説明

複合フィラー及びその製造方法、並びに複合フィラーを配合した樹脂組成物

【課題】耐衝撃性と高剛性を両立した改質を可能とし、低比重で、分散性に優れた複合フィラー及びその製造方法、並びにその複合フィラーを配合した樹脂組成物を提供する。
【解決手段】天然繊維、有機繊維又は炭素繊維100質量部に対して、粒径1〜500nmの微粒子5〜95質量部を前記天然繊維、有機繊維又は炭素繊維の表面に付着させてなる複合フィラー;この複合フィラーを樹脂に配合してなる樹脂組成物;及び、ミキサーで撹拌することによりこの繊維表面に微粒子を付着させる複合フィラーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維と微粒子を複合した複合フィラーであって、耐衝撃性と高剛性を両立すると共に、低比重で、分散性に優れた複合フィラー及びその製造方法、並びにその複合フィラーを配合した樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂を改質する方法として、天然繊維、有機繊維等を一定の割合で樹脂に配合する方法がある。ただし、この場合は剛性は向上するが、耐衝撃性が低下してしまう傾向にある。その対策として、エラストマーを添加して耐衝撃性を向上させる方法が有るが、この場合は剛性が低下する傾向があり、コストも大幅に上昇するので有効な方法とは言えない。したがって、天然繊維、有機繊維等を樹脂に配合する場合、剛性と耐衝撃性を両立させることは難しい。それ故に、このような繊維を配合した樹脂組成物の使用用途は限られている。
【0003】
さらに、繊維は嵩高いという特徴が有るので、樹脂組成物中での分散不良を起こし易い。したがって、分散不良にならないように多くの工程を設けたり、長時間の混練を行ったり、大きなせん断力をかけたりしている。しかし、多数の工程を設ける場合は大きなエネルギーやコストを必要とし、しかも製造時の熱履歴の増加によって繊維の焼けや劣化が起こり易い。また、長時間の混練を行う場合や大きなせん断力をかける場合も、熱履歴の増加やせん断力によって、繊維焼けや破損が起こり易い。この繊維焼けや劣化は、外観や臭いの不具合、物性の低下を引き起こし、樹脂組成物の使用用途の制限の原因となる。
【0004】
一方、樹脂の耐衝撃性を向上させる為に、微粒子を樹脂に配合する方法がある。また、配合する微粒子のサイズが小さくなるほど、樹脂組成物の耐衝撃性が高くなることも知られている。ただし、粒径1μm未満(特に500nm以下)のナノサイズの微粒子は比表面積が非常に大きいので分子間同士の凝集力が強く、通常の2軸混練では樹脂中に良好に分散させるのは困難である。その対策としては、インターカレーションや鉱物から成るキャリヤに付着させる等の前処理が知られている。
【0005】
そして特許文献1には、有機繊維又は炭素繊維と微粒子とを混合してなる組成物を造粒せしめ、この造粒物を樹脂に配合することにより繊維と微粒子を樹脂中に分散させて、剛性と耐衝撃性が両立する樹脂組成物を提供できると記載されている。
【0006】
ただし、特許文献1で使用される繊維の長さは1〜50mmであり、両者の配合比は繊維100質量部に対して微粒子100〜5000質量部である。このような長い繊維と微粒子を混練する場合は繊維焼けが発生する惧れがあり、また樹脂組成物に配合した場合の繊維の分散性も劣る。さらに微粒子の配合量が多いので、樹脂組成物の比重が大きくなり軽量化に適さず、かつ微粒子の樹脂組成物中での分散性が劣り、脆化し易く(引張伸びが小さく)なり、落錘系の衝撃性が不足する傾向がある。特に配合成分の分散性の不良は、樹脂強化の目的を妨げるだけでなく、樹脂の物性を配合前よりも低下させしてしまう可能性も有る。
【0007】
さらに特許文献1では、造粒物を作製するには繊維100質量部に対して5〜15質量部の水を添加する必要があると記載されている。したがって、この造粒物を樹脂に配合する前に乾燥工程が必要となり、工程数及びコストが増加してしまう。
【0008】
