説明

複合トランスモジュール

【課題】スイッチング電源の効率・放熱性を高め、高周波EMIノイズを抑制し、高速応答制御回路、同期整流器駆動回路、保護回路を備えた高機能なスイッチング電源を簡単、且つ安価に構成できるようにする。
【解決手段】複合トランスモジュール12は、1組のコア18T,18B、ボビン20、ボビン20に設けられた電力伝送トランス部14、及び多層基板13を備えている。多層基板13は、信号伝送トランス部15L,15R、1次信号処理回路17、及び2次信号処理回路22を有する。多層基板13にはコア18T,18Bのコア脚を挿通させるコア脚挿通用孔が形成されている。さらに、多層基板13には、ボビン20の複数の接続端子23を多層基板13に実装するための複数の接続端子挿通孔21が形成されている。多層基板13の下面に突出するボビン20の接続端子23は、複合トランスモジュール12をマザーボードへ実装するための接続端子を兼ねる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力伝送トランス部及び信号伝送トランス部を備えたトランスと、信号処理回路部とがモジュールとして一体形成された、複合トランスモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層基板に形成された導体パターンをコイルとするトランスと、スイッチング電源回路とが一体化されたスイッチング電源モジュールが特許文献1に開示されている。
【0003】
図1(A)は、特許文献1に関するスイッチング電源モジュールの一例を示す図である。このスイッチング電源モジュール1は、その回路基板2にスイッチング電源回路3が構成されている。スイッチング電源回路3は、トランス4と複数の回路構成部品5と、回路基板2に形成された配線パターン(不図示)とで構成されている。回路構成部品5は、ICチップ、コンデンサ素子、スイッチング素子、整流素子等である。その他に、このスイッチング電源モジュール1をマザーボードに接続するための接続用端子6が設けられている。
【0004】
トランス4は、回路基板2に形成されたコイルパターン7と、1対のコア8とで構成されている。回路基板2は複数の導体層が積層形成された積層体であり、1次コイルとなるコイルパターン及び2次コイルとなるコイルパターンが回路基板2に形成され、それら複数のコイルパターンがほぼ同軸関係に積層されている。
【0005】
回路基板2のコイルパターン7の形成領域にはコア脚挿通孔9が開けられている。コア8のコア脚がコア脚挿通孔9に挿入され、1対のコア8が組み合わされて、コイルパターン7に装着されている。図1に示すように、それら1対のコア8は、コイルパターン7の一部分を回路基板2の表裏両側から挟み込む形で装着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3414386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多層基板に形成された導体パターンをコイルとするトランスと、スイッチング電源回路とが一体化されたスイッチング電源モジュール1には次に述べるような問題がある。
【0008】
(a)トランス4のコイルパターン7における直流抵抗、交流抵抗を低減し、コイルの導通損失を低減するには、回路基板の積層数を多くする必要がある。トランスの1次−2次間の結合度を強くする上でも、多層基板の積層数を増してサンドイッチ構造にすることが有効である。一方、多層基板の積層数を増すと、それにほぼ比例して基板のコストも増加する。コイルパターン7の内層は、コイルパターンを形成するのに使用されているが、回路構成部品5が実装された直下の内層は必ずしも有効利用できない。特に、大型の回路構成部品を多く必要とするスイッチング電源回路では、スイッチング電源回路全体を高価な多層基板に実装することは、コスト削減の観点からは非効率的である。
【0009】
(b)一体型スイッチング電源モジュール1に実装された回路構成部品5のマザーボードに対する熱抵抗が大きいので、回路構成部品5の放熱性に問題が生じる場合がある。一体型スイッチング電源モジュール1が部品の発熱を、主にマザーボードに放熱する構造の場合、伝熱経路としては、回路基板2から接続用端子6を介してマザーボードへ放熱する経路が支配的である。しかし、この一体型スイッチング電源モジュール1を構成する回路基板2の基材は熱抵抗が比較的大きく、回路構成部品5とマザーボードとの伝熱経路の距離も長いことから、回路構成部品5の放熱性が悪い。特に、この一体型スイッチング電源モジュール1が扱う電力が大きい場合には、トランスのコイルパターン7やスイッチング素子などの回路構成部品5の発熱が非常に大きくなり、一体型スイッチング電源モジュール1の効率が低下したり、一体型スイッチング電源モジュール1の使用温度範囲を狭めたりすることになる。
【0010】
(c)一体型スイッチング電源モジュール1の回路基板2を構成する多層基板では、各両面基板間の絶縁部分に一定値以上の厚さのプリプレグを挟んで積層しないと、絶縁部分にボイドが生じて信頼性が確保できない。そのため、コイルパターン7を形成する導体層の厚さに対する絶縁層の厚さの比率を大きくする必要がある。トランスコイルの直流抵抗を低減するには、コアの窓枠の中に、コイル導体部が占める比率(占積率)を高くする必要があるが、多層基板で形成したプリントコイルは、薄型構造であるため表皮効果の影響が小さく高周波のスイッチング動作において導通損失を低減できる利点があるものの、前述の理由により、巻線で形成したコイルより占積率が劣る傾向があり、コイルの直流抵抗を十分に低くできないという問題がある。
【0011】
(d)更に、多層基板に導体パターンで形成した積層コイルから成るトランスでは、基板の信頼性を確保するための最小パターン幅及び最小パターン間隔が規定され、かつ、積層数が多層基板のコストに大きく影響することから、巻き数の極端に多い(例えば100ターン以上の)コイルを形成することが難しい。このため、昇圧比又は降圧比が極端に大きいスイッチング電源では、基板の導体パターンでコイルを形成するプリントコイルでトランスを形成することは困難である。
【0012】
(e)トランスの特性に関しては、次に述べる問題がある。図1(B)はトランスの巻線構造の一例を示す断面図である。一般的に、図1(B)のような1次コイル巻線10と2次コイル巻線11を繰り返し積層した構造のトランスでは、各巻線間に図1(B)に示す寄生容量Csが生じる。この各巻線間の寄生容量Csの合成容量が、1次コイルと2次コイルの間に接続されたのと等しくなる。そのため、各巻線間の寄生容量Csは、高周波・高速スイッチング動作において、トランスの1次−2次間を流れるノイズ電流が増大し、寄生容量の短絡損失や、高周波EMIノイズ発生の要因となる。図1(A)に示したトランス4のように、複数のコイルパターン7が平行に配置されたコイルは、コイルボビンに巻線した巻線型のコイルに比べて巻線間の寄生容量Csが大きい問題がある。例えば、巻線型のコイルに比べて10倍程度の寄生容量を備える。
