説明

複合レーダ信号生成装置

【課題】高周波発振源を共用して高周波狭帯域信号及びこれとは中心周波数の異なる高周波広帯域信号を生成する複合レーダ信号生成装置を提供する。
【解決手段】ベースバンドインパルス源111で生成された第1インパルス11は、第1波形整形手段112に出力されて所定の波形整形が行われ、ここで周波数変換用狭帯域波22と混合されて所定の高周波にアップコンバートされる。アップコンバートに用いる周波数変換用狭帯域波22は、高周波狭帯域信号生成部120から入力される。アップコンバートされた高周波インパルスは第2波形整形手段114に出力され、ここで所定の高周波広帯域信号10に整形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用レーダ装置に用いられるレーダ信号発生装置の技術分野に関するもので、特に複数の周波数帯域モードを用いた複合レーダ信号生成装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電波を用いて物体までの距離や角度等の位置データを測定する機能、すなわちレーダ機能は既に多くの技術が開示されている。例えば、測距機能として単調に繰り返し送信されるパルスを用いたレーダ等が知られている。また、連続波(CW:Continuous Wave)を利用したレーダとして、単一周波数の連続波を用いて速度を検出するドップラーレーダや、数十MHz乃至は200MHzの帯域を利用して測距及び速度検出を行うFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダが知られている(特許文献1)。
【0003】
上記従来のレーダ方式は、単純にトーン信号を出して返ってきた信号のドップラーを検出する方式、または、200MHzまでの狭帯域において周波数を順次時系列で変えていくFMCW方式を利用している。このような狭帯域の電波を用いて測距や速度検出等を行う方式では、距離分解能が低いため、例えば物体が10m以下の短距離にある場合には十分な検出精度が得られないといった問題があった。従来から車載用に用いられている76GHz帯のミリ波レーダは、100m程度前方の車両に対する距離や相対速度を検出するのに好適なレーダである。
【0004】
これに対し、近年新しいコンセプトの無線通信技術として、450MHz乃至は数GHzの帯域を利用した超広帯域無線システムであるUWB(Ultra Wide Band)レーダが知られており、特に車載近距離レーダとして注目されている。
【0005】
UWBは、広帯域を利用可能とすることでパルス幅がナノ秒程度かそれ以下の超短パルス波を用いたインパルス無線方式である。パルスを用いた測距システムでは、パルス幅が狭くなるほど高い分解能が得られることから、UWBを用いることで高性能な測距機能を実現することが可能となる。その一方で、パルス幅を狭くすることで平均送信電力が小さくなり、到達距離が短くなる。このことから、UWBは近距離を高い分解能で測定するのに好適な方式といえる。
【0006】
このような広帯域のUWB信号を生成するための信号発振源として、例えばバースト発振器(BO)を用いることができる。バースト発振器を用いた広帯域信号生成装置では、例えばフィードフォワードでトリガを出力し、これによりバースト発振器の電源をONにして1ns(ナノ秒)程度の期間だけ高周波信号を発振させることで、UWB信号を生成することができる。
【0007】
UWB無線システムでは、22〜29GHzの準ミリ波帯において、450MHz〜数GHzの広帯域を利用して超短パルス波の信号を生成しており、従来の狭帯域の電波を用いたレーダ方式では十分な精度が得られなかった10m以下の近距離の測定において、高い検出精度が得られる。
【0008】
一方、UWB無線システムは広帯域の周波数を利用するため、他の無線システムとの干渉が問題となる可能性があり、これを防止するために、UWB信号の出力を極めて低く抑えて用いる必要がある。そこで、UWB信号の出力を低く抑えて近距離の測定に用いるレーダ装置の開発が進められている。
【0009】
また、近距離の測定をUWBの信号を用いて行い、遠距離の測定を狭帯域の信号を用いて行う複合モードレーダの検討も進められている。例えば、欧州ではSRDバンドにおける狭帯域信号を用いた狭帯域モードのFMCWレーダと、この狭帯域信号と同じ周波数でスペクトル拡散して得られる広帯域信号を用いた広帯域モードのUWBレーダとを併用した複合モードレーダが検討されている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−271430号公報
