説明

複合めっき処理方法および処理装置

【課題】 被めっき物に均一で適切な超音波振動を加えることができ、超音波振動によりめっき浴中の粒子の分散性を向上させ、均一な大面積複合めっきを可能とする複合めっき処理方法および複合めっき処理装置を提供する。
【解決手段】 被めっき物に2つ以上の振動モードの超音波振動を励振できるようにし、その振動モードの組み合わせにより、被めっき物に屈曲進行波や時間的に変化する複数の定在波を励振して、めっき浴中の粒子の分散性を向上させ、均一な複合めっき被膜の形成を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子を分散させためっき浴により、前記粒子を均一に含有した複合めっき被膜を形成する複合めっき処理方法および処理装置に関し、特にめっき浴中の粒子の被めっき物近傍での再凝集、不均一を防ぎ複合めっき被膜中に取り込まれる前記粒子の均一性を向上し得る複合めっき処理方法および処理装置に関し、特に、めっき浴中で強い凝集性を示すカーボンナノチューブなどの粒子を均一に含有した大面積複合めっき被膜を形成する複合めっき処理方法および処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の複合めっき技術においては、超音波振動によりめっき浴中の粒子を分散させる方法及び装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、めっき浴中の凝集微粒子分散方法及び装置が開示されている。特許文献1に記載されためっき浴中の凝集微粒子分散方法及び装置は、めっき液を不活性ガスの供給により脱気した後、超音波をめっき液に照射し、めっき液中の凝集した粒子を再分散するもので、めっき液へ超音波を照射するものであり、被めっき物への超音波振動を開示していない。
【0004】
特許文献2には、固体微粒子をめっき液中に分散させて被めっき物上に固定微粒子を含む複合めっき被膜を形成する複合めっき方法が開示されている。特許文献2の方法においては、めっき被膜生成中に超音波振動子により、めっき液か被めっき物の少なくとも一方に超音波振動を与え、めっき被膜中に取り込まれる固体微粒子の濃度を制御している。被めっき物への超音波振動を加える方法を開示しているが、超音波振動の振幅のみの制御であり、定在波の単一モードの振動しか含まれていないので、振動の不均一によって、均一性のある大面積の複合めっき被膜を得ることが困難である。
【0005】
特許文献3には、単層メタルボンド砥石及びその製造方法が開示されている。特許文献3の方法は、被めっき物に超音波振動を加えながらめっき処理を行い、砥粒の突き出し量が大きく、超硬質砥粒の保持力が高い砥石を作製することを目的としており、砥石の台金である被めっき物に超音波振動を与えているが、その目的は、砥粒の周囲にめっき被膜の盛り上がりを作るためであり、砥粒の分散性を向上させる目的で用いていないし、複数の超音波振動源による多重モードの超音波振動を加えることを開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−106093号公報
【特許文献2】特開平05−171453号公報
【特許文献3】特開2002−178266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の公知の複合めっき技術の課題を図1(a)を参照して説明する。公知の複合めっき技術においては、被めっき物1に単一モードの超音波振動を加え粒子31を分散するものであるために、被めっき物1e表面に定在波モードが励振され,振幅の大きい振動の腹とほとんど振動しない振動の節1a(=1b)が生じる。振動しない節部1aでは、粒子31が凝集し、粒子31の凝集体32としてめっき被膜12に取り込まれるなど、めっき被膜12中の粒子31の量が場所によって異なってしまうという課題があった。特に、被めっき物が大面積になるほど、被めっき物表面に均一な振動の制御をすることが難しいため、粒子31を均一に含有した大面積複合めっき製品(たとえば、直径100mm以上の電鋳ブレードやナノインプリント用金型)を製造することが困難であるという課題があった。特に、粒子31が凝集力の強いカーボンナノチューブの場合、超音波振動なしで均一な複合めっき被膜を形成することはできないため、大面積化ができないと課題があった。
【0008】
