(カオリン)や炭酸カルシウムなどの顔料と、デンプンなどの接着剤とが混合されて構成される。
【0013】
上述の蛍光体は、ガラス材に希土類元素がドープされた粒子である。希土類元素の例としては、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、イッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)、および、これらのうちの少なくとも2つを混合した混合物が挙げられる。
【0014】
これらの中でも、希土類元素としては、可視光によって励起して、ヒト(人)の肉眼に対する感度が低く、かつ一般的な撮像素子に対する感度の高い、波長800nm〜1100nm程度の赤外光を発光するとの理由から、イッテルビウム(Yb)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、ネオジム(Nd)を用いることが更に好ましい。
【0015】
また、2種類以上の希土類元素を共添加して、上述の蛍光体を構成する場合には、希土類元素としてイッテルビウム(Yb)とネオジム(Nd)を共添加することが特に好ましい。イッテルビウム(Yb)とネオジム(Nd)を共添加することによって、励起されたネオジムイオンからエネルギー伝達をうけてイッテルビウムイオンが発光し、ネオジムイオンを共添加しない場合に比べて、光変換効率の高い赤外光の発光を実現することができる。
【0016】
また、ガラス材は、酸化物ガラスを含む。酸化物ガラスの例としては、酸化ホウ素(B)系、リン酸(P)系、無水ホウ酸(B)系等が挙げられる。これらの中でも、無水ホウ酸(B)を用いることが好ましい。なお、ここでは、希土類元素がドープされる母材の一例としてガラス材を挙げたが、これに限らず、母材としては、上記希土類元素を担持することができる母材であれば、どのような母材であってもよい。例えば酸化物ガラスの他、ハロゲン化物、硫化物を用いてもよい。ハロゲン化物としては、例えば、塩化ランタン(LaCl3)、塩化イットリウム(YCl3)、塩化バリウム(BaCl2)、塩化鉛(PbCl2)等の塩化物、フッ化鉛(PbF)、フッ化カドミニウム(CdF)、フッ化ランタン(LaF)、フッ化イットリウム(YF)等のフッ化物などを挙げることができる。また、母材としては、イットリウム・ランタンフッ化物等の異種元素を含有するハロゲン化物を用いることもできる。
【0017】
希土類元素とガラス材との組み合わせは、ガラス材に希土類元素がドープされた粒子(蛍光体)が、可視光によって励起されて不可視の赤外光を発光するように決定される。例えば、母材と希土類元素の好ましい組み合わせとしては、Ndとホウ酸−酸化Bi系ガラス、Nd−Ybとホウ酸−酸化Bi系ガラス、Ybとリン酸ガラス等の組み合わせを挙げることができる。母材と希土類元素の組み合わせを上記組み合わせとすることで、可視光によって励起して、波長800nm〜1100nmの波長領域の光を発光し、且つ光の変換効率(発光効率)の高い蛍光体を得ることができる。
【0018】
以下、上記発光特性を有する蛍光体の具体例を列挙する。蛍光体の具体例としては、酸化ネオジムと、酸化イッテルビウムと、ホウ酸と、酸化ビスマスとを、各々3mol%、1mol%、91mol%、5mol%となるように秤量して混合溶融した後に粉砕することによって得られる粒子を挙げることができる。
【0019】
なお、該組成及び組成比で混合溶融し、成型・粉砕条件を調整することによって、粒径5mm、形状係数SF1が0.125である蛍光体を作製した。この蛍光体に、波長590nmの可視光を照射することによって得られる発光スペクトルを測定したところ、中心発光波長が1000nm、半値幅86nm、帯域900nm〜1100nmの範囲内のガウシアン類似形状の発光スペクトルが得られた(図2参照)。なお、可視領域には、明瞭な発光が得られなかった。このため、蛍光体は、可視光の照射によって励起して赤外光を発光し、且つ透明な粒子であることを確認することができた。