【非特許文献1】Th. Wixforth, W. Ritschel, “Multimode-Radar-Technologie fur 24 GHz,“ auto & elektronik, vol.3/2004, pp.56-58
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1に記載の複合モードレーダでは、狭帯域モードで利用する周波数帯域と広帯域モードで利用する周波数帯域とを同一、または共用しているため、狭帯域レーダとUWBレーダの両機能を同時に使用することができず、時分割して両者を切り替えて用いるようにしていた。そのため、例えば狭帯域レーダで測距中にUWBレーダで高分解能の測距を行う、といった高度な利用方法が実現できなかった。
【0011】
また、UWB信号と狭帯域信号とを用いた複合モードレーダでは、モード毎に別々に発振源を用意する必要があり、狭帯域レーダ用の高周波発振源と、広帯域レーダ用の高周波発振源とを独立して設ける必要があった。そのため、レーダ装置を小型化できず、高コストにもなるといった問題があった。
【0012】
さらに、広帯域用の高周波発振源としてバースト発振器を用いることができるが、バースト発振器は発振の安定性に大きな問題があった。バースト発振器は、所定のトリガを入力すると電源をONにして高周波信号を発振させるが、この電源が温度や湿度等の影響を受けやすく、電源変動により周波数が変化してしまうおそれがあった。とくに、温度が高いと発振を停止したり、周波数が揺らいでしまうといった問題がある。周波数が変動すると他システムと干渉するおそれがあることから、このような周波数変動は規制上好ましくない。さらに、バースト発振器は出力レベルを高くできず、しかもデバイスの製造が困難なため高価格になってしまうといった問題もある。
【0013】
そこで、本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、高周波発振源を共用して高周波狭帯域信号及びこれとは中心周波数の異なる高周波広帯域信号を生成する複合レーダ信号生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の複合レーダ信号生成装置の第1の態様は、演算部と、前記演算部から狭帯域波要求信号を入力して第1周波数を中心周波数とする高周波狭帯域信号を生成する高周波狭帯域信号生成部と、前記演算部からインパルストリガを入力して第2周波数を中心周波数とする高周波広帯域信号を生成する高周波広帯域信号生成部と、を備える複合レーダ信号生成装置であって、前記高周波狭帯域信号生成部は、前記演算部から入力した前記狭帯域波要求信号に基づき、第1狭帯域波を生成する高周波狭帯域発振源と、前記高周波狭帯域発振源から前記第1狭帯域波を入力して前記高周波狭帯域信号と周波数変換用狭帯域波とを出力する狭帯域波分配部と、を備え、前記高周波広帯域信号生成部は、前記演算部から前記インパルストリガを入力すると、ベースバンドで第1インパルスを生成するベースバンドインパルス源と、前記ベースバンドインパルス源から前記第1インパルスを入力し、これを波形整形して第2インパルスを出力する第1波形整形手段と、前記第1波形整形手段と前記狭帯域波分配部とからそれぞれ前記第2インパルスと前記周波数変換用狭帯域波とを入力し、これを混合することにより所定の高周波インパルスにアップコンバートする第1ミキサと、前記第1ミキサから前記高周波インパルスを入力し、これを波形整形して前記高周波広帯域信号を出力する第2波形整形手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の複合レーダ信号生成装置の他の態様は、前記第1周波数と前記第2周波数とは異なる周波数であることを特徴とする。
【0016】
本発明の複合レーダ信号生成装置の他の態様は、前記第1波形整形手段は、前記ベースバンドインパルス源から入力した前記第1インパルスを、前記ベースバンド内の第3周波数を中心周波数とする前記第2インパルスに整形していることを特徴とする。
【0017】
本発明の複合レーダ信号生成装置の他の態様は、前記第1波形整形手段は、前記ベースバンドインパルス源から入力した前記第1インパルスに対し、所定の周波数以下の低周波成分を抑制していることを特徴とする。
【0018】
本発明の複合レーダ信号生成装置の他の態様は、前記第1ミキサでアップコンバートされた前記高周波インパルスは、前記第1周波数を中心に対称な2つのピークを有しており、前記第2波形整形手段は、前記対称な2つのピークのいずれか一方を中心周波数とする高周波広帯域信号に整形していることを特徴とする。
【0019】
本発明の複合レーダ信号生成装置の他の態様は、前記狭帯域波分配部は、前記高周波狭帯域発振源から入力した前記第1狭帯域波を前記高周波狭帯域信号と周波数変換用狭帯域波とに分配していることを特徴とする。
