説明

複合体および複合膜

【課題】膨張性(Quellung)を備えると同時に電気化学セルの作動温度を100℃より高くした場合にも、イオン導電性(特にはプロトン伝導性)の高い複合体を提供する。
【解決手段】アイオノマーおよび無機の、場合によっては官能化された層状ケイ酸塩からなる複合体または複合膜に関しここで、アイオノマーは、(a)陽イオン交換ポリマー、(b)陰イオン交換ポリマー、(c)陽イオン交換基および陰イオン交換基の両方をポリマー鎖上に有するポリマー、(d)混合比が(a)100%乃至(b)100%である(a)と(b)との混合物、とすることができる。また、複合体/複合膜の以下の適用に関し、100℃より高い温度における膜燃料電池(H2燃料電池PEFC、直接メタノール燃料電池DMFC)のプロトン伝導体、透析、拡散透析、ガス分離、浸透気化、浸透抽出、精密ろ過および限外ろ過等の(電気)膜分離法、触媒膜反応装置の触媒膜。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
イオノマー膜は、例えば膜燃料電池、電気透析、拡散透析、電気分解(PEM電気分解、塩素アルカリ電気分解)または電気化学処理等の多くの処理に用いられている。しかし、市販の膜には、100℃より高い温度領域においてほとんどの場合膜が乾燥してしまうためにプロトン伝導性が急激に低下するという欠点がある。しかし、100℃より高い温度では燃料電池の温度制御が非常に単純になり、かつ燃料電池反応の触媒が本質的に向上する(触媒に有害となり得る、過電圧が減少し、COの付着がない)ので、100℃より高い温度領域は、アイオノマー膜を用いた燃料電池にとって非常に興味深い。
【0002】
例えばカルボニル−1,4−フェニレンオキシフェニル−4−スルホン酸端基を有するポリフェニレン等の、100℃より高い温度で良プロトン伝導性を示す膜のわずかな例が、文献から知られている。しかし、これらの膜のプロトン伝導性も130℃より高い温度で急激に低下するし、100℃と130℃との間では良プロトン伝導性である理由も不明である。
【0003】
グロットサス(Grotthus)機構に基づき、プロトンの伝導は酸性溶媒中ではプロトンに、アルカリ性溶液中では水酸化イオンに荷電粒子として現れる。実際に電荷の移送を可能にする水素結合が架橋構造として存在する。すなわち、膜中に存在する水が電荷の移送を補助する役割を果す。これらの市販の膜中にこの補助的水がなければ、膜を通した電荷の移送がほとんど発生せず、その機能を失う。フッ素化炭化水素骨格鎖の代わりにリン酸骨格鎖と共に働く、他の新たに開発された方法も補助的架橋形成体として水を必要とする(Altertiら、SSPC9、ブレド、スロベニア、1998年8月17〜21日、拡張要旨集、235頁)。微小なSiO粒子をo.g.膜に付加することにより(Antonucciら、SSPC9、ブレド、スロベニア、1998年8月17〜21日、拡張要旨集、187頁)、プロトンの伝導は140℃まで安定になるが、しかし4.5バールの作動圧力条件下に限られる。作動圧力を上げなければ、やはりこれらの膜は100℃より高い温度で水の架橋を失い、乾燥してしまう。すべてのo.g.膜型の本質的欠点は、最適作動条件下においてさえも最大100℃までの温度での使用にしか適していないという点である。
【0004】
前記の方法と同様に、Dentonら(米国特許第6,042,958号)は、イオン伝導性ポリマーの複合体および多空孔質基材を作った。ガラス、セラミック材料またはシリカをケイ酸成分として用いた。開示した実施例において、作動温度に関しては、ここでもやはり80℃を超えなかった。
【0005】
直接メタノール燃料電池において、水は実際には十分に存在するが、しかし膜を通してメタノールを流すことは著しい能力低下に繋がる。
【0006】
スルホン化ポリアリールエーテルエーテルケトン膜(欧州特許第0574791B1号)またはスルホン化ポリエーテルスルホン膜とシリカとの新たな複合体が作られたが、1.5(meq/g)もの陽イオン交換容量で膜を流れ、強すぎるので最終的には膜が破壊される。
【0007】
この発明に好適な複合体およびそれから作られた膜の利点は、プロトン化窒素塩基がポリマー骨格の1つに存在する場合、有機成分を貯蔵すること、特には架橋構成成分の代表であるプロトン化窒素塩基を層状ケイ酸塩の空孔中へ貯蔵することである。さらに、陽イオンまたは金属水酸化物を意図的に貯蔵し、続いて対応する金属酸化物変換することにより、ルイス酸の特性および膜の空孔の大きさを広範に変えることができる。層状ケイ酸塩をさらに官能化して、組み込まれたアイオノマーと相互作用するか、または官能基にしたがって周囲の媒体に影響を及ぼすかのいずれかとなる。
