説明

複合めっき材およびその製造方法

【課題】銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜が素材上に形成され、炭素粒子の含有量および表面の炭素粒子の量が多く、摩擦係数が低く且つ耐摩耗性に優れた複合めっき材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 酸化処理を行った炭素粒子と銀マトリックス配向調整剤とを添加した銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀マトリックスの配向を調整して、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合めっき材およびその製造方法に関し、特に、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜が素材上に形成され、スイッチやコネクタなどの摺動接点部品などの材料として使用される複合めっき材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチやコネクタなどの摺動接点部品などの材料として、摺動過程における加熱による銅や銅合金などの導体素材の酸化を防止するために、導体素材に銀めっきを施した銀めっき材が使用されている。
【0003】
しかし、銀めっきは、軟質で摩耗し易く、一般に摩擦係数が高いため、摺動により剥離し易いという問題がある。この問題を解消するため、黒鉛粒子を銀マトリックス中に分散させた複合材の皮膜を電気めっきにより導体素材上に形成して耐摩耗性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、黒鉛粒子の分散に適した湿潤剤が添加されためっき浴を使用することにより、黒鉛粒子を含む銀めっき皮膜を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、ゾル−ゲル法によって炭素粒子を金属酸化物などでコーティングして、銀と炭素粒子の複合めっき液中における炭素粒子の分散性を高め、めっき皮膜中に複合化する炭素粒子の量を増大する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平9−7445号公報(段落番号0005−0007)
【特許文献2】特表平5−505853号公報(第1−2頁)
【特許文献3】特開平3−253598号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1〜3の方法により製造された複合めっき材は、摩擦係数が比較的高く、耐摩耗性が比較的低いため、接点や端子の高寿命化に対応することができないという問題があり、特許文献1〜3の方法により製造された複合めっき材よりも炭素粒子の含有量や表面の炭素粒子の量を増大させて、さらに優れた耐摩耗性の複合めっき材を提供することが望まれている。
【0006】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜が素材上に形成され、炭素粒子の含有量および表面の炭素粒子の量が多く、摩擦係数が低く且つ耐摩耗性に優れた複合めっき材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、酸化処理を行った炭素粒子と銀マトリックス配向調整剤とを添加した銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜が素材上に形成され、炭素粒子の含有量および表面の炭素粒子の量が多く、摩擦係数が低く且つ耐摩耗性に優れた複合めっき材を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明による複合めっき材の製造方法は、酸化処理を行った炭素粒子と銀マトリックス配向調整剤とを添加した銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成することを特徴とする。この複合めっき材の製造方法において、銀マトリックス配向調整剤が、セレンイオンを含むのが好ましく、セレノシアン酸カリウムであるのがさらに好ましい。また、銀めっき液がシアン系銀めっき液であるのが好ましい。
【0009】
また、本発明による複合めっき材は、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜が素材上に形成され、この皮膜中の炭素粒子の含有量が1.3重量%以上であり、銀マトリックスが220面に配向していることを特徴とする。この複合めっき材において、皮膜中の表面の炭素粒子の量が20面積%以上であるのが好ましく、皮膜の厚さが2〜10μmであるのが好ましい。