したがって,本発明の課題は、被めっき物に適切な超音波振動を加え,めっき浴中の粒子を均一に分散させ、前記粒子を均一に含有した複合めっき被膜を被めっき物上に形成する複合めっき処理方法および処理装置を確立すること、特に、めっき浴中の粒子の被めっき物近傍での再凝集、不均一を防ぎ、複合めっき被膜中に取り込まれる前記粒子の均一性を向上し得る複合めっき処理方法および処理装置を確立すること、特に、めっき浴中で強い凝集性を示すカーボンナノチューブなどの粒子を均一に含有した大面積複合めっき被膜を形成する複合めっき処理方法および処理装置を確立することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明においては、以下のような方法又は装置により、前記課題を解決し,カーボンナノチューブなどのフィラーやダイヤモンド砥粒などの粒子を均一に含有した、例えば直径100mm以上の均一な大面積複合めっきを必要とする電鋳ブレードやナノインプリント用金型を製造することを可能とした。
(1)粒子を分散させためっき浴中に浸漬した被めっき物上に、前記粒子を含む複合めっき被膜を形成する複合めっき処理方法において、被めっき物に2つ以上の振動モードの超音波振動を加えながら被めっき物上に複合めっき被膜を形成することを特徴とする複合めっき処理方法。
(2)前記振動体および前記被めっき物が板形状であり、前記振動モードが2つの縮退した同形のn次の定在波モードであり、その2つの振動モードを位相を変えて同時に励振することにより、被めっき物上に屈曲進行波を励振することを特徴とする請求項1記載の複合めっき処理方法。
(3)前記振動体および前記被めっき物が円板形状であり、前記2つの縮退した同形のn次の定在波モードが2つの縮退した同形の円周方向n次の定在波モードであり、前記屈曲進行波が前記被めっき物上の円周方向に励振することを特徴とする請求項1ないし2記載の複合めっき処理方法。
(4)前記振動モードが2つ以上の異形の定在波モードであり、前記定在波モードを逐次的に励振すること、もしくは前記定在波モードを互いの位相を変化させながら同時に励振することを特徴する請求項1に記載の複合めっき処理方法。
(5)前記粒子がカーボンナノチューブ又は硬質砥粒のいずれかを単独で含むかそれらを混合して含むものである請求項1ないし4記載の複合めっき処理方法。
(6)粒子を分散させためっき浴と、被めっき物を固定する振動体と、前記振動体に連結され、前記振動体に超音波振動を加振する複数の超音波振動源と、前記複数の超音波振動源の振動振幅、位相、周波数を制御・発振する超音波振動源制御装置とを有し、2つ以上の振動モードの超音波振動を被めっき物に励振できる複合めっき処理装置。
(7)前記複合めっき処理装置のうち、前記振動体および前記被めっき物が板形状であり、前記振動モードが2つの縮退した同形のn次の定在波モードであり、その2つの振動モードの位相を変えて同時に励振することにより、被めっき物上に屈曲進行波を励振することを特徴とする装置のうち、前記振動体の被めっき物と接する面の反対面が超音波振動源の固定面であり、前記屈曲進行波の進行方向にn等分したn個の領域のうち少なくとも1個の領域に超音波振動源が固定されており、前記超音波振動源制御装置によりn個の領域のうち隣り合う領域の変位振幅の位相差が180度になるように超音波振動源の各位相を制御し、被めっき物に1つ目のn次の定在波モードを励振する。さらに、進行波の進行方向にn等分したn個の領域を、進行方向に半個分ずらしたn個の領域のうち少なくとも1個の領域に超音波振動源が固定されており、前記超音波振動源制御装置によりn個の領域のうち隣り合う領域の変位振幅の位相差が180度になるように超音波振動源の各位相を制御し、被めっき物に2つ目のn次の定在波モードを励振する。この2つのn次の定在波モードを同時にかつ位相差が90度となるように前記超音波振動源制御装置により超音波振動源の各位相を制御することを特徴とする前記記載の複合めっき処理装置。
【発明の効果】
【0010】
発明の複合めっき処理方法および処理装置は以下の効果を有する。その効果を図1(a)、図1(b)を参照して説明する。
