説明

複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物およびその成形品

【課題】ポリ乳酸の結晶化速度を向上させて成形サイクルを短縮すると共に、耐熱性、耐衝撃強度、弾性率等の物性をバランスよく改善し、更には良好な成形品外観が得られる複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂(A)10〜95重量%と、ゴム質重合体に1種または2種以上のビニル系単量体をグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体(B)5〜50重量%と、硬質共重合体(C)0〜45重量%とからなるポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分100重量部に、繊維長0.5〜10mmで、繊維径10〜50μmのポリエチレンナフタレート繊維(D)1〜50重量部を添加してなる複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の結晶化速度を向上させて成形サイクルを短縮すると共に、耐熱性、耐衝撃強度、弾性率等の物性をバランスよく改善し、更には良好な成形品外観が得られる複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物に関するものである。本発明はまた、この複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、地球温暖化の要因として、大気中における炭酸ガス濃度の上昇が指摘され、地球規模での炭酸ガス排出規制の必要性が唱えられている。炭酸ガス排出源としては、生物の呼吸、バクテリアによる腐敗・醗酵等も有るが、燃焼による部分が大きく、現状の大気中の炭酸ガス濃度上昇現象は、人間による産業革命以後の石油資源を浪費した経済活動によってもたらされたものと言って過言ではない。
【0003】
ところで、近年、カーボンニュートラルとして、炭酸ガスを吸収、固定する植物資源の有効活用が注目されている。即ち、植生によって、炭酸ガスの吸収を図る一方で、将来枯渇が予想される石油資源の代替を図るというものである。
【0004】
プラスチックにおいても、従来の石油を基礎原料とするものから、バイオマスを利用したプラスチックが開発され、当初、これらは生分解性樹脂として注目を集めたが、最近では植物系プラスチックとしてその意義が見直されている。
【0005】
こうした生分解性樹脂の中にあって、物性と量産化の可能性からポリ乳酸樹脂(PLA)の実用化が期待されてきたが、ポリ乳酸樹脂では、既存の石油系プラスチックに比べて機械的強度、特に耐衝撃強度に劣るという欠点が有り、早くからその改良が望まれてきた。
【0006】
一般に、プラスチックの耐衝撃強度を改良する為には、ゴム質重合体をブレンドする方法が行われており、ポリ乳酸樹脂に対しても同様の取り組みが行われてきた。
【0007】
例えば、特許文献1「特開平9−316310号公報」、特許文献2「特開2001−123055号公報」には、変性オレフィン化合物を添加する方法が、特許文献3「特開平11−140292号公報」には、架橋ポリカーボネートを配合する方法が示されているが、いずれも既存の汎用プラスチックと比較すると物性改良効果は十分とは言えない。
【0008】
特許文献4「特開2002−37987号公報」には、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)へのグラフト重合体(AES樹脂)の配合が示されているが、アイゾット衝撃強度で示される耐衝撃強度の改良効果は十分とは言えない。
【0009】
特許文献5「特開2003−286396号公報」には、多層構造重合体として、グラフト重合体の配合効果が示されている。ここでは多層構造重合体の最外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位を含有する重合体と規定しており、具体的にはゴム質重合体にメタクリル酸メチルなどのグラフトした重合体を示唆している。この技術では、確かに改質効果は高く評価されるものの、これら改質剤はいずれも高価であるため、工業的な生産には不適当である。
【0010】
一方、特許文献6「特開2006−137908号公報」、特許文献7「特開2006−161024号公報」には、ポリ乳酸樹脂にゴム含有グラフト共重合体と硬質共重合体を添加することにより、耐衝撃性、耐熱性等を改善したポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物が提案されているが、更に成形サイクルの短縮、物性バランスのより一層の向上が市場より期待されている。
【0011】
特許文献8「特開2009−91453号公報」には、耐衝撃性や耐熱性の向上を目的としてポリ乳酸にポリエステル系繊維等の有機繊維を配合した樹脂組成物が提案されているが、結晶化速度や成形サイクル性にはまったく触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平9−316310号公報
【特許文献2】特開2001−123055号公報
【特許文献3】特開平11−140292号公報
【特許文献4】特開2002−37987号公報
【特許文献5】特開2003−286396号公報
【特許文献6】特開2006−137908号公報
【特許文献7】特開2006−161024号公報
【特許文献8】特開2009−91453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述した従来技術における課題を解決し、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度を向上させて成形サイクルを短縮すると共に、耐熱性、耐衝撃強度、弾性率等の物性をバランスよく改善し、更には良好な成形品外観が得られる複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物と、この複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、従来の技術の検証・改良に鋭意努力した結果、特定組成のポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分に、繊維長および繊維径が規制された特定のポリエステル系繊維をブレンドすることによって、ポリ乳酸の結晶化速度を増加させて成形サイクルを短縮することができ、しかも、この複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は、高耐熱性、高耐衝撃性、高剛性を示し、実用上使用に耐え得る良好な成形品外観を呈することを見出した。
