説明

複合メッシュ状物、および同メッシュ状物を用いたコンクリート構造物の補修または補強工法

【課題】 メッシュ状物の目止めが容易で、強度性、取扱い性、施工性に優れ、低温環境下でも十分なコンクリートの剥落防止効果を有するコンクリート補強・補修用複合メッシュ状物およびそれを用いたコンクリート構造物の補修または補強工法を提供すること。
【解決手段】 非熱接着性のマルチフィラメントと、熱接着性のポリオレフィン樹脂製モノフィラメントからなる、織布、網、積層布のいずれかのメッシュ状物であって、前記マルチフィラメントと前記モノフィラメントの交点がアンカー熱接着によって固定された複合メッシュ状物、およびこれを用いて覆工するコンクリート構造物の補修または補強工法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製のトンネル、高架車道、橋梁、建築物などの構造物からのコンクリート片剥落の防止、剥落部の補修などに好適な複数種の繊維状物の組合せからなる複合メッシュ状物、およびそれを用いたコンクリート構造物の補修または補強工法に関するものである。
【0002】
近年、海岸又はその付近にある鉄筋コンクリート構造物が海塩粒子によって塩害を受けたり、海水と接触する鉄筋コンクリート構造物に塩分が侵入したりすることによる鉄筋の腐食、膨張によりそれらの構造物が劣化することや、酸性雨や工場の薬品等コンクリートに有害な物質により表層が脆弱化することなどによるコンクリートの劣化、あるいは、車両通行量の増大、積載量の増大、高速化等による構造物への過負荷などから、コンクリート構造物の表面部分が剥落したり、コンクリート構造物自体が劣化してきていることが大きな問題となっている。
その劣化したコンクリートの剥落を防止する工法や、剥落した部分を補修する各種工法やその材料等が種々検討されている。その中で、予め表面層となる保護層とコンクリート構造物への貼着層とを有する積層体とし、これらの層間に繊維基材からなる補強層を介在させた補修または補強用シートにおいて、繊維基材として、有機繊維や無機繊維等を不織布、織布加工したシート状物を用いたものが、施工の容易化、品質の安定化を図られるとして提案されている。(特許文献1参照)
【0003】
また、従来において、補修または補強用の種々の繊維基材が提案されているが、その材質としてはコンクリートとの密着性などの観点から、現在はビニロン繊維製のシート状物が主に用いられている。
ビニロン繊維の剥落防止用繊維シートとしては、ビニロン繊維の強度、伸度、ヤング率、繊維シートの強度等を所定の範囲とすることが提案されている。(特許文献2参照)
【0004】
一方、特公昭62−54904号に開示されている如く、繊維糸条を製織せずに、積層接着してシート状に構成した積層布(一般に「組布」と呼ばれる。「組布」は登録商標。)が各種分野に使用されている。そして、その構成糸条に、ガラス繊維などの補強繊維を使用することが提案されている。(特許文献3参照)
この種の積層布は、強度特性に方向性が少なく、デザイン的にも優れ、生産性が良く、コストダウンできるという特徴を有している。
しかし、積層布の構成は、引き揃えられた経方向糸の上に、斜め方向、逆斜め方向糸を積層し、しかる後交点を接着して、積層布としての一体性を保持しており、接着剤の塗布工程や乾燥を要し、また、最終的な積層布の柔軟性や、取扱い性にも影響を及ぼしている。
また、コンクリート構造物の補強に使用する繊維メッシュ状物を製織により構成しようとすると、前述同様、経糸、緯糸の交点を接着する目止めを要し、同様の問題がある。
【0005】
この種の問題の解決手段として、糸条(強化繊維)と熱可塑性樹脂成分として熱可塑性樹脂繊維を引揃え繊維束層として、繊維束層を加熱加圧して接着することが提案されている。(特許文献4参照)
しかし、強化繊維に熱可塑性樹脂繊維を引揃え配置する方法では、熱可塑性樹脂繊維の合糸、配列工程を要し、熱可塑性樹脂繊維の混入率と強度との関係など、考慮すべき点も多く、また交点の接着強度も必ずしも十分でない。
【0006】
前記のビニロン繊維は、酸、アルカリに侵されにくく、セメントとの接着性に優れているため、コンクリート構造物の補強、補修用メッシュ状物として使用されているが、積層布における、繊維交点の目止剤(接着剤)は、主に水溶性のものが用いられ、たとえばアクリル系接着剤等を含浸、硬化させる方法が一般的に採用され、接着剤量も対繊維で20質量%にも及ぶ。このため、コストのアップと、重量増加、雨などの水との接触や高湿度下では、交点が剥がれるため、取扱いや保管の煩雑性などの問題がある。