【0008】
層状ケイ酸塩(粘土鉱物)は興味深い性質を有する。
・250℃まで水和水を保有した状態にある。
・さらに金属陽イオンおよび金属酸化物をこれらの物質中に貯蔵することが可能であり、これにより内部プロトン伝導性が次の一般系のように引き起こされる。
n+(HO)−>(M−OH)(n−1)++H [有機反応におけるゼオライト、粘土およびヘテロポリ酸( Zeolite, clay and hereropoly acid in organic reactions)、Y.イズミ、K.ウラベ、M.オナカ、1992年、ワインハイム、VCH出版、26頁]。
・ルイス酸空孔を示す層状ケイ酸塩を、塩基ポリマーの塩基基と酸−塩基相互作用によりインターカレートする(interkalieren)ことができる[プラスチックナノ複合材、シンポジウム:発明から革新へ、1998年5月6日ケルンにおける化学工業基金シンポジウム用出版物、(Kunststoffnanokomposite, Symposium:Von der Invention zur Innovation, Publikation zum Symposium des Fonds der Chemishen Industrie am 6. Mai 1998 in Koln)]。この性質により、ある種の層状ケイ酸塩/ポリマー複合材が既に合成されている。したがって、Muhlhauptらがモンモリロナイトとポリプロピレン、モンモリロナイトとポリアミド、およびモンモリロナイトとプレキシガラスの複合材を作っている。これらの複合材により、例えばプレキシガラスはモンモリロナイトとの混合物によって不燃性となる。混合された層状ケイ酸塩が燃焼により発生した熱分解ガスに対するバリアとなるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
こうした技術状況を出発点として、本発明の課題は、膨張性(Quellung)を備えると同時に電気化学セルの作動温度を100℃より高くした場合にも、イオン導電性(特にはプロトン伝導性)の高い複合体を提供することである。したがって、本発明の目的は、酸および/または有機塩基と層状ケイ酸塩とを有するイオン伝導複合体であって、その組成が酸−塩基の割合を1乃至99重量%とし、層状ケイ酸塩を99乃至1重量%とすることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の複合体および複合膜の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(a) 酸を陽イオン交換ポリマー(陽イオン交換基−SOH、−COOH、−POを有し、該ポリマーを前記陽イオン交換基の何れか、または前記陽イオン交換基の混合物のみで修飾可能なもの)とすることができる。この場合、該ポリマーは架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成し得る。一般に、イオン交換容量は、0.1乃至12ミリ当量/gが好ましい。特には0.3乃至8ミリ当量/gが好ましい。さらには0.5乃至2ミリ当量/gが好ましい。ここで、骨格鎖として特に好適なのは熱可塑樹脂である。
【0012】
(b) 酸を有機または無機の低分子酸とすることもできる。無機酸としては、特に硫酸およびリン酸が好ましい。有機酸としては、スルホン酸またはカルボン酸の全ての低分子酸、特にはアミノスルホン酸およびその前駆体としてアミノスルホ塩化物を用いることができる。
【0013】
(c) 塩基を陰イオン交換ポリマー(陰イオン交換基−NR(R=H、アルキル、アリール)、ピリジニウム PyrR、イミダゾリウム ImR、ピラゾリウム PyrazR、トリアゾリウム TriRおよび他の有機塩基芳香および/または非芳香族(R=H、アルキル、アリール)を有し、該ポリマーを前記陰イオン交換基の何れか、または前記陰イオン交換基の混合物のみで修飾可能もの)とすることができる。この場合、該ポリマーは架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成し得る。この場合、陰イオン交換容量は、一般に、1乃至15ミリ当量/gが好ましい。特には3乃至12ミリ当量/gが好ましく、さらには6乃至10ミリ当量/gが好ましい。この場合も骨格鎖としては全ての熱可塑樹脂、特にはポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリベンズイミダゾールおよびポリビニルピリジンが好ましい。