また一般に、繊維と微粒子の分散性を考慮して樹脂強化の目的を達成する為には大変複雑な工程が必要と考えられる。例えば、繊維の熱履歴やせん断力を極力減らす為に、微粒子の前処理や複合を行い、その後に天然繊維、有機繊維等に配合する工程が考えられる。しかし、これでは多数の工程が必要となり、複合化の際のエネルギー消費量やコストの上昇が避けられない。また、微粒子の分散の為に鉱物からなるキャリアに付着させて、これを配合する方法では、その鉱物が樹脂組成物の物性に不要な影響を与えてしまう場合が有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−221271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した従来技術の課題を解決する為になされたものである。すなわち、本発明の目的は、耐衝撃性と高剛性を両立した改質を可能とし、低比重で、分散性に優れた複合フィラー及びその製造方法、並びにその複合フィラーを配合した樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、天然繊維、有機繊維又は炭素繊維100質量部に対して、粒径1〜500nmの微粒子5〜95質量部を前記天然繊維、有機繊維又は炭素繊維の表面に付着させてなることを特徴とする複合フィラーである。
【0012】
さらに本発明は、上記複合フィラーを樹脂に配合してなることを特徴とする樹脂組成物である。
【0013】
さらに本発明は、天然繊維、有機繊維又は炭素繊維100質量部、粒径1〜500nmの微粒子5〜95質量部、及び、バインダー0.2〜3.0質量部を、加熱しながらミキサーで撹拌することにより、前記天然繊維、有機繊維又は炭素繊維の表面に前記微粒子を付着させることを特徴とする複合フィラーの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合フィラーでは、特定量の微粒子を天然繊維、有機繊維又は炭素繊維の表面に付着させているので、繊維同士の滑り性が良好である。したがって、複合フィラーを樹脂に配合する際に大きなせん断力をかけなくても、樹脂中へ良好な分散が可能である。また、繊維への熱履歴や応力を低減できるので、繊維焼けや劣化も低減し、これにより樹脂の物性を向上させる共に、臭い、品質、外観の低下を防止できる。また、繊維が微粒子のキャリヤとしての機能も担うので、複合フィラーを樹脂に配合する際に微粒子同士の凝集が抑制され、微粒子の分散性も格段に向上する。また、微粒子の配合量が特定範囲内なので、樹脂組成物の軽量化を妨げることもない。また、ナノサイズの微粒子は管理や計量等に多大な手間や労力が必要だが、本発明の複合フィラーではナノサイズの微粒子と繊維を複合させているので、ハンドリング性が良好であり、管理や計量が容易である。
【0015】
以上の通り、本発明の複合フィラーでは、天然繊維、有機繊維又は炭素繊維と微粒子が互いにキャリヤとしての役割を担い、高い相乗効果が生まれる。
【0016】
そして、この複合フィラーを配合した本発明の樹脂組成物は、繊維及び微粒子の分散性に優れ、繊維による剛性の向上と微粒子による耐衝撃性改善とが両立された材料であり、しかも軽量化が妨げられることもないので幅広い用途に使用可能である。
【0017】
また、本発明の複合フィラーの製造方法は、上述の優れた効果を奏する複合フィラーを簡易かつ低コストで製造できる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】セルロース繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真[500倍、3000倍]。
【図2】実施例1の複合フィラー(セルロース繊維:炭酸カルシウム=100:67)のSEM写真[500倍、3000倍]。
【図3】実施例2の複合フィラー(セルロース繊維:炭酸カルシウム=100:25)を配合した樹脂組成物のSEM写真[5000倍、30000倍]。
【図4】実施例3の複合フィラー(セルロース繊維:炭酸カルシウム=100:11)を配合した樹脂組成物のSEM写真[5000倍、20000倍]。
【図5】比較例3の樹脂組成物のSEM写真[5000倍、30000倍]。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<天然繊維、有機繊維又は炭素繊維>
本発明の複合フィラーに用いる天然繊維、有機繊維又は炭素繊維としては、例えば、植物繊維、セルロース繊維、酢酸セルロース繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ナイロン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリアリレート繊維が挙げられる。これら繊維は1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。中でも、石油由来の繊維に代えて再生可能な植物由来の繊維を使用するという観点から、植物繊維が好ましい。この植物繊維は脱色されていても良い。
【0020】
