説明

複合ゴム系グラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物および樹脂成形体

【課題】流動性に優れた複合ゴム系グラフト共重合体を提供する。
【解決手段】下記(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分および下記(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分を下記に示す量で含有する(a)複合ゴム成分50質量%以上90質量%以下と、下記(b−1)芳香族アルケニル化合物および下記(b−2)シアン化ビニル化合物を下記に示す量で含有する(b)グラフト成分10質量%以上50質量%以下と、を含有する複合ゴム系グラフト共重合体。
(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分:20質量%以上80質量%以下
(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分:20質量%以上80質量%以下
(b−1)芳香族アルケニル化合物:60質量%以上80質量%以下
(b−2)シアン化ビニル化合物:20質量%以上40質量%以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ゴム系グラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物および樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成型体の形成に用いられる熱可塑性樹脂組成物としては、種々のものが提供されている。
例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)50質量部以上99質量部以下、および赤外線吸収スペクトル測定にて3200cm−1以上3400cm−1以下に脂肪酸アミド由来の吸収ピークを示さず且つゴム成分量が5質量%以上80質量%以下であるジエン系ゴム成分に、シアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物をグラフトした熱可塑性グラフト共重合体(B成分)1質量部以上50質量部以下の合計100質量部に対し、有機リン酸系難燃剤(C成分)1質量部以上30質量部以下および含フッ素滴下防止剤(D成分)0.05質量部以上2質量部以下を含む難燃性の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)20質量部以上99質量部以下およびゴム変性樹脂(B成分)1質量部以上80質量部以下の合計100質量部、並びに難燃剤(C成分)0.001質量部以上30質量部以下および流動改質剤(D成分)0.05質量部以上30質量部以下からなる難燃性の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、該ゴム変性樹脂(B成分)は、ゴム質重合体であるか、またはゴム質重合体とD成分以外のスチレン系硬質重合体との組み合わせであり、該流動改質剤(D成分)は、特定式で表わされる(メタ)アクリル酸エステル単量体(Da)並びに芳香族アルケニル化合物単量体(Db)から形成される単位を主たる構成単位とする共重合体である難燃性の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
更に、ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとを含有する複合ゴム粒子を含むラテックスに、一種または二種以上のビニル系単量体を添加してグラフト重合させることにより得られたグラフト共重合体ラテックスから回収されるシリコーン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体であって、前記グラフト共重合体中のポリオルガノシロキサンの含有量が15質量%以上70質量%以下、前記グラフト共重合体中の複合ゴムの含有量が75質量%以上90質量%以下であって、鉄の仕込み量が、前記グラフト共重合体ラテックス中0.0001ppm以上2ppm以下であるシリコーン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体が提供されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−269821号公報
【特許文献2】特開2006−257126号公報
【特許文献3】特開2004−346271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分および(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分を前記に示す量で含有する(a)複合ゴム成分50質量%以上90質量%以下と、(b−1)芳香族アルケニル化合物および(b−2)シアン化ビニル化合物を前記に示す量で含有する(b)グラフト成分10質量%以上50質量%以下と、を含有しない場合に比べ、流動性に優れた複合ゴム系グラフト共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の本発明によって達成される。
即ち、請求項1に係る発明は、
下記(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分および下記(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分を下記に示す量で含有する(a)複合ゴム成分50質量%以上90質量%以下と、
下記(b−1)芳香族アルケニル化合物および下記(b−2)シアン化ビニル化合物を下記に示す量で含有する(b)グラフト成分10質量%以上50質量%以下と、
を含有する複合ゴム系グラフト共重合体である。
(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分:20質量%以上80質量%以下
(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分:20質量%以上80質量%以下
(b−1)芳香族アルケニル化合物:60質量%以上80質量%以下
(b−2)シアン化ビニル化合物:20質量%以上40質量%以下
【0008】
請求項2に係る発明は、
前記(b−1)芳香族アルケニル化合物がスチレンであり、且つ前記(b−2)シアン化ビニル化合物がアクリロニトリルである請求項1に記載の複合ゴム系グラフト共重合体である。
【0009】
請求項3に係る発明は、
熱可塑性樹脂と、
請求項1または請求項2に記載の複合ゴム系グラフト共重合体と、
を含有する熱可塑性樹脂組成物である。