【0020】
蛍光体の具体例としては、Ybと、Biと、Bと、を、各々5.1mol%、47.5mol%、及び47.4mol%となるように秤量して混合溶融及び粉砕することによって得られる粒子も挙げることができる。
【0021】
なお、該組成及び組成比で混合溶融し、成型・粉砕条件を調整することによって、平均粒径0.1mm、形状係数SF1が1.05である蛍光体を作製した。この蛍光体に、波長590nmの可視光を照射することによって得られる発光スペクトルを測定したところ、中心発光波長が910nm、半値幅50nm、帯域800nm〜1000nmの範囲内のガウシアン類似形状の発光スペクトルが得られた。なお、可視領域には、明瞭な発光が得られなかった。このため、蛍光体は、可視光の照射によって励起して赤外光を選択的に発光することを確認できた(図示省略)。
【0022】
また、蛍光体としては、下記組成及び比率のものも挙げることができる。具体的には、Ybと、Ndと、Biと、Bと、を、各々5.0mol%、2.0mol%、44.4mol%、48.6mol%となるように秤量して混合溶融及び粉砕することによって得られる粒子が挙げられる。
【0023】
なお、該組成及び組成比で混合溶融し、成型・粉砕条件を調整することによって、粒径5mm、形状係数SF1が1.05である蛍光体を作製した。この蛍光体に、波長590nmの可視光を照射することによって得られる発光スペクトルを測定したところ、中心発光波長が1000nm、半値幅86nm、帯域900nm〜1100nmの範囲内のガウシアン類似形状の発光スペクトルが得られた。なお、可視領域には、明瞭な発光が得られなかった。このため、蛍光体は、可視光の照射によって励起して赤外光を選択的に発光することを確認できた(図示省略)。
【0024】
さらに、Ybと、Ndと、Biと、Bと、を、各々5.0mol%、2.9mol%、43.9mol%、48.1mol%となるように秤量して混合溶融及び粉砕することによって得られる粒子(蛍光体)や、YbとNdとを、各々5.0mol%、3.0mol%に固定したまま、BiとBとの比率を、“91.9mol%と0mol%”、“82.4mol%と9.5mol%”、“73.2mol%と18.8mol%”、“64.5mol%と27.3mol%”、“55.2mol%と33.7mol%”、“36.6mol%と55.4mol%”と変化させて秤量して混合溶融及び粉砕することによって得られる粒子(蛍光体)についても、上記と同様の結果が得られた。
【0025】
すなわち、これらの蛍光体についても、可視光の照射によって励起して赤外光を選択的に発光することを確認できた(図示省略)。
【0026】
ここで、希土類元素がドープされるガラス材は、蛍光体の色味に寄与するが、上述の具体例においては、希土類元素がドープされるガラス材の中に、黄色を呈する酸化ビスマス(Bi)が含まれているため、蛍光体の透明化(無色化)を図ることは困難となる。そこで、基礎吸収端を紫外線領域に有する酸化物であって、かつ、ガラス材の特性を規定するための修飾酸化物と、可視光の透過率が基準値以上のガラス形成酸化物とを組み合わせてガラス材を構成することで、当該ガラス材の所望の特性を実現しつつ無色(透明)に近い色を呈する蛍光体を提供することが可能になる。
【0027】
ガラス材の特性としては、例えばガラス材の機械的強度や屈折率などが挙げられる。修飾酸化物の具体例としては、例えば酸化亜鉛(ZnO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化鉛(PbO)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)などが挙げられる。
【0028】
また、上述の修飾酸化物と組み合わされるガラス形成酸化物の具体例としては、例えば無水ホウ酸(B)、二酸化珪素(SiO)、リン酸(P)、二酸化ゲルマニウム(GeO)などが挙げられる。