天然繊維、有機繊維又は炭素繊維は、平均繊維径が0.5〜250μm、平均繊維長が1〜3000μmの微細な繊維であることが望ましい。さらに、平均繊維径は1〜100μm、平均繊維長は10〜500μmであることが好ましく、平均繊維長径は1〜40μm、平均繊維長は20〜300μmであることが特に好ましい。これら各範囲の下限値は、複合フィラーを配合した樹脂組成物の剛性の点で意義が有る。また上限値は、樹脂組成物中での繊維の分散性、及び、成形物表面への繊維浮きが目立たず外観が良好になる点で意義が有る。
【0021】
天然繊維、有機繊維又は炭素繊維の融点又は劣化温度は、複合するマトリックス樹脂(母材樹脂)の融点以上であることが剛性の点で好ましい。
【0022】
天然繊維、有機繊維又は炭素繊維の形状は、母材樹脂への分散性及び接着性を向上させる点から、芯鞘型、サイドバイサイド型等の複合繊維であっても良い。また、軽量化及び断熱性向上の為に中空型の繊維であっても良い。
【0023】
<微粒子>
本発明の複合フィラーに用いる微粒子は、天然繊維、有機繊維又は炭素繊維の表面を被覆するように均一に付着していることが好ましい。この場合、天然繊維、有機繊維又は炭素繊維及び微粒子の分散性がより向上し、物性の向上、繊維焼けの発生も低減が顕著となる。ここで、表面を被覆するように微粒子が均一に付着している状態とは、微粒子が凝集した状態にはなっておらず、その表面上に個々の微粒子が分散しており、表面に対して直接付着している状態を意味する。
【0024】
この微粒子としては、例えば、タルク、マイカ、シリカ、クレー、モンモリロナイト、カオリン等のケイ酸塩;炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩;アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物;アルミニウム、鉄、銀、銅等の金属;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物;硫酸バリウム等の硫化物;木炭、竹炭等の炭化物;チタン酸カリウム、チタン酸バリウム等のチタン化物;セルロースミクロフィブリル、酢酸セルロース等のセルロース類;フラーレン、カーボンナノチューブ等のカーボン類;が挙げられる。これらは微粒子は1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの中では、炭酸カルシウム、マイカ、モンモリロナイト、酸化チタン等が好ましい。特に、比較的安価にナノサイズの粒子を作製又は入手できる点から、炭酸カルシウムがより好ましい。
【0025】
また、この微粒子として、TiO2等の酸化チタンを用いる場合、耐衝撃性の向上に加えて、酸化チタンの光散乱効果により樹脂組成物の白色度が向上し、多少繊維焼けが生じた場合でも、外観不良を低減することが可能となる。
【0026】
微粒子の形状は、球状、板状、繊維状、中空状、その他、何れの形状でもよい。また、特定形状の微粒子を単独で用いても良いし、2種以上の異なる形状の微粒子を併用しても良い。なお、本発明の微粒子には、一次粒子だけでなく、後述の微粒子サイズの範囲に入るものであれば、二次粒子も含まれる。
【0027】
微粒子のサイズは、ナノサイズであることが必要である。具体的には、その粒径は1〜500nmであり、より好ましくは10〜200nmであり、特に好ましくは60〜100nmである。これら各範囲の下限値は、微粒子が付着した繊維の樹脂組成物中での分散性を高める点で意義が有る。また上限値は、樹脂組成物の耐衝撃性の点で意義が有る。
【0028】
なお、ナノサイズの微粒子を樹脂に配合すると耐衝撃性が向上する理由は、一般には、衝撃が加わった際に微粒子の存在に因って微小なクレーズやボイドが多数発生し衝撃エネルギーを消耗する事による、あるいは、微粒子間の小さな隙間部分の樹脂が衝撃で塑性変形を起こし衝撃エネルギーを消耗する事によると考えられている。
【0029】
<複合フィラー及びその製造方法>
本発明の複合フィラーは、上述した特定サイズの天然繊維、有機繊維又は炭素繊維100質量部に対して、上述した特定サイズの粒径1〜500nmの微粒子5〜95質量部(より好ましくは10〜70質量部、特に好ましくは15〜35質量部)を天然繊維、有機繊維又は炭素繊維の表面に付着させてなることを特徴とする。
【0030】
このような構成の複合フィラーは、例えば、ミキサー(混合機)を用いて、上記割合となるように繊維、微粒子、及び必要に応じてバインダーを混合することによって得られる。ミキサーとしては、例えば、(株)カワタ社製のスーパーミキサーSM20型を使用できる。混合条件は、ミキサーの回転羽根の周速を10m/s以上(より好ましくは20m/s以上、特に好ましくは35m/s以上)で高速撹拌させて、加熱しながら混合することが好ましい。この高速撹拌の時間は、5分〜15分程度が好ましい。加熱温度は100℃以上が好ましい。このような条件で混合することにより、繊維の表面を被覆するように微粒子が均一に付着した構成の複合フィラーを良好に得ることができる。
