説明

複合フィルムおよび熱源保護複合板

【課題】耐熱性に優れていて赤外線を透過させることが可能な技術を提供する。それによって、非接触による温度測定を行える種類や分野を増やす。
【解決手段】金属線(33)を芯材とするプラスチック繊維網(32)と、そのプラスチック繊維網(32)と融着させることが可能な樹脂フィルム(31)とを備えた複合フィルムであって、前記の樹脂フィルム(31)は、赤外線を透過させることが可能な素材とする。耐熱性に優れた保護板の一部をくり貫いて、そこに前記の複合フィルムをはめ込んだ熱源保護複合板として提供してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を透過させられる板、フィルムなどの保護材、およびその保護材を用いたカバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触にて計測対象の温度を計測する技術としては、たとえば、特許文献1および特許文献2に開示された技術がある。
特許文献1に開示された技術は、サーモグラフィーカメラにて取得した計測対象の映像を画像解析することによって温度を計測する技術である。 サーモグラフィーカメラが計測対象から発せられる赤外線を画像データとすることによって実現できる。
【0003】
特許文献2に開示された技術では、『金属基材に断熱コーティングを施しその上に感温液晶を塗布した試験体を準備し、その表面を流れる流体温度をステップ状に変化させ、時間の経過と共に試験体表面に現れる等温度線を示す縞模様を撮像し、撮像した縞模様から試験体表面の温度分布を計測し、計測した時間と温度分布から試験体表面の熱伝達率の分布を求める』というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−527745号公報
【特許文献2】特開2004−85228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および特許文献2に開示されている技術には、以下のような問題点があった。
すなわち、温度を計測したい対象物とその対象物の画像を取得するためのカメラとの間に、物理的な仕切りが介在している場合は、少なくない。 たとえば、対象物やその周囲が所定のガスで覆われている場合、対象物に電圧が加えられていたり高温になったりするために危険な場合など、対象物の環境を他の場所から隔離する必要があるような場合である。
【0006】
更に具体的な場面を説明する。
温度を計測したい対象物が平常時に摂氏100度を超えるような設備において、当該対象物が異常時に温度変化が生じるとする。 その設備における対象物は、異常の有無を検査する必要がある一方、検査者が誤って触れてしまっては火傷をするので、透明ガラス板や透明アクリル板などの保護板で対象物を覆っている。
透明ガラスや透明アクリル板を介しても、観察者は対象物を目視することはできる。 しかし、サーモグラフィーカメラを用いて温度測定をすることはできない。ガラスもアクリルも赤外線を透過しにくいため、赤外線による画像データを取得できないからである。
【0007】
上記の場合、対象物の温度計測の際に、保護板を取り外すなどして赤外線による画像を取得できるようにすれば、サーモグラフィーカメラを用いて温度計測をすることはできる。
しかし、対象物の危険度を下げるために保護板を設けているのであるから、温度計測のためとはいえ、保護板を取り外すのは危険が伴うこととなる。したがって、保護板を取り外すことなく温度計測を実行できることが望ましい。
【0008】
赤外線を透過させられる材質にて保護板を形成すれば良い、ということになるが、耐熱性に優れていて赤外線を透過させられる材質の保護板は、見あたらない。
本発明が解決すべき課題は、耐熱性に優れていて赤外線を透過させることが可能な技術を提供することにある。 それによって、非接触による温度測定を行える種類や分野を増やすことが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(第一の発明)
本願における第一の発明は、金属線(33)を芯材とするプラスチック繊維網(32)と、 そのプラスチック繊維網(32)と融着させることが可能な樹脂フィルム(31)とを備えた複合フィルムであって、 前記の樹脂フィルム(31)は、赤外線を透過させることが可能な素材とした。
【0010】
(用語説明)
「金属線(33)」の材質としては、例えば、温度上昇に伴うプラスチック素材の軟化による剛性低下を補うような温度に依存した剛性特性を持つチタン・ニオブ系の形状記憶合金や、高い剛性特性を持つステンレス線が良い。
「プラスチック繊維網(32)」とは、物理的な外力に抗するとともに耐熱性を向上させるための網目構造を備えていることを趣旨としており、正確な格子状であることまでは必要ない。 繊維網を構成する素材としては、例えば、熱や強度が強い炭素繊維や、フィルムとの溶着性や親和性を考慮してフィルムと同一素材を細線化したものが良い。繊維の直径は、50〜500ミクロンメートルが望ましい。
「樹脂フィルム(31)」とは、例えばポリエチレンやポリエステルなど、安価で、フィルム状に加工しやすく、赤外線を透過させることが可能な素材である。
【0011】
(作用)
本発明に係る複合フィルムを用いて、温度計測を行いたい対象物(熱源10)を覆ったとする。金属線(33)を芯材としているプラスチック繊維網(32)が存在するので編み目が目視でき、完全な透明体ではないが、赤外線を透過できる。したがって、赤外線サーモグラフィーカメラによる対象物(熱源10)の温度計測が可能である。
【0012】
(第二の発明)
本願における第二の発明は、 耐熱性に優れた保護板(40)と、 その保護板(40)の一部をくり貫いて、そこにはめ込まれる複合フィルム(30)とからなる熱源保護複合板に係る。
前記の複合フィルム(30)は、第一の発明に係る複合フィルムである。
すなわち、金属線(31)を芯材とするプラスチック繊維網(32)と、 そのプラスチック繊維網(32)と融着させることが可能な樹脂フィルム(33)とを備え、 その樹脂フィルム(33)は、赤外線を透過させることが可能な素材とする。
【0013】
(用語説明)
保護板(40)の材質としては、例えば、ガラス、アクリルなどである。
保護板(40)の形状は、平板状をしている必要はなく、保護したい温度計測対象物との兼ね合いで様々な形状を選択できる。たとえば、半球面のように湾曲させた保護板(40)としてもよい。
【0014】
(作用)
本発明に係る熱源保護複合板を用いて、温度計測を行いたい対象物(熱源10)を覆ったとする。
