説明

複合体の製造方法及びそれにより製造される複合体

【課題】電極の導電助剤となり得る導電性物質と電極における触媒成分となり得る金属酸化物とを含む複合体の製造方法において、導電性物質に対して金属酸化物を高分散に含浸・担持させることによって、触媒性能を向上させ、各種電池の電極材料として優れた性能を発揮することができる複合体の製造方法、及び、そのような製造方法によって製造される複合体を提供する。
【解決手段】導電性物質と金属酸化物とを含んで構成される複合体を製造する方法であって、該製造方法は、導電性物質を含む溶液中で金属元素含有化合物を含む固形分を生成させる工程と、該固形分中の金属元素含有化合物から金属酸化物を生成する工程とを含む複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体の製造方法及びそれにより製造される複合体に関する。より詳しくは、導電性物質を用いる蓄電池等の技術分野に適用される複合体、特に、空気電池における空気極やリチウムイオン二次電池における正極等、これら蓄電池における電極を構成する電極材料として好適である複合体を製造する方法及び該方法によって製造される複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境問題への関心の高まりを背景に、様々な産業分野で石油等の化石燃料から電気へとエネルギー源の転換が進んでいる。それにともなって、携帯電話やノートパソコン等の電子機器だけでなく、自動車や航空機等の分野をはじめ、様々な分野で電池やキャパシタ等の蓄電装置の使用が広がりをみせている。このような背景の下、これら蓄電装置に用いられる材料について、活発に研究開発が行われている。そのような材料の1つに、蓄電装置の性能を左右する重要なものとして、各種電池の正極、負極を構成する電極材料が挙げられる。電極材料は、通常では、電極、電極活物質、電極触媒等によって構成されることになる。
【0003】
従来の電極材料の1つとして、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物からなる電極触媒(ペロブスカイト型電極触媒)が開示されている(非特許文献1参照)。この技術においては、逆均一沈殿法により、金属塩からペロブスカイト型結晶構造を有する化合物の前駆体となる水酸化物混合体を調製し、得られたゲル状混合物を2−PrOH中でカーボンブラック(CB)と混合後に焼成がなされている。ここで、水酸化物混合体を調製する際、沈殿物であるゲル状混合物が生成することになる。金属塩水溶液に沈殿剤を滴下して均一な沈殿物を得る均一沈殿法によるのではなく、沈殿剤溶液に金属塩水溶液を滴下して均一な沈殿物を得る逆均一沈殿法によって前駆体が調製されている。
このように調製されたペロブスカイト型結晶構造を有する化合物とカーボンブラックとの複合材料は、電極触媒としての作用を発揮し、該複合材料を用いた電極は、カーボンブラックだけを導電助剤として用いた電極と比較して、電極性能が向上したものとなる。
【0004】
ところで、電極活物質を酸素とし、それが正極となる空気極において還元されて電気エネルギーが生じる空気電池が電気化学エネルギーデバイスの1つとして研究されている。このような空気電池は、燃料電池の一種であり、補聴器等の小型電子機器に適用することができ、各種分野における実用化が期待される電池の1つとなっている。
これらリチウムイオン電池や空気電池や燃料電池等の二次電池の技術分野においては、電池需要の拡大、化石燃料代替による適用用途の拡大にともなって、電子機器から自動車等に至る実用用途で充分な性能が発揮されるように、電池性能の更なる向上が望まれているところである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】N.Yamazoe et al(ヤマゾエ等),J.Electrochem.Soc.(ジャーナル・オブ・エレクトロケミカル・ソサエティー),2004年,151,A1559
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、蓄電池に関する様々な研究が行われていて、性能を向上させるための技術開発が盛んに行われているが、各種産業分野で求められている高い性能を満足する電池を広く提供できるには至っていないのが現状である。特に蓄電池の性能を左右する新規電極材料となり得る導電性材料、電極触媒の開発が急務である。
そのような中、非特許文献1に記載された技術において、逆均一沈殿法により調製されたペロブスカイト型金属酸化物がカーボンブラック(CB)上に担持された複合材料として、LaMn1−yFeO/C(yはFeの価数によって決まるFeの原子数を表す、Cはカーボンブラックを表す。)が電極触媒として作用し、導電助剤としてのカーボンブラックの性能を向上し得ることが見いだされた。この技術においては、図7に概念的に示されるように、逆均一沈殿法により、アルカリ溶液(KOH1%)中にLa(III)の硝酸塩、Mn(II)の硝酸塩を滴下し、水酸化物混合体としてLa(OH)とMn・nHO(nは水和した水分子の数を表す。)とのゲル状混合物を調製した後、2−PrOH中でカーボンブラック(CB)と混合して前駆体としての水酸化物/Cを得た後に650℃Nガス雰囲気下で焼成し、ペロブスカイト型電極触媒としてのLaMn1−yFeO/Cが調製されている。この場合、沈殿剤溶液として作用するアルカリ溶液中に金属塩水溶液を滴下し、金属酸化物の前駆体となる水酸化物の均一な沈殿物を析出させるという逆均一沈殿法によって前駆体が調製され、該前駆体が調製された後にカーボンブラック(CB)上への含浸・担持工程がなされている。その後の焼成工程により、触媒成分となる金属酸化物が生成し、カーボンブラック(CB)が金属酸化物によって被覆された触媒が調製されることになる。
このように調製された複合材料は、電極材料とすると、カーボンが電極において導電助剤として作用することになり、また、金属酸化物であるLaMn1−yFeOが電極における反応に対して触媒作用を発揮することになる。
【0007】
一方で、このような複合材料においては、複合材料中に触媒成分がより均一に分散された状態とするための工夫の余地があった。例えば、導電助剤としてケッチェンブラック(KB)を用い、非特許文献1に同様に金属酸化物の前駆体となる水酸化物の析出後にKBへ含浸・担持して調製された焼成前の水酸化物とKBとの混合物であるLaMn(OH)x/KB(xは金属元素の価数によって決まる水酸基の個数を表す。)のXRD(X線回折)パターンを示した図2の比較例1をみると、KBのアモルファスピークに加えてLa(OH)ピークが認められる。水酸化物がKBへ均一に含浸・担持されていれば、実質的にKBのアモルファスピークだけとなるが、そのようにはなっていないことが分かる。これより、金属酸化物の前駆体である水酸化物とカーボンブラック(CB)との混合物を調製し、それを焼成することによって金属酸化物とCBとの複合材料である電極触媒を得るという工程において、従来の技術では水酸化物とCBとの混合物である焼成前の段階において、触媒成分となる金属酸化物の前駆体が充分に均一に分散された状態とはなっていないといえる。