【0010】
請求項4に係る発明は、
前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート系樹脂である請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物である。
【0011】
請求項5に係る発明は、
請求項3または請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物を含む樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分および(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分を前記に示す量で含有する(a)複合ゴム成分50質量%以上90質量%以下と、(b−1)芳香族アルケニル化合物および(b−2)シアン化ビニル化合物を前記に示す量で含有する(b)グラフト成分10質量%以上50質量%以下と、を含有しない場合に比べ、流動性に優れた複合ゴム系グラフト共重合体が提供される。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、(b−1)芳香族アルケニル化合物がスチレンでない、または(b−2)シアン化ビニル化合物がアクリロニトリルでない場合に比べ、耐ケミカルクラック性に優れる複合ゴム系グラフト共重合体が提供される。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、流動性に優れた熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、流動性に優れた熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、成形性に優れた樹脂成型体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る樹脂成形体を備える電子・電気機器の部品の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の複合ゴム系グラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物および樹脂成形体の望ましい実施形態について説明する。
≪複合ゴム系グラフト共重合体≫
本実施形態に係る複合ゴム系グラフト共重合体(以下、単に「グラフト共重合体」と称す場合がある)は、下記(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分および下記(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分を下記に示す量で含有する(a)複合ゴム成分50質量%以上90質量%以下と、下記(b−1)芳香族アルケニル化合物および下記(b−2)シアン化ビニル化合物を下記に示す量で含有する(b)グラフト成分10質量%以上50質量%以下と、を含有する。
(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分:20質量%以上80質量%以下
(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分:20質量%以上80質量%以下
(b−1)芳香族アルケニル化合物:60質量%以上80質量%以下
(b−2)シアン化ビニル化合物:20質量%以上40質量%以下
【0019】
本実施形態に係るグラフト共重合体は、上記の構成であることにより優れた流動性を有し、その結果該グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を用いて樹脂成型体を形成する際の成形性に優れる。更に、樹脂成型体とした際の優れた耐衝撃性を有し、且つケミカルアタック性に優れる。また、該樹脂成型体は優れた難燃性を有する。
これらの成分のうち、芳香族アルケニル化合物とシアン化ビニル化合物とを組み合わせたシェル構造によって、グラフト成分の極性が上がることにより、耐ケミカルアタック性が向上するものと推定される。また更に、本シェル構造により耐熱性が向上するものと考えられ、その結果難燃性についても向上するものと推定される。
以下、各成分の詳細について説明する。
【0020】
<(a)複合ゴム成分>
本実施形態に係るグラフト共重合体には(a)複合ゴム成分が含有される。尚、芯材の表面を被覆層が覆うコア−シェル構造のグラフト共重合体である場合には、(a)複合ゴム成分をコアとして用いてもよい。
【0021】
本実施形態に係るグラフト共重合体においては、(a)複合ゴム成分は50質量%以上90質量%以下含有され、更には60質量%以上89質量%以下であることがより望ましく、70質量%以上88質量%以下であることが特に望ましい。
(a)複合ゴム成分の含有量が50質量%未満である場合、十分な耐衝撃性、流動性が得られないとの欠点を有する。一方、90質量%を超える場合、熱可塑性樹脂の他の優れた特性が損なわれるとの欠点を有する。
【0022】
〔(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分〕
上記(a)複合ゴム成分においては、(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分は20質量%以上80質量%以下含有され、更には25質量%以上75質量%以下であることがより望ましく、30質量%以上70質量%以下であることが特に望ましい。
(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分の含有量が20質量%未満である場合、耐衝撃性が十分発現しないとの欠点を有する。一方、80質量%を超える場合、難燃性が損なわれるとの欠点を有する。
【0023】
前記(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジプロピルシロキサン、ポリジブチルシロキサン、ポリジペンチルシロキサン、等のポリジアルキルシロキサンや、ポリジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体、側鎖アルキル基の一部が水素原子に置換されたポリオルガノハイドロジェンシロキサン等が挙げられる。上記の中でも、ポリジアルキルシロキサンが望ましい。更に、前記ジアルキルシロキサンの2つのアルキル部分の炭素数は、それぞれ独立に1以上6以下が望ましい。
前記(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0024】
〔(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分〕