また、ビニロン繊維は、−30℃程度の低温下においては、脆くなる傾向があり、コンクリート剥落防止用メッシュ状物として、この弱点を補完できる構成があれば、より望ましい。
しかし、特許文献1および特許文献2には、−30℃程度の低温下でのビニロン繊維の問題点や対策についての記載はない。
【0007】
さらに、コンクリート構造物の補強において、積層布は、特許文献3に記載の如く、炭素繊維等の強度メンバーの支持体して使用される場合があるが、補強工事の取扱い性等から、積層布自体が強度メンバーとしての機能を併せて備えていれば、コンクリート補強工事における取扱い性や、施工性に優れ、補強工事の簡略化、工期の短縮が期待される。しかし、これらの機能を満足するメッシュ状物は未だ提案されていない。
【0008】
【特許文献1】特開2002−256707号公報
【特許文献2】特開2004−238757号公報
【特許文献3】特開平10−18146号公報
【特許文献4】WO00/21742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、メッシュ状物の目止めが容易で、強度性、取扱い性、施工性に優れ、低温環境下でも十分なコンクリートの剥落防止効果を有するコンクリート補強または補修用複合メッシュ状物およびそれを用いたコンクリート構造物の補修または補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、非熱接着性のマルチフィラメントと、熱接着性のポリオレフィン樹脂製モノフィラメントからなる、織布、網、積層布のいずれかのメッシュ状物とし、前記マルチフィラメントと前記モノフィラメントの交点をアンカー熱接着することによって上記課題を解決できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)非熱接着性のマルチフィラメントと、熱接着性のポリオレフィン樹脂製モノフィラメントからなる、織布、網、積層布のいずれかのメッシュ状物であって、前記マルチフィラメントと前記モノフィラメントの交点がアンカー熱接着によって固定されていることを特徴とする複合メッシュ状物、
(2)前記モノフィラメントが、(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分と(b)該芯成分の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分とからなる鞘芯型複合繊維の鞘成分を融合させた海島型複合糸である前記(1)記載の複合メッシュ状物、
(3)前記マルチフィラメントが、ビニロン繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、芳香族アラミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、ポリベンツオキサゾール繊維から選択されてなる前記(1)または(2)記載の複合メッシュ状物、
(4)メッシュ状物の構成糸のいずれかまたは全てに、非熱接着性マルチフィラメントに並列に引き揃えた熱接着性モノフィラメントとの混繊糸を使用し、構成糸内および構成糸間の交絡部において、非熱接着性マルチフィラメントと熱接着性モノフィラメントとがアンカー熱接着していることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1に記載の複合メッシュ状物、
(5)前記積層布が、前記マルチフィラメントを経方向、前記海島型複合糸を、斜方向、逆斜方向とする経一層3軸積層布、または、前記マルチフィラメントを経方向、前記海島型複合糸を斜方向、逆斜方向および経方向の3方向に積層してなる経二層3軸積層布とし、積層した海島型複合糸同士の交点を熱融着するとともに、マルチフィラメントとの交点がアンカー熱接着してなる前記(1)〜(3)のいずれかに記載の複合メッシュ状物、
