説明

複合スパッタターゲット及び燐光物質の蒸着方法

本発明は、厚膜絶縁性電子発光ディスプレイ用の多成分の薄膜の燐光物質のための新規なスパッタターゲット及び蒸着方法であって、蒸着された燐光物質は、テレビ用として要求される高輝度と多色を提供する。 この方法は、反応種と非反応種とを有するガスを含む低圧スパッタリング雰囲気中で、単一の複合ターゲットをスパッタリングするステップを備えている。 この複合ターゲットは、マトリクス相と封入相、若しくは2つのマトリクス相を有しており、前記相の一方が、燐光物質の組成に寄与する一以上の金属元素を含むと共に、成分相の他方が、燐光物質の組成に寄与する残余の元素を含んでいる。 前記方法においては、複合ターゲットのマトリクス相及び封入相のスパッタリング速度を制御するためにスパッタリング雰囲気内で前記反応種の圧力を変化させることにより、蒸着すべき2つの相における元素の割合を、基板上に形成する燐光体膜として所望の割合とするステップを更に備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルカラーAC厚膜絶縁性電子発光ディスプレイにおける燐光体材料の蒸着に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、厚膜絶縁性電子発光ディスプレイにおいて、多成分の組成を備えた燐光体材料を蒸着するため、単一の複合ターゲットをスパッタリングするステップを備えた新規な方法である。
【背景技術】
【0003】
特許文献1(引用することにより、その全体が本明細書に組み込まれる。)に開示されている厚膜絶縁性電子発光デバイスは、TFELディスプレイに比べ優れた絶縁破壊に対する抵抗及び低駆動電圧特性を提供する圧膜絶縁体構造を備えている。
この圧膜絶縁体構造は、セラミック基板に蒸着される際には、TFELよりも多少高温の処理温度に耐えうるものであり、典型的には、ガラス基板上に形成される。
このように向上された耐高温性により、燐光体膜のより高温での焼鈍が容易となり、燐光体膜の明度が改善される。
しかしながら、このように明度が改善されたとしても、持続的な改良のペースを維持するために、陰極線管(CRT)ディスプレイ、とりわけ近時のCRTに対する、より高い輝度及び色温度の仕様に伴って、ディスプレイの輝度及び色座標(colour coordinates)における更なる改良が望まれている。
【0004】
高輝度のフルカラー厚膜絶縁性電子発光ディスプレイには、赤、緑、青のサブピクセルをパターン化して形成するために使用される薄膜の燐光体材料が必要とされ、これにより、ピクセルの各色に対する発光スペクトラムは、各サブピクセルに対して要求される色座標を達成するのに必要とされる光フィルタを用いることにより生じる減衰を最小化するために、ニーズに応じて調整される。
比較的低解像度のディスプレイの場合、シャドー・マスク法で燐光体材料を蒸着することにより、パターニングを得ることができる。
しかしながら、高解像度のディスプレイの場合、シャドー・マスク技術では、写真平版法(photolithographic methods)で要求される十分な精度を得ることができない。米国特許第6,771,019号明細書(引用することにより、その全体が本明細書に組み込まれる。)に例示される写真平版技術では、要求されるパターンを得るために、フォトレジスト膜を蒸着し、燐光体膜の一部をエッチングまたは剥離させる必要がある。このようなパターニング工程は典型的には、赤、緑、青のサブピクセルのうちの一つに対して、一の燐光体材料を最初に蒸着し、次に、パターン化されたフォトレジスト層が蒸着され、これにより、最初に蒸着された燐光体膜を必要としない他の2つのサブピクセルの位置上で、蒸着された燐光体膜の選択された部分がエッチングにより除去され得る。
2番目の2つの燐光体層は、最初にパターン化された層の下にある表面レリーフにより、剥離法を用いてパターン化することが可能であり、これにより、2番目及び3番目のそれぞれのピクセル上の燐光体層の下にあるフォトレジスト膜の端部の露出が許容される。
この工程では、レジスト膜の上にある燐光体層の当該部分が溶解されることなく剥離されることが可能となるように、フォトレジスト膜を溶解する溶剤を使用する必要がある。
しかしながら、最初に蒸着された燐光体層は、一般的には、上にあるレジスト膜が除去される場所で、ダイレクトエッチングにより除去される必要がある。
このため、工程の当該段階では、燐光物質は、エッチング液に溶解するものでなければならない。
安定な燐光体材料は、通常、溶解性はあまり高くはなく、膜として蒸着された完全には反応していない先駆物質の形態で存在し、これにより、エッチング段階を経て最終的に安定した燐光体材料を形成するために更に処理され得る燐光体材料を提供することが望まれている。
とはいうものの、先駆物質の形態の燐光体膜は、エッチング工程の際に、処理環境あるいはエッチング液によって、好ましくない態様で反応してはならない。
従来技術に開示されている燐光物質及びかかる燐光物質を処理する方法は、上述した要求を十分に満足することはできておらず、そのため、最終的な燐光物質の性能あるいは安定性に好ましくない影響を及ぼす場合があった。
【0005】
青の燐光物質のためのセリウムで活性化された硫化ストロンチウム、及び、赤・緑の燐光物質のためのマンガンで活性化された硫化亜鉛は、フルカラーの電子発光ディスプレイに通常用いられるものである。
これらの燐光体材料からの光学発光は、赤、緑、青のサブピクセルに対する必要とされる色座標を得るために、適宜の有色フィルタを通過されなければならず、結果として、輝度の低下とエネルギー効率の低下を生じてしまう。
マンガンで活性化された硫化亜鉛の燐光物質は、入力される1ワット当たり約10ルーメンに達する比較的高い電気から光へのエネルギー変換効率を有しており、セリウムで活性化された硫化ストロンチウムは、青を発光するものにしては比較的高い1ワット当たり約1ルーメンのエネルギー変換効率を有している。
しかしながら、これら燐光物質の分光放射は非常にワイドであり、硫化亜鉛をベースとする燐光体材料は緑から赤までの色のスペクトラムの範囲で分光放射し、硫化ストロンチウムをベースとする燐光体材料は青から緑までの色のスペクトラムの範囲で分光放射するため、光フィルタを使用しなければならない必要性があった。
セリウムで活性化された硫化ストロンチウムの燐光物質の分光放射は、蒸着条件と活性剤の濃度を制御することにより、ある程度は青の方向にシフトさせることができるが、光フィルタを不要とできる程度にまではシフトできない。
【0006】
これに代えて、青のサブピクセルに必要な色座標を与えるように調整された、狭い分光放射特性を有する青の燐光体材料が評価された。
これらの燐光体材料は、セリウムで活性化されたアルカリ土類チオガレート化合物(alkaline earth thiogallate compounds)を含んでいる。
これらは良好な青の色座標をもたらすものの、相対的に明度及び安定性が不足している。
母材は三元化合物であるので、燐光体膜の化学量論的組成を制御することが比較的困難である。
ユウロピウムで活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩(barium thioaluminate)の燐光物質は、非常に良好な青の色座標と高い明度をもたらすものの、やはり、三元化合物であるので、化学量論的組成を制御することが困難である。
