説明

複合体シート、その製造方法およびそれを用いた電気電子部品

【課題】 コンデンサー、キャパシター、電池に使用でき、高エネルギー、大出力に十分な効果を示し、かつ、シャットダウン機能と高温形状安定性を兼ね備えた2次電池またはキャパシターのセパレーターとして有用な複合体シートを提供すること。
【解決手段】 少なくとも200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマーの多孔質シート層と実質的に安定融点を有しない有機化合物層のファイブリッドまたは短繊維またはフィブリル化したパルプからなる不織布状シートとを積層した少なくとも2層以上の層構造をなしている複合体シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば2次電池内において正極材と負極材を隔離し、電解液中の電解質もしくはイオンを通過させるセパレーターおよびそれを利用した電池、キャパシターなどの電気電子部品に関する。特に、リチウム、ナトリウムなどのアルカリ金属のイオンを電流のキャリアーとして使用する2次電池のセパレーターとして有用である、異なる熱特性を有する複数の有機化合物からなるシートによって構成されたセパレーターに関する。
【背景技術】
【0002】
2次電池、キャパシターは携帯電子機器等の電源として使用され、また電気自動車、ハイブリッド自動車用の電源としても一部実用化されている現在、これら電子機器および電気自動車、ハイブリッド自動車への各種電池の搭載が検討されている。なかでも小型・軽量、エネルギー密度が高く長期保存にも耐える高性能な2次電池、キャパシターへの期待は大きく、幅広く応用が図られている状況にある。代表的なリチウム2次電池の構造としては、正極活物質としてLiイオンを含む遷移金属との複合酸化物をそれぞれ利用した正極、負極活物質としてLiイオンを吸蔵・脱離しうるカーボン系材料を用いた負極、正、負極間に介挿されたセパレーターおよびLiPFまたはLiBF等の電解質と有機溶媒とからなる電解液という主要構成である。さらに電池容器内に上記発電要素が収納され、それぞれ正極、負極に接続される正極端子、負極端子およびガスケットにより、密封されている。正極および負極に対してそれぞれ所定の金属を用いた集電体が帯状に加圧成形されている。
【0003】
この場合、セパレーターに要求される一般的特性として、
(1)電極材を隔離する機能の他に、各部短絡などで大きな電流が流れたときに電池回路を遮断する機能(シャットダウン特性)を有すること、
(2)電解液を保持した状態では電解質・イオン透過性がよいこと、
(3)電気的絶縁性を有すること、
(4)電解液に対して化学的に安定であると同時に、電気化学的にも安定であること、および
(5)機械的強度を有すること、膜厚が薄くできること、並びに電解液に対して濡れやすく、電解液の保持性がよいこと等が挙げられる。
【0004】
特に、シャットダウン特性は、電池に過電流が流れて化学反応が急速に進行し、電池回路が暴走するのを防ぐ意味で極めて重要である。
【0005】
従来、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)のようなポリオレフィン系ポリマーを用いて、製膜した多孔質シートが、上記セパレーターとして広く使用されている。この多孔質シートは、1)可塑作用を有する溶剤とポリマーを混練し製膜した後、溶剤を抽出洗浄する方法(一般に、湿式法と呼称されている。)、または2)溶融ポリマーを押し出し成形にてシート化した後に延伸処理を施し、亀裂を生じさせ微細な孔を形成させる方法(一般的に、乾式法と呼称されている。)によって製造される。このように製造されたセパレーターは、1層または複数層、あるいはロール状に巻いて電池内において用いられる。
【0006】
セパレーターの材質として採用される溶融温度が130℃であるポリエチレン(PE)と同温度が170℃であるポリプロピレン(PP)の選択によって、上記のように外部短絡で電池内に過大な電流が流れたときに発生する発熱や外部要因による温度上昇によって、セパレーターが熱収縮/融解し、それにともない微多孔が閉塞するので電池回路を遮断する役割を果たしている。より低い温度で微多孔が閉塞される方が安全であるとの観点から、セパレーター材質はポリエチレン(PE)が主体となっている。
【0007】