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の複合メッシュ状物を用いることを特徴とするコンクリート構造物の補修または補強工法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコンクリート構造物の補修または補強用複合メッシュ状物は、非熱接着性のマルチフィラメントと、熱接着性のポリオレフィン樹脂製モノフィラメントからなる、織布、網、積層布のいずれかのメッシュ状物とし、前記マルチフィラメントと前記モノフィラメントの交点をアンカー熱接着して固定するので、補強繊維として実績のあるビニロン繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、炭素繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリベンツオキサゾール(PBO)繊維等を非熱接着性繊維とし、熱接着性を有するポリオレフィン樹脂製モノフィラメントと組合せ、交点をアンカー熱接着して固定することによって、従来の接着剤の含浸、塗布工程、乾燥、硬化工程などを簡略化でき、また、接着剤による重量増加も回避でき、軽量にして機械的物性のバランスがとれたメッシュ状物を提供できる。
また、繊維交点の目止(固定)は、接着剤を使用することなく、アンカー熱接着によるので、従来問題となっていた水溶性の接着剤を用いた場合の、保管や、施工上の管理負担を軽減できる。
また、本発明の複合メッシュ状物の一態様では、非熱接着性フィラメントにビニロン繊維を使用し、熱接着性モノフィラメントに、(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分と(b)該芯成分の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分とからなる鞘芯型複合繊維の鞘成分を融合させた海島型複合糸を使用し、その交点を加熱・圧着してアンカー熱接着すると、ビニロン繊維の強度を保持しつつ、ポリオレフィン系複合糸の強度を発現させて、−30℃程度の低温環境下でも、完全に脆化することのない複合メッシュ状物として、コンクリートの剥落防止等の効果を発現できる。
さらに、目止めのため、複合メッシュ状物に加熱・加圧処理を施すと、複合メッシュ状物が全体にフラット状となって、可撓性が増して、取扱性、作業性、施工時の被補修または被補強コンクリート構造物へのフィット性が向上して、見栄えのよい覆工が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の非熱接着性のマルチフィラメントとしては、複合メッシュ状物を構成する熱接着性モノフィラメントの熱接着性成分よりも融点の高いもの、ビニロン繊維のごとく明瞭な融点を有しないもの、超高分子量ポリエチレン繊維の如く溶融しても極めて高粘度のもの、あるいは芳香族ポリアミド繊維、ポリベンツオキサゾール繊維のような液晶高分子繊維などの熱接着しにくい有機繊維、あるいは炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維などの無機繊維など、通常各種の補強繊維として使用されているマルチフィラメントが使用できる。マルチフィラメントの構成は、単繊維径が概ね0.5〜50μm、フィラメントが10〜500本程度のものであって、トータル繊度は、概ね100〜5000dTexが好ましい。100dTex未満であると、メッシュ状物として、目的とする物性が得られ難くなり、5000dTexを超えると柔軟性や追随性が損なわれる虞がある。
更に好ましくは、500〜3000dTexである。
集束するフィラメント数は、10〜2000本が好ましい。10本未満であると、接着性熱可塑性樹脂によるアンカー接着力が弱く、2000本を超えると、接着性熱可塑性樹脂の含浸不良によりアンカー接着力が不足し、目止めが不十分となる。
なお、本発明において、アンカー熱接着とは、熱接着性成分が溶融し、溶融物が非熱接性マルチフィラメントの繊維間に侵入した後、侵入先端側で溶融物が拡がって、冷却固化後に引き抜けないような係止力を有している、いわゆるアンカー効果により接着している状態をいう。
【0014】
本発明に使用できる熱接着性ポリオレフィン樹脂製モノフィラメントは、低融点成分を含むものであって、溶融後の凝集性に富むものであることがアンカー熱接着の点で好ましい。
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン、プロピレン、ブテン−1等のα−オレフィンの2元共重合体、または3元共重合体等が挙げられる。
