説明

複合体シート、その製造方法及びそれを用いた電気電子部品

【課題】二次電池の安全性についての重要な特性である、シャットダウン機能、高温時での形状安定性、及び低内部抵抗に優れたセパレータを提供すること。
【解決手段】(a)200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマーの多孔質シートの層と、(b)少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物のフィブリル化したパルプと、少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物のファイブリッド及び短繊維より選ばれる少なくとも1種の成分とからなる不織布状シートの層とを積層した特定の内部抵抗値を有する複合体シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子部品内において正極と負極とを隔離し、電解質またはイオンを通過させるセパレータして有用な複合体シート、特に、リチウムイオン、ナトリウムイオン、水素イオン、水酸化物イオン、アンモニウムイオンなどを電流のキャリアーとして使用する電池、キャパシタなどの電極間の隔離板(セパレータ)として有用な、異なる熱特性を有する複数の高分子有機化合物からなる複合体シート、その製造方法及びそれを用いた電気電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯通信機器や高速情報処理機器などの最近の進歩に象徴されるように、エレクトロニクス機器の小型軽量化、高性能化には目覚しいものがある。なかでも、小型、軽量、高容量で長期保存にも耐える高性能な二次電池、キャパシタに対する期待は大きく、幅広く応用が図られ、部品開発が急速に進展している。これに応えるため、部材、例えば電極間の隔壁材料であるセパレータに関しても、技術・品質開発の必要性が高まっている。セパレータに要求される一般的な特性として、
1)電極材を隔離する機能の他に、各部短絡などで大きな電流が流れたときに電池回路を遮断する機能(シャットダウン特性)を有すること、
2)電解液を保持した状態で電解質・イオンの透過性が良いこと、
3)電気的絶縁性を有すること、
4)電解液に対して化学的に安定であると同時に、電気化学的にも安定であること、
5)機械的強度を有すること
等が挙げられる。
【0003】
従来、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系ポリマーを用いて製膜した多孔質シートが、セパレータとして広く使用されている。この多孔質シートは、(1)可塑作用を有する溶剤とポリマーを混練し製膜した後、溶剤を抽出洗浄する方法(一般的に「湿式法」と呼ばれる)、または(2)溶融ポリマーを押出成形にてシート化した後に延伸処理を施し、亀裂を生じさせ微細な孔を形成させる方法(一般的に「乾式法」と呼ばれる)によって製造される。このようにして製造されたセパレータは、1層でまたは複数層重ねて、あるいはロール状に巻いて電池内に用いられる。
【0004】
ポリエチレン及びポリプロピレンから製造されたセパレータは、外部短絡で電池内に過大な電流が流れた時に発生する発熱や外部要因による温度上昇によってセパレータが熱収縮あるいは融解し、それに伴い微多孔が閉塞するので電池回路を遮断する役割を果たしている。より低い温度で微多孔が閉塞される方が安全であるとの観点から、セパレータ材質は融点が130℃であるポリエチレンが主体となっている。
【0005】
電池回路の保護のため、セパレータ以外にPTCなどの安全装置を外部回路に組み込むことも可能である。しかし、今後大きく発展が期待される電気自動車、ハイブリッド自動車用途の二次電池においては、衝突事故などの際の衝撃によって、外部安全装置回路が破損する可能性があることを考えれば、安全性について、フールプルーフの観点からシャットダウン機能を有するセパレータは必要不可欠と考えられる。更に、このシャットダウン特性と共に、シャットダウン後に温度上昇が継続した場合のセパレータの形状保持力が重要な要素となる。すなわち、ポリエチレン、ポリプロピレンのような120〜170℃の融点を持つポリマーをセパレータに採用した場合、シャットダウン後も何らかの要因で温度上昇が継続すると、セパレータ自体が溶融してしまう結果、電流遮断機能がほぼ完全に消滅してしまうという問題が指摘されている。あまりに早くセパレータ形状を失ってしま
うようでは、電極の短絡を招き危険な状態になる。
【0006】
