説明

複合ナノファイバ

【課題】粒子の脱落が起こらず、かつヒトの皮膚に貼付した場合に、しわや毛穴等の皮膚の表面の凹凸を簡便な手段で目立たなくすることができるナノファイバ及びナノファイバシートを提供する。
【解決手段】複合ナノファイバ10は、ナノファイバ11に粒子12が固定化された複合体からなる。粒子12の粒径Aはナノファイバ11の太さBよりも大きく、かつナノファイバ11の構成材料13によって粒子12の表面が被覆されている。粒子12は、板状又は光散乱性のものであることが好適である。この複合ナノファイバ10を含むナノファイバシートは、ヒトの皮膚に貼付される凹凸隠し用シートとして使用されることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ナノファイバ及びこれを含むナノファイバシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノファイバからなるナノファイバシートに粒子を含有させることに関する技術としては、例えば特許文献1ないし特許文献4に記載のものが知られている。特許文献1では、高分子化合物のナノファイバからなる網目状構造体に、金属微粒子からなる化粧料成分を保持させた化粧用シートが提案されている。しかし、同文献では、どの程度の大きさの微粒子を保持させるかについては言及されていない。
【0003】
特許文献2には、ナノファイバシートにカオリン、カーボンブラック、酸化チタン、タルク等の粒子を含有させることが記載されている。同文献でも、これらの粒子としてどの程度の大きさのものを用いるかについては言及されていない。これらの粒子がナノファイバの顔料として用いられていることにかんがみると、その粒径はナノファイバの繊維径よりも小さいと考えられる。
【0004】
特許文献3にも、顔料を含むナノファイバシートが記載されている。しかし顔料の粒径についての言及はない。顔料として用いられていることにかんがみると、上述した特許文献2と同様に、その粒径は小さいと考えられる。
【0005】
特許文献4に記載のナノファイバシートに含まれる微粒子は、ナノファイバ自体に固定化された状態になっていないので、該微粒子の脱落が起こりやすくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−179629号公報
【特許文献2】国際公開第2009/031620号パンフレット
【特許文献3】特開2007−303020号公報
【特許文献4】特表2007−528944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消した粒子の脱落がない複合ナノファイバを提供することにある。また、ヒトの皮膚に貼付した場合に、しわや毛穴等の皮膚の表面の凹凸を簡便な手段で目立たなくすることができるナノファイバ及びナノファイバシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ナノファイバに粒子が固定化された複合体からなり、該粒子の粒径は該ナノファイバの太さよりも大きく、該ナノファイバを構成する材料によって該粒子の表面が被覆されている複合ナノファイバを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粒子の脱落が起こらず、かつヒトの皮膚に貼付した場合に、しわや毛穴等の皮膚の表面の凹凸を簡便な手段で目立たなくすることができるナノファイバ及びナノファイバシートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(a)は、本発明のナノファイバシートの構造を模式的に示す図であり、図1(b)は、図1(a)の要部拡大図である。
【図2】図2は、電界紡糸法を行うために用いられる好適な装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。本発明の複合ナノファイバを構成するナノファイバは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10〜3000nm、特に10〜1000nmのものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、10000倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(ナノファイバの塊、ナノファイバの交差部分、ポリマー液滴)を除き、繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に垂直に線を引き繊維径を直接読み取ることで測定することができる。