熱接着性ポリオレフィン樹脂製モノフィラメントは、複合メッシュ状物の強度構成メンバーであることから、強度性と熱融着性を兼ね備えたものが望ましく、一般的に低融点成分と高融点成分を複合した、鞘芯型または並列型の複合繊維が好適である。
これらの点から、(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分と(b)該芯成分の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分とからなる鞘芯型複合繊維の鞘成分を融合させた海島型複合糸から構成されたものが好適である。芯成分と鞘成分の好適な組み合わせとしては、例えば、芯成分としてアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)、鞘成分として直鎖状低密度ポリエチレン(mp=110℃)を用いる組み合わせが挙げられる。
【0015】
かかる、海島型複合糸は、例えばスピンドロー方式により、定法の複合紡糸設備、芯鞘型複合紡糸ノズルを用い、所定の鞘/芯断面比となるように紡糸し、直結する延伸装置に導いて、飽和水蒸気圧下で延伸し、延伸と共に鞘成分で繊維間を融合して得ることができる。また、特開2003−326609号公報に記載の方法により製造することができる。
熱接着性ポリオレフィン樹脂製モノフィラメントの繊度は、概ね100〜5000dTexが好ましい。100dTex未満であると、メッシュ状物として、目的とする物性が得られ難くなり、5000dTexを超えると柔軟性や追随性が損なわれる虞がある。更に好ましくは、500〜3000dTexである。
また、海島型複合糸を構成する複合繊維の鞘/芯比ないし並列繊維における低融点成分/高融点成分比は、質量比で20/80〜80/20であることが好ましく、このような質量比とすることによって、複合メッシュ状物の強度や、非熱接着性マルチフィラメントとのアンカー熱接着性を適宜調整することができる。
【0016】
また、メッシュ状物を構成する糸(構成糸)のいずれかまたは全てに、非熱接着性マルチフィラメントに並列に引き揃えた熱接着性モノフィラメントとの混繊糸を使用し、構成糸内および構成糸間の交絡部において、非熱接着性マルチフィラメントと熱接着性モノフィラメントとがアンカー熱接着したものとすることができる。この場合において、構成糸(糸状)は、非熱接着性マルチフィラメントに並列に引き揃えた熱接着性モノフィラメントを予め集束し熱処理するなどして、非熱接着性のマルチフィラメントと熱接着性モノフィラメントとを予めアンカー熱接着してもよいし、並列引き揃えの状態でメッシュ状物を作製し、しかる後、熱処理、加圧熱処理等によって、繊維間をアンカー熱接着し、構成糸間の交絡部をアンカー熱接着および/または熱接着してもよい。
熱接着性モノフィラメントは、なるべく細繊度化して、複数本用いる方が、構成糸間で繊維が均一に混じりあい、かつ繊維間のアンカー熱接着も良好となる。
このような、混繊された糸、例えば、ビニロン繊維と複数本の海島型複合糸を引き揃え、これを構成糸として、3軸積層布によるメッシュ状物を作製し、しかる後熱プレス等を施すと、交絡点が熱融着され、構成糸が繊維(糸)内でアンカー熱接着した、フラット状のメッシュ状物を得ることができる。このため、従来ビニロン繊維の積層布においては、目止めのための、水溶性エマルジョン系接着剤処理を要していたが、乾式で簡便に処理できるなどの利点を有する。
【0017】
本発明の複合メッシュ状物は、使用する非接着性マルチフィラメントあるいは熱接着性ポリオレフィン樹脂製モノフィラメント(以下、これらを区別なく「糸条」と称することがある。)との関係から、織布、網、積層布のいずれかを使用できる。いずれを選択するかは、被補強、被補修対象物の形状、要求される補強強度、補強に使用する樹脂、接着剤等によって適宜選択される。積層布を使用すると、強度の方向性が少ない、経済的な複合メッシュ状物を得ることができる。
複合メッシュ状物の目合いは、概ね5〜25mmがコンクリート構造物の補強強度等の関係から好適である。
また、本発明の複合メッシュ状物の開口率は30%以上あることが望ましい。開口率が30%未満では、接着剤や、上塗り樹脂、下塗り樹脂等がメッシュ状物に侵入しにくく補強効果が期待できない。