(1)粒子31を分散させためっき浴3に浸漬した被めっき物1上に、複合めっき被膜12を形成する複合めっき処理方法において、振動振幅、位相、周波数を制御できる複数の超音波振動源を具備した振動体4に被めっき物1を固定し、被めっき物1に超音波振動を励振し、さらにその超音波振動により被めっき物表面1e近傍に発生する超音波音場により粒子31の凝集体31を分散させ、粒子31をほぼ単分散の状態に維持し、電解めっきあるいは無電解めっきにより複合めっき被膜12を形成することにより、粒子31を均一に含有した複合めっき被膜12を得ることができる。このとき、図1(a)のように、被めっき物1表面に定在波の単一振動モードだけ励振された場合、振動の節1a,1bを移動できず、振動の不均一に起因する凝集体32が複合めっき被膜12に取り込まれるという課題がある。本発明では、2つ以上複数の振動モードを励振し、その2つ以上の振動モードの振幅、位相、周波数を制御することにより、振動の節1a,1bを時間的に変化させることができる。振動のほとんどない節の位置が固定されないため、被めっき物1の全面で超音波振動を励振でき、振動の不均一に起因する凝集体31の複合めっき被膜12へ取り込みを防ぐことができる。前記複合めっき処理は、めっき浴中に対極を配置し、対極と被めっき物との間に直流電解、直流パルス電解、PRパルス電解(周期的に極性が変化するパルスを用いる電解)のいずれかを印加する電解めっき処理、あるいは無電解めっき処理であってもよく、被めっき物が導電性物質であっても非導電性物質であっても広く応用できる。
(2)前記振動体および前記被めっき物が板形状であり、前記振動モードが2つの縮退した同形のn次の定在波モードであり、その2つの振動モードを、位相を変えて同時に励振することにより、被めっき物上に屈曲進行波を励振しながら複合めっき処理を行うことにより、振動の節1a,1bを被めっき物上に定在させることなく、A方向もしくはB方向に連続的に移動させて、局所的な振動の不均一を防ぐことができるため、均一で大面積複合めっき被膜を形成できる。被めっき物が、板形状の表面に微細パターンを形成した電鋳型である場合には、複合めっき被膜による大面積ナノインプリント用金型の作製に適用できる。
(3)前記振動体および前記被めっき物が円板形状であり、前記2つの縮退した同形のn次の定在波モードが2つの縮退した同形の円周方向n次の定在波モードであり、前記屈曲進行波が前記被めっき物上の円周方向に励振しながら、複合めっき処理を行うことにより、円形の被めっき物に効率よく、均一な複合めっき被膜を形成することができる。特に、外周部での振動を均一にできるため、円環型の複合めっき被膜となる電着ブレードなどの作製に、有効な手段となる。
(4)前記振動モードが2つ以上の異形の定在波モードであり、前記定在波モードを逐次的に励振すること、もしくは前記定在波モードを互いの位相を変化させながら同時に励振することにより、振動の節1a,1bを被めっき物上に定在させることなく、不規則に移動させて、局所的な振動の不均一を防ぐことができるため、均一で大面積複合めっき被膜を形成できる。
(5)前記粒子がカーボンナノチューブ等のフィラー又はダイヤモンド砥粒のような硬質砥粒を単独又は混合してものである複合めっきであり、超音波振動なしでは均一なめっき被膜を形成することが困難なカーボンナノチューブ複合めっきの大面積化が可能となる。さらにダイヤモンド砥粒の集中度を制御した電鋳ブレードの製造、さらにはカーボンナノチューブを複合し機能性を付与した電鋳ブレードの製造などに広く適用できる。
(6)粒子を分散させためっき浴と、被めっき物を固定する振動体と、前記振動体に連結され、前記振動体に超音波振動を加振する複数の超音波振動源と、前記複数の超音波振動源の振動振幅、位相、周波数を制御・発振する超音波振動源制御装置とを有し、2つ以上の振動モードの超音波振動を被めっき物に励振できる複合めっき処理装置により、前記(1)〜(5)の効果を有する複合めっき処理が可能となる。さらに、被めっき物に超音波振動を与える本装置では超音波振動源の数を増やすことにより、振動体の振動面のサイズをスケールアップできることから、大面積化のために詳細な設計が必要となるホーン型の超音波加振装置に比べて、安価なシステムでスケールアップが可能である。また、
めっき浴中に超音波加振用ホーンを使用しないので、前記ホーンによるめっき浴の汚染を防止できる。
