説明

複合フィルム

【課題】薬物を、所定の位置で、長時間にわたり所定範囲の放出量で放出する。
【解決手段】複合フィルム30は、層状に重なる薬物徐放部11と接着部32とを備える。薬物徐放部11は、膜状に形成された薬物層13と生分解性ポリマー層14とを有する。薬物徐放部11は、接着部32側から順に、薬物層13、生分解性ポリマー層14、薬物層13を有する。薬物層13は、薬物を一定の濃度以上で含む薬物体である。表面に露出している薬物層13から薬物が放出してこの薬物層13が消失すると、生分解性ポリマー層14の生分解性ポリマーが分解ないし溶解し始める。生分解性ポリマー層14が消失すると、接着部32に接する薬物層13から薬物が放出する。接着部32は、複数の空隙33が形成されており、この空隙33は毛管力によって水を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物徐放性と接着性とをもつ複合フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤等の薬剤を生体へ供給する方法としては、血中への投与や、経口投与等が考えられる。しかし、供給した薬剤に含まれる薬物が目的とする部位、例えば患部に届くためには、生体に多量の薬剤を投与する必要がある。薬物は、目的とする部位のみならず他の部位にもまわってしまうからである。このように多量の薬剤を投与することにより、副作用が起きたり、薬物の効きが悪く目的とする効能が十分に得られない等の問題がある。
【0003】
このような問題を解決する方法の一つとして、例えば生体の患部に、薬物を含有したフィルムを直に貼るという直接投与が考えられる。直接投与が期待されるフィルムとしては、特許文献1に提案されるようなハニカム状多孔体がある。このハニカム状多孔体は、ハニカム構造のフィルム中に薬物あるいは薬物を含む薬物体を分散して担持させたものである。このようなハニカム状多孔体は、手術により開腹等をして生体内に留置するという使用法が考えられる。そこでハニカム状多孔体を、特許文献1に記載するように生分解性をもつ材料で構成すると、体内に留置した後一定時間経過するうちに自然に分解あるいは溶解するので、再手術により取り出す必要が無くなり、生体への負荷が小さい等のメリットがある。
【0004】
また、生体に留置する場合には、生体の所定の部位に接着する接着機能が求められる。このように生体に接着するフィルムとしては、例えば特許文献2〜4に提案されるハニカム構造のフィルムがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−061559号公報
【特許文献2】国際公開WO2006−022358号パンフレット
【特許文献3】特開2007−204524号公報
【特許文献4】特開2008−012216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
薬物には、治療に適するとされる量があり、この量は、範囲があるために治療域と呼ばれる。治療域を超える薬物量では、副作用が現れて場合によっては致死量になってしまう場合もある。また、治療域未満では、目的とする効能を得られない場合もある。特許文献1のハニカム状多孔体は、薬物を生体の中に留置して目的とする部位に薬物を供給する可能性はあるが、ハニカム状多孔体の分解あるいは溶解が速すぎる場合がある。このため、生体内に留置した後まもなくの留置初期の段階では、薬物が治療域を大きく超えてしまうことがある。また、その後、治療域に満たない量でしか体内へ供給されなくなって、場合によっては、生体へ供給すべき薬物がなくなることもある。このように、特許文献1記載のハニカム状多孔体は、薬物の治療域を想定する構成には至っていない。
【0007】
また、特許文献2〜4のハニカム構造のフィルムも、体内への留置という観点では一定の効果を期待することができるが、生体への薬物の確実な供給をする構成には至っておらず、薬物の治療域に関しては全く考慮していない。
【0008】
そこで本発明は、目的とする位置で、薬物を長時間にわたり所定範囲の放出量で放出する複合フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の複合フィルムは、生分解性ポリマーと、薬物が一定の濃度以上で含まれる薬物体とを含み、前記生分解性ポリマーの分解と溶解との少なくともいずれか一方により前記薬物体から前記薬物を放出する薬物徐放部と、前記薬物徐放部に層状に重なり、前記薬物徐放部を接着対象物に接着する接着部とを備えることを特徴として構成されている。
【0010】
前記薬物徐放部は、膜状に形成された前記薬物体と、前記薬物体に重ねて膜状に形成された前記生分解性ポリマーとを有すること、または、粒状に形成された前記薬物体と、粒状の前記薬物体を包埋している前記生分解性ポリマーとを有することが好ましい。
【0011】
前記接着部は、前記薬物徐放部に接する表面とは反対側の表面に複数の空隙が並んで形成され、前記接着対象物の水を毛管力によって前記空隙に保持することにより前記薬物徐放部を前記接着対象物に接着することが好ましい。
【0012】