【0018】
織布による複合メッシュ状物を得るときは、経糸または緯糸の一方を非熱接着性マルチフィラメントまたは熱接着性モノフィラメントとし、平織り、朱子織など適宜の織組織にて製織し、しかる後、製織されたメッシュ状物の経緯糸の交点を加熱ローラ等で加熱・加圧して、熱接着性モノフィラメントの低融点成分を溶融しつつ加圧して、溶融したポリオレフィン系樹脂モノフィラメントの低融点成分を非熱接着性マルチフィラメントの単繊維間に侵入させ、冷却・固化後にアンカー熱接着構造を発現させて、目止めする。
また、経糸または緯糸のいずれか一方または双方に、並列に引き揃えた非熱接着性マルチフィラメントと熱接着性モノフィラメントとを混用するか、経緯糸に交互または複数本毎に非熱接着性マルチフィラメントと熱接着性モノフィラメントを使用してもよい。
目合いを5〜20mm程度とするのが、メッシュ状物の補強機能、取扱い性などから好ましい。
【0019】
網による複合メッシュ状物を得るときは、普通型、千鳥型、亀甲型などの無結節網が好ましく、さらに貫通型が好適である。有結節の蛙又網は結節部での強度低下があることや、熱接着性モノフィラメントが編網し難いなどの点から好ましくない。また、ラッセル網も無結節網の一種ではあるが、糸を折り曲げながら、すなわちループ結節を繰り返しながら編む方式で、網脚の交差部の構造が複雑であり、本発明には適さない。
2子糸に同一の糸条例えば非接着性のマルチフィラメントを子糸として使用する一方、方向の異なる2子糸の子糸に熱接着性ポリオレフィン樹脂製モノフィラメントを使用して編網し、得られた無結節網を、前述の織物同様、熱ローラ間等で加熱・加圧処理すれば、交差部がアンカー熱接着されて、目止めされる。
また、2子の網糸の子糸をそれぞれ非接着性マルチフィラメント、熱接着性ポリオレフィン樹脂製モノフィラメントとして組み合わせて無結節網を編網し、前述の加熱・加圧処理を施せば、交差部のみならず、2子糸もアンカー熱接着されて、定型の一体的ネット状物であって、平面シート状に取り扱うことのできるネット状物を得ることができる。
本発明の網によるメッシュ状物において、網目は5〜30mm程度が望ましい。
【0020】
積層布は、組布とも呼ばれるもので、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層した3軸のものを一般的に使用できる。積層布の製造は、例えば特開平11−20059号公報に記載の方法により製造できる。
本発明における積層布は、経方向の全ての構成繊維を非熱接着性マルチフィラメント、または経方向繊維に適宜間隔で熱接着性ポリオレフィン樹脂製モノフィラメントを使用し、斜方向、逆斜め方向の糸の全部を熱接着性ポリオレフィン樹脂製モノフィラメントまたは、適宜間隔で非熱接着性マルチフィラメントを混在させて、例えば特開平11−20059号公報に記載の方法により積層させ、これを引取りつつ、加熱ローラに接触させて加熱し、熱接着性ポリオレフィン樹脂製モノフィラメントの低融点成分を溶融させ、加圧ローラにより溶融樹脂を非熱接着性マルチフィラメントの単繊維間に侵入させ、しかる後冷却、固化させて、交点をアンカー熱接着させれば、複合メッシュ状物全体が薄肉となり、柔軟となって、複合メッシュ状物の可撓性を増すことができる。
本発明の複合メッシュ状物では、前記非熱接着性マルチフィラメントを経方向、熱接着性ポリオレフィン樹脂製モノフィラメントを斜方向、逆斜方向とする3軸三層に積層し、モノフィラメント同士を熱融着し、非熱接着性マルチフィラメントとはアンカー熱接着してなる3軸積層布とすることが、糸条の使用効率や、積層布の物性、経済性等から望ましい。
積層布の積層数は、上述の経一層、斜方向、逆斜方向の3軸三層のほか、さらに経一層を追加した、3軸四層や、経緯のみの2軸二層、前記3軸に緯方向を加えた4軸四層または4軸五層であってもよい。
【0021】
以上、本発明の織布、網、積層布のいずれかからなるの複合メッシュ状物は、メッシュ状物を構成する糸条である前記非熱接着性マルチフィラメントと前記熱接着性モノフィラメントとの交点をアンカー熱接着によって固定しているので、複合メッシュ状物が剛性および可撓性を有する定型の面状物として、一体的に取扱うことができる。
【0022】