【0007】
高い明度をもたらす燐光体膜を蒸着するための種々の方法が開発されてきた。
そのような方法の一つは、ユウロピウムで活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩を含む燐光体膜の真空蒸着である。
この方法は、スパッタリングあるいは電子ビーム蒸着を応用した単一ソースペレットから達成されるが、この方法では、まだ高い明度を有する膜はもたらされていない。
2つのソースペレットから膜を蒸着するホッピング電子ビーム蒸着法(hopping electron beam deposition method)により、バリウム・チオアルミ酸塩燐光体膜の明度の改良が達成された。
2つのソース材料のそれぞれの上に照射される電子ビームの相対的な滞留時間(dwell time)を制御することにより、蒸着された燐光体膜の化学量論的組成が制御される。
しかしながらこの方法は、大面積ディスプレイの商業的生産を容易にする拡張性を直ちに有してはおらず、更には、蒸着が進行すると共にソースペレットが消耗されるのに伴って生じる2つのソースからの蒸着率の変化を補償するように制御することはできない。
【0008】
蒸着されたチオアルミ酸塩燐光物質の化学量論的組成を改善するために採用されている別な方法は、一以上の蒸着用のソースを使用するものであり、これらのソースは、異なるソースのための相対的な蒸着率に対する追加的な制御を要求する。
要求される相対的な蒸着率は、蒸着装置の特定の試料毎に校正されなければならず、多数のソースに対する要求は、蒸着装置の設計上の制約となると共に、通常は、装置のコストアップとなるものである。
更に蒸着方法は、壁掛けテレビの用途といった大きな電子ディスプレイの製造のために要求されるような大面積の成膜に好適なものとはなっていない。
【0009】
米国特許第6,793,782号明細書(引用することにより、その全体が本明細書に組み込まれる。)に開示されている燐光体膜の蒸着方法は、希土類で活性化されたアルカリ土類チオアルミ酸塩の燐光体膜を蒸着するために、2つのスパッタリングターゲットを用いるものである。
スパッタリングターゲットの一つはアルミニウムを含んでおり、他のスパッタリングターゲットは燐光物質の残りの成分、典型的には、活性剤源としての一以上のアルカリ土類金属の硫化物、希土類の硫化物若しくは酸化物である。
2つのスパッタリングターゲットを用いることにより、相対的な蒸着率の変調が為され、この変調は、高いアルミニウム含有率と低いアルミニウム含有率とを交互に周期的に合成して積層膜を蒸着して生成する各々のソースに起因するものである。
各々のターゲットからはじき出される原子種(atomic species)の流束内に配置される回転若しくは振動される基板を用い、基板の回転レート若しくは振動レートを変更することにより層の厚さを変更できるという変形実施態様も得ることができる。
しかしながら、蒸着された層の厚さを横切る方向での組成の変調は、均一な単相の燐光体材料を形成するための以後の蒸着材料の反応にとって問題をはらんでいる、というのも原子種を、原子スケールで均一な組成を得るために蒸着膜内で拡散する必要があるからである。
【0010】
特許文献2(引用することにより、その全体が本明細書に組み込まれる。)には、アルミニウム硫化物とアルカリ土類金属の硫化物とを含む単一のターゲットからチオアルミ酸塩燐光体膜をスパッタリングにより形成することが開示されている。
このスパッタリング方法を、燐光体膜を形成する基板上でのターゲットの成分の凝縮率の差を勘案してターゲットの組成を調整することにより、緑を放射するマグネシウム・カルシウム・チオアルミ酸塩燐光物質若しくは青を放射するバリウム・マグネシウム・チオアルミ酸塩燐光物質のような三元燐光体材料及び他の化学的に複雑な燐光体材料を蒸着する際に使用することができる。
しかしながら、この方法は、エッチングにより形成することができると共にディスプレイの作動時に安定な燐光体膜を提供できなければならないという問題、及び、大面積に亘って燐光体膜を蒸着するための経済的に使用できなければならないという問題を完全に解決するものではない。
【0011】
燐光体材料を蒸着するいくつかの異なる方法が存在する一方で、厚膜絶縁性電子発光ディスプレイ用の燐光体材料を蒸着するために、従来技術の方法の一以上の欠点を未然に防止する方法を開発することが望まれている。
とりわけ、新規な蒸着方法の開発が望まれており、このような方法により、均一な単一相の燐光体材料が、全面積及び蒸着された燐光物質の厚さ方向に亘って組成バラツキを最小化して蒸着されることが望まれ、また、このような方法は、壁掛けテレビの用途といった大きな電子ディスプレイの製造のために要求されるような大面積に対しても経済的なものであることが望まれる。
【特許文献1】米国特許第5,432,015号明細書
【特許文献2】米国特許第6,447, 654号明細書
【特許文献3】国際公開第02/097155号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5,518,432号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、電子発光ディスプレイ、とりわけ厚膜絶縁性電子発光ディスプレイ用に、大面積に多成分の薄膜組成、特に薄膜燐光物質を蒸着するための新規な方法である。
本方法は、高くて均一な明度と適切且つ所望のカラー発光を提供する。
本方法は、パターニングのステップでエッチングされ得る燐光体膜の蒸着を許容し、次に、安定した燐光体膜を形成するために更なる熱処理を行う。
また、本発明は、蒸着される燐光体材料を調整するための工程条件に要求される厳格性を軽減し、燐光物質のコンディショニングの際、基礎を為す基板構造に対する損傷を最小化する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一の見地の目的によれば、基板上へ多成分から成る薄膜燐光体組成を蒸着するための方法が提供され、この方法は、
− 反応種と非反応種とを有するガスを含む低圧スパッタリング雰囲気中で、多成分の薄膜組成に寄与する金属材料と非金属材料とを含む2つの成分相を有する単一の複合ターゲットをスパッタリングするステップと、
− 前記複合ターゲットの前記2つの成分相のスパッタリング速度を制御するために前記スパッタリング雰囲気内で前記反応種の圧力を変化させることにより、蒸着すべき前記2つの成分相における元素の割合を、前記基板上に形成する多成分の薄膜として所望の割合とするステップと、
を備えていることを特徴としている。
【0014】
本発明の一の見地の目的によれば、基板上へ多成分から成る薄膜燐光体組成を蒸着するための方法が提供され、この方法は、
− 反応種と非反応種とを有するガスを含む低圧スパッタリング雰囲気中で、燐光物質の組成に寄与する金属材料と非金属材料とを含む2つの成分相を有する単一の複合ターゲットをスパッタリングするステップと、
− 前記複合ターゲットの前記2つの成分相のスパッタリング速度を制御するために前記スパッタリング雰囲気内で前記反応種の圧力を変化させることにより、蒸着すべき前記2つの成分相における金属材料と非金属材料との割合を、前記基板上に形成する燐光体膜として所望の割合とするステップと、
を備えていることを特徴としている。
【0015】
本発明の一の見地の別な目的によれば、多成分から成る薄膜燐光体組成を蒸着するための方法に使用される複合スパッタリングターゲットが提供され、この複合スパッタリングターゲットは、