耐熱性に優れた保護板(40)の一部にはめ込まれた複合フィルム(30)を介して、非接触での温度計測が可能となる。
【0015】
(第二の発明のバリエーション1)
第二の発明においては、前記の保護板(40)に透明な素材を採用してもよい。
透明な素材としては、たとえば、ガラス、アクリル、ポリ塩化ビニルなどである。
【0016】
(作用)
保護板(40)に透明な素材を採用しているので、温度計測を行いたい対象物(熱源10)をいつでも目視できる。
なお、複合フィルム(30)をはめ込む位置を、熱源(10)の熱の影響を最も受けにくい位置とすれば、熱源保護複合板の全体の耐熱性は向上する。
【発明の効果】
【0017】
第一の発明および第二の発明によれば、耐熱性に優れていて赤外線を透過させることが可能な技術を提供することができた。 それにより、非接触による温度測定を行える種類や分野を増やすことに寄与することもできた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態を用いて非接触の温度計測を実行する場合の概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る複合フィルムの構造を示す概念図である。
【図3】本発明の実施形態に係る熱源保護複合板の構造を示す概念図である。
【図4】従来技術を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本願発明を実施形態および図面に基づいて、更に詳しく説明する。ここで用いる図面は図1から図4である。
【0020】
(図4)
まず、本願発明を用いたい場面について、図4に基づいて説明する。
図4(B)には、端子台を示している。端子台は、採用している環境によっては、そのネジが緩むと発熱してしまう。 一方、その端子台を含む機器が労働安全上の理由(感電防止など)のため、図4(A)に示されるように、保護板50にて覆われている。
その保護板50は、端子台が熱源10となることに配慮し、耐熱性に優れた素材であるガラス、アクリル、ポリ塩化ビニルなどが採用される。
【0021】
さて、端子台のネジに緩みが発生していないかどうかを点検する必要がある。
その場合、ネジの緩みがないことを直接、点検者が端子に触れて確認するか、或いは非接触の温度計測にて発熱の有無を確認することが考えられる。後者の場合は、保護板50に覆われた状態を解除しなければならない。
なぜならば、赤外線サーモグラフィーカメラ20を用いて、保護板50越しに非接触での温度計測をすることができないためである。すなわち、保護板50の素材が赤外線を透過しにくいため、赤外線サーモグラフィーカメラ20にて赤外線を検知できないからである。
【0022】
(図1)
本実施形態では、赤外線を透過させることができる複合フィルム30を、赤外線の検知用の窓部として保護板40の一部に備えた熱源保護複合板を提供する。
すなわち、熱源10から発せられる赤外線を透過可能な複合フィルム30を介して、赤外線を、赤外線サーモグラフィーカメラ20にて捉えるのである。 その複合フィルム30の構造は、図2に示す。
【0023】
(図2)
この複合フィルム30は、金属線33を芯材とするプラスチック繊維網32と、 そのプラスチック繊維網32と融着させることが可能な樹脂フィルム31とを備えた複合フィルムである。
前記の樹脂フィルム31は、赤外線を透過させることが可能な素材、具体的には、厚さ20ミクロンメートル以下のポリエチレンフィルムを採用した。
金属線33は、ポリエチレンにて被覆されており、樹脂フィルム31と同じ素材であるので、融着させて一体化させやすい。
【0024】
金属線33は不透明であり、その金属線33をプラスチック繊維網32が被覆しているので、複合フィルム30は、完全な透明体ではない。しかし、全体の面積に占める割合は極めて小さいので、赤外線を捉えて温度計測するのに支障はない。
【0025】
(図3)
図3に示すように、耐熱性に優れた素材であるガラスまたはアクリルを素材とする保護板40の一部をくり貫き、そのくり貫き部分には複合フィルム30をはめ込んでいる。この複合フィルム30から透過する赤外線を、赤外線サーモグラフィーカメラ20にて捉えることにより、熱源10の温度を計測する。
【0026】
図3では、保護板40を平板として図示しているが、たとえば保護板40を半球状に形成し、熱源10から最も遠い部位に複合フィルム30をはめ込むこととすれば、熱源保護複合板としての全体の耐熱性は向上することとなる。
【0027】
前述してきた実施形態では、熱源10として端子台を例として説明したが、その熱源は端子台に限られない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、機械機器(たとえば端子台)の製造業、機械機器のメンテナンス業、温度計測装置の製造業、温度計測の代行やデータ管理などのサービス業などにおいて、利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0029】
10 熱源
20 赤外線サーモグラフィーカメラ
30 複合フィルム 31 樹脂フィルム
32 プラスチック繊維網 33 金属線
40 保護板
50 保護板(従来品;ガラス等)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線を芯材とするプラスチック繊維網と、 そのプラスチック繊維網と融着させることが可能な樹脂フィルムとを備えた複合フィルムであって、
前記の樹脂フィルムは、赤外線を透過させることが可能な素材とした複合フィルム。
【請求項2】
耐熱性に優れた保護板と、
その保護板の一部をくり貫いてはめ込まれる複合フィルムと、からなる熱源保護複合板であって、
前記の複合フィルムは、 金属線を芯材とするプラスチック繊維網と、 そのプラスチック繊維網と融着させることが可能な樹脂フィルムとを備え、
その樹脂フィルムは、赤外線を透過させることが可能な素材とした熱源保護複合板。
【請求項3】
前記の保護板は、透明な素材を採用した請求項2に記載の熱源保護複合板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−2861(P2013−2861A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131913(P2011−131913)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】