本発明の複合メッシュ状物をコンクリート構造物の補修または補強に使用する場合は、ポリオレフィン樹脂製モノフィラメントが、一般的に補強用の接着剤や、上塗り樹脂、下塗り樹脂等との親和性に乏しいので、接着剤等の濡れ性を向上させ接着強度を向上させるため、メッシュ状物の表面が濡れ指数34mN/m以上になるように表面改質することが望ましい。
ここで、両面を改質して接着強度を向上すると、コンクリート構造物側からの荷重に対して、補強層が全体として挙動し、比較的少ない変位で降伏荷重に到達し、それに伴いメッシュ状物が破壊しやすい。しかし、片面のみを改質すると、コンクリート構築物とメッシュ状物の接着が比較的弱く、この部分がまず剥離され、しかる後、補強層側に荷重が伝播されるので、変位を大きくすることができる。
表面改質は、少なくとも濡れ指数34mN/m以上とする。濡れ指数が34mN/m以上であれば、十分な接着強度が得られる。
より好ましくは、56mN/m以上とし、半年程度の保管でも濡れ指数34mN/m以上を保持可能とすれば、メッシュ状物の可使用期間が延長でき、保管管理にゆとりがもてる。
濡れ指数を34mN/m以上とするには、メッシュ状物の表面を、コロナ放電処理、プラズマ処理など乾式の表面処理をすることにより達成するのが、簡便である。
【0023】
本発明のコンクリート構造物の補修または補強工法は、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の複合メッシュ状物を用いることを特徴とする。コンクリート構造物の補修または補強は、一般的にコンクリート構造物の表面にプライマーを塗布し、下塗り樹脂塗膜を形成した後、複合メッシュ状物を巻き付け、さらに上塗り樹脂層を形成して、補強層となすものである。
この際、複合メッシュ状物は、構成する糸条の種類、繊維物性等に応じて、巻き付け使用する方向、表裏を予め決定して使用される。また、複合メッシュ状物は、補強または補修の設計仕様を満足させるため、表裏いずれかの面あるいは、両面に前記の表面処理を要するか予め検討される。表面処理の要否および表面改質面あるいは非改質面のいずれを被補修または被補強コンクリート構造物側とするかについては、予め、日本道路公団規格、JHS424:2004、「はく落防止の押抜き試験方法」に準拠して、上塗り樹脂の脱落防止効果、補強強度の試験を行い、その結果に基づいて決定することが望ましい。
一般的に、コンクリート構造物の表面に形成される補強層において、複合メッシュ状物の濡れ性改質側、あるいは上塗り樹脂との接着性が高い繊維(糸条)側を上塗り樹脂側とすることが望ましい。逆にすると、補強層とコンクリート構造体との接着が強すぎて、荷重に対する許容変位が小さくなって、上塗り樹脂の脱落を有効に予防できないおそれがある。
また、本発明の工法では、ポリオレフィン樹脂製モノフィラメントを含む複合メッシュ状物である特性を活かして、モノフィラメントの熱可塑性を利用して、被補強または被補修対象物の形状や、施工しやすい形状に、複合メッシュ状物を予め熱賦形したものを使用し、施工の迅速化、工期の短縮化を図ることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
<海島型複合糸(S1)の製造>
熱接着性ポリオレフィン樹脂製モノフィラメントとして、芯成分にアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃、MI=20g/10分)、鞘成分にメタロセン触媒による直鎖状低密度ポリエチレン(mp=110℃、MI=10g/10分)を使用し、定法の複合紡糸設備、芯鞘型複合紡糸ノズル(240ホール)を用い、鞘/芯断面比が30/70となるように260℃で紡糸し、直結する延伸装置に導いて、0.42MPa、145℃の飽和水蒸気圧下で、延伸倍率13倍で延伸を行い、延伸と共に鞘成分で繊維間を融合したトータル繊度1850dTex、フィラメント数240本の、芯のポリプロピレンを島成分、鞘の直鎖状低密度ポリエチレンを海成分とする海島型複合糸(S1)を得た。(スピンドロー方式)
この有機繊維強化熱可塑性樹脂複合材である海島型複合糸の引張強度は、6.5cN/dTex、伸度は、15%、ヤング率は、92.0cN/dTex、140℃で測定した熱収縮率は、5.0%であった。
<非熱接着性マルチフィラメント>
1)ビニロン繊維(W1)
2000dTex、フィラメント数240本、引張強度は、7.9cN/dTex、伸度は、7.0%、ヤング率は、160cN/dTex、140℃で測定した熱収縮率は、2.0%のビニロン繊維を使用した。
