説明

複合ポリエステルモノフィラメントおよび工業用織物

【課題】ガムテープ糊などの粘着性汚れ物質に対して優れた防汚性能を発揮するとともに、十分な物理的強度を兼ね備えた複合ポリエステルモノフィラメントおよびこの複合ポリエステルモノフィラメントを構成素材とした工業用織物の提供。
【解決手段】芯成分および鞘成分がいずれもポリエステルからなる二重芯鞘構造の複合ポリエステルモノフィラメントであり、前記鞘成分を構成するポリエステルがシリコーンオイルを0.2〜45重量%含有し、芯成分/鞘成分の芯鞘複合重量比率が50〜95/50〜5である複合ポリエステルモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガムテープ糊などの粘着性汚れ物質に対する優れた防汚性と十分な物理的強度を有し、乾燥機内搬送用ベルトや不織布工程用ネットコンベヤなどの工業用織物の構成素材として好適な複合ポリエステルモノフィラメントおよびそれを構成素材とする工業用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは優れた物性を有しているため、従来から各種工業用部品、衣料用および工業用繊維材料、各種織物などに使用されてきた。
【0003】
これらの織物用途としては、例えばポリエステルモノフィラメントでは、抄紙機用織物、フィルター用織物などが挙げられ、さらに他の用途としては、各種ブラシ、毛筆、印刷スクリーン用紗、釣り糸、ゴム補強用繊維材料などが知られている。
【0004】
なかでも、抄紙業界における抄紙機用抄紙ワイヤー、抄紙ドライヤーカンバスおよび抄紙プレスフェルトなどの構成素材としては、ポリエステルモノフィラメントが広く使用されている。
【0005】
しかしながら、乾燥機内搬送用ベルトや不織布工程用ネットコンベヤなどの工業用織物は、その使用中において、粘着性の汚れ物が織物表面や内部に付着蓄積し、乾燥効率の低下や運搬製品への汚れ付着による品位低下などを引き起こすという欠点を有しており、これらを防止するためは、これら織物をウォータージェットクリーナーなどにより定期的に清掃する必要があった。
【0006】
このような欠点を解決するために、従来から様々な提案が行われており、例えば、ポリエステルモノフィラメントの防汚性を改善する手段としては、ポリエチレンテレフタレートの重合鎖中に、ポリジアルキルシロキサンを共縮合により挿入することによって、直径0.1〜1.0mmの防汚性スクリーン織物用モノフィラメントを製造する方法(例えば、特許文献1参照)が知られている。しかし、この製法で得られる防汚性モノフィラメントは、引張強度が不十分であるため、工業用織物原糸としては満足のいかないものであった。
【0007】
また、合成樹脂モノフィラメントを経糸および緯糸に用いた織物の各構成糸の表面に親水性ポリエステル樹脂を被覆した防汚性織物(例えば、特許文献2参照)が知られている。しかしながら、この防汚性織物は、防汚性の観点からは優れるものの、モノフィラメント表面に親水性樹脂を塗布した後、乾燥して防汚被膜を形成していることから、長期間使用することによって防汚被膜が剥離するという問題があった。
【0008】
さらに、ベルト用メッシュ織物の防汚性向上技術として、経糸および緯糸のうち少なくとも経糸に合成樹脂製モノフィラメントを使用し、この経糸と緯糸とを一織目毎に交錯させ平織り組織に織成した後、さらにこの織物を構成する緯糸を一織目に複数本並べ織り込むことにより防汚性や通気性を向上させた織物(例えば、特許文献3参照)が提案されている。この方法は、織物の織構成を改善することにより防汚性や通気性を向上させるという技術ではあるが、織物を構成する合成樹脂製モノフィラメント自体に防汚性がないことから、ひとたび粘着性汚れ物が付着すると汚れが取れにくく、非常に洗浄しにくいという欠点を有していた。
【0009】
さらにまた、ポリエステルモノフィラメントの防汚性向上技術として、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン共重合体を未反応のポリカルボジイミド化合物と共にポリエステル中に添加したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献4参照)が提案されているが、このポリエステルモノフィラメントは、非粘着性の汚れ物質に対する防汚性には効果があるものの、ガムピッチなどの粘着性の汚れ物質に対しては防汚性の効果が十分ではなかった。
【0010】