上記(a)複合ゴム成分においては、(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分は20質量%以上80質量%以下含有され、更には25質量%以上75質量%以下であることがより望ましく、30質量%以上70質量%以下であることが特に望ましい。
(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分の含有量が20質量%未満である場合、難燃性が損なわれるとの欠点を有する。一方、80質量%を超える場合、特に低温での耐衝撃性が損なわれるとの欠点を有する。
【0025】
前記(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分としては、例えば、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸プロピル、ポリアクリル酸2−エチルヘキシル、ポリアルキル酸オクチル、ポリアクリル酸ラウリル、ポリアクリル酸ステアリル、ポリアクリル酸ベンジル等のポリ(メタ)アクリル酸アルキルが挙げられる。前記ポリ(メタ)アクリル酸アルキルのアルキル部分の炭素数は、1以上6以下が望ましい。
また、前記(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
尚、本明細書中において、「(メタ)アクリレート」はアクリレートまたはメタクリレートを表し、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸またはメタクリル酸を表す。
【0026】
〔その他の成分〕
また、上記(a)複合ゴム成分においては、その他のゴム成分を含んでもよい。例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン等が挙げられる。上記その他のゴム成分の含有量は、30質量%以下であることが望ましい。
【0027】
更に、上記(a)複合ゴム成分においては、その他の添加剤を添加してもよい。例えば、有機リン系難燃剤、ドリップ防止剤、酸化防止剤、耐候剤、耐加水分解防止剤、充填剤、補強剤(タルク、クレー、マイカ等)等が挙げられる。上記その他の添加剤の含有量は、10質量%以下であることが望ましい。
【0028】
〔複合ゴム成分の粒子径〕
本実施形態に係るグラフト共重合体がコア−シェル構造である場合には、前記(a)複合ゴム成分の質量平均粒子径が300nm以上500nm以下であることが望ましく、更には320nm以上480nm以下であることがより望ましく、340nm以上460nm以下であることが特に望ましい。
(a)複合ゴム成分の質量平均粒子径が300nm以上であることにより、熱可塑性樹脂の耐衝撃性、流動性が向上するとの利点がある。一方、500nm以下であることにより、熱可塑性樹脂の他の優れた特性が損なわれないとの利点がある。
【0029】
ここで、上記質量平均粒子径(dw)は以下の方法により測定され、本明細書に記載の値は該方法によって測定したものである。
得られた(a)複合ゴム成分を含有するラテックスを蒸留水で濃度3%に希釈したものを試料として、米国MATEC社製、CHDF2000型粒度分布計を用いて測定する。測定条件は、MATEC社が推奨する標準条件で行う。即ち、標準条件(専用の粒子分離用キャピラリー式カートリッジおよびキャリア液を使用、液性:中性、流速:1.4ml/min、圧力:4000psi、および温度:35℃)を保ちながら、濃度3%の希釈ラテックス試料0.1mlを測定に用いる。なお、標準粒子径物質として米国DUKE社製の粒子径既知の単分散ポリスチレンを0.02μm以上0.8μm以下の範囲内で合計12点用いる。
【0030】
<(b)グラフト成分>
本実施形態に係るグラフト共重合体には(b)グラフト成分が含有される。尚、芯材の表面を被覆層が覆うコア−シェル構造のグラフト共重合体である場合には、(b)グラフト成分をシェルとして用いてもよい。
【0031】
本実施形態に係るグラフト共重合体においては、(b)グラフト成分は10質量%以上50質量%以下含有され、更には11質量%以上45質量%以下であることがより望ましく、12質量%以上40質量%以下であることが特に望ましい。
(b)グラフト成分の含有量が10質量%未満である場合、重合後のグラフト共重合体の凝析工程にて重合体同士が固着してしまうとの欠点を有する。一方、50質量%を超える場合、熱可塑性樹脂の耐衝撃性が損なわれるとの欠点を有する。
【0032】
〔(b−1)芳香族アルケニル化合物〕
上記(b)グラフト成分においては、(b−1)芳香族アルケニル化合物は60質量%以上80質量%以下含有され、更には62質量%以上78質量%以下であることがより望ましく、64質量%以上76質量%以下であることが特に望ましい。
(b−1)芳香族アルケニル化合物の含有量が60質量%未満である場合、グラフト重合での反応が十分に進まず、グラフト反応での未反応物が残留してしまうとの欠点を有する。一方、80質量%を超える場合、グラフト重合での反応が十分に進まず、グラフト反応での未反応物が残留してしまうとの欠点を有する。
【0033】
前記(b−1)芳香族アルケニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。上記の中でも特にスチレンが、後述の熱可塑性樹脂との相溶性の観点から望ましい。
前記(b−1)芳香族アルケニル化合物は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0034】
〔(b−2)シアン化ビニル化合物〕
上記(b)グラフト成分においては、(b−2)シアン化ビニル化合物は20質量%以上40質量%以下含有され、更には21質量%以上39質量%以下であることがより望ましく、22質量%以上38質量%以下であることが特に望ましい。
(b−2)シアン化ビニル化合物の含有量が20質量%未満である場合、グラフト重合での反応が十分に進まず、グラフト反応での未反応物が残留してしまうとの欠点を有する。一方、40質量%を超える場合、グラフト重合での反応が十分に進まず、グラフト反応での未反応物が残留してしまうとの欠点を有する。
【0035】
前記(b−2)シアン化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。上記の中でも特にアクリロニトリルが望ましい。
前記(b−2)シアン化ビニル化合物は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0036】
〔その他の成分〕
また、上記(b)グラフト成分においては、その他のビニル単量体を含んでもよい。例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル等が挙げられる。上記その他のビニル単量体の含有量は、20質量%以下であることが望ましい。
