説明

複合中空糸膜

【課題】気体分離性に優れた複合中空糸膜を提供すること。
【解決手段】多孔性材料からなる多孔質層の内側面又は外側面に緻密層が設けられてなり、緻密層が多分岐ポリイミド系材料にて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合中空糸膜に係り、特に、気体分離(例えば二酸化炭素とメタンの分離)に有利に用いられる複合中空糸膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子膜を気体分離膜として用いて、混合気体から特定の気体を分離したり、精製することが積極的に検討されている。例えば、空気から酸素を積極的に透過させて、酸素富化空気を製造し、これを医療や燃料システム等の分野で活用する試みが為されている。そして、これらの用途に用いられる気体分離膜に対しては、特定の気体に対する気体透過性及び気体選択性が、何れも大きいことが要求されている。また、気体分離膜の使用環境によっては、高耐熱性、耐薬品性、高強度等の特性も要求されている。
【0003】
ここで、気体分離膜として用いられる高分子膜としては、従来より様々な形態のものが提案され、使用されている。最近では、特に中空糸状の膜(中空糸膜)が広く用いられている。中空糸膜は、一般に、膜モジュール(多数の中空糸膜を束ねたものを所定の容器内に封入してなるもの)の形態で使用される。膜モジュールは、膜内部の中空部分又は膜外部に分離対象である気体を流通させることにより、目的とする気体を分離することが可能である。中空糸膜は、大きな膜面積を持ちながら、モジュールを小型化できるという利点がある。
【0004】
そのような状況の下、従来より、様々な中空糸膜が提案されている。例えば、特公平6−36854号公報(特許文献1)においては、単一のポリマー材料からなる中空糸膜であって、その表面の緻密層がこれに連続する多孔質層により支持されて一体構造を呈する、所謂、非対称構造の中空糸膜(非対称中空糸膜)が開示されている。
【0005】
特許文献1に開示されている、単一のポリマー材料からなる非対称中空糸膜にあっては、緻密層にピンホール等の欠陥が生じないように、原料となるポリマー溶液に対して、所定以上の固形分濃度及び粘度を有することが必要とされる。しかしながら、工業的な観点においては、最終的に得られる非対称中空糸膜が優れた気体分離性を発揮し、且つ、非対称中空糸膜を安定して作製可能なポリマー材料としては、未だ十分なものが開発されていないというのが現状である。また、特許文献1に開示の非対称中空糸膜においては、気体分離機能及び強度支持機能を単一のポリマー材料にて担っているため、使用することが出来るポリマー材料が限定されるという問題を内在している。
【0006】
一方、本発明者等の一部は、国際公開第06/025327号(特許文献2)において、多分岐ポリイミド相と無機酸化物相とを有し、それらが共有結合によって一体化されて、複合構造となっている有機−無機ポリマーハイブリッドからなる気体分離膜を開示している。
【0007】
かかる特許文献2に開示の多分岐ポリイミド(有機−無機ポリマーハイブリッド)は、優れた気体分離性を発揮するものである。しかしながら、特許文献2に開示の多分岐ポリイミドは、その前駆体である多分岐ポリアミド酸溶液が、多分岐ポリマーであることに起因して、分子量又は固形分濃度を大きくすると分子間での架橋が進行し、溶液のゲル化が生じ易いという問題がある。また、特許文献2に開示の多分岐ポリイミドを合成する際に、芳香族トリアミンと一般的なジアミンとを併用することにより、溶液粘度を溶液粘度を大きくすることも可能ではあるが、芳香族トリアミン成分が多いと十分な固形分濃度となる前にゲル化が進行し、その一方、トリアミン成分が少ないと多分岐ポリイミドに起因する気体透過性及び気体分離性を十分に発揮することが出来ない。このように、特許文献2に開示されている多分岐ポリイミドのみからなる非対称中空糸膜の作製は困難である。
【0008】
上述の如き非対称中空糸膜の問題点を解決すべく、主として強度支持機能を担う多孔質層と、主として気体分離機能を担う緻密層とを、それぞれ別個の材料を用いて構成した、所謂、複合構造型の中空糸膜(複合中空糸膜)が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、特許文献3に開示の複合中空糸膜は、気体透過速度が遅いことから、工業的な気体分離膜としては未だ十分なものではない。このように、従来の非対称中空糸膜及び複合中空糸膜は、工業的レベルにて要求される気体透過性及び気体分離性(例えば二酸化炭素とメタンとの分離性)を兼ね備えたものとは言い難いものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平6−36854号公報
【特許文献2】国際公開第06/025327号
【特許文献3】特開平11−9974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、気体分離性に優れた、特に二酸化炭素(CO2 )とメタン(CH4 )の分離性に優れた複合中空糸膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明は、多孔性材料からなる多孔質層の内側面又は外側面に緻密層が設けられてなり、前記緻密層が多分岐ポリイミド系材料にて形成されていることを特徴とする複合中空糸膜を、その要旨とするものである。
【0012】
なお、本発明に従う複合中空糸膜における好ましい第一の態様においては、前記多分岐ポリイミド系材料が、多分岐ポリイミドと直鎖ポリイミドとのポリマーブレンドである。
【0013】
また、本発明に係る複合中空糸膜における好ましい第二の態様においては、前記多分岐ポリイミドが、下記の何れかのものである。
(1)芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族トリアミンと、末端にアミノ基或いは カルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又は チタンのアルコキシ化合物若しくはそれらの誘導体とを反応せしめて得られる、複数 の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド 酸と、下記式(1)で表わされるアルコキシドの少なくとも一種以上とを、水の存在 下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をイミド化せしめてなる、多分岐ポリイ ミド相と無機酸化物相とが共有結合によって一体となった複合構造を呈する有機−無 機ポリマーハイブリッドである。
