説明

複合セラミック板およびその製造方法

【課題】消臭・除菌性を有する複合セラミック板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】複合セラミック板100は、透水性の上層セラミック層101と、前記上層セラミック層101に接着され、かつ多孔質粒子を焼結して形成される下層セラミック層102とを備え、前記下層セラミック層102が前記多孔質粒子としてのCaOと、0.005質量%〜15質量%の範囲の金属とを含有しており、上層に透水性層を付与し、下層に消臭・除菌層を配置することで、高い効率の消臭・除菌性を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック材料に関し、より詳細には、トイレの小便器下床、男女共同トイレ床、簡易トイレ用の内装材、歩道、地下街通路、床など各種の臭いの除去・除菌を可能とし、水膜によるスリップを防止する複合セラミック板および該複合セラミック板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的にセラミック質のタイルは、壁材や床材として使用されている。タイルと総称されるセラミック材料にもいくつかの種類があり、用途に応じて使い分けがなされている。例えば、セラミックスの生地から用途を分類すると、外壁用途には吸水率の低い磁器質(吸水率1質量%以下)、せっ器質(吸水率5質量%以下)のセラミック材料が用いられ、内装材には寸法精度の高い陶器質(吸水率22質量%以下)が使用される。
【0003】
また、セラミック材料の機能から分類すると、特にトイレの内装タイルとして使用されるセラミック材料では、撥水させ汚垂や汚水を処理するものや、タイルに溝を設け排尿者の立ち位置を制御して、汚垂や汚水を防止するために用いられるセラミックス板が知られていた。これらの他にも、透水性のあるタイルやアスファルトといった骨材の隙間を水が通過して透水性を付与したタイルも知られている。
【0004】
従来のセラミック材料を使用したタイルにおける「撥水させ汚垂や汚水を処理する」とは、汚垂や汚水を撥水させ、しみこまないようにし、汚れは、タイルを定期的に清掃することによって除去するという考え方であった。
【0005】
しかしながら、このようなタイルでは、定期清掃が不完全な場合や、定期清掃間にタイルの継ぎ目などに汚垂や汚水が進入したり、撥水によって床や壁飛び跳ねて染みてしまい、時間がたつことによって、汚染物質が酸化されることによって悪臭の原因になっており、清掃までの間、汚垂や汚水がタイルの上に残っている為、見た目の不潔感が払拭できなかった。
【0006】
また、男女共同便所などでは、男性と女性の排尿のスタイルが異なる為、男性が立って用を足す際便器から汚垂が飛び散り床に撥水され丸く汚垂が残っていることがしばしば見られ、また、女性の場合、便座に座る際に非常に不潔感があった。また、厨房などでは歩行時に床面にある汚水がはねて食材を汚染させてしまう場合もあり、いずれも衛生面から問題があった。
【0007】
一方、上述した用途に透水性のタイルやアスファルトを用いることもできるが、透水性のタイルやアスファルトは、骨材の隙間を水を通過させることにより透水性を持たせているので、砂やゴミが骨材の間に侵入すると目詰まりを起こし、透水性の持続性に劣るという問題があった。
【0008】
さらに、単に透水性のタイルを使用しただけでは、タイル内部に残った汚垂や汚水が酸化し、悪臭が発生するとなかなか除去できないという問題点があり、この結果、時間の経過と共に透水性が失われて悪臭がひどくなるという問題点があった。
【0009】
これまでトイレなどの汚垂は発生する箇所に使用されるセラミック材料が検討されており、例えば、特開平8−333791号公報(特許文献1)には、トイレのコーナー部の汚れを防止する目的で、便器に近い側の前端縁が、前上がりの傾斜を形成する汚垂石が記載されている。また、特開平10−1300072号公報(特許文献2)には、水活性鉱石の粉末をポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂と混合し、100℃から200℃の範囲の温度で焼結させて形成される抗菌性、消臭性、脱臭性、酸化・還元効果を有するセラミックス多孔質体が記載されている。さらに、特表2007−522263号公報(特許文献3)には、天然骨材、高分子複合剤、硬化剤、抗菌剤を含んだ複合構成材料が記載されている。
