説明

複合体とそれを有する二次電池用電極活物質及び二次電池

【課題】 導電性と耐有機溶媒溶解性を両立できるラジカル化合物とそれを有する電極活物質、及びそれを用いた二次電池を提供すること。
【解決手段】 本発明の一側面としての複合体は、少なくとも表面が導電性カーボン材料からなる粒子と、式(1)で表される部分構造を有する安定ラジカル化合物と、を有し、安定ラジカル化合物が粒子に担持されている。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル化合物と粒子からなる複合体と、それを有する二次電池用電極活物質及びそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラなどの携帯機器の小型、高性能化に伴いこれらに用いられる蓄電デバイスの高性能化が求められている。代表的な蓄電デバイスとして、二次電池が挙げられる。その中でも正極にリチウム含有遷移金属酸化物、負極に炭素材料を用いたリチウムイオン二次電池は高エネルギー密度を有する二次電池として、広く利用されている。
しかしながら、リチウムイオン二次電池は電極におけるリチウムイオンの挿入脱離反応速度が遅いため、例えばデジタルカメラのフラッシュの発光を伴う連写のような高出力を必要とする使用方法は不可能であった。
【0003】
一方、電極に活性炭を用いた電気二重層キャパシタは高出力特性に優れた二次電池として広く検討されている。
【0004】
しかしながら、電気二重層キャパシタは単位容積あたりの蓄電容量が小さく、小型化が求められる携帯機器用蓄電デバイスとしては不向きであった。そこで、高容量、高出力を両立する新しい二次電池が検討されている。
【0005】
特許文献1には安定ラジカル化合物の酸化還元反応を利用した二次電池が開示されている。この二次電池は、正極または負極の活物質として例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシル(Cas No:2564−83−2。以下、TEMPOと略すことがある。)のような安定ラジカル化合物を用いている。
【0006】
このTEMPOに代表される安定ラジカル化合物は、一般的に炭素や窒素といった比重の小さな元素のみから構成される。また、安定ラジカル化合物では反応する不対電子がラジカル原子に局在化して存在するので、反応部位の濃度を増大させることができる。これらのことから、安定ラジカル化合物を電極活物質として用いると、電極の高容量化が期待できる。また、安定ラジカル化合物を電極活物質として用いると、ラジカル部位のみが反応に寄与するため、サイクル特性が電極活物質の拡散に依存しない安定性に優れた二次電池となりうる。さらに、この酸化還元過程において化合物構造の変化を伴わないため酸化還元反応速度が大きく、高出力が期待できる。
【0007】
一方、TEMPOのような安定ラジカル化合物を電極活物質として用いた二次電池には以下の課題がある。
【0008】
TEMPOを含め、一般的な安定ラジカル化合物はそれ自体に導電性がないので、充放電反応に寄与しない導電補助剤を添加して導電性を補うことが多い。しかし導電補助剤を添加するほど、電極全体として容量低下を招く可能性があるという課題がある。
【0009】
また、電位窓を広くするために、二次電池の電解質中の電解液の溶媒としては、一般的に有機溶剤が用いられている。しかしながら、安定ラジカル化合物は有機物であるため、有機溶剤に溶解しやすいという課題もある。
【0010】
これらの課題を解決する技術として、特許文献2には安定ラジカル化合物を高分子化し、主鎖骨格を導電性高分子で構成することにより、耐電解液溶解性と導電性を向上させた電極活物質及びその電極活物質を用いた二次電池が開示されている。
【0011】
また、特許文献3には安定ラジカル化合物を半導体材料に坦持、固定化することにより、耐電解液溶解性と導電性を向上させた電極活物質及びその電極活物質を用いた二次電池が開示されている。
【0012】
しかしながら、これらの電極活物質の導電性は十分でない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−151084号公報
【特許文献2】特開2008−135371号公報
【特許文献3】特開2008−078063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで本発明は、安定ラジカル化合物よりも有機溶媒に対する耐溶解性を向上させる複合体を提供することを目的とする。加えて、二次電池の電極材料として用いた場合に、安定ラジカル化合物を高分子化したり、半導体材料に担持させたりしたラジカル化合物よりも、電極層の導電性を高くし得る複合体とその複合体を有する電極活物質及びその電極活物質を用いた二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の一側面としてのラジカルを有する化合物は、少なくとも表面が導電性カーボン材料からなる粒子と、式(1)で表される部分構造を有する安定ラジカル化合物と、を有し、前記安定ラジカル化合物が前記粒子に担持されることで形成されることを特徴とする複合体である。
【0016】
【化1】