【0037】
〔グラフト成分のガラス転移温度〕
前記(b)グラフト成分のガラス転移温度は80℃以上130℃以下であることが望ましく、更には90℃以上127℃以下であることがより望ましく、95℃以上124℃以下であることが特に望ましい。
(b)グラフト成分のガラス転移温度が80℃以上であることにより、ブレンドする熱可塑性樹脂の耐熱性を向上させるとの利点がある。一方、130℃以下であることにより、ブレンドする熱可塑性樹脂への分散性を向上させるとの利点がある。
【0038】
ここで、上記ガラス転移温度は以下の方法により測定され、本明細書に記載の値は該方法によって測定したものである。
得られたグラフト共重合体を180℃設定のプレス機を用い、2mmの厚みに調整した板を、幅10mm、長さ50mmに切り出し、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DMS6100動的粘弾性測定装置により、昇温速度2℃/min、測定周波数2Hzの条件で測定し、得られたTanδ曲線の転移点に対応した温度をガラス転移温度とする。
【0039】
<複合ゴム系グラフト共重合体の製造方法>
本実施形態に係るグラフト共重合体は、特に限定されることなく従来公知の方法によって製造し得る。例えば、コア−シェル構造を有するグラフト共重合体である場合には、以下ごとく製造し得る。
(a−1)ポリオルガノシロキサン成分のラテックス中に(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレート成分を含む混合液を仕込み、この混合液をラジカル重合反応させることによって、(a)複合ゴム成分(コア)を得る。
次いで、この(a)複合ゴム成分に、(b−1)芳香族アルケニル化合物と(b−2)シアン化ビニル化合物とを含む混合液を一括、あるいは滴下により添加し、(a)複合ゴム成分にグラフト重合反応させることによってシェルを形成し、本実施形態に係るグラフト共重合体が得られる。
【0040】
≪熱可塑性樹脂組成物≫
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、前述の本実施形態に係るグラフト共重合体と、を含有する。
【0041】
<熱可塑性樹脂>
上記熱可塑性樹脂としては、従来公知の樹脂が用いられる。具体的には、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、液晶樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、ポリパラバン酸樹脂、芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよびシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を、重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体樹脂、ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂、シアン化ビニル−ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂、芳香族アルケニル化合物−ジエン−シアン化ビニル−N−フェニルマレイミド共重合体樹脂、シアン化ビニル−(エチレン−ジエン−プロピレン(EPDM))−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂等が挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂が、(b)グラフト成分との相溶性に優れ、且つ(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分との組合せによって優れた難燃性を発現する観点から望ましい。
【0042】
ここで、ポリカーボネート(以下、「PC」ともいう)系樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート、ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、脂環式ポリカーボネートなどが挙げられる。上記の中でも、芳香族ポリカーボネートが望ましい。
【0043】
また、上記ポリカーボネート系樹脂は、ポリカーボネート系樹脂の少なくとも1種と、スチレン系樹脂の少なくとも1種と、を組み合わせたアロイ樹脂として用いてもよい。
上記スチレン系樹脂としては、例えば、GPPS樹脂(一般ポリスチレン樹脂)、HIPS樹脂(耐衝撃性ポリスチレン)、SBR樹脂(スチレンブタジエンゴム)、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体)、MBS樹脂(メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)などが挙げられる。上記の中でも、HIPS樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等が望ましい。
【0044】
ポリカーボネート/スチレン系アロイ樹脂の市販品としては、帝人化成社製のPC/ABSアロイ樹脂である「TN7300」、出光興産社製のPC/HIPSアロイ樹脂である「NN2710AS」、UMGABS社製のPC/ABSアロイ樹脂である「ZFJ61」、SABIC社製のPC/ABSアロイ樹脂である「C6600」等が挙げられる。
【0045】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物中における上記熱可塑性樹脂の含有量は、全熱可塑性樹脂組成物に対して10質量%以上90質量%以下であることが望ましい。
【0046】
<難燃剤>
本実施形態に係る熱可塑性樹脂おいては、難燃剤を含有させてもよい。難燃剤としては、従来公知の各難燃剤が用いられるが、特に有機リン系難燃剤が望ましい。
上記有機リン系難燃剤としては特に限定はないが、例えば、ポリリン酸メラミン、芳香族系リン化合物、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、ホスフィン酸塩、ホスホン酸塩、ホスファゼン化合物、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。本実施形態においては、燃焼時に有害物質を発生させるハロゲン系化合物を含まない縮合リン酸エステルを難燃剤として用いることが望ましい。
【0047】
前記縮合リン酸エステルとしては、例えば、ペンタエリスリトールジホスフェートや、下記一般式(I)、(II)で表わされるリン酸エステル化合物が挙げられる。
【0048】
【化1】