(7)前記複合めっき処理装置のうち、前記振動体および前記被めっき物が板形状であり、前記振動モードが2つの縮退した同形のn次の定在波モードであり、その2つの振動モードを位相を変えて同時に励振することにより、被めっき物上に屈曲進行波を励振することを特徴とする装置のうち、前記振動体の被めっき物と接する面の反対面が超音波振動源の固定面であり、前記屈曲進行波の進行方向にn等分したn個の領域のうち少なくとも1個の領域に超音波振動源が固定されており、前記超音波振動源制御装置によりn個の領域のうち隣り合う領域の変位振幅の位相差が180度になるように超音波振動源の各位相を制御し、被めっき物に1つ目のn次の定在波モードを励振する。さらに、進行波の進行方向にn等分したn個の領域を、進行方向に半個分ずらしたn個の領域のうち少なくとも1個の領域に超音波振動源が固定されており、前記超音波振動源制御装置によりn個の領域のうち隣り合う領域の変位振幅の位相差が180度になるように超音波振動源の各位相を制御し、被めっき物に2つ目のn次の定在波モードを励振する。この2つのn次の定在波モードを同時にかつ位相差が90度となるように前記超音波振動源制御装置により超音波振動源の各位相を制御することを特徴とする前記複合めっき処理装置により、前記(1)〜(3)、(5)の効果を有する複合めっき処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
以下、図を参照して本発明を説明する。この図および説明は単なる一例に過ぎず、本発明の全般的な概念を制限するものではない。
【図1】図1(a)は、従来の公知の複合めっき処理方法における超音波振動の断面概略図を示している。図1(b)は、本発明の複合めっき処理方法における超音波振動の断面概略図を示している。
【図2】図2は、本発明に係る複合めっき処理装置の一例の断面概略図。
【図3】図3は、振動体が円形である場合における振動板に現れる超音波振動が進行波か、もしくは振動の節の位置が不規則に変化する場合の概念図を示している。
【図4】図4は、この発明による複合めっき方法により形成された被覆膜の表面性状の顕微鏡写真を振動がない場合(a)とある場合(b)に分けて示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図2において、複合めっき処理装置は、基台8上に固定されたベース7に固定載置された振動体4を有している。振動体4は例えばステンレスなどの金属の板であり、この振動体4に、円板形状の被めっき物1が固定されている。この実施例では、被めっき物1である板が振動部の外側でクランプすることで固定されている。この場合、振動体4は、被めっき物を固定した状態で、2つ以上の6次の定在波モードが励振できるように設計され、20〜100kHz程度の固有振動数となるように、その厚さが選定されている。振動体4の下面(被めっき物1を固定した面の反対面)に、この実施例では4個の超音波振動源5が取り付けてある。複数の超音波振動源5は、超音波振動源制御装置51に電気的に接続され、各超音波振動源5は、振幅、位相、周波数が制御されて励振され、振動体4を介して被めっき物表面に複数の振動モードの励振できるよう制御される。超音波振動源5の共振周波数は、前記振動体の共振周波数付近のものが選定されている。例えば、同形縮退型振動モードを2相駆動し、屈曲進行波を励振するためには、超音波振動源の取り付け位置は、円周方向に6分割した領域のうち、180度の位置に2つ、6分割した領域を1/2個分ずらした6分割した領域のうち、180度の位置に2つ、計4つの超音波振動源を設置する。このとき、超音波振動源4個は、90度の位置に取り付けられることとなり、隣り合う超音波振動源の各位相差は、±90度となり、向かい合う超音波振動源の各位相差は180度となる。また、振動体4には、超音波振動源の外側で、かつ被めっき物のめっき形成部よりも外側に、振動遮断溝41を配し、振動部を限定しており、超音波振動がベース7等に伝わりにくくしている。複合めっき処理を施す被めっき物1は、振動体の遮断溝41に囲まれた領域に対応する上面よりも外側において母材の周囲が固定されている。使用する超音波振動源5の個数は、4個に限定されず、ワークが大きくなれば増やすことができる。この実施例において、超音波振動源5は、ボルト締めランジュバン型振動子であり、ホーンを介して振動体に固定した。このほか、圧電セラミックス板を超音波振動源として直接振動体に貼り付けることも有効な手法である。
同じ構造の装置を用いて、2つ以上の異形の定在波モードであり、前記定在波モードを逐次的に励振すること、もしくは前記定在波モードを互いの位相を変化させながら同時に励振することにより、振動の節1a,1bを被めっき物上に定在させることなく、不規則に移動させて、局所的な振動の不均一を防ぐこともできる。