無論、電池回路の保護のため、セパレーター以外にPTCなどの安全装置機能を外部回路に組み込むことは可能である。しかし、今後大きく発展が期待される電気自動車、ハイブリッド自動車用途の2次電池においては、衝突事故などの際の衝撃によって、外部安全装置回路が破損する可能性があることを考えあわせれば、安全性について、フールプルーフの観点からシャットダウン機能を有するセパレーターは必要不可欠と考えられる。更に、このシャットダウン特性とともに、シャットダウン後に温度上昇が継続した場合のセパレーターの形状保持力が重要な要素となる。すなわち、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)のような120−170℃の温度範囲に融点をもつポリマーをセパレーターに採用した場合、シャットダウン後も何らかの要因で温度上昇が継続すると、セパレーター自体が溶融してしまう結果、電流遮断機能がほぼ完全に消滅してしまう問題が指摘されている。あまりに早くセパレーター形状を失うようでは、電極の短絡を招き危険な状態になる。
【0008】
前記問題を解決するために、2次電池のセパレーターの材質として、高融点材料と低融点材料とを組み合わせ、低融点材料にシャットダウン機能を、高融点材料に高温での形状保持機能を持たせた多成分材料がいくつか提案されている。
【0009】
(1)たとえば、特許文献1には、芯鞘構造を持つ複合繊維不織布が記述されている。
(2)特許文献2には、融点の異なる複数種類の材質で形成された微多孔膜が示されている。
(3)一方、特許文献3には、低融点樹脂からなる微孔製膜とこれより融点の高いポリマーから成る不織布を積層した構造体が提案されている。
【0010】
しかし、これらに示されている高融点化合物の融点は高々270℃であり、ポリマーの熱運動が開始する目安の温度であるTg(ガラス転移温度)は、100度以下である。したがって突発的かつ局所的な温度上昇が生じた場合、セパレーター形状および短絡防止機能が完全に保持されるとは言えない。特に通常のセパレーターを構成するポリマーの場合、熱伝導率が一般に小さいため、局所的な温度上昇と融解の可能性は否定できない。
【0011】
(4)またポリエチレン(PE)多孔質フィルムとポリプロピレン(PP)多孔質フィルムを積層したセパレーターも実用化されているが、この場合も熱的に不安定である問題は本質的には解決されていない。
【0012】
(5)その他にも、熱的に安定な芳香族ポリアミド(以後アラミドと表記する。)をセパレーター成分に用いることが提案されている(特許文献4、特許文献5、特許文献6を参照)。これらは耐熱性に優れたアラミド繊維/パルプを使用したものであるが、シャットダウン機能を付与することの記述はない。
【0013】
(6)特許文献7には、少なくともフィブリル化された有機繊維を含有する電池セパレーター用不織布が示されている。この不織布はポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などの低融点繊維を含んでもよいとされている。しかしながら、低融点成分が繊維形態である場合、仮に溶融したとしても被覆できる面積は大きくなく、既述したシャットダウン機能が十分であるとは言い難い。
【0014】
【特許文献1】特開昭61−232560号公報
【特許文献2】特開昭63−308866号公報
【特許文献3】特開平1−258358号公報
【特許文献4】特開平5−33005号公報
【特許文献5】特開平7−37571号公報
【特許文献6】特開平7−78608号公報
【特許文献7】特開平9−27311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的であるシャットダウン機能と高温形状安定性を兼ね備えた電池、キャパシター特に2次電池のセパレーターのためのシート状材料は皆無という状況であった。今後リチウム2次電池の産業用途への展開を図る上で、このような安全装置機能を有した電池セパレーターが待望されている。そこで、本発明の目的は、2次電池の安全性について重要な特性であるシャットダウン機能と高温時での形状安定性に優れたセパレーターを提供することを課題とする。本発明は、また、そのようなセパレーターを備えることによって安定性がより改善された電池、キャパシターなどの電気電子部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らはかかる状況に鑑み、確実なシャットダウン機能と高温形状安定性を備えたセパレーター用材料を開発すべく鋭意検討を進めた結果、本発明に到達した。
【0017】
すなわち、本願の第1の発明に従う複合体シートは、少なくとも200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマーの多孔質シート層と実質的に安定融点を有しない有機化合物のファイブリッドまたは短繊維またはフィブリル化したパルプのうち少なくとも1成分を含む不織布状シート層とを積層した少なくとも2層以上の層構造をなしていることを特徴とする。
【0018】