1m(OR2n・・・式(1)
1 、R2 :炭化水素基
M:Si、Mg、Al、Zr又はTiの何れかの原子
m:0又は正の整数
n:正の整数
m+n:原子Mの原子価
(2)芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族トリアミンと、末端にアミノ基或いは カルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又は チタンのアルコキシ化合物若しくはそれらの誘導体とを反応せしめて得られる、複数 の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド 酸を、イミド化せしめてなるものである。
【0014】
さらに、本発明の複合中空糸膜における好ましい第三の態様においては、前記直鎖ポリイミドが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ヒドロキシジアミンとを反応せしめて得られる直鎖ヒドロキシポリイミドである。
【0015】
加えて、本発明の複合中空糸膜における好ましい第四の態様においては、前記緻密層はコーティング法に従って形成されている。
【0016】
また、本発明の複合中空糸膜における好ましい第五の態様においては、二酸化炭素/メタンの分離係数が10〜200である。
【0017】
また、本発明の複合中空糸膜における好ましい第六の態様においては、前記多孔性材料が、多孔性ポリイミド、多孔性ポリアミド、多孔性ポリベンゾイミダゾール及び多孔性ポリベンゾオキサゾールからなる群より選ばれる一種以上のものである。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明に従う複合中空糸膜にあっては、緻密層が多分岐ポリイミド系材料にて形成されているところから、気体分離性(特に二酸化炭素とメタンの分離性)に優れたものとなっているのである。特に、多分岐ポリイミド相と無機酸化物相とが共有結合によって一体となった複合構造を呈する有機−無機ポリマーハイブリッドからなるポリイミドと、直鎖ポリイミドとのポリマーブレンドにて緻密層を形成した複合中空糸膜においては、上記した効果をより有利に享受することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る複合中空糸膜の一例を示す断面説明図である。
【図2】本発明に係る複合中空糸膜の緻密層を構成する多分岐ポリイミドの一例を、概略的に示す説明図である。
【図3】本発明に係る複合中空糸膜の緻密層を構成する多分岐ポリイミドの他の一例を、概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を適宜参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
【0021】
図1には、本発明に従う複合中空糸膜の一実施形態が、太さ方向の断面図にて示されている。そこにおいて、複合中空糸膜10は、多孔性材料からなる多孔質層12の外周面上に、かかる多孔性材料とは異なる材料からなる緻密層14が積層形成されることにより、構成されている。ここで、多孔質層(12)とは、主として複合中空糸膜における強度支持機能を担う層であり、孔径が数nm〜数十μm程度の比較的大きな細孔を有する層である。また、緻密層(14)とは、主として複合中空糸膜における気体分離機能を担う層であり、前述の多孔質層中の細孔と比べて微細な細孔(孔径が1nmより小さい細孔)を有する層である。
【0022】
多孔質層12を構成する多孔性材料としては、従来より、複合中空糸膜の多孔質層(主として中空糸膜における強度支持機能を担う層)を構成する材料として用いられるものの中から、目的とする複合中空糸膜10に応じたものが適宜、選択されて、使用される。具体的には、多孔性ポリマー、多孔性金属や多孔性セラミックス等を例示することが出来る。本発明においては、特に、多孔性ポリイミド、多孔性ポリアミド、多孔性ポリベンゾイミダゾール又は多孔性ポリベンゾオキサゾールが有利に採用される。
【0023】
また、本発明に係る複合中空糸膜10は、後述するように、有利には、緻密層14が液状の材料を用いてコーティング法に従って形成されるものである。このため、従来より公知の各種手法に従って作製された、上述の如き多孔性材料からなる中空状構造体(多孔性基材)を用いることができる。
【0024】
そして、本発明に係る複合中空糸膜10にあっては、緻密層14が多分岐ポリイミド系材料にて構成されているところに大きな特徴が存するのである。即ち、緻密層14を多分岐ポリイミド系材料にて形成することにより、複合中空糸膜10は、気体分離性に優れた、特に二酸化炭素(CO2 )とメタン(CH4 )の分離性に優れたものとなるのである。
【0025】
本発明において、緻密層14を構成する多分岐ポリイミド系材料としては、図2や図3に示される如き構造を呈する多分岐ポリイミドを主成分とするものが有利に用いられる。ここで、図2は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミンとを反応せしめて多分岐ポリアミド酸とし、かかる多分岐ポリアミド酸をイミド化せしめて得られる多分岐ポリイミドについて、その構造を概略的に示すものである。また、図3は、多分岐ポリイミドの一種である多分岐ポリイミド−シリカハイブリッドの構造を概略的に示すものであって、図2に示す如き多分岐ポリイミドからなる多分岐ポリイミド相と、SiO2 単位にて構成される無機重合物からなる無機酸化物相(図3中の点線にて囲まれた部分)とが、共有結合によって一体化されて、複合構造を呈している。
【0026】