なお、図3においては、水酸化物とKBとの混合物を焼成した後のXRDパターンを示す。焼成後においては、水酸化物より金属酸化物の結晶が生成するため、LaMnOのピークが生じる。そのため、焼成後に複合材料における金属酸化物の分散状態の良否をXRD測定によって知ることは困難となる。したがって、水酸化物とCBとの混合物である焼成前の段階において、焼成後の複合材料における金属酸化物の分散状態を推察すれば、上述のようになる。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、電極の導電助剤となり得る導電性物質と電極における触媒成分となり得る金属酸化物とを含む複合体の製造方法において、導電性物質に対して金属酸化物を高分散に含浸・担持させることによって、触媒性能を向上させ、各種電池の電極材料として優れた性能を発揮することができる複合体の製造方法、及び、そのような製造方法によって製造される複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、電池の電極材料等として優れた性能を発揮することができる材料について種々検討したところ、上述したように調製されたLaMn1−yFeO/C等の導電性物質と金属酸化物との複合材料が電池性能等を向上させることができる複合材料として有用であるが、その触媒成分が導電助剤等として作用する導電性物質に対して充分に分散していないという課題を有していることに着目した。そして、金属酸化物の前駆体となる金属元素含有化合物を含む固形分を生成する工程を実施する際に、すなわち、上述した先行技術の実施形態において、アルカリ溶液(KOH1%)中にLa(III)の硝酸塩、Mn(II)の硝酸塩を滴下し、水酸化物混合体としてLa(OH)とMn・nHOとのゲル状混合物を調製する工程を実施する際に、当該工程において水酸化物の析出を導電性物質の存在下で実施することにより、導電性物質に対してより高分散に触媒成分が被覆された電極触媒として好適な触媒系を構築することができることを見いだしたものである。このような手法は、先行技術のように当該工程の後に導電性物質であるカーボンブラック(CB)と混合して水酸化物をCBに含浸・担持させるというex−situ(エクス・サイチュ)な調製法に対して、水酸化物の析出と同時に該水酸化物のCBへの含浸・担持が行われるというin−situ(イン・サイチュ)な調製法であるといえる。
このように、上記のような製造方法によって製造される複合体は、導電助剤等として作用する導電性物質上に触媒成分等として作用する金属酸化物を有するものとなり、該複合体が導電性物質を用いる蓄電池等の技術分野に好適であり、特に、空気電池や燃料電池における空気極やリチウムイオン二次電池における正極等、これら蓄電池における電極を構成する電極材料として優れた特性を発揮することを見いだしたものである。これによって上記課題を見事に解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、導電性物質と金属酸化物とを含んで構成される複合体を製造する方法であって、該製造方法は、導電性物質を含む溶液中で金属酸化物の前駆体を含む固形分を生成させる工程と、該固形分中の金属酸化物の前駆体から金属酸化物を生成する工程とを含む複合体の製造方法である。
本発明はまた、上記複合体の製造方法により製造される複合体でもある。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0011】
本発明の製造方法においては、導電性物質を含む溶液中で原料化合物から金属酸化物の前駆体を含む固形分を生成させる工程(固形分生成工程ともいう)を実施することになる。
上記固形分生成工程においては、導電性物質を含む溶液中で金属酸化物の前駆体を析出させ、該前駆体と導電性物質とを含む固形分を沈殿させることが好ましい。また、上記工程で用いる溶液としては、金属酸化物の前駆体を析出させ、沈殿させる沈殿剤として作用する化合物と溶媒とを含む溶液であることが好ましい。
なお、上記製造方法において、導電性物質、金属酸化物は、それぞれ1種であってもよく2種以上であってもよく、また、金属酸化物を構成する金属元素は、1種であってもよく2種以上であってもよい。金属元素が2種以上である場合、金属酸化物としては、2種以上の金属元素を有する1種の金属酸化物であってもよく、1種又は2種以上の金属元素を有する2種以上の金属酸化物であってもよい。
【0012】
上記金属酸化物の前駆体は、金属元素を有する水酸化物(本明細書中では単に「水酸化物」ともいう)であることが好適である。この場合、金属酸化物の前駆体を含む固形分は、水酸化物が溶液中で析出して生じた析出物と導電性物質とを含むことになる。該水酸化物としては、(1)金属元素に水酸基が結合した構造を有する形態、(2)金属元素に酸素原子が結合した構造を有する金属酸化物に水分子が水和した構造を有する形態を挙げることができる。上記(1)の形態の化合物は、例えば、下記一般式(1)で表すことができる。また、上記(2)の形態の化合物は、例えば、下記一般式(2)で表すことができる。
Xp(OH)q (1)
XpOr・nHO (2)
上記一般式中、Xは、金属元素を表し、pは、金属元素の数を表す。qは、水酸基の数を表し、rは、酸素原子の数を表す。nは、1つの金属酸化物分子に水和している水分子の数を表す。
上記原料化合物としては、金属酸化物の前駆体を生成することになる金属元素を有する化合物であればよく、該前駆体が水酸化物である場合は、金属塩を用いることが好ましい。
なお、原料化合物、金属酸化物の前駆体はそれぞれ、1種であってもよく2種以上であってもよい。また、該原料化合物の1種、該前駆体の1種はそれぞれ、金属元素を1種有していてもよく金属元素を2種以上有していてもよい。
【0013】
上記固形分生成工程における製造条件としては、溶液中で前駆体の固形分が生成するように適宜調整すればよく、例えば、下記のような製造条件とすることが好ましい。
すなわち、導電性物質及び金属酸化物の前駆体を生成する原料化合物を溶液中で撹拌し、熟成させることにより、導電性物質及び金属酸化物の前駆体を含む固形分を沈殿させることが好ましく、その後、固形分を濾過、洗浄、乾燥させることが好ましい。