本願の第2の発明に従う複合体シートは、上述の第1の発明に従う複合体シートにおいて、前記有機化合物が、実質的に200℃以下において安定融点を有しないことを特徴とする。
【0019】
本願の第3の発明に従う複合体シートは、上述の第2の発明に従う複合体シートにおいて、前記有機化合物がアラミドであることを特徴とする。
【0020】
本願の第4の発明に従う複合体シートは、上述の第1ないし3のいずれかの発明に従う複合体シートにおいて、前記熱可塑性ポリマーがポリオレフィンであることを特徴とする。
【0021】
本願の第5の発明に従う複合体シートは、上述の第1ないし4のいずれかの発明に従う複合体シートにおいて、ガーレー式透気度測定法で測定される透気度が1000秒/100cm以下であることを特徴とする。
【0022】
本願の第6の発明に従う電気電子部品は、上述の第1ないし5のいずれかの発明に記載の複合体シートを導電部材間の隔離板として使用することを特徴とする。
【0023】
すなわち、本発明の主要な技術思想は、電池セパレーターを200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマーの多孔質シートからなる層と実質的に安定融点を有しない有機化合物のファイブリッドまたは短繊維またはフィブリル化したパルプのうち少なくとも1成分を含む不織布状シートからなる層をラミネートして成形するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる複合体シートは、熱収縮・融解によるシャットダウン機能に優れた熱可塑性ポリマーと高温形状保持機能において優れた特性を示すアラミドから構成されているので、より優れたシャットダウン機能と形状保持力が高く、他に2次電池のセパレーターとして要求される特性をも有する電池セパレーターを提供できる。このセパレーターを装着したリチウム2次電池、電気二重層キャパシターのなどの電気電子部品は携帯電話、コンピューターなどの電気機器および電気自動車、ハイブリッド自動車などの電源などに利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
[融点]
本発明におけるポリマーの融点は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)、DTA(Differential Thermal Analysis)などの熱的測定方法にて定義される。一般に、ポリマーは、単一でない分子量成分を含んでいることおよび結晶化の程度の違いなどを反映して幅広い融解挙動を示す。本発明において、融点とは、DSC分析による吸熱ピークに対応する温度を以って定義する。
【0026】
[200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマー]
本発明に用いられる200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマーとしては、特に限定されないが、一例で示せば、ポリオレフィンが挙げられる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテンおよびこれらの共重合体などが例示できるが、これらに限定されるわけではない。これらのうちでもポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。これらのポリマーは、直鎖状構造以外に、分岐鎖、架橋部位などの構造を含んだものも利用できる。
本発明の複合体シートにおいては、このような熱可塑性ポリマーが融点付近まで加熱されると融解し、シャットダウン機能が発現する。
【0027】
[実質的に安定融点を有しない有機化合物]
本発明において用いられる実質的に安定融点を有しない有機化合物は、
(1)加熱昇温した際に架橋反応が進行し実質的に融点が化合物の分解温度以上に上昇するもの、
(2)化合物の融点と分解温度が近接して融解と並行して化合物の熱分解が生じるもの、
(3)融解特性がなく、したがって融点を持たないものなどが利用できる。
本発明においては、これらの有機化合物のなかで、実質的に200℃以下で安定融点を有しない有機化合物が好ましい。このように本発明で用いられる有機化合物としては特に限定されないが、アラミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアリレート(全芳香族ポリエステル)、セルロース、ポリアゾメチン、ポリアセチレン、ポリピロール、などが挙げられるが、特にアラミドが好ましい。
【0028】
上記有機化合物の形状は繊維、フィブリル化した繊維、ファイブリッドからなる、紙、不織布、薄葉材などが考えられるが上記有機化合物を少なくとも一成分として含み、かつセパレーターとして十分なイオン透過性を有すれば、特に制約はない。