【0010】
また、本発明による電気接点は、固定接点とこの固定接点上を摺動する可動接点とからなり、固定接点と可動接点の少なくとも一方の接点の少なくとも他方の接点と接触する部分が、上記の複合めっき材からなることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明による炭素粒子は、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成するための電気めっきに使用する銀めっき液に、銀マトリックス配向調整剤とともに添加される炭素粒子であって、酸化処理を行った炭素粒子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜が素材上に形成され、炭素粒子の含有量および表面の炭素粒子の量が多く、摩擦係数が低く且つ耐摩耗性に優れた複合めっき材を製造することができる。この複合めっき材は、スイッチやコネクタなどの摺動接点部品の高寿命化に十分に対応可能な材料として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明による複合めっき材の製造方法の実施の形態では、酸化処理を行った炭素粒子と銀マトリックス配向調整剤とを添加した銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成する。
【0014】
本発明による複合めっき材の製造方法の実施の形態では、炭素粒子を銀めっき液に添加する前に、酸化処理により炭素粒子の表面に吸着している親油性有機物を除去する。このような親油性有機物として、アルカンやアルケンなどの脂肪酸炭化水素や、アルキルベンゼンなどの芳香族炭化水素が含まれる。
【0015】
炭素粒子の酸化処理として、湿式酸化処理の他、Oガスなどによる乾式酸化処理を使用することができるが、量産性の観点から湿式酸化処理を使用するのが好ましく、湿式酸化処理によって表面積が大きい炭素粒子を均一に処理することができる。
【0016】
湿式酸化処理の方法としては、導電塩を含む水中に炭素粒子を懸濁させた後に陰極や陽極となる白金電極などを挿入して電気分解を行う方法や、炭素粒子を水中に懸濁させた後に適量の酸化剤を添加する方法などを使用することができるが、生産性を考慮すると後者の方法を使用するのが好ましく、水中に添加する炭素粒子の量を1〜20重量%にするのが好ましい。酸化剤としては、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸カリウム、過塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を使用することができる。炭素粒子に付着している親油性有機物は、添加された酸化剤により酸化されて水に溶けやすい形態になり、炭素粒子の表面から適宜除去されると考えられる。また、図1に示すように、この湿式酸化処理を行った後、ろ過を行い、さらに炭素粒子を水洗することにより、炭素粒子の表面から親油性有機物を除去する効果をさらに高めることができる。
【0017】
上記の酸化処理により炭素粒子の表面から脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素などの親油性有機物を除去することができ、300℃加熱ガスによる分析によれば、酸化処理後の炭素粒子を300℃で加熱して発生したガス中には、アルカンやアルケンなどの親油性脂肪族炭化水素や、アルキルベンゼンなどの親油性芳香族炭化水素が殆ど含まれてない。酸化処理後の炭素粒子中に脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素が若干含まれていても、炭素粒子を銀めっき液に分散させることができるが、炭素粒子中に分子量160以上の炭化水素が含まれず且つ炭素粒子中の分子量160未満の炭化水素の300℃加熱発生ガス強度(パージ・アンド・ガスクロマトグラフ質量分析強度)が5,000,000以下になるのが好ましい。炭素粒子中に分子量の大きな炭化水素が含まれると、炭素粒子の表面が強い親油性の炭化水素で被覆され、水溶液である銀めっき溶液中で炭素粒子が互い凝集し、めっき皮膜中に炭素粒子が複合化しなくなると考えられる。
【0018】