【0010】
上述した各種のセラミック材料が知られているものの、これらのセラミック材料は、抗菌・除菌性、消臭性を単一の層構造を有する複合セラミック板で達成しようとするものであり、透水・保水性に欠け、この結果、汚垂などの汚れは定期的な清掃によらなければ除去できないという問題があった。また、汚垂の発生するトイレばかりではなく、地下街の通路、歩道、内装材などに利用する際の耐摩耗性や、吸水保水性と、抗菌・消臭効果を両立させる点では充分なものではないという問題があった。また、いずれの先行技術もセラミック材料の使用される面積が広いこともあり、抗菌性・消臭性を提供するために充分な面積に渡って敷設しようとする場合、コストが高まり、その利用性が限られることになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−333791公報
【特許文献2】特開平10−1300072号公報
【特許文献3】特表2007−522263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、汚垂や汚水がタイルの上に残っている不潔感と、長期間使用した場合に、継ぎ目などから汚垂や汚水が進入し、汚垂や汚水が酸化し悪臭の原因となることを防止することで消臭機能を提供し、さらに透水性・保水性が長期間に渡って発揮されることで、水濡れ部の歩行者のスリップを防止し、かつ内部に保持された水が蒸発するまで腐廃などによる衛生面での問題を生じさせないセラミックス板およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述した従来技術の問題点に着目してなされたものであり、本発明では、除菌・消臭機能を有するセラミック材料層(下層セラミック層)と、透水・保水機能を有するセラミック材料層(上層セラミック層)とを常温接合してなるセラミック材料を提供する。下層セラミック層は、炭酸カルシウム粉末、金属粉末および無機バインダーを含む混合物を型に流し込み、500℃〜1300℃、特に好ましくは1100℃〜1250℃にて焼成して焼成体として形成する。
【0014】
上層セラミック層は、下層セラミック材料を収容した型枠内に、天然石、着色セラミック、ガラス繊維、炭素繊維、アルミ繊維などの無機繊維材料、有機バインダー、硬化剤を含む混合物を、下層セラミック上に常温で流し込み常温硬化させ、硬化後、脱型することにより、下層セラミック層上に常温接合することで形成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、消臭機能を提供し、さらに透水性・保水性が長期間に渡って発揮されることで、水濡れ部の歩行者のスリップを防止し、かつ内部に保持された水が蒸発するまで腐敗などによる衛生面での問題を生じさせない、歩留まりが高く、コスト効果の高い複合セラミックス板およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の複合セラミック板の断面構造を示した図。
【図2】本実施形態の複合セラミック板を汚垂石として敷設したトイレの実施形態を示した図。
【図3】本実施形態の複合セラミック板を汚垂石として敷設したトイレの施工態様を示した図面代用写真。
【図4】本実施形態の複合セラミック板の製造方法を示した工程図。
【図5】本実施形態の消臭性能を検査するための装置を示した図。
【図6】本実施形態における消臭性能の評価方法を示した図。
【図7】消臭性能の試験結果を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を、実施形態に従って説明するが、本発明は、後述する実施形態に限定されるものではない。図1は、本実施形態の複合セラミック板100の断面構造を示した図である。複合セラミック板100は、下層セラミック層102と、下層セラミック層102上に積層された上層セラミック層101とを含んで構成される。上層セラミック層101は、本実施形態の複合セラミック板100の表層を形成し、外観の見栄え、色合い、透水性、硬度、耐摩耗性といった特性を付与する機能を提供しており、いわゆる人工石の外観を提供しながら透水性を提供する。