【0029】
そして、可視光によって励起して、ヒト(人)の肉眼に対する感度が低く、かつ一般的な撮像素子に対する感度の高い波長800nm〜1100nm程度の赤外光を発光するとともに、発光効率の高い蛍光体が得られるように、上述のガラス材(修飾酸化物+ガラス形成酸化物)と希土類元素とを組み合わせることができる。
【0030】
ここで、蛍光体が励起することで得られる赤外光の発光波長は、上述のガラス材(修飾酸化物+ガラス形成酸化物)にドープされる希土類元素の種類に依存するので、波長800nm〜1100nm程度の赤外光を得るためには、ネオジム(Nd)、イッテルビウム(Yb)、ネオジム(Nd)の酸化物、イッテルビウム(Yb)の酸化物、サマリウム(Sm)の酸化物、プラセオジウム(Pr)の酸化物、および、これらのうちの少なくとも2種類の混合物などを、上述のガラス材と組み合わせることが好ましい。なお、上述の波長800nm〜1100nmのうち、800nm〜900nm程度の帯域(「目標帯域」と呼ぶ)は、一般的な撮像素子(例えばCCD等)が感度を有する帯域であるので、この目標帯域内の波長の赤外光を発光可能な蛍光体を作成することが好ましい。目標帯域内の波長の赤外光を発光可能な蛍光体を得るためには、希土類元素として、ネオジム(Nd)を用いることが好適である。
【0031】
希土類元素と上述のガラス材(修飾酸化物+ガラス形成酸化物)との組み合わせとしては、Nd3+とZnO−B系ガラスとの組み合わせを挙げることができる。希土類元素と上述のガラス材との組み合わせを上記組み合わせとすることで、目標帯域内の波長の赤外光を発光するとともに、無色に近い色を呈することが可能な蛍光体を得ることができる。例えば、酸化ネオジム(Nd)と、酸化亜鉛(ZnO)と、無水ホウ酸(B)とを組み合わせて蛍光体を作成することもできる。この例では、蛍光体は、xNd―yZnO−zBと表すことができる。「x」は、蛍光体に含まれる酸化ネオジム(Nd)の割合を示す係数であり、「y」は、蛍光体に含まれる酸化亜鉛(ZnO)の割合を示す係数であり、「z」は、蛍光体に含まれる無水ホウ酸(B)の割合を示す係数である。
【0032】
図3は、上記x、y、zを変化させて、蛍光体を作成した結果の一例を示す図である。この例では、x、y、zの各々の単位はmol%である。図3の縦軸はxの値を示し、図3の横軸はyとzの割合を示し、x、y、zの総和が100%になるように設定される。図3の「○」の位置に対応するx、y、zの組み合わせは、ガラス化が実現できた組み合わせを示し、図3の「×」の位置に対応するx、y、zの組み合わせは、ガラス化が実現できなかった組み合わせを示す。
【0033】
xNd―yZnO−zBで表される蛍光体の具体例としては、Ndが1.5mol%、ZnOが55mol%、Bが43.5mol%となるように秤量して混合溶融及び成型・粉砕することによって得られる粒子が挙げられる。この組成及び組成比で混合溶融し、成型条件を調整することによって、平均粒径6mm、形状が円柱である蛍光体を作製した。この蛍光体に、波長590nmの可視光を照射することによって得られる発光スペクトルを測定したところ、図4に示すように、中心発光波長が870nm、半値幅40nm、帯域850nm〜950nmの範囲内の発光スペクトルが得られた。Nd3+とZnO−B系ガラスとの組み合わせからなる蛍光体の厚さを2mmに設定して発光強度を測定した場合、上述の1.5Nd―55ZnO−43.5Bで表される蛍光体の発光強度が最大となる。なお、これに限らず、蛍光体に含まれる酸化ネオジム(Nd)の割合は0.5〜5mol%、蛍光体に含まれる酸化亜鉛(ZnO)の割合は45〜65mol%、蛍光体に含まれる無水ホウ酸(B)の割合は35〜55mol%の範囲であればよく、この範囲において、上記x、y、zの各々の値は任意の値を取り得る。
【0034】
また、室温のステンレス金型で作成した場合、Bi−B系ガラスは内部にクラックが入ることが多かったが、ZnO−B系ガラスではクラックはほとんど入らなかった。このため、希土類元素がドープされるガラス材としては、ZnO−B系ガラスが適していると考えられる。