前記接着部は、前記薬物徐放部の前記生分解性ポリマーよりも分解速度と溶解速度との少なくともいずれか一方が小さな生分解性ポリマーからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合フィルムによると、目的とする位置で、薬物を長時間にわたり所定範囲の放出量で放出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の複合フィルムの断面図である。
【図2】薬物の放出量と時間との関係を表すグラフである。実線で示す曲線(A)は本発明の複合フィルムについてのグラフであり、二点破線で示す曲線(B)は従来のフィルムについてのグラフである。
【図3】本発明の複合フィルムの断面図である。
【図4】薬物粒子の断面図である。
【図5】本発明の複合フィルムの平面図である。
【図6】図5のVI−VI線に沿う断面図である。
【図7】図5のVII−VII線に沿う断面図である。
【図8】本発明の複合フィルムの断面図である。
【図9】図8の複合フィルムの別の線に沿う断面図である。
【図10】本発明の複合フィルムの断面図である。
【図11】本発明の複合フィルムの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の複合フィルムは、フィルム外へ薬物を徐々に放出する薬物徐放機能をもつ薬物徐放フィルムであるとともに、目的とする位置に接着する接着フィルムである。本発明の複合フィルムは、生体の内部表面や外部表面に接着して使用することを想定してある。例えば、生体の内部の患部や、生体の外部の患部に接着して留置し、使用する。このように使用することで、本発明の複合フィルムは、生体の所定部位やその近傍で薬物を徐放する。
【0016】
以下、本発明の複合フィルムの実施態様について説明する。
【0017】
第1の実施態様である複合フィルム10は、薬物徐放部11と接着部12とを備える。薬物徐放部11は、薬物を徐々に放出する。接着部12は、薬物徐放部11を、接着対象物に接着する。接着対象物は、薬物徐放部11及び後述の他の実施態様における各薬物徐放部を留置する目的で特定した物あるいは物の部位である。例えば、接着対象物が生体の特定された部位である場合には、接着部12は薬物徐放部11を生体のその部位に接着する。後述の他の実施態様における各接着部も同様である。薬物徐放部11と接着部12とは、厚み方向に層状に重なる。図1においては、薬物徐放部11が成すフィルム面に符号10aを付し、接着部12が成すフィルム面に符号10bを付す。
【0018】
薬物徐放部11は、膜状に形成された薬物層13と、生分解性ポリマー層14とを有する。薬物層13は、一定の濃度以上で薬物を含む薬物体である。薬物体は、薬物以外の成分を含んでいてもよい。薬物体は、一定の濃度以上で薬物を含めばよく、構成するすべてが薬物であってもよい。このように、薬物徐放部11は、薬物体と生分解性ポリマーとを含む。
【0019】
生分解性ポリマーは、微生物により分解される性質としての生分解性のみならず、微生物とは無関係な加水分解性や生体吸収性等の性質をもつのが通例である。本発明においては、生分解性ポリマー層14における生分解性ポリマーのみならず、後述の他の実施態様において用いる各生分解性ポリマーは、微生物が関与する生分解性を利用するために用いるものではなく、生分解性以外の分解性(例えば加水分解性)や、水への溶解性、水への吸収されやすさ等の性質を利用するために用いる。この観点では、生分解性ポリマーに代えて、あるいは加えて、水溶性ポリマーや、加水分解性をもつポリマーを用いてもよい。
【0020】
薬物層13と生分解性ポリマー層14とは、膜状に形成されてあり、交互に重なる。例えば、図1の複合フィルム10の薬物徐放部11は、接着部12に重なる薬物層13、この薬物層13に重なる生分解性ポリマー層14、この生分解性ポリマー層14に重なる薬物層13の全3層から構成される。なお、2つの薬物層13にそれぞれ含まれる薬物は互いに異なるものであってもよい。
【0021】
以上の構成により、複合フィルム10は、フィルム面10aを成す薬物層13から薬物を放出し始め、この薬物層13は、薬物の放出に伴い厚みが漸減し、やがて消失する。この消失により、生分解性ポリマー層14が表面に露出する。この生分解性ポリマー層14は、時間の経過に伴い分解して厚みが漸減し、やがて消失する。生分解性ポリマー層14は、分解に代えて、あるいは加えて、溶解してもよい。生分解性ポリマー層14の消失により、接着部12に接する薬物層13が表面に露出する。この薬物層13は、表面に露出すると、薬物を放出し、薬物の放出に伴い厚みが漸減し、やがて消失する。
【0022】
このように、薬物徐放部11は、含んでいる薬物を、生分解性ポリマー層14における生分解性ポリマーの分解と溶解との少なくともいずれか一方により、徐々に放出する。各薬物層13から放出する薬物の量及び薬物を放出する時間は、例えば、薬物層13を成す薬物の種類や各薬物層13の厚みにより制御する。
【0023】
