説明

複合ベーカリー食品の製造方法

【課題】上掛け生地にショートペーストを使用した複合ベーカリー食品において、経日的な空中からの吸湿と内生地からの水分移行を抑制し、カリカリした食感を保つことができ、さらに、保存中の上掛け生地部分の剥れを防止することができる複合ベーカリー食品の製造方法を提供すること
【解決手段】ショートペーストを上掛け生地、パン生地を内生地とした複合生地を焼成した直後に、上掛け生地部分の表面に20℃における固体脂含量が40%以上であり且つ35℃における固体脂含量が10%以下である油脂を、上掛け生地に含まれる油脂100質量部に対し、50〜300質量部含浸させることを特徴とする複合ベーカリー食品の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上掛け生地部分にショートペーストを、内生地にパン生地を使用した、複合ベーカリー食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスケット生地やタルト生地等のベーカリー用上掛け生地を、菓子パン生地やデニッシュ生地等の内生地の上に積載してなる複合生地、あるいはベーカリー用上掛け生地で内生地を包餡してなる複合生地を焼成したパンは、メロンパンと称され、バラエティーに富み、見た目も美しく、また、上掛け生地部分は硬い食感で、内生地部分はしっとりしてソフトな食感で、これらの2種の異なる食感を同時に楽しめることから、古くから人気の高い菓子パンの一つである。
【0003】
なかでも、上掛け生地にショートペーストを使用したメロンパンは、生地水分が少ないため、表面に割れ目を生じ、そのひび状の割れ目が外観上極めて特徴的であり、その食感も特にカリカリ感に優れることから古来親しまれている。
【0004】
しかし、上掛け生地にショートペーストを使用したメロンパンは、焼成直後の水分含量が極めて低いことから、空中の水分を吸収しやすく、また、上掛け生地部分と内生地部分との間に大きな水分含量の差があるため、内生地部分から上掛け生地部分への水分移行が焼成直後から始まり、上掛け生地部分は、直ぐにカリカリした食感が消失し、べたついた食感になってしまう。
【0005】
また、ショートペーストを使用して得られた上掛け生地部分は割れ目があることに加え、内生地との結着性が低いため、極めて剥れやすく、そのため食する際にこぼれ落ちて食べにくく、また、複合ベーカリー食品の保存中にちょっとしたショックで剥れ落ちるなどして商品価値を大きく損ねてしまうという問題があった。
【0006】
これらの問題を回避するために、例えば、20℃における固体脂含量が40%以上であり且つ35℃における固体脂含量が10%以下である油脂を上掛け生地に練り込む方法(例えば特許文献1参照)、内生地と上掛け生地の間にチョコレートのコーティングをする方法(例えば特許文献2参照)、内生地に油脂を対粉15〜50質量%練り込む方法(例えば特許文献3参照)、グルコマンナンを用いた食品素材を内生地に練り込む方法(例えば特許文献4参照)等の改良の試みが行なわれてきた。
【0007】
しかし、特許文献1の方法では、硬い油脂を使用するため、上掛け生地部分の食感が硬くなりすぎてしまう問題に加え、使用する油脂のクリーミング性が低い問題や、上掛け生地の物性が硬くて伸展性が悪いため、包餡操作時に生地が割れやすいなどの問題があった。また、特許文献2に記載の方法では、空中からの吸湿を防止できないためカリカリ感の消失を防止できないことに加え、焼成後に剥れやすいという問題があり、内生地に改良成分を使用する特許文献3や特許文献4の方法は、空中からの吸湿を防止できないことに加え、水分移行を十分には防止することができず、上掛け生地のカリカリ感の消失を抑制できるものではなかった。

【特許文献1】特開2006−149220号公報
【特許文献2】特開2006−081448号公報
【特許文献3】特開2002−306055号公報