固形分を生成させる温度としては、室温(25℃前後)とすればよく、溶液が揮散してしまわない条件であればよい。例えば、0℃〜50℃とすることが好適である。固形分を生成させる時間としては、前駆体の大部分又は実質的に全部が固形分として生成するまでの時間とすればよく、例えば、1時間〜10時間、より好ましくは、1時間〜5時間とすればよい。
濾過においては、大過剰の溶媒、例えば、大過剰の純水を用いて洗浄することが好ましい。
乾燥条件としては、固形分が含む溶媒を揮散させることができる条件であればよく、例えば、温度を30〜100℃とすることが好ましく、40〜80℃の範囲で調整することがより好ましい。乾燥時間としては、例えば、1〜24時間とすることが好ましい。
【0014】
上記工程においては、導電性物質、及び、原料化合物を溶液中で混合することになるが、混合操作としては、(1)溶液中に導電性物質及び原料化合物を添加又は滴下する操作、(2)溶液中に導電性物質又は原料化合物の一方が含有された状態で他の一方を添加又は滴下する操作が挙げられる。これらの操作においては、上述のように、金属酸化物の前駆体を析出させ、沈殿させる沈殿剤が添加又は滴下されるか、溶液中に含まれていることが好ましい。その場合、原料化合物が含まれる溶液に対して沈殿剤が添加又は滴下される操作が均一沈殿法による操作であり、沈殿剤が含まれる溶液に対して原料化合物が添加又は滴下される操作が逆均一沈殿法による操作である。
【0015】
上記固形分生成工程においては、いずれの操作方法も用いることができるが、好ましい形態としては、逆均一沈殿法による操作が実施される形態である。
逆均一沈殿法による操作が実施される形態としては、上記(1)の操作において、沈殿剤を含む溶液中に導電性物質及び原料化合物を添加又は滴下する操作、(2)沈殿剤を含む溶液中に導電性物質が含有された状態で原料化合物を添加又は滴下する操作が挙げられる。これらの操作においては、原料化合物を滴下することが好ましい。
これらのことから、上記固形分生成工程における好ましい態様としては、下記のような工程を挙げることができる。
すなわち、上記固形分生成工程は、金属酸化物の前駆体となる原料化合物を溶液中に添加することにより、金属酸化物の前駆体を含む固形分を生成させる工程であることが好ましい。より好ましくは、上記固形分生成工程は、沈殿剤を含む溶液中に原料化合物を滴下することにより、金属酸化物の前駆体を含む固形分を生成させる工程である。これにより、導電性物質及び沈殿剤を含む溶液中に原料化合物を滴下することとなり、逆均一沈殿法を用いて、導電性物質上に触媒成分となる金属酸化物の前駆体を析出させるとこができる。
【0016】
本発明の製造方法における好ましい形態としては、更に下記のような形態が挙げられる。
上記導電性物質を含む溶液は、アルカリ溶液であることが好ましい。この場合、アルカリ性化合物を含むことになり、該化合物が上述した沈殿剤として作用することになる。
上記アルカリ溶液としては、アルカリ性化合物として金属水酸化物や有機アルカリ等を用いた水溶液の形態であることが好ましい。金属水酸化物としては、アルカリ水溶液を得るために用いられる化合物であればよく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。有機アルカリとしては、例えば、アンモニア、炭酸水素アンモニウム(NHHCO)、炭酸アンモニウム((NHCO)、硝酸アンモニウム(NHNO)、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。好ましくは、アンモニア、炭酸水素アンモニウム、トリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドであり、より好ましくは、アンモニア、炭酸水素アンモニウムである。上記アルカリ性化合物は、単独でも2種以上の混合物の形態でも使用できる。
アルカリ性化合物を含むアルカリ溶液全量を100質量%とすると、金属水酸化物の含有量としては、例えば、前駆体が充分に析出されるように、0.1〜5質量%の範囲で調整すればよく、0.5〜3質量%の範囲で調整することが好ましい。
【0017】
上記原料化合物としては、上述のように金属塩であることが好ましい。その場合、上記固形分生成工程においては、該金属塩を含む水溶液として用いられることが好ましい。
例えば、金属塩を含む水溶液全量を100質量%とすると、金属塩の含有量としては、例えば、1〜30質量%の範囲で調整すればよく、5〜20質量%の範囲で調整することが好ましい。
【0018】
上記固形分生成工程における各成分の質量割合としては、導電性物質、原料化合物及び溶液の合計を100質量%とすると、(導電性物質の質量%):(原料化合物の質量%):(溶液の質量%)=1〜10/1〜10/80〜98であることが好ましい。これら3成分の質量割合を上記範囲で設定することにより、溶液中で導電性物質上に原料化合物を充分に析出させることができる。より好ましくは、(導電性物質の質量%):(原料化合物の質量%):(溶液の質量%)=4〜6/4〜6/88〜92である。
また上記固形分生成工程においては、導電性物質、金属塩の水溶液及びアルカリ溶液の合計を100質量%とすると、(導電性物質の質量%):(金属塩の水溶液の質量%):(アルカリ溶液の質量%)=1〜3/15〜25/72〜84であることが好ましい。
【0019】
上述した従来のLaMn1−yFeO/Cにおいては、該材料中において金属酸化物の前駆体が充分に分散されていないと推定されるのに対して、本発明の製造方法においては、金属酸化物の前駆体が導電性物質に含浸・担持した状態のXRDパターンにおいて、金属酸化物の前駆体が実質的に均一分散した状態、言い換えると、導電性物質の粒子と金属酸化物の前駆体とが近接及び/又は接触して存在し、導電性物質と金属酸化物の前駆体とが実質的に均一に分散していると評価できる状態とすることができる。また、後述する金属酸化物生成工程により生成する複合体を、金属酸化物が実質的に均一分散した状態にあるものとすることができる。このような複合体の製造方法は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
これによって、本発明の製造方法により製造された複合体を電極触媒として用いた場合等において、触媒成分が均一に分散された状態にあることから、電極における反応が効率よく促進され、電池性能をより向上することが可能となる。
【0020】
本発明の製造方法における上記金属酸化物生成工程は、固形分を焼成する工程(焼成工程)であることが好ましい。