【0013】
(f)その他の問題として、スイッチング電源の回路をマザーボード上に形成した方が従来例の一体型スイッチング電源モジュール1を購入するより安価な場合には、マザーボード上にスイッチング電源回路を構成するが、そのような場合、スイッチング電源を専門としない技術者が設計することがある。スイッチング電源の設計には、電力変換回路や制御回路以外にも保護回路や熱設計、ノイズ対策等の技術が必要であり、絶縁型スイッチング電源ではさらにトランスの設計が必要となり、同期整流器の最適なタイミングでの駆動も難易度が高い。したがって、専門外の技術者では、高効率、高速応答性を備える高機能なスイッチング電源を設計するのは困難であるという問題が生ずる。
【0014】
この発明の目的は、上述の各種課題を解決した複合トランスモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明の複合トランスモジュールは、上述の各種課題を決するために次のように構成する。
(1)1組の嵌め合わされたコアと、1次−2次間で電力を伝送する電力伝送トランス部と、当該電力伝送トランス部とは実質的に独立して1次−2次間で信号を伝送する信号伝送トランス部と、を備え、
前記信号伝送トランス部は、前記コアの磁脚を貫通させた多層基板及び当該多層基板に形成されたコイルパターンで構成され、信号伝送トランス部の入出力信号を処理する信号処理回路部が前記多層基板に実装され、前記複合トランスと信号処理回路部とがモジュールとして一体形成されたことを特徴とする。
【0016】
(2)例えば前記信号処理回路部は、トランスの1次側に設けられた1次信号処理回路と、トランスの2次側に設けられた2次信号処理回路とで構成される。
【0017】
(3)例えば前記コアは、中脚部及び外脚部を含む少なくとも4本以上の磁脚を有する。
【0018】
(4)例えば前記コアの中脚部の外周に電力伝送トランス部の1次コイル及び2次コイルが巻回され、前記電力伝送トランス部の外側に少なくとも3本以上の外脚部が形成されている。
【0019】
(5)例えば前記電力伝送トランス部の1次コイル及び2次コイルは、前記中脚が貫通するボビンに巻回された銅線で構成され、前記ボビンに前記多層基板が接合される。
【0020】
(6)例えば前記電力伝送トランス部の1次コイル及び2次コイルは、前記多層基板に形成された、前記中脚の周囲を巻回するコイルパターンで構成されたものである。
【0021】
(7)例えば前記多層基板に、前記中脚の周囲を巻回する信号処理回路電源用のコイルパターンが形成され、前記信号処理回路電源用のコイルパターンに誘起される電圧を整流平滑して前記信号処理回路へ電源電圧を供給する整流平滑回路が備えられている。
【0022】
(8)例えば前記電力伝送トランス部の1次コイルへの印加電圧をスイッチングする1次電力スイッチを制御する回路を備えて、前記複合トランスモジュールが絶縁型スイッチング電源の一部を構成する。
【0023】
(9)例えば前記2次信号処理回路は、前記絶縁型スイッチング電源の出力電圧又は出力電流との相関性のある信号を2次側から1次側に送信する機能を備え、前記1次信号処理回路は、前記出力電圧又は出力電流との相関性のある信号を受信し、前記出力電圧又は出力電流が目標値に漸近するように1次電力スイッチの駆動信号幅を制御するパルス幅制御機能と、前記1次電力スイッチの駆動信号を出力する手段とを備える。
【0024】
(10)例えば前記絶縁型スイッチング電源回路は、1次側に前記1次電力スイッチとは駆動信号の基準電位が異なるハイサイド電力スイッチを備え、前記1次信号処理回路は、前記1次電力スイッチの駆動タイミングと関連した前記ハイサイド電力スイッチの駆動信号をモジュールから出力する手段を備える。
【0025】
(11)例えば1次信号処理回路は同期整流器の駆動タイミングと関連する信号を1次側から2次側に送信する機能を備え、2次信号処理回路は前記同期整流器の駆動タイミングと関連する信号を受信して、同期整流器の駆動信号を形成してモジュールから出力することを特徴とする。
【0026】
(12)例えば、前記信号処理回路は、前記電力伝送トランス部の1次コイル又は2次コイルの過電流状態、前記電力伝送トランス部の過熱状態、絶縁型スイッチング電源の入力電圧の低電圧状態、絶縁型スイッチング電源の入力電圧の過電圧状態、絶縁型スイッチング電源の出力電圧の低電圧状態、絶縁型スイッチング電源の出力電圧の過電圧状態の少なくとも何れかの異常状態を検出する検出回路を備え、
前記検出回路が異常動作を検出すると、前記1次電力スイッチのデューティの低減、スイッチング動作の停止、又はヒカップ動作、の何れかを行うことで前記絶縁型スイッチング電源を保護する異常動作保護手段を備える。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、次のような効果を奏する。
トランスに巻線型コイルを用いることで積層型コイルに比べて占積率を大きくすることができるため、直流抵抗を低減し、コイルの導通損失を低減することが容易であり、それに伴うトランスのコストアップも抑えることができる。直流抵抗による導通損失が主体となる用途では、コイル部を巻線で形成した方が低損失化に有利である。
【0028】
巻線型コイルには積層型コイルのようなパターンの制約がないため、巻数を極端に大きく、または小さくすることも可能であり、大きな昇圧比又は降圧比を実現することができ、設計上の自由度が高い。
【0029】
巻線型コイルでは、積層型コイルに比べて、巻線間の寄生容量が小さいため、高周波・高速スイッチング動作において、トランスの1次−2次間を流れるノイズ電流や寄生容量の短絡損失を低減することができ、高周波EMIノイズ抑制や効率といったスイッチング電源モジュールの特性を改善できる。
【0030】
複合トランスモジュールとマザーボードとはそれぞれ別の回路基板で構成することができる。そのため、回路構成部品が実装されるマザーボードに、例えば低コストの紙フェノール基板や、積層数の少ないガラスエポキシ基板を用いれば、基板コストが低くなり、スイッチング電源全体としての製造コストが低減できる。また、電力変換回路部品の放熱性を重視する場合は、アルミ基板などの高放熱性基板をマザーボードに用いて電力変換回路部品を実装し、マザーボードをヒートシンクに密着させる放熱方法を採ることもできる。
【0031】
スイッチング電源の回路をマザーボード上に形成した方が従来例の一体型スイッチング電源モジュールを購入するより安価な場合においても、トランスの代わりに前記複合トランスモジュールを電源専門のベンダーから購入してマザーボードに実装し、前記複合トランスモジュールの周辺に電力変換回路部品や入出力フィルタ部品を実装すれば、高効率・高速応答といった高機能のスイッチング電源を簡単且つ安価に構成できる。マザーボードの設計者は、高度な専門技術を必要とする高速応答制御回路、同期整流器駆動回路、保護回路の設計やトランスの設計を省くことができ、前記マザーボードに電力変換回路部品や平滑回路を実装して熱設計を行うだけでよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1(A)は、特許文献1に開示されているスイッチング電源モジュールの一例を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係る複合トランスモジュール12の分解斜視図である。