【0049】
式(I)中、Q、Q、QおよびQはそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、Q、Q、QおよびQはそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、m1、m2、m3およびm4はそれぞれ独立に、0以上3以下の整数を示し、m5およびm6はそれぞれ独立に、0以上2以下の整数を表し、n1は、0以上10以下の整数を表す。
【0050】
【化2】

【0051】
式(II)中、Q、Q10、Q11およびQ12はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、Q13は、水素原子またはメチル基を表し、m7、m8、m9およびm10はそれぞれ独立に、0以上3以下の整数を表し、m11は0以上4以下の整数を表し、n2は、0以上10以下の整数を表す。
【0052】
本実施形態においては、例えば、ビスフェノールA型、ビフェニレン型、イソフタル型などの芳香族縮合リン酸エステルが好適に使用される。また、縮合リン酸エステルとして、大八化学社製PX−200、PX−201、PX−202、CR−733S、CR−741、CR747などの市販品を用いてもよい。
【0053】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物中における上記難燃剤の含有量は、全熱可塑性樹脂組成物に対して5質量%以上40質量%以下であることが望ましい。
【0054】
<その他成分>
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、更にその他の成分を含んでいてもよい。熱可塑性樹脂組成物中における上記その他成分の含有量は0質量%以上10質量%以下であることが望ましく、0質量%以上5質量%以下であることがより望ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まない形態を意味する。
該その他の成分としては、例えば、各種顔料、改質剤、ドリップ防止剤、相溶化剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐候剤、耐加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミナ、ボロンナイトライド等)等が挙げられる。また、本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、その他の成分として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、例えば0.1質量%以上1質量%含んでいてもよい。
【0055】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、少なくとも、前述の本実施形態に係る複合ゴム系グラフト共重合体、前記熱可塑性樹脂を用い、更に例えば、前記難燃剤、前記その他の成分等を用いて、溶融混練することにより製造される。
ここで、溶融混練の手段としては公知の手段を用いることができ、例えば、二軸押出し、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
【0056】
≪樹脂成形体≫
本実施形態に係る樹脂成形体は、前述の本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物を含んで構成される。
即ち、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物を成形して得られるものである。例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーテイング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などの成形方法により本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物を成形し、本実施形態に係る樹脂成形体が得られる。
【0057】
前記射出成形は、例えば、日精樹脂工業製NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行う。
この際、シリンダ温度としては、220℃以上280℃以下とすることが望ましく、230℃以上270℃以下とすることがより望ましい。また、金型温度としては、40℃以上80℃以下とすることが望ましく、50℃以上70℃以下とすることがより望ましい。
【0058】
本実施形態に係る樹脂成形体は、電子・電気機器、家電製品、容器、自動車内装材などの用途に好適に用いられる。より具体的には、家電製品や電子・電気機器などの筐体、各種部品など、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材などであり、中でも、電子・電気機器の部品に好適である。
【0059】
図1は、本実施形態に係る成形体を備える電子・電気機器の部品の一例である画像形成装置を、前側から見た外観斜視図である。