上記固形分生成工程により、溶液中で原料化合物から金属酸化物の前駆体が生成し、析出することとなるが、本発明においては、導電性物質の存在下で該前駆体の析出が行われるため、導電性物質上に該前駆体が析出した固形分が得られる。この固形分中の金属酸化物の前駆体から金属酸化物を生成するには、好ましくは、熱処理をすることであり、より好ましくは、焼成処理することである。
【0021】
上記焼成工程においては、例えば、温度を400℃以上とすることが好ましく、400〜900℃の範囲で調整することがより好ましい。また、上記焼成処理の時間としては、例えば、2時間以上とすることが好ましい。より好ましくは、4時間〜10時間である。400℃未満であったり、2時間未満であったりすると、焼成が充分ではなく、金属酸化物の生成、導電性物質と金属酸化物との複合化が充分に行われないおそれがある。
【0022】
また上記焼成工程においては、焼成処理の雰囲気を不活性ガス雰囲気下とすることが好ましい。例えば、水素(H)を数%含む雰囲気下で焼成することもできるが、その場合、水素によって金属成分が還元され、水素化された金属成分が昇華することとなる。これに対して、不活性ガス雰囲気下で焼成処理することによって、触媒となる金属成分の昇華を防ぎ、高い触媒活性を示す電極用触媒を効率よく製造することが可能となる。
上記不活性ガス雰囲気としては、窒素(N)ガス雰囲気とすることが好ましい。この場合、金属成分の昇華が充分に防止されるように、焼成処理を行う容器内の雰囲気が充分に窒素ガスで満たされていればよい。
【0023】
上記導電性物質は、電極材料となり得る導電性を有する物質、電極材料における導電助剤となり得る物質であることが好ましく、具体的には、炭素材料からなることが好ましい。
上記炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック類等が好適である。これらは、1種又は2種以上を用いてもよい。
なお、導電性物質における導電特性は、上記カーボンブラックがもつような導電特性であればよい。
【0024】
上記金属酸化物は、遷移金属酸化物からなることが好ましい。また、2種以上の金属元素からなる複合酸化物であることが好ましい。
例えば、遷移金属酸化物からなる複合酸化物である場合、下記一般式(3)で表される組成を有する複合酸化物であることが好ましい。これにより、金属酸化物が電極触媒成分として高い作用効果を奏することとなる。
XaYbOc (3)
上記一般式中、Xは、周期律表の第1〜3族から選択される遷移金属元素を表す。Yは、周期律表の第5〜10族から選択される遷移金属元素を表す。a、bは、それぞれX、Yの数を表し、cは、酸素原子(O)の数であり、X及びYの価数により決まることになる。また、Xが複数個存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよく、Yが複数個存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0025】
また上記金属酸化物としては、例えば、正極材料用化合物として用いることができるものも適用することができる。結晶構造、化合物の形態等によって分類すると、例えば、上記非特許文献1に記載されたようなペロブスカイト系(LaMn1−yFeO(yはFeの価数によって決まるFeの原子数を表す。))、スピネル系(LiM)、オリビン系(LiMPO)、層状酸化物系(LiMO)、固溶体系(LiMO−LiMO)、酸化バナジウム系(V、LiV)、フッ化オリビン系(LiMPOF)、ケイ酸塩系(LiMSiO)、硫黄系等が挙げられる(括弧内はそれぞれの化合物系の例示化合物、MはFe、Mn、Ni等の金属元素)。
【0026】
上記複合体の用途としては、導電性物質を用いる蓄電池等の電極材料、特に、空気電池や燃料電池における正極としての空気極(空気電極)やリチウムイオン二次電池における正極等を構成する電極材料として好適である。電極材料とは、電極活物質、電極触媒、導電助剤、電極そのものを構成する材料を総称したものである。
中でも、上記複合体は、電極触媒として用いられることが好ましい。この場合、実質的には、電極触媒及び/又は導電助剤として用いられることになる。上記空気極において用いられる場合は、空気電極用触媒として、また、空気電極用導電助剤として用いることが好適である。
上記電極材料、電池の構成等については、詳細を後述する。
【0027】
本発明の複合体の製造方法により製造される複合体もまた、本発明の1つである。
上記複合体は、導電性物質上に金属酸化物を有することになればよく、複合状態が特に限定されるものではない。また、上記複合体においては、導電性物質の一部でも複合、被覆された複合体となっていればよい。好ましくは、導電性物質における表面の主体的部分が上記のように複合、被覆された形態となっていることである。
【0028】
上記複合体における「複合」とは、2種以上の物質において、(1)それらがそれぞれ単体で混在している混合状態、(2)分子間力等により近接又は接触した状態、(3)共有結合等により結合した状態のいずれかの状態であることを意味する。該(2)及び(3)の状態においては、2種以上の物質どうしが吸着又は結合して複合体を形成しているともいえる。少なくとも、2種以上の物質が近接及び/又は接触して分散した状態にあること、例えば、nmのオーダーで近接及び/又は接触して存在し、分散した状態にあること、また、共有結合等により結合した状態にあることが好ましい。
なお、導電性物質上に金属酸化物を有するとは、導電性物質と金属酸化物とが上記のように近接、接触又は結合して存在していればよく、導電性物質の表面だけではなく、導電性物質中に金属酸化物を有していてもよい。
【0029】
上記複合体において、導電性物質及び金属酸化物の質量割合としては、これらの成分の合計を100質量%とすると、(導電性物質の質量%)/(金属酸化物の質量%)=10〜99/1〜90であることが好ましい。このような範囲内で設定することにより、例えば、導電性物質の導電助剤としての作用、導電性物質と金属酸化物との相互作用、金属酸化物の触媒活性が適切にバランスされ、電極用触媒としての性能を充分に高めることができる。より好ましくは、(導電性物質の質量%)/(金属酸化物の質量%)=40〜80/20〜60であり、更に好ましくは60〜70/30〜40である。
【0030】
本発明の好ましい実施形態としては、上記複合体を含む電極材料を挙げることができる。
以下では、本発明の複合体が空気電極用触媒として用いられる場合の空気電極材料、本発明の複合体が二次電池電極用触媒として用いられる場合の電極材料について説明する。
【0031】
本発明の複合体が適用される電極としては、正極であることが好適である。この場合、上記電極材料としては、電池の正極を形成する材料である正極合剤となる。