また、薬物徐放部11からの薬物の放出の開始や終了の各タイミングは、生分解性ポリマー層14の生分解性ポリマーの分解時間、溶解時間を調整することにより制御する。生分解性ポリマー層14の生分解性ポリマーの分解時間や溶解時間を調整する方法としては、生分解性ポリマーの種類を変えたり、生分解性ポリマー層14の厚みを調整する方法がある。例えば、接着部12に接する薬物層13の薬物の放出のタイミングをより遅らせたい場合には、生分解性ポリマー層14を成す生分解性ポリマーを、分解速度、溶解速度がより小さいものにしたり、生分解性ポリマー層14の厚みをより大きくするとよい。薬物徐放部11からの薬物の放出を断続的にする場合には、一方の薬物層13と他方の薬物層13との間の生分解性ポリマー層14の厚みをより厚くするとよい。また、薬物徐放部11からの薬物の放出を連続的にする場合には、一方の薬物層13と他方の薬物層13との間の生分解性ポリマー層14の厚みをより薄くするとよい。
【0024】
なお、フィルム面10aを成す薬物層13から薬物が放出する間や、生分解性ポリマー層14における生分解性ポリマーが分解あるいは溶解する間に、接着部12に接する薬物層13からも薬物がフィルム外へ放出する場合もある。これは、接着部12に接する薬物層13の薬物が接着部12へ移動し、接着部12の内部で拡散して接着部12側のフィルム面10bからフィルム外へ放出する場合である。接着部12を構成する分子あるいは分子鎖の隙間を通って、薬物が移動するからである。
【0025】
薬物層13の厚みTH13は、数nm以上数百nm以下の範囲である。生分解性ポリマー層14の厚みTH14は、数百nm以上数μm以下の範囲である。
【0026】
図1では、接着部12に接する層を薬物層13とし、この薬物層13から順に生分解性ポリマー層14、薬物層13が重なる場合を図示してあるが、薬物徐放部11の構成はこれに限られない。例えば、全3層からなる薬物徐放部11においては、接着部12に接する層を生分解性ポリマー層14とし、この生分解性ポリマー層14から順に薬物層13、生分解性ポリマー層14が重なる態様でもよい。また、図1では、薬物徐放部11のうち複合フィルム10のフィルム面10aを成す表層が、薬物層13である場合を図示するが、生分解性ポリマー層14であってもよい。フィルム面10aを成す表層を、薬物層13とするか生分解性ポリマー層14とするかは、複合フィルム10の保管及び使用の方法や取り扱い性、薬物の放出開始の時期等を考慮して、決定すればよい。
【0027】
図1においては、薬物徐放部11が薬物層13を2層、生分解性ポリマー層14を1層備える場合を図示してある。しかし、薬物層13と生分解性ポリマー層14との各層数は、これに限られない。例えば、薬物層13と生分解性ポリマー層14とが各1層ずつ形成されていてもよいし、薬物層13が1層、生分解性ポリマー層14が2層形成されていてもよいし、あるいは、薬物層13と生分解性ポリマー層14とがそれぞれ3層以上形成されていてもよい。したがって、薬物徐放部11の厚みは、各薬物層13の厚みと、各生分解性ポリマー層14の厚みと、薬物層13及び生分解性ポリマー層14の層数とに応じて変わる。
【0028】
接着部12は、生体に接着する公知の接着剤を用いてよい。接着剤としては、固体であってもよいし、ゲルであってもよい。例えば、ゼラチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0029】
接着部12の厚みTH12は、0.1μm以上20μm以下の範囲である。
【0030】
複合フィルムの厚みTH10は、接着部12の厚みTH12と薬物徐放部11の厚みとにより変わる。
【0031】
以上のように、複合フィルム10は、薬物徐放機能をもつ薬物徐放部11と接着機能をもつ接着部12とを有し、互いに異なる機能を各層に分離して担わせる機能分離タイプのフィルムである。ここで、薬物徐放部11を生体に接着しにくい材料で構成すると、複合フィルム10は、生体の組織の癒着を防止する癒着防止フィルムとして利用される可能性がある。
【0032】
薬物層13に含ませる薬物としては、生理活性物質がある。生理活性物質としては、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、及びNO産生促進物質からなる群から選択される少なくとも1つの化合物が挙げられる。
【0033】
生分解性ポリマー層14を構成する生分解性ポリマーとしては、ポリ(L−ラクチド)(PLLA)、ポリ(D,L−ラクチド)(PLA)の如き、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びそれらのコポリマー及び組み合わせ;ポリグリコール酸[ポリグリコリド(PGA)]、ポリ(L−ラクチド−コ−D,L−ラクチド)(PLLA/PLA)、ポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLLA/PGA)、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLA/PGA)、ポリ(グリコリド−コトリメチレンカルボネート)(PGA/PTMC)、ポリ(D,L−ラクチド−コ−カプロラクトン)(PLA/PCL)、ポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)(PGA/PCL);ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリプロピレンフマレート、ポリ(エチルグルタマート−コ−グルタミン酸)、ポリ(tert−ブチルオキシ−カルボニルメチルグルタマート)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトン−コ−ブチルアクリレート、ポリヒドロキシブチレート(PHBT)、及びポリヒドロキシブチレート、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(ホスフェイトエステル)、ポリ(アミノ酸)、及びポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリデプシペプチド、無水マレイン酸コポリマー、ポリホスファゼン、ポリイミノカルボネート、ポリ[(97.5%ジメチル−トリメチレンカルボネート)−コ−(2.5%トリメチレンカルボネ−ト)]、シアノアクリレート、ポリエチレンオキシド、メチルセルロース、エチルセルロース、アセチルセルロースの如き多糖類、及び前述の内のいずれかの混合及びコポリマーを含む。上記ポリマーの重量平均分子量は、5,000〜1,000,000が好ましく、10,000〜500,000がより好ましい。
【0034】
薬物である化合物を分散した生分解性ポリマーからなる従来のハニカム構造のフィルムの場合には、図2の二点破線で表す曲線(B)のように、薬物の放出量を経時的にみてみると、薬物の放出量が治療域TRを超えてしまう時間がある。さらに、この時間を経過すると、薬物の放出量が極度に減少し、治療域TRに達しない。これに対し、図2の実線で表す曲線(A)に示すように、複合フィルム10は、上記のような薬物徐放部11の構成により、治療域TRを超えないように薬物が放出され、また、従来のフィルムよりも長い時間、薬物の放出量が治療域TRに保持される。
【0035】
以下の各実施態様においては、上記の第1の実施態様である複合フィルム10と同じ部材、作用については、説明を略し、図3以降の図面において図1と同じ符号を付す。
【0036】
第2の実施態様である複合フィルム20は、図3に示すように、薬物徐放部21と接着部12とを備える。薬物徐放部21は、薬物を徐々に放出する。薬物徐放部21と接着部12とは、厚み方向に層状に重なる。図3においては、薬物徐放部21が成すフィルム面に符号20aを付し、接着部12が成すフィルム面に符号20bを付す。
【0037】
薬物徐放部21は、薬物を含む粒状に形成された薬物粒子23と、生分解性ポリマー24とを有する。薬物粒子23は、図4に示すように、一定の濃度以上で薬物を含む薬物体26と、薬物体26を覆う外殻27とから構成される。このように、薬物徐放部11は、薬物体26と生分解性ポリマー24とを含む。なお、薬物体26は、一定の濃度以上で薬物を含めばよく、構成するすべてが薬物であってもよい。外殻27は、生分解性ポリマーからなる。
【0038】
生分解性ポリマー24は、薬物粒子23を包埋しており、薬物粒子23が生分解性ポリマー24中に分散されている。
【0039】
以上の構成により、複合フィルム20は、フィルム面20aを成す薬物徐放部21から生分解性ポリマー24が分解ないし溶解し始め、この分解ないし溶解に伴い、生分解性ポリマー24に包埋されている薬物粒子23が次々と露出する。生体には水が含まれているため、薬物粒子23の外殻27は、水に溶ける、あるいは分解する。外殻27が水に溶けたり分解すると、薬物体26の薬物がフィルム外へ放出される。このように、生分解性ポリマー24の分解と溶解との少なくともいずれか一方に伴い、薬物粒子23が次々と露出して薬物がフィルム外へ放出される。薬物徐放部21は、生分解性ポリマー24の分解に伴い厚みが漸減し、やがて消失する。
【0040】
このように、薬物徐放部21は、含んでいる薬物を、生分解性ポリマー24の分解ないし溶解により、徐々に放出する。放出する薬物の量は、例えば、薬物粒子23の量を調整することにより制御する。単位時間当たりに放出する薬物の量は、例えば、薬物徐放部21における薬物粒子23の密度を調整したり、薬物体26の大きさを調整することにより制御する。また、薬物を放出する時間は、例えば、生分解性ポリマー24の種類や、外殻27の種類を変えたり、外殻27の厚みを調整することで制御する。
【0041】
また、薬物徐放部21からの薬物の放出の開始や終了の各タイミングは、生分解性ポリマー24の分解時間や溶解時間、外殻27の分解速度や溶解速度、外殻27の厚みを調整することにより制御する。生分解性ポリマー24の分解時間及び溶解時間を調整する方法としては、生分解性ポリマーの種類を変える方法がある。外殻27の分解速度及び溶解速度を調整する方法としては、外殻を成す材料の種類を変える方法がある。例えば、薬物粒子23の薬物の放出のタイミングをより遅らせたい場合には、生分解性ポリマー24を、分解速度や溶解速度がより小さいものにしたり、外殻27を成す材料を、水へ溶ける速度や加水分解の速度がより小さいものにしたり、外殻27の厚みをより大きくするとよい。
【0042】
薬物徐放部21の以上の構成により、複合フィルム20も、時間と薬物放出量との関係が、複合フィルム10と同様に図2の実線(A)で示すようになり、治療域TRを超えないように薬物が放出され、また、従来のフィルムよりも長い時間、薬物の放出量が治療域TRに保持される。
【0043】