− マトリクス相と封入相、及び
− 2つのマトリクス相
とから成るグループから選択される2つの成分相を有しており、
− 前記成分相の一方が、燐光物質の組成に寄与する一以上の金属材料を含むと共に、前記成分相の他方が、燐光物質の組成に寄与する残余の非金属材料を含み、
前記2つの成分相は、蒸着より前には互いに反応しないことを特徴としている。
【0016】
本発明の更に別の見地によれば、基板上へ多成分から成る薄膜燐光体組成を蒸着するための単一ソーススパッタリングの方法が提供され、この方法は、
a) 単一の複合ターゲットが、
− マトリクス相と封入相、及び
− 2つのマトリクス相
とから成るグループから選択される2つの成分相を有しており、
− 前記成分相の一方が、燐光物質の組成に寄与する一以上の金属材料を含むと共に、前記成分相の他方が、燐光物質の組成に寄与する残余の非金属材料を含み、
前記2つの成分相は、蒸着より前には互いに反応しないようにするステップと、
b) 反応種と非反応種とを有するガスを含む低圧スパッタリング雰囲気中に前記単一の複合ターゲットを設置するステップと、
c) 前記複合ターゲットに十分なパワーを与えて、前記複合ターゲットの前記マトリクス相及び前記封入相のスパッタリング速度を制御するために前記スパッタリング雰囲気内で前記反応種の圧力を変化させることにより、蒸着すべき前記2つの成分相における金属材料と非金属材料との割合を、前記基板上に形成する燐光体膜として所望の割合とするステップと、
を備えていることを特徴としている。
【0017】
本発明の一の見地の更に別な目的によれば、基板上へ多成分から成る薄膜組成を蒸着するための単一ソーススパッタリングの方法であって、
a) 単一の複合ターゲットが、
− マトリクス相と封入相、及び
− 2つのマトリクス相
とから成るグループから選択される2つの成分相を有しており、
− 前記成分相の一方が、薄膜の組成に寄与する一以上の金属材料を含むと共に、前記成分相の他方が、薄膜の組成に寄与する残余の非金属材料を含み、
前記2つの成分相は、蒸着より前には互いに反応しないようにするステップと、
b) 反応種と非反応種とを有するガスを含む低圧スパッタリング雰囲気中に前記単一の複合ターゲットを設置するステップと、
c) 前記複合ターゲットに約3〜5ワット/cmの出力密度を与えて、前記複合ターゲットの前記マトリクス相及び前記封入相のスパッタリング速度を制御するために前記スパッタリング雰囲気内で前記反応種の圧力を変化させることにより、蒸着すべき前記2つの成分相における元素の割合を、前記基板上に形成する薄膜として所望の割合とするステップと、
を備えていることを特徴としている。
【0018】
上記見地においては、複合スパッタリングターゲットは、適切なパワー条件の下で反応性プロセスガスの適切な低圧雰囲気において、複合ターゲットのスパッタリングの際に、アルカリ土類のチオアルミ酸塩燐光体膜若しくはチオオキシアルミ酸塩燐光体膜が蒸着された構成とされている。
また、所望のカラー発光を提供するために選択される活性剤が、複合ターゲットの非金属の封入相に添加される。
【0019】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の発明の詳細な説明により明らかとなるであろう。
しかしながら、本発明の実施例を示す詳細な説明及び特定の実験例は、単なる例示としてのみ提供されるものであって、この詳細な発明から、当業者であれば、本発明の精神及び技術的範囲の中で種々の改変を行えることは明白である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、以下の記載及び添付の図面により更に完全に理解されるであろう。
図面は、単に発明を図示するためのものに過ぎず、本発明が意図する技術的範囲を限定するものではない。
【0021】
本発明は、多成分の薄膜組成、とりわけ、高くて均一な明度と所望のカラー発光を提供する多成分の薄い燐光体膜を蒸着する新規な方法である。
この方法により、燐光体材料の均一な層が、全面積及び蒸着された燐光物質の厚さ方向に亘って最小の組成バラツキで蒸着して作製される。
燐光物質は、厚膜絶縁性電子発光デバイス内で蒸着される。
【0022】
この方法は、蒸着された膜、特に、3種以上の原子種を含む膜の化学量論的組成を制御する有効な手段を提供するものである。
本発明の方法は、単一の複合ターゲットをスパッタリング雰囲気中でスパッタリングするものであって、当該複合ターゲット中の成分相のスパッタリング速度は、スパッタリング雰囲気中における化学的な原子種の組成と圧力とを変化させることによって制御される。
複合ターゲットの成分相は、スパッタリング効果が生じるまでは互いに反応せず、その後、蒸着の際に、スパッタされる原子種は、表面の基層上で一以上の原子種あるいは分子種と反応するので、反応性スパッタリングを採用する本方法は有利であるといえる。
このようにして、望ましい燐光体層が選択された基層上に蒸着される。
【0023】
本方法は、多成分の化学的組成、好ましくはアルカリ土類チオアルミ酸塩の燐光物質を含む燐光体膜を蒸着するための複合構成を有している単一のスパッタリングターゲットを利用するものである。 また、所望の光の発光を得るために選択される活性剤(例えば、セリウム、テルビウム、ユウロピウム)が、複合スパッタリングターゲット内に供給される。
【0024】
複合スパッタリングターゲットは、連続若しくはマトリクス相及び不連続若しくは封入(inclusion)相の組み合わせ、あるいはこれに代えて、2つの相互に浸透する基質(interpenetrating matricies)を有する2つの連続マトリクス相の組み合わせを含む。
これら2つの相は協働して、活性剤を含む燐光物質の成分に寄与する。
マトリクス相であるか封入相であるかによらずそれらの相のうちの一つは導電性を有していなければならず、すなわち金属材料から作製される一方、他の相は非導電性でなければならず、すなわち非金属材料と、燐光体膜組成を為すと共に所望のカラー発光を提供する典型的には活性剤を含む残余の成分から作製される。
しかしながら、活性剤は金属マトリクス内に組み込まれても構わない。
これら2つの相は、パッタリング効果が生じるまでは互いに反応しない。
【0025】
複合ターゲットのマトリクス相あるいは封入相を形成するために使用される金属材料は、金属若しくは伝熱性及び導電性を有する合金から選択される。
アルカリ土類チオアルミ酸塩燐光物質組成若しくはアルカリ土類チオオキシアルミ酸塩(thiooxyaluminate)燐光物質組成を薄膜状に蒸着することが好ましいという本発明の観点においては、前記金属は、アルミニウム、ガリウム及びインジウムを含むグループから選択される。
ガリウムを選択する場合には、複合ターゲットの機械的な品質を維持するために、ターゲットの温度はガリウムの融点未満とされることが好ましい。
他の材料の場合でも、ターゲットの温度は当該材料の融点未満で保たれることが必要であるものの、インジウム及びアルミニウムはガリウムよりも高い融点を有しているので、特に問題となることはない。
【0026】
複合ターゲットのマトリクス相あるいは封入相を形成するために使用される非金属材料は典型的には、活性剤源としての一以上のアルカリ土類金属の硫化物、希土類の硫化物若しくは酸化物のような一以上の硫化物若しくは酸化物である。