上記電極材料、好ましくは正極合剤としては、本発明の複合体を必須成分とし、導電助剤、有機化合物を含んで構成されることが好ましく、必要により正極活物質を含み、その他の成分を含んでいてもよい。
なお、上記空気極においては、酸素が正極活物質となり、酸素の還元や水の酸化が可能なペロブスカイト型化合物、コバルト含有化合物、鉄含有化合物、銅含有化合物、マンガン含有化合物、白金含有化合物等より構成される空気極とすることが好適である。
上記電極材料、好ましくは正極合剤を粒子状の形態とする場合、平均粒子径が1000μm以下である粒子とすることが好ましい。
【0032】
上記平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、粒度分布測定装置等により測定することができる。粒子の形状としては、微粉状、粉状、粒状、顆粒状、鱗片状、多面体状等が挙げられる。なお、平均粒子径が上述のような粒子は、例えば、粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子を分散剤に分散させて所望の粒子径にした後乾固する方法や、該粗粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法のほか、粒子を製造する段階で調製条件を最適化し、所望の粒径の(ナノ)粒子を得る方法等により製造することが可能である。ここで平均粒子径とは、粒子群が径の不均一な多くの粒子から構成される場合に、その粒子群を代表させる粒子径を考えるとき、その粒子径を平均粒子径とする。粒子径は一般的な決められたルールに従って測定した粒子の長さをそのまま粒子径とするが、例えば、(i)顕微鏡観察法の場合には、1個の粒子について長軸径、短軸径、定方向径等二つ以上の長さを測定し、その平均値を粒子径とする。少なくとも100個の粒子に対して測定を行うことが好ましい。(ii)画像解析法、遮光法、コールター法の場合には、粒子の大きさとして直接に測定された量(投影面積、体積)を幾何学公式により、規則的な形状(例:円、球や立方体)の粒子に換算してその粒子径(相当径)とする。(iii)沈降法、レーザー回折散乱法の場合には、特定の粒子形状と特定の物理的な条件を仮定したとき導かれる物理学的法則(例:Mie理論)を用いて測定量を粒子径(有効径)として算出する。(iv)動的光散乱法の場合には、液体中の粒子がブラウン運動により拡散する速度(拡散係数)を計測することで粒子径を算出する。
【0033】
上記電極材料から電極を形成する工程としては、次のように実施することが好ましい。
先ず、必要により水及び/又は有機溶媒を、本発明の複合体、有機化合物、必要により正極活物質と共に混練し、ペースト状とする。次に、得られたペースト混合物をアルミ箔等の金属箔上に、できる限り膜厚が一定になるように塗工する。塗工後、0〜250℃で乾燥する。乾燥温度としてより好ましくは、15〜200℃である。乾燥は真空乾燥で行ってもよい。また、乾燥後に0.01〜20tの圧力で、ロールプレス機等によりプレスを行うことが好ましい。プレスする圧力としてより好ましくは、0.1〜15tの圧力である。
上記電極、好ましくは正極電極の膜厚は、例えば、1nm〜2000μmであることが好ましい。より好ましくは、10nm〜1500μmであり、更に好ましくは、100nm〜1000μmである。
【0034】
上記電極材料の調製や電極の調製における混合、混練には、ミキサー、ブレンダー、ニーダー、ビーズミル、ボールミル等を使用することができる。混合の際、水や、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン等の有機溶剤を加えてもよい。混合した後、粒子を所望の粒子径に揃えるために、混合、混練操作の前後で上記したようにふるいにかける等の操作を行ってもよい。
【0035】
上記電極材料、好ましくは正極合剤を用いて構成される蓄電池もまた、本発明の好ましい実施形態の一つである。上記蓄電池としては、正極電極、負極電極及び電解液(又は固体電解質)、好ましくは、セパレータを構成要素とするものである。なお、蓄電池は本発明の好ましい実施形態の一つであって、一次電池、充放電が可能な二次電池(蓄電池)、メカニカルチャージの利用、正極及び負極とは別の第3極の利用等、いずれの形態であってもよい。
【0036】
以下では、上記電極材料において用いることができる、導電助剤、有機化合物、蓄電池において用いることができる、電解液、セパレータ等について説明する。
なお、上記導電助剤は、本発明の複合体において、導電性物質として用いてもよく、そのような形態は、本発明の好ましい実施形態の一つである。すなわち、本発明においては、導電性物質として上記導電助剤を用い、複合体が該導電助剤上に金属酸化物を有するものとすることが好ましい。
上記導電助剤としては、例えば、導電性カーボンの1種又は2種以上を用いることができる。導電性カーボンとしては、黒鉛、アモルファス炭素、カーボンナノフォーム、活性炭、グラフェン、ナノグラフェン、グラフェンナノリボン、フラーレン、カーボンブラック、ファイバー状カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、炭素繊維、気相成長炭素繊維等が挙げられる。これらの中でも、グラフェン、ファイバー状カーボン、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、炭素繊維、気相成長炭素繊維が好ましい。より好ましくは、グラフェン、ファイバー状カーボン、カーボンナノチューブ、アセチレンブラックである。
上記導電助剤は、正極における導電性を向上させる作用を有するものである。
【0037】
上記導電助剤の配合量としては、電極材料、好ましくは正極合剤(導電助剤を含む、以下同様)を100質量%とすると、0.001〜90質量%であることが好ましい。導電助剤の配合量がこのような範囲であると、本発明の複合体を含む電極材料から形成される電極がより良好な電池性能を発揮することとなる。より好ましくは、0.01〜70質量%であり、更に好ましくは、0.05〜50質量%である。
【0038】