このような酸化処理により脂肪酸炭化水素と芳香族炭化水素を除去した炭素粒子を銀めっき液に懸濁させて電気めっきを行う際に、銀めっき液としてシアン系銀めっき液を使用するのが好ましい。従来の方法では、シアン系銀めっきを使用する場合には、界面活性剤を添加する必要があったが、本発明による複合めっき材の製造方法の実施の形態では、界面活性剤を添加しなくても銀めっき液中に炭素粒子が均一に分散した複合めっき液を得ることができるので、界面活性剤を添加する必要はない。なお、銀めっき液中の炭素粒子の濃度は40〜200g/Lであるのが好ましい。40g/L未満では、炭素粒子が複合化する量が著しく低下し、一方、200g/Lを超えると、銀めっき液の粘度が増大して撹拌が困難になるからである。
【0019】
また、シアン系銀めっき液を使用すると、炭素粒子の含有量および表面の炭素粒子の量が多いめっき皮膜を得ることができる。めっき皮膜中の炭素粒子の含有量が多くなるのは、銀めっき液に界面活性剤を添加しないことにより、銀めっき結晶の成長過程において界面活性剤が成長面に吸着しないので、銀マトリックス中に炭素粒子が取り込まれ易くなるためであると考えられる。また、めっき皮膜の表面の炭素粒子の量が多くなるのは、銀めっき液に界面活性剤を添加しないことにより、めっき後の水洗の際に、(洗剤が汚れを落とす働きと同様に)炭素粒子が表面から脱落または除去され難くなるためであると考えられる。
【0020】
このように炭素粒子を酸化処理した後に銀めっき液に添加することにより、分散剤などの添加物を使用することなく且つ炭素粒子の表面をコーティングすることなく、銀めっき液中に炭素粒子を良好に分散させることができ、この銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜が素材上に形成され、炭素粒子の含有量および表面の炭素粒子の量が多く、耐摩耗性に優れた複合めっき材を製造することができる。
【0021】
また、本発明による複合めっき材の製造方法の実施の形態では、酸化処理を行った炭素粒子に加えて、銀めっき液に銀マトリックス配向調整剤を添加する。この銀マトリックス配向調整剤は、セレン(Se)イオンを含むのが好ましく、セレノシアン酸カリウム(KSeCN)であるのがさらに好ましい。また、銀めっき液中の銀マトリックス配向調整剤の濃度を1〜48mg/Lにするのが好ましい。このような銀マトリックス配向調整剤を銀めっき液に添加すると、Seイオン濃度によって銀マトリックスの配向方向が著しく変化する。すなわち、従来の銀と黒鉛粒子の複合めっき材では、銀マトリックスが111面に配向しているが、銀マトリックス配向調整剤を銀めっき液に添加すると、銀マトリックスが220面に配向する。めっき皮膜は微細な結晶粒子からなり、その結晶粒子の成長方向によってその特性が大きく変化すると考えられ、複合化される炭素粒子の結晶方位と銀マトリックスの結晶粒子の配向が最適な場合に、摩擦や摺動に伴う銀マトリックスの変形が容易になり、炭素粒子の潤滑性と相まって摩擦係数が大幅に低下し、耐摩耗性が向上すると考えられる。
【0022】
銀マトリックスが220面に配向した銀と炭素粒子の複合めっき皮膜は、界面活性剤を添加することなく炭素粒子が分散した銀めっき液にSeイオンを添加することにより形成されると考えられる。すなわち、従来の銀層中に黒鉛粒子が複合化した複合めっき皮膜では、炭素粒子を十分に分散させるために銀めっき液に界面活性剤を添加しているが、界面活性剤が複合めっき皮膜にも吸着されることにより、銀マトリックスの成長方向に影響を及ぼすため、銀マトリックスが220面に配向した複合めっき皮膜を得るのが難しいと考えられる。
【0023】
このように銀マトリックスが220面に配向した複合めっき皮膜を形成することにより、さらに摩擦係数が低い複合めっき皮膜を形成することができる。すなわち、従来のように界面活性剤を添加した銀めっき液を使用した場合には、銀マトリックスが220面に配向した複合めっき皮膜を得ることができないので、本発明による複合めっき材の実施の形態と比べて摩擦係数が高くなり、耐摩耗性も悪くなる。
【0024】
上述した本発明による複合めっき材の製造方法の実施の形態により、銀層中に1.3重量%以上、好ましくは1.5〜2.2重量%の炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜が素材上に形成され、表面の炭素粒子の量(炭素粒子による被覆率)が10面積%以上、好ましくは20面積%以上であり、銀マトリックスが220面に配向している複合めっき材を製造することができる。なお、複合めっき皮膜中の炭素粒子の含有量が多いほど複合めっき材の耐摩耗性が向上するが、上述した複合めっき材の製造方法の実施の形態により製造された複合めっき材では、皮膜中の炭素粒子の含有量を1.3重量%以上、好ましくは1.5〜2.2重量%にすることができ、また、従来の銀と黒鉛の複合めっき材では5%程度であった皮膜の表面の炭素粒子の量を10面積%以上、好ましくは20面積%以上にすることができるので、耐摩耗性に優れた複合めっき材を得ることができる。また、銀マトリックスが220面に配向しているので、炭素粒子の潤滑性と相まって摩擦係数が大幅に低下し且つ耐摩耗性に優れた複合めっき材を得ることができる。