【発明の効果】
【0017】
本発明によればTEMPOのような一般的な低分子の安定ラジカル化合物よりも有機溶媒に対する耐溶解性が高い複合体を提供することができる。加えて、この複合体は、二次電池の電極材料として用いた場合に、安定ラジカル化合物を高分子化したり、半導体材料に担持させたりしたラジカル化合物よりも電極層の導電性を高くすることができる。また、この複合体を有する電極活物質及びその電極活物質を用いた二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】中性ラジカルとカチオン間の酸化還元反応の模式図である。
【図2】実施形態に係る二次電池の構成の一例を示す模式図である。
【図3】実施形態に係る複合体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、ラジカルの酸化還元反応を利用した二次電池用電極活物質として使用した際に、導電性と耐電解液溶解性を両立できるラジカル化合物について検討した。
【0020】
その結果、少なくとも表面が導電性カーボン材料からなる粒子(以下、単に粒子と略すことがある。)に式(1)で表される部分構造を有する安定ラジカル化合物(以下、単に安定ラジカル化合物と略すことがある。)を担持させた複合体が高い導電性と耐電解液溶解性を両立できることを見出した。
【0021】
結合強度の面から、上記安定ラジカル化合物は共有結合又は安定ラジカル化合物と結合した酸と粒子の表面に結合した酸とのアルカリ土類金属を介した結合を介して粒子に担持されることで複合体を形成することが好ましい。そのためには、X−L−Yで表される原子団を介して上記安定ラジカル化合物が粒子に担持されていればよい。
【0022】
但し、Xは下記式(2)〜(4)で表されるいずれか1つであって粒子と結合し、Yは下記式(5)〜(7)で表されるいずれか1つであって安定ラジカル化合物と結合し、Lは下記式(8)〜(20)で表されるいずれか1つである。X、L、Yがこのように選ばれることで、上記安定ラジカル化合物は共有結合又は安定ラジカル化合物を修飾する酸と粒子の表面を修飾する酸とのアルカリ土類金属を介した結合を介して粒子に担持され、複合体を形成する。
【0023】
【化2】