【0018】
下層セラミック層102は、炭酸カルシウム(CaCO)粉末と金属粉末とを含み、適切な厚さ・嵩高さを提供するために便器、手洗い、ガイシなど、カオリナイト、モンモリロナイト、パイロフィライト、絹雲母、滑石、ジプサイト質系のセラミック材料などの粘土系材料を焼成して形成されるセラミック製品を粉末として添加し、これに無機バインダーと混合し、焼成して形成される金属または金属酸化物を含有するセラミック材料とされている。下層セラミック層に添加される粘土系のセラミックスは、特に制限はないものの、適切な嵩高さを提供し、製品コストを低下させるという観点、天然貝殻なども無限にあるわけではないので省資源の観点から、廃便器、廃手洗い、廃ガイシなど、粘土系セラミックの廃品を粉砕して形成される粉末として添加することが好ましい。
【0019】
より詳細に本実施形態の複合セラミック板の組成を以下に説明する。上層セラミック層101は、無機繊維材料と、骨材と、有機バインダーとを含んで構成することができ、骨材および無機繊維材料形状伸そう異に応じて成型後に多孔質性が付与されている。無機繊維材料としては、ロックウールまたはグラスウール、ガラス繊維、炭素繊維、アルミ繊維を挙げることができ、これらの無機繊維材料は、ハンドミキサーや設置型ミキサーにて骨材および有機バインダーと混合される。
【0020】
骨材は、上層セラミック層101に適切な硬度・耐摩耗性・石材様の外観・色合いを提供するとともに、無機繊維材料と骨材との間の適切な空隙を提供し、透水性を提供するために用いられる。骨材としては、白御影石、御影石、乱形石などの石材や砂、砂利、ホタテ貝殻、あわび貝殻ホッキ貝、サザエ貝殻、牡蠣貝などの海産物である貝殻や亀の甲羅、蟹の甲羅などを砂状に粉砕して粉末、粒状、塊状としたものを挙げることができる。
【0021】
また、有機バインダーとしては、接着性および製造性の観点から、常温硬化型のポリマー材料を挙げることができ、具体的には例えば、ビニルエステル系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂、ウレタン系樹脂、熱硬化性アクリル系樹脂、などがあり、好ましくは、ビニルエステル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、熱硬化性アクリル系樹脂、または天然樹脂、例えば、天然樹脂である、蝋(ろう、ワックス)は狭義に特定の一群の化学物質を指すときは高級脂肪酸と一価または二価の高級アルコールとのエステルを指す融点高い油脂状の物質(ワックス・エステル)やハゼ蝋、ハゼノキの果実から作られる蝋などを挙げることができ、これらの有機バインダーは、硬化性を付与でき、さらに透水性を阻害しない程度に空隙を残しておくことができる限り、単独でも複数混合して用いることもできる。
【0022】
本実施形態の上層セラミック層101の透水係数は、使用される用途に必要な程度の透水性を有していれば良く、具体的には、透水係数として10−1cm/sec〜10−5cm/secの範囲のものが可能であるが、本実施形態で使用する場合には、透水係数が10-1cm/sec〜10-3cm/secの範囲とすることで、汚垂などの透水性を充分に提供することができる。
【0023】
骨材の大きさは、透水性、硬度、外観に影響を与えるので、特定の用途に適合するように適宜選択することができる。本実施形態に複合セラミック板100に使用する場合、透水性・硬度および石様の外観を提供するため、10μm〜10cmのものを用いることができ、透水性の観点からすれば、より好ましくは1mm〜10mmの範囲のものを用いることができる。
【0024】
また、有機バインダーは、無機成分に対する質量比で、1質量%〜50質量%の範囲で添加することができ、硬度・外観の観点から、好ましくは、3質量%〜10質量%で添加することができる。
【0025】
上層セラミック層101は、液状の有機バインダーを無機繊維に吸着・含浸させ、更に硬化させることによって、骨材間の結着性を補強するとともに、骨材間にも繊維化された合成樹脂がない空間を形成し微細に毛細化しているため、水および空気しか通過せず、砂、埃による詰まり現象が発生しないという特徴を有する。
【0026】