また、本発明においては、そのような多分岐ポリイミドと直鎖ポリイミドとのポリマーブレンドにて緻密層14を形成することが好ましい。ポリマーブレンドとは、2種類以上のポリマーが、共有結合でつながることなく混合しているポリマー多成分系をいう。本発明は、多分岐ポリイミドと直鎖ポリイミドとのポリマーブレンドにて緻密層を形成することにより、得られる複合中空糸膜が優れた気体透過性及び気体分離性を発揮するものであるが、この理由としては、緻密層において、多分岐ポリイミドの分子末端と直鎖ポリイミドとの間の相互作用により高分子鎖同士の凝集が阻害され、気体透過性と気体分離性に有利な分子鎖の間隙が形成されるためであると考えられる。また、ポリマーブレンドを構成する直鎖ポリイミドは、特に、下記構造式に示される如き、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ヒドロキシジアミンとを反応せしめて得られる直鎖ヒドロキシポリイミドであることが好ましい。なお、下記構造式で表される直鎖ヒドロキシポリイミドは、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)と3,3’−ジヒドロキシベンジジン(HAB)とを反応せしめて直鎖ヒドロキシポリアミド酸とし、かかる直鎖ヒドロキシポリアミド酸をイミド化せしめて得られるものである。
【化1】

【0027】
本発明に係る複合中空糸膜10の緻密層14を形成するに際しては、先ず、多分岐ポリイミドの前駆体である多分岐ポリアミド酸(及び、直鎖ポリイミドの前駆体である直鎖ポリアミド酸)を合成することが好ましい。これら前駆体の合成は、例えば、以下に示す手法に従って実施される。
【0028】
A.多分岐ポリアミド酸の合成
多分岐ポリアミド酸は、芳香族テトラカルボン酸二水物と芳香族トリアミンとを反応せしめることにより、合成される。かかる合成に際して用いられる芳香族テトラカルボン酸二水物及び芳香族トリアミンとしては、従来より公知のものであれば、何れをも用いることが可能であり、それら公知のものの中から、目的とする複合中空糸膜に応じた一種又は二種以上のものが、適宜に選択されて、用いられることとなる。
【0029】
具体的に、芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(OPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2’−ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)、又は3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)等の化合物を、例示することが出来る。
【0030】
また、本発明において用いられる芳香族トリアミンとしては、分子内に3個のアミノ基を有する芳香族化合物であれば、従来より公知のものを何れをも用いることが出来る。具体的には、1,3,5−トリアミノベンゼン、トリス(3−アミノフェニル)アミン、トリス(4−アミノフェニル)アミン、トリス(3−アミノフェニル)ベンゼン、トリス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、又は1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)トリアジン等を挙げることが出来る。更に、本発明においては、下記一般式で表される所定の非対称構造を有する芳香族トリアミンを用いることも可能である。具体的には、2,3’,4−トリアミノビフェニル、2,4,4’−トリアミノビフェニル、3,3’,4−トリアミノビフェニル、3,3’,5−トリアミノビフェニル、3,4,4’−トリアミノビフェニル、3,4’,5−トリアミノビフェニル、2,3’,4−トリアミノジフェニルエーテル、2,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル、3,3’,4−トリアミノジフェニルエーテル、3,3’,5−トリアミノジフェニルエーテル、3,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル、3,4’,5−トリアミノジフェニルエーテル、2,3’,4−トリアミノベンゾフェノン、2,4,4’−トリアミノベンゾフェノン、3,3’,4−トリアミノベンゾフェノン、3,3’,5−トリアミノベンゾフェノン、3,4,4’−トリアミノベンゾフェノン、3,4’,5−トリアミノベンゾフェノン、2,3’,4−トリアミノジフェニルスルフィド、2,4,4’−トリアミノジフェニルスルフィド、3,3’,4−トリアミノジフェニルスルフィド、3,3’,5−トリアミノジフェニルスルフィド、3,4,4’−トリアミノジフェニルスルフィド、3,4’,5−トリアミノジフェニルスルフィド、2,3’,4−トリアミノジフェニルスルフォン、2,4,4’−トリアミノジフェニルスルフォン、3,3’,4−トリアミノジフェニルスルフォン、3,3’,5−トリアミノジフェニルスルフォン、3,4,4’−トリアミノジフェニルスルフォン、3,4’,5−トリアミノジフェニルスルフォン、2,3’,4−トリアミノジフェニルメタン、2,4,4’−トリアミノジフェニルメタン、3,3’,4−トリアミノジフェニルメタン、3,3’,5−トリアミノジフェニルメタン、3,4,4’−トリアミノジフェニルメタン、3,4’,5−トリアミノジフェニルメタン、2−(2,4−ジアミノフェニル)−2−(3−アミノフェニル)プロパン、2−(2,4−ジアミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3,4−ジアミノフェニル)−2−(3−アミノフェニル)プロパン、2−(3,5−ジアミノフェニル)−2−(3−アミノフェニル)プロパン、2−(3,4−ジアミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3,5−ジアミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2−(2,4−ジアミノフェニル)−2−(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2−(2,4−ジアミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2−(3,4−ジアミノフェニル)−2−(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2−(3,5−ジアミノフェニル)−2−(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2−(3,4−ジアミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2−(3,5−ジアミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン等を、挙げることが出来る。