【図3】図3(A),図3(B)は、多層基板13の異なる二つの面(層)での平面図である。
【図4】図4(A)は信号伝送トランス部の磁路、図4(B)は電力伝送トランス部の磁路をそれぞれ示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る複合トランスモジュールのトランス部分の等価回路図である。
【図6】第2の実施形態に係る複合トランスモジュール24の分解斜視図である。
【図7】図7(A),図7(B)は、多層基板13の異なる二つの面(層)での平面図である。
【図8】図8(A)は信号伝送トランス部の磁路、図8(B)は電力伝送トランス部の磁路をそれぞれ示す図である。
【図9】第2の実施形態に係る、複合トランスモジュール24を備えたスイッチング電源モジュールの斜視図である。
【図10】スイッチング電源モジュール301の回路図である。
【図11】スイッチング電源モジュール301の各部の波形図である。
【図12】第3の実施形態に係る、複合トランスモジュールを備えたスイッチング電源モジュール302の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
《第1の実施形態》
第1の実施形態に係る複合トランスモジュールについて図2〜図5を参照して説明する。
図2は第1の実施形態に係る複合トランスモジュール12の分解斜視図である。複合トランスモジュール12は、それぞれE型の1組のコア18T,18B、ボビン20、ボビン20に設けられた電力伝送トランス部14、及び多層基板13を備えている。
【0034】
多層基板13は、1次−2次間で信号を伝送する信号伝送トランス部15L,15R、1次信号処理回路17、及び2次信号処理回路22を有する。また、多層基板13にはコア18T,18Bのコア脚を挿通させるコア脚挿通孔19C,19La,19Lb,19Ra,19Rbが形成されている。さらに、多層基板13には、ボビン20の複数の接続端子23を多層基板13に実装するための複数の接続端子挿通孔21が形成されている。この多層基板13にボビン20を実装した状態で、多層基板13の下面に突出するボビン20の接続端子23は、複合トランスモジュール12をマザーボードへ実装するための接続端子でもある。
【0035】
電力伝送トランス部14の1次コイルと2次コイルは銅線の巻線であり、互いに絶縁状態でボビン20に巻回されている。ボビン20の孔Hにはコア18T,18Bの中脚18TC,18BCが挿通される。
【0036】
信号伝送トランス部15Lは、コア18Bの外脚18BLa,18BLbが挿通するコア脚挿通孔19La,19Lbの周囲に形成されている。同様に、信号伝送トランス部15Rは、コア18Bの外脚18BRa,18BRbが挿通するコア脚挿通孔19Ra,19Rbの周囲に形成されている。
【0037】
1次信号処理回路17はトランスの1次側に設けられていて、2次信号処理回路22はトランスの2次側に設けられている。多層基板13にはコア18Bの中脚18BCが挿通するコア脚挿通孔19Cの周囲を巻回する、信号処理回路電源用のコイルパターンが形成されている。多層基板13には、信号処理回路電源用のコイルパターンの出力を整流平滑した電力で前記信号処理回路17,22を駆動する整流平滑回路が設けられている。
【0038】
複合トランスモジュール12は、電力伝送トランス部14が設けられたボビン20が多層基板13に実装され、コア18Tの中脚18TCがボビン20の孔Hに挿入され、多層基板13のコア脚挿通孔19C,19La,19Lb,19Ra,19Rbにコア18Bが挿入され、さらに、コア18Tと18Bとを接合状態で固定するコア固定枠(不図示)が取り付けられることによって構成される。
【0039】
図3(A),図3(B)は、多層基板13の異なる二つの面(層)での平面図である。また、図4(A)は信号伝送トランス部の磁路、図4(B)は電力伝送トランス部の磁路を示している。図3(A),図3(B)には、コア18Bの外脚18BLa,18BLb,18BRa,18BRbの断面が表れている。
【0040】
図3(A)に表れている、多層基板13の面(層)には、外脚18BLbと外脚18BLaの周囲に反対方向に1ターンずつ巻かれたコイル102a,102cがビア電極102bを介して直列接続されている。外脚18BLbと外脚18BLaはコアの中脚からの距離が等しく、断面積も同じであるため、電力伝送トランスによって外脚18BLb,18BLaを透過する磁束の変化によってコイル102a,102cに誘起される電圧は互いに逆極性で且つ同一電圧値であるので相殺される。このことによって、コイル102a,102cの出力端a−bには電力伝送トランスによる電圧が現れない。
【0041】
また、図3(B)に表れている、多層基板13の面(層)には、外脚18BLbと外脚18BLaの周囲に反対方向に1ターンずつ巻かれたコイル104a,104cがビア電極104bを介して直列接続されている。外脚18BLbと外脚18BLaはコアの中脚からの距離が等しく、断面積も同じであるため、電力伝送トランスによって外脚18BLb,18BLaを透過する磁束の変化によってコイル104a,104cに誘起される電圧は互いに逆極性で且つ同一電圧値であるので相殺される。このことによって、コイル104a,104cの出力端c−dには電力伝送トランスによる電圧が現れない。
【0042】
一方、前記コイル102a,102cとコイル104a,104cは外脚18BLb,18BLaを介して磁気的に結合しているので、コイル102a,102cを例えば1次コイル、コイル104a,104cを2次コイルとする信号伝送トランスとして作用する。
【0043】
以上に述べたことは、もう一方の外脚18BRb,18BRaについてもあてはまる。すなわち、図3(A)に表れている、多層基板13の面(層)には、外脚18BRbと外脚18BRaの周囲に反対方向に1ターンずつ巻かれたコイル105a,105cがビア電極105bを介して直列接続されている。外脚18BRbと外脚18BRaはコアの中脚からの距離が等しく、断面積も同じであるため、電力伝送トランスによって外脚18BRb,18BRaを透過する磁束の変化によってコイル105a,105cに誘起される電圧は互いに逆極性で且つ同一電圧値であるので相殺される。このことによって、コイル105a,105cの出力端k−mには電力伝送トランスによる電圧が現れない。
【0044】