再度言及すると、アルカリ土類チオアルミ酸塩燐光物質組成若しくはアルカリ土類チオオキシアルミ酸塩燐光物質組成を薄膜状に蒸着することが好ましいという本発明の観点においては、かかる非金属材料は、周期律表のIIA族またはIIB族の元素の硫化物、酸硫化物及び酸化物を含むグループから選択される。
最も典型的な活性剤は、非金属材料を含んでいる。
【0027】
好ましい実施例においては、複合ターゲットは、マトリクス相と封入相との組み合わせを備えており、複合ターゲットのマトリクス相は金属材料であって、封入相は非金属材料とされており、これにより、より高い出力密度でスパッタリングを行うことができる。
金属材料であるマトリクス相を用いることにより、スパッタリングを行っている際にターゲットが電気的にチャージされることを防止するための連続的な導電性がターゲットに付与される。
しかしながら、特定の他の実施例の複合ターゲットにおいては、マトリクス相を非金属材料とすると共に封入相を金属材料とすることも可能であり、その場合、低い出力密度でのスパッタリングによるチャージの散逸(charger dissipation)及び熱的な蓄積(thermal deposition)の低減を許容することができる。
更に別な実施例においては、複合ターゲットは2つのマトリクス相を有しており、一つは金属マトリクス相で他は非金属マトリクス相である。
【0028】
複合スパッタリングターゲットは、活性化されたスパッタリング領域において、封入相である非金属材料に対し、マトリクス相である金属材料の露出表面積の割合は、スパッタリング工程の間で実質的に一定に維持されるように提供される。
前記割合は約0.1〜0.7の範囲とされ、いくつかの観点においては約0.2〜0.6の範囲とされる。
【0029】
再度言及すると、複合ターゲットの好適な実施例においては、マトリクス相は金属若しくは伝熱性及び導電性を有する合金である金属材料から構成され、封入相は非導電性の化学的な化合物若しくはそれらの混合物である非金属材料とされることが好ましい。
導電性の相は、連続的な網目(network)構造あるいは不連続相を含むマトリクスとすることができ、これにより、スパッタリング工程に起因するチャージの蓄積を複合ターゲットから除去することが可能となり、高いスパッタリング速度を達成することができる。
複合ターゲットの非金属領域の寸法は、スパッタリング工程の際に蓄積される電荷のチャージが、スパッタリング中に金属元素へ十分に放電されるよう、十分に小さく設計されている。
また、複合ターゲットは、約2nm/秒に達する高いスパッタリング速度及び複合ターゲットの単位面積当たり約4.5ワットに達する出力密度の下でもターゲットの温度を制御可能とするために、高い伝熱性を有するように設計されている。
【0030】
本発明による複合スパッタリングターゲットは上述したように、マトリクス相が金属材料を含むように作製されるか否か、マトリクス相及び封入相が存在するか否か、若しくはこれに代えて、燐光物質の複合の成分を構成する2つのマトリクス相が存在するか否か、に応じていくつかの異なる形態を採ることができる。
例えば、複合スパッタリングターゲットは、溝が網目状に形成された活性化されたスパッタ面上に刻まれた(マトリクス相を構成する)金属ディスクとすることができ、前記溝は、(封入相を構成する)非導電性のスパッタリング材料で充填されている。
チオアルミ酸塩の燐光物質を用いる特定の用途に対しては、前記溝の幅は約2〜3mmとされ、各溝の間の距離は約3mmとされている。
ターゲットの選択図が図1に示されている。
複合スパッタリングターゲットに関する本実施例は、蒸着基質が前記ターゲットを一定の速度で通過するような、連続的な工程内スパッタリングに適用するのに好適なものである。
【0031】
別な複合スパッタリングターゲットの形態として、(マトリクス相を構成する)金属ディスクとされており、該金属板の活性化されたスパッタ面が実質的に等間隔で同心状に形成された複数の溝を備え、該溝が、(封入相を構成する)非導電性のスパッタリング材料で充填されているものがある。
前記溝の幅は約5〜6mmとされ、各溝の間の距離は約2mmとされている。
ターゲットの表面積の不均一性が大規模とされているので、この複合スパッタリングターゲットの実施例は特に、図1に関して前述した溝が刻まれた先の実施形態よりも、スパッタされる基質がターゲットからより遠い距離に配置されているスパッタリング装置に用いるのに好適である。
ターゲットの選択図は図2に示されている。
【0032】
また、複合スパッタリングターゲットは、(マトリクス相を構成する)非金属相の多孔プラーク(porous plaque)の形態としても良く、この多孔プラークは、部分焼結の後に燐光成分を構成する金属元素を供給する(第2のマトリクス相を構成する)溶融金属に関連した気孔率を有したプラークを注入することにより形成することができる。
この実施例においては、前記2つのマトリクス相(一つは金属で、もう一つは非金属)は、相互に浸透する。
このような形態とされた複合スパッタリングターゲットは、製造が容易であるのに加えて、連続的な電気伝導性と高い熱伝導性を有する結合された金属相を備えており、これにより、チャージの散逸とターゲットの温度を調節するためのターゲットからの熱の除去とを提供することができる。
【0033】
更に別の複合スパッタリングターゲットの形態は、(マトリクス相を構成する)非金属相のマトリクスであって、このマトリクス中には、(封入相を構成する)金属材料の球体あるいは粒体を有する不連続の金属体が埋め込まれている。
この形態の複合スパッタリングターゲットは、チャージの散逸あるいは高い熱放散といった利点は備えていないが、低いスパッタリング速度に対して用いられ得る。
【0034】
複合ターゲットのスパッタリングは、反応種及び非反応種を有する気体を含む低圧のスパッタリング雰囲気中で実行される。
スパッタリング雰囲気は、複合ターゲットの一方または双方の成分相の表面と反応する一以上の反応種を含んでおり、2つの成分相の露出されている単位面積当たりのスパッタリング速度は、前記反応種の分圧の関数として制御される。
スパッタリング雰囲気中の反応種は、硫化水素、硫黄原子と二価の硫黄、及びこれらの混合物を含むグループから選択される耐硫黄性を有する化合物であっても良い。
スパッタリング雰囲気中に存在する非反応種は、例えばアルゴン、窒素、及び不活性ガスあるいはこれらの混合物から選択される。
このようにして、蒸着された膜の組成は、複合ターゲットのそれぞれの相がスパッタされる活性化された表面の相対的な面積には無関係に制御され得る。
更には、蒸着膜成分の金属元素(例えばアルミニウム)及びアルカリ土類元素は、初期にはターゲットの複合構成内で物理的に隔離されているので、それらは蒸着基板上で蒸着されるまでは互いに反応しない。
【0035】
本発明のかかる観点において、スパッタリング雰囲気ガスにおける反応種の組成と圧力とに関連して、複合ターゲットの前記2つの相の活性化されたスパッタ領域内での露出面積を設定すると共に、スパッタリング雰囲気での反応種の圧力と組成とを調節してスパッタリング工程の際に実際の組成を制御することにより、ターゲット上に蒸着される原子種の相対的なノミナル濃度が設定される。
スパッタリング雰囲気での反応種の圧力と組成とは、蒸着チャンバ内での反応種の反応速度に対してスパッタリング雰囲気中で反応性のプロセスガスを構成する各々の反応種の噴射速度(injection rate)を制御することにより調節される。