【0012】
ナノファイバは、繊維形成性の材料を原料とするものである。好ましくは、ナノファイバは水不溶性の材料を含んでいる。ナノファイバが水不溶性の材料を含んでいることで、該ナノファイバを含むシートを例えばヒトの皮膚に貼付した場合、汗等の水分によって該シートが溶解することを防止できる。本明細書において「水不溶性高分子化合物」とは、1気圧・23℃の環境下において、高分子化合物1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した高分子化合物の0.8g以上が溶解しない性質を有する高分子化合物をいう。
【0013】
ナノファイバを構成する水不溶性の材料としては、例えばナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などの水不溶性高分子化合物が挙げられる。
【0014】
ナノファイバには、水不溶性の材料に加えて水溶性の材料が含まれていてもよい。しかし、水溶性の材料の割合は高くしないことが好ましい。本明細書において「水溶性高分子化合物」とは、1気圧・23℃の環境下において、高分子化合物1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した高分子化合物の0.5g以上が溶解する性質を有する高分子化合物をいう。
【0015】
ナノファイバを構成する水溶性の材料としては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β-グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分鹸化ポリビニルアルコール(架橋剤と併用しない場合)、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子などの水溶性高分子化合物が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
ナノファイバは、水不溶性の材料100%から構成されていてもよく、水不溶性の材料に加えて水溶性の材料から構成されていてもよい。この場合、ナノファイバに占める水溶性の材料の割合は、1〜80質量%、特に3〜50質量%であることが好ましい。水溶性材料の割合がこの範囲内であると、ナノファイバシートの使用時に、液状物(液状物は水性であっても油性でも使用でき、表面張力が高いほど好ましい。)と併用して対象物の表面に適用すると、該ナノファイバシートが水と接触することによってナノファイバ中の水溶性高分子化合物が液状物に溶解し、溶解した水溶性高分子化合物が接着性を発揮してバインダとして作用して、シートと対象物の表面との密着性が維持される。しかも、水不溶性高分子化合物がナノファイバの骨格を形成しているので、水溶性高分子化合物が溶解した後であっても、ナノファイバはファイバとしての形態が保たれている。
【0017】
図1(a)に示すように、ナノファイバ11には粒子12が固定化されて複合体が形成されている。1本のナノファイバには、1個又は2個以上の粒子が固定化されている。本発明は、ナノファイバの太さと粒子の粒径との関係に特徴の一つを有している。詳細には、図1(b)に示すように、粒子の粒径Aは、ナノファイバの太さBよりも大きくなっている。このような関係があることで、本発明の複合ナノファイバを含むナノファイバシートには以下の利点がある。すなわち該ナノファイバシートを例えばヒトの皮膚に貼付すると、しわや毛穴等の皮膚の表面の凹部に粒子が入り込む。凹部に入り込んだ粒子は、皮膚が縮んで変形するときに、その変形を阻害するように働き、それによってしわ等が寄りづらくなり、皮膚の凹凸が目立たなくなる。また、粒径がナノファイバの太さより大きい粒子の存在により、ナノファイバシートの表面に凹凸ができ、光が散乱しやすくなることによってナノファイバシートの質感を向上することができる。更にはナノファイバシート表面に凹凸を作ることにより、ファンデーション等の塗布性が向上する利点もある。したがって本発明の複合ナノファイバを含むナノファイバシートは、ヒトの皮膚に貼付されて使用される美容の目的のための凹凸隠し用シートとして特に好適である。しわ等が寄りづらくなるという上述の効果を一層顕著なものとする観点から、粒径はナノファイバの太さより大きいことを条件として、具体的には1〜150μm、特に1〜100μm、とりわけ3〜50μmであることが好ましい。
【0018】
粒子12の粒径Aは、レーザ回折粒子分布測定器(島津製作所製SALD−300V)を用いて湿式法で測定することができる。これにより得られた粒子のメディアン径を粒径Aとして用いる。