また、図3(B)に表れている、多層基板13の面(層)には、外脚18BRbと外脚18BRaの周囲に反対方向に1ターンずつ巻かれたコイル106a,106cがビア電極106bを介して直列接続されている。外脚18BRbと外脚18BRaはコアの中脚からの距離が等しく、断面積も同じであるため、電力伝送トランスによって外脚18BRb,18BRaを透過する磁束の変化によってコイル106a,106cに誘起される電圧は互いに逆極性で且つ同一電圧値であるので相殺される。このことによって、コイル106a,106cの出力端i−jには電力伝送トランスによる電圧が現れない。
【0045】
一方、前記コイル105a,105cとコイル106a,106cは外脚18BRb,18BRaを介して磁気的に結合しているので、コイル105a,105cを例えば1次コイル、コイル106a,106cを2次コイルとする信号伝送トランスとして作用する。
【0046】
図5は、第1の実施形態に係る複合トランスモジュールのトランス部分の等価回路図である。このように、第1の実施形態では、一つの電力伝送トランス部14、二つの信号伝送トランス15L,15Rを備えた複合トランスモジュールとして利用できる。
【0047】
前記多層基板13に構成されている2次信号処理回路22は、例えば電力伝送トランス部14の2次側の出力電圧を検出する出力電圧検出回路と、信号伝送トランス部15を利用して電力伝送トランス部の1次側または2次側を制御する制御回路とを備えている。このことにより、入力電圧や出力電流の過渡変動に対して高速応答する、出力電圧の安定化制御を実現できる。
【0048】
また、複合トランスモジュール12に、信号伝送トランス部15を介して最適な同期整流器の駆動タイミングを指示する機能を備え、複合トランスモジュール12から1次電力スイッチ素子のゲート駆動信号と同期整流器のゲート駆動信号を出力するようにしておけば、電力変換回路部品を前記複合トランスモジュール12の周辺に実装するだけで、最適なタイミングで同期整流器を駆動することができ、高効率なスイッチング電源装置を容易に構成できる。
【0049】
また、信号処理回路17、22に電力伝送トランス部14の過電流状態や過熱状態などの異常動作を検出する機能と異常動作を検出した場合に1次電力スイッチ素子にスイッチング動作を停止させる指示を出す機能を備えておくことで保護機能を備えてもよい。
【0050】
第1の実施形態において、複合トランスモジュール12の構成要素である電力伝送トランス部14の占積率を大きくすれば、直流抵抗、交流抵抗を低減し、コイルの導通損失を低減できるとともに、面接触によるコイルの放熱性を高めることができる。
【0051】
また、第1の実施形態では電力伝送用トランス部に巻線型コイルを用いたので、巻線間の寄生容量が小さく、高周波・高速スイッチング動作時の、トランスの1次−2次間を流れるノイズ電流や寄生容量の短絡損失を低減することができ、高周波EMIノイズ抑制や効率といったスイッチング電源の特性を改善することができる。また、巻線の巻数を変えることが容易であるため、複合トランスモジュールを購入して、マザーボードに実装し、スイッチング電源を設計する設計者の意図する昇圧比、もしくは降圧比を作り出すことが容易であり、高速応答制御回路、同期整流器駆動回路、保護回路の設計やトランスの設計を省くことができる。そのため、スイッチング電源の設計に要する工数とコストを削減できる。
【0052】
《第2の実施形態》
第2の実施形態に係る複合トランスモジュールについて図6〜図11を参照して説明する。
図6は第2の実施形態に係る複合トランスモジュール24の分解斜視図である。複合トランスモジュール24は、I型のコア18T、E型のコア18B、多層基板13、及び放熱シート25を備えている。
【0053】
第2の実施形態では、電力伝送トランス部14としてボビンに銅線を巻いた巻線型トランスではなく、多層基板13に1次コイルと2次コイルが導体パターンで形成された積層型のトランスを用いている。この第2の実施形態例では、第1の実施形態例と同一名称部分には同一符号を付し、その共通部分の重複説明は省略する。
【0054】
多層基板13の裏面とコア18Bとの間に放熱シート25を挟み込むことで、複合トランスモジュール24の放熱効果を高めている。また、多層基板13には、複合トランスモジュール24をマザーボードに実装するための接続端子26を備えている。
【0055】
図7(A),図7(B)は、多層基板13の異なる二つの面(層)での平面図である。また、図8(A)は信号伝送トランス部の磁路、図8(B)は電力伝送トランス部の磁路を示している。図7(A),図7(B)には、コア18Bの中脚18BC、外脚18BLa,18BLb,18BRa,18BRbの断面が表れている。
【0056】
図7(A)に表れている、多層基板13の面(層)には、中脚18BCが挿通されるコア挿通孔の周囲にコイル101aが形成されている。コイル101aの両端は出力端e−fに引き出されている。
【0057】
図7(B)に表れている、多層基板13の面(層)には、中脚18BCが挿通されるコア挿通孔の周囲にコイル103aが形成されている。コイル103aの両端は出力端g−hに引き出されている。
【0058】
前記コイル101aとコイル103aは中脚18BCを介して磁気的に結合しているので、コイル101aを例えば1次コイル、コイル103aを2次コイルとする電力伝送トランスとして作用する。
【0059】
図9は第2の実施形態に係る複合トランスモジュール24を備えたスイッチング電源モジュールの斜視図である。図8に示した複合トランスモジュール24が高放熱性基板27に実装されてスイッチング電源モジュール301が構成されている。高放熱性基板27には、スイッチング電源回路を構成する上で必要なスイッチ素子28や入出力フィルタ29などの回路構成部品が実装されている。複合トランスモジュール24は、その接続端子26によって高放熱性基板27の表面に実装される。また、高放熱性基板27には、スイッチング電源モジュール301をマザーボードに接続するための複数の接続端子31を備えている。
【0060】
図10はスイッチング電源モジュール301の回路図、図11はその各部の波形図である。
このスイッチング電源モジュール301には、第2の実施形態で示した構造の複合トランスモジュール24によって、図10に示す第1の信号伝送トランス部15L、第2の信号伝送トランス部15R、電力伝送トランス部14を構成している。第1の信号伝送トランス部15Lは1次コイル15Lpと2次コイル15Lsを含み、第2の信号伝送トランス部15Rは1次コイル15Rpと2次コイル15Rsを含み、電力伝送トランス部14は1次コイル14p、2次コイル14s、および補助コイル14tを含んでいる。
【0061】
ここで、直流入力電源の+入力端子115、直流入力電源の−入力端子116、平滑コンデンサ117,122、電力スイッチ118、同期整流器119,120、チョークコイル121、絶縁型スイッチング電源の+出力端子123、絶縁型スイッチング電源の−出力端子124によって電力変換回路を構成している。