【0020】
本発明の複合レーダ信号生成装置の他の態様は、前記狭帯域波分配部は、周波数が一定な第4周波数の連続波を生成する固定発振源と、前記高周波狭帯域発信源及び前記固定発振源からそれぞれ前記第1狭帯域波及び前記連続波を入力し、これを混合して前記第1周波数に前記第4周波数を加算及び減算した2つの周波数をピーク周波数とする別の狭帯域波を出力する第2ミキサと、前記第2ミキサから前記別の狭帯域波を入力し、これを前記ピーク周波数のいずれか一方を中心周波数とする波形に整形して前記周波数変換用狭帯域波を出力する第3波形整形手段と、を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の複合レーダ信号生成装置の他の態様は、前記狭帯域信号生成部は、前記狭帯域波分配部から出力される前記高周波狭帯域信号の伝播路を前記狭帯域波要求信号に従って開閉する第1スイッチをさらに備えることを特徴とする。
【0022】
本発明の複合レーダ信号生成装置の他の態様は、前記狭帯域信号生成部は、前記狭帯域波分配部から入力した前記周波数変換用狭帯域波を前記第1ミキサに出力する伝播路を開閉する第2スイッチをさらに備え、前記第2スイッチは、前記演算部から前記インパルストリガに連動して出力される開閉要求信号に従って開閉されることを特徴とする。
【0023】
本発明の複合レーダ信号生成装置の他の態様は、前記第1周波数及び前記第2周波数は、22GHz以上29GHz以下のいずれかの周波数であることを特徴とする。
【0024】
本発明の複合レーダ信号生成装置の他の態様は、前記高周波広帯域信号は、帯域幅が少なくとも450MHz以上のUWB信号であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明によれば、高周波発振源を共用して高周波狭帯域信号及びこれとは中心周波数の異なる高周波広帯域信号を生成する複合レーダ信号生成装置を提供することが可能となる。本発明の複合レーダ信号生成装置は、高周波狭帯域信号を生成する高周波狭帯域発振源を共用して高周波広帯域信号を生成するように構成したことで、小型化が容易で低価格化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の好ましい実施の形態における複合レーダ信号生成装置について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0027】
本発明の複合レーダ信号生成装置は、狭帯域信号と広帯域信号とを異なる周波数帯で生成することで両者が重ならないように構成されており、狭帯域レーダ機能と広帯域レーダ機能とを同時に利用可能な複合モードレーダ装置の信号源として好適な信号生成装置となっている。
【0028】
本発明の複合レーダ信号生成装置で生成する信号の周波数帯の一例を図2に示す。同図において、(a)は本発明の複合レーダ信号生成装置で生成する信号の周波数帯の一例を示しており、(b)は非特許文献1に記載の欧州で検討されている複合モードレーダ装置で用いる周波数帯を示している。
【0029】
非特許文献1に記載の複合モードレーダ装置では、図2(b)に示す通り、狭帯域レーダに用いる信号の中心周波数と広帯域レーダに用いる信号の中心周波数とが、ともに同じSRDバンドの約24GHzに設定されていることから、狭帯域レーダの周波数帯域53と広帯域レーダの周波数帯域54とが重なっている。そのため、狭帯域レーダと広帯域レーダとを同時に用いることはできず、必要に応じて両者を切り替えて用いる必要があった。
【0030】
これに対し、本発明の複合レーダ信号生成装置では、22GHz以上29GHz以下の高周波帯域において、高周波狭帯域信号と高周波広帯域信号とがそれぞれ重ならないように帯域を設定している。一例として、図2(a)では中心周波数が24.125GHzの周波数帯域51で高周波狭帯域信号を生成し、これとは周波数帯が重ならない中心周波数が26.5GHzの周波数帯域52で高周波広帯域信号を生成することで、両方の信号を同時に利用できるようにしている。
【0031】
よって、本発明の複合レーダ信号生成装置を用いた複合モードレーダ装置では、狭帯域レーダと広帯域レーダとを切り替えることなく協調させて用いることが可能となる。高周波広帯域信号は、周波数帯域12の帯域幅が少なくとも450MHz以上のUWB信号である。以下では、高周波狭帯域信号の中心周波数を第1周波数とし、高周波広帯域信号の中心周波数を第2周波数とする。
【0032】