【0013】
めっき槽6は、振動体4と共に液漏れがないようベース7に固定されている。めっき槽6内のめっき浴3には、ダイヤモンド砥粒、タングステンカーバイド砥粒などの硬質砥粒とカーボンナノチューブなどのフィラー31が単独で又は硬質砥粒とフィラーが混合されて液中に分散されている。
複合めっき処理が電解めっき処理の場合は、めっき浴3を電解めっき浴とし、めっき浴3中には、対極2を浸漬させ、電源9に接続する。対極と被めっき物との間に直流電解、直流パルス電解、PRパルス電解のいずれかを印加する電解めっき処理を行う。
複合めっき処理が無電解めっき処理の場合は、めっき浴3を無電解めっき浴とし、図2に示された対極2と電源9は省略される。
【0014】
この実施例においては,被めっき物1の形状は、板形状であるが、立体形状のものであっても構わない。また、被めっき物1は、ナノインプリント用の電鋳型のように、めっき形成面に微細な凹凸が形成されたものであっても良い。めっき形成面は、矩形であっても,円形であっても構わない。めっき形成面に進行波が励振される場合、被めっき物が矩形板ならば進行波の方向は任意の被めっき物の任意の一辺に平行あるいは垂直方向が好ましい。被めっき物が円形板ならば進行波の方向は円中心を回転軸とした回転モードの進行波が好ましい。特に電鋳ブレードの形成においては、切れ刃となる円形外周部の均一性が重要であり、外周部で振動レベルを確保できるこの回転モードの利用が好ましい。
【0015】
図3この実施例においては、この回転モードについて述べる。
図3は、振動体4に現れたある瞬間の超音波振動の波形を表し、実線の形状は、めっき浴側に突き出た波形であり、点線は、反対側に突き出た波形である。この凸部および凹部は円の中心を回転軸として回転する。図3の場合は、同形縮退型振動モードを2相駆動したもので、4個の超音波振動源5をそれぞれ振幅の位相を時間的にも空間的にも90度ずらして、縮退した定在波を互いに位相を変えて同時に励振することにより定在波モードを回転させて、進行波を発生させている。進行波は、位相90度を進ませるか遅らせるかにより、その進行方向を矢印A又はB方向に変更できる。これとは別に、縮退している定在波の縮退を解き,元の共振周波数で励振して、進行波を得るように調整しても良い。また、図3の場合、位相のずらし方を90度以外に設定することで軸非対称な進行波、位相差を時間的に変化させることで、複数の定在波を時間的に変化させて励振することができる。
【0016】
図3に示されるように、超音波振動体4に、2モード以上の超音波振動を加振することにより、振動波形が回転し、超音波振動体4上に固定された、被めっき物1に同様の進行波が加振されるので、めっき浴中に放射され、被めっき物近傍の粒子の分散性を向上させることができる。
【0017】
図3の場合は、超音波振動源が4個の場合であるが、超音波振動源の増やしてもそれぞれの振幅の位相を時間的、空間的に制御することによって、同様な振動モードを励振できる。
【0018】
図4は、カーボンナノチューブ複合めっき被膜の表面性状を示す。図4(a)に示されるように、超音波振動が無い場合には、カーボンナノチューブの凝集体が取り込まれたノジュールが多数見られる。一方図4(b)に示されるように本発明の超音波振動を加えた場合には、ノジュールはほとんど見られない。この表面性状は、直径110mmのカーボンナノチューブ複合めっき被膜全面で同様であり、径方向に10点の表面粗さを測定したところ、本発明の超音波振動を加えた場合は、超音波振動がない場合は、表面粗さの平均値が小さく、ばらつきも少ないことが分かった。
【0019】
振動体4上には、複合めっき処理により、フィラーと砥粒が均一に分散されためっき被膜が得られる。電鋳ブレードを得る場合には、このめっき被膜を被めっき物から剥離して電鋳ブレードとすることができる。このようにして、直径が100mm以上、厚さが50ミクロン以下のブレードを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、産業ニーズの高い石英ガラス等の硬脆材料の高アスペクト比で精度の高い溝加工あるいは高精度な切断加工を行うことができる厚さ数十〜数百μmの薄型砥石・ダイシングブレードを製造するためのめっき方法およびめっき装置に関するものである。高性能・超薄型電着砥石が利用可能とされることで、超精密加工技術が向上し、より付加価値の高い生産が可能となる。また、薄型化により半導体産業などにおけるウェハの切断加工において、削り代を少なくし材料の無駄をなくすことができ、産業界の発展に寄与することが大いに期待できる。また、電鋳によるナノインプリント用金型作製にも応用が期待できる。