2)超高分子量ポリエチレン繊維(W2)
1760dTex/1560フィラメント、引張強度は、53cN/dTex、伸度は、5.0%、ヤング率は、1620cN/dTex、140℃で測定した熱収縮率は、1.5%の超高分子量ポリエチレン繊維を使用した。
なお、超高分子量ポリエチレン繊維は、融点は150℃であるが、超高分子量であるため溶融時の粘度が極めて高いので、熱接着が困難なので非熱接着性に分類した。
【0025】
<メッシュ状物の製造>
実施例1、2および比較例1
非熱接着性マルチフィラメントとして実施例1にはビニロン繊維(W1)、実施例2には超高分子量ポリエチレン繊維(W2)を経糸に使用し、斜交糸および逆斜交糸に熱接着性ポリオレフィン樹脂製モノフィラメントとして前記海島型複合糸を積層布製造装置に配置し、経方向、斜方向および逆方向の3方向に、経糸、斜交糸および逆斜交糸を10mmピッチで積層し、次いで表面温度150℃の加熱ローラで接触加熱して複合糸の海部樹脂を溶融して、三層の交点において斜方向、逆斜方向の複合糸が熱融着し、かつビニロン繊維あるいは超高分子量ポリエチレン繊維がアンカー熱接着した3軸の複合メッシュ状物を得た。
一方、比較例1として、経糸、斜交糸および逆斜交糸の全てに前記ビニロン繊維を使用し、それぞれ実施例と同様のピッチで積層布を得た。次いで、アクリル系接着剤に含浸し、表面温度150℃の加熱ローラで接触加熱して、接着剤の付着量がビニロン繊維糸に対し20重量%のビニロン製メッシュ状物を得た。
【0026】
<メッシュ状物の評価>
実施例による複合メッシュ状物および比較例のメッシュ状物について、25℃、RH60%でのの交点強力および25℃、RH90%で24時間保管後の交点強力について、JIS規格 R3420 ガラス繊維一般試験方法 7.4(a)織物の引張強さの試験方法に準じ、引張強さの測定により評価した。幅25mmの試験片について経糸方向(経方向)の引張強さと、幅50mmの試験片について経糸方向と直交する方向(緯方向)の引張強さを測定した。緯方向引張強さにより交点強力を比較項目として、結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

実施例1および2の複合メッシュ状物は、25℃でRH95%の雰囲気に24時間放置後も交点強力が変化していないが、比較例1のビニロン繊維の3軸積層布は、RH95%の雰囲気では、交点が全く接着していなかった。
なお、実施例1の複合メッシュ状物の25℃、RH60%での経方向強力は370N/25mm、緯方向37N/50mmであった。一方、比較例1のメッシュ状物は、経方向480N/25mm、緯方向23N/50mmであった。
以上より、本発明の複合メッシュ状物は、多湿環境下でも交点の接着力が低下せず、保管上、施工上および使用時の多湿、水分等による影響がないので、コンクリート構造物の補強または補修用補強材として極めて優れている。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のコンクリート構造物の補修または補強用複合メッシュ状物は、非熱接着性のマルチフィラメントと、熱接着性のポリオレフィン樹脂製モノフィラメントからなる、織布、網、積層布のいずれかのメッシュ状物とし、前記マルチフィラメントと前記モノフィラメントの交点をアンカー熱接着するので、補強繊維として実績のあるビニロン繊維や、超高分子量ポリエチレン繊維、炭素繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリベンツオキサゾール(PBO)繊維等を非熱接着性マルチフィラメントとして、熱接着性を有するポリオレフィン樹脂製マルチフィラメントと組合せることによって、接着剤の含浸、塗布工程、乾燥、硬化工程などを簡略化でき、また、接着剤による重量増加も回避でき、軽量にして機械的物性のバランスがとれたメッシュ状物として利用できる。