【特許文献4】特開2003−235474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、上掛け生地にショートペーストを使用した複合ベーカリー食品において、ショートペーストの物性を損なうことなく、経日的な空中からの吸湿と内生地からの水分移行を抑制し、カリカリした食感を保つことができ、さらに、保存中の上掛け生地部分の剥れを防止することができる複合ベーカリー食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成すべく、複合ベーカリー食品の製造方法について各種検討を行なった結果、焼成した直後に、上掛け生地部分に、特定の固体脂含量である油脂を含浸させることで、空中からの水分吸湿と、内生地からの水分移行を同時に防止することで解決可能であることを知見した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、ショートペーストを上掛け生地、パン生地を内生地とした複合生地を焼成した直後に、上掛け生地部分に20℃における固体脂含量が40%以上であり且つ35℃における固体脂含量が10%以下である油脂を、上掛け生地に含まれる油脂100質量部に対し、50〜300質量部含浸させることを特徴とする複合ベーカリー食品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上掛け生地にショートペーストを使用した複合ベーカリー食品において、製造時にショートペーストの物性を損なうことなく、上掛け生地部分の経日的なべたつきが防止され、カリカリした食感を長期間にわたり保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の複合ベーカリー食品の製造方法について詳述する。
【0013】
まず、本発明の上掛け生地に使用するショートペーストについて述べる。
【0014】
ショートペーストとは、製菓用の生地分類の一種であり、さくさくした食感(ショートネス)をもつ焼菓子を得るための生地のことであり、小麦粉類と油脂類と水性原料を必須成分とし、常温で流動性がない生地である。このようなショートペーストとしては、例えば、クッキー生地、ガレット生地、練パイ生地、タルト生地などが挙げられる。
【0015】
上記ショートペーストで使用する小麦粉類の例としては、強力粉、薄力粉、フランス粉、全粒粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができ、上記ショートペーストで使用する油脂類としては、バター、マーガリン、ショートニング等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができ、上記ショートペーストで使用する水性原料としては、水、あるいは、牛乳、全卵、卵白、部分脱脂乳、脱脂乳、発酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料、加工乳、果汁、コーヒー、紅茶等の、水を多く含む食品や食品素材等が挙げられ, これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0016】
上記ショートペーストにおいて、小麦粉類の含有量は、好ましくは35〜60質量%、より好ましくは40〜60質量%である。
【0017】
本発明においては、上記ショートペーストの油分含量が好ましくは5〜20質量%、より好ましくは9〜15質量%であることが好ましい。
【0018】
ここでショートペーストの油分含量が5質量%未満であると、上掛け生地部分のカリカリ感が得られないおそれがあり、また、表面の割れが少なくなってしまうために、含浸させる際に効率が悪く、更には、油分含量が少ない生地には油脂が浸み込みにくいことから、本発明の効果が得られないおそれがある。また、油分含量が20質量%を超えると、上掛け生地部分が油っぽく、ぽろついた食感になることに加え、含浸させた油脂の効果が薄まり、経日的なカリカリ感の消失を防止できないおそれがあること、更には、保存中に剥れやすい問題がある。
なお、上記ショートペーストに使用する油脂としては、下記のように、焼成後に硬い油脂を浸み込ませることから、カリカリ感を得るために融点の高い油脂を使用する必要はなく、一般的な油脂を特に制限なく使用することができる。
【0019】
また、上記ショートペーストにおける好ましい水分含量は5〜30質量%、より好ましくは10〜20質量%である。水分含量が5質量%未満であると、ポロついた食感で、また、保存中に剥れやすく、30質量%を超えると焼成直後からべたついた食感になってしまうおそれがある。
【0020】