【0031】
<バインダー>
複合フィラーを作製する際には、天然繊維、有機繊維又は炭素繊維及び微粒子と共に、脂肪酸又はカップリング剤からなるバインダーを一緒に混合することが好ましい。脂肪酸としては、例えばステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸が挙げられる。カップリング剤としては、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤が挙げられる。
【0032】
バインダーの配合量は、天然繊維、有機繊維又は炭素繊維100質量部に対して、0.2〜3.0質量部が好ましく、0.5〜1.0質量部がより好ましい。
【0033】
バインダーとして水を用いた場合は複合フィラーを樹脂へ配合する前に乾燥工程が必要であるが、脂肪酸又はカップリング剤を少量用いた場合は、乾燥工程が不要となり、製造コストを低減できる。
【0034】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、上述した本発明の複合フィラーを樹脂(母材樹脂)に配合してなることを特徴とする。
【0035】
複合フィラーの配合量は、樹脂組成物100質量%中、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0036】
母材樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂が好ましい。これ以外にも、例えば、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂等のポリスチレン系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリカーボネート(PC);ポリアセタール(POM);ポリイミド;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);を使用できる。これらの母材樹脂は、変性されていてもよい。また、2種以上の樹脂を併用してもよい。
【0037】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、さらに発泡剤、顔料、ゴム含有ポリマー、相溶化材、可塑剤、滑剤、難燃剤、抗菌剤、結晶化促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、界面活性剤、帯電防止剤等の各種添加材を配合してもよい。
【0038】
複合フィラーを母材樹脂に配合する方法としては、通常のフィラーの場合と同様の方法を用いることができる。例えば、複合フィラーと母材樹脂のペレットを、2軸混練機に投入して混練すれば良い。また、複合フィラーを高濃度に樹脂に配合したマスターバッチを作製し、このマスターバッチをさらに樹脂に配合しても良い。
【0039】
<植物由来材料の使用>
天然繊維、有機繊維又は炭素繊維として、セルロース繊維等の植物由来材料を使用することにより、耐衝撃性が必要とされる場合においても植物由来材料の使用用途を拡大できる。またさらに、微粒子として、貝類由来の炭酸カルシウム等を使用することにより、樹脂に複合する材料を全て再生可能な材料とすることもできる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお、以下の記載において「部」は「質量部」を意味する。
【0041】
<実施例1>
平均繊維径20μm、平均繊維長37μmのセルロース繊維(繊維長は日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布計9200SRAにて測定)100部に対して、粒径80nmの炭酸カルシウム67部、及び、バインダー(ステアリン酸)1部を、ミキサー((株)カワタ社製、商品名スーパーミキサーSM20)を用いて、温度100℃以上で加熱しながら回転羽根の周速20m/sで5分〜15分間高速撹拌することにより混合した。その結果、セルロース繊維の表面に粒径80nmの炭酸カルシウムが付着した複合フィラーが得られた。
【0042】
この複合フィラー20部をポリプロピレン樹脂1(比重0.88)80部に配合し、2軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α−42BW5V)を用いて混練して、樹脂組成物を調製した。そして、この樹脂組成物を射出成形することにより各種試験サンプルを作製した。