本実施形態では、粒状に形成された薬物体26が外殻27で覆われた薬物粒子23が生分解性ポリマー24に分散してある。ただし、薬物体26が生分解性ポリマー24に分散されて包埋されていればよい。すなわち、外殻27に覆われていない薬物体26を生分解性ポリマー24に分散して薬物体26が生分解性ポリマー24に包埋されていてもよい。ただし、薬物体26を生分解性ポリマー24に分散する等、複合フィルム20を製造する観点や、薬物の放出のタイミングを制御する観点では、薬物体26が外殻27に覆われている方が好ましいことがある。
【0044】
以上のように、複合フィルム20において、薬物徐放部21を生体に接着しにくい材料で構成すると、複合フィルム20は、生体の組織の癒着を防止する癒着防止フィルムとして利用される可能性がある。
【0045】
なお、生分解性ポリマー24としては、図1に示す複合フィルム10の生分解性ポリマー層14を構成するものと同じものを用いてよい。薬物体26の成分は、図1に示す複合フィルム10の薬物層13を構成する先に例示する物質を用いてよい。
【0046】
前述の通り、外殻27についても、生分解性ポリマーに代えて、あるいは加えて、水溶性ポリマーや、加水分解性をもつポリマーを用いてよい。外殻27として水溶性のポリマーを用いる場合には、その例としてゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。外殻27に生分解性ポリマーを用いる場合には、図1に示す複合フィルム10の生分解性ポリマー層14を構成する先に例示する物質を用いてよい。また、外殻27は、生分解性ポリマー、水溶性ポリマー、加水分解性をもつポリマーだけでなく、薬物の分散安定性を高める目的で、リン脂質等の両親媒性化合物によって形成されていても良い。両親媒性化合物は、水溶性、加水分解性を有することが好ましい。
【0047】
第3の実施態様である複合フィルム30は、図5〜図7に示すように、薬物徐放部11と接着部32とを備える。薬物徐放部11と接着部32とは、厚み方向に層状に重なる。図6,図7においては、薬物徐放部11が成すフィルム面に符号30aを付し、接着部32が成すフィルム面に符号30bを付す。なお、図5は、複合フィルム30を、接着部32側から見た平面図であり、すなわち、フィルム面30b側から見た平面図である。
【0048】
接着部32は、フィルム面30bになる一方の表面に空隙33が複数形成されてある。空隙33は、図6,図7のように、接着部32の他方の表面には貫通せずに前記一方の表面に窪みとして形成されてある。
【0049】
複数の空隙33は、フィルム面30bに沿って面状に分布するように並んで形成されている。複数の空隙33は、接着部32が蜂の巣状のいわゆるハニカム構造となるように形成されている。図7に示すように、フィルム面に沿った方向で内部に連通路が形成されるように隣り合う空隙33と空隙33とが互いに非独立であってよい。しかし、隣り合う空隙33と空隙33とは、個々に独立していてもよい。
【0050】
空隙33は、略一定の形状及びサイズであり、規則的に配列している。なお、この配列の態様と空隙33のサイズとによっては、空隙33によるフィルム面30aの個々の開口の形状は、図5のように円である場合もあるし、6角形等の多角形である場合もある。
【0051】
空隙33によって形成されたフィルム面30bの開口の径Rは、0.01μm以上100μm以下の範囲で略一定である。
【0052】
空隙33の深さDは、0.1μm以上20μm以下の範囲で略一定である。
【0053】
また、空隙33の容積をV1、空隙33の容積V1を含めた接着部32の体積をV2とするときに、100×V1/V2で求める空隙率(%)が50%以上90%以下の範囲となるように空隙33を形成する。なお上記の体積V2とはすなわち、接着部32に空隙33が形成されていないと仮定してフィルム面30bが平坦な場合の接着部32の体積である。
【0054】
以上のような接着部32により、水が毛管力によって空隙33に保持されて、薬物徐放部11が水を含む接着対象物に接着する。生体には水が含まれるので、接着部32は、例えば生体にも薬物徐放部11を接着する。接着力をより大きくするには、空隙率が互いに同じであっても、開口の径Rに対する空隙33の深さDがより大きい方が好ましい。このように複数の空隙33による毛管力で接着する接着部32は、図1の複合フィルム10における接着部12よりも接着力が大きく、また、接着力の持続性の点でも優れる。
【0055】
なお、接着部32の厚みTH32は、0.1μm以上20μm以下の範囲である。したがって、接着部32のうち、空隙33がない平膜部分の厚みTHaは、0μmより大きく数μm以下の範囲である。
【0056】
以上の構成により、複合フィルム30も、時間と薬物放出量との関係が、複合フィルム10と同様に図2の実線(A)で示すようになり、治療域TRを超えないように薬物が放出され、また、従来のフィルムよりも長い時間、薬物の放出量が治療域TRに保持される。しかも、接着力が大きく状態で保持されるので、長時間、より確実に目的とする位置で、薬物を放出するとともに放出量が治療域TRに保持される。
【0057】
接着部32においても、薬物徐放部11のうち接着部32に接する薬物層13の薬物が移動してきて拡散する。薬物は、接着部32の平膜部分の厚みTHaが小さいほど、接着部32を通過する速度が大きい。したがって、接着部32の平膜部分の厚みTHaを変えることで、単位時間における薬物の放出量を制御することができる。また、空隙33を有する接着部32とすることで、図1に示す複合フィルム10や図3に示す複合フィルム20よりも、単位時間における薬物放出量が大きくなる。