上記有機化合物としては、有機化合物の他、有機化合物塩を例示することができ、1種又は2種以上用いることができる。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸含有ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸塩含有ポリマー、ポリアクリロニトリル含有ポリマー、ポリアクリルアミド含有ポリマー、ポリ塩化ビニル含有ポリマー、ポリビニルアルコール含有ポリマー、ポリエチレンオキシド含有ポリマー、ポリプロピレンオキシド含有ポリマー、ポリブテンオキシド含有ポリマー、ポリエチレン含有ポリマー、ポリプロピレン含有ポリマー、ポリブテン含有ポリマー、ポリヘキセン含有ポリマー、ポリオクテン含有ポリマー、ポリブタジエン含有ポリマー、ポリイソプレン含有ポリマー、アナルゲン、ベンゼン、トリヒドロキシベンゼン、トルエン、ピペロンアルデヒド、カーボワックス、カルバゾール、セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリアセチレン含有ポリマー、ポリエチレンイミン含有ポリマー、ポリアミド含有ポリマー、ポリスチレン含有ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン含有ポリマー、ポリフッ化ビニリデン含有ポリマー、ポリペンタフルオロエチレン含有ポリマー、ポリ(無水)マレイン酸含有ポリマー、ポリマレイン酸塩含有ポリマー、ポリ(無水)イタコン酸含有ポリマー、ポリイタコン酸塩含有ポリマー、陽イオン・陰イオン交換膜等に使用されるイオン交換性重合体、環化重合体、スルホン酸塩、スルホン酸塩含有ポリマー、第四級アンモニウム塩、第四級アンモニウム塩含有ポリマー、第四級ホスホニウム塩、第四級ホスホニウム塩ポリマー等が挙げられる。
【0039】
なお、上記有機化合物、有機化合物塩がポリマーの場合には、ポリマーの構成単位に該当するモノマーより、ラジカル重合、ラジカル(交互)共重合、アニオン重合、アニオン(交互)共重合、カチオン重合、カチオン(交互)共重合等により得ることができる。
上記有機化合物、有機化合物塩は、粒子同士や粒子と集電体とを結着させる結着剤として働くこともできる。上記有機化合物、有機化合物塩として好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸塩含有ポリマー、セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン含有ポリマー、ポリペンタフルオロエチレン含有ポリマー、ポリマレイン酸塩含有ポリマー、ポリイタコン酸塩含有ポリマー、イオン交換性重合体、スルホン酸塩含有ポリマー、第四級アンモニウム塩含有ポリマー、第四級ホスホニウム塩ポリマーである。
【0040】
上記有機化合物、有機化合物塩の配合量、好ましくはポリマーの配合量としては、電極材料、好ましくは正極合剤を100質量%とすると、0.01〜50質量%であることが好ましい。これら有機化合物、有機化合物塩、好ましくはポリマーの配合量がこのような範囲であると、本発明の複合体を含む電極材料から形成される電極が、より良好な電池性能を発揮することとなる。より好ましくは、0.01〜45質量%であり、更に好ましくは、0.1〜40質量%である。
【0041】
上記電極材料は、本発明の複合体、導電助剤、有機化合物、必要により配合される正極活物質以外の成分を含む場合、該成分の配合量は、電極材料、好ましくは正極合剤を100質量%とすると、0.01〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.05〜7質量%であり、更に好ましくは、0.1〜5質量%である。
【0042】
上記電解液としては、蓄電池の電解液として通常用いられるものを用いることができ、特に制限されないが、例えば、有機溶剤系電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、フッ素基含有カーボネート、フッ素基含有エーテル、イオン性液体、ゲル化合物含有電解液、ポリマー含有電解液等が好ましく、水系電解液としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等が挙げられる。電解液は、上記1種又は2種以上使用してもよい。無機固体電解質を使用してもよい。
【0043】
上記電解液の濃度は、電解質の濃度が0.01〜15mol/Lであることが好ましい。このような濃度の電解液を用いることで、良好な電池性能を発揮することができる。より好ましくは、0.1〜12mol/Lである。電解質としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SO、Li(BC)、LiF、LiB(CN)等が挙げられる。また、電解液は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば正極や負極の保護被膜を形成する材料や、プロピレンカーボネートを電解液に使用した場合に、プロピレンカーボネートの黒鉛への挿入を抑制する材料等が挙げられ、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、臭化エチレンカーボネート、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、クラウンエーテル類、ホウ素含有アニオンレセプター類、アルミニウム含有アニオンレセプター等が挙げられる。添加剤は、上記1種又は2種以上使用してもよい。
【0044】
上記蓄電池におけるセパレータとは、正極と負極を隔離し、電解液を保持して正極と負極との間のイオン伝導性を確保する部材である。セパレータとして特に制限はないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、セロファン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ビニロン、ポリ(メタ)アクリル酸等のマイクロポアを有する高分子量体やそれら共重合体、ゲル化合物、イオン交換膜性重合体やそれら共重合体、環化重合体やそれら共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸塩含有ポリマーやそれら共重合体、スルホン酸塩含有ポリマーやそれら共重合体、第四級アンモニウム塩含有ポリマーやそれら共重合体、第四級ホスホニウム塩ポリマーやそれら共重合体等が挙げられる。
【0045】
本発明の複合体を含む電極材料から正極を形成する場合、上記蓄電池における負極としては、黒鉛;アモルファス炭素;カーボンナノフォーム;活性炭;グラフェン;ナノグラフェン;グラフェンナノリボン;フラーレン;カーボンブラック;ファイバー状カーボン;カーボンナノチューブ;カーボンナノホーン;ケッチェンブラック;アセチレンブラック;炭素繊維;気相成長炭素繊維等の炭素材料、酸化等の表面処理を施した炭素材料、ホウ素等の元素を導入した炭素材料、リチウム金属、Mg;Ca;Al;Si;Ge;Sn;Pb;As;Sb;Bi;Ag;Au;Zn;Cd;Hg等の金属単体やこれらの金属とリチウムとの合金化合物、SiO;CoO;Li4/3Ti5/3等の酸化物、MoS;MnS等の硫化物、Li2.6Co0.4等の窒化物、NiP等のリン化合物、珪素含有化合物等が挙げられる。