上記問題を解決するために、二次電池用セパレータの材質として、高融点材料と低融点材料とを組み合わせ、低融点材料にシャットダウン機能を、そして高融点材料に高温での形状保持機能を持たせた多成分材料がいくつか提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、芯鞘構造を持つ複合繊維不織布が記載されている。特許文献2には、融点の異なる複数の材質で形成された微多孔膜が開示されている。一方、特許文献3には、低融点樹脂からなる微孔製膜とこれより融点の高いポリマーからなる不織布を積層した構造体が提案されている。
【0008】
しかし、これらの高融点材料の融点は高くても270℃であり、ポリマーの熱運動が開始する目安の温度であるガラス転移温度(Tg)は100℃以下である。したがって突発的かつ局所的な温度上昇が生じた場合、セパレータ形状及び短絡防止機能が完全に保持されるとは言えない。特に、通常のセパレータを構成するポリマーの場合、熱伝導率が一般に小さいため、局所的な温度上昇と融解の可能性は否定できない。
その他、特許文献4、特許文献5、特許文献6などには、熱的に安定な芳香族ポリアミド(以下「アラミド」と表記する)をセパレータ成分に用いることが提案されている。これらは耐熱性に優れたアラミド繊維及び/またはアラミドパルプを使用したものであるが、シャットダウン機能を付与することについては記載されていない。
【0009】
また、特許文献7には、ポリオレフィン系ポリマーの多孔質シートと、実質的に安定融点を有しないアラミド等の高分子有機化合物からなる不織布状シートとを積層した複合セパレータが提案されている。しかし、本文献の実施例記載の方法により製造される複合体シートは、多孔質シートと不織布状シートが実質的に接着して複合体シートを形成しているものの、熱圧着により共に強く圧縮・変形し、それにより内部抵抗値の上昇が大きくなるため、電池に組み込んだ際に性能低下を招くことが示唆される。また、ポリオレフィン系ポリマーの多孔質シートとしてポリオレフィンパルプを含む不織布状シートを用いた場合、シャットダウン後に温度上昇が継続すると、形状を保持できなくなり、電流遮断機能が消滅してしまうことが示唆される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭61−232560号公報
【特許文献2】特開昭63−308866号公報
【特許文献3】特開平1−258358号公報
【特許文献4】特開平5−33005号公報
【特許文献5】特開平7−37571号公報
【特許文献6】特開平7−78608号公報
【特許文献7】特開2006−264029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
シャットダウン機能、高温形状安定性及び低内部抵抗を兼ね備えた、電池、キャパシタ、特に二次電池のセパレータのためのシート状材料はこれまで存在しなかった。今後、特にリチウムイオン二次電池の産業用途への展開を図る上で、このような安全装置機能を有する電池セパレータの開発が待望されている。
【0012】
本発明の目的は、二次電池の安全性についての重要な特性である、シャットダウン機能、高温時での形状安定性、及び低内部抵抗に優れたセパレータを提供することである。
【0013】
本発明の目的は、また、そのようなセパレータを備えることによって安定性がより改善された電池、キャパシタなどの電気電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、シャットダウン機能、高温での形状安定性及び低内部抵抗を兼ね備えたセパレータを開発すべく鋭意検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0015】
かくして、本発明は、(a)200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマーの多孔質シートの層と、(b)少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物のフィブリル化したパルプと、少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物のファイブリッド及び短繊維より選ばれる少なくとも1種の成分とからなる不織布状シートの層とを積層した複合体シートであって、該複合体シートの下記式(1)
(内部抵抗値)[μm]=(電解液の電気伝導度)/(セパレータに電解液を注入した
時の電気伝導度)×(セパレータの厚さ)[μm] ・・・ 式(1)
式中、(セパレータに電解液を注入した時の電気伝導度)は、電解液をセパレータに
注入した状態で2枚の電極に挟み、測定した交流インピーダンスから算出した電気伝
導度である、
で表される内部抵抗値が、積層前の該多孔質シートと積層前の該不織布状シートを重ね合わせた状態で測定した内部抵抗値の1.5倍以下であることを特徴とする複合体シートを提供するものである。
