説明

複合ガラス

【課題】部品点数や重量を増加させることなく、複合ガラスの熱変形に起因する無機ガラスの破損を効果的に抑制することができ、無機ガラスと有機ガラスを接着する接着層に発生し得る剪断応力を効果的に低減して無機ガラスと接着層の剥離を抑制することができ、軽量であって耐久性に優れた複合ガラスを提供する。
【解決手段】その一方面1Aが車両の車室内側へ向けて配置される有機ガラス1と、接着層2を介して有機ガラス1の他方面1Bに接着される無機ガラス3と、からなり、無機ガラス3は、複数の無機ガラスの分割体3a〜3eから構成されており、複数の無機ガラスの分割体3a〜3eは、有機ガラス1の他方面1B側で相互に隙間Sをあけて配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合ガラスに関し、たとえば自動車や電車などの車両に用いられる複合ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、たとえば自動車や電車などの車両の窓には珪酸を主成分とする無機ガラスが使用されている。
【0003】
ところで、現在、自動車産業においては、環境影響負荷を低減できる車両としてハイブリッド自動車や電気自動車が注目されており、その一層の小型化、軽量化、高性能化を目指した開発が自動車メーカー各社、自動車関連メーカー各社で日々進められている。
【0004】
その開発技術の一つは、上記する無機ガラスに代えてたとえばポリカーボネート(PC)などの樹脂材料を車両の窓に適用する技術である。このような樹脂材料からなる窓用ガラスは有機ガラスと称されており、この有機ガラスは無機ガラスと比較して軽量であることから、たとえば自動車のリアウィンドなどに有機ガラスを適用することによって、車両全体の重量を格段に低減することができる。
【0005】
一方で、有機ガラスの表面は柔らかくて傷つき易く、使用期間が長くなれば車両内部の乗員による外部環境の視認性が低下してしまうことが知られている。そこで、有機ガラスを窓用ガラスとして使用する際には、その車外側の表面に薄板状の無機ガラスを貼り合わせ、窓用ガラス表面の耐傷付性や耐摩耗性を向上させている。
【0006】
しかしながら、樹脂材料を主成分とする有機ガラスと珪酸を主成分とする無機ガラスでは線膨張係数が大きく相違している。たとえば、無機(硬質)ガラスの線膨張係数は9.0〜9.5ppm/Kであるのに対し、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂の線膨張係数は68ppm/K程度である。そのため、外部環境等によって有機ガラスと無機ガラスが膨張若しくは収縮する際には、双方を貼り合わせるために使用される接着層に大きな剪断応力が作用して接着層が剥離したり、薄板状の無機ガラスが破損する可能性がある。
【0007】
上記する問題に対して、異なる線膨張係数を備えた複数のガラス板を使用する際にその反りによる変形や剥離を抑制することを目的とした複合ガラスが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−138051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されている複合ガラス(合わせガラス)によれば、異なる線膨張係数を有する2枚のガラス板を樹脂中間層を介して貼り合わせるとともに、この樹脂中間層を樹脂フィルムと当該樹脂フィルムの両側に被覆された粘着剤の層から形成することによって、ガラス板の反りによる変形や剥離を抑制することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されている複合ガラスにおいては、その内部構成が複雑であるため、部品点数が増加して重量が嵩み、製造コストが高騰するという課題がある。また、たとえば自動車のリアウィンドのような大きな面積の窓に適用する場合には、2枚のガラス板の変形量や反り量の差が大きくなり、十分に変形量差などやこれに起因する剥離を抑制することができないという課題がある。
【0011】
本発明は、上記する課題に鑑みてなされたものであり、部品点数や重量を増加させることなく、無機ガラスと有機ガラスを接着する接着層に発生し得る剪断応力を低減し、熱伸縮による接着層の剥離や無機ガラスの破損などを抑制しながら、車両の軽量化を実現することのできる複合ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明の複合ガラスは、その一方面が車両の車室内側へ向けて配置される有機ガラスと、接着層を介して該有機ガラスの他方面に接着される無機ガラスと、からなる複合ガラスであって、前記無機ガラスは、複数の無機ガラスの分割体から構成されており、該複数の無機ガラスの分割体は、前記有機ガラスの他方面側で相互に隙間をあけて配置されているものである。