【0062】
また、マルチバイブレータ125、抵抗126,128,135,142,146,148,149、ダイオード127,133,134,139,144、インバータ129,130、コンデンサ131,138,143,145、ANDゲート132、MOS−FET136,137、NORゲート140、コンパレータ141、基準電圧源147によって制御回路を構成している。
【0063】
この絶縁型スイッチング電源は、一石共振リセットフォワードコンバータである。+入力端子115,−入力端子116の間に加わる直流入力電圧を、平滑コンデンサ117で平滑した後、電力伝送トランス部14の1次コイル14pを介して接続した電力スイッチ118でスイッチングさせて交流に変換する。
【0064】
図10では表れていないが、多層基板の中脚部の周囲を巻回する位置に、信号処理回路に対する電源用のコイルパターンが形成されていて、この電源用のコイルパターンに誘起される電圧を整流平滑して信号処理回路へ電源電圧を供給する整流平滑回路を備えている。
【0065】
転流用の同期整流器120を制御するための構成(補助コイル14t、MOS−FET137、第1の信号伝送トランス部15L,ダイオード133)は特開2000−262051に開示されているように公知である。これは転流用の同期整流器120をオフさせるためのMOS−FET137を制御する信号の伝送にパルストランスを1つ用いるものであり、ここでは第1の信号伝送トランス部15Lをパルストランスとして用いている。
【0066】
なお、電力伝送トランス部14は、1次コイル14p、2次コイル14s以外に補助コイル14tを備えているが、この補助コイル14tは、図7に示したコイル101a,103a以外に、これらと同様にして別のコイル配線を設けたものである。
【0067】
ところで、1次側のスイッチング素子である電力スイッチ118のオン・オフ制御は1次側に設けた制御回路で行う。この際の出力電圧の検出および制御方法には、トランスに設けた補助巻線の電圧を利用する間接制御型や2次側に出力電圧検出回路を設けてフォトカプラを介して1次側にフィードバックする直接制御型がある。間接制御型は出力電圧の検出精度が良くないという問題がある。直接制御型はフォトカプラを使うので使用温度条件が限られるという問題がある。さらに両者ともに、出力電圧の変動に対する応答性が悪いという問題がある。
【0068】
一方、応答性の良いスイッチング電源装置としてヒステリシス制御のスイッチング電源装置がある。
ヒステリシス制御は出力電圧と基準電圧をコンパレータで比較するので2次側に制御回路を備える必要があるが、2次側に電圧の発生していない起動時にその制御回路を動作させる電源が別途必要になるという問題がある。
【0069】
上記各問題の解決策として、起動時におけるソフトスタート時には1次側がスイッチング素子のオンオフタイミングを規定しつつ徐々にパルス幅を広げ、出力電圧が目標値に到達するとスイッチング素子のオフタイミングの信号を、2次側からパルストランスを介して1次側に伝達してスイッチング素子をオフさせ、スイッチング素子のオンタイミングは1次側制御回路が固定周期で規定するという制御方法(オンタイミングの信号を2次側から1次側に伝送し、オフタイミングを1次側制御回路が規定しても良い。)を本出願人は国際公開WO2007/018227にて出願している。これはヒステリシス制御を絶縁型に適用したコンバータであるために応答性が良く、しかも起動時は2次側からの信号がなくても動作するので2次側に制御回路の起動時用の電源が不要になる。
【0070】
図10に示す例では、2次側から出力電圧と基準電圧との比較に基づいた電力スイッチ118のオフタイミング信号を第2の信号伝送トランス部15Rを介して1次側に伝達するように構成している。
【0071】
図11において、(a)は電力スイッチ118のドレイン電圧、(b)は電力スイッチ118のドレイン電流、(c)は電力スイッチ118のゲート電圧、(d)はマルチバイブレータ125の出力電圧、(e)は第2信号伝送トランス部15Rの1次コイル15Rpの電圧、(f)はANDゲート132の出力電圧、(g)は第1信号伝送トランス部15Lの2次コイル15Lsの電圧、(h)は同期整流器120のゲート電圧、(i)はコンパレータ141の一方の入力電圧、(j)はコンパレータ141の他方の入力電圧である。
【0072】
以下、この図11も参照して回路動作について説明する。
電力スイッチ118のオン期間に、前記交流を電力伝送トランス部14が、その1次コイル14pから2次コイル14sへ伝送し、整流側同期整流器119、転流側同期整流器120で整流した後、チョークコイル121、平滑コンデンサ122で構成する出力フィルタで平滑することで、交流を直流に変換して、+出力123,−出力124から直流電圧を出力する。
【0073】
電力スイッチ118のオフ後、電力伝送トランス部14の励磁インダクタンスと電力スイッチ118の等価的な並列寄生容量とがLC共振してトランスがリセットされる(図11(a)(b)参照)。
【0074】
トランスのリセット完了後の電力スイッチ118のオフ期間においては、トランス励磁電流が電力伝送トランス部14の2次コイル14s→同期整流器120→同期整流器119の寄生ダイオードのループで還流するので、電力伝送トランス部14の両端電圧がゼロボルトにクランプされ、電力スイッチ118のドレイン電圧は入力電圧にクランプされる。
上記のサイクルを繰り返して電力変換を行う。
【0075】
上記制御回路内のマルチバイブレータ125は固定周波数で発振動作する(図11(d)参照)。マルチバイブレータ125のオンタイミングにはMOS−FET136のドレイン電圧もハイレベルであることから、マルチバイブレータ125のオンと同時にANDゲート132の出力もハイレベルとなる(図11(f)参照)。
【0076】
ANDゲート132がオンすると、第1の信号伝送トランス部15Lの1次コイル15Lpを通して電力スイッチ118のゲートが充電される(図11(c)参照)。このとき発生するパルス信号が第1の信号伝送トランス部15Lの1次コイル15Lpから2次コイル15Lsに伝送されMOS−FET137がオンする(図11(g)参照)。MOS−FET137がオンすると、転流側同期整流器120のゲート蓄積電荷が放電されてオフする(図11(h)参照)。
【0077】
電力スイッチ118は、そのゲート充電経路に第1の信号伝送トランス部15Lの1次コイル15Lpがあることで、一定時間の遅れをともなってオンする。この動作により、電力スイッチ118のオン直前に転流側同期整流器120がオフするので、転流側同期整流器120のターンオフ遅れを原因とする短絡電流が発生せず、高効率の電力変換動作が可能になる。
【0078】
上記制御回路は、入力電圧、出力電流の過渡変化に対して高速応答させるために、PID制御ではなく、コンパレータによるヒステリシス制御を行う。
【0079】