なお、ここで言う上記油分含量とは、油脂類中の純油分をはじめ、ショートペーストに使用する全原料中に含まれる純油分の合計であり、また、水分含量とは、水性原料中の純水分をはじめ、ショートペーストに使用する全原料中に含まれる純水分の合計である。
【0021】
また、上記ショートペーストは、さらにカリカリした良好な食感を得る上で、糖類を15〜35質量%、特に20〜30質量%含有することが好ましい。糖類の含有量が15質量%未満であると、上掛け生地部分が焼成当初からぽろついた食感になりカリカリした食感が得られないおそれがあることに加え、内生地から上掛け生地部分が剥離しやすくなるおそれもある。また、糖類の含有量が35質量%を超えると、保存時に空中から吸湿しやすく、べたついた食感になり、カリカリした食感が得られないおそれがある。
【0022】
本発明で用いる上記糖類としては、特に制限されるものではないが、例えば、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム等が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の糖類を用いることができる。これらの中でも、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、麦芽糖が好ましく用いられる。
【0023】
さらに、上記ショートペーストには、必要に応じて、その他の原料として、イースト、甘味料、でんぷん、増粘安定剤、着色料、酸化防止剤、デキストリン、カゼイン・脱脂粉乳等の乳製品、ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズ等のチーズ類、アルコール類、グリセリン脂肪酸エステルレシチン等の乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、生地改良剤、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類・肉類・魚介類等の食品素材、コンソメ・ブイヨン等の植物及び動物エキス、食品添加物等、ショートペーストに一般的に使用可能な材料を用いてもよい。これらのその他の原料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、好ましくは、ショートペースト中、合計で20質量%以下となる範囲で使用する。
【0024】
上記ショートペーストの製造方法はとくに限定されず、公知の方法によって得ることができる。
【0025】
例えば、クッキー生地の場合は、シュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法など公知の方法で得ることが可能であり、練りパイ生地やタルト生地の場合はロールイン用油脂を含む全原料を混合するオールインミックス法でも、ロールイン油脂以外の成分でいったん生地を製造後、小片状のロールイン油脂を生地中に分散させる方法でももちろん可能である。
【0026】
次に、内生地に使用するパン生地について述べる。
【0027】
本発明で使用するパン生地としては、一般にメロンパンに使用されるパン生地であれば問題なく使用することができ、例えば、食パン生地、菓子パン生地、バラエティブレッド生地、デニッシュ生地、ドーナツ生地、クラッカー生地、ワッフル生地などを使用することができる。
【0028】
中でも、ソフト性が良好である点において、菓子パン生地やデニッシュ生地などを使用することが好ましい。
【0029】
なお、上記パン生地の好ましい油分含量は、5〜35質量%、より好ましくは5〜20質量%である。5質量%未満であると、経日的にぱさついた食感となってしまう。また、35質量%を超えると、油性感の強く油っぽい食感となることに加え、上掛け生地部分が保存中に剥れやすくなってしまうおそれもある。
【0030】
なお上記パン生地の製造方法はとくに限定されず、公知の方法によって得ることができる。
【0031】
本発明の複合ベーカリー食品の製造方法では、上記ショートペーストを上掛け生地とし、上記パン生地を内生地とした複合生地を使用する。
【0032】