【0016】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[融点]
融点は、通常、DSC(Differential Scanning Calorimetry)、DTA(Differential Thermal Analysis)などの熱的分析方法にて測定される。一般に、ポリマーは、単一でない分子量成分を含んでいること及び結晶化の程度の違いなどを反映して幅広い融解挙動を示す。本発明において、融点は、DSC分析による吸熱ピークに対応する温度を以って定義する。
【0018】
[200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマー]
本発明において多孔質シートを形成するために用いられる200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマーとしては、特に制限されるものではないが、特にポリオレフィンが好適である。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン及びこれらの共重合体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、特にポリエチレン及びポリプロピレンが好ましい。これらのポリマーは、直鎖状構造を有するものに限定されず、分岐鎖、架橋部位などの構造を含んだものであってもよい。
【0019】
本発明の複合体シートにおいては、このような熱可塑性ポリマーが融点付近まで加熱されると融解し、シャットダウン機能が発現する。
【0020】
[多孔質シート]
本発明において用いられる多孔質シートは、平面及び断面に均一な微細孔が形成されたシートであり、例えば、その製造方法としては、(1)可塑作用を有する溶剤と上記熱可塑性ポリマーを混練し製膜した後、溶剤を抽出洗浄する方法(一般的に「湿式法」と呼ばれる)、(2)溶融した上記熱可塑性ポリマーを押出成形にてシート化した後に延伸処理を施し、亀裂を生じさせ微細な孔を形成させる方法(一般的に「乾式法」と呼ばれる)な
どの方法により製造することができる。
【0021】
本発明において用いられる多孔質シートは、一般に、2〜15g/m、特に2.5〜12g/mの範囲内の目付、2〜30μm、特に3〜25μmの範囲内の厚み、0.1〜0.85g/cmの範囲内の密度、及び10〜1000秒/100cm、特に20〜600秒/100cmの範囲内の透気度を有することができる。
【0022】
[200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物]
本発明において用いられる少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物とは、融点の定義として前述したDSC分析による吸熱ピークに対応する温度が200℃、好ましくは300℃を超える高分子有機化合物であり、本発明で用いられる高分子有機化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、アラミド(芳香族ポリアミド)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアリレート(全芳香族ポリエステル)、セルロース、ポリアゾメチン、ポリアセチレン、ポリピロールなどが挙げられるが、特にアラミドが好ましい。
【0023】
これらの高分子有機化合物の形状としては、例えば、繊維、フィブリル化した繊維、ファイブリッドからなる、紙、不織布、薄葉材などが挙げられるが、本発明においては上記高分子有機化合物のフィブリル化繊維パルプ及び/またはファイブリッドまたは短繊維のうち少なくとも1成分を含み、かつセパレータとして十分なイオン透過性を発揮するものであれば、特に制約はない。
【0024】
[少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物のフィブリル化したパルプ]
本発明において用いられる少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物のフィブリル化したパルプ(以下、「フィブリル化パルプ」という)は、上記の高分子有機化合物からなる繊維にせん断力を加えるなどしてフィブリル化したものであり、主として、核となる太い繊維と、その表面から分岐した複数の細い毛羽状のフィブリルから構成された形状をなしている。
【0025】
上記フィブリル化パルプは、一般に10〜600cm(カナディアンフリーネス)、特に30〜300cmの範囲内の濾水度を有することが好ましい。600cmより大きな濾水度のフィブリル化パルプでは電極間の十分な遮蔽性が確保されない可能性がある。他方、10cmよりも小さな濾水度を得ようとすると、フィブリル化パルプの微細化が進行しすぎるため、いわゆるバインダー機能の低下を招きやすく、したがって、このように10cmよりも小さい濾水度を得ようとしても、格段の利点が認められない。