【0014】
(d) 塩基を有機または無機の低分子塩基とすることができる。有機低分子塩基としては、全てのグアニジン誘導体が特に好ましい。
【0015】
(e) 酸および塩基の官能基を同一分子内に存在させることができる。これらの分子を低分子または高分子とすることができる。それがポリマーの場合には、(c)の陰イオン交換基と(a)の陽イオン交換基の両方がポリマー鎖上に存在する。
【0016】
(f) 前記(a)乃至(e)の酸および塩基を複合体中で混合することができる。この場合、あらゆる混合比を適用することができる。この場合、この混合にはイオン的架橋に加えて共有的に架橋を形成することができる。
【0017】
(g) 酸も塩基も低分子であるので、非修飾ポリマーもさらに複合体中に含まれる。
【0018】
(h) 無機活性充填材は、モンモリロナイト、スメクタイト、イライト、セピオライト、パリゴルスカイト、マスコバイト、アレファダイト(Allevardit)、アメサイト、ヘクトライト、タルク、フッ化ヘクトライト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、スティーブンサイト、ベントナイト、雲母、バーミキュライト、フッ化バーミキュライト、ハロイサイト、フッ素含有合成タルカムパウダーに基づく層状ケイ酸塩または前記層状ケイ酸塩の2以上の混合物である。層状ケイ酸塩を層剥離化(delaminiert)またはピラー化(pillartiert)することができる。特にはモンモリロナイトが好ましい。層状ケイ酸塩の重量比を1乃至80%、好ましくは2乃至30重量%、および特には5乃至20重量%とすることができる。
【0019】
(官能化した層状ケイ酸塩の説明)
層状ケイ酸塩の下には、SiO四面体が2次元の無限の架橋で結び付けられた一般的なケイ酸塩が見られる。(陰イオンに対する実験式は(Si2−である。)個々の層はその間にある陽イオンにより互いに結合している。その際、天然に存在する層状ケイ酸塩中では陽イオンの大部分はNa、K、Mg、Alおよび/またはCaである。
【0020】
層剥離した官能化層状ケイ酸塩の下には、いわゆる官能化剤(Funktionalisierungsmitteln)を用いた転換により隣接する層間距離が広がった層状ケイ酸塩が見られる。層間剥離したケイ酸塩の層厚は、通常5乃至100オングストローム、好ましくは5乃至50オングストロームおよび特には8乃至20オングストロームである。層間距離を広げる(疎水化する)ために、層状ケイ酸塩を(本発明に好適な複合物を作る前に)いわゆる官能疎水化剤により転換する。これはしばしばオニウムイオンまたはオニウム塩とも呼ばれる。層状ケイ酸塩の陽イオンを有機官能化疎水化剤により転換して、層状ケイ酸塩を直接組み込むそれぞれの官能化された分子またはポリマーの型に応じて、有機残基の型により所望の層間距離が得られることができる。金属イオンの交換を完全にまたは部分的に起こすことができる。好ましくは金属イオンの交換を完全にする。交換可能な金属イオンの量を通常層状ケイ酸塩1gに対するミリ当量(meq)で表し、これをイオン交換容量と呼ぶ。層状ケイ酸塩の陽イオン交換容量は少なくとも0.5であることが好ましく、さらに好ましくは0.8乃至1.3meq/gである。
【0021】
好適な有機官能疎水化剤は、1つまたは複数の有機残基を有するオキソニウム、アンモニウム、ホスホニウムおよびスルホニウムイオンから誘導される。好適な官能疎水化剤としては、一般式Iおよび/またはIIが挙げられる。
【化1】

ここで、置換基は以下の特徴を有する。
R1、R2、R3、R4は、互いに異なる水素または直鎖、分岐鎖、飽和もしくは不飽和の、1乃至40個、好ましくは1乃至20個の炭素原子を有する炭化水素であり、場合によっては少なくとも1つの官能基を有するか、または2つの残基が互いに結合しており、好ましくは5乃至10個の炭素原子を有し、特には1つまたは複数の窒素原子を有する複素環式残基であり、Xはリンまたは窒素であり、Yは酸素または硫黄であり、nは1乃至5、好ましくは1乃至3のいずれかの整数であり、かつZは1つの陰イオンである。