【0019】
一方、ナノファイバの太さBは、ヒトの皮膚に貼付したナノファイバシートを目立たなくする観点から細いことが好ましい。尤も、ナノファイバが細すぎると、大粒径の粒子を保持することが容易でなくなる。この観点からナノファイバの太さBは、上述した範囲であることが好ましい。また、ナノファイバの太さBに対する粒子の粒径Aの比(A/B)は1.1〜200、特に5〜100であることが、粒子の確実な保持の点から好ましい。
【0020】
本発明の複合ナノファイバにおいては、ナノファイバに固定化されている粒子の保持状態も特徴の一つである。詳細には、図1(b)に示すように、複合ナノファイバ10における粒子12は、ナノファイバ11の構成材料13によってその表面が被覆されている。そして、粒子12を被覆する該材料13が、粒子12とナノファイバ11との結合剤として機能している。これによって、粒子12はナノファイバ11に確実に保持されている。粒子12の確実な保持の観点からは、複合ナノファイバ10においては、その表面の全域が、ナノファイバ11の構成材料13によって完全に被覆されていることが望ましいが、完全に被覆されていることは必須ではない。
【0021】
先に述べたとおり、ナノファイバに固定化されている粒子は、ヒトの皮膚のしわ等の凹部に入り込むことで、それ以上しわが寄ることを阻止するものである。この観点から、粒子の形状は、しわが寄ることを阻止するのに有利な形状であることが好ましい。本発明者らの検討の結果、粒子が板状であると、しわが寄ることを効果的に阻止できることが判明した。
【0022】
前記の板状の粒子は、その板面の形状が、例えば円形、楕円形、三角形、四角形及び六角形等の多角形、不定形等であり得る。また、板状の粒子は、そのアスペクト比(板径/板厚)が、1.5〜10000、特に2〜1000であることが好ましい。
【0023】
粒子が板状である場合、その粒径とはレーザ回折粒子分布測定器(島津製作所製SALD−300V)を用いて湿式法で測定することができる。これにより得られた粒子のメディアン径を粒径として用いる。
【0024】
前記の板状の粒子としては、例えばタルクや雲母などを用いることができる。また、カオリナイト、モンモリロナイト、イライト等の粘土鉱物を用いることもできる。更に、アルミナ等の金属酸化物焼結体の板状粒子、炭酸カルシウム等の無機化合物の板状粒子等を用いることができる。これらの板状の粒子は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
ナノファイバに付着させる粒子としては、上述した板状の粒子のほかに、光散乱性の粒子を用いることができる。このような粒子が、ヒトの皮膚のしわ等の凹部に入り込んだ状態で光を散乱すると、しわ等が目立ちにくくなる。本明細書において「光散乱性」とは、光の拡散透過性を高くすることにより、ナノファイバシート下の陰影の境界をぼかして見え難くする性質のことである。また、ナノファイバシート表面の光の反射を抑制することにより光の明度差を小さくする性質をいう。
【0026】
光散乱性の粒子としては、例えば硫酸バリウム、アルミナ、水酸化アルミニウムの粒子状物、マイカ等の平面粒子表面に微細構造を形成したもの、シリコーン樹脂、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル等の高分子材料の球状物、並びに複合粉体等を用いることができる。これらの粒子は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの粒子のうち、特に、規則的な凹凸が形成され、屈曲率が連続的に変化するような不均質膜としてみなせるシートが形成される点から、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル等の高分子材料の球状物、並びに複合粉体を用いることが好ましい。上述した板状の粒子と異なり、光散乱性の粒子は板状であることを要しない。尤も、光散乱性の粒子が板状であることは何ら妨げられない。
【0027】
前記の板状の粒子と光散乱性の粒子とは、それぞれ単独で用いてもよく、あるいは両者を適宜に組み合わせて用いてもよい。
【0028】
ナノファイバに固定化されている前記の大粒径の粒子の量は、複合ナノファイバの質量に対して1〜70質量%、特に5〜60質量%であることが、ナノファイバが安定して形成され、かつ大粒径粒子がナノファイバシート中にまんべんなく分散される点から好ましい。
【0029】