本発明の第1の実施の形態に係る複合レーダ信号生成装置の構成を、図1に示すブロック図を用いて説明する。本実施形態の複合レーダ信号生成装置100では、高周波広帯域信号生成部110と高周波狭帯域信号生成部120とが同じ筐体内に設けられており、これらはともに演算部101からの制御で動作するように構成されている。
【0033】
高周波広帯域信号生成部110は、ベースバンドのインパルス(以下では、第1インパルスとする)11を生成するベースバンドインパルス源111と、ベースバンドインパルス源111で生成された第1インパルス11を入力して波形整形する第1波形整形手段112と、第1波形整形手段112で波形整形されたインパルス(以下では、第2インパルスとする)12を入力してこれを所定の高周波インパルス13にアップコンバートする第1ミキサ113と、第1ミキサ113でアップコンバートされた高周波インパルス13を入力して波形整形し、これを高周波広帯域信号10として出力する第2波形整形手段114とを備えている。
【0034】
高周波広帯域信号生成部110において、ベースバンドインパルス源111で第1インパルス11が生成されて第2波形整形手段114から高周波広帯域信号10が出力されるまでの処理を、図3を用いて以下に説明する。図3は、第1インパルス11が高周波広帯域信号10に波形成形されるまでのスペクトルの変化を示す模式図である。
【0035】
本実施形態では、高周波広帯域信号生成部110で高周波広帯域信号10を生成して出力させるタイミングを演算部101で判定させ、その判定に基づいてベースバンドインパルス源111にインパルストリガ31を出力させるようにしている。ベースバンドインパルス源111は、演算部101からインパルストリガ31を入力すると、ベースバンドの第1インパルス11を生成するように構成されている。ベースバンドインパルス源111で生成される第1インパルス11は、例えば図3(a)に示すような広帯域なインパルスである。ここで、Fwは第1インパルス11の帯域幅を示している。
【0036】
ベースバンドインパルス源111として、ディジタルパルス発振器を用いることができる。ディジタルパルス発振器を用いた場合には、インパルスがディジタル的に生成されることから周波数が変動するおそれがなく、他システムとの干渉が発生するのを防止することが可能となる。
【0037】
ベースバンドインパルス源111で生成された第1インパルス11は、第1波形整形手段112に出力され、ここで所定の波形整形が行われる。一例として、図3に示す模式図では、同図(a)に示したベースバンドの広帯域な第1インパルス11を、同図(b)に示すようなスペクトルに整形している。同図(b)に示すスペクトルは、帯域幅が同図(a)と同じFwで、中心周波数がFw/2(以下では、第3周波数とする)となっている。
【0038】
第1波形整形手段112で波形整形された第2インパルス12は、第1ミキサ113に出力され、ここで周波数変換用狭帯域波22と混合されて所定の高周波にアップコンバートされる。本実施形態では、アップコンバートに用いる周波数変換用狭帯域波22を高周波狭帯域信号生成部120から入力するようにしており、これを第2インパルス12と混合することで、所定の高周波インパルス13にアップコンバートしている。
【0039】
本実施形態では、高周波狭帯域信号生成部120から入力する周波数変換用狭帯域波22の中心周波数を、高周波狭帯域信号20と同じ第1周波数としている。第2インパルス12の中心周波数を図3(b)に示したFw/2としたとき、第1ミキサ113でアップコンバートされることにより、図3(c)に示すような高周波インパルス13に変換される。ここで、F1は第1周波数を示している。図3(c)に示す高周波インパルス13は、中心周波数を周波数(F1+Fw/2)とし帯域幅をFwとするスペクトルと、中心周波数を周波数(F1―Fw/2)とし帯域幅をFwとするスペクトルと、の2つのスペクトルを組み合わせたスペクトルを有している。
【0040】
第1ミキサ113でアップコンバートされた高周波インパルスは第2波形整形手段114に出力され、ここで所定の帯域をろ波するろ波器等を用いて所定の高周波広帯域信号10に整形される。第1ミキサ113でアップコンバートされた高周波インパルス13が図3(c)に示すようなスペクトルを有するとしたとき、第2波形整形手段114では、例えば第1周波数より低周波側を除去するろ波器を用いて、図3(d)に示すようなスペクトルの高周波広帯域信号10に整形される。
【0041】
次に、高周波狭帯域信号生成部120の構成を以下に説明する。本実施形態の高周波狭帯域信号生成部120は、高周波狭帯域信号20としてFMCWを生成するよう構成されており、演算部101から設定された制御値34に基づいて高周波狭帯域信号20の周波数を三角波状に変調させるための変調用信号(電圧)を生成する電圧制御部121と、電圧制御部121から変調用信号を入力して周波数変調させた高周波の第1狭帯域波21を生成する高周波狭帯域発振源122と、高周波狭帯域発振源122から第1狭帯域波21を入力して高周波狭帯域信号20と周波数変換用狭帯域波22とを出力する狭帯域波分配部123と、を備えている。