【0015】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、本発明の要旨は、ポリ乳酸樹脂(A)10〜95重量%と、ゴム質重合体に1種または2種以上のビニル系単量体をグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体(B)5〜50重量%とを含むポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分100重量部に対して、繊維長が0.5〜10mmで、繊維径が10〜50μmのポリエチレンナフタレート繊維(D)1〜50重量部を添加してなる複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物、に存する。
【0016】
本発明の別の要旨は、このような本発明の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品、に存する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度が速く、短い成形サイクルで効率的な成形を行うことができる。しかも、本発明の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を生産効率良く成形して得られる成形品の耐熱性、耐衝撃性、剛性等の物性バランスは極めて良好であり、かつ、実用上使用に耐え得る良好な成形品外観を呈し、各種筐体や構造部材としての用途に適した素材である。
【0018】
本発明によれば、このように実用的な複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を提供することにより、植物系樹脂であるポリ乳酸樹脂の用途を広げ、カーボンニュートラルの理念の実践を促進して、地球環境負荷低減に貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
[ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分]
本発明において、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分は、ポリ乳酸(A)とゴム含有グラフト共重合体(B)とを含み、更に硬質共重合体(C)を含んでいてもよい。
【0021】
なお、本発明において、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分中のポリ乳酸樹脂(A)、ゴム含有グラフト共重合体(B)、および硬質共重合体(C)の含有量は、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分がポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有グラフト共重合体(B)を含み硬質共重合体(C)を含まない場合は、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有グラフト共重合体(B)の合計を100重量%とした値であり、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分がポリ乳酸樹脂(A)、ゴム含有グラフト共重合体(B)および硬質共重合体(C)を含む場合は、これらポリ乳酸樹脂(A)、ゴム含有グラフト共重合体(B)および硬質共重合体(C)の合計を100重量%とした値である。
【0022】
<ポリ乳酸樹脂(A)>
本発明の樹脂組成物に適用されるポリ乳酸樹脂(A)は、乳酸を直接脱水縮重合する方法、或いはラクチドを開環重合する方法等といった、公知の手段で得る事ができる。
【0023】
ポリ乳酸樹脂にはL体、D体、DL体の3種の光学異性体が存在し、市販されているポリ乳酸樹脂としては、L体の純度が100%に近いものがあるが、本発明で用いるポリ乳酸樹脂(A)は、特にその純度を規定するものではなく、また、本発明の効果を損なわない範囲で、他の共重合成分を含んだ共重合体でも構わない。
【0024】
ポリ乳酸樹脂(A)に含まれる他の共重合成分としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類などを挙げることができる。このような共重合成分の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)中の全単量体成分中通常30モル%以下の含有量とするのが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0025】
ポリ乳酸樹脂(A)の分子量や分子量分布については、実質的に成形加工が可能であれば特に制限されるものではないが、重量平均分子量としては、通常1万以上、好ましくは5万以上、さらに10万以上であることが望ましい。ポリ乳酸樹脂(A)の重量平均分子量の上限については特に制限はないが、通常40万以下である。
【0026】
なお、分子量の測定はGPC(溶媒THF:テトラヒドロフラン)にて測定することができるが、ポリ乳酸がペレット状の場合、THFに溶解し難い場合があり、その場合は、クロロホルムに溶解させた後、メタノールを用いてポリマー成分を析出させ、そのポリマー成分を乾燥させたものをTHFに溶解させて可溶分の分子量を測定することができる。また、必要に応じて加温するなどして溶解させることもできる。
【0027】
本発明において、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分中のポリ乳酸樹脂(A)の配合量は、10〜95重量%の範囲であるが、好ましくは30〜95重量%、より好ましくは50〜90重量%であることが、カーボンニュートラルの観点や、耐衝撃性改善の点において好ましい。ポリ乳酸樹脂(A)の配合量が上記下限値以上であることにより、ポリ乳酸樹脂を有効利用する本発明の目的を達成することができ、上記上限値以下であることにより耐衝撃性に優れた成形品が得られる。
【0028】
なお、ポリ乳酸樹脂(A)は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0029】
このようなポリ乳酸樹脂(A)の具体例としては、例えば、市販品のNature Works社製「Ingeo」、中国海生生物材料公司社製「REVODE」などが挙げられ、いずれも本発明に使用することができる。
【0030】
<ゴム含有グラフト共重合体(B)>
本発明で使用するゴム含有グラフト共重合体(B)は、ゴム質重合体にシアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(ここで「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸」と「メタクリル酸」の一方または双方をさす。)等のビニル系単量体の少なくとも1種をグラフト重合してなるものであり、一般にABS、ASA、AES、MBS等で表現される、ゴム質重合体に硬質重合体がグラフト重合した構造を有するものである。