【0026】
上記フィブリル化パルプは、一般に5g/m以上、特に7〜30m/gの範囲内の比表面積を有することが好ましい。比表面積が5g/mよりも小さいと、バインダー機能の低下を招きやすい。さらに、上記フィブリル化パルプは、一般に0.01mm以上7mm未満の範囲内の重量平均繊維長を有することができる。この範囲より大きな重量平均繊維長のフィブリル化パルプは、抄造時の分散性が悪くなり、形成される不織布状シート中に繊維塊などの局部欠点を生じさせる可能性がある。他方、0.01mmよりも小さな重量平均繊維長を得ようとすると、フィブリル化パルプの微細化が進行しすぎるため、いわゆるバインダー機能の低下を招きやすい。
【0027】
本発明においては、前記高分子有機化合物としては、少なくともその一部としてアラミドのフィブリル化パルプが含まれていることが好ましく、アラミドのフィブリル化パルプが形成される不織布状シートの全重量中に含まれる割合は、一般に50重量%〜95重量%、好ましくは60重量%〜95重量%、さらに好ましくは70重量%〜85重量%の範
囲内である。アラミドのフィブリル化パルプが不織布状シートの全重量中に含まれる割合が50重量%より少ないと、多孔質シートと不織布状シートとを複合させる際に元の多孔質シートと不織布状シートの形状を損なうことなく複合させることが困難となり、他方、95重量%を超えると、安定的に不織布状シートを作成することが困難となるため好ましくない。
【0028】
[少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物のファイブリッド]
本発明において用いられる少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物のファイブリッドは、前記の高分子有機化合物からなる、抄紙性を有するフィルム状の粒子であり、この状態のものをパルプと称することもある。該ファイブリッドは、例えば、特公昭35−11851号公報、特公昭37−5752号公報等に記載の方法により製造することができる。
【0029】
少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物のファイブリッドは、抄紙に適した品質を保つ目的でいわゆる叩解処理を施すことができる。この叩解処理は、ディスクリファイナー、ビーター、その他の機械的切断作用を及ぼす抄紙原料処理機器によって実施することができる。この操作において、ファイブリッドの形態変化は、JIS P8121に規定される濾水度(フリーネス)でモニターすることができる。本発明において、叩解処理を施した後の前記高分子有機化合物のファイブリッドの濾水度は、10〜300cm、特に10〜100cm(カナディアンスタンダードフリーネス)の範囲内にあることが好ましい。300cmより大きな濾水度のファイブリッドでは、それから成形される不織布状シートの強度が低下する可能性がある。他方、10cmよりも小さな濾水度を得ようとすると、投入する機械動力の利用効率が小さくなり、また、単位時間当たりの処理量が少なくなることが多く、さらに、ファイブリッドの微細化が進行しすぎるため、いわゆるバインダー機能の低下を招きやすく、したがって、10cmよりも小さな濾水度を得ようとしても、格段の利点が認められない。
【0030】
[少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物の短繊維]
本発明において用いられる少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物の短繊維は、前記の高分子有機化合物を原料とする繊維を切断したものである。
【0031】
かかる少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物の短繊維は、好ましくは0.05dtex以上25dtex未満、特に0.1〜10dtexの範囲内の繊度を有することができる。ここで繊度とは、1000mあたりの繊維重量(g)と定義される。繊度が0.05dtex未満の繊維は、製造が困難となり好ましくなく、また、25dtex以上の繊維は、繊維直径が大きくなりすぎるため、アスペクト比の低下、力学的補強効果の低減、形成される不織布状シートの均一性不良などの不都合を生じる可能性がある。ここで均一性不良とは、空隙サイズの分布が広がり、セパレータとして用いた際のイオン種の移動性に不均一性を生じることを意味する。
【0032】