【0042】
電圧制御部121は、周波数を図4に示すように時系列で三角波状に順次変化させるための変調用信号を生成して高周波狭帯域発振源122に出力する。高周波の電波を発振させる高周波狭帯域発振源122として、例えばVCO(Voltage Controlled Oscillator)を用いることができる。高周波狭帯域発振源122で生成される第1狭帯域波21は、電圧制御部121からの変調用信号に従って周波数変調されているが、周波数の変化幅(帯域幅)は20MHz程度と小さく、高周波広帯域信号に比べて十分狭帯域である。
【0043】
狭帯域波分配部123は、高周波狭帯域発振源122から第1狭帯域波21を入力し、これを高周波狭帯域信号20と周波数変換用狭帯域波22とに分配し、高周波狭帯域信号20を外部に出力するとともに、周波数変換用狭帯域波22を高周波広帯域信号生成部110の第1ミキサ113に供給している。本実施形態では、狭帯域波分配部123は単に第1狭帯域波21を高周波狭帯域信号20と周波数変換用狭帯域波22とに分配する分配器としており、高周波狭帯域信号20と周波数変換用狭帯域波22とは同じスペクトルを有する高周波電波である。
【0044】
本実施形態の複合レーダ信号生成装置100では、狭帯域波分配部123から出力される高周波狭帯域信号20と周波数変換用狭帯域波22のそれぞれの伝播路に第1スイッチ131と第2スイッチ132とをさらに設けている。高周波協帯域発振源122で生成される第1狭帯域波21が連続波であることから、演算部101から所定の要求信号32.33が与えられた時だけ高周波広帯域信号20及び周波数変換用狭帯域波22を出力させるようにするのが好ましい。
【0045】
例えば、複合レーダ信号生成装置100を用いた複合モードレーダ装置では、高周波狭帯域信号20を常時出力している状態にすると、送信アンテナから送信された高周波狭帯域信号20の一部が回り込みによって受信アンテナに直接受信されてしまうおそれがある。このように、受信アンテナが回り込みによる送信波を常時受信すると、受信回路が飽和して測定不能になってしまう。第1スイッチ131は、これを防止するために設けられたものであり、演算部101から高周波協帯域信号20の要求信号32が与えられたときだけ閉状態となるように構成されている。
【0046】
また、周波数変換用狭帯域波22を常時第1ミキサ113に出力していると、高周波広帯域信号10が送信されないときも周波数変換用狭帯域波22のみが常時送信されることになり、やはり受信アンテナが回り込みによる送信波を常時受信して受信回路が飽和してしまう。そこで、第2スイッチ132を設けることで、高周波広帯域信号10が送信されないときにはこれを開状態にしておくように構成するのがよい。
【0047】
上記のように構成された本実施形態の複合レーダ信号生成装置100では、ベースバンドで生成された広帯域な第1インパルス11を所定の高周波にアップコンバートするための高周波源として、高周波狭帯域信号生成部120で生成された周波数変換用狭帯域波22を用いている。これにより、高周波広帯域信号生成部110は高周波発振源を不要とすることができ、小型化が容易でかつ低価格で複合レーダ信号生成装置100を提供することが可能となる。
【0048】
また、本実施形態では、高周波広帯域信号生成部110に備えられた第1波形整形手段112において、広帯域なベースバンドの中心周波数で略対称となるよう第1インパルス11を波形整形しており、これにより中心周波数が高周波狭帯域信号20と異なる高周波広帯域信号10を生成することが可能となっている。
【0049】
本発明の第2の実施の形態に係る複合レーダ信号生成装置の構成を、図5に示すブロック図を用いて説明する。本実施形態の複合レーダ信号生成装置200では、ベースバンドで生成する第1インパルス11の波形整形方法、及びこれを高周波にアップコンバートするための周波数変換用狭帯域波22の作成方法が第1の実施形態と異なっている。第1インパルス11の波形整形方法及び周波数変換用狭帯域波22の作成方法を、図6を用いて以下に説明する。図6は、波形整形によるスペクトルの変化を示す模式図である。
【0050】
高周波狭帯域信号20の中心周波数である第1周波数と高周波広帯域信号10の中心周波数である第2周波数との間に所定の周波数差を設けるために、第1の実施形態ではベースバンドのほぼ中間に位置する周波数を第3周波数とし、この周波数分だけ第1周波数と第2周波数とが異なるように波形整形していた。これに対し本実施形態では、周波数変換用狭帯域波22の中心周波数を第1周波数と所定の周波数差だけ異なるようにし、これを第2周波数として高周波広帯域信号10を生成するようにしている。