【0024】
但し、mは0以上5位かの整数である。なお、式(4)においてmが0の場合、Xは単結合である。
【0025】
【化3】

【0026】
但し、nは0以上5以下の整数である。なお、式(7)においてnが0の場合、Yは単結合である。
【0027】
【化4】

【0028】
但し、Mはアルカリ土類金属である。
【0029】
以下、本発明の二次電池用電極活物質の好ましい実施の形態と、その電極活物質を用いた二次電池の好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0030】
<安定ラジカル化合物と粒子からなる複合体>
本発明に係る複合体は、少なくとも表面が導電性カーボン材料からなる粒子に式(1)で表される部分構造を有する安定ラジカル化合物が担持され、二次電池用電極活物質として用いることができる。本実施形態において、複合体は、安定ラジカル化合物を修飾する酸と粒子の表面を修飾する酸とのアルカリ土類金属を介した結合又は共有結合を介して粒子に担持されたものである。つまり、X−L−Yで表される原子団を介して安定ラジカル化合物が粒子に担持されている。
【0031】
本発明に係る複合体は、従来一般的に活物質と称される安定ラジカル化合物と、従来一般的に導電助剤(または導電補助剤)と称されることの多い粒子とが、一体となったものである。そこで、本発明に係る複合体を二次電池の電極材料として用いる場合、本発明及び本明細書では、この複合体全体を活物質と呼称する。すなわち、本発明に係る複合体は、一般に導電助剤と呼ばれる粒子をその構成要素として含んでいる。
【0032】
本発明に係る複合体は、このように、一般に活物質と称される安定ラジカル化合物と一般に導電助剤と呼ばれる粒子とが一体となっているため、その間の接触抵抗が極めて小さい。したがって、二次電池の電極層中の電極材料(本発明でいうところの活物質)として用いた場合に、電極層全体の導電性を高くすることができる。担持の形態を、安定ラジカル化合物を修飾する酸と粒子の表面を修飾する酸とのアルカリ土類金属を介した結合又は共有結合を介した結合形態とすることにより、安定ラジカル化合物と粒子との間の抵抗をさらに小さくすることができる。
【0033】
粒子の形状とサイズは特に限定されるものではなく、X、Y、Lの組成などは前述のとおりであるが、特に好ましい形態について以下に示す。
【0034】
(粒子)
本実施形態に係る粒子は、少なくとも最表面の組成が導電性カーボン材料である。最表面が導電性カーボン材料であれば、粒子全体が導電性カーボン材料のみで構成されているものでもよく、粒子表面のみが導電性カーボン材料で構成されたコアシェル構造であってもよい。
【0035】
粒子の形状は特に限定されるものではないが、例えば、真球状、針状、シート状のものなどを用いることができる。
【0036】
粒子の単位重量当たりに担持できる安定ラジカル化合物の量が多い方が、単位ラジカルあたりの分子量を小さくすることができる。そのため、複合体を電極活物質として用いた場合の蓄電容量(mAh/g)の観点から、安定ラジカル化合物を担持する粒子の比表面積は大きい方が好ましく、100m/g以上が好ましい。粒子の比表面積を100m/g以上とするために、真球状の粒子を用いる場合は、粒径が50nm以下の粒子を用いることが好ましい。取り扱いが比較的容易であるという観点からは、粒径が5nm以上の粒子を用いることが好ましい。また、粒子表面の比表面積あたり、安定ラジカル化合物が10μmol/m以上担持されていることが好ましい。
【0037】
活物質としての蓄電容量の観点から考えると、粒子に2mol/g以上で安定ラジカル化合物が担持されていることが更に好ましい。
【0038】
導電性カーボン材料として例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン、フラーレンなどが挙げられる。これらの導電性カーボン材料の単体を、安定ラジカル化合物を担持する粒子として用いても良い。なかでも、粒子表面への官能基の導入が容易なことから、カーボンブラックを粒子として用いることが特に好ましい。
【0039】
(原子団X―L―Y)
本実施形態に係る複合体は、前述のとおり、安定ラジカル化合物がX―L−Yで表わされる原子団を介して粒子に担持されている。原子団Xと原子団Yをつなぐ原子団Lとしては、カルボニル(−C(=O)―)、スルホニル(−S(=O)−)、ホスホリル(−P(=O)―)、メチレン(−CH−)、−C(=O)―O―M−O―C(=O)―、−C(=O)―O―M−O―S(=O)−、−C(=O)―O―M−O−P(=O)―、−S(=O)−O―M−O−C(=O)―、−S(=O)−O―M−O−S(=O)−、−S(=O)−O―M−O−P(=O)―、−P(=O)―O―M−O−C(=O)―、−P(=O)―O―M−O−S(=O)−、−P(=O)―O―M−O−P(=O)―から選ぶことができる。但し、Mはアルカリ土類金属である。尚、本明明細書においてアルカリ土類金属とはベリリウムを含む、いわゆる広義のアルカリ土類金属のことを指す。また、粒子表面の導電性カーボン材料と結合する原子団Xとしては、(導電性カーボン材料)−(CH−O−、(導電性カーボン材料)−(CH−NH−、(導電性カーボン材料)−(CH−から選ぶことができる。また、安定ラジカル化合物と結合する原子団Yとしては、−O−(CH−(安定ラジカル化合物)、−NH−(CH−(安定ラジカル化合物)、−(CH−(安定ラジカル化合物)から選ぶことができる。
【0040】
X、L、Yがこのように選ばれると、共有結合又は安定ラジカル化合物を修飾する酸と粒子の表面を修飾する酸とのアルカリ土類金属を介した結合を介して安定ラジカル化合物が粒子に担持される。そのため、二次電池の電極活物質として用いても、粒子から安定化ラジカル化合物が外れにくい。
【0041】
更に、粒子から安定ラジカル化合物が外れにくくするために、安定ラジカル化合物はアミド結合またはエステル結合を介して粒子に担持されることが好ましい。つまり、前述の−X−L−Y−で表される原子団はアミド結合もしくはエステル結合を有することが好ましい。つまり、Lとしては、−C(=O)―が好ましく、X及びYの組み合わせとしては次の組み合わせが好ましい。
X:−(CH−、Y:−O−(CH
もしくは、X:−(CH−、Y:−NH−(CH
もしくは、X:−(CH−O−、Y:−(CH
もしくは、X:−(CH−NH−、Y:−(CH
X,L,Yが以上の組み合わせをとる時、−X−L−Y−は、下記式(21)〜(24)で表される構造となる。
【0042】
【化5】