前記高分子有機化合物の短繊維の長さは、通常1mm以上50mm未満、特に2〜15mmの範囲内から選ぶことができる。短繊維の長さが1mmよりも小さいと、形成される不織布状シートの力学特性が低下し、他方、50mm以上のものは、後述する湿式法での不織布状シートの製造に際して「からみ」、「結束」などが発生しやすく欠陥の原因となりやすい。
【0033】
[不織布状シート]
不織布状シートは、一般に、上記高分子有機化合物のフィブリル化パルプと上記高分子有機化合物のフィブリッド及び/又は短繊維とを混合した後シート化する方法により製造することができる。具体的には、例えば、上記高分子有機化合物のフィブリル化パルプと
上記高分子有機化合物のフィブリッド及び/又は短繊維とを乾式ブレンドした後に、気流を利用してシートを形成する方法、上記高分子有機化合物のフィブリル化パルプと上記高分子有機化合物のフィブリッド及び/又は短繊維とを液体媒体中で分散混合した後、液体透過性の支持体、例えば網またはベルト上に吐出してシート化し、液体を除いて乾燥する方法などの方法により製造することができるが、これらの中でも、水を媒体として使用する、いわゆる湿式抄造法が好ましく用いられる。
【0034】
湿式抄造法では、上記高分子有機化合物のフィブリル化パルプと上記高分子有機化合物のフィブリッド及び/又は短繊維とを含有する単一または混合物の水性スラリーを、抄紙機に送液し分散した後、脱水、搾水及び乾燥することによって、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては、例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜短網抄紙機及びこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などを利用することができる。コンビネーション抄紙機での製造の場合、配合比率の異なるスラリーをシート成形し合わせることで複数の紙層からなる複合体シートを得ることができる。抄造の際に必要に応じて分散性向上剤、消泡剤、紙力増強剤などの添加剤を使用することができる。また、これ以外に、その他の繊維状、パルプ状成分(例えばポリオレフィン繊維、ポリオレフィンパルプ、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、セルロース系繊維、セルロース系パルプ、PVA系繊維、ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリエステル繊維などの有機繊維、ガラス繊維、ロックウール、ボロン繊維などの無機繊維など)を添加することもできる。
【0035】
[熱可塑性ポリマーの層と不織布状シートの層とを積層した複合体シート]
本発明の複合体シートは、前記熱可塑性ポリマーの層と、前記不織布状シートの層とを積層した少なくとも2層以上の層構造をなしているものであり、セパレータとして用いる場合には、通常5μm〜100μm、特に5μm〜50μm、さらに特に5μm〜30μmの範囲内の厚さを有していることが好ましい。厚みが5μmよりも小さいと、機械的強度が低下しセパレータとしての形態保持や製造工程での搬送等取扱に問題を生じやすく、100μmを超えると、内部抵抗の増大を招きやすく、また小型で軽量かつ高性能な電気電子部品の製造が困難となる。
【0036】
さらに、本発明の複合体シートは、セパレータとして用いる場合には、5〜1000g/m、特に7〜200g/mの範囲内の目付を有することが好ましい。目付が5g/mより小さい場合、機械的強度が不足するため電解質含浸処理や巻取りなどの部品製造工程での各種取扱で破断を引き起こしやすく、他方、1000g/mを超える目付の複合体シートでは、厚みの増大や、電解質の含浸不良を生じる可能性が高いため好ましくない。
【0037】
本発明の複合体シートの密度は、目付/厚みより算出される値であり、通常0.1〜1.2g/cm、特に0.2〜0.8g/cmの範囲内の密度を有することができる。
【0038】
本発明の複合体シートは、さらに、ガーレー式透気度測定法で測定される透気度が、1000秒/100cm以下、特に20〜950秒/100cmの範囲内の透気度を有していることが好ましい。ここでいうガーレー式透気度とは、外径28.6mmの円孔をもった締め付け板に試料を挟み、この試料を通じて100cmの空気が流出するのに要する時間を秒単位で示したものである。ガーレー式透気度が1000秒/100cmを超える複合体シートは、電解質を複合体シートに含浸浸透して使用する場合に、十分な浸透充填が達成できない可能性がある。
【0039】
複合体を形成する多孔質シートの層と不織布状シートの層は、層構造をなしていれば、特に層間の接着方法に制約はなく、電池やキャパシタなどの電気電子部品のセパレータと