【0051】
中心周波数が第1周波数と異なる周波数変換用狭帯域波22を生成するために、本実施形態の高周波狭帯域信号生成部220では、狭帯域波分配部223が第1の実施形態と異なる構成となっている。本実施形態の狭帯域波分配部223は、固定発振源241とスイッチ242、243と第2ミキサ244と第3波形整形手段245と分配器246を備えた構成としている。
【0052】
固定発振源241は、事前に設定された一定の周波数(以下では、第4周波数とする)の連続波40を出力するものであり、第4周波数を第1周波数と第2周波数との差に等しくなるように設定している。第1周波数及び第2周波数を図2(a)に示した中心周波数とする場合には、固定発振源241で2.5GHzの連続波を発生させるものとする。
【0053】
高周波狭帯域発振源122で生成された第1周波数F1の第1狭帯域波21は、分配器246で高周波狭帯域信号20と第2狭帯域波41に分配される。そして、第2ミキサ244において、固定発振源241から出力される第4周波数F4の連続波40と第2狭帯域波41とが混合される(図6(a)参照)。
【0054】
第4周波数F4の連続波40と中心周波数がF1の第2狭帯域波41とを混合することで、図6(b)に示すような2つの周波数(F1−F4)と(F1+F4)とにピークを持つ第3狭帯域波42が生成される。これを、第3波形整形手段245において、いずれか一方のピークを中心周波数とする周波数変換用狭帯域波22に波形整形する。図6(b)では、(F1+F4)のピークを中心周波数とする狭帯域波に波形整形している。この中心周波数(F1+F4)の狭帯域波を周波数変換用狭帯域波22に用いており、周波数(F1+F4)が高周波広帯域信号10の中心周波数である第2周波数となる。
【0055】
なお、スイッチ242と243は、それぞれ第4周波数の連続波40と第2狭帯域波41がキャリアリークするのを防止するために、高周波広帯域信号10が出力されるタイミングであるインパクトトリガ31に連動させて演算部101から制御される。
【0056】
一方、高周波広帯域信号生成部210では、第1の実施形態の高周波広帯域信号生成部110と同様に、ベースバンドインパルス源111で図3(a)に示すような広帯域な第1インパルス11を発生させ、これをそのまま第1ミキサ113で高周波狭帯域信号生成部210から供給される周波数変換用狭帯域波22と混合してアップコンバートし、さらに第2波形整形手段114で図3(d)と同様の波形整形を行って高周波広帯域信号10を生成することができる。
【0057】
本実施形態では、さらに高周波広帯域信号10の中心周波数である第2周波数近傍のスペクトルを抑制する第1波形整形手段212を追加している。これは、第2周波数において他のシステムとの干渉が発生する場合に適用されるものである。第1波形整形手段212では、図6(c)に示すように、ベースバンドインパルスの低周波成分を抑制している。このように、低周波成分が抑制されたベースバンドの第2インパルス12を周波数変換用狭帯域波22でアップコンバートすることにより、図6(d)に示すような中心周波数が抑制された高周波広帯域信号10を生成することができる。
【0058】
本発明の複合レーダ信号生成装置を複合モードレーダ装置に適用した一例を図7に示す。複合モードレーダ装置300は、広帯域レーダ部301と狭帯域レーダ部302とが同じ筐体内に設けられており、演算部101からの制御で両者が協調して動作するように構成されている。
【0059】
複合モードレーダ装置300は、信号源として本発明の第1の実施形態の複合レーダ信号生成装置100を用いており、高周波広帯域信号生成部110と高周波狭帯域信号生成部120とを備えている。また、信号の送受信用アンテナとして、高周波広帯域信号生成部110で生成された高周波広帯域信号10を送信する広帯域送信アンテナ331、高周波狭帯域信号生成部120で生成された高周波狭帯域信号20を送信する狭帯域送信アンテナ332、及びそれぞれの反射波を受信するための広帯域受信アンテナ333と狭帯域受信アンテナ334とが設けられている。
【0060】
さらに、広帯域受信アンテナ333及び狭帯域受信アンテナ334で受信したそれぞれの反射波を処理するための広帯域受信部310及び狭帯域受信部320が設けられており、ここで処理された測定データが演算部101に出力されて位置データの判定が行われる。
【0061】