【0043】
原子団XとLのmとnが大きすぎると、導電性の高い粒子と、安定ラジカル化合物の距離が長くなり、安定ラジカル化合物への電子の授受の効率が低下するため好ましくない。さらに、mとnが大きいほど単位ラジカル当たりの分子量が多くなり、電極活物質としての蓄電容量の観点からも好ましくない。そのため、mとnは0以上5以下の整数であることが好ましい。尚、mとnはそれぞれ独立の数をとることができ、mとnが共に0であっても良い。
【0044】
(安定ラジカル化合物)
本実施形態に係る安定ラジカル化合物は、前述のように式(1)で表される部分構造を有する。図1に示す中性ラジカルとカチオン間の酸化還元反応を安定に進行できるラジカル化合物であれば特に限定しないが、例えば、式(25)に示す2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1―オキシル(TEMPO)や、式(26)に示す、2,6−ジ−ter−ブチルピぺリジン1−オキシル、式(27)に示す、2,2,5,5−テトラメチルピロリジノキシルカチオン、式(28)に示す2,2,5,5−テトラメチルピロリノキシルカチオンを用いることができる。
【0045】
【化6】

【0046】
【化7】

【0047】
なかでも、TEMPOは2〜4位のHを置換した化合物が手に入りやすいため、他の安定ラジカル化合物を用いるよりも粒子に担持させて複合体を形成しやすい。
【0048】
また、上記安定化ラジカル化合物中の、どのHを原子団Y(原子団Yがないときは、原子団L)に置換したものであっても良い。
【0049】
例えば、粒子としてカーボンブラック、安定ラジカル化合物としてTEMPOを用い、エステル結合を介してTEMPOをカーボンブラックに担持させた複合体を考える。粒径17nm、比表面積200m/gのカーボンブラックに、粒子表面の比表面積あたり10μmol/mで原子団X−L―Yを介してTEMPOがカーボンブラックに担持されており、原子団X−L−Yが−C(=O)―O―の場合、このラジカル化合物の電極活物質としての容量を計算すると、理論上35mAh/gとなる。尚、図3にカーボンブラック10にTEMPO11が担持されて形成される複合体12の断面の模式図を示した。
【0050】
(複合体製造方法)
本実施形態に係る複合体を製造する方法は特に限定するものではない。例として、安定ラジカル化合物としてTEMPO、粒子としてカーボンブラックを用い、カーボンブラックとTEMPOがアミド結合もしくはエステル結合を有する原子団を介して結合した複合体の製造方法を説明する。
【0051】
まず、カーボンブラックの表面にカルボキシル基を修飾させたものを製造する。修飾する手法は特に限定されるものではないが、例えば、特開平11−349312号公報に記載されているような、カーボンブラックにオゾンを照射する方法をとることができる。カルボキシル基はカーボンブラックの表面の一部を修飾すればよいが、カーボンブラックの表面を修飾するカルボキシル基の数が多い方が、TEMPOを多く担持できる。このようにして製造した、表面がカルボキシル基で修飾されたカーボンブラックと、式(29)に表した、4―ヒドロキシ―2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1―オキシル フリーラジカル(Cas No:2226−96−2)または式(30)に表した、4―アミノ―2,2,6,6−テトラメチピペリジン1―オキシル フリーラジカル(Cas No:14691−88−4)を脱水縮重合させることにより、本実施形態に係る複合体を製造することができる。
【0052】
【化8】