図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、操作者が装置内を操作するよう開閉自在となっている。これにより、操作者は、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内で紙詰まりが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりする。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0060】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件が操作者からの操作によって入力される操作パネル130、および、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を搬送する自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置および制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱自在なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって行われる。
【0061】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーが補充される。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0062】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部近傍に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙供給部136が備えられており、ここからも用紙が供給される。
【0063】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に接触する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙供給部136が設けられている側と反対側に用紙排出部138が複数備えられており、これらの用紙排出部に画像形成後の用紙が排出される。
【0064】
画像形成装置100において、例えば、フロントカバー120a,120b、プロセスカートリッジ142の外装、筐体150、および筐体152に、本実施形態に係る樹脂成形体が用いられている。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。尚、以下において「部」および「%」は、特に基準を示さない限り質量基準である。
【0066】
(製造例1:シリコーンゴム重合体ラテックス(a−1−1)の製造)
テトラエトキシシラン2部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン0.5部およびオクタメチルシクロテトラシロキサン97.5部を混合し、シロキサン混合物100部を得た。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸をそれぞれ0.7部溶解した蒸留水200部に上記混合シロキサン100部を加え、ホモミキサーにて10,000rpmで予備攪拌した後、ホモジナイザーにより20MPaの圧力で乳化、分散させ、オルガノシロキサンラテックスを得た。この混合液をコンデンサーおよび攪拌翼を備えたセパラブルフラスコに移し、混合攪拌しながら80℃で5時間加熱した後20℃で放置し、48時間後に水酸化ナトリウム水溶液でこのラテックスのpHを7.4に中和して重合を完結させ、ポリオルガノシロキサンラテックス(a−1−1)を得た。ポリオルガノシロキサンの質量平均粒子径は180nmであった。
【0067】
(製造例2:シリコーンゴム重合体ラテックス(a−1−2)の製造)
テトラエトキシシラン3部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン0.7部およびオクタメチルシクロテトラシロキサン96.3部を使用した他は、製造例1に記載の方法により重合を行い、ポリオルガノシロキサンラテックス(a−1−2)を得た。ポリオルガノシロキサンの平均粒子径は200nmであった。
【0068】
(製造例3:シリコーンゴム重合体ラテックス(a−1−3)の製造)
テトラエトキシシラン4部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン1.0部およびオクタメチルシクロテトラシロキサン95部を使用した他は、製造例1に記載の方法により重合を行い、ポリオルガノシロキサンラテックス(a−1−3)を得た。ポリオルガノシロキサンの平均粒子径は220nmであった。
【0069】
〔実施例1〕
(シリコーン−アクリル複合ゴムグラフト共重合体(Sa−1)の製造)
上記ポリオルガノシロキサンラテックス(a−1−1)を固形分換算で20部採取し、攪拌機を備えたセパラブルフラスコに入れ、ラウリル硫酸ナトリウム0.2部(固形分換算)および蒸留水120部を加え、窒素置換をしてから50℃に昇温し、n−ブチルアクリレート59.50部、アリルメタクリレート0.5部およびtert−ブチルヒドロペルオキシド0.15部の混合液を仕込み、30分間攪拌し、この混合液をポリオルガノシロキサン粒子に浸透させた。次いで、硫酸第1鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート0.5部および蒸留水5部の混合液を仕込み、ラジカル重合を開始させ、その後内温70℃で90分間保持して重合を完了させ、複合ゴムラテックス(a)を得た。この複合ゴムラテックス(a)の一部を採取し、複合ゴムの平均粒子径を測定したところ、150nmであった。
【0070】