【0031】
ゴム含有グラフト共重合体(B)を形成するゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン/ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル/ブタジエン共重合体等のブタジエン系ゴムや、スチレン/イソプレン共重合体等の共役ジエン系ゴム;ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、エチレン/プロピレン共重合体等のオレフィン系ゴム;ポリオルガノシロキサン等のシリコン系ゴム等が挙げられ、これらのうち、生産コストが妥当で、ポリ乳酸への改質効果が良好であることにより、ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、オレフィン系ゴム、シリコン系ゴムが好ましい。これらのゴム質重合体は、1種を単独で、或いは2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
なお、これらゴム質重合体は、モノマーから使用することができ、ゴム質重合体の構造がコア/シェル構造をとっても良い。例えば、ポリブタジエンをコアにして、アクリル酸エステルをシェルにしたゴム質重合体とすることもできる。
【0033】
上記のゴム質重合体のゲル含有量は、通常50〜90重量%、好ましくは60〜85重量%で、さらに好ましくは70〜85重量%である。ゲル含有量がこの範囲内であれば、得られる複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の特性、特に、耐衝撃強度を向上させることができる。ゴム質重合体のゲル含有量が50〜90重量%であると耐衝撃強度の向上効果を十分に得ることができる理由の詳細は明らかではないが、ゲル含有量が上記下限値以上であることにより、ゴム質重合体の衝撃エネルギーの吸収が効率的に行われ、また、上記上限値以下であることにより、グラフト重合するビニル系単量体の一部がゴム質重合体の内部に含浸して、衝撃エネルギーの吸収や分散が得られるようになることによるものと推定される。従って、ゲル含有量が50〜90重量%の範囲であると、衝撃エネルギーの吸収または分散が効果的に行われ、耐衝撃性の向上に優れた効果を発現するものと考えられる。
【0034】
なお、ゴム質重合体のゲル含有量を測定するには、具体的には、秤量したゴム質重合体を、適当な溶剤に室温(23℃)で20時間かけて溶解させ、次いで、100メッシュ金網で分取して、金網上に残った不溶分を60℃で24時間乾燥した後秤量する。分取前のゴム質重合体に対する不溶分の割合(重量%)を求め、ゴム質重合体のゲル含有量とする。ゴム質重合体の溶解に用いる溶剤としては、例えば、ポリブタジエンではトルエンを、ポリブチルアクリレートではアセトンを用いると測定が行いやすい。
【0035】
また、ゴム質重合体の粒子径は、特に限定されるものではないが、0.1〜1μmが好ましく、0.2〜0.5μmである事がより好ましい。なお、ゴム質重合体の平均粒子径は、グラフト重合前であれば、光学的な方法で測定することができる。また、グラフト重合した後は、染色剤によりゴム質重合体を染色した後に透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて平均粒子径を算出することができる。
【0036】
このようなゴム質重合体にグラフト重合させるビニル系単量体のうち、シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリルニトリル等が挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
また、芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等のメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルが挙げられる。
【0037】
シアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体はそれぞれ1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0038】
特に、本発明で用いるゴム含有グラフト共重合体(B)は、ゴム質重合体に1種または2種以上のビニル系単量体をグラフト重合してなるものであり、そのビニル系単量体としては、少なくともシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体を含むことが好ましく、その場合において、シアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体の重量組成比は、20/80〜35/65の範囲が好ましく、より好ましくは25/75〜30/70である。この範囲内であることにより、分散性や熱安定性が良好なものとなる。
【0039】
また、シアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体の比率は上記のままで、グラフト重合に用いる全単量体成分中40重量%以下の範囲でこれらのビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸エステル系単量体等の他の単量体を使用してもよく、共重合可能な(メタ)アクリル酸エステル系単量体以外の他の単量体としては、マレイミド化合物が挙げられ、マレイミド化合物としては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。また、場合により官能基により変性された単量体を含んでいてもよく、このような単量体としては、例えば不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。これらは、それぞれ1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。これらの他の単量体を使用する場合、その使用割合はグラフト重合に用いる単量体混合物中100重量%に対して30重量%以下、特に10重量%以下であることが好ましい。
【0040】