してそれらの部品に組み込まれる際の取扱に十分な接着がなされていればよい。
【0040】
前記熱可塑性ポリマーの多孔質シートと、前記高分子有機化合物のフィブリル化パルプを含み、かつ上記高分子有機化合物のファイブリッドまたは短繊維のうち少なくとも1成分を含む不織布状シートを2枚以上積層する方法としては、例えば、一対のロール間にて加熱状態で圧着することにより、複合体シートを作製する方法が挙げられる。このとき、熱圧着は、所定の範囲にロール温度及び線圧を設定し、また、熱圧着時に張力を付与した状態で行うことができる。
【0041】
上記熱圧着により2枚以上を積層する場合、ロール温度は10〜50℃、好ましくは15〜50℃、さらに好ましくは20〜50℃とすることができる。ロール温度が10℃より低い場合、ロール温度を一定にすることが困難であり、他方、ロール温度が50℃を超える場合、例えば、前記多孔質シートがポリエチレンの場合、熱圧着によりシートの形状が変化する可能性があり、それにより内部抵抗の増大を引き起こすため好ましくない。また、線圧は一般に20〜100kgf/cm、好ましくは20〜90kgf/cm、さらに好ましくは20〜80kgf/cmの範囲内とすることができる。線圧が20kgf/cmより低い場合、前記多孔質シートと前記不織布状シートが十分に、かつ均一に接着されない可能性があり、他方、線圧が100kgf/cmより高い場合、圧着により複合体シートの圧縮変形が大きくなり、それにより内部抵抗の増大を引き起こす可能性があるため好ましくない。
【0042】
さらに、熱圧着を行う際に付与する張力は、通常0.5〜10kg/m、好ましくは0.7〜8kg/m、さらに好ましくは1〜5kg/mとすることができる。張力が0.5kg/mより小さい場合、熱圧着の際に前記多孔質シートと前記不織布状シートとの間に浮きが発生したり、また、多孔質シート及び不織布状シートを隙間なく重ね合わせることが困難となるため好ましくない。他方、10kg/mを超える張力を付与した場合、多孔質シートが伸展され、孔の形状が変化する可能性があるため好ましくない。
【0043】
前記熱圧着加工を行う際、特に加圧操作の際に複数の複合体シートを積層することもでき、また、前記熱圧着加工を任意の順序で複数回行うこともできる。
【0044】
このようにして得られる複合体シートは、熱可塑性ポリマーに起因する200℃以下での効率的なシャットダウン機能と、少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物に基づく高温形状安定化機能及び低内部抵抗機能とを兼ね備えているだけでなく、従来の欠点であった2種類のセパレータを別々に成形する際の各々の機械的強度不足による裂けやすさ、取扱の難しさなどを解決することができる。
【0045】
したがって、本発明の複合体シートは、電気電子部品の導電部材間の隔離板として有利に使用することができる。本発明の複合体シートは、工業用途を想定した非水電解液電池、特にリチウムイオン二次電池に好適に使用することができる。本発明の複合体シートを電池に組み込むことで、電池の安全性を大幅に高めることが可能となる。このような電池は従来の携帯電話、ノートパソコンなどの電気機器電池用途のみならず、電気自動車のような大型機器のエネルギー貯蔵・発生装置としても応用が可能である。
【0046】
[内部抵抗値]
本発明では電解液を保持した状態での電解質・イオン透過性を示す特性として下式(1)の内部抵抗値を用いる。

(内部抵抗値)[μm]=(電解液の電気伝導度)/(セパレータに電解液を注入した時の電気伝導度)×(セパレータの厚さ)[μm] ・・・ 式(1)

ここで電解液とは溶媒中に電解質が溶解した液体を意味する。
【0047】
本発明においては、電解液に使用する溶媒、電解質、電解質の濃度等に特に制限はないが、溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、グルタロニトリル、アジポニトリル、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、3−メチルスルホラン、ニトロエタン、ニトロメタン、リン酸トリメチル、N−メチルオキサゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルヒキシド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、アミジン、水及びその混合物などが挙げられる。
【0048】
また、電解質としては、例えば、イオン性の物質で以下のカチオンとアニオンの組み合わせが挙げられる。
1) カチオン:第4級アンモニウムイオン、第4級ホスホニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、水素イオンとその混合物など。