この複合ゴムラテックス(a)に、tert−ブチルヒドロペルオキシド0.1部、アクリロニトリル5部とスチレン15部との混合液を65℃で30分間にわたり滴下し、その後65℃で2時間保持し、複合ゴムへのグラフト重合を完了させ、グラフト共重合体ラテックスを得た。メチルメタクリレートの重合率は、99.4%であった。
得られたグラフト共重合体ラテックスを20%酢酸カルシウム水溶液25部にて凝析させ90℃で熱処理固化した。その後凝固物を温水で洗浄し、さらに乾燥してシリコーン−アクリル複合ゴムグラフト共重合体(Sa−1)を得た。
【0071】
(熱可塑性樹脂組成物の作製)
以下の方法により、熱可塑性樹脂組成物であるペレットを作製した。
シリコーン−アクリル複合ゴムグラフト共重合体(Sa−1)を使用し、表3および表4に示す組み合わせで配合して、ヘンシェルミキサーで4分間混合した後、30mmΦ二軸押し出し機にてシリンダー温度280℃で溶融混練し、ペレット状に賦型した。
【0072】
(樹脂成形体の作製およびその評価)
上記で得られたペレットを、射出成型機(東芝機械社製、製品名「NEX500」)を用いてシリンダ温度235℃、金型温度60℃で射出成型し、ISO多目的ダンベル試験片(試験部厚さ4mm、幅10mm)およびUL−94におけるVテスト用UL試験片(厚さ1.5mm)を作製した。
これらの試験片を用い、下記の評価を行った。評価結果を表5および表6に示す。
【0073】
−難燃性試験−
上記Vテスト用UL試験片を用い、UL−94に規定の方法に準拠して、UL−VテストおよびUL−5VBテストを実施した。
表5および表6中、「UL−94 Vテスト」の結果の表示は、難燃性が高い方から順に、V−0、V−1、V−2であり、V−2より劣る場合、即ち試験片が延焼してしまった場合をnot−Vと示した。
また表5および表6中、「UL−94 5VBテスト」の結果の表示は、5VBより劣る場合、即ち試験片が延焼してしまった場合をnot−5VBと示した。
【0074】
また、表5および表6において「ドリップ発生」の評価項目において、「有り」は試験中に試験片から滴下物があったことを表し、「なし」は試験中に試験片から滴下物がなかったを表す。
更に、表5および表6における「5VB試験時の総燃焼時間」とは、試験片を5本燃焼させたときの、燃焼時間の総和を表す。
【0075】
−シャルピー耐衝撃強度−
ISO多目的ダンベル試験片をノッチ加工したものを用い、ISO−179に規定の方法に従って耐衝撃試験装置(東洋精機社製、DG−5)によりシャルピー耐衝撃強度(kJ/m)を測定した。測定値が大きい程、耐衝撃性に優れている。
【0076】
−スパイラルフロー長(流動性の評価)−
流動性について評価すべく、以下の方法によりスパイラルフロー長を測定した。
射出成型機(東芝機械社製、製品名「NEX500」)を用いて樹脂温度230℃、金型温度80℃、射出圧力は120MPaとした。また、成型品の厚さは2mm、幅は15mmとした。
【0077】
−ケミカルアタック試験−
ASTM規格D790に準拠した曲げ試験法(ベントストリップ法)を適用した。
歪み調整可能な試験治具を用い、試験片に歪みを与え、試験片中央部に対象とする溶媒(ケミカルアタック試験油)を塗布する。試験条件は、
・試験片:長さ125mm以上150mm以下×幅12mm×厚さ2mm、
・サンプル数:6ケ
(応力集中を防ぐため、加工時のシャープエッジ等は除去しておく)
・環境温度:23℃±2℃、または図面に規定された温度
・放置時間:200h
・曲げ歪み:評価するプラスチックの最大曲げ応力の30%応力に相当する歪みを試験中央部に与える。歪みは、「材料の応力−歪み曲線」、または以下の式から求める。
歪み(%):ε=σb/Eb
σb=曲げ応力
Eb=曲げ弾性率(N/mm
試験は、6ケの試験片を用いて行ない、表面観察は目視で行なった。但し、判別し難い場合は拡大鏡等で行なった。尚、ケミカルアタック試験油として、サンプレスS304(スギムラ化学プレスオイル)およびKF8009(信越化学工業オイル)を用いて行った。
表5および表6においては、N:クラックなし、Cz:クレーズ発生、Ck:クラック発生の評価基準で評価し、試験片全てにクレーズ(微細クラック)なき場合を合格とした。
【0078】
〔実施例2および3〕
表1および表2に示す組成に変更したこと以外は実施例1に記載の方法により重合を行い、グラフト共重合体(Sa−2)および(Sa−3)を得た。また、実施例1に記載の方法により熱可塑性樹脂組成物、樹脂成型体を作製し、評価試験を行った。
【0079】
〔実施例4および5〕
表1および表2に示す組成に変更し、ポリオルガノシロキサンラテックス(a−1−2)に変更したこと以外は実施例1に記載の方法により重合を行い、グラフト共重合体(Sa−4)および(Sa−5)を得た。また、実施例1に記載の方法により熱可塑性樹脂組成物、樹脂成型体を作製し、評価試験を行った。
【0080】
〔実施例6および7〕
表1および表2に示す組成に変更し、ポリオルガノシロキサンラテックス(a−1−3)に変更したこと以外は実施例1に記載の方法により重合を行い、グラフト共重合体(Sa−6)および(Sa−7)を得た。また、実施例1に記載の方法により熱可塑性樹脂組成物、樹脂成型体を作製し、評価試験を行った。
【0081】
〔比較例1乃至11〕
表1および表2に示す組成に変更したこと以外は実施例1に記載の方法により重合を行い、グラフト共重合体(Sb−1)乃至(Sb−11)を得た。また、実施例1に記載の方法により熱可塑性樹脂組成物、樹脂成型体を作製し、評価試験を行った。
【0082】
【表1】