【化2】

【0031】
本発明において、多分岐ポリアミド酸を合成するに際しては、上述した芳香族トリアミンと共に、芳香族ジアミン、シロキサンジアミン、或いは、分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物を、芳香族トリアミンと共重合せしめた状態にて、或いは、ポリアミド酸合成時に芳香族トリアミン等と同時に添加することにより、使用することも可能である。そのような芳香族ジアミンとしては、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニール、ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−アミノフェノキシフェニル]スルホン、2,2−ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−[フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン又は9,9−ビス(アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。また、シロキサンジアミンとしては、ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、ビス(アミノフェノキシ)ジメチルシラン又はビス(3−アミノプロピル)ポリメチルシロキサン等が挙げられる。更に、分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物としては、トリス(3,5−ジアミノフェニル)ベンゼン、トリス(3,5−ジアミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンジジン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルケトン又は3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0032】
また、上述した芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族トリアミン、芳香族ジアミン、及び分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物の各化合物におけるベンゼン環に、炭化水素基(アルキル基、フェニル基、シクロヘキシル基等)、ハロゲン基、アルコキシ基、アセチル基、スルホン酸基等の置換基を有する誘導体であっても、本発明においては、多分岐ポリアミド酸を合成する際に用いることが可能である。
【0033】
そのような芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族トリアミン(及び、芳香族ジアミン、シロキサンジアミン、或いは分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物。以下、適宜アミン成分という。)との反応は、比較的低温、具体的には100℃以下、好ましくは50℃以下の温度下において実施することが好ましい。より具体的には、多分岐ポリアミド酸を合成する際の温度条件の下限は、使用する溶媒(後述する、溶媒α)の融点以上であることが好ましい。かかる温度(融点)より低い温度の場合、溶媒が凍り、合成に支障をきたすからである。例えば、溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を使用する場合は、−20℃以上の温度にて多分岐ポリアミド酸を合成することが好ましい。また、芳香族テトラカルボン酸二無水物とアミン成分の反応モル比([芳香族テトラカルボン酸二無水物]:[アミン成分])は、1.0:0.3〜1.0:1.8の範囲内となるような量的割合において、反応せしめることが好ましく、1.0:0.4〜1.0:1.5の範囲内となるような量的割合において、反応せしめることがより好ましい。この範囲外の割合において反応せしめると、十分な分子量を有するポリアミド酸を合成することが出来ず、非常に脆い材料となるからである。
【0034】
B.直鎖ポリアミド酸の合成
直鎖ポリアミド酸は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応せしめることにより、合成される。本発明において用いられる芳香族テトラカルボン酸二水物及び芳香族ヒドロキシジアミンとしては、従来より公知のものであれば、何れをも用いることが可能であり、それら公知のものの中から、目的とする気体分離膜に応じた一種又は二種以上のものが、適宜に選択されて、用いられることとなる。本発明において用いられる芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンとしては、先に示したものと同様のものを例示することが出来る。
【0035】
本発明においては、芳香族ジアミンとして芳香族ヒドロキシジアミンを用いて、直鎖ヒドロキシポリアミド酸を合成することが好ましい。かかる芳香族ヒドロキシジアミンとしては、3,3’−ジヒドロキシベンジジン(HAB)、3,4’−ジアミノ−3’,4−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノジフェニルオキシド、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)メタン、2,4−ジアミノフェノール、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1,1−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)エタン、1,3−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)プロパン、又は2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等の化合物を例示することが出来る。本発明においては、特に3,3’−ジヒドロキシベンジジン(HAB)が、緻密層の強度の観点から有利に用いられる。
【0036】