本発明の複合ナノファイバにおいては、前記の大粒径の粒子に加えて、ナノファイバの太さよりも粒径が小さい、小粒径の粒子を含んでいてもよい。かかる小粒径の粒子は、主としてナノファイバに対する顔料として用いられ、ナノファイバを着色する等の目的で、ナノファイバ中に含有される。そのような小粒径の粒子の例としては、粒径が10〜1000nm程度の顔料、金属微粒子等が挙げられる。複合ナノファイバに占めるこれら小粒径の粒子の割合は50質量%以下、特に10〜40質量%であることが好ましい。ナノファイバシートを、ヒトの肌に貼付して美容の目的で用いる場合には、小粒径の粒子として、肌色の顔料を用いることが好ましい。肌色の顔料とは、ナノファイバシートの外観色が、マンセル表色系において、色相2.0YR〜9.0YR、明度5.2〜8.0、彩度2.7〜4.7の範囲内にあるような色を呈する顔料のことをいう。
【0030】
本発明の複合ナノファイバは、これを含むシート状の形態で好適に用いられる。本発明の複合ナノファイバを含むシート(以下、このシートを「ナノファイバシート」という。)は、本発明の複合ナノファイバのみから構成されていてもよく、他の繊維を含んでいてもよい。他の繊維としては、本発明の複合ナノファイバ以外のナノファイバや、一般的な天然繊維や合成繊維を用いることができる。また、本発明の複合ナノファイバを含む繊維シートに、他の一層以上の繊維シート及び/又はフィルムを積層してなる積層シートも、本発明のナノファイバシートに包含される。
【0031】
ナノファイバシートにおいて、複合ナノファイバは、それらの交点において結合しているか、又は複合ナノファイバどうしが絡み合っている。それによって、ナノファイバシートは、それ単独でシート状の形態を保持することが可能となる。複合ナノファイバどうしが結合しているか、あるいは絡み合っているかは、ナノファイバシートの製造方法によって相違する。
【0032】
ナノファイバシートの厚みは、その具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシートを、例えばヒトの皮膚に貼付するために用いる場合には、その厚みを0.5μm〜1mm、特に1.0μm〜500μmに設定することが好ましい。また坪量は、0.01〜100g/m2、特に0.1〜50g/m2であることが好ましい。ナノファイバシートの厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(R5mm超硬球面測定子を用い、押し付け力0.01Nで測定)を使用することによって測定することができる。
【0033】
先に述べたとおり、本発明のナノファイバシートは、ヒトの皮膚に貼付されて使用される美容のための凹凸隠し用シートとして特に好適なものであるが、これ以外の用途、例えば、非ヒト哺乳類の皮膚や歯、枝や葉などの植物表面などに付着させて用いることもできる。ヒトの皮膚に付着させる場合、及びそれ以外の部位に付着させる場合のいずれにおいても、ナノファイバシート又は付着の対象物の表面を水や水を含む水性液などの液状物で湿潤させた状態下に、ナノファイバシートを対象物表面に当接させることが好ましい。これによって、表面張力の作用でナノファイバシートが対象物の表面に良好に密着する。複合ナノファイバが水不溶性の材料を含んでいれば、ナノファイバシートを液状物で湿潤させても、その溶解のおそれはない。
【0034】
対象物の表面又はナノファイバシートの表面を湿潤状態にするためには、例えば各種の液状物を該表面に塗布又は噴霧すればよい。塗布又は噴霧される液状物としては、水を含み、かつ5000mPa・s以下の粘性を有する物質が用いられる。そのような液状物としては、例えば水、水溶液及び水分散液等が挙げられる。また、O/WエマルションやW/Oエマルション等の乳化液、増粘剤で増粘された水性液なども挙げられる。具体的には、ナノファイバシートをヒトの皮膚に付着させる場合には、対象物である皮膚の表面を湿潤させるための液体として、化粧水や化粧クリームを用いることができる。
【0035】
液状物の塗布又は噴霧によって対象物の表面又はナノファイバシートの表面を湿潤状態にする程度は、該液状物の表面張力が十分に発現し、かつ水溶性高分子化合物が溶解する程度の少量で十分である。具体的には、ナノファイバシートの大きさにもよるが、その大きさが例えば3cm×3cmの正方形の場合、0.01mlの量の液状物を対象物の表面に存在させることで、ナノファイバシートを容易に該表面に付着させることができる。
【0036】