【0025】
また、複合めっき皮膜の厚さは2〜10μmであるのが好ましい。複合めっき皮膜の厚さが2μm未満では耐摩耗性が不十分であり、一方、10μmを越えると生産効率が悪くなる。
【0026】
また、図2に示すように、固定接点10とこの固定接点10上を矢印Aの方向に摺動する可動接点12とからなる電気接点において、固定接点10と可動接点12の少なくとも一方の接点を本発明による複合めっき材により形成すれば、耐磨耗性に優れた電気接点を提供することができる。この場合、固定接点10と可動接点12の少なくとも一方の接点の他方の接点と接触する部分のみを本発明による複合めっき材により形成してもよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明による複合めっき材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0028】
[実施例1〜3]
炭素粒子として平均粒径5μmの鱗片状黒鉛粒子(エスイーシー社製のカーボンSN−5)6重量%を3Lの純水中に添加し、この混合溶液を攪拌しながら50℃に昇温させた。次に、この混合溶液に酸化剤として0.1モル/Lの過硫酸カリウム水溶液1.2Lを徐々に滴下した後、2時間攪拌して酸化処理を行い、その後、ろ紙によりろ別を行ない、水洗を行った。
【0029】
この酸化処理の前後の炭素粒子について、パージ・アンド・ガスクロマトグラフ質量分析装置(日本分析工業JHS−100)(島津製作所製のGCMAS QP−5050A)を使用して、表1に示すパージ・アンド・トラップ条件および表2に示すCGMS分析条件で、300℃加熱発生ガスの分析を行った。その結果を表3に示すとともに、酸化処理前の炭素粒子の分析結果を図3、酸化処理後の炭素粒子の分析結果を図4に示す。表3、図3および図4からわかるように、上記の酸化処理により、炭素粒子に付着していたノナン、デカン、3−メチル−2−ヘプテンなどの親油性脂肪族炭化水素や、キシレンなどの親油性芳香族炭化水素が除去されているのがわかる。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
次に、上記の酸化処理を行った炭素粒子80g/Lを120g/Lのシアン銀カリウムと100g/Lのシアン化カリウムとからなるシアン銀めっき液中に添加して分散および懸濁させた後、銀マトリックス配向調整剤として、それぞれ4mg/L(実施例1)、8mg/L(実施例2)、48mg/L(実施例3)のシアノセレン酸カリウム(KSeCN)を添加することにより、銀と炭素粒子の複合めっき液を作製した。これらの複合めっき液を使用して、それぞれ液温25℃、電流密度1A/dmで電気めっきを行い、素材としての厚さ0.3mmの銅板上に膜厚5μmの銀と炭素粒子の複合めっき皮膜が形成された複合めっき材を作製した。なお、めっき膜の密着性を向上させるために、下地めっきとして、3g/Lのシアン銀カリウムと100g/Lのシアン化カリウムとからなる組成のAgストライクめっき浴中において、液温25℃、電流密度3A/dmでAgストライクめっきを行った。
【0034】
得られた複合めっき材(素材を含む)から切り出した試料をAgおよびCの分析用にそれぞれ用意し、試料中のAgの含有量(X重量%)をICP装置(ジャーレル・アッシュ社製のIRIS/AR)を用いてプラズマ分光分析法によって求めるとともに、試料中のCの含有量(Y重量%)を微量炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製のEMIA−U510)を用いて赤外線吸収法によって求め、めっき皮膜中のCの含有量をY/(X+Y)として算出したところ、めっき皮膜中のCの含有量は2.0〜2.2重量%であった。また、めっき皮膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、めっき皮膜は、銀層中に黒鉛粒子が分散した複合材からなることが確認された。
【0035】