上述した各成分を用いて、多分岐ポリアミド酸(及び直鎖ポリアミド酸)が合成されることとなるが、かかる合成は、コーティング法に従って緻密層を形成する場合、所定の溶媒内にて行なうことが好ましい。本発明において用いられ得る溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチルスルホン、ヘキサメチルスルホン、又はヘキサメチルフォスホアミド等の非プロトン性極性溶媒、m−クレゾール、o−クレゾール、m−クロロフェノール、又はo−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン、又はジグライム等のエーテル系溶媒等を挙げることが出来、これらは単独で、若しくは二種以上の混合溶媒として、使用することが可能である。尚、そのような溶媒を用いて多分岐ポリアミド酸(及び直鎖ポリアミド酸)を合成するに際しては、従来より公知の手法の何れをも採用することが可能である。
【0037】
以上の如くして合成された多分岐ポリアミド酸については、所定のアルコキシ化合物を反応せしめることも可能である。かかるアルコキシ化合物を反応せしめ、更に、得られた反応物を後述する所定のアルコキシドと反応せしめることにより、無機酸化物相(酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム又は酸化チタン単位にて構成される無機重合物)を分子内に有する多分岐ポリアミド酸が得られる。そして、そのような多分岐ポリアミド酸をイミド化せしめてなる多分岐ポリイミド[有機−無機ポリマーハイブリッド。図3(多分岐ポリイミド−シリカハイブリッド)参照。]は、前述の無機酸化物相(図3においては点線で囲まれた部分)を有する。このため、かかる多分岐ポリイミドからなる緻密層を有する複合中空糸膜は、気体分離性、具体的には二酸化炭素(CO2 )とメタン(CH4 )の分離性がより優れたものとなるのである。
【0038】
具体的に、多分岐ポリアミド酸の末端に存在する酸無水物基又はアミノ基の少なくとも一部と、アルコキシ化合物中のアミノ基又はカルボキシル基とが反応することにより、複数の末端のうちの少なくとも一部にアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド酸となる。なお、反応系内に水が存在する場合には、かかる水によって、アルコキシ基の一部が加水分解して水酸基となる。
【0039】
ここで、本発明においては、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物であれば、従来より公知のものが何れも用いられ得る。また、末端にカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物とは、末端に、一般式:−COOH、或いは、一般式:−CO−O−CO−で表わされる官能基を有するカルボン酸、酸無水物であり、それらの誘導体である酸ハライド(一般式:−COX。但し、XはF、Cl、Br、Iの何れかの原子。)も、本発明において用いることが可能である。
【0040】
例えば、ケイ素のアルコキシ化合物としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノフェニルジメチルメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシリルカルボン酸、プロピルメチルジエトキシシリルカルボン酸、又はジメチルメトキシシリル安息香酸等を挙げることが出来る。また、酸無水物である3−トリエトキシシリルプロピルコハク酸無水物も使用可能である。チタンのアルコキシ化合物としては、特開2004−114360号公報中の段落[0085]において示されている如き構造(下記構造式)を呈するもの等を、例示することが出来る。また、それらアルコキシ化合物の誘導体としては、例えば、各種ハロゲン化物等が挙げられる。
【化3】

【0041】
なお、上述したアルコキシ化合物と多分岐ポリアミド酸との反応は、先に説明した芳香族テトラカルボン酸二無水物とアミン成分とを反応せしめた際と同様の温度条件にて、実施されることが好ましい。
【0042】
また、本発明においては、上述したアルコキシ化合物と多分岐ポリアミド酸とを反応させた後、更に、所定のアルコキシドを反応させることが好ましい。その理由は、複数の末端のうちの少なくとも一部にアルコキシ基(又は水酸基)を有する多分岐ポリアミド酸と、所定のアルコキシドの少なくとも一種以上とを、水の存在下において同一系内に存在せしめると、多分岐ポリアミド酸分子中のアルコキシ基とアルコキシドとがゾル−ゲル反応により重縮合し、酸化ケイ素等の単位にて構成される無機重合物からなる無機酸化物相が有利に形成せしめられるからである。
【0043】
ここで、多分岐ポリアミド酸と反応せしめられるアルコキシドとしては、水の存在下において分子間で重縮合が可能なものであって、下記式(1)にて表わされるものが用いられる。具体的には、ジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、及びこれら化合物のアルキル置換体等の化合物が挙げられる。このような化合物の一種又は二種以上が適宜に選択されて、用いられることとなる。
1mM(OR2n・・・式(1)
1 、R2 :炭化水素基
M:Si、Mg、Al、Zr又はTiの何れかの原子
m:0又は正の整数
n:正の整数
m+n:原子Mの原子価
【0044】
また、そのようなアルコキシドの添加量の増減によって、最終的に得られる緻密層中の無機酸化物量も増減する。緻密層中の無機酸化物量は、0.05〜95.00重量%の範囲内にあることが好ましく、0.1〜50.0重量%がより好ましい。含有する無機酸化物量が多くなるに従って、耐熱性、弾性率や硬度等は向上するものの、その反面、材料自体が脆くなり、クラックの生成や耐衝撃性の低下を招く。従って、上記のように無機酸化物量が適当な範囲内となるようにアルコキシドの添加量が決定されることが好ましい。
【0045】