コンパレータ141の反転入力には出力電圧を抵抗148,149で分圧した電圧を入力し、その非反転入力には、基準電圧源147の電圧を抵抗146を介して入力している。コンパレータ141はこの両者を比較する。
【0080】
出力電圧にはリップル電圧が重畳されていて、コンパレータ141の非反転入力に入力する電圧には抵抗142,146、コンデンサ145によって、上記リップル電圧とは逆の傾きのランプ電圧が重畳されている(図11(i)参照)。
【0081】
電力スイッチ118のオン期間の途中でコンパレータ141の反転入力電圧が非反転入力電圧を上回ると、コンパレータ141の出力電圧がローレベルになり、NORゲート140に入力される(図11(j)参照)。
【0082】
NORゲート140のもう一方の入力は電力スイッチ118のオン期間にローレベルになるので、NORゲート140の出力はローレベルからハイレベルになり、コンデンサ138を介して第2の信号伝送トランス部15Rの1次コイル15Rpに電流が流れてパルス信号が発生する。このパルス信号は第2の信号伝送トランス部15Rの1次コイル15Rpから2次コイル15Rsに伝送され、MOS−FET136がオンする(図11(e)参照)。
【0083】
MOS−FET136のドレインには、インバータ129のオン期間(マルチバイブレータ125のオフ期間)にダイオード134、抵抗135を通して電荷が蓄積されているが、MOS−FET136のオンによって、MOS−FET136のドレインはハイレベルからローレベルになる。MOS−FET136のドレインがローレベルになると、ANDゲート132の出力もローレベルになり、ダイオード133を介して電力スイッチ118のゲート蓄積電荷が放電されて電力スイッチ118がオフする。
【0084】
このようにして、電力スイッチ118をオフさせるパルス信号のタイミングを制御することで、電力スイッチ118のオン期間を制御する。電力スイッチ118のオフ期間の長さは、マルチバイブレータ125の発振周期から電力スイッチ118のオン期間を引いた値になるので、実質的に2次側の回路が主導してPWM制御が行われ、出力電圧が安定化される。この制御方法はPID制御のように誤差アンプやフォトカプラに起因する位相遅れがなく、入力電圧、出力電流の過渡変動に起因する出力電圧変動に対して、変動が発生した周期に直ちに応答するパルスバイパルス動作が可能となる。
【0085】
このように、複合トランスモジュール24を、導体パターンで形成された積層型トランスで構成することで、スイッチング電源を薄型化できる。高速応答制御回路、同期整流器駆動回路、保護回路の設計やトランスの設計を省くことができ、スイッチング電源の設計に要する工数とコストを削減することができる点は第1の実施形態と同じである。
【0086】
複合トランスモジュール24を高放熱性基板27に実装したスイッチング電源モジュール301において、特に発熱の大きな電力変換回路の回路構成部品の放熱性を重視する場合は、高放熱性基板27としてアルミ基板などの高放熱性基板を用い、その高放熱性基板27に前記電力変換回路部品を実装し、高放熱性基板27をヒートシンクに密着させる。この構造によれば高い放熱性が得られる。
【0087】
なお、スイッチング電源の出力電圧ではなく、出力電流との相関性のある信号を2次側から1次側に送信する機能を備え、1次信号処理回路が出力電流との相関性のある信号を受信し、出力電流が目標値に漸近するように1次電力スイッチの駆動信号幅を制御するパルス幅制御機能を備えてもよい。
【0088】
また、電力伝送トランス部14の1次コイル又は2次コイルの過電流状態、電力伝送トランス部14の過熱状態、スイッチング電源の入力電圧の低電圧状態・過電圧状態、スイッチング電源の出力電圧の低電圧状態・過電圧状態の少なくとも何れかの異常状態を検出する検出回路を備え、異常動作を検出すると、1次電力スイッチのデューティの低減、スイッチング動作の停止、又はヒカップ動作、の何れかを行うことでスイッチング電源を保護する異常動作保護手段を備えてもよい。
【0089】
《第3の実施形態》
図12は第3の実施形態に係るスイッチング電源モジュール302の回路図である。
このスイッチング電源モジュール302には、第2の実施形態で示した構造の複合トランスモジュール24と基本的に同様の構成によって、図12に示す第1の信号伝送トランス部209、第2の信号伝送トランス部210、電力伝送トランス部208を構成している。第1の信号伝送トランス部209は1次コイル209Aと2次コイル209Bを含み、第2の信号伝送トランス部210は1次コイル210Aと2次コイル210Bを含み、電力伝送トランス部208は1次コイル208A、2次コイル208B、および補助コイル208Cを含んでいる。
【0090】
このスイッチング電源モジュール302は、いわゆるダブルエンド絶縁型DC−DCコンバータ(ハーフブリッジコンバータ)を構成している。1次コイル208Aおよび2次コイル208Bを有する電力伝送トランス部208、この電力伝送トランス208の1次側に接続される第1の電力スイッチ204および第2の電力スイッチ(ハイサイド電力スイッチ)205、第1・第2の電力スイッチ204,205をスイッチング制御する1次側制御回路280と、電力伝送トランス部208の2次側に接続される第1の同期整流器211、第2の同期整流器212、チョークコイル213を備えている。
【0091】
また、1次側制御回路280からの信号に基づいて第1の電力スイッチ204のターンオンおよびターンオフのタイミングにほぼ対応する第1のターンオフエッジ信号および第1のターンオンエッジ信号を発生する第1のエッジ信号発生回路271と、1次側制御回路270からの信号に基づいて第2の電力スイッチ205のターンオンおよびターンオフのタイミングにほぼ対応する第2のターンオフエッジ信号および第2のターンオンエッジ信号を発生する第2のエッジ信号発生回路272を備えている。
【0092】
また、第1のターンオフエッジ信号および第1のターンオンエッジ信号を2次側へ伝送する第1の信号伝送トランス部209と、第2のターンオフエッジ信号および第2のターンオンエッジ信号を2次側へ伝送する第2の信号伝送トランス部210と、第1の信号伝送トランス部209によって伝送された第1のターンオフエッジ信号で第1の同期整流器211をターンオフし、第1の信号伝送トランス部209によって伝送された第1のターンオンエッジ信号で第1の同期整流器211をターンオンする第1の同期整流器制御回路273を備えている。さらに、第2の信号伝送トランス部210によって伝送された第2のターンオフエッジ信号で第2の同期整流器212をターンオフし、第2の信号伝送トランス部210によって伝送された第2のターンオンエッジ信号で第2の同期整流器212をターンオンする第2の同期整流器制御回路274を備えている。
【0093】
入力直流電源201のライン間には第1・第2の電力スイッチ204,205およびコンデンサ206,207の直列回路をそれぞれ接続していて、第1・第2の電力スイッチ204,205の接続点とコンデンサ206,207の接続点との間に電力伝送トランス部208の1次コイル208Aを接続している。