複合ターゲットの前記2つの相からのスパッタリング速度を変更可能とすることにより、十分なチャージの散逸及びターゲットの製造容易化といった他の要求を満足するために、ターゲットの成分の相対的な表面積を設定できるというフレキシビリティが得られる。
再度言及すると、複合スパッタリングターゲットは、活性化されたスパッタリング領域において、複合ターゲットの成分相の一つである非金属材料に対し、他の一つの相である金属材料の露出表面積の割合は、スパッタリング工程の間で実質的に一定に維持されるように提供され、前記割合は約0.1〜0.7の範囲とされ、いくつかの観点においては約0.2〜0.6の範囲とされる。
蒸着膜の所望の組成を達成するためのスパッタリング工程の制御は比較的単純なものであって、スパッタリング雰囲気ガス内での例えば耐硫黄性を有する反応種の分圧を調節することが要求されるだけである。
本発明の方法で使用するための適切な圧力は、約0.05Pa〜約0.3Paである。
【0036】
蒸着は、Edwards(商標)、Ulvac(商標)、Leybold(商標)等により市販されている最新の高周波マグネトロンスパッタリング装置であれば、どのようなものにおいても行うことができ、これらの装置は、硫化水素及びその他の反応性プロセスガスを扱うことができるガス噴射システム及び排気システムに適合しており、更に蒸着基板の加熱手段を備えている。
スパッタリングは、単位面積当たり約3ワット〜5ワットの出力で行われる。
【0037】
本発明の方法の一つの実施例においては、複合スパッタリングターゲットは、アルミニウムを含む金属マトリクス相を有していると共に、非導電性の封入相は、希土類がドーピングされたアルカリ土類金属の硫化物である。
スパッタリング雰囲気内の反応種としては、硫化水素、硫黄原子または二価の硫黄が挙げられ、その分圧は、0.05Pa〜0.3Paである。
耐硫黄性種の分圧は、スパッタリング雰囲気内の活性化されたスパッタリング領域における複合ターゲットの金属成分及び非金属成分の露出された表面積の割合に従って調節され、これにより、燐光体膜基板上に蒸着する前記2つの成分における元素の割合が、所望の割合とされる。
ターゲットに入力される高周波パワーは、平方センチ当たり約3〜5ワットであり、より好適には平方センチ当たり約3.3〜4.5ワットとされる。
アルミニウム硫化物と共にアルミニウム表面の不動態化が増進する結果、アルミニウムのマトリクス相からのスパッタリング速度は、硫化水素若しくは硫黄の圧力に対して減少する関数である。
対照的に、硫化物の封入相は、事実上、硫化水素若しくは硫黄の圧力に対する依存性を持っていない。
従って、与えられたターゲットに対し、蒸着された膜内のバリウムに対するアルミニウムの割合は、スパッタリング蒸着雰囲気におけるアルゴンに対する硫化水素の割合についての減少関数である。
【0038】
酸素がスパッタリング雰囲気内に存在するところでは、要求される最小限のスパッタリング速度は、蒸着される膜内で許容され得る酸素含有量と、スパッタリング雰囲気内に残存する酸素含有量とに依存している。
典型的には、スパッタリング雰囲気中の酸素は、蒸着された膜と反応し、この反応速度は、膜の組成と、吸着水若しくは他の触媒種の存在とに依存している。
スパッタリング工程は、膜内の最大酸素含有量を超えないように十分に短時間のうちに実行され、従って、スパッタリング速度は、この時間内に蒸着を完了するために十分な速さでなくてはならない。
スパッタリングの分野における当業者により理解されるように、他の工程条件は、所望の結果を達成するために適宜最適化される。
【0039】
要約すれば、本方法は、高くて均一な明度と所望のカラー発光を提供する多成分の薄い燐光体膜の蒸着を可能とするものである。
この方法により、燐光体材料の均一な層が、全面積及び蒸着された燐光物質の厚さ方向に亘って最小の組成バラツキで蒸着して作製される。
とりわけ、燐光物質は、例えば特許文献1に開示されている厚膜絶縁性電子発光デバイス内で蒸着される。
簡潔に述べると、ディスプレイは特徴的には、最初に下側の電極構成を蒸着により形成し、次に厚膜の絶縁構成を蒸着により形成し、最終的に燐光物質と光透過性を有する上部の導電体とを構成する薄膜を蒸着により形成する方法によって、剛性と耐熱性を備える基板上で構成される。
燐光体材料の焼鈍は、当業者であれば理解されるように、約700℃〜約1100℃の温度範囲で行われる。
厚膜及び薄膜を湿気あるいは他の雰囲気中の汚染物質による品質低下から保護するために、全体構成は、シール層で覆われている。
【0040】
以下の実験例に含まれるデータは、元素比率に関し、バリウム・チオアルミ酸塩に限定されるものである。
しかしながら、本方法には、他のチオアルミ酸塩、チオガレート、チオアルミ酸塩を周期律表のIIA族またはIIB族の一以上の元素と組み合わせた化合物、チオオキシアルミ酸塩、チオオキシガレート(thiooxygallate)、及びチオオキシガレートを周期律表のIIA族またはIIB族の一以上の元素と組み合わせたものも適用可能である。
【0041】
上記開示は、本発明の概要を記述している。
以下の特定の実験例を参照することにより、本発明がより完全に理解されるであろう。
これらの実験例は、例示目的のためのみに記述したものであり、本発明の技術的範囲を限定的に解釈するためのものではない。
変形及び均等物への置換は、本発明の目的に適合するものであれば、考慮すべきものである。
本明細書には特定の用語が用いられているけれども、そのような用語は、記述的な意図で使用しているものであって、限定の目的で用いているものではない。
【0042】
[実験例1]
一連のバリウム−アルミニウムの硫化物の燐光体膜を、本発明の方法を用いて蒸着した。
ターゲットとして、2組の交差する溝を備えた直径7.6cmのアルミニウム板を用いた。
溝を、非導電性のスパッタリング材料で充填した。
溝の幅を2mm、溝の間隔を3mm、及び溝の深さを4mmとした。
溝は、ユーロピウム硫化物を5モル%ドーピングしたバリウム硫化物で充填した。
このバリウム硫化物を圧縮して溝内に詰め込んだ。
ターゲットの平面図は、図2に示される。 スパッタリングの際には、150ワットの高周波パワーがターゲットにかけられた。
スパッタリングチャンバ内に、アルゴンを7標準立法センチ/分(standard cubic centimeters per minute:sccm)、硫化水素を4sccm導入することによりスパッタリング雰囲気を設定し、動作圧力を0.093Paに維持した。
これにより、アルゴンと硫化水素の分圧比は、1.75:1とした。
このような条件下で、蒸着速度は、13.3Å/秒であった。
約400nmの厚さの燐光体膜を得るためのスパッタリング時間は約5分であった。
金電極を蒸着し、次に厚膜の複合絶縁体層を形成し、その後に米国特許第6,589,674号明細書(引用することにより、その全体が本明細書に組み込まれる。)に開示されている技術によりチタン酸バリウムの薄膜を蒸着したアルミニウムのベースの上に、蒸着膜を形成した。
蒸着後に、真空を損なわないながらも酸素を約1Paの圧力で導入し、スパッタリングチャンバ内の原位置において約730℃の温度で、形成した膜に熱処理を施した。
【0043】
燐光物質上にアルミナ層を蒸着すると共に、第2のデバイス電極を形成するために前記アルミナ層の上にインジウムスズ酸化物の透明な導電体層を蒸着することにより、燐光物質が蒸着された前記基板を完全な電子発光デバイスに仕上げた。