以上のようにして合成された多分岐ポリアミド酸(アルコキシ化合物やアルコキシドと反応させたものを含む)、及び、場合によっては直鎖ポリアミド酸を用いて、図1に示す如き複合中空糸膜10の緻密層14を形成する。具体的には、先ず、多分岐ポリアミド酸(及び直鎖ポリアミド酸)の溶液を調製する。次いで、この溶液を用いて、従来より公知のコーティング法に従って、かかる混合溶液からなる塗膜層を、多孔性材料からなる中空状構造体(多孔性基材)の外表面に形成する。その後、乾燥及び加熱処理を施して多分岐ポリアミド酸(及び直鎖ポリアミド酸)をイミド化せしめる。なお、コーティング法としては、多孔性材料からなる中空状構造体(多孔性基材)の両端を封止し、かかる状態の中空状構造体(多孔性基材)を、多分岐ポリアミド酸溶液(多分岐ポリアミド酸と直鎖ポリアミド酸の混合溶液)内に所定時間、浸漬するディッピング法を例示することが出来る。また、多分岐ポリアミド酸と直鎖ポリアミド酸とを併用する場合、直鎖ヒドロキシポリアミド酸及び多分岐ポリアミド酸の配合割合は、[直鎖ヒドロキシポリアミド酸]:[多分岐ポリアミド酸]=5:95〜95:5(重量比)が好ましく、20:80〜80:20(重量比)がより好ましい。かかる範囲内において多分岐ポリアミド酸と直鎖ポリアミド酸とを併用することによって、最終的に得られる複合中空糸膜が、優れた気体透過性及び気体分離性を発揮することとなる。
【0046】
以上、本発明に従う複合中空糸膜の製造方法について詳述してきたが、本発明にあっては、上記以外の方法によっても製造され得ることは、言うまでもないところである。
【0047】
例えば、緻密層を構成する多分岐ポリイミド及び直鎖ポリイミドの末端に存在する反応性残基(アミノ基、酸無水物基)を、種々の化合物により化学修飾して、機能性基を付与することにより、多種多様な機能を発揮し得るようにすることも可能である。
【0048】
そして、以上のようにして得られる本発明に係る複合中空糸膜にあっては、気体分離性に優れた、特に、二酸化炭素(CO2 )とメタン(CH4 )の分離性に優れたものとなっているのである。好ましくは、二酸化炭素とメタンの分離係数(CO2 /CH4 )が10〜200となるように、多孔質層及び緻密層を構成する材料、多孔質層及び緻密層の厚さ等が、適宜、調整される。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上述の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0050】
先ず、多孔性材料からなる基材(多孔性基材)を、以下の手法に従って作製した。
【0051】
撹拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLの三つ口フラスコに、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)[6FDA]:5.33g(12mmol)を仕込み、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc):26mLを加えて溶解した。この溶液を撹拌しながら、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン[TPEQ]:1.72g(5.88mmol)、及び3,3’−ジヒドロキシベンジジン[HAB]:1.27g(5.88mmol)を徐々に加え、25℃で3時間、撹拌し、直鎖ポリアミド酸(6FDA−HAB/TPEQ)を合成した。この反応溶液のポリマー濃度は25.4重量%、回転粘度は23300cPであった。
【0052】
内口径が0.8mmである鞘側ノズルと、内径が0.2mmであり外径が0.4mmである芯側ノズルとから構成される同軸二重ノズル(カセンエンジニアリング株式会社製)を用いて、直鎖ポリアミド酸(6FDA−HAB/TPEQ)のDMAc溶液を鞘側ノズルに、シリンジポンプを用いて送液速度2.0mL/minで送り、同時に、イオン交換水を芯側ノズルに、シリンジポンプを用いて送液速度0.8mL/minで送った。
【0053】
吐出された中空状構造体を、15cmのエアーギャップを設けた後に、イオン交換水で満たした凝固浴に浸漬して固定化し、イオン交換水で満たした洗浄浴を通して巻き取りロールで巻き取った。得られた中空状構造体を回収し、室温(25℃)にて風乾した。
【0054】
更に、この中空状構造体に対して、窒素雰囲気下にて、100℃で1時間、200℃で1時間、300℃で1時間、加熱処理を施すことにより、直鎖ポリイミドからなる多孔性基材(外形寸法:550μm、内径寸法:450μm)を得た。
【0055】
一方、緻密層を形成するための液状材料(コーティング液)を、それぞれ以下の手法に従って調製した。
【0056】
−コーティング液Aの調製−
撹拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた200mLの三つ口フラスコに、1,3,5−トリス(アミノフェノキシ)ベンゼン[TAPOB]:1.20g(3.0mmol)を仕込み、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc):40mLを加えて溶解した。この溶液を撹拌しながら、40mLのDMAcに溶解した4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物[6FDA]:1.33g(3.0mmol)を徐々に加えた後、25℃で3時間、撹拌した。
【0057】
次いで、上記のDMAc溶液に、3−トリエトキシシリルプロピルコハク酸無水物[TEOSPSA]:0.159g(0.52mmol)を加え、更に2時間、撹拌することにより、多分岐ポリアミド酸(6FDA−TAPOB)のDMAc溶液(コーティング液A)を得た。この溶液のポリマー濃度は3.5重量%であった。
【0058】
−コーティング液Bの調製−
コーティング液Aに、テトラメトキシシラン[TMOS]及びイオン交換水を適量加え、室温で24時間、撹拌し、多分岐ポリアミド酸(6FDA−TAPOB)−シリカハイブリッドのDMAc溶液(コーティング液B)を得た。
【0059】
なお、このDMAc溶液をポリエステルシート上にキャストし、85℃で2時間、乾燥した後、シート上より固形物を剥がし取り、かかる固形物に対して、窒素雰囲気下にて100℃で1時間、200℃で1時間、300℃で1時間、加熱処理を施すことにより、ポリイミド−シリカハイブリッドフィルムを得た。得られたポリイミド−シリカハイブリッドフィルムについて、セイコーインスツル株式会社製のEXSTAR TG/DTA6300(商品名)を用い、空気雰囲気下、温度範囲25〜800℃、昇温速度10℃/minにて熱重量−示差熱測定(TG−DTA測定)を行い、800℃における焼成残渣からシリカ含有量を算出したところ、10重量%のシリカが含まれていることが確認された。
【0060】