この他にも、シリコーンオイルを含有する一体構造のポリエステルモノフィラメントが知られているが、この場合にはモノフィラメントを構成するポリエステル中に、液体状のシリコーンオイルが存在するために、引掛強度や結節強度が極端に低下するという欠点を有していた。このため、このポリエステルモノフィラメントを織物の経糸に使用した場合には、経糸をループ状にして形成される織物の両端部の接続部に緯糸を通してエンドレスのベルト状織物を作り、ベルトとして搬送機等に掛けて使用した際に、ベルトの縦方向に大きな張力が生じるために接続部の経糸が破断し、ベルト破損の原因の一つになっていた。
【特許文献1】特表平8−501355号公報(第1〜14頁)
【特許文献2】特開2002−173886号公報(第1〜5頁)
【特許文献3】特開2003−41496号公報(第1〜6頁)
【特許文献4】特開平9−049121号公報(第1〜11頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のような状況を鑑み、本発明は、従来技術に置ける問題を解決すべく検討した結果達成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、ガムテープ糊などの粘着性汚れ物質に対して優れた防汚性を有するとともに、十分な物理的強度、特に高い引掛強度や結節強度を持ち、工業用織物の構成素材として好適な複合ポリエステルモノフィラメントおよびそれを用いた工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために本発明によれば、芯成分および鞘成分がいずれもポリエステルからなる二重芯鞘構造の複合ポリエステルモノフィラメントであり、前記鞘成分を構成するポリエステルがシリコーンオイルを0.2〜45重量%含有し、芯成分/鞘成分の芯鞘複合重量比率が50〜95/50〜5であることを特徴とする複合ポリエステルモノフィラメントが提供される。
【0014】
なお、本発明の複合ポリエステルモノフィラメントにおいては、式:引掛強度/引張強度×100で示される引掛強度保持率が70%以上、かつ式:結節強度/引張強度×100で示される結節強度保持率が50%以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の工業用織物、例えば、工業用搬送用ベルト、不織布工程用ネットコンベア、乾燥機および熱処機内搬送用ベルトもしくはフィルターは、上記複合ポリエステルモノフィラメントを緯糸および/または経糸の少なくとも一部に用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガムテープ糊などの粘着性汚れ物質に対して優れた防汚性を有するとともに、十分な物理的強度を持ち、乾燥機内搬送用ベルトや不織布工程用ネットコンベアなどの工業用織物の構成素材として好適な複合ポリエステルモノフィラメントを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0018】
本発明の複合ポリエステルモノフィラメントは、芯成分および鞘成分がいずれもポリエステルからなる二重芯鞘構造の複合ポリエステルモノフィラメントである。
【0019】
本発明の複合ポリエステルモノフィラメントの芯成分および鞘成分を構成するポリエステル(以下、ポリエステルという)とは、ジカルボン酸とグリコールからなるポリエステルである。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。これらのジカルボン酸成分とグリコール成分とを適宜組み合わせて使用することができる。また、上記のジカルボン酸成分の一部を、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えてもよく、上記のグリコール成分の一部を、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えてもよい。更に、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。さらに、ポリエステルとしては、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルも含むものである。
【0020】
これらの内でも、ジカルボン酸成分の90モル%以上がテレフタル酸からなり、グリコール成分の90モル%がエチレングリコールからなる、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)が好適である。