【0035】
以上、蛍光体の様々な具体例を説明したが、蛍光体には、上記発光特性を損なわない範囲で、その他の成分を添加してもよい。該その他の成分としては、例えば、酸化サマリウム等を挙げることができる。
【0036】
蛍光体は、粒子状であればよく、球状、多角形の何れであってもよいが、形状係数SF1が100以上106以下であることが好ましい。この形状係数SF1は、下記式(1)によって示すことができる。
【0037】
式(1) SF1=((蛍光体の径の絶対最大長)/蛍光体の投影面積)×(π/4)×100
【0038】
形状係数SF1の値は、丸さを示すものであり、真球の場合には100となり、形状が不定形になるに従って値が増大する。この形状係数SF1が、上述のように106以下であると、蛍光体は真球又は真球に近い形状となる。蛍光体が真球又は真球に近い形状であるほど、可視光で励起することによって蛍光体ら放射された光は、蛍光体の全方向(360°の全方向)に向かって放射される。このため、蛍光体の形状係数SF1が上記範囲から外れた値である場合(真球からかけはなれた形状である場合)に比べて、蛍光層3の厚み方向に向かって取り出される赤外光の量が増え、複写を更に効果的に防止できると考えられる。
【0039】
また、蛍光体の粒径は、蛍光層3における蛍光体の含有量や蛍光体の組成等に応じて適宜調整すればよい。この蛍光体の粒径(体積平均粒径)としては、例えば、1μm以上5mm以下の範囲を挙げることができる。
【0040】
蛍光体の粒径及び形状係数SF1は、蛍光体の作製時において、蛍光体を構成する構成成分を混合溶融した後に得られた結晶体(またはアモルファス)の粉砕条件を調整することによって、調整することができる。
【0041】
蛍光層3に含まれる蛍光体の含有量は、蛍光層3の厚みや、蛍光体の分布(偏在させるか否か、蛍光層3のどの領域に偏在させるか)や、蛍光層3の構成材料との組み合わせや、複写機の光源などから照射される可視光の強度等によって異なり、これらに応じて調整する。なお、組成が異なる複数種類の蛍光体を蛍光層3に含ませることもできるし、同一組成の蛍光体を蛍光層3に含ませることもできる。
【0042】
上述の蛍光体を含む蛍光層3の表面には、例えば機密情報などの複写を行わせたくない情報が印字(印刷)される。なお、本実施例では、複写を行わせたくない情報が蛍光層3の表面に印字されているが、これに限らず、例えば複写を行わせたくない情報が紙材の表面に印字されて、その上に蛍光層3が形成されてもよい。
【0043】
次に、本実施例の複写防止用紙1の製造方法について説明する。まず、希土類元素がドープされたガラス材を粉砕して得られた粒子(蛍光体)と、クレー(カオリン)や炭酸カルシウムなどの顔料と、デンプンなどの接着剤を混合して塗料(蛍光層3)を作る。本実施例では、紙材2の色は白色であるので、顔料としては白色顔料が用いられる。これにより、蛍光体(蛍光層3)の色が、紙材2の色と同じになるので、蛍光体が視認されにくくなるという利点がある。
【0044】
次に、作成した塗料を、原紙の表面に塗布する。塗料の量は、原紙のサイズに応じて決定される。この塗布工程は、原紙の製造工程の中で行われる。塗布の方法は任意であり、例えばコーターなどの塗工機を用いて行ってもよい。
【0045】
次に、塗料が塗布された原紙を乾燥させた後、当該原紙を適切なサイズにカットする。以上より、本実施例の複写防止用紙1が製造される。
【0046】
ここで、ユーザーが、室内において本実施例の複写防止用紙1を見る場合を想定する。この場合、紙材2の表面に塗布された蛍光体は、室内光に含まれる可視光によって励起されて不可視の赤外光を発光する。つまり、蛍光体の励起光がユーザーによって視認されることはないので、複写防止用紙1の外観(見た目)が損なわれることを防止できるという利点がある。
【0047】