ここで、上掛け生地と内生地を複合生地とする方法は、特に限定されるものではなく、例えば、板状に成形した上掛け生地を、成型した内生地上に積置する方法、板状に成形した後いったん冷凍した上掛け生地を、成型した内生地上に積置する方法、手成形又は自動包餡機により、上掛け生地でパン生地を包餡する方法等が挙げられる。なお、上記複合生地における、上掛け生地と、内生地の比は、内生地100質量部に対して、上掛け生地を好ましくは25〜140質量部、より好ましくは50〜120質量部とする。25質量部未満であると、内生地を被う際に上掛け生地部分が薄くなりすぎ、本発明の製造方法によっても、カリカリした食感が消失しやすくなってしまう。また、140質量部を超えると、上掛け生地部分が厚くなりすぎ、油脂が浸み込みにくくなってしまうため、本発明の効果が得られにくくなる。
【0033】
次に、上記複合生地を、必要に応じ、ホイロ、レスト等を採ったのち焼成する。
【0034】
焼成直後、好ましくは表面温度が60℃以上あるうちに、上掛け生地部分に、20℃における固体脂含量が40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは55〜90%であり、且つ、35℃における固体脂含量が10%以下、好ましくは9%以下、より好ましくは0〜8%である油脂を含浸させる。
【0035】
上記油脂の20℃における固体脂含量が40%未満であると、固化性が悪いため、上掛け生地部分がべとついたものとなったり、また含浸させた油脂が経日的に内生地にまで浸み込みやすく、その場合、水分移行防止効果が劣るものとなってしまう。また、上記油脂の35℃における固体脂含量が10%を超えると、特に上掛け生地部分がワキシーで口溶けが悪い食感のものとなってしまう。
【0036】
ここで、含浸させる油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂に必要に応じてエステル交換、水素添加、異性化水添、分別等の処理をして得られる加工油脂、脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0037】
上記油脂は、ショートニング、マーガリン、バター、クリーム等の油脂組成物の形態であってもよく、該油脂組成物が乳化物である場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型及び二重乳化型のいずれでも使用可能で、また、気相を含有するものであってもよいが、浸み込みやすさの点で、好ましくは、油分含量が80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは99〜100質量%の油脂組成物を使用する。
【0038】
なお、含浸させる方法としては、溶解してスプレー、刷毛塗り、どぶ漬けなどの通常の手段を用いることができる。
【0039】
ここで、含浸させる量は、上掛け生地に含まれる油脂100質量部に対し、50〜300質量部、好ましくは100〜200質量部である。50質量部未満であると、本発明の効果が得られず、300質量部を超えると、浸み込みきれなかった油脂が表面に油脂層を形成し、くすんだ白っぽい外観になり、また、食感も油っぽいものとなってしまう。
【0040】
なお、焼成後のベーカリー食品の表面に艶だしを目的として油脂を塗布することはよく行なわれるが、艶出しの際の塗布量は、上掛け生地に含まれる油脂100質量部に対し、たかだか10〜50質量部であるのに対し、本発明における含浸量は、それに比べて圧倒的に大量である。これは、本発明では上掛け生地としてショートペーストを使用したため、内相がポーラスであり、また、上掛け生地部分の表面に大きな割れ目が多く発生しており、そのため、上記のように多量の油脂を含浸させると、該割れ目を通して上掛け生地部分に満遍なく均一に油脂を浸み込ませることができ、あたかも、油脂を練り込み使用したかのような上掛け生地部分となるのである。
【0041】
そのため、上掛け生地に硬い油脂を練りこみ使用した際に問題となる、クリーミング性の低下や、成型時の生地の割れやすさなどの問題が簡単に回避されているものである。
【0042】
このようにして得られた本発明の複合ベーカリー食品は、カリカリした上掛け生地部分の食感と、ソフトな食感の内生地部分の食感が同時に楽しめ、保存中も、特に上掛け生地部分のカリカリ感が失われることがない。また、通常の複合ベーカリー食品に比べ、保存中の剥れが抑制されている。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0044】