好適な官能基はヒドロキシル、ニトロまたはスルホ基であり、ここでカルボキシルおよびスルホン酸基が特に好ましい。同様に、スルホ塩化物およびカルボン酸塩化物が特に好ましい。
【0022】
好適な陰イオンZは、プロトンを供給する酸、特には無機酸であり、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素等のハロゲン、スルフェート、スルホネート、ホスフェート、ホスホネート、ホスファイトおよびカルボキシレート、特にはアセテートが好ましい。基材として用いられる層状ケイ酸塩は、通常懸濁液の状態に変換される。好ましい懸濁剤は水であり、場合によってはアルコールとの混合物、特には1乃至3個の炭素分子を有する低級アルコールとの混合物である。官能疎水化剤は非水溶性であるので、それを溶解する溶媒が好ましい。特には非プロトン性溶媒である。懸濁剤の更なる例としては、ケトンおよび炭化水素である。通常、水混和性の懸濁剤が好ましい。疎水化剤を層状ケイ酸塩に添加してイオン交換を起こし、それにより層状ケイ酸塩の沈降を防ぐ。イオン交換の副産物として生じる金属塩は好ましくは水溶性であり、したがって結晶固体物質として疎水性層状ケイ酸塩を例えばろ過により分離することができる。イオン交換は反応温度と大幅に独立している。この温度は媒体の結晶化温度より高く、沸点より低いことが望ましい。水系であるので、この温度は0乃至100℃、好ましくは40乃至80℃である。
【0023】
陽イオンおよび陰イオン交換ポリマーに対してはアルキルアンモニウムイオンが好ましく、特にカルボン酸塩化物またはスルホン酸塩化物がさらに同じ分子内に官能基として存在する場合に好ましい。アルキルアンモニウムイオンは、市販のヨウ化メチル等の通常のメチル化剤全般である。好適なアンモニウムイオンは、オメガ−アミノカルボン酸であり、特にオメガ−アミノスルホン酸およびオメガ−アルキルアミノスルホン酸が好ましい。オメガ−アミノスルホン酸およびオメガ−アルキルアミノスルホン酸は例えば塩酸、硫酸またはリン酸等の通常の無機酸と共に、またはヨウ化メチル等のメチル化剤から得ることができる。さらに好ましいアンモニウムイオンは、ピリジンおよびラウリルアンモニウムイオンである。疎水化の後、層状ケイ酸塩は通常層間距離が10乃至50オングストローム、好ましくは13乃至40オングストロームとなる。
【0024】
疎水化および官能化した層状ケイ酸塩を乾燥させて水を無くす。通常、このように処理した層状ケイ酸塩は、残留含水率0乃至5重量%の水を依然として含有する。次いで、疎水化層状ケイ酸塩を、最大限に乾燥した懸濁剤の懸濁物質として、前記ポリマーと混合し、さらに処理することができる。このポリマーは本発明に好適であり、特に疎水化層状ケイ酸の懸濁液に好適な熱可塑官能化ポリマー(アイオノマー)が得られる。これを既に溶解した形態とすることもできるし、または溶液中の懸濁物質自体にポリマーを入れてもよい。通常、層状ケイ酸塩の割合は、1乃至70重量%である。好ましくは2乃至40%であり、特には5乃至15重量%である。
【0025】
(複合体の製造方法)
本発明はさらに複合膜の製造方法に関する。以下にプロトン伝導性の高いプロトン導電性化合物の製造の一例を説明する。
【0026】
1) アミノアリールスルホクロライドをテトラヒドロフランに溶解する。その後、対応する量のモンモリロナイトK10を加える。モンモリロナイトをプロトン交換し、乾燥する。その後、数時間攪拌する。攪拌時間はアミノアリールスルホクロライドの分子の大きさおよびモンモリロナイトの陽イオン交換容量に対するアミノ基の比によって決まる。攪拌処理中に、アミノ基をモンモリロナイトの空孔にインターカレートする。ここで、懸濁液としてスルホ塩素化ポリスルホンをテトラヒドロフランに溶解する。熱可塑樹脂のスルホクロライド量は繰返し単位当たり約0.5基である。懸濁液を攪拌し、慎重に脱気し、ガラス板上にフィルムを形成する。室温でテトラヒドロフラン(THF)を蒸発させる。添加したスルホ塩素化ポリスルホンが5乃至10重量%となるようにモンモリロナイトの量を選択する。フィルムを完全に乾燥し、脱塩水中で剥離した後、10%塩酸中において90℃で後処理する。
【0027】