【0043】
図1は、セルロース繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真[500倍、3000倍]であり、図2は、この実施例1の複合フィラー(セルロース繊維:炭酸カルシウム=100:67)のSEM写真[500倍、3000倍]である。図1のSEM写真と比べると、図2のSEM写真のセルロース繊維の表面全体に、炭酸カルシウムの微粒子が均一に付着していることが確認できる。
【0044】
<実施例2>
炭酸カルシウムの使用量を25部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして複合フィラーを得た。この複合フィラー20部をポリプロピレン樹脂2(比重0.90)80部に配合し、実施例1と同様に2軸押出機で混練して樹脂組成物を調製し、射出成形により各試験サンプルを作製した。
【0045】
図3は、この実施例2の複合フィラー(セルロース繊維:炭酸カルシウム=100:25)を配合した樹脂組成物のSEM写真であって、図1及び図2よりも拡大率を更に5000倍、30000倍に大きくしたものである。炭酸カルシウムの微粒子が樹脂組成物中に均一に分散していることが確認できる。
【0046】
<実施例3>
炭酸カルシウムの使用量を11部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして複合フィラーを得た。この複合フィラー20部をポリプロピレン樹脂2(比重0.90)80部に配合し、実施例1と同様に2軸押出機で混練して樹脂組成物を調製し、射出成形により各試験サンプルを作製した。
【0047】
図4は、この実施例3の複合フィラー(セルロース繊維:炭酸カルシウム=100:11)を配合した樹脂組成物のSEM写真であって、図1及び図2よりも拡大率を更に5000倍、20000倍に大きくしたものである。炭酸カルシウムの微粒子が樹脂組成物中に均一に分散していることが確認できる。
【0048】
<比較例1>
実施例1で使用したものと同じポリプロピレン樹脂1を用い、複合フィラーを配合することなく、射出成形により各種試験サンプルを作製した。
【0049】
<比較例2>
実施例2及び3で使用したものと同じポリプロピレン樹脂2を用い、複合フィラーを配合することなく、射出成形により各種試験サンプルを作製した。
【0050】
<比較例3>
実施例1〜3で使用したものと同じセルロース繊維及び炭酸カルシウムを用い、複合フィラーを調製することなく、このセルロース繊維16部及び炭酸カルシウム4部の各々をポリプロピレン樹脂2(比重0.90)80部に直接配合し、2軸押出機を用いて混練して、樹脂組成物を調製した。そして、この樹脂組成物を射出成形することにより各種試験サンプルを作製した。
【0051】
図5は、この比較例3の樹脂組成物のSEM写真[5000倍、30000倍]である。炭酸カルシウムが樹脂組成物中に分散せずに凝集していることが確認できる。
【0052】
<比較例4>
実施例1〜3で使用したものと同じセルロース繊維を用い、複合フィラーを調製することなく、このセルロース繊維16部をポリプロピレン樹脂2(比重0.90)84部に直接配合し、2軸押出機を用いて混練して、樹脂組成物を調製した。そして、この樹脂組成物を射出成形することにより各種試験サンプルを作製した。
【0053】
<評価試験>
実施例及び比較例において、以下の各項目について評価を行った。
(1)混練性:
2軸押出機を用いて混練する際に、スクリューのトルクの安定性及び繊維のダマの発生の有無を基準とし、以下の通り混練性を評価した。なお、繊維の混練性が不足していると、ホッパーからの落下点で繊維がダマになりスクリューにからむ現象が起こり、トルクが安定しなくなる。
「○」:問題無し。
「△」:トルクが安定しない。
「×」:トルクが安定せず、繊維がダマになる。
(2)繊維の浮き、分散性:
成形品の外観を目視にて観察し、繊維の浮きの有無及び分散性について、以下の基準で評価した。
「○」:分散している。(問題無し)
「△」:(一部に)繊維の凝集がみられる。
「×」:繊維のダマ(凝集塊)がみられる。
(3)微粒子の分散性:
成形品の外観のSEM写真を観察し、微粒子の分散性について、以下の基準で評価した。
「○」:分散している。(問題無し)
「△」:(一部に)微粒子の凝集がみられる。
「×」:微粒子のダマ(凝集塊)がみられる。
(4)引張強さ:
JIS 7113に準じて測定した。
(5)引張伸び(%):
JIS 7113に準じて測定した。
(6)曲げ弾性率:
JIS 7171に準じて測定した。
(7)シャルピー衝撃強度:
JIS 7111に準じて測定した。
(8)デュポン衝撃強さ:
「JIS K 5600−5−3 (6)デュポン式」を試験方法として採用し、デュポン衝撃試験機を用いて、半径6.5mmの撃ち型と直径13mmの受け台とを取り付け、厚さ1.5mmの試験片に質量500gの錘を撃ち型の上に落下させた。試験は、錘を落とす高さを変えて行い、高さ1水準あたり5回実施した。錘を落下させた後、試験片の状態を観察し、試験片に変化が無い又は白化したものを「○」、亀裂又は破壊したものを「×」とした。この結果から、○の数が50%になる高さを算出し、この高さより衝撃エネルギー値を算出した。
【0054】
各試験の結果は以下の通りである。
【0055】
【表1】

【0056】
<評価>
上記表1に示す通り、実施例1〜3では、全ての評価項目が良好であった。
【0057】
一方、比較例1及び2は、樹脂単体の成形物に関するものなので、実施例1〜3よりも曲げ弾性率が小さかった。
【0058】
また、比較例3では、複合フィラーは調製せず、セルロース繊維及び炭酸カルシウムの各々をポリプロピレン樹脂に直接配合したので、炭酸カルシウムが樹脂組成物中で分散せずに凝集してしまい(微粒子の分散性)、繊維の混練性が不十分なので混練する際にスクリューのトルクが安定しなかった(混練性)。そして、炭酸カルシウムの分散性や繊維の混練性が劣るので、実施例1〜3よりも曲げ弾性率が小さかった。
【0059】
また、比較例4では、複合フィラーは調製せず、セルロース繊維のみをポリプロピレン樹脂に直接配合したので、繊維の混練性が不十分で混練する際に繊維がダマになり、スクリューにからむ現象が起こり、トルクが不安定になってしまい(混練性)、さらに成形品の外観については繊維の浮きが観察され、分散性が劣るものであった(繊維の浮き、分散性)。そして、実施例1〜3よりも曲げ弾性率が小さく、引張伸び(%)が非常に小さかった。
【0060】
さらに、樹脂組成物中の炭酸カルシウムの含有割合が同じである実施例2と比較例3を比較すると、実施例2の方が引張伸び(%)に関して優れた結果が得られた。これは、複合フィラーの使用による分散性向上に因る効果である。
【0061】
また、樹脂組成物中のセルロース繊維の含有割合が同じである実施例2と比較例3及び4を比較すると、実施例2の方がシャルピー衝撃強度及びデュポン衝撃強さに関して優れた結果が得られた。これは、複合フィラーの使用による分散性向上に因る効果である。
【0062】
以上の結果から、本発明の複合フィラーの使用により、曲げに対して強く(曲げ弾性率が大きい)、同時に様々なパターンの衝撃を受けた際にも小さな破片となって飛散しにくい(引張伸び、シャルピー衝撃強度、デュポン衝撃強さが大きい)等の優れた効果を有し、さらに分散性向上の効果により、その機能向上が可能となることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維、有機繊維又は炭素繊維100質量部に対して、粒径1〜500nmの微粒子5〜95質量部を前記天然繊維、有機繊維又は炭素繊維の表面に付着させてなることを特徴とする複合フィラー。
【請求項2】
微粒子を、天然繊維、有機繊維又は炭素繊維の表面を被覆するように均一に付着させてなる請求項1記載の複合フィラー。
【請求項3】
さらに、脂肪酸又はカップリング剤からなるバインダー0.2〜3.0質量部を含む請求項1又は2記載の複合フィラー。
【請求項4】
微粒子が、酸化チタンである請求項1〜3の何れか一項記載の複合フィラー。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項記載の複合フィラーを樹脂に配合してなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項6】
天然繊維、有機繊維又は炭素繊維100質量部、粒径1〜500nmの微粒子5〜95質量部、及び、バインダー0.2〜3.0質量部を、加熱しながらミキサーで撹拌することにより、前記天然繊維、有機繊維又は炭素繊維の表面に前記微粒子を付着させることを特徴とする複合フィラーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−87199(P2012−87199A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234617(P2010−234617)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000251060)林テレンプ株式会社 (134)
【出願人】(300062603)三共精粉株式会社 (3)
【Fターム(参考)】