【0058】
接着部32は、生分解性ポリマーにより形成されてもよい。これにより、複合フィルム30の生体での使用用途が広がる。なお、接着部32を生分解性ポリマーで形成する場合には、薬物徐放部11の生分解性ポリマー層14を構成する生分解性ポリマーよりも分解速度と溶解速度との少なくともいずれか一方が小さいものとする。具体的には、薬物徐放部11の薬物層13からの薬物の放出が終わるまで接着部32が接着作用を保持されるように、分解速度ないし溶解速度が生分解性ポリマー層14を構成する生分解性ポリマーよりも小さいものとする。
【0059】
以上のように、複合フィルム30において、薬物徐放部11を生体に接着しにくい材料で構成すると、複合フィルム30は、生体の組織の癒着を防止する癒着防止フィルムとして利用される可能性がある。
【0060】
接着部32を構成する材料として非生分解性ポリマーを用いる場合には、その例として、メタロセン触媒ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリブチレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン及びそれらのコポリマーの如きポリオレフィン、ポリスチレンの如きビニル芳香族ポリマー、スチレン−イソブチレン−スチレン(好ましくは、Boston Scientificにより製造されたTRANSLUTE(登録商標))、及びブタジエン−スチレンコポリマー又は他のブロックポリマーを含むスチレン−イソブチレンコポリマーの如きビニル芳香族コポリマー、ポリエチレンビニルアセテート(EVA)、ポリビニルクロライド(PVC)、フッ素系ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリシリコーン、ポリカーボネート;及び前述の内のいずれかの混合及びコポリマーを含む。
【0061】
接着部32を構成する材料として生分解性ポリマーを用いる場合には、図1の複合フィルム10の生分解性ポリマー層14を構成する生分解性ポリマーと同じ群から選択して用いる。ただし、前述の通り、薬物徐放部11の生分解性ポリマー層14よりも分解速度ないし溶解速度が小さなものを選択して用いる。
【0062】
また、後述のように空隙33を形成する観点で、接着部32を構成する材料として両親媒性ポリマーを用いてもよい。両親媒性ポリマーとしては、生体に対して毒性が無いものであれば特に限定されないが、具体的には、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体;アクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基と親水性側鎖としてラクトース基またはカルボキシ基を併せ持つ両親媒性ポリマー;ヘパリン、デキストラン硫酸、DNAやRNAの核酸等のアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオンコンプレックス;ゼラチン、コラーゲン、アルブミン等の水溶性タンパク質を親水性基とした両親媒性ポリマー等が好ましい。特に、鋳型となる水滴を安定化させる能力に優れるという点で、ドデシルアクリルアミド−ω−カルボキシヘキシルアクリルアミドを含有する両親媒性ポリマーが好ましい。
【0063】
第4の実施態様である複合フィルム40は、図8,図9に示すように、薬物徐放部11と接着部42とを備える。薬物徐放部11と接着部42とは、厚み方向に層状に重なる。図8,図9においては、薬物徐放部11が成すフィルム面に符号40aを付し、接着部42が成すフィルム面に符号40bを付す。なお、この複合フィルム40を、フィルム面40b側から見た場合の平面図は、図5と同じであるので、図示は略す。図8は図5のVI−VI線に沿う断面図であり、図9は図5のVII−VII線に沿う断面図である。
【0064】
接着部42は、フィルム面40bになる一方の表面に空隙43が複数形成されてある。空隙43は、図8,図9のように、他方の表面に貫通した孔として形成されてある。
【0065】
複数の空隙43の形状や配列、空隙34によるフィルム面40bの個々の開口の形状、開口の径R、空隙43の深さD、空隙率、接着部42を構成する材料等については、複合フィルム30の接着部32における空隙33及び材料と同様であるので説明を略す。
【0066】
以上のような接着部42により、毛管力で水が空隙43に保持されて、薬物徐放部11が水を含む生体等の接着対象物に接着する。接着力をより大きくするには、空隙率が互いに同じであっても、開口の径Rに対する空隙43の深さDがより大きい方が好ましい。
【0067】
なお、接着部42の厚みTH42は、0.1μm以上20μm以下の範囲である。
【0068】
以上の構成により、複合フィルム40も、時間と薬物放出量との関係が、複合フィルム10と同様に図2の実線(A)で示すようになり、治療域TRを超えないように薬物が放出され、また、従来のフィルムよりも長い時間、薬物の放出量が治療域TRに保持される。しかも、接着力が大きく状態で保持されるので、長時間、より確実に目的とする位置で、薬物を放出するとともに放出量が治療域TRに保持される。