また、本実施例の複写防止用紙1が複写機で複写された場合、紙材2の表面に設けられた蛍光体が、複写機の光源から照射される光に含まれる可視光によって励起されて不可視の赤外光を発光する。これにより、複写防止用紙1に印字された情報とは異なる情報が印刷されるので、複写防止用紙1の印字情報が複写されることを防止できる。
【0048】
ところで、上述の特許文献1に開示された技術では、紙材の表面に設けられた蛍光体は、紫外線または赤外線によって励起されるので、複写機の光源が、紫外線および赤外線のそれぞれの波長領域で十分な強度の発光スペクトルを有する場合は、複写防止用紙の印字情報の複写を防止できるものの、複写機の光源が、紫外線および赤外線のそれぞれの波長領域で十分な強度の発光スペクトルを有していない場合は、複写防止用紙の印字情報の複写を防止できないおそれもある。
【0049】
これに対して、本実施例では、紙材2の表面に塗布された蛍光体は、可視光によって励起されて不可視の赤外光を発光するので、複写機の光源が、紫外線および赤外線のそれぞれの波長領域で十分な強度の発光スペクトルを有していない場合であっても、複写防止用紙1に印字された情報の複写を確実に防止できる。一般的に、複写機の光源から出射される光は、可視光の波長領域において十分な強度の発光スペクトルを有しているので、本実施例によれば、複写機の光源の種類を問わずに、複写防止用紙1の印字情報の複写を確実に防止できるという利点がある。
【0050】
<変形例>
以上、本発明の実施例を説明したが、上述の実施例は、本発明の好適な実施形態の一例を示すものであり、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変形が可能である。以下に変形例を記載する。以下の変形例は任意に組み合わせることも可能である。
【0051】
(1)変形例1
上述の実施形態では、紙材2の表面に上述の蛍光体が塗布されているが、これに限らず、例えば紙材2が上述の蛍光体を含有していてもよい。例えば、図3に示すように、複写防止用紙が3層構造となっていて、上述の蛍光体を含む蛍光層4が、第1の紙層5と第2の紙層6との間に介在する構成であってもよい。蛍光層4は、上述の蛍光体を含むものであればよく、その構成は任意である。また、図3の例では、紙材2は、第1の紙層5と第2の紙層6とから構成されるという具合である。図3の例では、蛍光体が外部に露出することはないので、紙材2の表面に蛍光体が設けられる場合に比べて、蛍光体が脱落しにくいという利点がある。
【0052】
要するに、本発明の複写防止用紙は、可視光によって励起されて不可視の赤外光を発光する蛍光体が、紙材に設けられているものであればよい。
【0053】
(2)変形例2
上述の実施形態では、紙材2の色は白色であるが、紙材2の色は任意である。そして、蛍光体の色は、紙材2の色に応じて任意に変更可能である。要するに、蛍光体の色は、紙材2と同系色であればよい。また、蛍光体の色は透明であってもよい。蛍光体の色を透明にすることで、紙材2の色に関わらず、蛍光体が視認されにくくなるという利点がある。
【0054】
(3)変形例3
上述の蛍光体が発光する赤外光の波長や発光強度は、図2の例には限られない。上述の蛍光体が発光する赤外光の波長や発光強度は、人間には視認されずに、かつ、複写機やデジタルカメラに搭載されたCCDなどの撮像素子によって検知可能な範囲内において、任意に変更可能である。要するに、上述の蛍光体が発光する赤外光の波長や発光強度は、複写防止用紙の外観を損なうことなく、印字情報の複写を防止可能な値であればよい。
【0055】
(4)変形例4
上述の実施例では、紙材2の表面に、可視光によって励起されて不可視の赤外光を発光する蛍光体が塗布されているが、これに限らず、紙材2の裏面にも当該蛍光体が塗布されていてもよい。さらに、上述の実施形態では、紙材2の表面全体に、上述の蛍光体を含む蛍光層3が形成されているが、これに限らず、例えば紙材2の表面のうちの一部の領域のみに蛍光層3が形成され、その蛍光層3上に、複写を行わせたくない情報が印字されてもよい。要するに、上述の蛍光体は、紙材の表面の少なくとも一部または裏面の少なくとも一部に塗布することができる。