2) アニオン:過塩素酸イオン、ホウフッ化イオン、六フッ化リン酸イオン、硫酸イオン、水酸化物イオンとその混合物など。
【0049】
また、(セパレータに電解液を注入したときの電気伝導度)とは、上記電解液をセパレータに注入した状態で2枚の電極に挟み、測定した交流インピーダンスから算出した電気伝導度を意味する。ここで交流インピーダンスの測定周波数については、特に制限はないが、一般に1kHz〜100kHzの範囲内が好ましい。
【0050】
本発明の複合体シートの内部抵抗値は、複合させる前の前記多孔質シートと前記不織布状シートとを単に重ねた状態で測定した内部抵抗値の1.5倍以下であることが必要であり、特に1.3倍以下、さらに特に1.1倍以下であることが好ましい。ここで複合させる前の前記多孔質シートと前記不織布状シートとを単に重ねた状態とは、前記多孔質シートと前記不織布状シートとの界面が実質的に接合していない状態で重ねられた状態であり、両者を接合させるためのいかなる物理的及び化学的処理を何ら施されていない状態のことをいう。複合体シートの内部抵抗値が、複合させる前の前記多孔質シートと前記不織布状シートとを単に重ねた状態で測定した内部抵抗値の1.5倍を超える場合、複合体シートを構成する多孔質シート及び不織布状シートが複合させる前の状態から圧縮などで大きく変形している可能性が高く、その場合電池に組み込んだときの性能は大きく低下するため好ましくない。また、ここで内部抵抗値の上昇が、複合前の多孔質シートと不織布状シートとを単に重ね合わせたときの内部抵抗値の1.5倍以下である複合体シートを得るには、前記の熱圧着を行う方法などにより、構成するシート層の変形をできるかぎり抑制しながら貼り合わせることが肝要である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、これらの実施例は、単なる例示であり、本発明の内容を何ら限定するためのものではない。
【0052】
[測定方法]
(1)シートの目付、厚み
JIS C 2111に準じて実施した。
(2)ガーレー透気度
王研式透気度計を用いて測定した透気度をガーレー式透気度に換算した。一連のシートについては、この時間が短いほど多孔質であるといえる。
(3)電気伝導度の測定
セパレータを直径20mmの円状に切り出し、2枚のSUS電極に挟み、60kHzでの交流インピーダンスから算出した。
このとき、測定温度は25℃とした。測定には電解液として1Mのホウフッ化リチウム
エチレンカーボネート/プロピレンカーボネート(1/1重量比)を用いた。
(4)内部抵抗値
前記(3)で測定したセパレータに電解液を注入した時の電気伝導度及び電解液の電気伝導度から下式(1)を用いて算出した。
(内部抵抗値)[μm]=(電解液の電気伝導度)/(セパレータに電解液を注入した時の電気伝導度)×(セパレータの厚さ)[μm] ・・・ 式(1)
(5)内部抵抗比
複合体シート及び複合前のアラミドシートとポリエチレン多孔質膜とを同じ枚数単に重ね合わせた状態のもの(積重ね体)のそれぞれについて前記(4)に示す内部抵抗値を測定し、複合体シートの内部抵抗値から前記積重ね体の内部抵抗値を除した値を内部抵抗比とした。
【0053】
[原料調製]
アラミドのフィブリル化パルプとして、テイジンアラミド社製パラアラミドパルプ(トワロン(登録商標)パルプ)を離解機、叩解機で処理し、比表面積14m/g、濾水度85mlに調整した。
【0054】
一方、デュポン社製ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッド(NOMEX(登録商標)ファイブリッド)を離解機、叩解機で処理し、重量平均繊維長0.9mmのファイブリッドを調製し、また、帝人テクノプロダクツ社製メタアラミド繊維(テイジンコーネックス(登録商標))の繊度0.9dtexを、長さ5mmに切断し、抄紙用原料とした。
【0055】
他方、ポリエチレンパルプ(三井化学(株)製のSWP(登録商標)E620、融点135℃)を離解機、叩解機で処理し、濾水度を300mlに調整した。
【0056】
[ポリエチレン多孔質フィルムの作製]
特開昭60−242035号公報の実施例1に記載の方法に従い、厚み12ミクロン、空孔率31%、ガーレー透気度211sec/100mlのポリエチレン多孔質フィルムを作成した。
【0057】
実施例1〜4
調製したパラアラミドパルプ、メタアラミドのファイブリッド、メタアラミド短繊維及びポリエチレンパルプを下記表1に示す配合比率で混合し、幅500mmの傾斜短網抄紙機にてシート状物を作製した。次いで実施例1〜3に関しては、これを金属製カレンダーロールにより温度330℃、線圧300kg/cmで熱圧加工した後、更に温度200℃、線圧300kg/cmで熱圧加工し、アラミドシートを得た。