ゴム含有グラフト共重合体(B)中のゴム含有量については後述の通りであるが、ゴム含有グラフト共重合体(B)のアセトン可溶分の重量平均分子量は、100,000〜600,000の範囲が好ましく、より好ましくは100,000〜550,000、さらに好ましくは150,000〜450,000の範囲である。アセトン可溶分の重量平均分子量が上記下限値以上であることにより、得られる成形品の耐衝撃性が良好となり、また、上記上限値以下であることにより、成形加工性が良好となる。なお、アセトン可溶分とは、ゴム質重合体に単量体をグラフト重合した際に生じるゴム質重合体にグラフト重合していない単量体の重合体生成物に相当するものである。
【0041】
また、ゴム含有グラフト共重合体(B)のグラフト率((アセトン不溶分重量/ゴム質重合体重量−1)×100)は、15〜85重量%であることが好ましい。ゴム含有グラフト共重合体(B)のグラフト率が上記下限値以上であることにより、ゴム質重合体の分散性、耐衝撃強度が良好となる。また、グラフト率が上記上限値以下であることにより、耐衝撃強度や成形性が良好となる。なお、グラフトしている共重合体は、ゴム質重合体の外部のみならず内部にオクルードした構造であっても良い。
【0042】
グラフト重合は、公知の乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合により行うことができ、これらの重合方法を組み合わせた方法でもよい。
【0043】
ゴム含有グラフト共重合体(B)としては、重合方法や成分組成の異なるゴム含有グラフト共重合体の2種以上を混合して用いても良い。
【0044】
本発明において、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分中のゴム含有グラフト共重合体(B)の配合量は、5〜50重量%の範囲であるが、好ましくは10〜40重量%であることが、カーボンニュートラルの観点や、耐衝撃性改善の点において好ましい。ゴム含有グラフト共重合体(B)の配合量が上記上限値以下であることにより、ポリ乳酸樹脂(A)の配合量を少なくすることなく、ポリ乳酸樹脂を有効利用する本発明の目的を達成し、上記下限値以上であることにより、耐衝撃性に優れた成形品を得ることができる。
【0045】
<硬質共重合体(C)>
本発明では、耐熱性や流動性などの特性改良のため、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分中に必要に応じて硬質共重合体(C)を45重量%以下、好ましくは5〜30重量%の範囲で配合しても良い。ただし、この場合においても、ポリ乳酸樹脂(A)のポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分中の含有量が10〜95重量%、好ましくは30〜95重量%、より好ましくは50〜90重量%であり、ゴム含有グラフト共重合体(B)のポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分中の含有量が5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%であり、かつ、ゴム含有グラフト共重合体(B)と硬質共重合体(C)との合計100重量%中のゴム含有量が後述の範囲であることが好ましい。また、ゴム含有グラフト共重合体(B)と硬質共重合体(C)との合計におけるアセトン可溶分の重量平均分子量が、先のゴム含有グラフト共重合体(B)の説明で示したように100,000〜600,000、特に100,000〜550,000、とりわけ150,000〜450,000の範囲であることが好ましい。
【0046】
硬質共重合体(C)に用いられる単量体成分としては、先のゴム含有グラフト共重合体(B)で紹介した芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体、更に必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能な他の単量体を用いることができる。また、硬質共重合体(C)を形成する単量体成分の各比率、例えばシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体の重量比率や、共重合可能な他の単量体は、上記のゴム含有グラフト共重合体(B)の中で記載した範囲内で使用することができる。
【0047】
硬質共重合体(C)の重量平均分子量は、50,000〜300,000の範囲が好ましく、さらに好ましくは100,000〜250,000の範囲である。硬質共重合体(C)の重量平均分子量が上記下限値以上であることにより、得られる成形品の耐衝撃性が良好となり、また、上記上限値以下であることにより、成形加工性が良好となる。
【0048】
硬質共重合体(C)についても1種を単独で用いても良く、異なる組成、分子量のものを2種以上混合して用いても良い。
【0049】
<ゴム含有量>
本発明においては、本発明に係るポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分が、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有グラフト共重合体(B)とを含み、硬質共重合体(C)を含まない場合、ゴム含有グラフト共重合体(B)100重量%中のゴム含有量は40〜80重量%の範囲とし、また、本発明に係るポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分がポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有グラフト共重合体(B)と硬質共重合体(C)とを含む場合、ゴム含有グラフト共重合体(B)と硬質共重合体(C)との合計100重量%におけるゴム含有量が40〜80重量%の範囲となるように調整することが好ましい。ゴム含有量が上記下限値以上であることにより、得られる成形品に十分な耐衝撃性が得られ、また、上記上限値以下であることにより、分散性不良や、剛性などの機械的特性の低下を招くことなく、良好な組成物ないし成形品を得ることができる。なお、ゴム含有グラフト共重合体(B)と硬質共重合体(C)の混合物中のゴム質重合体の含有量は、赤外分光測定装置を使用することにより測定することができる。
【0050】
上記のゴム含有量のより好ましい範囲は、50〜80重量%であり、特に好ましい範囲は60〜70重量%である。
【0051】
ゴム含有量が40〜80重量%のゴム含有グラフト共重合体(B)は前述のゴム質重合体40〜80重量%の存在下、シアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体、および(メタ)アクリル酸エステル系単量体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体を含む単量体成分60〜20重量%をグラフト重合させて得ることができる(ただし、ゴム質重合体と単量体混合物との合計で100重量%)。
【0052】