また、得られた複合めっき材から切り出した試験片の表面を表面観察することにより、めっき皮膜の表面の炭素粒子の量(面積%)を算出した。このめっき皮膜の表面の炭素粒子の量は、試験片の表面を超深度形状顕微鏡(キーエンス社製のVK−8500)により対物レンズ倍率100倍で超深度画像として撮影した画像を、PC上で画像解析アプリケーション(SCION CORPORATION社製のSCION IMAGE)を使用して、白黒で取り込んで階調を二値化し、銀の部分と炭素粒子の部分に分離して、画像全体のピクセル数Xに対する炭素粒子の部分のピクセル数Yの比Y/Xとして算出した。その結果、実施例1〜3では、めっき皮膜の表面の炭素粒子の量は、30〜40面積%であった。
【0036】
また、得られた複合めっき材から切り出した試験片の銀マトリックスの配向の評価を行った。 銀マトリックスの配向は、X線回折装置(XRD)(リガク社製のRAF−rB)を使用して、X線回折ピークを測定し、銀マトリックスの最も強いピークの面方位を、めっき皮膜の結晶の配向の方向として評価した。尚、管球としてCu−Kαを使用し、50kV、100mAで測定した。また、シンチレーションカウンターと、広角ゴニオメーターと、湾曲結晶モノクロメーターを使用し、走査範囲2θ/θを10〜90°、ステップ幅を0.05°、走査モードをFT、サンプリング時間を1.00秒とした。その結果、実施例1〜3では、銀マトリックスは220面に配向していた。
【0037】
また、めっき液として120g/Lのシアン銀カリウムと100g/Lのシアン化カリウムからなる浴組成のシアン系銀めっき浴を使用して厚さ0.3mmの銅板上に厚さ5μmの銀めっき皮膜を形成した銀めっき材を作製し、この銀めっき材と複合めっき材との間の摩擦係数を求めた。この摩擦係数(μ)は、得られた複合めっき材から切り出した試験片をインデント加工(R3mm)して凸形状の圧子とするとともに、作製した平板状の銀めっき材をベース側の評価試料とし、ロードセルを使用して、圧子を加重3Nで評価試料の表面に押し付けながら移動速度60mm/分で滑らせ、水平方向にかかる力(F)を測定し、μ=F/Nから算出した。その結果、実施例1〜3では、摩擦係数は、0.29〜0.33であった。
【0038】
また、得られた複合めっき材から切り出した2つの試験片の一方をインデント加工(R3mm)して圧子とするとともに、他方を評価試料とし、圧子を一定の荷重(0.5N)で評価試料に押し当てながら、素材が露出するまで往復摺動動作(摺動距離14mm、摺動速度2Hz)を続けて、複合めっき材の摩耗状態を確認することにより、耐摩耗性の評価を行った。その結果、実施例1〜3では、50万回以上の往復摺動動作後でも素材が露出することはなかった。
【0039】
[実施例4、5]
電気めっきの際の液温をそれぞれ20℃(実施例4)、30℃(実施例5)とした以外は、
実施例1と同様の方法により、複合めっき材を作製した。得られた複合めっき材について、実施例1〜3と同様の方法により、めっき皮膜中の炭素粒子の含有量、めっき皮膜の表面の炭素粒子の量(面積%)および摩擦係数を算出し、銀マトリックスの配向および耐摩耗性の評価を行った。その結果、実施例4および5では、それぞれ炭素粒子の含有量が1.6重量%および1.8重量%、表面の炭素粒子の量が30面積%および28面積%、摩擦係数は0.32および0.33であり、銀マトリックスが220面に配向していた。また、50万回以上の往復摺動動作後でも素材が露出することはなかった。
【0040】
[比較例1]
めっき液中に銀マトリックス配向調整剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法により、複合めっき材を作製した。得られた複合めっき材について、実施例1〜3と同様の方法により、めっき皮膜中の炭素粒子の含有量、めっき皮膜の表面の炭素粒子の量(面積%)および摩擦係数を算出し、銀マトリックスの配向および耐摩耗性の評価を行った。その結果、炭素粒子の含有量が0.8重量%、表面の炭素粒子の量が25面積%、摩擦係数が0.41であり、銀マトリックスが111面に配向していた。また、4万回以下の往復摺動動作で素材が露出した。
【0041】
[比較例2]
炭素粒子の酸化処理を行わなかった以外は、比較例1と同様の方法により、複合めっき材を作製した。得られた複合めっき材について、実施例1〜3と同様の方法により、めっき皮膜中の炭素粒子の含有量、めっき皮膜の表面の炭素粒子の量(面積%)および摩擦係数を算出し、銀マトリックスの配向および耐摩耗性の評価を行った。その結果、炭素粒子の含有量が0重量%、表面の炭素粒子の量が0面積%であり、炭素粒子の複合化が認められなかった。また、摩擦係数が1.23であり、実施例1〜3と比べて非常に高い値であった。また、銀マトリックスが111面に配向し、5千回以下の往復摺動動作で素材が露出した。