【0029】
ここで、上記有機化合物を少なくとも一成分として含みというのは当該成分が紙、不織布、薄葉材などの成分として10〜100重量%含まれることを意味し、好ましくは30〜100重量%含まれることを意味する。
一例として特開2003−064595号公報に記載されるアラミド薄葉材が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0030】
[上記熱可塑性ポリマー層と上記有機化合物層とを積層した少なくとも2層以上の層構造をなしている複合体シート]
本発明の複合体シートとは、上記熱可塑性ポリマー層と上記有機化合物層とを積層した少なくとも2層以上の層構造をなしているものであり、セパレータとして用いる場合には、5μm〜100μmの範囲内の厚さを有していることが好ましく、5μm〜50μmがより好ましく、さらに5μm〜30μmがより好ましい。5μmよりも厚みが小さい場合、機械特性が低下しセパレータとしての形態保持や製造工程での搬送等取り扱いに問題を生じやすく、100μmを上回る場合、内部抵抗の増大を招きやすいし、なにより小型高性能の電気・電子部品を製造し難い。
【0031】
複合体シートを構成する熱可塑性ポリマーの多孔質シートの厚みは、8μm以下が好ましい。
【0032】
さらに、本発明の複合体シートは、セパレータとして用いる場合には、5〜1000g/mの範囲内の坪量を有することが好ましい。坪量が5g/mより小さい場合、機械強度が不足するため電解質含浸処理や巻き取りなどの部品製造工程での各種取り扱いで破断を引き起こしやすく、一方、1000g/mより大きい坪量の複合体シートでは厚みの増大や、電解質の含浸・浸透の低下が生じる傾向がみられる。
【0033】
本発明の複合体シートの密度は坪量/厚みより算出される値であり、通常、0.1〜1.2g/mの範囲内の値をとることができる。
【0034】
本発明の複合体シートは、さらに、ガーレー式透気測定法で測定して、1000秒/100cm以下の透気度を有していることが好ましい。ここでガーレー式透気度とは、外径28.6mmの円孔をもった締め付け板に試料を挟み、この試料を通じて100cmの空気が流出するのに要する時間を秒単位で示したものである。ガーレー式透気度が1000秒/100cmを越える複合体シートは、電解質をアラミド薄葉材に含浸浸透して使用する場合に、十分な浸透充填が達成できない可能性がある。
【0035】
本発明の複合体シートを得る製法としては、
複合体を形成する多孔質シート層と不織布状シート層は、層構造をなしていれば、特に層間の接着方法に制約はなく、電池やキャパシターなどの電機電子部品のセパレーターとしてそれらの部品に組み込まれる際の取り扱いに十分な接着がなされておれば十分である。
【0036】
不織布状シートは、一般に、上記有機化合物を混合した後シート化する方法により製造することができる。具体的には、例えば、上記有機化合物を乾式ブレンドした後に、気流を利用してシートを形成する方法、有機化合物を液体媒体中で分散混合した後、液体透過性の支持体、例えば網またはベルト上に吐出してシート化し、液体を除いて乾燥する方法などを適用できるが、これらのなかでも水を媒体として使用する、いわゆる湿式抄造法が好ましく選択される。
【0037】
湿式抄造法では、少なくとも有機化合物を含有する単一または混合物の水性スラリーを、抄紙機に送液し分散した後、脱水、搾水および乾燥操作することによって、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機およびこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などが利用できる。コンビネーション抄紙機での製造の場合、配合比率の異なるスラリーをシート成形し合一することで複数の紙層からなる複合体シートを得ることができる。抄造の際に必要に応じて分散性向上剤、消泡剤、紙力増強剤などの添加剤を使用することができる。またこれ以外にその他の繊維状、パルプ状成分(例えばポリオレフィン繊維、ポリオレフィンパルプ、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、セルロース系繊維、セルロース系パルプ、PVA系繊維、ポリエステル繊維、アリレート繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などの有機繊維、ガラス繊維、ロックウール、アスベスト、ボロン繊維などの無機繊維ガラス繊維)を添加することも出来る。
【0038】