【0021】
ポリエステルの極限粘度は、通常は0.5以上であればよいが、モノフィラメントを工業用織物の構成素材として使用する場合には0.7以上であることが、強度に優れるため好ましい。ここでいう極限粘度とは、オルソクロロフェノール溶液中25℃で測定した粘度より求めた極限粘度であり、〔η〕で表わされる値である。
【0022】
本発明の複合ポリエステルモノフィラメントを構成するポリエステルには、溶融重縮合に引き続いて固相重縮合を行って高分子量のポリエステルを製造する方法も好ましく採用できる。特にポリエステルモノフィラメントが工業用織物の構成素材である場合には、溶融重縮合に引き続いて固相重縮合を行うことが好適である。固相重合を行うことは、ポリエステルの高分子量化が図れるため、工業用織物としての耐久性が飛躍的に向上し好ましい効果の発現に繋がる。
【0023】
本発明の複合ポリエステルモノフィラメントは、鞘成分にポリエステル以外の成分として、シリコーンオイルを含有することを特徴とする。
【0024】
ここで、本発明の複合ポリエステルモノフィラメントの鞘成分に含有させるシリコーンオイルとは、室温または高温下で流動性を有するシリコーンオイルであり、公知のシリコーンオイルであればいずれでもよいが、例えばジメチルシロキサンを繰り返し単位とするジメチルシリコーンオイル類、ジメチルシロキサンの一部がフェニル基で置換されたメチルフェニルシリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルの両末端のメチル基が水酸基で置換された両末端ジオール・ジメチルシリコーンオイル類、ジメチルシロキサンのメチル基の一部が水素原子で置換されたメチルハイドロジェンシリコーンオイル類などのストレートシリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を長鎖アルキル基に置換したアルキル変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を長鎖アルキル基やフェニルアルキル基に置換したアルキル/アラルキル変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を親水性のポリオキシアルキレンで置換したポリエーテル変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を高級脂肪酸エステルに置換した高級脂肪酸変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部をポリフルオロアルキル基に置換したフッ素変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部をアミノアルキル基に置換したアミノ変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部をエポキシ基含有アルキル基に置換したエポキシ変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部をカルボキシル基含有アルキル基に置換したカルボキシル変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を水酸基含有アルキル基に置換したアルコール変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部をメルカプト基含有アルキル基に置換したメルカプト変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を塩素含有アルキル基に置換したクロロ変性シリコーンオイル類、長鎖アルキル基、フェニルアルキル基およびポリオキシアルキレンに置換したアルキル・アラルキル・ポリエーテル変性シリコーンオイル類などを挙げることができる。これらの中から1種または複数種を組み合わせて含有することができる。これらの中でも、ジメチルシリコーンオイル類の使用が特に好ましい。ジメチルシリコーンオイル類としては25℃で1、000センチストークス以上の粘度を有するものが好ましい。これらのシリコーンオイル類は東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社およびジーイー東芝シリコーン株式会社から市販されている。