【0042】
なお、表3および図3に示す300℃加熱発生ガスの分析結果から、本比較例のように酸化処理を行わなかった場合には、親油性脂肪族炭化水素および親油性芳香族炭化水素を示すピークが多数みられ、黒鉛粒子に親油性脂肪族炭化水素および親油性芳香族炭化水素に付着しているのがわかる。また、本比較例のように酸化処理を行わなかった黒鉛粒子は、めっき液中で凝集して均一に懸濁させることができなかった。
【0043】
[比較例3]
界面活性剤として炭素粒子の分散効果が高いドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムをめっき液に添加した以外は、比較例2と同様の方法により、複合めっき材を作製した。得られた複合めっき材について、実施例1〜3と同様の方法により、めっき皮膜中の炭素粒子の含有量、めっき皮膜の表面の炭素粒子の量(面積%)および摩擦係数を算出し、銀マトリックスの配向および耐摩耗性の評価を行った。その結果、炭素粒子の含有量が1.1重量%、表面の炭素粒子の量が5面積%であり、実施例1〜3と比べて少なかった。また、摩擦係数が0.50であり、実施例1〜3と比べて高い値であった。また、銀マトリックスが111面に配向し、4万回以下の往復摺動動作で素材が露出した。
【0044】
実施例1〜5および比較例1〜3の結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による複合めっき材の製造方法の実施の形態において炭素粒子の酸化処理工程を示す図である。
【図2】本発明による複合めっき材を使用した電気接点を説明する概略図である。
【図3】酸化処理前の炭素粒子の300℃加熱発生ガスの分析結果を示す図である。
【図4】酸化処理後の炭素粒子の300℃加熱発生ガスの分析結果を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
10 固定接点
12 可動接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化処理を行った炭素粒子と銀マトリックス配向調整剤とを添加した銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成することを特徴とする、複合めっき材の製造方法。
【請求項2】
前記銀マトリックス配向調整剤がセレンイオンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項3】
前記銀マトリックス配向調整剤がセレノシアン酸カリウムであることを特徴とする、請求項1に記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項4】
前記銀めっき液がシアン系銀めっき液であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項5】
銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜が素材上に形成され、この皮膜中の炭素粒子の含有量が1.3重量%以上であり、銀マトリックスが220面に配向していることを特徴とする、複合めっき材。
【請求項6】
前記皮膜中の表面の炭素粒子の量が20面積%以上であることを特徴とする、請求項5に記載の複合めっき材。
【請求項7】
前記皮膜の厚さが2〜10μmであることを特徴とする、請求項5または6に記載の複合めっき材。
【請求項8】
固定接点とこの固定接点上を摺動する可動接点とからなり、固定接点と可動接点の少なくとも一方の接点の少なくとも他方の接点と接触する部分が、請求項5乃至7のいずれかの複合めっき材からなることを特徴とする、電気接点。
【請求項9】
銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成するための電気めっきに使用する銀めっき液に、銀マトリックス配向調整剤とともに添加される炭素粒子であって、酸化処理を行った炭素粒子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−16250(P2007−16250A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195678(P2005−195678)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】