また、本発明の複合メッシュ状物の一態様では、非熱接着性フィラメントにビニロン繊維を使用し、熱接着性モノフィラメントに、(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分と(b)該芯成分の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分とからなる鞘芯型複合繊維の鞘成分を融合させた海島型複合糸を使用し、その交点を加熱・圧着してアンカー熱接着すると、ビニロン繊維の強度を保持しつつ、ポリオレフィン系海島型複合糸の強度を発現させて、−30℃程度の低温環境下でも、完全に脆化することない複合メッシュ状物として、コンクリートの剥落防止等の効果を発現できる補強材として利用できる。
さらに、目止め(交点接合)のため、複合メッシュ状物に加熱・加圧処理を施すと、複合メッシュ状物の全体がフラット状となって、可撓性が増し、取扱性、作業性、施工時の被補修または被補強コンクリート構造物へのフィット性が向上して、見栄えのよい覆工材料として利用できる。
本発明のコンクリート構造物の補修または補強用ポリオレフィン樹脂製メッシュ状物は、メッシュ状物の上塗り樹脂側の濡れ性を改質し、非改質側を被補修または被補強コンクリート構造物側に配置して覆工することによって、コンクリート構造物側からの荷重に対する許容変位が大きくなって、より有効にコンクリートの剥落防止の補強効果を発現できるので、コンクリート構造物の覆工に有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1による積層布を示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
10 3軸積層布(複合メッシュ状物)
11 経糸(W1)
12 斜交糸(S1)
13 逆斜交糸(S1)
14 交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非熱接着性のマルチフィラメントと、熱接着性のポリオレフィン樹脂製モノフィラメントからなる、織布、網、積層布のいずれかのメッシュ状物であって、前記マルチフィラメントと前記モノフィラメントの交点がアンカー熱接着によって固定されていることを特徴とする複合メッシュ状物。
【請求項2】
前記モノフィラメントが、(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分と(b)該芯成分の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分とからなる鞘芯型複合繊維の鞘成分を融合させた海島型複合糸である請求項1記載の複合メッシュ状物。
【請求項3】
前記マルチフィラメントが、ビニロン繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、芳香族アラミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、ポリベンツオキサゾール繊維から選択されてなる請求項1または2記載の複合メッシュ状物。
【請求項4】
メッシュ状物の構成糸のいずれかまたは全てに、非熱接着性マルチフィラメントに並列に引き揃えた熱接着性モノフィラメントとの混繊糸を使用し、構成糸内および構成糸間の交絡部において、非熱接着性マルチフィラメントと熱接着性モノフィラメントとがアンカー熱接着していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合メッシュ状物。
【請求項5】
前記積層布が、前記非熱接着性マルチフィラメントを経方向、前記海島型複合糸を、斜方向、逆斜方向とする経一層3軸積層布、または、前記非熱接着性マルチフィラメントを経方向、前記海島型複合糸を斜方向、逆斜方向および経方向の3方向に積層してなる経二層3軸積層布とし、積層した海島型複合糸同士の交点を熱融着するとともに、マルチフィラメントとの交点をアンカー熱接着してなる請求項1〜3のいずれかに記載の複合メッシュ状物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の複合メッシュ状物を用いることを特徴とするコンクリート構造物の補修または補強工法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−92225(P2007−92225A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282724(P2005−282724)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】