【符号の説明】
【0021】
1 被めっき物
1a 時刻aにおける節(振動しない箇所)
1b 時刻bにおける節(振動しない箇所)
1c 時刻aにおける振動を加えたときの被めっき物表面
1d 時刻bにおける振動を加えたときの被めっき物表面
1e 振動を加えないときの被めっき物表面
2 対極
3 めっき浴
31 フィラー、又は硬質砥粒又はそれらの混合粒子
4 振動体
41 振動遮断溝
5 超音波振動源
51 超音波振動源制御装置
6 めっき漕
7 ベース
8 基台
9 めっき電源
12 めっき被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を分散させためっき浴中に浸漬した被めっき物上に、前記粒子を含む複合めっき被膜を形成する複合めっき処理方法において、被めっき物に2つ以上の振動モードの超音波振動を加えながら被めっき物上に複合めっき被膜を形成することを特徴とする複合めっき処理方法。
【請求項2】
前記振動体および前記被めっき物が板形状であり、前記振動モードが2つの縮退した同形のn次の定在波モードであり、その2つの振動モードを、位相を変えて同時に励振することにより、被めっき物上に屈曲進行波を励振することを特徴とする請求項1記載の複合めっき処理方法。
【請求項3】
前記振動体および前記被めっき物が円板形状であり、前記2つの縮退した同形のn次の定在波モードが2つの縮退した同形の円周方向n次の定在波モードであり、前記屈曲進行波が前記被めっき物上の円周方向に励振することを特徴とする請求項1または2記載の複合めっき処理方法。
【請求項4】
前記振動モードが2つ以上の異形の定在波モードであり、前記定在波モードを逐次的に励振すること、もしくは前記定在波モードを互いの位相を変化させながら同時に励振することを特徴する請求項1に記載の複合めっき処理方法。
【請求項5】
前記粒子がカーボンナノチューブ又は硬質砥粒のいずれかを単独で含むかそれらを混合して含むものである請求項1ないし4の一つに記載の複合めっき処理方法。
【請求項6】
粒子を分散させためっき浴と、被めっき物を固定する振動体と、前記振動体に連結され、前記振動体に超音波振動を加振する複数の超音波振動源と、前記複数の超音波振動源の振動振幅、位相、周波数を制御・発振する超音波振動源制御装置とを有し、2つ以上の振動モードの超音波振動を被めっき物に励振できる複合めっき処理装置。
【請求項7】
前記複合めっき処理装置のうち、前記振動体および前記被めっき物が板形状であり、前記振動モードが2つの縮退した同形のn次の定在波モードであり、その2つの振動モードを、位相を変えて同時に励振することにより、被めっき物上に屈曲進行波を励振することを特徴とする装置であって、前記振動体の被めっき物と接する面の反対面が超音波振動源の固定面であり、前記屈曲進行波の進行方向にn等分したn個の領域のうち少なくとも1個の領域に超音波振動源が固定されており、前記超音波振動源制御装置によりn個の領域のうち隣り合う領域の変位振幅の位相差が180度になるように超音波振動源の各位相を制御し、被めっき物に1つ目のn次の定在波モードを励振し、さらに、進行波の進行方向にn等分したn個の領域を、進行方向に半個分ずらしたn個の領域のうち少なくとも1個の領域に超音波振動源が固定されており、前記超音波振動源制御装置によりn個の領域のうち隣り合う領域の変位振幅の位相差が180度になるように超音波振動源の各位相を制御し、被めっき物に2つ目のn次の定在波モードを励振し、この2つ目のn次の定在波モードを同時にかつ位相差が90度となるように前記超音波振動源制御装置により超音波振動源の各位相を制御することを特徴とする請求項6記載の複合めっき処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−77356(P2012−77356A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224136(P2010−224136)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(593022021)山形県 (34)
【Fターム(参考)】