なお、下記の実施例及び比較例において、固体脂含量は次のようにして測定した。配合油脂を60℃に30分保持し、油脂を完全に融解し、そして0℃に30分保持して固化させた。さらに25℃に30分保持し、テンパリングを行ない、その後0℃に30分保持した。これを逐次10℃、20℃、40℃の各測定温度に30分づつ保持後、固体脂含量を測定した。
【0045】
(油脂の製造)
〔製造例1〕油脂Aの製造
パーム油(ヨウ素価53)と菜種油(ヨウ素価116)とを50:50(質量比)の割合で溶解・混合した混合油300g、市販のニッケル触媒(日産ガードラー触媒製、商品名「G−95E」、ニッケル含量22%)1.05g及びメチオニン60mgを750mlのオートクレーブ中に投入し、温度200℃、水素圧2kg、水素流量0.51/分、攪拌速度500rpmの条件で異性化水素添加を行ない、固体脂含量が20℃で58%、35℃で8%である油脂Aを得た。
〔製造例2〕油脂Bの製造
大豆油(ヨウ素価130)を融点35℃まで水素添加を行ない、固体脂含量が20℃で44%、35℃で6%である油脂Bを得た。
〔製造例3〕油脂Cの製造
上記油脂Aと上記油脂Bとを50:50(質量比)の割合で溶解・混合し、固体脂含量が20℃で51%、35℃で7%である油脂Cを得た。
〔製造例4〕油脂Dの製造
ハイエルシン菜種極度硬化油(ヨウ素価0)と、大豆油(ヨウ素価130)を5:95(質量比)の割合で溶解・混合し、固体脂含量が20℃で5%、35℃で5%である油脂Dを得た。
【0046】
〔実施例1〕
(上掛け生地の製造)
上白糖45質量部及び全卵(正味)18質量部を、ビーターを使用して混合し、これに、いったん60℃で加熱溶解した後40℃まで放冷したパーム油25質量部を添加混合し、次いで、薄力粉40質量部、強力粉60質量部及びベーキングパウダー1質量部を添加混合し、さらに水11質量部を添加混合し、ショートペーストを得た。
このショートペーストの油分含量は12.5質量%、糖類含量は22.5質量%、水分含量は12.3質量%であり、また、小麦粉含量は50質量%であった。
【0047】
(内生地の製造)
強力粉70質量部、イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖3質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入して縦型ミキサーにセットし、フックを使用して低速で3分、中速で2分ミキシングして中種生地を得た。この中種生地を醗酵室で28℃にて2時間中種発酵させた。次いで、この生地に、さらに強力粉30質量部、上白糖15質量部、食塩1.5質量部、全卵(正味)15質量部及び水10質量部を添加し、低速で4分、中速で4分ミキシングした。ここで、練込用マーガリン10質量部を投入し、低速で4分、中速で4分ミキシングして菓子パン生地を得た(捏ね上げ温度28℃)。
この菓子パン生地の油分含量は12.5質量%であった。
【0048】
(複合生地の製造)
上記菓子パン生地を、フロアタイム30分をとった後に45gに分割し、さらにベンチタイム20分をとった後、これを内生地とし、手成形にて、上記ショートペーストを35gに分割し、これを上掛け生地とし、包餡成形し、80gの複合生地を得た。この複合生地を、温度38℃、相対湿度70%で50分ホイロをとった後、固定窯で180℃で13分焼成した。
【0049】
(油脂の含浸)
窯だし直後、(表面温度が90℃)下記製造例1により得られた油脂Aを70℃に溶解し、4g(上掛け生地に含まれる油脂100質量部あたり109質量部)均一に刷毛塗りして、上掛け生地部分に含浸させ、本発明の複合ベーカリー食品を得た。
【0050】
〔実施例2〕
実施例1で刷毛塗りした油脂Aに代えて、上記製造例2で得られた油脂Bを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例2の複合ベーカリー食品を得た。
【0051】
〔実施例3〕
実施例1で刷毛塗りした油脂Aに代えて、上記製造例3で得られた油脂Cを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例3の複合ベーカリー食品を得た。
【0052】
〔比較例1〕