この際、スルホクロライド基は加水分解され、スルホン酸基に変わる。得られた膜をさらに80乃至90℃の熱湯で後処理し、塩酸がもはや検出されないようにする。繰返し単位当たり0.5基のSO2Clを有するスルホ塩素化ポリスルホンは、加水分解後1.0ミリ当量/グラムの陽イオン交換容量に相当する。アミノアリールスルホクロライドからの付加スルホン酸基により、陽イオン交換容量がその量に応じて著しく上昇し、非水溶性となる。同じ陽イオン交換容量において、スルホン化ポリスルホンを除いて水溶性である。
【0028】
2) 0.9ミリ当量/グラムの陽イオン交換容量(IEC)を有するスルホン化ポリエーテルエーテルケトンを高温(T>80℃)のN−メチルピロチドン(NMP)に溶解する。この成分をスルホ塩素化した形態はTHFに不溶である。高分子スルホン酸およびその塩は、THFに全くまたはほとんど不溶である。ここで、この溶液にアミノスルホン酸を積載したモンモリロナイトK10のNMP懸濁液を加える。スルホン酸基は表面付近にあり、一方アミノ基はモンモリロナイトの空孔内にある。固形分がポリマー量の2乃至20重量%となるように、懸濁液の組合せを再び選択する。これはどの使用範囲で膜が必要であるかにより決まる。80乃至150℃の温度で、膜を炉内で乾燥する。膜をガラス板から剥離し、脱塩水内で12時間90℃で後処理する。
【0029】
3)スルホ塩素化ポリスルホンおよびアミノ化ポリスルホンをTHFに溶解する。その後、10重量%のモンモリロナイトK10(乾燥しプロトン化した形態)を加える。懸濁液を攪拌し、脱気して前記の膜を得る。ガラス板から剥離した後、膜を希塩酸中で80℃で後処理する。この場合もスルホクロライド基はスルホン酸に加水分解される。次いで、膜をさらに脱塩水で処理して、膜から完全に塩酸を除去する。
【0030】
本発明による複合体の以下のような驚くべき特性が分かった。
・複合体は、100℃よりはるかに高い温度で非常に高いイオン導電性を示す。特に、この温度域においても複合体のプロトン伝導性は非常に良好である。これは、一方では粘土鉱物の保水特性に、他方では粘土鉱物の固有プロトン導電性に起因するものである。プロトン導電性が良好であることにより、この複合体を前記の温度域で燃料電池膜に適用することができる。
・空孔中でポリマー分子およびゼオライト等の粘土鉱物が相互に作用することができるので、空孔をケイ酸塩に設けることにより複合膜の化学的、機械的および熱的安定性が著しく向上する。特に、アイオノマー混合物を含有する塩基性ポリマーおよび塩基性ポリマー成分を、ケイ酸塩のルイス酸空孔中の塩基性基の相互作用によりインターカレートすることが可能である。これにより酸性ケイ酸塩と塩基性ポリマー鎖との間のイオン的架橋が形成され、これは系のpHに依存せず、特に複合膜が強酸または強塩基媒質中に置かれた場合、機械的、化学的および熱的安定性の向上に寄与する。
【0031】
・DMFCに適用すると、本発明に好適な複合膜は、膜に対するメタノール浸透性およびガス拡散性が低下する。この際、次のようにして膜のメタノール透過性および選択透過性を意図的に調整することができる。
・層状−/網状ケイ酸塩の型。
・複合体中のケイ酸塩の重量割合。
・ケイ酸塩の空孔中へのスペーサー分子(Spacermolekulen)および二官能分子の意図的導入。この際、スペーサー分子と透過分子との相互作用の型および強度は、膜の露出している官能基と透過分子の官能基の型によって決まる。ベントナイト表面上のアルカリベントナイトに対する交換において、例えばアミノスルホン酸またはアミノカルボン酸とアミン官能物(Aminfunktion)を組み合わせる。第2官能基は、ポリマーとの反応またはプロトン移送電気膜法に使用可能である。
【0032】
・本発明に好適な膜は、従来のアイオノマー膜に比べて、付着物(菌類および細菌によるアイオノマー膜の微生物的腐食)が非常に少なく、アイオノマー膜中のケイ酸塩(モンモリロナイト)の2乃至5重量%である。複合体に混合した粘土鉱物がこの原因である。微生物分解、特に菌類による分解を非常に遅延させることで、粘土鉱物が土壌改良剤として作用することは、すでに長年にわたり知られている。驚くべきことに、粘土鉱物のこの特性は粘土鉱物含有膜にも効果を発揮する。本発明に好適な複合物のこの特性により、水処理および廃水処理分野における膜分離技術、およびいかなる酸化環境、例えばヒドロキシラジカルおよび/または過酸化水素を含有する環境にも適用が可能となる。