【0013】
ここで、無機ガラスとは、珪酸を主成分とするガラスであり、有機ガラスとは、たとえばポリカーボネート(PC)樹脂やアクリル樹脂などの樹脂材料を主成分とするガラスである。また、接着層で使用される接着剤としては、アクリル系やシリコン系、ウレタン系、エポキシ系等の接着剤が好適であり、必要に応じて紫外線吸収材を添加してもよい。
【0014】
上記する形態によれば、有機ガラスの他方面に接着される無機ガラスを複数の無機ガラスの分割体から構成し、この複数の無機ガラスの分割体を有機ガラスの他方面側で相互に隙間をあけて配置することで、たとえば一枚の無機ガラスを有機ガラスの他方面に貼り合わせる場合と比較して、無機ガラスと有機ガラスの線膨張係数の差に起因する無機ガラスの内部応力や、無機ガラスと有機ガラスを接着する接着層に発生し得る剪断応力を効果的に低減することができる。したがって、薄板状の無機ガラスの熱伸縮による破損や接着層の剥離などを効果的に抑制することができ、車両の窓用ガラスの重量を格段に低減することができる。
【0015】
なお、前記複数の無機ガラスの分割体は、複合ガラスの形状やその適用箇所などに応じて、前記複合ガラスの長手方向に対して水平方向または垂直方向に相互に隙間をあけて配置することができる。
【0016】
また、前記複数の無機ガラスの分割体同士の隙間にデフォッガー線が配置されているのが好ましい。
【0017】
上記する形態によれば、たとえば上記複合ガラスが自動車のリアウィンドに適用される場合にそのデフォッガー線によってリアウィンドの結露や凍結を取り除くことができるため、乗員による外部環境の視認性を高めることができるとともに、有機ガラスの他方面に貼り付けられた無機ガラスの分割体同士の隙間を目立たなくすることができるため、車両の意匠性を効果的に高めることができる。さらに、無機ガラスの分割体同士の隙間に対する異物の混入を防止することができるため、複合ガラスの車外側表面の汚れを抑制することができる。
【0018】
また、前記複数の無機ガラスの分割体同士の隙間に対応する前記有機ガラスの前記一方面にデフォッガー線を配置してもよい。
【0019】
上記する形態によれば、そのデフォッガー線によってウィンドの結露や凍結を取り除くことができ、有機ガラスの他方面に貼り付けられた無機ガラスの分割体同士の隙間を目立たなくすることができるとともに、複合ガラスに対するデフォッガー線の配置作業を容易にすることができ、複合ガラスの製造工程を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から理解できるように、本発明の複合ガラスによれば、部品点数や重量を増加させることなく、複合ガラスの熱変形に起因する無機ガラスの破損を効果的に抑制することができるとともに、無機ガラスと有機ガラスを接着する接着層に発生し得る剪断応力を効果的に低減して無機ガラスと接着層の剥離を抑制することができ、軽量であって耐久性に優れた複合ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る複合ガラスの実施の形態1を適用したリアウィンドを模式的に示した図である。
【図2】図1で示すリアウィンドの縦断面図である。
【図3】本発明に係る複合ガラスの実施の形態2を示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態1、2を説明する。
【0023】
[実施の形態1]
図1は、本発明に係る複合ガラスの実施の形態1を適用したリアウィンドを模式的に示した図であり、図2は、図1で示すリアウィンド10の複合ガラス5の縦断面図の一部を拡大して示したものである。以下、本発明に係る複合ガラスの実施の形態1をリアウィンドに適用した場合について説明するが、車両の他の窓に適用可能であることは勿論のことである。
【0024】
図1で示すリアウィンド10は略台形を呈する複合ガラス5から構成されている。この複合ガラス5は、主として有機ガラス1から構成されており、その有機ガラス1の車外側の表面に、硬質の無機ガラス3とデフォッガー線4が有機ガラス1の曲面に沿って配置されている。ここで、無機ガラス3は複数の無機ガラスの分割体3a〜3eから構成されており、各分割体3a〜3eは所定の隙間S(図2参照)を介して配置されており、この隙間Sにデフォッガー線4が配設されている。なお、本実施の形態1においては、各分割体3a〜3eが複合ガラス5の長手方向Xに対して略水平方向に隙間Sをあけて配置されており、デフォッガー線4が複合ガラス5の長手方向Xに対して略水平方向に4本配設されている。
【0025】
図示する各デフォッガー線4の一方の端部は一つに束ねられて直流電源(不図示)と接続されており、その直流電源により電圧を印加することによって発熱させ、車両内部と外部環境の温度差などに起因する複合ガラス5の結露や凍結を取り除くことができる。