本発明に係るポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分が硬質共重合体(C)を含む場合、例えばゴム含有量が60〜70重量%のゴム含有グラフト共重合体(B)を用い、ポリ乳酸樹脂(A)が50〜80重量%、ゴム含有グラフト共重合体(B)が15〜45重量%、硬質共重合体(C)が5〜20重量%となるように混合して、ゴム含有グラフト共重合体(B)と硬質共重合体(C)との合計100重量%中のゴム含有量が上記範囲となるようにすることが好ましい。
【0053】
[ポリエチレンナフタレート繊維(D)]
<ポリエチレンナフタレート繊維>
本発明においては、複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の結晶化速度の向上、剛性等の物性向上を目的として、ポリエチレンナフタレート繊維(D)を配合する。ここで、汎用のポリエステル繊維であるポリエチレンテレフタレート繊維ではなく、ポリエチレンナフタレート繊維を用いることは本発明の効果を得る上で重要であり、高強力・高モジュラスで、耐熱性や寸法安定性にも優れたポリエチレンナフタレート繊維をポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分に配合することにより、良好な配合効果を得ることができる。
【0054】
本発明において、ポリエチレンナフタレート繊維(D)は、上記のポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分100重量部に1〜50重量部添加される。ポリエチレンナフタレート繊維(D)の添加量が上記下限値以上であることにより、良好な結晶化速度向上効果を得ることができ、成形サイクルを短くし、また、剛性の向上を図ることができる。また、ポリエチレンナフタレート繊維(D)の添加量が上記上限値以下であることにより、成形品外観が良好となり、また、ポリエチレンナフタレート繊維(D)を配合することによる衝撃強度の低下を防止することができる。
【0055】
なお、上記のポリエチレンナフタレート繊維(D)の添加量は、このポリエチレンナフタレート繊維(D)が後述の表面処理剤による表面処理が施されたものである場合、この表面処理によりポリエチレンナフタレート繊維(D)に付着した表面処理剤の重量を、含まない値である。
【0056】
本発明で使用するポリエチレンナフタレート繊維(D)は、繊維長が0.5〜10mm、好ましくは1.0〜8mmで、繊維径が10〜50μm、好ましくは15〜30μmのものであり、本発明では、このような特定の繊維長及び繊維径のポリエチレンナフタレート繊維(D)を用いることにより、結晶化速度の向上による成形サイクルの短縮、良好な耐熱性と耐衝撃強度、弾性率等の物性バランスの改善効果を得ることができる。
後述の比較例の結果からも明らかなように、ポリエチレンナフタレート繊維の繊維長が上記下限未満では、耐衝撃性、剛性が低下する傾向にあり、上記上限を超えると結晶化速度が遅く、成形サイクルが長くなり、また、成形品外観も劣る傾向にある。また、ポリエチレンナフタレート繊維の繊維径が上記下限未満では、成形品外観は良好であるものの、耐熱性、耐衝撃性、剛性等の物性が全体的に低下する傾向にあり、上記上限を超えると結晶化速度が遅く、成形サイクルが長くなり、耐衝撃性、成形品外観も悪化する。
【0057】
なお、本発明において、ポリエチレンナフタレート繊維(D)の繊維長、繊維径とは、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分と混合する前のポリエチレンナフタレート繊維の50〜100本について顕微鏡観察により測定した繊維長、繊維径の平均値であるが、市販のポリエチレンナフタレート繊維を用いる場合は、そのカタログ値を採用することができる。また、本発明の成形品中に存在するポリエチレンナフタレート繊維も上記同様の条件が適応される。
【0058】
上記条件を満たすポリエチレンナフタレート繊維(D)の市販品としては、例えば帝人ファイバー(株)より「テオネックス」の商品名にて提供されるポリエチレンナフタレート繊維が挙げられるが、特定の商品に限定するものでは無い。
【0059】
ポリエチレンナフタレート繊維(D)は1種のみを用いてもよく、繊維長や繊維径、以下に示す表面処理の有無、用いた表面処理剤が異なるものの2種以上を併用してもよい。
【0060】
<表面処理>
本発明で用いるポリエチレンナフタレート繊維(D)は、表面処理剤により表面処理されたものであってもよく、表面処理されたポリエチレンナフタレート繊維(D)であれば、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分との相溶性が向上し、良好な複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0061】
ポリエチレンナフタレート繊維(D)の表面処理剤としては、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、澱粉、植物抽、およびこれらの1種または2種以上とエポキシ化合物との混合物などが挙げられるが、表面処理剤は、特にポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分との相溶性の点でポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。
【0062】
表面処理剤としてのポリウレタン樹脂は、分子内に2個水酸基を有する化合物(以下、これをジオール成分と記す)と、分子内に2個イソシアネート基を有する化合物(以下、これをジイソシアネート成分と記す)とを、水を含まず、活性水素を有さない有機溶媒中で付加重合させることにより得ることができる。また、溶媒がない状態で原料を直接反応させることによっても目的物のポリウレタン樹脂を得ることができる。上記ジオール成分として、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカ−ボネートジオール、ポリエーテルエステルジオール、ポリチオエーテルジオール、ポリアセタ−ル、ポリシロキサン等のポリオール化合物、並びにエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール等の低分子量のグリコール類が挙げられる。表面処理剤として用いるポリウレタン樹脂は、低分子量グリコール成分を多く含むことが好ましい。
【0063】