・本発明に好適な粘土鉱物を構成するシリカ化合(silicatischen)ルイス酸の触媒特性を本発明に好適な複合物にも用いることができる。
【実施例】
【0033】
(実施例)
1.スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(スルホン化率70%)を5重量%のモンモリロナイトとDMAc中に溶解し、溶剤を蒸発させて厚さ50μmの膜を得る。この膜を菌類で汚染した水性培地に入れる。菌類による分解は検出されない。モンモリロナイトの入っていないコントロールでは、非常に繁殖が起こり、かつ分解される。
【0034】
2.a)塩の形態のスルホン化ポリスルホンおよびポリビニルピリジンを、最終容量として1ミリ当量[H]/gの全混合物が得られるような比で混合する。両方のポリマーをDMAcに溶解して膜を得る。得られた膜の比抵抗は33[Ω×cm]である。
b)2.aと同じ混合物に8重量%の活性化モンモリロナイトをさらに加え、2.aと同様にして膜を得る。比抵抗は27.7[Ω×cm]である。
【0035】
3.DMAcに溶解したポリベンズイミダゾールを10重量%の活性化モンモリロナイトと混合し、層状ケイ酸塩を入れないものをコントロールとする。両方の混合物からそれぞれ膜を作り、インピーダンス分光法により抵抗を測定する。層状ケイ酸塩の入っていないものは抵抗値が588[Ω×cm]であり、層状ケイ酸塩の入っているものは276[Ω×cm]である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸および/または有機塩基と層状/網状ケイ酸塩とを含有するプロトン導電性複合体であって、酸−塩基複合物の割合が1乃至99重量%であり、層状/網状ケイ酸塩の割合が99乃至1重量%であることを特徴とする複合体。
【請求項2】
複合体および複合体混合膜の製造方法であって、アイオノマー溶液またはアイオノマー前駆体の溶液を層状もしくは網状ケイ酸塩、または両者の混合物と混合し、得られた懸濁液から溶剤を蒸発させることを特徴とする方法。ここで、アイオノマーは、(a)陽イオン交換ポリマー(陽イオン交換基−SOH、−COOH、−POを有し、該ポリマーを前記陽イオン交換基の何れか、または前記陽イオン交換基の混合物のみで修飾可能なもの)。ここで、該ポリマーは架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成し得る。ここで、ポリマー骨格鎖は、ビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物とすることができる。
(b)陰イオン交換ポリマー(陰イオン交換基−NR(R=H、アルキル、アリール)、ピリジニウム PyrR、イミダゾリウム ImR、ピラゾリウム PyrazR、トリアゾリウム TriRおよび他の有機塩基芳香および/または非芳香族基(R=H、アルキル、アリール)を有し、該ポリマーを前記陰イオン交換基の何れか、または前記陰イオン交換基の混合物のみで修飾可能なもの)。ここで、該ポリマーは架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成し得る。ここで、ポリマー骨格鎖は、ビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物とすることができる。
(c)ポリマー鎖上に(a)の陰イオン交換基と(b)の陽イオン交換基との両方を有するポリマー。ここで、ポリマー骨格鎖は、ビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物とすることができる。
(d)(a)と(b)の混合物であって、混合比が(a)100%から(b)100%にまで達することができる。ここで、該混合物はイオン的架橋に加えて、さらに共有的に架橋を形成している。ここで、ポリマー骨格鎖は、ビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物とすることができる。
ここで、アイオノマーの前駆体としては、(a)陽イオン交換樹脂の前駆体。
(a1)CoHal−、CONR−またはCOOR−基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー。
(a2)SOHal−、SONR−またはSOOR−基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー。