【0026】
なお、図示する無機ガラス3は、デフォッガー線4が配設される箇所を除いてリアウィンド10の車外側の表面を略全面に亘って覆うものであり、無機ガラスの分割体3a〜3eは、デフォッガー線4が配設される箇所で無機ガラス3を分割して構成したものであり、このように有機ガラス1の他方面1Bの略全面に接着層2を介して薄板状の無機ガラスの分割体3a〜3eが貼り付けられることで、有機ガラス1の車外側の表面の傷付きが防止されるようになっている。
【0027】
図2で示すように、無機ガラス3が所定の隙間Sをあけて配置される複数の無機ガラスの分割体3a〜3eから構成されることで、有機ガラス1と無機ガラス3の線膨張係数の差が大きい場合であっても、有機ガラス1と無機ガラス3の熱変形(膨張もしくは収縮)の際に無機ガラス3にて発生し得る内部応力を緩和することができ、無機ガラス3の破損を効果的に防止することができる。
【0028】
また、デフォッガー線4が複数の無機ガラスの分割体3a〜3eの隙間Sに配置されていることによって、無機ガラス3を複数の無機ガラスの分割体3a〜3eで構成した場合であっても、薄板状の無機ガラスの分割体3a〜3e同士の隙間Sを外観上で目立たなくすることができ、複合ガラス5が適用される車両の意匠性を向上させることができる。
【0029】
[実施の形態2]
図3は、本発明に係る複合ガラスの実施の形態2を示した縦断面図の一部を拡大して示したものである。実施の形態2の複合ガラス15は、実施の形態1の複合ガラス5に対してデフォッガー線の配置が相違しており、その他の構成はほぼ同様である。したがって、実施の形態1の複合ガラス5と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。
【0030】
図3で示すように、複合ガラス15は、主として有機ガラス11から構成されており、有機ガラス11の他方面11Bに、接着層12を介して薄板状の無機ガラスの分割体13a〜3cからなる無機ガラス13が貼り付けられている。ここで、無機ガラスの分割体13a〜13cは、実施の形態1の複合ガラス5と同様、有機ガラス11の他方面11B側で相互に隙間Sをあけて配置されている。
【0031】
本実施の形態2の複合ガラス15においては、複合ガラス15の車室内側の一方面11Aにデフォッガー線14が配置されている。より具体的には、有機ガラス11の厚み方向の反対側であって、複数の無機ガラスの分割体13a〜13c同士の隙間Sに対応する有機ガラス11の一方面11Aの領域Tに各デフォッガー線14が配置されている。これにより、実施の形態1の複合ガラス5と同様、無機ガラス13を複数の無機ガラスの分割体13a〜13cで構成した場合であっても、その無機ガラスの分割体13a〜13cの隙間Sを外観上で目立たなくすることができ、複合ガラス15が適用される車両の意匠性を向上させることができる。また、無機ガラスの分割体13a〜13c同士の隙間Sにデフォッガー線14を配設する場合と比較してデフォッガー線14の配置作業が容易となり、複合ガラス15の製造工程を簡略化することができる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0033】
1,11…有機ガラス、2,12…接着層、3,13…無機ガラス、3a〜3e,13a〜13c…無機ガラスの分割体、4,14…デフォッガー線、5,15…複合ガラス、10…リアウィンド、S…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その一方面が車両の車室内側へ向けて配置される有機ガラスと、接着層を介して該有機ガラスの他方面に接着される無機ガラスと、からなる複合ガラスであって、
前記無機ガラスは、複数の無機ガラスの分割体から構成されており、該複数の無機ガラスの分割体は、前記有機ガラスの他方面側で相互に隙間をあけて配置されている複合ガラス。
【請求項2】
前記複数の無機ガラスの分割体は、前記複合ガラスの長手方向に対して水平方向または垂直方向に相互に隙間をあけて配置されている請求項1に記載の複合ガラス。
【請求項3】
前記複数の無機ガラスの分割体同士の隙間にデフォッガー線が配置されている請求項1または2に記載の複合ガラス。
【請求項4】
前記複数の無機ガラスの分割体同士の隙間に対応する前記有機ガラスの前記一方面にデフォッガー線が配置されている請求項1または2に記載の複合ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−95222(P2013−95222A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238382(P2011−238382)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】