表面処理剤としてのポリウレタン樹脂は、マルチフィラメントであるポリエチレンナフタレート繊維の各単糸表面に均一に付着して、単糸を収束させていることが好ましいが、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分との混練工程では低いシェアで単糸を解離し、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分中に分散させるものであることが好ましい。そのためには、ポリウレタン樹脂の乾燥皮膜の引張強度が低い必要があり、ポリウレタン樹脂の乾燥皮膜の引張強度は、好ましくは5〜60MPa、より好ましくは10〜50MPaである。該樹脂の乾燥皮膜の引張強度が上記下限値以上であることにより、該樹脂の皮膜が破壊しにくく、表面処理繊維に収束性を付与できる。該樹脂の乾燥皮膜の引張強度が上記上限値以下であることにより、混練工程で単糸が解離しやすく、表面処理繊維の分散斑の発生を防止することができる。
【0064】
また、表面処理剤としてのポリウレタン樹脂の乾燥皮膜の伸度100%時モジュラスは、好ましくは0.1〜30MPa、より好ましくは1〜20MPaである。該樹脂の乾燥皮膜の伸度100%時のモジュラスが上記下限値以上であることにより、該樹脂の皮膜が破壊しにくく、表面処理繊維に収束性を付与できる。該樹脂の乾燥皮膜の伸度100%時モジュラスが上記上限値以下であることにより、混練工程で単糸が解離しやすく、表面処理繊維の分散斑の発生を防止することができる。
【0065】
また、表面処理剤としてのポリウレタン樹脂の乾燥皮膜の伸度は、好ましくは100〜700%、より好ましくは130〜300%である。該樹脂の乾燥皮膜の伸度が上記下限値以上であることにより、樹脂皮膜が硬く脆くになりすぎず、成形品に衝撃が加わったときに容易にポリウレタン樹脂が破壊することなく、繊維で樹脂成分を補強する効果を十分に得ることができる。また、該樹脂の乾燥皮膜の伸度が上記上限値以下であることにより、混練工程で単糸が解離しやすく、表面処理繊維の分散斑の発生を防止することができる。
【0066】
ここで、引張強度、伸度100%時のモジュラスや伸度の測定に用いられるポリウレタン樹脂の乾燥被膜の製造方法は下記の通りである。
ポリウレタン樹脂の水溶液からガラスシャーレーやテフロンシャーレーなどを用いて、キャスト法によって揮発分である水を除去する。この際の処理温度は室温〜120℃程度で、試料に合わせて適宜処理時間を設定することにより乾燥皮膜を得ることができる。乾燥皮膜の膜厚は、好ましくは0.1〜1.0mm、より好ましくは0.5〜1.0mmである。この乾燥皮膜を測定項目に合わせて加工する。例えば、引張強度や伸度を測定する際にはダンベル状に試験片を打ち抜き、引張試験の試験片とする。
【0067】
表面処理剤としてのポリウレタン樹脂としては、上述のように、乾燥皮膜の引張強度や伸度100%時のモジュラスが低く、また伸度は700%以下であることが好ましい。このような場合には、表面処理繊維を樹脂成分に混合するまでの工程中では表面処理繊維に収束性を付与し、表面処理繊維束へ樹脂成分を含浸させる工程では工程中でのシェアにより、マルチフィラメントを容易に単糸に解離することができ、より高性能の樹脂組成物となる。また、ポリウレタン樹脂としては、乾燥皮膜の伸度が100%以上の柔軟なものであることが好ましく、このような場合には、繊維で樹脂成分を補強する効果が高くなり、高性能の樹脂組成物となる。
【0068】
ポリエチレンナフタレート繊維(D)の表面処理は、上述の表面処理剤を含んだ処理液をポリエチレンナフタレート繊維(D)の繊維束に含浸させ、熱により乾燥させることにより行うことができる。ここで、乾燥温度は80〜200℃、乾燥時間は30〜300秒程度であることが、繊維の強度保持と表面処理剤の接着の面から最適である。また、用いる乾燥機は繊維の表面状態を維持する目的から、非接触型であることが好ましい。
【0069】
このような表面処理剤を用いてポリエチレンナフタレート繊維を表面処理する場合、 表面処理後のポリエチレンナフタレート繊維への表面処理剤の固形分の付着量は、3〜20重量%、特には5〜17重量%であることが好ましい。表面処理剤の付着量が上記下限以上であることにより、収束性が向上し、繊維同士の絡まりが減少するとともに、樹脂成分と十分に混合されるようになり、結果として、表面処理による効果を十分に得ることができる。逆に、表面処理剤の付着量が上記上限以下であることにより、樹脂成分と混合する際に繊維が均一に分散するだけの十分な収束性を得ながら、繊維の表面処理工程でのスカムの発生などが少なく、生産性が向上したものとなる。
【0070】
[その他の成分]
本発明の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物には、上記ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム含有グラフト共重合体(B)、硬質共重合体(C)、ポリエステル系繊維(D)の他、更に各種の添加剤やその他の樹脂を配合することができる。この場合、各種添加剤としては、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤(顔料、染料など)、炭素繊維やガラス繊維、タルクやウォラストナイト、炭酸カルシウム、シリカなどの充填剤、難燃剤(ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン化合物など)、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤、シリコ−ンオイル、カップリング剤などの1種または2種以上が挙げられる。
【0071】
また、その他の樹脂としては、HIPS樹脂などのゴム強化スチレン系樹脂、その他に、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などが挙げられる。また、これらを2種類以上ブレンドしたものでも良く、さらに、相溶化剤や官能基などにより変性された上記樹脂を配合してもよい。
【0072】
ただし、本発明の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物において、上述のその他の樹脂は、前述のポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分100重量部に対して50重量部以下、特に30重量部以下であることが、ポリ乳酸樹脂の有効利用の面で好ましい。
【0073】
[複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の製造および成形]
本発明の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物をペレット化する方法としては、特に制限はなく、例えば、二軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール等を用いることができるが、中でも二軸押出機による溶融混練が好ましく、必要に応じて、サイドフィードなどにより樹脂や繊維、その他の添加剤を配合することもできる。