【0025】
本発明の複合ポリエステルモノフィラメントの鞘成分におけるシリコーンオイルの含有量は任意に設計できるが、0.2〜45重量%、好ましくは0.35〜45重量%、さらには0.5〜40重量%の範囲とすることがより好ましい効果を発揮する。
【0026】
すなわち、シリコーンオイル添加量が0.2重量%より少ないと、対ガムピッチ防汚性が不十分であり、45重量%より多い場合は、複合紡糸機における複合ポリエステルモノフィラメントの製造工程で、紡糸機に対する原料の噛み込み特性が不安定になり紡糸不能の状況となったり、また得られるモノフィラメントの引張強度、さらには引掛強度および結節強度したりするなどの好ましくない結果を招くこととなる。
【0027】
本発明の複合ポリエステルモノフィラメントにおける芯成分/鞘成分の芯鞘複合重量比率は、50〜95/50〜5、好ましくは65〜85/35〜15の範囲とすることが、目的とする防汚効果および物理的特性の向上効果が高いことから好ましい。一般に、ポリエステル樹脂に対し、防汚効果を発現せしめる添加物を混合した場合には、モノフィラメントとしての物理的強度は低下する傾向を示す。しかるに本発明では、鞘成分にポリエステル樹脂とシリコーンオイルの混合物を用いて防汚効果を持たせ、芯成分にはポリエステル樹脂のみを用いることにより、モノフィラメントとしての物理的強度の低下を防止する効果を担わせている。
【0028】
ここで、芯成分/鞘成分の複合重合比率が上記の範囲外となる場合、特に芯成分が多すぎる場合は、複合モノフィラメントとしての物理的強度は向上するが、防汚性能を発揮する鞘成分が少なすぎ、複合ポリエステルモノフィラメントの表面層を形成する鞘成分が、モノフィラメント表層部で極めて薄い層として存在することになり、これを実際の工業用織物などに加工した場合には、その織物製造工程や織物製品の使用工程において複合ポリエステルモノフィラメントが繰り返し大きく屈曲したり過度の擦過を受けたりすることにより鞘成分にクラックが生じやすくなったり、最悪の場合には剥離するなどの好ましくない状況を招く結果となってしまう。
【0029】
また、逆に鞘成分が多すぎる場合においては、防汚性能維持の上では好ましいが、複合モノフィラメントとしての物理的強度、特に引掛強度や結節強度の低下が顕著となり好ましくない結果を招くことに繋がる。
【0030】
本発明の複合ポリエステルモノフィラメントの直径は、用途によって適宜選択できるが、工業用織物用途のモノフィラメントとしては、物理的強度の維持および製織工程の通過性などの観点から、0.05mm〜2.50mm程度とすることが好ましい。
【0031】
さらに、本発明の複合ポリエステルモノフィラメントは、式:引掛強度/引張強度×100で示される引掛強度保持率が70%以上、好ましくは85%以上、かつ式:結節強度/引張強度×100で示される結節強度保持率が50%以上、さらに好ましくは55%以上の特性を兼ね備えている場合に、工業用織物用途の複合ポリエステルモノフィラメントとしてさらに好ましい効果を発揮する。
【0032】
すなわち、引掛強度保持率ならびに結節強度保持率が上記の範囲外であると、モノフィラメントを経糸に使用した織物の両端部を折り返して経糸のループに緯糸を通して接続してエンドレスのベルト状織物として使用した場合に、ベルトの縦方向の張力に経糸のループ部が耐えきれずに接続部の経糸が破断するトラブルの一因となることがあり、製織工程での工程通過性に問題が生じるため好ましくない。
【0033】
なおここで、本発明における引張強度、引掛強度ならびに結節強度の測定は、以下の方法で行ったものである。
【0034】
<モノフィラメントの引張強度>
JIS L1013 8.5に準じて、試長:250mm、引張速度:300mm/分の条件で測定した。引掛強度は、測定試料のデシテックス単位当たりに換算して得た値である。
【0035】
<モノフィラメントの引っ掛け強度測定方法>
JIS L1013 8.7に準じて、試長:250mm、引張速度:300mm/分の条件で測定した。引掛強度は、測定試料のデシテックス単位当たりに換算して得た値である。
【0036】
<モノフィラメントの結節強度>
JIS L1013 8.6に準じて、試長:250mm、引張速度:300mm/分の条件で測定した。引掛強度は、測定試料のデシテックス単位当たりに換算して得た値である。
【0037】