前記のナノファイバシートは例えば図2に示すように、電界紡糸法(エレクトロスピニング法、ESD)を用いて好適に製造される。同図に示す電界紡糸法を実施するための装置30は、シリンジ31、高電圧源32、導電性コレクタ33を備える。シリンジ31は、シリンダ31a、ピストン31b及びキャピラリ31cを備えている。キャピラリ31cの内径は400〜1200μm程度であり、この内径は、ナノファイバに固定化される大粒径の粒子の粒径よりも大きく設定されている。シリンダ31a内には、複合ナノファイバの原料となる高分子化合物及び大粒径の粒子を含む原料液が充填されている。高電圧源32は、例えば10〜40kVの直流電圧源である。高電圧源32の正極はシリンジ31における原料液と導通している。高電圧源32の負極は接地されている。導電性コレクタ33は、例えば金属製の板であり、接地されている。シリンジ31におけるキャピラリ31cの先端と導電性コレクタ33との間の距離は、例えば30〜300mm程度に設定されている。キャピラリ31cからの原料液の吐出量は、好ましくは0.1〜20ml/h、更に好ましくは0.5〜10ml/hとすることができる。図2に示す装置30は、大気中で運転することができる。運転環境に特に制限はなく、温度20〜40℃、湿度10〜50%RHとすることができる。
【0037】
水不溶性のナノファイバを首尾良く製造する観点からは、前記の原料液として、繊維形成後の処理によって水不溶性となる水溶性の高分子化合物とを含む水溶液を用いることができる。繊維形成後の処理によって水不溶性となる水溶性の高分子化合物としては、完全鹸化ポリビニルアルコールを用いることが有利である。完全鹸化ポリビニルアルコールは水溶性であるととともに、これを加熱することによって結晶化度が高まり水不溶性に変化するからである。したがって、上述の電界紡糸法によってナノファイバシートを製造した後に、加熱を行うことで、完全鹸化ポリビニルアルコールからなる水不溶性樹脂を含有する複合ナノファイバを含むナノファイバシートが得られる。加熱条件は、温度60〜300℃、時間1〜200分であることが好ましい。
【0038】
また前記の原料液として、有機溶媒に溶解する水不溶性高分子化合物が有機溶媒に溶解した溶液を用いることもできる。そのような有機溶媒と水不溶性高分子化合物との組み合わせとしては、例えばポリ乳酸とクロロホルムの組み合わせや、オキサゾリン変性シリコーンとエタノールとの組み合わせや、ツエイン、ポリビニルブチラール等とエタノールとの組み合わせ等が挙げられる。
【0039】
前記の原料液における高分子化合物の濃度は3〜50質量%とすることが好ましい。また、大粒径の粒子の濃度は2〜30質量%とすることが好ましい。
【0040】
図2に示す装置30において、シリンジ31と導電性コレクタ33との間に電圧を印加した状態下に、シリンジ31のピストン31bを徐々に押し込み、キャピラリ31cの先端から原料液を押し出す。押し出された原料液においては、溶媒が揮発し、溶質である高分子化合物が固化しつつ、電位差によって伸長変形しながらナノファイバを形成し、導電性コレクタ33に引き寄せられる。この場合、高分子化合物の固化とともに原料液中に含まれる粒子が、伸長変形しつつある高分子化合物に取り込まれ、該粒子の表面が高分子化合物によって被覆される。この状態下に高分子化合物の伸長変形及び固化が進行して、目的とする複合ナノファイバが形成される。装置30において、導電性コレクタ33の表面に基材層(図示せず)となるべきシートを配置しておけば、該基材層の表面に複合ナノファイバを堆積させることができ、それによってナノファイバシートが形成される。このようにして形成された複合ナノファイバは、その製造の原理上は、無限長の連続繊維となる。
【0041】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、ナノファイバの製造方法として、電界紡糸法を採用した場合を例にとり説明したが、ナノファイバの製造方法はこれに限られない。
【0042】
また、図2に示す電界紡糸法においては、形成されたナノファイバが板状の導電性コレクタ33上に堆積されるが、これに代えて導電性の回転ドラムを用い、回転する該ドラムの周面にナノファイバを堆積させるようにしてもよい。
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0044】
〔実施例1〕
(1)原料液の調製
高分子化合物として完全鹸化ポリビニルアルコール(PVA)(PVA117、クラレ(株))、プルラン(林原商事(株))を用いた。このPVAは、鹸化度98%、重合度1700のものであった。また、大粒径の粒子として板状のタルク(粒径12μm)を用い、小粒径の顔料粒子として肌色に調色した顔料(粒径200nm)を用いた。これらを水と混合して原料液を調製した。原料液中におけるポリビニルアルコールの濃度は7.3%、プルランの濃度は1.5%、タルクの濃度は2.9%、顔料の濃度は2.9%となるように、100gの原料液を調製した(表1参照)。