【0053】
【化9】

【0054】
脱水縮重合の方法は特に限定されるものではない。例えば表面がカルボキシル基で修飾されたカーボンブラックと、4―アミノ―2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1―オキシル フリーラジカルの脱水縮重合として、WO2009/084714号公報に記載されているようにトリアジン系縮合剤を用いて脱水縮重合させても良い。また、特開平11−349312号公報に記載されているように、カーボンブラックの表面を修飾するカルボキシル基をSOClを用いてCOClに改質してから、4―アミノ―2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1―オキシル フリーラジカルを反応させて脱水縮合させても良い。
【0055】
また、Tetrahedoron 2001(1551−1558)に記載されているように、トリアジン系縮合剤として、和光純薬工業製 DMT−MM(Cas No:3945−69−5)を用いて、カルボキシル基とアミノ基またはカルボキシル基とヒドロキシル基を脱水縮重合することで、アミド結合またはエステル結合を形成しても良い。これらの手法を用いることで、カーボンブラックとTEMPOがアミド結合もしくはエステル結合を有する原子団を介して結合した、複合体を製造することができる。
【0056】
尚、同様に、カーボンブラックの表面の少なくとも一部を下記式(31)で表される官能基で修飾し、式(32)で表される安定ラジカル化合物と脱水縮重合させて本実施形態に係るラジカル化合物を製造しても良い。
【0057】
【化10】

【0058】
但し、mは0以上5以下の整数である。
【0059】
【化11】

【0060】
但し、n=は0以上5以下の整数であり、Zはヒドロキシル基又はアミノ基である。
【0061】
また、カーボンブラックの表面をアミノ基で修飾し、式(33)に表した、4―カルボキシ―2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1―オキシル フリーラジカル(Cas No:37149−18−1)と脱水縮重合させてもアミド結合を介してTEMPOをカーボンブラックに担持させた複合体を製造することができる。
【0062】
カーボンブラックの表面をアミノ基で修飾する方法としては、例えば特開2000−53885号公報に記載されているような、エチレンジアミンを用いる方法をとることができる。脱水縮重合は前述のようにDMT−MMをはじめとするトリアジン系縮合剤を用いても良いし、SOCl2を用いても良い。
【0063】
また、カーボンブラックの表面をヒドロキシル基で修飾し、式(33)で表した、4―カルボキシ―2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1―オキシル フリーラジカル(Cas No:37149−18−1)と脱水縮重合させてもエステル結合を介してTEMPOをカーボンブラックに担持させた複合体を製造することができる。
【0064】
【化12】

【0065】
カーボンブラックの表面をヒドロキシル基で修飾する方法としては、例えば特開2008−120951号公報に記載されているような、カーボンブラックに水蒸気プラズマ処理を施す方法をとることができる。
【0066】
同様に、カーボンブラックの表面の少なくとも一部を下記式(34)で表される官能基で修飾し、式(35)で表される安定ラジカル化合物と脱水縮重合させて本実施形態に係る複合体を製造しても良い。
【0067】
【化13】