【0046】
上述したように、導電性物質に対して、その上に金属酸化物を有する複合体とするために、上記固形分生成工程と金属酸化物生成工程とを含む製造方法とすれば、製造される複合体において、電極触媒としての活性、電極における還元能力を高めることが可能となる。上記非特許文献1に記載されたLaMn1−yFeO/C(ex−situ)に対して、本発明の製造方法を適用し、導電性物質の存在下に金属酸化物の前駆体を析出させるin−situな手法を用いると、電極触媒及び/又は導電助剤として更に有利な効果を奏することができる複合体を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の複合体の製造方法は、上述の構成よりなり、電極の導電助剤となり得る導電性物質と電極における触媒成分となり得る金属酸化物とを含む複合体の製造方法において、導電性物質に対して金属酸化物を高分散に含浸・担持させることによって、触媒性能を向上させることができる製造方法として優れたものである。そのような製造方法によって製造される複合体は、導電性物質を用いる蓄電池等の技術分野に適用される複合体として、特に、空気電池における空気極やリチウムイオン二次電池における正極等、これら蓄電池における電極を構成する電極材料として優れた性能を発揮させることができるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の製造方法において、逆均一沈殿法によりペロブスカイト型電極触媒を調製するフロー(工程順序)等を概念的に説明するための図である。
【図2】水酸化物とKBとの混合物を焼成する前のXRD(X線回折)パターンを示す図である。
【図3】水酸化物とKBとの混合物を焼成した後のXRDパターンを示す図である。
【図4】実施例1で得たLaMnO/KB(in−situ)を用いた電極について、回転数を変化させて酸素還元能評価を行った結果を示す。
【図5】比較例1で得たLaMnO/KB(ex−situ)を用いた電極について、回転数を変化させて酸素還元能評価を行った結果を示す。
【図6】LaMnO/KB(in−situ)及びLaMnO/KB(ex−situ)を用いた電極について、回転数1000rpmで酸素還元能評価を行った結果を示す。
【図7】従来の逆均一沈殿法によりペロブスカイト型電極触媒を調製するフロー(工程順序)等を概念的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に発明を実施するための形態を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの発明を実施するための形態のみに限定されるものではない。
【0050】
実施例1
(逆均一沈殿法によるペロブスカイトの調製方法)
(1)Mn(NO・6HO(重量平均分子量287.04)2.05g、La(NO・6HO(重量平均分子量433.01)3.06g及び純水(HO)68.41gを混合・攪拌し、均一な透明橙色溶液を調製し、A液とした。
(2)水酸化カリウム(KOH)2.54g、純水200g及びケッチェンブラック(KB)5.02gを混合・攪拌し、KB分散液を調製し、B液とした。
(3)スリーワンモーターにて250rpmでB液を攪拌しながら、A液を1時間掛けて滴下し、その後2時間熟成した。
(4)LaMn(OH)/KBを濾過し、大過剰の純水で洗浄後、60℃で1晩乾燥した。
(5)得られた黒色粉体を、Nフロー下(窒素雰囲気下)、650℃で6時間焼成した。
上記手順によって、LaMnO/KB(in−situ)を得た。
【0051】
比較例1
(逆均一沈殿法によるペロブスカイトの従来の調製方法)
(1)Mn(NO・6HO(重量平均分子量287.04)2.02g、La(NO・6HO(重量平均分子量433.01)3.06g及び純水(HO)67.41gを混合・攪拌し、均一な透明橙色溶液を調製し、A液とした。
(2)水酸化カリウム(KOH)2.60g及び純水200gを混合・攪拌し、均一な透明溶液を調製し、B液とした。
(3)スリーワンモーターにて250rpmでB液を攪拌しながら、A液を1時間掛けて滴下し、その後2時間熟成した。
(4)得られた暗茶色のゲルを濾過し、大過剰の純水で洗浄後、60℃で1晩乾燥した。
(5)得られた粉体を、2−プロパノール中でケッチェンブラック(KB)とともに分散させ、2時間攪拌後に濾過し、乾燥した。
(6)得られた黒色粉体を、Nフロー下(窒素雰囲気下)、650℃で6時間焼成した。
上記手順によって、LaMnO/KB(ex−situ)を得た。
【0052】
<XRD測定>
実施例・比較例におけるXRD測定は、TTRIIIシステム(リガク社製)を用いて定法に従い、以下の条件で測定した。
走査範囲:10°−70°
ステップサイズ:0.020°
スキャン速度:5.000°min−1
【0053】
(焼成前のペロブスカイトのXRD分析)
水酸化物とKBとの混合物を焼成する前のXRD(X線回折)パターンを図2に示す。具体的には、導電助剤としてケッチェンブラック(KB)を用い、金属酸化物の前駆体となる水酸化物の析出後にKBへ含浸・担持して調製された焼成前の水酸化物とKBとの混合物であるLaMn(OH)x/KB(比較例1の(1)〜(5)の工程により得られたもの)と、金属酸化物の前駆体となる水酸化物の析出中にKBへ含浸・担持して調製された焼成前の水酸化物とKBとの混合物であるLaMn(OH)x/KB(実施例1の(1)〜(4)の工程により得られたもの)のXRD(X線回折)パターンを図2に示す。
比較例においては、KBのアモルファスピークに加えてLa(OH)ピークが認められた。水酸化物がKBへ均一に含浸・担持されていれば、実質的にKBのアモルファスピークだけとなるが、そのようにはなっていないことが分かる。つまり、従来の技術では、水酸化物とCBとの混合物である焼成前の段階において、触媒成分となる金属酸化物の前駆体が充分に均一に分散された状態とはなっていないといえる。
【0054】
(焼成後のペロブスカイトのXRD分析)
水酸化物とKBとの混合物を焼成した後のXRDパターンを図3に示す。具体的には、上記実施例1で得られたLaMnO/KB(in−situ)と、比較例1で得られたLaMnO/KB(ex−situ)のXRD(X線回折)パターンを図3に示す。
図3においては、実施例1及び比較例1ともに、LaMnOのピークと同定された。つまり、焼成後においては、水酸化物から金属酸化物の結晶が生成し、LaMnOのピークが生じた。
【0055】
<酸素還元能評価>