本発明の複合ポリエステルモノフィラメントの繊維軸方向に垂直な断面の形状(以下、断面形状もしくは断面という)は、円、扁平、正方形、半月状、三角形、5角以上の多角形、多葉状、ドッグボーン状、繭型などいかなる断面形状を有するものでもよい。本発明のモノフィラメントを工業用織物の構成素材として用いる場合には、このモノフィラメントの断面形状が円もしくは扁平の形状が好ましい。特に、このモノフィラメントが抄紙用ドライヤーキャンバスの経糸である場合には、防汚性を有効に発現させることと、キャンバスの平坦性という観点から断面形状が扁平なものが好ましく用いられる。本発明における扁平とは、楕円、正方形もしくは長方形のことであるが、数学的に定義される正確な楕円、正方形もしくは長方形以外に、概ね楕円、正方形もしくは長方形に類似した形状、例えば正方形および長方形の角を丸くした形状を含むものである。また、楕円の場合は、この楕円の中心で直角に交わる長軸の長さ(LD)と短軸の長さ(SD)とが次式を満足する関係にあり、正方形もしくは長方形の場合は、長方形の長辺の長さ(LD)と短辺の長さ(SD)とが次式を満足する関係にあることが好ましい。
1.0≦LD/SD≦10
【0038】
このモノフィラメント断面の重心を通る線分の長さは、用途によって適宜選択できるが、0.05〜2.5mmの範囲が好ましい。また、糸の必要強度は用途により異なるが、概ね2.0cN/dtex以上であることが好ましい。
【0039】
また、本発明の複合ポリエステルモノフィラメントには、必要に応じ、本発明の複合ポリエステルモノフィラメントの効果を損なわない範囲で、着色用ポリエステルカラーマスターバッチペレット、MCD化合物、PCD化合物およびポリオレフィン類などを溶融混練した後、溶融紡糸することにより行うことができる。
【0040】
ここで、本発明の複合ポリエステルモノフィラメントの好ましい製造例としては、次の方法が挙げられる。
【0041】
鞘成分用の1軸または2軸エクストルーダーのホッパーに、必要量の乾燥したポリエステルペレット、シリコーンオイルを高濃度に含有したポリエステルマスターバッチペレット、また必要に応じ、ポリエステルカラーマスターバッチペレットやポリオレフィン類ペレットを計量供給し、芯成分用の1軸または2軸エクストルーダーのホッパーに、必要量の乾燥したポリエステルペレットを計量供給し、各々の成分を溶融混練した後、エクストルーダー先端に設けた鞘部および芯部の計量ギアポンプを介して複合紡糸口金より押し出し、冷却・延伸・熱セットを行うなどの方法にて製造が可能である。
【0042】
かくして得られる本発明の複合ポリエステルモノフィラメントは、対ガムピッチ防汚性と優れた引掛強度ならびに結節強度を有するものであることから、各種工業用織物の構成素材として有用なものである。
【0043】
したがって、本発明の複合ポリエステルモノフィラメントを構成素材とする各種工業用織物は、十分な強度とガムテープ糊などの粘着性汚れに対する防汚性が従来のものより優れることから、従来より長期間の防汚効果が維持されると共に、汚れ除去の際にも容易に洗浄が可能となり産業用の利用価値の高いものである。
【0044】
なお、本発明における工業用織物とは、本発明の複合ポリエステルモノフィラメントを織物の緯糸および/または経糸の少なくとも一部に使用した各種工業用途に使用される織物のことであり、例えば、工業用搬送用ベルト、不織布工程用ネットコンベア、乾燥機および熱処機内搬送用ベルトもしくはフィルターなどのことである。
【実施例】
【0045】
以下実施例を挙げて本発明を詳細に説明する
なお、以下の実施例における特性値は各実施例の中で特に記さない限り次に示す方法によって測定したものである。
【0046】
<モノフィラメントの対ガムピッチ防汚性評価のため布ガムテープ剥離試験方法(以下、布ガムテープ剥離試験という)>
(1)厚さ150〜250μm、横巾30mm、縦長さ120mmのポリエチレンテレフタレート製2軸延伸フィルムを2枚用意し、各々のフィルムの30mm巾の一端同士を重ならないように合わせて、この合わせ面に、片面に粘着剤の塗布された25mm×25mmサイズの布粘着テープを、前記2枚のフィルムの両端に渡るように貼付することにより、接合部で縦方向に繋ぎ合わされた見かけの縦長さ約240mm、横巾30mmのフィルムを作成する。
【0047】
(2)前記の2枚が繋ぎ合わされたフィルムの前記布粘着テープの貼付されていない面のどちらか半分(一枚のフィルム)に、横巾10mm、縦長さ120mmの両面粘着テープ(日東電工(株)製品、No.523または同等品)を、前記フィルムと前記両面粘着テープの横巾方向のセンターを合わせて長手方向に揃えて貼付する。