デバイスに、極性を変えながら光学的閾値よりも60V高い電圧振幅で40ms幅の電圧パルスを印加してテストを行った。
ここで光学的閾値とは、デバイスが、1平方メートル当たり1カンデラよりも大きな明度で発光し始める電圧を言う。
パルスの周期は240Hzとした。
このデバイスは、138Vの光学的閾値を示し、0.106のCIEのY座標で1平方メートル当たり133カンデラの青色の発光を生じた。
【0044】
蒸着の際にデバイスに隣接して配置されたシリコンウェハ上に形成された膜を化学分析することにより測定された燐光体膜中のバリウムに対するアルミニウムの比率は、約4:4であった。
このデバイス中のスパッタされた燐光物質の性能は、公知の電子ビーム蒸着法を用いて蒸着された燐光物質よりも優れていた。
【0045】
[実験例2]
蒸着速度を13Å/秒ではなく12Å/秒、動作圧力を0.093Paではなく0.086Pa、及び蒸着後の焼鈍温度を730℃ではなく約760℃とした以外は実験例1と同様な電子発光デバイスを準備した。
このデバイスの性能は実験例1と同様であって、光学的閾値が153V、0.126のCIEのY座標で1平方メートル当たり126カンデラの輝度が得られた。
このことは、デバイス性能は焼鈍温度に幾分かは依存するものの、デバイス性能の重大な障害を生じるものではなく、焼鈍温度の多少の変動は許容できることを示していた。
【0046】
[実験例3]
図2に示されるようなユーロピウム硫化物をドーピングしたバリウム硫化物を挿入するための交差する平行な溝を設ける代わりに同心を為す円環状の溝をターゲットに形成した以外は実験例1と同様な電子発光デバイスを準備した。
スパッタリングのために、雰囲気中の硫化水素に対するアルゴンの比率は7容量部対2容量部、動作圧力を約0.19Pa、及び蒸着速度は約10.9Å/秒とした。
デバイスの燐光体膜上には、アルミニウム層に代えて窒化珪素の絶縁膜を形成した。
この素子の輝度は、実験例1および実験例2よりも低い1平方メートル当たり98カンデラであった。
ターゲットの表面上で露出されたバリウム硫化物に対する露出されたアルミニウムの比率に起因して、スパッタリング速度は先の2つの実験例よりも幾分低くなっていた。
このことから、先の2つの実験例と比較すると、窒化珪素の絶縁層が輝度の低下をもたらしているものと考えられた。
もっとも、輝度の低下の幾分かは、ターゲットの形状及び蒸着条件が変化したことに起因するバリウムに対するアルミニウムの比率の変化によるものと考えることもできる。
【0047】
[実験例4]
ターゲットが、粒状の金属アルミニウムが均一に分散されているユーロピウム硫化物をドーピングした圧縮したバリウム硫化物の粉末とした以外は実験例1と同様な電子発光デバイスを準備した。
金属アルミニウムの粒径は約4mmとし、ターゲット中のバリウム硫化物に対するアルミニウムの比率は、露出されたバリウム硫化物に対する露出されたアルミニウムの面積の割合が1:5となるように設定した。
他の相違点として、工程の雰囲気圧力を0.073Paではなく0.16Pa、及び蒸着速度を13.3Å/秒ではなく6.4Å/秒とした。
デバイスの燐光体膜上には窒化珪素の膜を形成した。
蒸着速度の低下により蒸着時間が長くなり、このため蒸着の際に酸素により燐光物質が汚染された。
おそらく高い酸素含有量に起因するものと考えられるが、このデバイスは、0.14の高いCIEのY座標で1平方メートル当たり83カンデラの低い輝度を示した。
また、Y座標のシフトは、バリウムに対するアルミニウムの比率に起因するものかもしれない。
【0048】
本発明の好適な実施例が本明細書で詳細に説明されているが、本技術における当業者であれば、本発明の精神及び添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、これらの実施例に対して種々の変形をさせ得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】圧縮されたアルカリ土類金属の硫化物で充填される同心を為す円環状の溝を備えている複合スパッタリングターゲットの一実施例の代表的なマトリクス部分を示すものである。
【図2】圧縮されたアルカリ土類金属の硫化物で充填される互いに交差する平行な円環状の溝を備えている複合スパッタリングターゲットの他の実施例の代表的なマトリクス部分を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上へ多成分から成る薄膜燐光体組成を蒸着するための方法であって、
− 反応種と非反応種とを有するガスを含む低圧スパッタリング雰囲気中で、燐光物質の組成に寄与する金属材料と非金属材料とを含む2つの成分相を有する単一の複合ターゲットをスパッタリングするステップと、
− 前記複合ターゲットの前記2つの成分相のスパッタリング速度を制御するために前記スパッタリング雰囲気内で前記反応種の圧力を変化させることにより、蒸着すべき前記2つの成分相における元素の割合を、前記基板上に形成する燐光体膜として所望の割合とするステップと、
を備えていることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記スパッタリング雰囲気内での前記反応種の圧力を、活性化されたスパッタリング領域における前記複合ターゲットの2つの成分相の露出された表面積の割合に従って調節することにより、蒸着すべき前記2つの成分相における金属材料と非金属材料との割合を、基板上に形成する燐光体膜として所望の割合とするステップを備えていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
活性化された前記スパッタリング領域において、非金属材料を含む相の露出表面積に対する金属材料を含む相の露出表面積の割合が、前記複合ターゲットのスパッタリング工程の間で実質的に約0.1〜0.7の範囲で一定に維持するように前記複合スパッタリングターゲットを提供するステップを備えていることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記割合を約0.2〜0.6の範囲とするステップを備えていることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記反応種が、硫化水素、硫黄原子及び/若しくは二価の硫黄を含むステップを備えていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記非反応種が、一以上の不活性ガスを含むステップを備えていることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項7】
前記不活性ガスが、アルゴン、窒素及びこれらの混合物を含むグループから選択されるステップを備えていることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記圧力を、約0.05Pa〜約0.3Paとするステップを備えていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