【0069】
接着部42においても、薬物徐放部11のうち接着部32に接する薬物層13の薬物が移動してきて拡散する。図8,図9の複合フィルム40は、図5〜図7の複合フィルム30と異なり、接着部42に平膜部分が無い。したがって、図5〜図7の複合フィルム30よりも単位時間における薬物の放出量を大きくすることができる。
【0070】
以上のように、複合フィルム40において、薬物徐放部11を生体に接着しにくい材料で構成すると、複合フィルム40は、生体の組織の癒着を防止する癒着防止フィルムとして利用される可能性がある。
【0071】
第5の実施態様である複合フィルム50は、図10に示すように、薬物徐放部21と接着部32とを備える。薬物徐放部21と接着部32とは、厚み方向に層状に重なる。図10においては、薬物徐放部11が成すフィルム面に符号50aを付し、接着部32が成すフィルム面に符号50bを付す。なお、この複合フィルム50を、フィルム面40b側から見た場合の平面図は、図5と同じであるので、図示は略す。
【0072】
以上の構成により、複合フィルム50も、時間と薬物放出量との関係が、複合フィルム10と同様に図2の実線(A)で示すようになり、治療域TRを超えないように薬物が放出され、また、従来のフィルムよりも長い時間、薬物の放出量が治療域TRに保持される。しかも、接着力が大きく状態で保持されるので、長時間、より確実に目的とする位置で、薬物を放出するとともに放出量が治療域TRに保持される。
【0073】
なお、図10の複合フィルム50における接着部32を、図8,図9の複合フィルム40における接着部42に代えてもよい。
【0074】
以上のように、複合フィルム50において、薬物徐放部21を生体に接着しにくい材料で構成すると、複合フィルム50は、生体の組織の癒着を防止する癒着防止フィルムとして利用される可能性がある。
【0075】
第6の実施態様である複合フィルム60は、図11に示すように、薬物徐放部61と図1に示す複合フィルム10と同じ接着部12とを備える。接着部12に代えて、図5〜図7に示す複合フィルム30と同じ接着部32、または、図8,図9に示す複合フィルム40と同じ接着部42にしてもよい。
【0076】
薬物徐放部61と接着部12とは、厚み方向に層状に重なる。図10においては、薬物徐放部61が成すフィルム面に符号60aを付し、接着部12が成すフィルム面に符号60bを付す。なお、図11においては、フィルム面60a及びフィルム面60bの法線方向から見た複合フィルム60の面積に対して薬物徐放部61と接着部32との厚みを大きく誇張して描いている。
【0077】
薬物徐放部61は、図1に示す複合フィルム10の薬物徐放部11に拡散抑制材63を加えた構成である。拡散抑制材63は、フィルム面60aを成す薬物層13上に設けられる。拡散抑制材63の形状は、本実施形態では矩形としてあるが、円形等の他の形状であっても構わない。
【0078】
拡散抑制材63は、水溶性のポリマーや生分解性ポリマーから形成される。これにより、フィルム面60aを成す薬物層13の、フィルム外への拡散が抑制され、薬物の放出量が小さく抑制される。この拡散抑制材63を設けることにより、使用し始め、すなわち使用初期段階における薬物の放出量が抑制される。拡散抑制材63をフィルム面60aの法線方向から見た場合の個々の面積及び個数は、目的とする薬物の放出量に応じて設定すればよい。
【0079】
以上のように、複合フィルム60において、薬物徐放部61を生体に接着しにくい材料で構成すると、複合フィルム60は、生体の組織の癒着を防止する癒着防止フィルムとして利用される可能性がある。
【0080】
以下に、複合フィルム10,20,30,40,50,60の製造方法を説明する。図1の複合フィルム10は、フィルム製造方法として周知の溶液製膜方法や、この溶液製膜方法と塗布方法とを組み合わせて製造する。溶液製膜方法としては共流延方式や逐次流延方式がある。
【0081】
溶液製膜方法で複合フィルム10を製造する場合には、接着部12を形成する接着部用溶液と、薬物層13を形成する薬物層溶液と、生分解性ポリマー層14を形成する生分解性ポリマー溶液とを調整する。共流延方式は、調整した接着部用溶液と、薬物層溶液と、生分解性ポリマー溶液とを支持体上に同時に流延して乾燥する。逐次流延方式は、支持体上に、調整した接着部用溶液と、薬物層溶液と、生分解性ポリマー溶液と、さらに薬物層溶液を、この順で流延して乾燥する。なお、支持体に流延する順は、薬物層溶液、生分解性ポリマー溶液、薬物層溶液、接着部用溶液の順であってもよい。溶液製膜方法で製造する場合には、乾燥は、支持体上で行ってもよいし、支持体である程度実施してから剥離後に完全に乾燥するように実施してもよい。
【0082】
また、溶液製膜方法で接着部12になる接着部用フィルム材を製造してから、この接着部用フィルム材に、薬物層溶液、生分解性ポリマー溶液、薬物層溶液を、この順で塗布して乾燥する方法でもよい。
【0083】
図3の複合フィルム20は、図1の複合フィルム10を製造する場合と同様に、周知の溶液製膜方法や、この溶液製膜方法と塗布方法とを組み合わせて製造する。
【0084】
溶液製膜方法で複合フィルム20を製造する方法では、接着部12を形成する接着部用溶液と、薬物徐放部21を形成する薬物徐放部用溶液を調整する。調整した接着部用溶液と薬物徐放部用溶液とを共流延、もしくは逐次流延で流延し、乾燥して複合フィルム20とする。