【0083】

【表2】

【0084】

【表3】

【0085】

【表4】

【0086】

【表5】

【0087】

【表6】



【0088】
尚、上記表1、表2、表3および表4における各成分は、以下のとおりである。
(表1および表2)
POS:ポリオルガノシロキサンラテックス
BA:n-ブチルアクリレート
AMA:アリルメタクリレート
ST:スチレン
AN:アクリロニトリル
MMA:メチルメタクリレート
EA:エチルアクリレート
(表3および表4)
PC :旭美化成(株)製、PC−115
(粘度平均分子量22000のポリカーボネート)
ABS:アクリロニトリルブタジエンスチレン、奇美化成(株)製、PA−747S
難燃剤:大八化学(株)製、PX−200
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン、ダイキン工業(株)製、FA−500
酸化防止剤:チバジャパン製Irganox1076
MBS:メタブレンC−223
【符号の説明】
【0089】
100 画像形成装置
110 本体装置
120a、120b フロントカバー
136 用紙供給部
138 用紙排出部
142 プロセスカートリッジ
150、152 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分および下記(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分を下記に示す量で含有する(a)複合ゴム成分50質量%以上90質量%以下と、
下記(b−1)芳香族アルケニル化合物および下記(b−2)シアン化ビニル化合物を下記に示す量で含有する(b)グラフト成分10質量%以上50質量%以下と、
を含有する複合ゴム系グラフト共重合体。
(a−1)ポリオルガノシロキサンゴム成分:20質量%以上80質量%以下
(a−2)ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分:20質量%以上80質量%以下
(b−1)芳香族アルケニル化合物:60質量%以上80質量%以下
(b−2)シアン化ビニル化合物:20質量%以上40質量%以下
【請求項2】
前記(b−1)芳香族アルケニル化合物がスチレンであり、且つ前記(b−2)シアン化ビニル化合物がアクリロニトリルである請求項1に記載の複合ゴム系グラフト共重合体。
【請求項3】
熱可塑性樹脂と、
請求項1または請求項2に記載の複合ゴム系グラフト共重合体と、
を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート系樹脂である請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物を含む樹脂成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−46843(P2011−46843A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196942(P2009−196942)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】