スパッタリングを、約3〜5ワット/cmの出力密度で行うステップを備えていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記金属材料が、金属と熱伝導性及び導電性を有する金属合金とを含むグループから選択されるステップを備えていることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記金属が、アルミニウム、ガリウム及びインジウム含むグループから選択されるステップを備えていることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記非金属材料が、周期律表のIIA族またはIIB族の元素及び希土類元素の硫化物、酸硫化物及び酸化物を含むグループから選択される化学的な化合物を含むステップを備えていることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記希土類元素は、ユーロピウム、テルビウム及びセシウムを含むグループから選択されるステップを備えていることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記複合ターゲットが、
− マトリクス相と封入相、及び
− 2つのマトリクス相
とから成るグループから選択される2つの成分相を有しており、
− 前記成分相の一方が、燐光物質の組成に寄与する一以上の金属材料を含むと共に、前記成分相の他方が、燐光物質の組成に寄与する残余の非金属材料を含むステップを備えていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記マトリクス相がアルミニウムの金属マトリクスを含むと共に、前記封入相が希土類をドーピングしたアルカリ土類の硫化物を含むステップを備えていることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記複合スパッタリングターゲットが、前記封入相を含む溝が刻まれた金属ディスクとして提供されるマトリクス相を含むステップを備えていることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記溝を実質的に平行とするステップを備えていることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記溝を約2〜3mmの幅とすると共に、各溝を約3mm離して形成するステップを備えていることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記溝を実質的に同心状とするステップを備えていることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記溝を約5〜6mmの幅とすると共に、各溝を約2mm離して形成するステップを備えていることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記封入相が、金属または金属合金を含む前記マトリクス相で充填されている気孔を有する多孔プラークとして提供されるステップを備えていることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記封入相が、非金属マトリクス内に供給される粒体あるいは球体から選択される不連続の金属体の形態とするステップを備えていることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記燐光体薄膜組成を、アルカリ土類チオアルミ酸塩燐光物質とするステップを備えていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記燐光物質を、ユーロピウムで活性化したバリウム・チオアルミ酸塩とするステップを備えていることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記燐光体薄膜組成を、アルカリ土類チオオキシアルミ酸塩燐光物質とするステップを備えていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記燐光物質を、約700℃〜約1100℃の温度で更に焼鈍するステップを備えていることを特徴とする請求項23及び25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記燐光物質を、厚膜絶縁性電子発光デバイス内で提供するステップを備えていることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
多成分から成る薄膜燐光体組成を蒸着するための方法に使用される複合スパッタリングターゲットであって、
− マトリクス相と封入相、及び
− 2つのマトリクス相
とから成るグループから選択される2つの成分相を有しており、
− 前記成分相の一方が、燐光物質の組成に寄与する一以上の金属材料を含むと共に、前記成分相の他方が、燐光物質の組成に寄与する残余の非金属材料を含み、
前記2つの成分相は、蒸着より前には互いに反応しないことを特徴とする複合スパッタリングターゲット。
【請求項29】
前記マトリクス相が、燐光物質の組成に寄与する一以上の金属材料を含むと共に、前記封入相が燐光物質の組成の残余の元素に寄与する化学的な化合物である一以上の非金属材料を含むことを特徴とする請求項28に記載のターゲット。
【請求項30】
前記金属マトリクスが、熱伝導性及び導電性を有する金属合金とを含むグループから選択されることを特徴とする請求項29に記載のターゲット。
【請求項31】
前記金属が、アルミニウム、ガリウム及びインジウム含むグループから選択されることを特徴とする請求項30に記載のターゲット。
【請求項32】
前記封入相が、周期律表のIIA族またはIIB族の元素の硫化物、酸硫化物及び酸化物を含むグループから選択される一以上の化学的な化合物を含むことを特徴とする請求項32に記載のターゲット。
【請求項33】
前記封入相が、更に希土類金属の活性剤を含むことを特徴とする請求項32に記載のターゲット。
【請求項34】
前記金属マトリクスが、アルミニウムであると共に、前記封入相が希土類をドーピングしたアルカリ土類の硫化物を含むことを特徴とする請求項33に記載のターゲット。
【請求項35】
前記複合ターゲットが、前記封入相を含む溝が刻まれた金属ディスクとして提供されるマトリクス相を含むことを特徴とする請求項29に記載のターゲット。
【請求項36】
前記溝が実質的に平行とされていることを特徴とする請求項35に記載のターゲット。
【請求項37】
前記溝が約2〜3mmの幅とされると共に、各溝が約3mm離して形成されていることを特徴とする請求項36に記載のターゲット。
【請求項38】
前記溝が実質的に同心状とされると共に、ことを特徴とする請求項35に記載のターゲット。
【請求項39】
前記溝が約5〜6mmの幅とすると共に、各溝が約2mm離して形成されていることを特徴とする請求項38に記載のターゲット。
【請求項40】
前記封入相が、金属または金属合金を含む前記マトリクス相で充填されている気孔を有する多孔プラークとされていることを特徴とする請求項29に記載のターゲット。
【請求項41】
前記封入相が、非金属マトリクス内に供給される粒体あるいは球体から選択される不連続の金属体の形態として提供されていることを特徴とする請求項29に記載のターゲット。
【請求項42】
前記複合ターゲットが、金属マトリクス相と非金属マトリクス相とを有しており、これらの相が相互に浸透されることを特徴とする請求項28に記載のターゲット。
【請求項43】
基板上へ多成分から成る薄膜燐光体組成を蒸着するための単一ソーススパッタリングの方法であって、