無機繊維材料は、上層セラミック層の質量に対して1質量%〜30質量%で添加することができ、さらに好ましくは無機繊維材料の添加量は、硬度および透水性の観点から1質量%〜13質量%とすることができる。また、有機バインダーは、混合撹拌時の作業性の点から、上層セラミック層の質量に対して2質量%〜30質量%で添加することができ、上層セラミック層101の透水性・機械的強度・外観などの点から、好ましくは3質量%〜10質量%とすることができる。さらに硬化剤は、機械的特性、硬化時間および作業性などの観点から、作業環境を考慮して使用することができ、硬化剤を添加しても所定時間の作業時間を確保できるように、1質量%〜5質量%の量で数回に分け、40質量%の範囲まで上層セラミック層101の機械的特性を見ながら適宜添加することができる。
【0027】
硬化剤としては、有機バインダーの種類に応じて、イソシアート、脂肪族アミン、芳香族アミン、三級、二級アミン、イミダゾール類、液状ポリメルカプタン、ポリスルフィド樹脂、酸無水物族、着在性硬化剤、ジシアンジアミド、粉体状セルロース、炭酸カルシウムなどを挙げることができる。硬化剤を添加する場合に作業性の観点から、組成物の粘度を、50Pa・s〜2500Pa・sとすることができ、更に好ましくは400Pa・s〜900Pa・sとすることが好ましい。
【0028】
下層セラミック層102は、本実施形態の複合セラミック板100の機能のうち、消臭・除菌機能を提供する層であり、上層セラミック101が透過させた汚垂などを適切な透水速度で受容し、アンモニア、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、硫化水素、メルカプタン類、トルエン、キシレンなどの臭気を有する物質の臭気を除去し、また殺菌効果を提供する。
【0029】
下層セラミック層102は、陶器、磁器、セッ器、ガイシといったカオリナイト、モンモリロナイト、パイロフィライト、絹雲母、滑石、ジプサイト質系のセラミック材料、ファインセラミック、石、砂、砂利、白御影石、御影石、乱形石などの石材を使用することができる。これらのうち、カオリナイト、モンモリロナイト、パイロフィライト、絹雲母、滑石、ジプサイト質系のセラミックス材料は、廃便器、廃手洗い、廃浴槽などの廃材を粉砕して使用することができる。以下、この組成物を、増量成分として参照する。
【0030】
この他、下層セラミック層102は、ホタテ貝殻、アワビ貝殻、ホッキ貝、サザエ貝殻、牡蠣貝殻などの海産物由来の貝殻や亀の甲羅、蟹の甲羅などを粉砕し、炭酸カルシウム(CaCO)を主成分とする粉末の焼成体および金属または金属酸化物を含んで構成される。以下、この組成物を、消臭・除菌成分として参照する。
【0031】
下層セラミック層102に使用する各種無機質材料は、粒径を0.1mm〜10cmとすることができ、密度および吸着に際して比表面積を増加させると言う観点から、より好ましくは0.1mm〜2mm程度とすることができる。
【0032】
下層セラミックス層102の消臭・除菌成分に添加することができる金属元素としては、Al、Ti、Mg、V、Cr、Mn、Mo、Pt、W、Cu、Ag、Fe、Snなどを挙げることができる。特に好ましいのは、Fe、Cu、Mg、Pt、Ag、Vであり、コストおよび消臭・除菌特性をバランスさせる点で、金属元素としてFeを使用することが好ましい。これらの金属元素を添加する場合、添加量は、約1質量%〜約50質量%の範囲で添加することができ、消臭・除菌性を考慮すると、金属元素を3質量%〜10質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0033】
下層セラミック層102には、上述した無機粒子を結着させるために無機バインダーを添加することができる。無機バインダーとしては、アモルファスシリカ、釉薬、灰釉、緑釉、ガラスなどを挙げることができ、無機バインダーは、10質量%〜30質量%の範囲で添加することができ、消臭・除菌のための比表面積を考慮して、好ましくは15質量%〜25質量%添加することができる。
【0034】
下層セラミック層102は、上述した増量成分と消臭・除菌成分とを混合し、焼成することによって形成される。消臭・除菌成分と、増量成分の添加割合は、消臭・除菌成分を、増量成分に対して0.5質量%〜30質量%添加でき、コストなどの観点から、1質量%〜5質量%で添加することが好ましい。この結果、消臭・除菌成分は、下層セラミック層102中0.05質量%〜30質量%、より好ましくは、1質量%〜5質量%で添加され、金属成分は、下層セラミック層中に、0.005質量%〜15質量%、より好ましくは、0.015質量%〜3質量%で存在することができる。