【0068】
但し、mは0以上5以下の整数であり、Zはヒドロキシル基またはアミノ基である。
【0069】
【化14】

【0070】
nは0以上5以下の整数である。
【0071】
このようにして製造した複合体は高い導電性(導電率10S/cm程度)を有するカーボンブラックに安定ラジカル化合物であるTEMPOが坦持されている。そのため、従来電極活物質として用いられてきた安定ラジカル化合物よりも高い導電性を示し、効率的にTEMPOへ電子が供給される。さらに、カーボンブラックは有機溶剤に不溶であるので、電極活物質の耐電解液溶解性を高めることもできる。
【0072】
<二次電池>
本実施形態の二次電池は、少なくとも正極、負極、電解質を備えている。その構造の一例を図2に示す。図2に示された二次電池は正極集電体1、正極3、セパレーター4、負極5、負極集電体6を順に重ね合わせた構成を有している。セパレーター4には電解質が含ませてある。
【0073】
また、正極集電体1と負極集電体6はプラスチック樹脂からなる絶縁パッキン2により絶縁されている。電解質を含んだセパレーターの代わりに高分子ゲル電解質を用いることも可能である。なお、正極3は、正極材料層あるいは正極活物質層、負極5は、負極材料層あるいは負極活物質層と呼称することも可能である。
【0074】
二次電池の形状は、公知の形状を用いることができる。二次電池の形状の例としては、電極の積層体あるいは巻回体を、金属ケース、樹脂ケース、あるいはラミネートフィルム等によって封止したものが挙げられる。また外観としては、円筒型、角型、コイン型、およびシート型等が挙げられる。
【0075】
以下、本実施形態の二次電池について構成毎に説明をする。
【0076】
(正極)
本実施形態の二次電池には、少なくとも、正極または負極の電極活物質として前述の複合体を用いる。正極と負極のどちらか一方にのみ本実施形態に係る複合体を電極活物質として用いる場合は、正極に用いる方が好ましい。正極中には本実施形態の複合体に加えその他の構成成分として、従来公知のものを含有することができる。従来公知の構成成分として、例えば、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド等の樹脂バインダー、イオン導電性高分子等を適宜含有させることができる。
【0077】
本実施形態に係る複合体は、一般に導電助剤と呼ばれる粒子をその構成要素として含んでいるので、導電助剤は不要であるが、更に導電性を向上させる目的で導電助剤を添加することもできる。導電助剤としては、活性炭やグラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素材料、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子が挙げられる。
【0078】
さらに、電極容量を高める目的で、カーボンに坦持されていない安定ラジカル化合物を混合して用いることもできる。
【0079】
また、負極のみに本実施形態に係る複合体を電極活物質として用いる場合は、正極として従来公知のものを用いることができる。例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムなどの金属酸化物の粒子、ジスルフィド化合物、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子を用いることができる。また、従来公知の電極活物質と本実施形態の電極活物質を混合して用いても良い。
【0080】
(負極)
負極の活物質として本実施形態に係る複合体を用いる場合、正極と同様に、負極中には本実施形態に係る電極活物質に加えその他の構成成分として、従来公知のものを含有することができる。また、本実施形態に係る複合体を二次電池用電極活物質として正極のみに用いる場合、負極としては、二次電池電極材料として従来公知のものが利用できる。例えば、活性炭やグラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素材料、リチウム金属またはリチウム合金、リチウムイオン吸蔵炭素、スズ金属またはスズ合金、シリコン金属またはシリコン合金、その他各種の金属単体または合金、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子を用いることができる。また、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド等の樹脂バインダー、イオン導電性高分子等を適宜含有させることができる。
【0081】
(集電体)
正極集電体1および負極集電体6の材質としては、導電性が高く、耐腐食性にすぐれているものであればよく、特に限定するものではない。例えば、ニッケルやアルミニウム、銅、金、銀、チタン、アルミニウム合金、ステンレスなどの合金、炭素素材等を用いることができる。また、形状としては、箔や平板、メッシュ状のものを用いることができる。
【0082】
(セパレーター)
本実施形態の二次電池は、正極3および負極5の電気的接触を防ぐ目的で、多孔質フィルムからなるセパレータや不織布を用いることができる。一方、正極集電体1と負極集電体6の電気的接触を防ぐ目的で、プラスチック樹脂からなる絶縁パッキン2を用いることができる。
【0083】
(電解質)
本実施形態の二次電池は、電解質を備える。電解質は、負極と正極との間に存在し、荷電担体輸送を行うものであり、一般には室温で10−5〜10−1S/cmの電解質イオン伝導性を有している。本実施形態の二次電池における電解質としては、例えば電解質塩を溶剤に溶解した電解液を利用することができる。このような電解液の溶剤としては、電位窓が広く、電解質塩を電離することのできるものであれば特に限定するものではないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒を用いることができる。これらの溶剤を単独もしくは2種類以上混合して用いることもできる。
【0084】
また、電解質塩としては、例えばLiPF、LiClO、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiBr、LiCl、LiF等を用いることができる。
【0085】
尚、図1に示した二次電池の構造では、セパレーター4に電解質を含ませて使用される。
【0086】
また、前述の電解液の代わりに、例えば電解液をゲル状にした固体の電解質を用いても良い。この場合、得られる二次電池はいわゆるポリマー二次電池となる。ゲル状の電解質を用いても、電解質に有機溶剤が含まれている場合、有機溶剤への溶解性が高い電極活物質を用いるとその電極活物質は電極から電解質へ溶解してしまうことがある。しかし、本実施形態に係る複合体を電極活物質として用いれば、電極活物質の電解質への溶解を軽減することができる。
【0087】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 正極集電体
2 絶縁パッキン
3 正極
4 セパレーター
5 負極
6 負極集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が導電性カーボン材料からなる粒子と、
式(1)で表される部分構造を有する安定ラジカル化合物と、を有し、
前記安定ラジカル化合物が前記粒子に担持されていることを特徴とする複合体。
【化1】