実施例1及び比較例1で得られた電極触媒を用いて、以下のようにして酸素還元能を評価した。
上記電極触媒20mgを、1−ヘキサノール2.0ml中に超音波分散にて分散させ、分散液(スラリー)を調製した。この分散液を、回転電極装置(北斗電工社製、HR−201)に付属の回転ディスク電極のGC(グラッシーカーボン)ディスク上に、マイクロピペットを用いて5.0μl滴下し、乾燥し、電極触媒を均一に堆積した。該回転ディスク電極を0.1M水酸化カリウム水溶液中にセットし、酸素を吹き込むことで酸素飽和水溶液とした。当該回転ディスク電極は空気電極(正極)となる。
参照電極としてはAg/AgCl電極を用いた。0Vから−0.6Vに向けて0.005mV/secの掃引速度で掃引して酸素還元電流を測定した。
【0056】
上記酸素還元能評価を行った結果を図4〜6に示す。
図4〜6において、横軸が印加電圧(V)、縦軸が電流値(mA)であり、横軸の0.0Vから−0.8Vの方向に印加電圧を変化させる場合、電池性能を比較して性能が高い、すなわち電極触媒としての触媒作用が優れているといえるのは、縦軸の0.0mAからマイナス電流値へ早く立ち上がる(早くマイナス電流の値(絶対値)が大きくなる)方であり、また、印加電圧のマイナスの値(絶対値)が大きくなるに従ってマイナス電流の値(絶対値)が大きくなる方である。
【0057】
LaMnO/KB(in−situ)(実施例1)を用いた電極についての酸素還元能評価結果を示す図4より、横軸の0.0Vから−0.8Vの方向に印加電圧を変化させる場合、−0.1Vを過ぎた時点で早く立ち上がり、電圧を印加した直後の初期性能が高いことがわかる。また、回転数を250rpmから3000rpmまで変化させるにつれて、グラフがプラトーになるマイナス電流の値(絶対値)つまり限界電流が高くなっていくことがわかる。これは、回転数を上げると、酸素と接触する可能性が高くなり、マイナス電流の値(絶対値)が高くなるものと考えられる。
【0058】
LaMnO/KB(ex−situ)(比較例1)を用いた電極についての酸素還元能評価結果を示す図5より、横軸の0.0Vから−0.8Vの方向に印加電圧を変化させる場合、−0.2Vになる手前で立ち上がっていることがわかる。また、回転数を250rpmから3000rpmまで変化させるにつれて、限界電流が徐々に高くなっていくことがわかる。
【0059】
1000rpmでの酸素還元能評価結果を示す図6より、横軸の0.0Vから−0.8Vの方向に印加電圧が変化する場合、LaMnO/KB(in−situ)(実施例1)を用いた電極が−0.1Vを過ぎた時点で早く立ち上がり、LaMnO/KB(ex−situ)(比較例1)を用いた電極は、−0.2Vになる手前で立ち上がっていることから、実施例においては、電圧を印加した直後の初期性能がかなり向上することがわかる。また、限界電流が、LaMnO/KB(in−situ)(実施例1)は、LaMnO/KB(ex−situ)(比較例1)と比べて約1.3倍にも高くなっている。
このように、LaMnO/KB(in−situ)を用いることにより、つまり、金属酸化物の前駆体となる水酸化物の析出をカーボンブラックの存在下で実施することにより、複合体における作用効果である電極触媒としての性能が格段に向上することがわかる。
【0060】
なお、上記実施例においては、導電性物質がカーボンブラック、金属酸化物がランタン元素とマンガン元素の酸化物によって実証されているが、導電性物質であれば電極の導電助剤となり得、金属酸化物であれば電極触媒としての作用を発揮し得る。また、金属酸化物の前駆体となる水酸化物の析出をカーボンブラックの存在下で実施することにより、触媒成分を高分散に担持させることが可能となり、触媒性能が向上する、特に電極触媒としての性能が向上することになる作用機序は、本発明の複合体を用いた場合にはすべて同様である。
したがって、上記実施例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性物質と金属酸化物とを含んで構成される複合体を製造する方法であって、
該製造方法は、導電性物質を含む溶液中で金属酸化物の前駆体を含む固形分を生成させる工程と、該固形分中の金属酸化物の前駆体から金属酸化物を生成する工程とを含む
ことを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項2】
前記固形分生成工程は、金属酸化物の前駆体となる原料化合物を溶液中に添加することにより、金属酸化物の前駆体を含む固形分を生成させる工程であることを特徴とする請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項3】
前記導電性物質を含む溶液は、アルカリ溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合体の製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物生成工程は、固形分を焼成する工程であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合体の製造方法。
【請求項5】
前記導電性物質は、炭素材料からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の複合体の製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物は、遷移金属酸化物からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の複合体の製造方法。
【請求項7】
前記複合体は、電極触媒として用いられることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の複合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の複合体の製造方法により製造されることを特徴とする複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−103216(P2013−103216A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251050(P2011−251050)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度 独立行政法人日本学術振興会の最先端研究開発支援プログラム「高性能蓄電デバイス創製に向けた革新的基盤研究」助成研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】