【0035】
図2に、本実施形態の複合セラミック板100の使用形態を、トイレ200を例として説明した図を示す。本実施形態の複合セラミック板202は、トイレ200の便器201のました付近の汚垂がたれる箇所に敷設されている。複合セラミック板202に接して、従来のタイル203が敷設されて、トイレ200の床面を形成している。図2に示す本実施形態のトイレ200に使用される複合セラミック板202は、上層セラミック層101の透水能により、矢線Aで示すように複合セラミック板202の内部に浸透して下層セラミック層102へと達し、消臭・除菌が行われ、この結果、汚垂に起因する臭気や汚れの発生を抑制でき、定期清掃の頻度や労力を削減することが可能となる。
【0036】
一方、従来のトイレ220では、従来のタイル222が使用されているので、タイル222は、矢線A′で示されるように透水性がないので、汚垂による汚れがそのまま付着し、広がり、さらに消臭・除菌作用も有しないので、臭気が発生し、定期清掃の頻度も高まることになる。以上のように、本発明の複合セラミック板100をトイレの汚垂の発生する箇所に使用することで、消臭・除菌効果を提供することで、トイレの衛生面を改善することが可能となり、さらに、定期清掃などの頻度や労力を低下させることで、維持コストの削減も可能となる。
【0037】
図3は、本実施形態の複合セラミック板100を使用して施工されたトイレ200の施工態様を示す。本実施形態の複合セラミック板100は、トイレ200の便器201の近傍で、汚垂は飛びはねが発生する可能性のある箇所に、従来のタイル203に接して施設されており、汚垂や飛びはねによる外観の汚れや臭気を効果的に防止することができる。
【0038】
図4を使用して本実施形態の複合セラミック板100の製造方法について説明する。本実施形態の製造方法は、工程400で、下層セラミック層用の増量成分と、消臭・除菌成分とを、角材料を粉砕機などのミリング装置を使用して粉砕し、必要に応じて篩い・分級装置で粒径を選別して用意することから開始する。工程401で、増量成分と、消臭・除菌成分とを上述した配合割合となるようにして混合し、工程402で、型枠内に混合物を充填し、焼成を行う。焼成は、増量成分に対して消臭・除菌成分を、好ましくは0.5質量%〜30質量%、より好ましくは1質量%〜5質量%混ぜ合わせ充分に混合した後、型枠に投入し、好ましくは500℃〜1300℃、より好ましくは900℃〜1200℃で、無機バインダーによる結着性が発現するように電気炉などで空気中で無機バインダーによる最小限の結着性が発現する程度の時間で仮焼きを行う。
【0039】
仮焼きの後、焼成体を脱型し、好ましくは、仮焼きの温度よりも高い温度、好ましくは500℃〜1300℃、より好ましくは1100℃〜1250℃にて、好ましくは、約2時間〜約10時間本焼きすることで、充分に結着強度を付与した下層セラミック層を得る。なお、本焼きと仮焼きに焼成を分離するのは、粉体混合物中に含まれていた水分・空気などを充分に排除した状態で結着させ、ボイドやクラックの発生を防ぐためである。本焼きの温度は、CaCOが熱分解し、CaO(生石灰)を形成する850℃〜以上で行うことが必要である。
【0040】
下層セラミック層の形成後、工程403で下層セラミック層を適寸の型枠内に配置し、下層セラミック層上に上層セラミック層用の組成物を流し込む。上層セラミック層用の組成物は、有機バインダーおよび硬化剤が添加されており、適切な作業性を与える粘度範囲に調整されている。上層セラミック層用の組成物は、常温硬化性なので、再度の焼成操作は不要であり、作業性・製造コストを低下することができる。なお、工程403では、流し込みの後、ブレードによって表面を平滑化または粗面化させる工程を追加することもできる。工程404で、本実施形態の複合セラミック板を型枠から脱型し、工程405で、本実施形態の複合セラミック板の製造方法を終了する。
【0041】
本実施形態の下層セラミック層は、工程402の焼成処理中に、下記式(1)で示される化学反応を生じる。