刷毛塗りする油脂量を1.5g(上掛け生地に含まれる油脂100質量部あたり41質量部)とした以外は、実施例1と同様にして比較例1の複合ベーカリー食品を得た。なお、得られた複合ベーカリー食品は、上掛け生地部分の表面にのみ油脂層を形成し、油脂が含浸されたものではなかった。
【0053】
〔比較例2〕
実施例1で刷毛塗りした油脂Aに代えて、上記製造例4で得られた油脂Dを使用した以外は、実施例1と同様にして比較例2の複合ベーカリー食品を得た。
【0054】
〔比較例3〕
実施例1で刷毛塗りした油脂を、パーム油(固体脂含量が20℃で24%、35℃で5%)とした以外は、実施例1と同様にして比較例3の複合ベーカリー食品を得た。
〔比較例4〕
【0055】
油脂をまったく刷毛塗りしない以外は実施例1と同様にして比較例4の複合ベーカリー食品を得た。
【0056】
〔比較例5〕
油脂Aを焼成後ではなく、ホイロ後焼成前の上掛け生地に刷毛塗りした以外は実施例1と同様にして比較例5の複合ベーカリー食品を得た。
【0057】
<メロンパンの評価試験>
実施例1〜3、比較例1〜5で得られた複合ベーカリー食品を包装した後、28℃の恒温器に保存し、上掛け生地部分の食感を、焼成から1時間後、12時間後、24時間後及び48時間後それぞれにおいて、下記評価基準で評価し、結果を表1に記載した。また、48時間後の複合ベーカリー食品を食した際の上掛け生地部分の剥れ落ちの程度を下記評価基準で評価し、結果を同じく表1に記載した。
【0058】
・評価基準(食感)
◎:カリカリした食感が極めて良好である。
○:カリカリした食感である。
△:歯切れが悪く又はねちゃつき感があり、カリカリ感に乏しい。
×:べとつき感があり、カリカリした食感が感じられない。
【0059】
・評価基準(剥れ)
○:剥れ落ちが全くなかった。
△:少量の剥れ落ちがあった。
×:剥れ落ちが多かった。

【0060】
【表1】

【0061】
表1の結果から以下のことが明らかである。
【0062】
油脂をまったく刷毛塗りせずに得られた複合ベーカリー食品の上掛け生地部分は、焼成から12時間後には、べたついた食感になってしまい、また、剥れも多かった。(比較例4)
また、油脂を少量しか刷毛塗りせず、すなわち油脂を含浸させずに得られた複合ベーカリー食品の上掛け生地部分は、焼成から12時間後でねちゃつきがあり、また、焼成から24時間後には、べたついた食感になってしまい、また、剥れも多かった。(比較例1)
また、20℃における固体脂含量が40%未満である油脂を含浸させて得られた複合ベーカリー食品の上掛け生地部分は、焼成から12時間後ではねちゃつきがあり、また、焼成から48時間後には、べたついた食感になってしまった。なお、剥れはみられなかった。(比較例2、3)
また、油脂Aを焼成後ではなく、ホイロ後焼成前の上掛け生地に含浸させて得られた複合ベーカリー食品の上掛け生地部分は、焼成から12時間後でもねちゃつきがあり、また、焼成から24時間後には、べたついた食感になってしまい、また、剥れも多かった。(比較例5)
それに対し、焼成した直後に、上掛け生地部分の表面に20℃における固体脂含量が40%以上であり且つ35℃における固体脂含量が10%以下である油脂を、上掛け生地に含まれる油脂100質量部に対し、50〜300質量部含浸させた複合ベーカリー製品の上掛け生地部分は、歯切れは良好で、且つ、カリカリした食感であり、さらに、焼成から48時間後でも良好な歯切れとカリカリした食感を保持しており、剥れも見られないものであった。(実施例1〜3)
特に、20℃における固体脂含量が50%以上であり且つ35℃における固体脂含量が9%以下である油脂を使用した複合ベーカリー製品の上掛け生地部分は、48時間後でも焼成1時間後と同等の、良好な歯切れとカリカリした食感を保持していた。(実施例1、3)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショートペーストを上掛け生地、パン生地を内生地とした複合生地を焼成した直後に、上掛け生地部分に、20℃における固体脂含量が40%以上であり且つ35℃における固体脂含量が10%以下である油脂を、上掛け生地に含まれる油脂100質量部に対し、50〜300質量部含浸させることを特徴とする複合ベーカリー食品の製造方法。
【請求項2】
上記ショートペーストの油分含量が5〜20質量%であることを特徴とする請求項1記載の複合ベーカリー食品の製造方法
【請求項3】
請求項1または2の製造方法で得られた複合ベーカリー食品