(a3)POHal−、PO(NR−またはPO(OR)−基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー。
(b)陰イオン交換樹脂の前駆体(NR−基(R=H、アルキル、アリール)、ピリジル Pyr、イミダゾイル Im、ピラゾリル Pyraz、トリアゾリル Triおよび/または他の有機塩基芳香および/または非芳香基を有する)。ここで、無機成分は、層状ケイ酸塩もしくは網状ケイ酸塩またはこれらの任意の混合物とすることができる。
【請求項3】
a)層状ケイ酸塩(フィロケイ酸塩)群の中で、一般にベントナイト群、特にはモンモリロナイト/バイデライト系、さらにはモンモリロナイトが好適であることを特徴とする請求項1記載の方法。
b)ピラー化(pillartierte)層状ケイ酸塩を用いることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
a)網状ケイ酸塩(テクトケイ酸塩)群の中で、一般にゼオライト群、特にはクリノプチロライトが好適であることを特徴とする請求項1記載の方法。
b)ピラー化網状ケイ酸塩を用いることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
天然層状ケイ酸塩および合成層状ケイ酸塩の両者を用いることを特徴とする、請求項1乃至4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
塩基成分がイミダゾール、ビニルイミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、カルバゾール、インドール、イソインドール、デヒドロオキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンゾイミダゾール、イミダゾリジン、インダゾール、4,5−ジヒドロピラゾール、1,2,3−オキサジアゾ−ル、フラザン、1,2,3−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1,2,4−トリアゾール、テトラゾール、ピロール、アニリン、ピロリジンまたはピラゾール基を有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
アイオノマーとして酸−塩基混合物(d)が、ならびに合成および天然起源の両方の粘土鉱物モンモリロナイトが好適であり、かつそれが官能化されている事を特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項8】
アイオノマーとして酸−塩基混合物(d)が、およびゼオライトとしてクリノプチロライトが好適であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項9】
酸ポリマーのポリマー骨格鎖を、アリール主鎖ポリマー群より選択したことを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。該アリール主鎖ポリマーの取り得る構造は次式の通りである。
【化1】

上式の構造から、取り得る合成アリール主鎖ポリマーは、− ポリエーテルエーテルケトン PEEK Victrex(登録商標)([R−R−R−R−R;x=1、R=H)
− ポリエーテルスルホン PSU Udel(登録商標)([R−R−R−R−R−R;R:x=1、R=H)
− ポリエーテルスルホン PES VICTREX(登録商標)([R−R−R−R;R:x=1、R=H)
− ポリフェニルスルホン RADEL R(登録商標)([(R−R−R−R−R]n;R:x=2、R=H)
− ポリエーテルエーテルスルホン RADEL A(登録商標)([R−R−R−R−R−[R−R−R−R;R:x=1、R=H、n/m=0.18)
− ポリフェニレンスルフィド PPS([R−R;R:x=1、R=H)
− ポリフェリレンオキシド PPO([R−R;R=CH
である。
【請求項10】
塩基ポリマーのポリマー骨格鎖をアリール主鎖ポリマー群〔化1〕またはヘトアリール(Hetaryl)主鎖ポリマーから選択したことを特徴とする、請求項1または2記載の方法。ヘトアリール主鎖ポリマーの取り得る構造は次式の通りである。
【化2】