【0074】
本発明の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、シート成形、真空成形などの通常の成形方法によって、各種成形品に成形することができるが、その成形法としては特に射出成形が好適である。
【0075】
得られる成形品の用途としては特に制限はないが、家電、OA分野では、白物家電部品、太陽電池関連部品、パソコン筺体と部品、コピー機筺体と部品、携帯電話筺体と充電台、自動車関連では、内装ピラー、フロントパネル、サイドパネル、トランク内の敷板、タイヤカバー、フロアボックスなどの各種内外装部品、特に内装部品に好適に用いることができる。
【0076】
なお、本発明の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の各成分を調製する際、或いはこれらの成分を混合、混練、成形する際などに発生する樹脂屑等は、そのままの状態もしくは、場合によって破砕して溶融再生処理に供することができる。この場合、成形中に回収することも可能であるが、別途回収しておいて、上述のペレットの製造工程において、原料として混合使用することも可能である。
【実施例】
【0077】
以下に、合成例、実施例、および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
【0078】
なお、以下において、「部」は「重量部」を、「L」は「繊維長」を、「R」は「繊維径」をそれぞれ意味するものとする。
【0079】
重量平均分子量は、東ソー(株)製:GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー、溶媒;THF)を用いた標準PS(ポリスチレン)換算法にて測定した。
ゴム質重合体の平均粒子径は、日機装(株)製:Microtrac Model:9230UPAを用いて動的光散乱法により求めた。
単量体の重量組成比率は、(株)堀場製作所製:FT−IRを使用して求めた。
【0080】
[ポリ乳酸樹脂(A)]
ポリ乳酸樹脂(a−1):Nature Works社製「Ingeo 3001D」
(L体=98重量%、重量平均分子量=82,000、融点
(Tm)=170℃)
ポリ乳酸樹脂(a−2):中国海生生物材料公司社製「REVODE 110」
(L体=98重量%、重量平均分子量=95,000、融点
(Tm)=165℃)
【0081】
[ゴム含有グラフト共重合体(B)]
<合成例1:ゴム含有グラフト共重合体(b−1)の製造>
以下の配合にて、乳化重合法によりゴム含有グラフト共重合体を合成した。
【0082】
〔配合〕
スチレン(ST) 25部
アクリロニトリル(AN) 10部
ポリブタジエンラテックス 65部(固形分として)
不均化ロジン酸カリウム 1部
水酸化カリウム 0.03部
ターシャリードデシルメルカプタン(t−DM) 0.04部
クメンハイドロパーオキサイド 0.3部
硫酸第一鉄 0.007部
ピロリン酸ナトリウム 0.1部
結晶ブドウ糖 0.3部
蒸留水 190部
【0083】
オートクレーブに蒸留水、不均化ロジン酸カリウム、水酸化カリウムおよびポリブタジエンラテックス(ゲル含有量80重量%、平均粒子径0.3μm)を仕込み、60℃に加熱後、硫酸第一鉄、ピロリン酸ナトリウム、結晶ブドウ糖を添加し、60℃に保持したままST、AN、t−DMおよびクメンハイドロパーオキサイドを2時間かけて連続添加し、その後70℃に昇温して1時間保って反応を完結した。かかる反応によって得たABSラテックスに酸化防止剤を添加し、その後硫酸により凝固させ、十分水洗後、乾燥してABSグラフト共重合体(b−1)を得た。
【0084】
<合成例2:ゴム含有グラフト共重合体(b−2)の製造>
合成例1の原料配合において、ゴム質重合体としてポリブチルアクリレート(ゲル含有量65重量%、平均粒子径0.34μm)60部(固形分として)を用い、単量体としてアクリロニトリル(AN)12部、スチレン(ST)14部、およびメチルメタクリレート(MMA)14部を反応させたこと以外は、合成例1と同様にしてグラフト重合を行い、ASAグラフト共重合体(b−2)を得た。
【0085】
合成例1,2で製造したゴム含有グラフト共重合体のゴム含有量、単量体の重量組成比率、グラフト率、およびアセトン可溶分の重量平均分子量を測定したところ、以下の通りであった。
ゴム含有グラフト共重合体(b−1):ゴム含有量=66.2重量%
AN/ST=28/72
グラフト率=40%
重量平均分子量(Mw)=154,000
ゴム含有グラフト共重合体(b−2):ゴム含有量=60重量%
AN/ST/MMA=30/35/35
グラフト率=51重量%
重量平均分子量(Mw)=138,000
【0086】
[硬質共重合体(C)]
<合成例3:硬質共重合体(c−1)の製造>
以下のように、懸濁重合法により硬質共重合体を合成した。
窒素置換した反応器に水120部、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.002部、ポリビニルアルコール0.5部、アゾイソブチルニトリル0.3部、t−DM0.5部と、アクリロニトリル(AN)30部およびスチレン(ST)70部からなるモノマー混合物を使用し、スチレンの一部を逐次添加しながら開始温度60℃から5時間昇温加熱後、120℃に到達させた。更に、120℃で4時間反応した後、重合物を取り出し、ビニル系共重合体(c−1)を得た。
【0087】
<合成例4:硬質共重合体(c−2)の製造>
モノマー混合物として、アクリロニトリル(AN)25部、スチレン(ST)20部、α−メチルスチレン(AMST)35部およびN−フェニルマレイミド(NPMI)20部からなるモノマー混合物を使用し、スチレン、α−メチルスチレン、N−フェニルマレイミドの一部を逐次添加したこと以外は合成例3と同様にして重合を行って、ビニル系共重合体(c−2)を得た。
【0088】
合成例3および4で製造した硬質共重合体の単量体の重量組成比率、および重量平均分子量(Mw)を測定したところ、以下の通りであった。
硬質共重合体(c−1):AN/ST=29/71
重量平均分子量(Mw)=123,000
硬質共重合体(c−2):AN/(ST+AMST)/NPMI=24/57/19
重量平均分子量(Mw)=150,000
【0089】
[ポリエチレンナフタレート繊維(D)]
ポリエチレンテレフタレート繊維の調製方法は、以下の通りである。
【0090】
表面処理ポリエチレンナフタレート繊維(d−1):L=5mm、R=25μm
繊維径25μmのポリエチレンナフタレート繊維を、ポリウレタン樹脂処理液を用いてディップ処理した。