【0085】
溶液製膜方法と塗布方法とを組み合わせて複合フィルム20を製造する場合には、溶液製膜方法で接着部12になる接着部用フィルム材を製造してから、この接着部用フィルム材に、薬物徐放部用溶液を塗布して乾燥するとよい。
【0086】
薬物徐放部21を形成する薬物徐放部用溶液は、例えば、以下の方法でつくるとよい。まず、薬物粒子23をつくる。薬物粒子23は周知のマイクロカプセル製造方法により製造することができる。例えば、以下のマイクロカプセル化の方法により、薬物体26に外殻27を付与した薬物粒子23が得られる。まず、水に薬物を所定の濃度に溶解させ、この薬物の溶液にゼラチン等を加えて、溶解または懸濁させる。得られた溶液または懸濁液を、生分解性ポリマーが含まれる溶液に加えて、乳化操作を行う。この乳化操作は、ミキサーを用いて攪拌することで行う。ミキサーとしてはプロペラ型攪拌機等を用いることができる。乳化操作により、薬剤を含んだ乳化物(エマルジョン)が調整され、得られたエマルジョンを水中乾燥法や相分離法、噴霧乾燥法等の手法により溶媒を蒸発させることで薬物とゼラチン等が生分解性ポリマーに覆われてマイクロカプセル化される。このようにして得られた薬物粒子23を、生分解性ポリマー24が含まれる液中に混ぜることにより薬物徐放部用溶液を得る。
【0087】
図5〜図7の複合フィルム30と、図8,図9の複合フィルム40と、図10の複合フィルム50は、接着部32,42となる接着部用フィルム材をつくってから、この接着部用フィルム材に薬物徐放部11,21を形成することにより製造するとよい。接着部用フィルム材に薬物徐放部11,21を形成する方法は、複合フィルム10及び複合フィルム20において塗布により薬物徐放部11,21を形成する場合と同じ方法である。
【0088】
接着部用フィルム材は、周知の結露法で製造する。結露法で製造することにより、確実に、毛管力によって水を空隙33,43に保持して接着作用をもつ接着部32,42が形成される。
【0089】
結露法では、接着部32,42を形成する接着部用溶液を支持体上に流延して流延膜を形成する。流延膜が乾燥しないうちに、流延膜の周辺の雰囲気中の水分を流延膜上に結露させる。結露のために、流延膜を裏面から冷却してもよい。また、所定の方向から気体を送ったり、フィルム面に水滴が形成された流延膜を傾ける等により、水滴をより密に配列させるとよい。水滴が形成されて流延膜中に潜り込むと、次に流延膜を積極的に乾燥して接着部用溶液の溶媒を蒸発させる。
【0090】
水滴の潜り込みの深さを制御することにより、深さ方向に空隙が貫通した接着部42用のフィルム材が得られたり、貫通しない接着部32用のフィルム材が得られる。
【0091】
また、溶媒の積極的な蒸発をする前に、水滴の成長の度合いを調整することで、開口の径Rが制御される。
【0092】
図11の複合フィルム60は、例えば、図1の複合フィルム10の上に、拡散抑制材63を形成する拡散抑制材用溶液を塗布して乾燥することにより製造される。
【符号の説明】
【0093】
10,20,30,40,50,60 複合フィルム
11,21,61 薬物徐放部
12,32,42 接着部
13 薬物層
14 生分解性ポリマー層
23 薬物粒子
24 生分解性ポリマー
26 薬物体
27 外殻
33,43 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリマーと、薬物が一定の濃度以上で含まれる薬物体とを含み、前記生分解性ポリマーの分解と溶解との少なくともいずれか一方により前記薬物体から前記薬物を放出する薬物徐放部と、
前記薬物徐放部に層状に重なり、前記薬物徐放部を接着対象物に接着する接着部とを備えることを特徴とする複合フィルム。
【請求項2】
前記薬物徐放部は、
膜状に形成された前記薬物体と、
前記薬物体に重ねて膜状に形成された前記生分解性ポリマーとを有することを特徴とする請求項1記載の複合フィルム。
【請求項3】
前記薬物徐放部は、
粒状に形成された前記薬物体と、
粒状の前記薬物体を包埋している前記生分解性ポリマーとを有することを特徴とする請求項1記載の複合フィルム。
【請求項4】
前記接着部は、前記薬物徐放部に接する表面とは反対側の表面に複数の空隙が並んで形成され、前記接着対象物に含まれる水を毛管力によって前記空隙に保持することにより前記薬物徐放部を前記接着対象物に接着することを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の複合フィルム。
【請求項5】
前記接着部は、前記薬物徐放部の前記生分解性ポリマーよりも分解速度と溶解速度との少なくともいずれか一方が小さな生分解性ポリマーからなることを特徴とする請求項4記載の複合フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−236787(P2012−236787A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105887(P2011−105887)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】