【0094】
電力伝送トランス部208の2次コイル208B、208Cの接続点にはチョークコイル213の一端を接続し、チョークコイル213の他端と2次側グランドとに間に出力平滑コンデンサ214を接続している。
【0095】
電力伝送トランス部208の2次コイル208Bの一端と2次側グランドとの間には第1の同期整流器211を接続している。また、電力伝送トランス部208の2次コイル208Cの一端と2次側グランドとの間には第2の同期整流器212を接続している。
【0096】
このスイッチング電源モジュール302の入力には入力直流電源201が接続され、出力には負荷215が接続される。また、1次側制御回路電源入力部216には制御電源電圧が印加される。
【0097】
第1のエッジ信号発生回路271は、ショットキーバリアダイオード(以下、「SBD」)219,220、およびコンデンサ222で構成していて、1次側制御回路電源入力部216と1次側のグランドとの間に接続している。同様に、第2のエッジ信号発生回路272は、SBD217,218、およびコンデンサ221で構成していて、1次側制御回路電源入力部216と1次側のグランドとの間に接続している。
【0098】
PWM制御回路202の第1のPWM信号出力端子2Aと第1のエッジ信号発生回路271との間には第1の信号伝送トランス部209の1次コイル209Aを接続している。同様に、PWM制御回路202の第2のPWM信号出力端子2Bと第2のエッジ信号発生回路272との間には第2の信号伝送トランス部210の1次コイル210Aを接続している。
【0099】
第1の同期整流器制御回路273は、NチャネルMOSFET224、PチャネルMOSFET225、ダイオード(PNダイオード)226,227、ツェナーダイオード229、抵抗228を備えている。同様に、第2の同期整流器制御回路274は、NチャネルMOSFET235、PチャネルMOSFET236、ダイオード(PNダイオード)232,233、ツェナーダイオード230、抵抗231を備えている。
【0100】
FET224、FET225、抵抗223の直列回路は2次側制御回路電源入力部237と2次側グランドとの間に接続し、FET224とFET225の接続点はNチャネルMOSFETである第1の同期整流器211のゲートに接続している。同様にFET235、FET236、抵抗234の直列回路は2次側制御回路電源入力部237と2次側グランドとの間に接続し、FET235とFET236の接続点はNチャネルMOSFETである第2の同期整流器212のゲートに接続している。
【0101】
また、第1の同期整流器制御回路273のダイオード226,227の接続点とFET224,225の接続点との間に第1の信号伝送トランス部209の2次コイル209Bを接続している。同様に、第2の同期整流器制御回路274のダイオード232,233の接続点とFET235,236の接続点との間に第2の信号伝送トランス部210の2次コイル210Bを接続している。
【0102】
前記1次側制御回路280は、ハイサイドドライバICを用いることなく、基準電位(ソース)がグランドと非接続の第2の電力スイッチ205を第2の信号伝送トランス部210を用いて駆動するように構成している。
【0103】
第2の電力スイッチ205の駆動用電力を確保するために、コンデンサ256及びダイオード255からなるブートストラップ回路254を設けている。このブートストラップ回路254の出力部と1次側グランドとの間に、FET258、FET259、抵抗257の直列回路を接続し、FET258とFET259の接続点は第2の電力スイッチ205のゲートに接続している。FET258とFET259のゲートにはダイオード260,261、ツェナーダイオード263、抵抗262からなる回路を接続している。そして、ダイオード260,261の接続点とFET258,259の接続点との間に第2の信号伝送トランス部210の3次コイル210Cを接続している。
【0104】
また、抵抗264とSBD265による第1の電力スイッチ側遅延回路278をPWM制御回路202の第1のPWM信号出力端子202Aと第1の電力スイッチ204のゲートとの間に設けている。
【0105】
図12において、電力スイッチ204,205、コンデンサ206,207、同期整流器211,212、チョークコイル213、出力平滑コンデンサ214、入力直流電源201、及び負荷215以外が複合トランスモジュールで構成されている。
【0106】
このスイッチング電源モジュール302の動作は次のとおりである。先ず、第2の信号伝送トランス部210の3次コイルから出力される第2のターンオフエッジ信号はダイオード260を通してFET258のゲートに印加され、FET258がターンオンし、第2の電力スイッチ205のゲートに電荷が充電されて第2の電力スイッチ205がターンオンされる。その後、第2のターンオンエッジ信号は、ダイオード261を通してFET259のゲートに印加されてFET259がターンオンし、第2の電力スイッチ205のゲートの電荷が放電され、第2の電力スイッチ205がターンオフされる。
【0107】
第2の信号伝送トランス部210の極性に応じて、電力スイッチ205はPWM制御回路202が出力した第2のPWM信号と同じタイミングで駆動され、第2の同期整流器212は反転したタイミングで駆動されるため、第2の電力スイッチ205と第2の同期整流器212とはほぼ相補的なタイミングで駆動される。同様にして、第1の電力スイッチ204と第1の同期整流器211がほぼ相補的なタイミングで駆動される。なお、第2の電力スイッチ205のゲートの充電電流は抵抗257で制限される。このことにより、第2の遅延時間が確保される。また、第1の電力スイッチ側遅延回路278で電力スイッチ204のゲート充電電流が制限される。このことによって第1の遅延時間が確保される。
【0108】
《他の実施形態》
この発明は以上に示した実施形態に限らず様々な実施形態を採り得る。例えば、複合トランスのコア形状は様々な応用形態があり、コア18の中脚、外脚の断面は、円形や楕円形などの他の形状でもよい。また、特開平11−340058のように同心円状に複数のトランスを構成してもよい。
【0109】
なお、この発明は以上に示した実施形態に限らず様々な実施形態を採り得る。例えば、各実施形態では中脚、外脚の断面を共に長方形や円形以外に楕円形など他の形状でもよい。
【0110】
また、コアは5本脚のコアに限らず、4本脚のコアを用いて一つの電力伝送トランス部一つの信号伝送トランス部を設けてもよい。
また、コアの中脚の接合部に磁気ギャップを設けて、電力伝送トランス部の直流重畳特性を改善してもよい。
【0111】
また、コア18を嵌め合わせる方法は、コア留め用の金具を用いてもよいし、プラスチック等、他の材質でコア留め用の部品を形成してもよい。コア留め用の部品を使用せず、接着剤によってコア同士を接着してもよい。