−コーティング液Cの調製−
撹拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた200mLの三つ口フラスコに、1,3,5−トリス(アミノフェニル)ベンゼン[TAPB]:1.06g(3.0mmol)を仕込み、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc):40mLを加えて溶解した。この溶液を撹拌しながら、80mLのDMAcに溶解した4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物[6FDA]:1.33g(3.0mmol)を徐々に加えた後、25℃で3時間、撹拌した。
【0061】
次いで、上記のDMAc溶液に、3−トリエトキシシリルプロピルコハク酸無水物[TEOSPSA]:0.159g(0.52mmol)を加え、更に2時間、撹拌することにより、多分岐ポリアミド酸(6FDA−TAPB)のDMAc溶液(コーティング液C)を得た。この溶液のポリマー濃度は2.2重量%であった。
【0062】
−コーティング液Dの調製−
コーティング液Cに、テトラメトキシシラン[TMOS]及びイオン交換水を適量加え、室温で24時間、撹拌し、多分岐ポリアミド酸(6FDA−TAPB)−シリカハイブリッドのDMAc溶液(コーティング液D)を得た。
【0063】
なお、かかるコーティング液Dを用いて、コーティング液Bと同様の条件に従ってフィルムを作製し、かかるフィルムについてTG−DTA測定を行ったところ、10重量%のシリカが含まれていることが確認された。
【0064】
−コーティング液Eの調製−
撹拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた300mLの三つ口フラスコに、1,3,5−トリス(アミノフェノキシ)ベンゼン[TAPOB]:7.2g(18mmol)を仕込み、N,N−ジメチルアセトアミド[DMAc]:30mLを加えて溶解した。この溶液を撹拌しながら、54mLのDMAcに溶解した4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物[6FDA]:6.4g(14.4mmol)を徐々に加えた後、25℃で3時間、撹拌し、3−トリエトキシシリルプロピルコハク酸無水[TEOSPSA]:0.86g(2.8mmol)を加え、更に2時間、撹拌することにより、多分岐ポリアミド酸(6FDA−TAPOB)のDMAc溶液を得た。この溶液のポリマー濃度は17.6重量%であった。
【0065】
一方、撹拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた300mLの三つ口フラスコに、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物[6FDA]:32.0g(72mmol)を仕込み、DMAc:156mlを加えて溶解した。この溶液を撹拌しながら、3,3’−ジヒドロキシベンジジン[HAB]:15.3g(71.28mmol)を徐々に加え、25℃で3時間、撹拌することにより、直鎖ポリアミド酸(6FDA−HAB)のDMAc溶液を得た。この溶液のポリマー濃度は26.8重量%であった。
【0066】
以上のようにして得られた多分岐ポリアミド酸(6FDA−TAPOB)のDMAc溶液、及び直鎖ポリアミド酸(6FDA−HAB)のDMAc溶液を、多分岐ポリアミド酸(6FDA−TAPOB):直鎖ポリアミド酸(6FDA−HAB)=20:80(重量比)となるように混合した後、ポリマー濃度が4.0重量%となるように適量のDMAcを加えて希釈することにより、多分岐ポリアミド酸(6FDA−TAPOB)と直鎖ポリアミド酸(6FDA−HAB)との混合溶液(コーティング液E)を得た。
【0067】
−コーティング液Fの調製−
コーティング液Eに、テトラメトキシシラン[TMOS]及びイオン交換水を適量加え、室温で24時間、撹拌することにより、多分岐ポリアミド酸(6FDA−TAPOB)−シリカハイブリッドと直鎖ポリアミド酸(6FDA−HAB)との混合溶液(DMAc溶液、コーティング液F)を得た。
【0068】
なお、かかるコーティング液Fを用いて、コーティング液Bと同様の条件に従ってフィルムを作製し、かかるフィルムについてTG−DTA測定を行ったところ、10重量%のシリカが含まれていることが確認された。
【0069】
以上のようにして得られた多孔性基材及びコーティング液A〜Fを用いて、7種類の複合中空糸膜(実施例1〜6、比較例1)を作製した。尚、以下の実施例1〜6及び比較例1において得られた各中空糸膜については、以下の手法に従って気体透過測定を行い、気体透過速度Q[cm3 (STP)/(cm2 ・sec・cmHg)]及び気体分離係数αを求めた。具体的には、1)得られた中空糸膜を適当な長さに切り出し、片端をエポキシ接着剤で封止した後、ステンレス製パイプに固定して簡易モジュールを作製し、2)このモジュールを気体透過装置にセットし、1気圧、25℃で定容法により気体透過測定を行った。尚、気体透過装置は、高圧部位、簡易モジュール及び低圧部位の3つの部位に大別される。高圧部位は、中空糸膜に一定圧力の透過気体を供給するための部位であり、測定中の圧力低下を最小限に抑えるために十分な体積を確保した。導入圧力は、信号出力端子を備えた電源供給ユニット(日本エム・ケー・エス株式会社製、型番:113BJ-2 )に接続した圧力計(同社製、Baratron圧力計、型番:722A-14Tシリーズ)にて、モニターした。このような気体透過装置を用いて、先ず、簡易モジュールを気体透過装置にセットし、系内を真空として十分に乾燥させた。次いで、簡易モジュールの中空糸膜内部に気体を導入し、中空糸膜表面より透過する気体を低圧部位で捕集した。このとき、中空糸膜表面より透過した気体による低圧部位の圧力変化を、前述の電源供給ユニットに接続された別個の圧力計(同社製、Baratron圧力計、型番:626A-01Tシリーズ)にてモニターした。得られた気体透過速度Q及び気体分離係数αを、使用したコーティング液の種類(A〜F)と共に下記表1に示す。
【0070】
−実施例1−
多孔性基材の外周部をコーティング液Aに浸漬し、かかる状態にて1分間保持した。その後、多孔性基材を取り出し、窒素雰囲気下にて、100℃で1時間、200℃で1時間、300℃で1時間、多孔性基材に対して加熱処理を施すことにより、緻密層が多分岐ポリイミド(6FDA−TAPOB)からなる複合中空糸膜を得た。