式中のポリマーの構造は、1 イミダゾール、2 ベンズイミダゾール、3 ピラゾール、4 ベンズピラゾール、5 オキサゾール、6 ベンズオキサゾール、7 チアゾール、8 ベンズチアゾール、9 トリアゾール、10 ベンズトリアゾール、11 ピリジン、12 ビピリジル、13 フタル酸イミドである。
本発明に好適なヘトアリールポリマーとしては、以下のものが考えられる。
− ポリイミダゾール、ポリベンズイミダゾール− ポリピラゾール、ポリベンズピラゾール− ポリオキサゾール、ポリベンズオキサゾール− ポリチアゾール、ポリベンズチアゾール− ポリチオフェン、ポリベンズチオフェン− ポリピリジン− ポリイミド
【請求項11】
酸−塩基混合物において、請求項9〔化1〕記載の酸ポリマーを請求項10〔化2〕および請求項6記載の塩基ポリマーと組み合わせることを特徴とする、請求項1乃至10に記載の方法。
【請求項12】
非イオン伝導性複合体および複合体混合膜であって、請求項1乃至11において20乃至98重量%の基ポリマーおよび2乃至80重量%の層状/網状ケイ酸塩を膜用途および膜分離法に用いることにより入手可能な非イオン伝導性複合体および複合体混合膜。
【請求項13】
−40℃乃至200℃の温度で膜燃料電池(H燃料電池または直接メタノール燃料電池)に組み込んだ、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の複合体および複合体混合膜。
【請求項14】
透析、拡散透析、ガス分離、浸透気化、浸透抽出、精密ろ過、限外ろ過、ナノろ過および逆浸透等の(電気)膜分離法に複合体および複合体混合膜を組み込んだことを特徴とする、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
触媒膜として、または膜反応装置に組み込んだことを特徴とする、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の複合体および複合体混合膜。
【請求項16】
平面構造体、特には膜、箔、電極の被覆のための、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項17】
有機成分および本発明に好適なケイ酸塩成分を−40℃乃至300℃の温度において溶剤中で、または場合によっては溶剤無しで互いに接触させることを特徴とする、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項18】
400℃まで温度安定性を有する、請求項1乃至17のいずれか1項に記載のプロトン伝導体を含有する複合体。
【請求項19】
請求項2、6、9、10および11に記載の対応する混合物または単独の成分であって、溶液または懸濁液または溶剤フリーであるケイ酸塩成分と共に存在する混合物または成分で膜が被覆されていることを特徴とする、請求項16記載の複合膜または複合体の製造。
【請求項20】
請求項2、6、9、10および11の溶液または懸濁液または溶剤フリーであるケイ酸塩成分自体もしくは成分の混合物で被覆したことを特徴とする、請求項16記載の複合膜または複合体の製造。
【請求項21】
膜ならびに透析、拡散透析、ガス分離、浸透気化、浸透抽出、精密ろ過、限外ろ過、ナノろ過および逆浸透等の(電気)膜分離法に組込み、かつ微生物分解または酸化腐食に対して安定であることを特徴とする複合体の製造。
【請求項22】
複合体から製造した膜の選択透過性を変えるための請求項1乃至21のいずれか1項に記載の複合体の製造。
【請求項23】
無機成分を少なくとも2つの異なる塩基成分と混合することを特徴とする、請求項1乃至22のいずれか1項に記載の複合体の製造。ここで、塩基成分を高分子または低分子とすることができる。
【請求項24】
型を共有する任意の型に前記複合体を組込むことを特徴とする方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−149259(P2012−149259A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−34502(P2012−34502)
【出願日】平成24年2月20日(2012.2.20)
【分割の表示】特願2001−501354(P2001−501354)の分割
【原出願日】平成12年5月2日(2000.5.2)
【出願人】(507055877)
【出願人】(501421498)
【Fターム(参考)】