【0045】
(2)電界紡糸法
前記で得られた原料液を用い、図2に示す装置によって電界紡糸法を行い、導電性コレクタ33の表面に配置されたポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:25μm)の表面にナノファイバシートを形成した。電界紡糸法の条件は以下のとおりとした。
・印加電圧:26kV
・キャピラリ−コレクタ間距離:165mm
・原料液吐出量:1.0ml/h
・環境:24℃、39%RH
【0046】
(3)加熱処理
前記で得られたナノファイバシートを200℃で2分間加熱処理し、完全鹸化ポリビニルアルコールを水不溶化し、目的とするナノファイバシートを得た。得られたナノファイバシートの厚みを、先に述べた方法で測定したところ、8.8μmであった。坪量は3.2g/m2であった。このナノファイバシートを走査型電子顕微鏡で観察したところ、タルクがナノファイバに固定化されていることが確認された。タルクは、その表面がポリビニルアルコールによって被覆されていた。得られた複合ナノファイバにおける各成分の割合は、以下の表2に示すとおりであった。得られた複合ナノファイバの太さを走査型電子顕微鏡で測定したところ、表2に示す値であった。
【0047】
〔実施例2〜6〕
高分子化合物、大粒径の粒子及び小粒径の粒子として、以下の表1に示すものを用いて原料液を調製した。それぞれの使用量は、目的とする複合ナノファイバにおける割合が表2に示す値となるようにした。それ以外は実施例1と同様にして複合ナノファイバからなるナノファイバシートを得た。得られたナノファイバシートを走査型電子顕微鏡で観察したところ、大粒径の粒子がナノファイバに固定化されていることが確認された。大粒径の粒子は、その表面が高分子化合物によって被覆されていた。
【0048】
〔比較例1〕
本比較例では大粒径の粒子を用いなかった。高分子化合物及び小粒径の粒子として、以下の表1に示すものを用いて原料液を調製した。それぞれの使用量は、目的とする複合ナノファイバにおける割合が表2に示す値となるようにした。それ以外は実施例1と同様にして、複合ナノファイバからなるナノファイバシートを得た。
【0049】
〔比較例2及び3〕
本比較例では、大粒径の粒子及び小粒径の粒子を用いず、表1に示す高分子化合物のみを用いてナノファイバシートを製造した。得られたナノファイバシートに、表2に示す大粒径の粒子及び小粒径の粒子を添加した。添加方法は、大粒径粒子及び小粒径粒子を、分散剤(ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体(HLB13))を併用してイオン交換水中に均一分散させ、該ナノファイバ上に均一噴霧を行う方法を採用した。分散液における大粒径粒子の濃度は10.0%、小粒径粒子の濃度は10.0%であった。各粒子の添加量は、添加後のナノファイバの質量に対して、表2に示す割合となるような量とした。
【0050】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られたナノファイバシートについて、以下の方法で、大粒径の粒子の脱落のしづらさを評価した。また、ナノファイバシートの外観及び皮膚への密着性を評価した。更に、ナノファイバシートによるしわの目立ちづらさを評価した。それらの結果を以下の表2に示す。
【0051】
〔大粒径の粒子の脱落のしづらさ〕
得られたナノファイバシートを電子顕微鏡で観察を行う。その後、観察部と同等部分を5cm×5cmにカットし、スクリュー管No7内部に、イオン交換水40mlとともに封入する。その後、超音波洗浄器(アズ・ワン(株)製、VS−70RS1)を用いて5分間超音波をかけて、乾燥した後に電子顕微鏡で観察を行い、以下の基準で評価を行う。
○:超音波をかける前後で大粒径粒子の観察される頻度(単位面積あたりに観察される大粒径粒子の個数)が変わらない。又は、超音波をかける前に観察された粒子頻度と、超音波をかけた後の粒子頻度の差が30%以内である。
△:超音波をかける前に観察された粒子頻度と、超音波をかけた後の粒子頻度の差が30%〜50%である。
×:超音波をかける前に観察された粒子頻度と、超音波をかけた後の粒子頻度の差が50%以上である。
【0052】
〔ナノファイバシートの外観〕
得られたナノファイバシートの外観を肉眼にて観察し、以下の基準で評価を行う。
○:ナノファイバシート表面に、粒子の凝集、脱離等による目立った痕跡、及び大粒径粒子が混合することにより生じたと考えられる明確な不具合が見られず、一様な表面性を有する。