【0042】
【化1】

【0043】
したがって、下層セラミック層中には、焼成後、CaCO由来の生石灰が含まれることになる。貝殻は、炭酸カルシウムの層が、貝の成長に対応してタンパク質などで層が結合された構造となっている。このため、CaOには、焼成時に結合タンパクが酸化消滅して複雑微細な細孔構造を付与することができる。この結果、本実施形態の生石灰は、生物由来のCaCOからの極めて複雑・微細な多孔質構造を付与することができ、これが本発明の消臭・除菌作用に大きな影響を与えているものと推定される、本実施形態の下層セラミック層の消臭・除菌作用がどのような理由によって発現するのかについては、種々可能性はあるが、機能発現の理由の1つとして、以下の機構が想定できる。
【0044】
下層セラミック層中に存在する生石灰は、生物由来なので多孔質であるため、高い比表面積を有し、その多孔質は生物特有の成長過程にあり、貝殻の成長はカルシウムとタンパクが交互に存在しているため、焼成することにより、タンパク質部分が焼けてしまうため、純粋なカルシウム成分の複雑な多孔質が形成され化学的に作られる酸化カルシウムとは全く異なった表面になり、電子顕微鏡にて目指にて、確認することができる。また、生物由来で作られた酸化カルシウムは、化学的に作られた酸化カルシウムと異なり、水で溶いた場合同じPH12であっても刺激性が低く、環境に影響が少なく食品添加物(こんにゃくを固めるなど)としても使用されている。含有量は0.1〜10質量%が好ましくさらに好ましく、は0.5〜3質量%である。金属元素をその表面に効率的に担持することで、生石灰表面の化学活性を高めることで、臭気の元となる化学物質の吸着・分解を効率化させることが推定できる。また、臭い成分の吸着特性を有する。さらに焼成により生石灰となった多孔質粒子は、汚垂などに含まれる水分と反応し、Ca(OH)(水酸化カルシウム)を形成する。この反応は、ΔH=−63kJ/molという大きな発熱反応であり、汚垂と接触した部分は、局所的な高温となる。生成した高温は、下層セラミック層中の金属成分の触媒活性を高め、臭気の元となる化学物質を分解し、かつ高温殺菌効果による除菌を可能とすることで、本実施形態の複合セラミック板の機能を提供する機構も、本実施形態の硬化を提供する作用の1つとなっているものと考えられる。
【0045】
なお、焼成中に、金属成分が酸化することも想定できるが、Feの場合には、酸化物も高温下でアンモニアなどを分解する触媒作用を保持するので、金属が酸化しても、消臭機能は保持されるものと考えられる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の複合セラミック板は、上層セラミック層の高い透水性と相俟って汚垂などの保持性を高めることで、高い消臭・除菌作用を有するので、汚垂石、インターロッキング、グレーチング、マンホール、透水桝、歩道用タイル、内装材などの建材として使用することができる。
【0047】
本発明の複合セラミック板は、タイルのみでなく例えば、小便器下の汚垂石は汚垂石の残る不潔感や臭気を防止でき、インターロッキングについては水路の目詰まりを防止でき、かつカビや含んだ水が腐って悪臭を発生することが防止でき、グレーチングについては前述の効果に女性の靴のヒール部分が落ちないことや側溝にゴミが入らないという利点を得られる。
【0048】
また、マンホールについては上面の租度を自由にとることが出来る為、オートバイがスリップして転等してしまうといった事故や建物内で、雨天時、歩行者がスリップして転倒する事故なども低減できる、透水桝としては従来の用に下面のみに透水させるのではなく、全面透水することが可能となり雨の処理量が多くなることにより、ゲリラ豪雨時などに効果を発揮する。
【0049】
なお、小便器下のタイルとして使用する場合には、本実施形態の複合セラミック板を2〜5層、より好ましくは2層〜3層積層して積層し、より消臭・保水・除菌性を高めることができる。
【実施例】
【0050】
◎複合セラミック板の製造
【0051】
(A)下層セラミック層
陶器、磁器、セッ器、ガイシといったカオリナイト、モンモリロナイト、パイロフィライト、絹雲母、滑石、ジプサイト質系のセラミック材料の廃材を粉砕して、粒径が0.1mm〜2mmの増量成分の粒子を製造した。また、ホタテ貝殻を原料とした粒径が0.1mm〜0.5mmのCaCO粉末を製造し、この粉末にCaCO粉末に対して10質量部の鉄粉を混合し、消臭・除菌成分を製造した。