【0048】
(3)長さ約200mmに切断した繊維試料を、前記両面粘着テープを貼付したフィルムの粘着テープ上に、前記フィルムの長手方向と平行に隙間無く貼付し、前記両面粘着テープの長手方向の両端からはみ出している前記繊維の余端を鋏で切除し、繊維試料貼付フィルムを得る。
【0049】
(4)平坦な硝子板(厚さ約8mm、縦約250mm、横約80mm)の上に前記繊維試料貼付フィルムを乗せ、繊維貼付面を上向き、かつ繊維面が左側になるようにしてから、横巾10mm、縦長さ150mmに切断した片面に粘着剤が塗布された布粘着テープ(ニチバン(株)製、段ボール包装用強粘着テープ<LS>No.101Nまたは同等品)を、該布粘着テープの長手方向左端を前記繊維試料貼付フィルムの繊維面左端と合わせて、前記繊維上に前記布粘着テープを仮貼付する。次いで、前記繊維面右端に約30mm残っている前記布粘着テープを、前記フィルム面にしっかりと貼付する。
【0050】
(5)前記繊維貼付フィルムを裏返して、前記(1)で2枚のフィルムを繋ぎ合わせるために貼付した前記布粘着テープを取り除く。
【0051】
(6)前記繊維貼付フィルムの繊維貼付面を上向きにし、この繊維貼付フィルムを繊維貼付部分が硝子板上に完全に乗るようにセットして、前記繊維の表面に仮貼付されている前記布粘着テープ上に、重量1.43Kg、巾50mm、直径86mmのゴムローラーを、前記布粘着テープを重ねたフィルムの右長手方向から片道走行させ、前記布粘着テープを前記繊維試料に貼付して剥離応力測定用試料を作成する。
【0052】
(7)前記剥離応力測定用試料の2枚のフィルムの接合部を支点にして、前記布粘着テープの貼付面が内側になるように山折りし、次いで山折りの支点部から繊維上に貼付されている前記布粘着テープを長さ約10mm剥がし、露出した繊維貼付フィルム端部を、引張試験器((株)オリエンテック製テンシロン/UTM−III−100)の上チャックの中央部にセットし、一方の繊維の貼付されていない前記フィルムの下端(山折りの裾部)を、前記引張試験器の下チャックの中央部にセットして、引張速度100mm/分、チャートスピード100mm/分の条件で剥離応力を測定し、剥離応力の高い山と剥離応力の低い谷とが交互に連なった剥離応力チャートを得る。
【0053】
(8)得られた剥離応力チャートの最初の剥離応力の高い山から約20mm後の剥離応力の高い山を始点として、一個一個の交互の山と谷各40点の剥離応力を読み取り、その平均値をもって剥離応力とし、この測定をn10で行い、その平均値を布粘着テープ剥離応力とする。
【0054】
布粘着テープ剥離応力が低いほど対ガムピッチ防汚性が優れることを表す。なお、上記した布ガムテープ剥離試験を採用することによって、製織することなく本発明のポリエステルモノフィラメントを構成素材とする織物の対ガムピッチ防汚性を定量的に相対評価することが可能である。
【0055】
<モノフィラメントの引張試験方法>
引張試験器((株)オリエンテック製テンシロン/UTM−III−100)を使用して測定した。
【0056】
<引掛強度保持率および結節強度保持率>
JIS2003 L1013 8.5に準じて測定した引張強力を測定試料のデシテックス単位当たりに換算し引張強度を算出、同様に、JIS2003 L1013 8.7に準じて引掛強力、JIS2003 L1013 8.6に準じて結節強力をそれぞれ測定し、測定試料のデシテックス単位当たりの強度を求めた。
【0057】
求めた各々の強度に対し以下の算式で、強度保持率を算出し、小数点第1位を四捨五入して求めた。
引掛強度保持率(%)=引掛強度/引張強度×100
結節強度保持率(%)=結節強度/引張強度×100
【0058】
また、実施例中でモノフィラメントの製造に使用した原料は、実施例中で特に記さない限り次のものを使用した。
1.ポリエステルペレット
公知の溶融重縮合と固相重合とによって製造した極限粘度0.94、末端カルボキシル基濃度15当量/10gの乾燥したポリエチレンテレフタレートペレット(以下、PETペレットと略称する)。
2.シリコーンオイル含有PETマスターバッチペレット
ポリジメチルシリコーンオイル(高粘度)を40重量%含有したPETマスターバッチペレットであるBY27−111(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製品)(以下SO−PET―MBと略称する)
【0059】