【0056】
本発明は、複写を行わせない情報が印字された紙に適用することが可能であり、本発明が適用される紙の種類は任意である。例えば、本発明は、有価証券,パスポート,紙幣,機密情報が印字された紙などに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 複写防止用紙
2 紙材
3 蛍光層
4 蛍光層
5 第1の紙層
6 第2の紙層





































【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙材と、
前記紙材に設けられ、可視光によって励起されて不可視の赤外光を発光する蛍光体と、を備える、
ことを特徴とする複写防止用紙。
【請求項2】
前記蛍光体は、ガラス材に希土類元素がドープされた粒子である、
ことを特徴とする請求項1に記載の複写防止用紙。
【請求項3】
前記希土類元素には、エルビウム、ホルミウム、プラセオジウム、ツリウム、ネオジム、ユーロピウム、イッテルビウム、サマリウム、セリウム、および、これらのうちの少なくとも2つを混合した混合物が含まれる、
ことを特徴とする請求項2に記載の複写防止用紙。
【請求項4】
前記ガラス材は、酸化物ガラスを含む、
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の複写防止用紙。
【請求項5】
前記ガラス材は、基礎吸収端を紫外線領域に有する酸化物であって、かつ、前記ガラス材の特性を規定するための修飾酸化物と、可視光の透過率が前記基準値以上のガラス形成酸化物と、から構成される、
請求項2に記載の複写防止用紙。
【請求項6】
前記修飾酸化物は酸化亜鉛である、
請求項5に記載の複写防止用紙。
【請求項7】
前記希土類元素はネオジムである、
請求項5または6に記載の複写防止用紙。
【請求項8】
前記蛍光体は、酸化ネオジムと、酸化亜鉛と、無水ホウ酸とから構成され、前記蛍光体に含まれる酸化ネオジムの割合は0.5〜5mol%、前記蛍光体に含まれる酸化亜鉛の割合は45〜65mol%、前記蛍光体に含まれる無水ホウ酸の割合は35〜55mol%の範囲である、
請求項5から7のうちの何れか1つに記載の複写防止用紙。
【請求項9】
前記蛍光体に含まれる酸化ネオジムの割合は1.5mol%、前記蛍光体に含まれる酸化亜鉛の割合は55mol%、前記蛍光体に含まれる無水ホウ酸の割合は43.5mol%である、
請求項8に記載の複写防止用紙。
【請求項10】
前記蛍光体の色は、透明または前記紙材と同系色である、
ことを特徴とする請求項1から請求項9のうちの何れか1つに記載の複写防止用紙。
【請求項11】
前記蛍光体は、前記紙材の表面の少なくとも一部または裏面の少なくとも一部に塗布される、
ことを特徴とする請求項1から請求項10のうちの何れか1つに記載の複写防止用紙。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−184536(P2012−184536A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−32148(P2012−32148)
【出願日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度経済産業省「新世代情報セキュリティ研究開発事業(撮影による情報漏洩を防止するソリューションの研究開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000202361)綜合警備保障株式会社 (266)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】