【0052】
上述のように製造した各成分を、増量成分77重量部、消臭・除菌成分3重量部、無機バインダ−20重量部を混合して下層セラミック層用の組成物を形成した。この組成物を金属製の型枠内に充填し、600℃で仮焼きを行った後、1200℃で6時間本焼きして、下層セラミック層を形成した。
【0053】
(B)上層セラミック層
下層セラミック層を冷却したのち、金属製の型枠に下層セラミック層を配置し、1mm〜10mmの範囲の白御影石、御影石、乱形石などの石材粒子50質量部、エポキシ樹脂20重量部、ガラスウール10重量部、硬化剤合計20重量部を含む上層セラミック層用の組成物を流し込み、24時間常温硬化させて、脱型し、下層セラミック層および上層セラミック層からなる複合セラミック板を得た。
【0054】
(比較例1)
比較のため、Feを添加せずに実施例1と同一の組成の複合セラミック板を製造した。
【0055】
◎消臭性試験
図5には、本実施例で使用した試験装置の概略図を示す。消臭試験は、検知管式気体測定器(株式会社GASTEC、MODELGV−400)を使用し、JIS K 0804にしたがって試験を行った。消臭の対象とする化学物質は、アンモニアとし、検知管を、No.124(検出濃度100−3000ppm:株式会社GASTEC製)、No.122(検出濃度10−300ppm:株式会社GASTEC製)を使用し、サンプリングガス量を100ml、検出管の変色時間1.5minとして検知管の変色濃度からアンモニアの濃度を測定した。
【0056】
検知管式気体測定器500は、ピストン504、505でガスチャンバ501内に測定対象の化学物質を含有する空気を所定量(100ml)吸引できるようになっている。検知管式気体測定装置500の先端には、検知管503を取付け、また試料気体を吸入しやすくするようにゴムホース502が着脱自在に連結されている。検知管式気体測定器500に試料気体を蓄えた後、両端を欠いた検知管503を、図5のようにセットし、ピストン504、505を矢線Bの方向に移動させ、ガスチャンバ501内の試料ガスを検知管503に通過させ、検知管503の変色具合を検知管503に付けられた目印の位置から検知対象ガスの濃度を測定するものである。
【0057】
図6には、消臭実験の実験配置600を示す。消臭実験は、密閉性の高いプラスチック容器601内に、作成した複合セラミック板を置き、市販のアンモニア水を純水で10倍に希釈し、試料用のアンモニア水とし、注射器603に2mlを採取し、複合セラミック板100上にアンモニア水604として散布した後、プラスチック容器610を密閉し、処理時間ごとにプラスチック容器601の蓋を矢線Cの方向に移動させた僅かに空隙を形成し、この空隙から内部の空気を検知管式気体測定器500によりサンプリングした。
【0058】
サンプリング時間は、1min、1hr、2hrsと変えてアンモニア濃度(ppm)を測定した。なお、ブランク(比較例2)として、複合セラミック板を配置せず、直接プラスチック容器601内にアンモニア水2mlを散布し、同様の試験プロトコルにより、プラスチック容器601内の空気のアンモニア濃度を測定した。
【0059】
◎結果
(A)金属粉末の添加効果
表1に本発明の複合セラミック板の消臭特性を、比較例で作成した複合セラミック板について得られた結果を示す。化学物質としてはトルエンを使用し、下層セラミック層を焼成した後粉砕した粉末を吸着管に充填し、入口からトルエンを導入し、出口から排出されるトルエンの量を、検知管式気体測定装置(株式会社GASTEC製、GV−400)、検知管No.105(トルエン用、50−900ppm)を使用してトルエン濃度を測定した。
【0060】
その結果を表1に示す。表1に示されるように、実施例で製造したFe粉を添加した実施例で製造した複合セラミック板は、トルエンについて約90%と高い除去率を示したが、比較例で製造したFeを添加しない複合セラミック板は、除去率が55%と低い結果が得られ、Fe粉末の存在が消臭作用に重大な効果を有することが示された。
【0061】
【表1】

【0062】
(B)アンモニア除去