上記のように構成された複合モードレーダ装置100では、広帯域レーダ部301と狭帯域レーダ部302とを演算部101からの制御により協調動作させることが可能となる。すなわち、広帯域レーダ部301と狭帯域レーダ部302とを図8に示すような基本動作で用いることが可能となり、この基本動作を組み合わせることで広帯域レーダ部301と狭帯域レーダ部302とを協調させて高性能なレーダ機能を実現することができる。
【0062】
図8に示す基本動作として、同図(a)に示す広帯域レーダ部301と狭帯域レーダ部302とを適宜切り替えて動作させる切り替え方式と、同図(b)に示す広帯域レーダ部301と狭帯域レーダ部302とを並行して動作させる並用方式の2種類がある。このような広帯域レーダ部301と狭帯域レーダ部302との協調動作は、演算部101からの制御で容易に実現できる。
【0063】
また別の処理方法として、例えば通常は狭帯域レーダ部302を用い、高分解能が必要なときだけ広帯域レーダ部301を用いるようにすることも可能である。これにより、広帯域レーダ部301の使用を限定することができ、他システムとの干渉を低減させることができる。例えば、広帯域レーダ部301の使用が他システムとの干渉の問題を発生させるおそれがある場合には、一時的に狭帯域レーダ部302のみを用いるように制御することが可能であり、このような制御方式を演算部101のソフトウェア処理だけで実現することができる。
【0064】
また別の処理方法として、例えば狭帯域レーダは高周波狭帯域信号生成部120の電圧制御を一定値として、発振を単一周波数にすることで、ドップラレーダとして動作することも可能である。
【0065】
また別の処理方法として、例えば広帯域レーダによる測定の場合は、高周波狭帯域信号生成部120の制御電圧を一定として、単一周波数で発振することで、検波方式として同期検波方式に対応することが可能である。
【0066】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る複合レーダ信号生成装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における複合レーダ信号生成装置の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る複合レーダ信号生成装置のブロック図である。
【図2】本発明の複合レーダ信号生成装置で生成する信号の周波数帯の一例を示す図である。
【図3】第1インパルスが高周波広帯域信号に波形成形されるまでのスペクトルの変化を示す模式図である。
【図4】高周波狭帯域信号の変調に用いる周波数変調信号の一例を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る複合レーダ信号生成装置のブロック図である。
【図6】第1インパルスが高周波広帯域信号に波形成形されるまでのスペクトルの変化を示す模式図である。
【図7】本発明の複合レーダ信号生成装置を適用した複合モードレーダ装置の一例を示す図である。
【図8】狭帯域レーダ部と広帯域レーダ部の基本動作を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
10 高周波広帯域信号
20 高周波狭帯域信号
51、53 狭帯域レーダの帯域
52、54 広帯域レーダの帯域
100、200 複合レーダ信号生成装置
101 演算部
110、210 高周波広帯域信号生成部
111 ベースバンドインパルス源
112、212 第1波形整形手段
113 第1ミキサ
114 第2波形整形手段
120、220 高周波狭帯域信号生成部
121 電圧制御部
122 高周波狭帯域発振源
123、223 狭帯域波分配部
131 第1スイッチ
132 第2スイッチ
241 固定発振源
242、243 スイッチ
244 第2ミキサ
245 第3波形整形手段
300 複合モードレーダ装置
301 広帯域レーダ部
302 狭帯域レーダ部
310 広帯域受信部
320 狭帯域受信部
331〜334 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
演算部と、前記演算部から狭帯域波要求信号を入力して第1周波数を中心周波数とする高周波狭帯域信号を生成する高周波狭帯域信号生成部と、前記演算部からインパルストリガを入力して第2周波数を中心周波数とする高周波広帯域信号を生成する高周波広帯域信号生成部と、を備える複合レーダ信号生成装置であって、
前記高周波狭帯域信号生成部は、
前記演算部から入力した前記狭帯域波要求信号に基づき、第1狭帯域波を生成する高周波狭帯域発振源と、
前記高周波狭帯域発振源から前記第1狭帯域波を入力して前記高周波狭帯域信号と周波数変換用狭帯域波とを出力する狭帯域波分配部と、を備え、
前記高周波広帯域信号生成部は、