【0058】
その後、上記アラミドシートと上記ポリエチレン多孔質フィルムを重ね合わせ、金属製カレンダーロールにより2.5kg/mの張力をかけながら、温度40℃、線圧50kg/cmで圧着加工し、複合体シートを得た。
【0059】
このようにして得られた複合体シートの主要特性値及び加熱処理後のガーレー透気度を書き表1に示す。加熱処理は熱風オーブンを使用し、各温度で10分間保持したもので冷却後に透気度を測定した。
【0060】
比較例1
調製したメタアラミドのファイブリッド及びメタアラミド短繊維を下記表2に示す配合比率で混合し、幅500mmの傾斜短網抄紙機にてシート状物を作成した。次いで実施例1及び2と同様にして熱圧加工し、アラミドシートを得た。
【0061】
その後、実施例1及び2と同様の条件で上記アラミドシートとポリエチレン多孔質フィルムを重ね合わせて圧着加工したが、アラミドシートとポリエチレン多孔質フィルムが十分に接着せず、複合体シートを得ることができなかった。
【0062】
比較例2
調製したパラアラミドパルプ、メタアラミドのファイブリッド及びメタアラミド短繊維を下記表2に示す配合比率で混合し、幅500mmの傾斜短網抄紙機にてシート状物を作製した。次いでこれを金属製カレンダーロールにより温度330℃、線圧300kg/cmで熱圧加工し、アラミドシートを得た。
【0063】
その後、このアラミドシートと上記ポリエチレン多孔質フィルムを重ね合わせ、金属製カレンダーロールにより、張力をかけない状態で、温度60℃、線圧100kg/cmで圧着加工し、複合体シートを得た。
【0064】
このようにして得られた複合体シートの主要特性値及び加熱処理後のガーレー透気度を下記表2に示す。
【0065】
比較例3、4
実施例1で作製したアラミドシート及び前記ポリエチレン多孔質フィルムの各々について、実施例と同様の方法で加熱処理を行った。得られた特性をそれぞれ下記表3、4に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマーの多孔質シートの層と、(b)少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物のフィブリル化したパルプと、少なくとも200℃以下において融点を有しない高分子有機化合物のファイブリッド及び短繊維より選ばれる少なくとも1種の成分とからなる不織布状シートの層とを積層した複合体シートであって、該複合体シートの下記式(1)
(内部抵抗値)[μm]=(電解液の電気伝導度)/(セパレータに電解液を注入した
時の電気伝導度)×(セパレータの厚さ)[μm] ・・・ 式(1)
式中、(セパレータに電解液を注入した時の電気伝導度)は、電解液をセパレータに
注入した状態で2枚の電極に挟み、測定した交流インピーダンスから算出した電気伝
導度である、
で表される内部抵抗値が、積層前の該多孔質シートと積層前の該不織布状シートを重ね合わせた状態で測定した内部抵抗値の1.5倍以下であることを特徴とする複合体シート。
【請求項2】
該高分子有機化合物がアラミドである請求項1に記載の複合体シート。
【請求項3】
該不織布状シートがアラミドのフィブリル化したパルプを50重量%〜95重量%含む請求項1または2に記載の複合体シート。
【請求項4】
該熱可塑性ポリマーがポリオレフィンである請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合体シート。
【請求項5】
ガーレー式透気度測定法で測定される透気度が1000秒/100cm以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合体シート。
【請求項6】
該多孔質シートと該不織布状シートとを、一対のロール間で、0.5〜10kg/mの張力を付与した状態で、ロール温度10〜50℃、線圧20〜100kgf/cmの条件で熱圧着させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合体シートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合体シートを導電部材間の隔離板として用いることを特徴とする電気電子部品。

【公開番号】特開2011−108593(P2011−108593A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265338(P2009−265338)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(596001379)デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社 (26)
【Fターム(参考)】