△:ナノファイバシート表面に、粒子の凝集、脱離等による目立った痕跡、及び大粒径粒子が混合することにより生じたと考えられる明確な不具合が観察されるものの、その頻度が10cm×10cmの範囲に5つ以下である。
×: ナノファイバシート表面に、粒子の凝集、脱離等による目立った痕跡、及び大粒径粒子が混合することにより生じたと考えられる明確な不具合が観察され、その頻度が10cm×10cmの範囲に6つ以上である。なお、ここで明確な不具合とは、大粒径粒子が存在することにより、ナノファイバシート表面に不自然な凹凸が出来たり、粒子とともに液滴が飛散することにより色合いの明確な変化した領域が存在することをいう。
【0053】
〔ナノファイバシートの皮膚への密着性〕
被験者の肌の表面を、中性界面活性剤を用いて洗浄し、ウエスを用いて水滴を除去し、23℃・50%RH環境下で十分な時間経過した後、霧吹きを用いてφ70mmの範囲に0.05gのイオン交換水を満遍なく噴霧する。そこに20×20mmに切り分けたナノファイバシートを貼り付け水分が乾燥するまで放置する。その後に密着性及び繊維形状の保持性を以下の方法にて3人のパネラーに評価させる。最も人数の多い評価をトータルの評価とする。
○:ナノファイバシートの四隅まで密着している。
△:ナノファイバシートは密着しているが、一部剥がれやすい部分がある。
×:ナノファイバシートの大部分が剥がれてしまう。
【0054】
〔ナノファイバシートによるしわの目立ちづらさ〕
被験者の額のしわ部表面を中性界面活性剤を用いて洗浄し、ウエスを用いて水滴を除去し、23℃・50%RH環境下で十分な時間経過した後、霧吹きを用いてφ70mmの範囲に0.05gのイオン交換水を満遍なく噴霧する。そこに20×20mmに切り分けたナノファイバシートを貼り付け水分が乾燥するまで放置する。その後、以下の方法にて3人のパネラーに評価させる。最も人数の多い評価をトータルの評価とする。
○:ナノファイバシート貼付け前と比較して、ナノファイバシート上のしわが目立たなくなっている。
△:ナノファイバシート貼付け前と比較して、ナノファイバシート上のしわの目立ち具合がほとんど変わらない。
×:ナノファイバシート貼付け前と比較して、ナノファイバシート上のしわが目立つ。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表2に示す結果から明らかなように、実施例のナノファイバシートは、しわを目立ちづらくするものであることが判る。これに対して、大粒径粒子を含まない比較例1のナノファイバシートは、これを皮膚に貼付すると、却ってしわが目立ちやすくなることが判る。
【0058】
また、実施例と比較例2及び3との対比から明らかなように、実施例のナノファイバシートは、大粒径の粒子がナノファイバに確実に固定化されており、脱落しづらいことが判る。
【符号の説明】
【0059】
10 複合ナノファイバ
11 ナノファイバ
12 大粒径の粒子
13 粒子の表面を被覆するナノファイバの構成材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバに粒子が固定化された複合体からなり、該粒子の粒径は該ナノファイバの太さよりも大きく、該ナノファイバを構成する材料によって該粒子の表面が被覆されている複合ナノファイバ。
【請求項2】
ナノファイバの太さが10〜3000nmであり、粒子の粒径が1〜100μmである請求項1記載の複合ナノファイバ。
【請求項3】
粒子が板状である請求項1又は2記載の複合ナノファイバ。
【請求項4】
粒子がタルク、雲母又は粘土鉱物である請求項3記載の複合ナノファイバ。
【請求項5】
粒子が光散乱性である請求項1又は2記載の複合ナノファイバ。
【請求項6】
ナノファイバが水不溶性の材料を含む請求項1ないし5の何れかに一項に記載の複合ナノファイバ。
【請求項7】
顔料が含まれている請求項1ないし6のいずれか一項に記載のナノファイバ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の複合ナノファイバを含んで構成されるナノファイバシート。
【請求項9】
請求項8記載のナノファイバシートからなり、ヒトの皮膚に貼付されて使用される凹凸隠し用シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−12337(P2012−12337A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150507(P2010−150507)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】