前記演算部から前記インパルストリガを入力すると、ベースバンドで第1インパルスを生成するベースバンドインパルス源と、
前記ベースバンドインパルス源から前記第1インパルスを入力し、これを波形整形して第2インパルスを出力する第1波形整形手段と、
前記第1波形整形手段と前記狭帯域波分配部とからそれぞれ前記第2インパルスと前記周波数変換用狭帯域波とを入力し、これを混合することにより所定の高周波インパルスにアップコンバートする第1ミキサと、
前記第1ミキサから前記高周波インパルスを入力し、これを波形整形して前記高周波広帯域信号を出力する第2波形整形手段と、を備える
ことを特徴とする複合レーダ信号生成装置。
【請求項2】
前記第1周波数と前記第2周波数とは異なる周波数である
ことを特徴とする請求項1に記載の複合レーダ信号生成装置。
【請求項3】
前記第1波形整形手段は、前記ベースバンドインパルス源から入力した前記第1インパルスを、前記ベースバンド内の第3周波数を中心周波数とする前記第2インパルスに整形している
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合レーダ信号生成装置。
【請求項4】
前記第1波形整形手段は、前記ベースバンドインパルス源から入力した前記第1インパルスに対し、所定の周波数以下の低周波成分を抑制している
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合レーダ信号生成装置。
【請求項5】
前記第1ミキサでアップコンバートされた前記高周波インパルスは、前記第1周波数を中心に対称な2つのピークを有しており、
前記第2波形整形手段は、前記対称な2つのピークのいずれか一方を中心周波数とする高周波広帯域信号に整形している
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複合レーダ信号生成装置。
【請求項6】
前記狭帯域波分配部は、前記高周波狭帯域発振源から入力した前記第1狭帯域波を前記高周波狭帯域信号と周波数変換用狭帯域波とに分配している
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合レーダ信号生成装置。
【請求項7】
前記狭帯域波分配部は、
周波数が一定な第4周波数の連続波を生成する固定発振源と、
前記高周波狭帯域発信源及び前記固定発振源からそれぞれ前記第1狭帯域波及び前記連続波を入力し、これを混合して前記第1周波数に前記第4周波数を加算及び減算した2つの周波数をピーク周波数とする別の狭帯域波を出力する第2ミキサと、
前記第2ミキサから前記別の狭帯域波を入力し、これを前記ピーク周波数のいずれか一方を中心周波数とする波形に整形して前記周波数変換用狭帯域波を出力する第3波形整形手段と、を備える
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合レーダ信号生成装置。
【請求項8】
前記狭帯域信号生成部は、前記狭帯域波分配部から出力される前記高周波狭帯域信号の伝播路を前記狭帯域波要求信号に従って開閉する第1スイッチをさらに備える
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合レーダ信号生成装置。
【請求項9】
前記狭帯域信号生成部は、前記狭帯域波分配部から入力した前記周波数変換用狭帯域波を前記第1ミキサに出力する伝播路を開閉する第2スイッチをさらに備え、
前記第2スイッチは、前記演算部から前記インパルストリガに連動して出力される開閉要求信号に従って開閉される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合レーダ信号生成装置。
【請求項10】
前記第1周波数及び前記第2周波数は、22GHz以上29GHz以下のいずれかの周波数である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合レーダ信号生成装置。
【請求項11】
前記高周波広帯域信号は、帯域幅が少なくとも450MHz以上のUWB信号である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合レーダ信号生成装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−224548(P2008−224548A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65683(P2007−65683)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】