表2には、本実施例で製造した複合セラミック板のアンモニア除去効果を、異なった実験として実施例2、実施例3とし、ブランクサンプル(比較例2)と比較した。なお、実施例2、実施例3、比較例2は、上述した消臭実験で説明したプロトコルにしたがって同様に行った。
【0063】
表2に示されるように、実施例の複合セラミック板は、ブランクサンプル(比較例2)に比較してはるかに良好な消臭性を示した。図7には、表2で示した結果をプロットした図を示す。図7にも示されるように、比較例2では、時間の経過と共にアンモニアの揮発により、アンモニア濃度が増加しているが、実施例2、実施例3では、処理時間2時間を経過すると濃度は初期濃度の1/10未満となっており、明確な消臭効果が見られた。
【0064】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の半永久の透水性・消臭効果をもったタイルを使用すると、透水性・消臭効果のほかに除菌効果も優れる為、トイレ、病院の汚物処理室、救急病棟、雨がかりするコンコースなど臭気や雑菌のあるところに有効な効果を発揮する。また、厨房では、歩行時長靴などからのはねの食材への汚水の付着も防止することが可能となる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水性の上層セラミック層と、前記上層セラミック層に接着され、かつ多孔質粒子を焼結して形成される下層セラミック層とを備え、
前記下層セラミック層が前記多孔質粒子としてのCaOと、0.005質量%〜15質量%の範囲の金属とを含有する、複合セラミック板。
【請求項2】
前記上層セラミック層は、セラミック骨材、無機繊維材料、および硬化性の有機バインダーの混合物を常温硬化で結着して形成された透水性を有する複合材料であり、前記上層セラミック層は、前記下層セラミック層に接着されている、請求項1に記載の複合セラミック板。
【請求項3】
前記下層セラミック層に含まれるCaOは、のCaCO粉末から形成される多孔質体である、請求項1または2に記載の複合セラミック板。
【請求項4】
前記複合セラミック板は、汚垂石、インターロッキング、グレーチング、マンホール、透水桝、内装材として使用される消臭性を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合セラミック板。
【請求項5】
前記下層セラミック層は、カオリナイト、モンモリロナイト、パイロフィライト、絹雲母、滑石、ジプサイト質またはこれらの混合物の焼成セラミック粉末を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合セラミック板。
【請求項6】
前記金属は、Fe、Cu、Mg、またはVから選択される元素、またはこれらの混合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合セラミック板。
【請求項7】
透水性の上層セラミック層と、前記上層セラミック層に接着された多孔質粒を含む下層セラミック層とを備える複合セラミック板の製造方法であって、
生物由来のCaCO粉末、金属、およびカオリナイト、モンモリロナイト、パイロフィライト、絹雲母、滑石、ジプサイト質またはこれらの混合物の焼成セラミック粉末を混合した組成物を形成する工程と、
前記組成物を500℃〜1300℃の温度で焼成して下層セラミック層とする工程と、
前記下層セラミック層を型枠内に配置し、前記型枠内で前記下層セラミック層上にセラミック骨材、無機繊維材料、硬化性、および硬化剤を含有する混合物を積層して常温硬化で硬化させ、透水性を有する上層セラミック層とし、前記下層セラミック層および前記上層セラミック層とが一体化した複合セラミック板を形成する工程とを含む、複合セラミック板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−87028(P2013−87028A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230586(P2011−230586)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(710012863)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】