また、上記熱可塑性ポリマーの多孔質シートと有機化合物のファイブリッドまたは短繊維またはフィブリル化したパルプのうち少なくとも1成分を含む不織布状シートを2枚以上重ね合わせて、一対の平板間または金属製ロール間にて加熱状態で圧着することにより、複合体シートを作成することができる。熱圧着の条件は、たとえば金属製ロール使用の場合、温度30〜150℃、線圧30〜400kg/cmの範囲内を例示することができるが、これらに限定されるものではない。加熱操作を行う場合、熱可塑性ポリマー層が加熱により熱収縮/融解し、それに伴い孔が閉塞するとセパレーターとしてのイオン透過性が損なわれるため、特に熱可塑性ポリマーの融点よりも50℃以上低い温度で単に加圧だけを行うことが好ましい。特に加圧操作の際に複数の複合体シートを積層することもできる。上記の圧着加工を任意の順に複数回行うこともできる。
【0039】
このようにして得られる複合体シートは、熱可塑性ポリマーに起因する200℃以下での効率的なシャットダウン機能と、実質的に安定融点を有しない有機化合物に基づく高温形状安定化機能を兼ね備えているだけでなく、従来の欠点であった2種類セパレーターを別々に成形する際の各々の機械的強度不足による裂けやすさ、取り扱いの難しさなどを解決することが出来る。よって工業用途を想定した非水電解液電池、特にリチウム2次電池に好適に使用できる。このような複合体シートを装着することで、電池の安全性を大幅に高めることが可能である。このような電池は従来の携帯電話、パーソナルコンピューターなどの電気機器電池用途のみならず、電気自動車のような大型機器のエネルギー貯蔵/発生装置としても応用することが出来る。
【0040】
[内部抵抗値]
本発明では電解液を保持した状態での電解質・イオン透過性を示す特性として下式(1)の内部抵抗値を用いる。
(内部抵抗値)=(電解液の電気伝導度)/(セパレーターに電解液を注入したときの電気伝導度)×(セパレーターの厚み) 式(1)
ここで電解液とは溶媒中に電解質が溶解した液体を意味する。
【0041】
本発明においては、電解液に使用する溶媒、電解質、電解質の濃度等に特に制限はないが、例えば溶媒としてエチレンカーボーネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートエチルメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、グルタロニトリル、アジポニトリル、アセトニトニル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトン、スルホラン、3−メチルスルホラン、ニトロエタン、ニトロメタン、リン酸トリメチル、N−メチルオキサゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N‘−シメチルイミダゾリジノン、アミジン、水及びその混合物などが挙げられる。
【0042】
また、電解質としては、例えばイオン性の物質以下のカチオンとアニオンの組み合わせが挙げられる。
1)カチオン:第4級アンモニウムイオン、第4級ホスホニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、水素イオンとその混合物など
2)アニオン:過塩素酸イオン、ホウフッ化イオン、六フッ化リン酸イオン、硫酸イオン、水酸化物イオンとその混合物など
【0043】
また、本発明において、(セパレーターに電解液を注入したときの電気伝導度)とは上記電解液をセパレーターに注入した状態で2枚の電極に挟み、測定した交流インピーダンスから算出した電気伝導度を意味する。
交流インピーダンスの測定周波数については、特に制限はないが1kHz〜100kHzが好ましい。
以下に本発明の実施形態(実施例)を詳細に説明する。
【0044】
[測定方法]
(1)シートの坪量、厚みの測定
JISC2111に準じて実施した。
(2)ガーレー透気度
王研式透気度計を用いて測定した透気度をガーレー式透気度に換算した。一連のシートについては、この時間が短いほど多孔質であるといえる。
(3)電気伝導度の測定
セパレーターを直径20mmの円に切り出し、2枚のSUS電極に挟み、60kHzでの交流インピーダンスから算出した。
このとき、測定温度は25℃とした。測定には電解液として1M ホウフッ化リチウム エチレンカーボネート/プロピレンカーボネート(1/1重量比)を用いた。
【0045】
[原料調製]
Du Pont社製ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッド(NOMEX(登録商標)ファィブリッドを)離解機、叩解機で処理し重量平均繊維長0.9mmのファィブリッドを調製した。
【0046】