[実施例1]
PETペレット、シリコーンオイル含有PETマスターバッチペレットであるSO―PET―MBを表1に記載の量比で計量しながら、芯成分用と鞘成分用の各々の1軸エクストルーダーに連続供給し、各々のエクストルーダー内で285℃にて溶融混練した溶融ポリマーをギアポンプを経て芯鞘複合紡糸パック内のそれぞれの濾過層を通して口金吐出孔直前で合流させ、円形断面糸用紡糸口金より紡出した。紡出したモノフィラメントを70℃の温水で冷却後、常法に従い5.0倍に延伸および熱セットを行い、直径0.450mmの断面形状が円形の芯鞘複合モノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントの芯鞘比率、引掛強度保持率および結節強度保持率、布ガムテープ剥離試験の評価結果を表1に示す。
【0060】
[実施例2〜7、比較例1〜3]
実施例1と同様の製糸プロセスを用い、表1に示したように鞘成分シリコーンオイル含有率および芯鞘複合重量比率を変更して得られた複合ポリエステルモノフィラメントについて、引掛強度および結節強度保持率、布ガムテープ剥離試験を評価した結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の結果から明らかなとおり、本発明の複合ポリエステルモノフィラメントは、従来のものよりも優れた対ガムピッチ防汚性有し、更には十分な引掛強度保持率ならびに結節強度保持率を有しており、乾燥機内搬送用ベルトや不織布工程用ネットコンベアなどの工業用織物の構成素材として好適に利用し得るものであり、産業上の利用価値が極めて高いものとなった。
【0063】
一方、鞘部にSO−PET−MBを添加せずPETペレットのみを用いた比較例1では、布ガムテープ剥離試験の結果からわかるように、粘着性汚れ物質に対する防汚性が不十分なものであった。
【0064】
また、芯鞘複合比率が規定範囲外の実施例2では、布ガムテープ剥離試験の結果は良好なものの、物理的な強度特性が極めて低い複合ポリエステルモノフィラメントとなってしまい、工業用織物用途に利用する複合ポリエステルモノフィラメントとしては極めて好ましくない結果となった。
【0065】
さらに、鞘成分へのシリコーンオイル添加率が多すぎた比較例3では、鞘成分用の1軸エクストルーダーへの原料噛み込み特性が不安定となり、紡出不能の状態となり、複合ポリエステルモノフィラメントを得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、従来の複合ポリエステルモノフィラメントに比べ高い引掛強度保持率ならびに結節強度保持率を有し、且つ、優れた防汚性能を示す複合ポリエステルモノフィラメントを取得することができるため、この複合ポリエステルモノフィラメントを工業用織物の構成素材とした場合には、際立った防汚性能ならびに耐久性の高い工業用織物となすことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分および鞘成分がいずれもポリエステルからなる二重芯鞘構造の複合ポリエステルモノフィラメントであり、前記鞘成分を構成するポリエステルがシリコーンオイルを0.2〜45重量%含有し、芯成分/鞘成分の芯鞘複合重量比率が50〜95/50〜5であることを特徴とする複合ポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
式:引掛強度/引張強度×100で示される引掛強度保持率が70%以上、かつ式:結節強度/引張強度×100で示される結節強度保持率が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合ポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合ポリエステルモノフィラメントを緯糸および/または経糸の少なくとも一部に用いたことを特徴とする工業用織物。
【請求項4】
工業用搬送用ベルト、不織布工程用ネットコンベア、乾燥機および熱処機内搬送用ベルトもしくはフィルターであることを特徴とする請求項3に記載の工業用織物。

【公開番号】特開2008−240189(P2008−240189A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81235(P2007−81235)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】