【0071】
−実施例2−
コーティング液Aに代えてコーティング液Bを用いた以外は実施例1と同様の条件に従うことにより、緻密層が多分岐ポリイミド(6FDA−TAPOB)−シリカハイブリッドからなる複合中空糸膜を得た。
【0072】
−実施例3−
コーティング液Aに代えてコーティング液Cを用いた以外は実施例1と同様の条件に従うことにより、緻密層が多分岐ポリイミド(6FDA−TAPB)からなる複合中空糸膜を得た。
【0073】
−実施例4−
コーティング液Aに代えてコーティング液Dを用いた以外は実施例1と同様の条件に従うことにより、緻密層が多分岐ポリイミド(6FDA−TAPB)−シリカハイブリッドからなる複合中空糸膜を得た。
【0074】
−実施例5−
コーティング液Aに代えてコーティング液Eを用いた以外は実施例1と同様の条件に従うことにより、緻密層が、多分岐ポリイミド(6FDA−TAPOB)と直鎖ポリイミド(6FDA−HAB)とのポリマーブレンドからなる複合中空糸膜を得た。
【0075】
−実施例6−
コーティング液Aに代えてコーティング液Fを用いた以外は実施例1と同様の条件に従うことにより、緻密層が、多分岐ポリイミド(6FDA−TAPOB)−シリカハイブリッドと直鎖ポリイミド(6FDA−HAB)とのポリマーブレンドからなる複合中空糸膜を得た。
【0076】
−比較例1−
多孔性基材を適当な長さに切り出し、片端をエポキシ接着剤で封止して中空糸膜とした。なお、比較例1においては、コーティング液による緻密層を形成を行わなかった。
【0077】
【表1】

【0078】
かかる表1からも明らかなように、本発明に従い、緻密層が多分岐ポリイミド系材料にて形成された複合中空糸膜(実施例1〜6)にあっては、良好な気体分離性を発揮することが確認された。また、特に、多分岐ポリイミド−シリカハイブリッドを含む多分岐ポリイミド系材料にて緻密層を形成すると(実施例2、4、6)、気体透過速度の向上(それぞれ3.5×10-6、1.5×10-6、1.3×10-6[cm3 (STP)/(cm2 ・sec・cmHg])も認められ、実用化された際には気体分離処理速度の向上が期待できるものである。
【0079】
一方、多分岐ポリイミド系材料からなる緻密層が設けられていない中空糸膜(比較例1)の気体分離係数α(CO2 /CH4 )は0.68であり、気体分離性能が極めて悪い。比較例1の中空糸膜は、気体の分子量に反比例する、分子流に基づく気体透過挙動を示し、最表層に数十Å〜数百Åの細孔径を有するものであった。この細孔径は気体分子のサイズよりも一桁以上大きく、気体分離用の中空糸膜としては不適であると考えられる。
【符号の説明】
【0080】
10 複合中空糸膜
12 多孔質層
14 緻密層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性材料からなる多孔質層の内側面又は外側面に緻密層が設けられてなる複合中空糸膜にして、前記緻密層が多分岐ポリイミド系材料にて形成されていることを特徴とする複合中空糸膜。
【請求項2】
前記多分岐ポリイミド系材料が、多分岐ポリイミドと直鎖ポリイミドとのポリマーブレンドである請求項1に記載の複合中空糸膜。
【請求項3】
前記多分岐ポリイミドが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族トリアミンと、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物若しくはそれらの誘導体とを反応せしめて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド酸と、下記式(1)で表わされるアルコキシドの少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をイミド化せしめてなる、多分岐ポリイミド相と無機酸化物相とが共有結合によって一体となった複合構造を呈する有機−無機ポリマーハイブリッドである請求項1又は請求項2に記載の複合中空糸膜。
1m(OR2n・・・式(1)
1 、R2 :炭化水素基
M:Si、Mg、Al、Zr又はTiの何れかの原子
m:0又は正の整数
n:正の整数
m+n:原子Mの原子価
【請求項4】
前記多分岐ポリイミドが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族トリアミンと、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物若しくはそれらの誘導体とを反応せしめて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド酸を、イミド化せしめてなるものである請求項1又は請求項2に記載に記載の複合中空糸膜。
【請求項5】
前記直鎖ポリイミドが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ヒドロキシジアミンとを反応せしめて得られる直鎖ヒドロキシポリイミドである請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の複合中空糸膜。
【請求項6】
前記緻密層がコーティング法に従って形成されている請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の複合中空糸膜。
【請求項7】
二酸化炭素/メタンの分離係数が10〜200である請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の複合中空糸膜。
【請求項8】
前記多孔性材料が、多孔性ポリイミド、多孔性ポリアミド、多孔性ポリベンゾイミダゾール及び多孔性ポリベンゾオキサゾールからなる群より選ばれる一種以上のものである請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の複合中空糸膜。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−210608(P2012−210608A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78537(P2011−78537)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】