一方、帝人テクノプロダクツ社製メタアラミド繊維(テイジンコーネックス(登録商標))の繊度0.8デニールを、長さ5mmに切断、パラアラミド繊維(テクノーラ(登録商標))の繊度0.55デニールを長さ3mmに切断、帝人トワロン社製パラアラミドパルプ(トワロン(登録商標))を比表面積14m/g、濾水度85mlに調製し、抄紙用原料とした。
【0047】
他方、ポリエチレンパルプ(三井化学(株)製のSWP(登録商標)E620、融点135℃)をミキサーを用いて水中で分散した後、カナダ標準濾水度を300mlに調節した。
【0048】
[アラミドシートの製造]
調製したアラミドファイブリッドとメタアラミド短繊維、パラアラミド短繊維とフィブリル化されたアラミドをおのおの水中で分散しスラリーを作成した。このスラリーを、アラミドファイブリッド、アラミド短繊維、トワロンパルプ、ポリエチレンパルプを表1に示す配合比率で混合し、タッピー式手抄き機(断面積325cm2)にてシート状物を作製した。(夫々実施例1、実施例2、実施例3とする。)次いで実施例1に関しては、これを金属製カレンダーロールにより温度330℃、線圧300kg/cmで熱圧加工し、アラミドシートを得た。
【0049】
[複合体シートの製造]
上記アラミドシートと帝人ソルフィル社製ポリエチレン多孔質フィルム(厚さ7.1ミクロン、空孔率56%、ガーレー93sec/100ml)を重ね合わせ、金属製カレンダーロールにより温度60℃、線圧100kg/cmで圧着加工し、複合体シートを得た。
表1にこのようにして得られた複合体シートの主要特性値および加熱処理後のガーレー透気度を示す。加熱処理は熱風オーブンを使用し、各温度で10分間保持したもので冷却後に透気度を測定した。
【0050】
実施例1によって、複合体シートとすることで145℃付近で作製されたシート材の透気度が上昇することがわかる。さらに加熱温度が上昇すると前記ポリエチレン多孔質フィルムの層は完全に溶融し収縮するがアラミドシートは収縮せずセパレーター形状を維持した。
【0051】
比較例1、2
実施例で作製したアラミドシート、前記ポリエチレン多孔質フィルム各々について実施例と同様の方法で加熱処理を行った。得られた特性を表2、3に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
アラミドシート(比較例1)では、透気度がほとんど変化せず、昇温時のシャットダウン機能が得られないことが判明した。一方、ポリエチレンのみからなる多孔質フィルム(比較例2)は、155℃で著しい熱収縮を示し、このフィルムはセパレーターとしての形状をほとんど保持できなかった。したがって、2次電池の安全性について重要な特性であるシャットダウン機能と高温時での形状安定性に優れた電池セパレーターを得るためには、上記2層よりなる複合体シートを用いることが有効であることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマーの多孔質シート層と実質的に安定融点を有しない有機化合物のファイブリッドまたは短繊維またはフィブリル化したパルプのうち少なくとも1成分を含む不織布状シート層とを積層した少なくとも2層以上の層構造をなしていることを特徴とする複合体シート。
【請求項2】
前記有機化合物が、実質的に200℃以下において安定融点を有しないことを特徴とする請求項1に記載の複合体シート。
【請求項3】
前記有機化合物が芳香族ポリアミドであることを特徴とする請求項1または2に記載の複合体シート。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリマーがポリオレフィンであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の複合体シート。
【請求項5】
ガーレー式透気度測定法で測定される透気度が1000秒/100cm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の複合体シート。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の複合体シートを導電部材間の隔離板として使用することを特徴とする電気電子部品。

【公開番号】特開2006−264029(P2006−264029A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83498(P2005−83498)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(504033991)帝人ソルフィル株式会社 (4)
【出願人】(596001379)デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社 (26)
【Fターム(参考)】