このポリウレタン樹脂処理液より揮発分である水を蒸発させて得た乾燥皮膜の物性は、引張強度が15MPa、伸度が150%、伸度100%時のモジュラスが15MPaであった。ディップ処理にあたり、処理液のポリウレタン樹脂濃度は10重量%とし、ポリエチレンナフタレート長繊維に付与した後、非接触ヒータにて180℃で60秒の熱処理を施し、ポリウレタン樹脂表面処理ポリエチレンナフタレート長繊維を得た。ポリエチレンナフタレート長繊維に対するポリウレタン樹脂固形分の付着量は7重量%であった。この繊維を5mm長さにカットした。
【0091】
表面処理ポリエチレンナフタレート繊維(d−2):L=20mm、R=25μm
上記ポリエチレンナフタレート繊維(d−1)におけると同様な表面処理を行い、長さ20mmにカットした。
【0092】
表面処理ポリエチレンナフタレート繊維(d−3):L=0.2mm、R=25μm
上記ポリエチレンナフタレート繊維(d−1)におけると同様な表面処理を行い、長さ0.2mmにカットした。
【0093】
表面処理ポリエチレンナフタレート繊維(d−4):L=5mm、R=5μm
繊維径が5μmになるよう生産条件を調整して得られたポリエチレンナフタレート長繊維について、上記ポリエチレンナフタレート繊維(d−1)と同様な表面処理を行い、長さ5mmにカットした。
【0094】
表面処理ポリエチレンナフタレート繊維(d−5):L=5mm、R=60μm
繊維径が60μmになるよう生産条件を調整して得られたポリエチレンナフタレート長繊維について、上記ポリエチレンナフタレート繊維(d−1)と同様な表面処理を行い、長さ5mmにカットした。
【0095】
[複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造および評価]
上記の各成分を表1,2に示す配合割合で混合し、更に、安定剤として、日清紡(株)社製「カルボジライト HMV−8CA」0.3部と共に混合した後、200〜240℃で2軸押出機(日本製鋼所製「TEX−30α」)にて溶融混合し、ペレット化することにより、熱可塑性樹脂組成物のペレットを作成した。
これらの樹脂ペレットを2オンス射出成形機(東芝(株)製)で220〜250℃、金型温度:85℃にて成形し、成形サイクル(冷却時間)、耐熱性(荷重たわみ温度)、耐衝撃性(シャルピー衝撃強さ)、剛性(曲げ弾性率)、および成形品外観を下記方法で評価した。
【0096】
冷却時間:上記成形機にてテストピースを成形した際に、樹脂の射出から成形品を変
形無く金型から取り出せるまでに要する時間(秒)
荷重たわみ温度(℃):ISO 75(測定荷重0.45MPa)に準拠して測定
シャルピー衝撃強さ(KJ/m):ISO 179(常温)に準拠して測定
曲げ弾性率(MPa):ISO 178(常温)に準拠して測定
成形品外観:目視により観察し、○:良好、△:一部外観不良、×:全面外観不良で
評価
【0097】
[実施例および比較例]
表1,2に、実施例1〜7および比較例1〜7の結果を示した。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
[考察]
表1,2から明らかなように、本発明の請求項の要件を満たす実施例1〜7の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は、結晶化速度が速く、射出成形時の冷却時間を短縮することができ、耐衝撃性、耐熱性、剛性の物性バランスに優れ、加えて成形品外観が良好である。
これに対して、比較例1のポリ乳酸樹脂単独のものは耐衝撃強度が低く、冷却時間も比較的長くなる。ゴム含有グラフト共重合体を配合しても、用いたポリエチレンナフタレート繊維の繊維長ないし繊維径或いはポリエチレンナフタレート繊維の配合量が本発明の範囲外の比較例2〜7は、冷却時間および/または物性バランスに劣る。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は、射出成形において冷却時間が短く、生産性を大幅に改善できると共に、得られる成形品は、優れた物性バランスと外観を示す。
このため、本発明の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品は、例えば、OA,家電関連では、複写機部品、パソコン部品、TV部品、携帯電話部品などに用いることができ、自動車関連では、各種内装部品、タイヤカバー、ラジエーターグリル、ドアミラーなどの外装部品に用いることもできる。その工業的有用性は非常に高い上に、環境負荷の低減にも有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(A)10〜95重量%と、ゴム質重合体に1種または2種以上のビニル系単量体をグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体(B)5〜50重量%とを含むポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分100重量部に対して、繊維長が0.5〜10mmで、繊維径が10〜50μmのポリエチレンナフタレート繊維(D)1〜50重量部を添加してなる複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分が、ポリ乳酸樹脂(A)10〜95重量%と、ゴム含有グラフト共重合体(B)5〜50重量%と、硬質共重合体(C)0〜45重量%とからなることを特徴とする請求項1に記載の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ゴム含有グラフト共重合体(B)中のゴム質重合体が、ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、オレフィン系ゴム、およびシリコン系ゴムよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリエチレンナフタレート繊維(D)が、ポリウレタン樹脂およびポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む表面処理剤により表面処理されたものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
ゴム含有グラフト共重合体(B)のゴム質重合体にグラフト重合されるビニル系単量体が、シアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体、および(メタ)アクリル酸エステル系単量体よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。

【公開番号】特開2012−82315(P2012−82315A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229596(P2010−229596)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】