【請求項2】
前記安定ラジカル化合物は、前記安定ラジカル化合物を修飾する酸と前記粒子の表面を修飾する酸とのアルカリ土類金属を介した結合又は共有結合を介して前記粒子に担持されていることを特徴とする請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記安定ラジカル化合物はX−L−Yを介して前記粒子に担持されていることを特徴とする請求項2に記載の複合体。
但し、前記Xは下記式(2)〜(4)で表されるいずれか1つであって前記粒子と結合し、前記Yは下記式(5)〜(7)で表されるいずれか1つであって前記安定ラジカル化合物と結合し、前記Lは下記式(8)〜(20)で表されるいずれか1つであって前記XとYと結合する。
【化2】


但し、mは0以上5以下の整数である。
【化3】


但し、nは0以上5以下の整数である。
【化4】


但し、Mはアルカリ土類金属である。
【請求項4】
前記X−L−Y−が下記式(21)〜(24)のいずれか1つで表されることを特徴とする請求項1記載の複合体。
【化5】


但し、mは0以上5以下の整数であり、nは0以上5以下の整数である。
【請求項5】
前記安定ラジカル化合物は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル、2,6−ジ−ter−ブチルピぺリジン1−オキシル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジノキシルカチオン、2,2,5,5−テトラメチルピロリノキシルカチオンのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項6】
前記粒子の粒径が50nm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項7】
前記粒子がカーボンブラックであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項8】
前記粒子の比表面積が100m/g以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項9】
正極と、負極と、該正極と該負極との間に存在する電解質とを備える二次電池に用いられる二次電池用電極活物質であって、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の複合体を有することを特徴とする二次電池用電極活物質。
【請求項10】
正極と、負極と、該正極と該負極との間に存在する電解質と、を備える二次電池であって、
前記正極と前記負極とのうち少なくともいずれか一方が請求項9に記載の二次電池用電極活物質を有することを特徴とする二次電池。
【請求項11】
複合体の製造方法であって、
少なくとも表面が導電性カーボン材料からなり、前記導電性カーボン材料の少なくとも一部が下記式(31)で表わされる官能基を持つ粒子と、下記式(32)で表わされる安定ラジカル化合物と、を脱水縮合させることにより、アミド結合またはエステル結合を介して下記式(31)で表される安定ラジカル化合物を前記粒子に担持させる工程を有することを特徴とする複合体の製造方法。
【化6】


但し、mは0以上5以下の整数である。
【化7】


但し、nは0以上5以下の整数であり、Zはヒドロキシル基又はアミノ基である。
【請求項12】
複合体の製造方法であって、
少なくとも表面が導電性カーボン材料からなり、前記導電性カーボン材料の少なくとも一部に下記式(34)で表わされる官能基が結合した粒子と、下記式(35)で表わされる安定ラジカル化合物と、を脱水縮合させることにより、アミド結合またはエステル結合を介して下記式(34)で表される安定ラジカル化合物を前記粒子に担持させる工程を有することを特徴とする複合体の製造方法。
【化8】


但し、mは0以上5以下の整数であり、Zはヒドロキシル基またはアミノ基である。
【化9】


但し、は0以上5以下の整数である。
【請求項13】
前記粒子の粒径が50nm以下であることを特徴とする請求項11又は12に記載の複合体の製造方法。
【請求項14】
前記粒子はカーボンブラックであることを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
【請求項15】
前記粒子の比表面積が100m/g以上であることを特徴とする請求項11乃至14のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−112619(P2013−112619A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257782(P2011−257782)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】