【0112】
また、電力伝送トランス部を形成するコイルは、プリント基板に導体パターンを形成してもよいし、線材をボビンに巻いて形成しても良く、ボビンに銅箔を絶縁シートを介して巻回しても良く、それ以外の公知のコイル形成方法も問題なく適用できる。
【0113】
また、この発明のスイッチング電源モジュールにおいて、信号伝送トランス15は、同期整流器の駆動や、出力電圧、出力電流の制御、あるいは電力伝送コイル部の過電流状態、過熱状態、スイッチング電源の入力電圧の低電圧状態、過電圧状態、スイッチング電源の出力電圧の低電圧状態、又は過電圧状態などの異常動作を検出してスイッチング電源を保護する各種保護回路での利用以外に、他の用途にも応用可能である。また、例えばデジタル信号の伝送に用いてもよい。
【符号の説明】
【0114】
12…複合トランスモジュール
13…多層基板
14…電力伝送トランス部
14t…補助コイル
14p…1次コイル
15L,15R…信号伝送トランス部
14s…2次コイル
15Lp…1次コイル
15Rp…1次コイル
16…複合トランス
15Ls…2次コイル
15Rs…2次コイル
17…1次信号処理回路
18BLa,18BLb,18BRa,18BRb…外脚
18T,18B…コア
18TC,18BC…中脚
19C,19La,19Lb,19Ra,19Rb…コア脚挿通孔
20…ボビン
21…接続端子挿通孔
23…接続端子
22…2次信号処理回路
24…複合トランスモジュール
25…放熱シート
26…接続端子
27…高放熱性基板
28…スイッチ素子
29…入出力フィルタ
31…接続端子
101a,103a…コイル
102a,102c…コイル
102b…ビア電極
103a…コイル
104a,104c…コイル
104b…ビア電極
115…入力端子
117,122…平滑コンデンサ
118…電力スイッチ
119…整流側同期整流器
120…転流側同期整流器
121…チョークコイル
105a,105c…コイル
105b…ビア電極
123…出力端子
106a,106c…コイル
106b…ビア電極
124…出力端子
125…マルチバイブレータ
129,130…インバータ
132…ANDゲート
136,137…MOS−FET
301,302…スイッチング電源モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1組のコアと、1次−2次間で電力を伝送する電力伝送トランス部と、当該電力伝送トランス部とは実質的に独立して1次−2次間で信号を伝送する信号伝送トランス部と、を有する複合トランスを備え、
前記信号伝送トランス部は、前記コアの磁脚を貫通させた多層基板及び当該多層基板に形成されたコイルパターンで構成され、
信号伝送トランス部の入出力信号を処理する信号処理回路が前記多層基板に実装され、
前記複合トランスと前記信号処理回路とがモジュールとして一体形成されたことを特徴とする複合トランスモジュール。
【請求項2】
前記信号処理回路は、トランスの1次側に設けられた1次信号処理回路と、トランスの2次側に設けられた2次信号処理回路とで構成される、請求項1に記載の複合トランスモジュール。
【請求項3】
前記コアは、中脚部及び外脚部を含む少なくとも4つ以上の磁脚を有する、請求項1又は2に記載の複合トランスモジュール。
【請求項4】
前記コアの中脚部の外周に電力伝送トランス部の1次コイル及び2次コイルが巻回され、前記電力伝送トランス部の外側に少なくとも3つ以上の外脚部が形成された、請求項3に記載の複合トランスモジュール。
【請求項5】
前記電力伝送トランス部の1次コイル及び2次コイルは、前記中脚部が貫通するボビンに巻回された銅線で構成され、前記ボビンに前記多層基板が接合された、請求項4に記載の複合トランスモジュール。
【請求項6】
前記電力伝送トランス部の1次コイル及び2次コイルは、前記多層基板に形成された、前記中脚部の周囲を巻回するコイルパターンで構成された、請求項4に記載の複合トランスモジュール。
【請求項7】
前記多層基板の前記中脚部の周囲を巻回する位置に、前記信号処理回路に対する電源用のコイルパターンが形成され、
前記電源用のコイルパターンに誘起される電圧を整流平滑して前記信号処理回路へ電源電圧を供給する整流平滑回路を備えた、請求項5又6に記載の複合トランスモジュール。
【請求項8】
前記電力伝送トランス部の1次コイルへの印加電圧をスイッチングする1次電力スイッチを制御する回路を備えて、前記複合トランスモジュールが絶縁型スイッチング電源の一部を構成する、請求項1乃至7の何れかに記載の複合トランスモジュール。
【請求項9】
前記2次信号処理回路は、前記絶縁型スイッチング電源の出力電圧又は出力電流との相関性のある信号を2次側から1次側に送信する機能を備え、
前記1次信号処理回路は、前記出力電圧又は出力電流との相関性のある信号を受信し、前記出力電圧又は出力電流が目標値に漸近するように1次電力スイッチの駆動信号幅を制御するパルス幅制御機能と、前記1次電力スイッチの駆動信号を出力する手段とを備えた、請求項8に記載の複合トランスモジュール。
【請求項10】
前記絶縁型スイッチング電源は、1次側に前記1次電力スイッチとは駆動信号の基準電位が異なるハイサイド電力スイッチを備え、
前記1次信号処理回路は、前記1次電力スイッチの駆動タイミングと関連した前記ハイサイド電力スイッチの駆動信号をモジュールから出力する手段を備えた、請求項9に記載の複合トランスモジュール。
【請求項11】
前記1次信号処理回路は同期整流器の駆動タイミングと関連する信号を1次側から2次側に送信する回路を備え、
前記2次信号処理回路は、前記同期整流器の駆動タイミングと関連する信号を受信して、同期整流器の駆動信号を形成してモジュールから出力する回路を備える、請求項8乃至10の何れかに記載の複合トランスモジュール。
【請求項12】
前記信号処理回路は、前記電力伝送トランス部の1次コイル又は2次コイルの過電流状態、前記電力伝送トランス部の過熱状態、絶縁型スイッチング電源の入力電圧の低電圧状態、絶縁型スイッチング電源の入力電圧の過電圧状態、絶縁型スイッチング電源の出力電圧の低電圧状態、絶縁型スイッチング電源の出力電圧の過電圧状態の少なくとも何れかの異常状態を検出する検出回路を備え、
前記検出回路が異常動作を検出すると、前記1次電力スイッチのデューティの低減、スイッチング動作の停止、又はヒカップ動作、の何れかを行うことで前記絶縁型スイッチング電源を保護する異常動作保護手段を備えた、請求項8乃至11の何れかに記載の複合トランスモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−192724(P2011−192724A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55996(P2010−55996)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】