a) 単一の複合ターゲットが、
− マトリクス相と封入相、及び
− 2つのマトリクス相
とから成るグループから選択される2つの成分相を有しており、
− 前記成分相の一方が、燐光物質の組成に寄与する一以上の金属材料を含むと共に、前記成分相の他方が、燐光物質の組成に寄与する残余の非金属材料を含み、
前記2つの成分相は、蒸着より前には互いに反応しないようにするステップと、
b) 反応種と非反応種とを有するガスを含む低圧スパッタリング雰囲気中に前記単一の複合ターゲットを設置するステップと、
c) 前記複合ターゲットに十分なパワーを与えて、前記複合ターゲットの前記マトリクス相及び前記封入相のスパッタリング速度を制御するために前記スパッタリング雰囲気内で前記反応種の圧力を変化させることにより、蒸着すべき前記2つの成分相における元素の割合を、前記基板上に形成する燐光体膜として所望の割合とするステップと、
を備えていることを特徴とする方法。
【請求項44】
前記スパッタリング雰囲気内での前記反応種の圧力を、活性化されたスパッタリング領域における前記複合ターゲットの2つの成分相の露出された表面積の割合に従って調節することにより、蒸着すべき前記2つの成分相における金属材料と非金属材料との割合を、基板上に形成する燐光体膜として所望の割合とするステップを備えていることを特徴とする請求項43に記載の方法。
【請求項45】
活性化された前記スパッタリング領域において、非金属材料を含む相の露出表面積に対する金属材料を含む相の露出表面積の割合が、前記複合ターゲットのスパッタリング工程の間で実質的に約0.1〜0.7の範囲で一定に維持するように前記複合スパッタリングターゲットを提供するステップを備えていることを特徴とする請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記割合を約0.2〜0.6の範囲とするステップを備えていることを特徴とする請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記反応種が、硫化水素、硫黄原子及び/若しくは二価の硫黄を含むステップを備えていることを特徴とする請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記非反応種が、一以上の不活性ガスを含むステップを備えていることを特徴とする請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記不活性ガスが、アルゴン、窒素及びこれらの混合物を含むグループから選択されるステップを備えていることを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記圧力を、約0.05Pa〜約0.3Paとするステップを備えていることを特徴とする請求項49に記載の方法。
【請求項51】
スパッタリングを、約3〜5ワット/cmの出力密度で行うステップを備えていることを特徴とする請求項43に記載の方法。
【請求項52】
前記金属材料が、金属と熱伝導性及び導電性を有する金属合金とを含むグループから選択されるステップを備えていることを特徴とする請求項43に記載の方法。
【請求項53】
前記金属が、アルミニウム、ガリウム及びインジウム含むグループから選択されるステップを備えていることを特徴とする請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記非金属材料が、周期律表のIIA族またはIIB族の元素及び希土類元素の硫化物、酸硫化物及び酸化物を含むグループから選択される化学的な化合物を含むステップを備えていることを特徴とする請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記希土類元素は、ユーロピウム、テルビウム及びセシウムを含むグループから選択されるステップを備えていることを特徴とする請求項54に記載の方法。
【請求項56】
基板上へ多成分から成る薄膜組成を蒸着するための単一ソーススパッタリングの方法であって、
a) 単一の複合ターゲットが、
− マトリクス相と封入相、及び
− 2つのマトリクス相
とから成るグループから選択される2つの成分相を有しており、
− 前記成分相の一方が、薄膜の組成に寄与する一以上の金属材料を含むと共に、前記成分相の他方が、薄膜の組成に寄与する残余の非金属材料を含み、
前記2つの成分相は、蒸着より前には互いに反応しないようにするステップと、
b) 反応種と非反応種とを有するガスを含む低圧スパッタリング雰囲気中に前記単一の複合ターゲットを設置するステップと、
c) 前記複合ターゲットに約3〜5ワット/cmの出力密度を与えて、前記複合ターゲットの前記マトリクス相及び前記封入相のスパッタリング速度を制御するために前記スパッタリング雰囲気内で前記反応種の圧力を変化させることにより、蒸着すべき前記2つの成分相における元素の割合を、前記基板上に形成する薄膜として所望の割合とするステップと、
を備えていることを特徴とする方法。
【請求項57】
前記スパッタリング雰囲気内での前記反応種の圧力を、活性化されたスパッタリング領域における前記複合ターゲットの2つの成分相の露出された表面積の割合に従って調節することにより、蒸着すべき前記2つの成分相における金属材料と非金属材料との割合を、基板上に形成する薄膜として所望の割合とするステップを備えていることを特徴とする請求項56に記載の方法。
【請求項58】
活性化された前記スパッタリング領域において、非金属材料を含む相の露出表面積に対する金属材料を含む相の露出表面積の割合が、前記複合ターゲットのスパッタリング工程の間で実質的に約0.1〜0.7の範囲で一定に維持するように前記複合スパッタリングターゲットを提供するステップを備えていることを特徴とする請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記割合を約0.2〜0.6の範囲とするステップを備えていることを特徴とする請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記反応種が、硫化水素、硫黄原子及び/若しくは二価の硫黄を含むステップを備えていることを特徴とする請求項56に記載の方法。
【請求項61】
前記不活性ガスが、アルゴン、窒素及びこれらの混合物を含むグループから選択されるステップを備えていることを特徴とする請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記圧力を、約0.05Pa〜約0.3Paとするステップを備えていることを特徴とする請求項61に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−509911(P2006−509911A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−559516(P2004−559516)
【出願日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【国際出願番号】PCT/CA2003/001887
【国際公開番号】WO2004/055231
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(505089913)アイファイアー・テクノロジー・コープ (18)
【Fターム(参考)】