説明

複合体及びその製造方法

【課題】非水溶性有機溶剤中でしか重合させることができない反応性基を有する2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体を、環境への負荷が少ない水系溶媒中で重合させる方法の提供。
【解決手段】シクロデキストリンの疎水性キャビティに、一般式(1)で表される化合物が包摂された複合体を用いる。


(式中、R1〜R3は、各々独立して、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2を表わし、Zは、アルキレンを表し、R4は、水素又はメチル基を表わす。ただし、R1〜R3で表される基の少なくとも一つは、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロデキストリンと特定の化合物からなる複合体、その製造方法及びその複合体を重合させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリンは、複数のグルコース分子がα−1,4結合した環状オリゴ糖であり、複数のグルコース分子によって構成される環の空洞は疎水性を示す。シクロデキストリンは、この疎水性を示す環の空洞に化合物(基質)を包摂し、複合体を形成するという特徴を有している。また、シクロデキストリンは、基質を包摂することで、基質を可溶化、抗酸化化、不揮発化する等の機能を付与できるため、古くから研究がなされている。シクロデキストリンは、食品添加物としても用いられるように、安全性の高いものであり、医薬品、化粧品等の分野においても広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、有機合成化学及び高分子化学の分野においては、シクロデキストリンの空洞を反応場として利用することで、精密な有機合成を行ったり、分子サイズを制御したりする等の試みがなされている。例えば、特許文献2では、シクロデキストリンを用いた複合体の乳化重合方法が開示されている。
【0003】
2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体は、合成高分子材料等の光照射による劣化を防止するために用いられる紫外線吸収剤として有用であり、これまでに多くの化合物が知られている。中でも、高分子材料を加熱加工する際又は加工後の成形品を使用する際に、高分子材料中から紫外線吸収剤が遺失しないように、特定の反応性基を有する2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体を用いる検討がなされてきた(例えば、特許文献3等参照)。
【0004】
これまで、反応性基を有するベンゾトリアゾール誘導体は、水系溶媒に対し難溶であるため、非水溶性有機溶剤中で重合させる方法が採られてきた。
しかしながら、非水溶性有機溶剤での重合は環境への負荷等が大きいことから、環境への負荷等が小さい水系溶媒中での重合を可能とする方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−238402号公報
【特許文献2】特許公報第2942935号
【特許文献3】特許公報第2726685号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、従来、非水溶性有機溶剤中でしか重合させることができなかった反応性基を有する2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体を、環境への負荷が小さい水系溶媒中で重合させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、反応性基を有する2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体がシクロデキストリンに包摂されること、該ベンゾトリアゾール誘導体が包摂されたシクロデキストリンを用いることにより、該ベンゾトリアゾール誘導体の、水系溶媒中における重合が可能となることを見出し、本発明に至った。
【0008】
よって、本発明は、シクロデキストリン(特に、β−シクロデキストリン又はγ−シクロデキストリン)と下記一般式(1)で表される化合物からなる複合体を提供するものである。
【0009】
【化1】

(式中、R1〜R3は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2を表わし、Zは、炭素原子数1〜6のアルキレンを表し、R4は、水素原子又はメチル基を表わす。
但し、R1〜R3で表される基の少なくとも一つは、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2である。)
【0010】
また、本発明は、上記複合体の製造方法であって、シクロデキストリン(特にβ−シクロデキストリン又はγ−シクロデキストリン)及び下記一般式(1)で表される化合物を含む混合物に、水を添加し、混練する工程を含む複合体の製造方法を提供するものである。
【0011】
【化2】

(式中、R1〜R3は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2を表わし、Zは、炭素原子数1〜6のアルキレンを表し、R4は、水素原子又はメチル基を表わす。
但し、R1〜R3で表される基の少なくとも一つは、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2である。)
【0012】
また、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物の1種以上を重合して得られる重合物の製造方法であって、
シクロデキストリンと下記一般式(1)で表わされる化合物からなる複合体と、重合開始剤(特に、水溶性アゾ化合物)を水系溶媒中で反応させることを特徴とする重合物の製造方法を提供するものである。
【化3】

(式中、R1〜R3は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2を表わし、Zは、炭素原子数1〜6のアルキレンを表し、R4は、水素原子又はメチル基を表わす。
但し、R1〜R3で表される基の少なくとも一つは、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記一般式(1)で表される化合物とシクロデキストリンの複合体を用いることで、水系溶媒に対して難溶である上記一般式(1)で表される化合物を水系溶媒中で重合可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例1で製造した本発明の複合体の粉末XRDスペクトルを示している。
【図2】図2は、化合物No.1の粉末XRDスペクトルを示している。
【図3】図3は、γ−シクロデキストリンの粉末XRDスペクトルを示している。
【図4】図4は、実施例2で得られた浮遊物の赤外吸収スペクトルを示している。
【図5】図5は、比較例1で得られた浮遊物の赤外吸収スペクトルを示している。
【図6】図6は、化合物No.1の赤外吸収スペクトルを示している。
【図7】図7は、実施例2で得られた浮遊物のHPLCチャートを示している。
【図8】図8は、比較例1で得られた浮遊物のHPLCチャートを示している。
【図9】図9は、化合物No.1のHPLCチャートを示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の複合体は、シクロデキストリンと、上記一般式(1)で表される化合物からなる。
【0016】
本発明の複合体に用いられるシクロデキストリンは、6〜9個程度のグルコース分子が環状にα−1,4結合した環状オリゴ糖であり、公知の物質である。シクロデキストリンは、複数のグルコース分子によって構成される環からなる疎水性の空洞(疎水性キャビティ)を有している。
シクロデキストリンは、グルコース分子の構成数によって分類され、例えば、グルコース分子6個から構成されるα−シクロデキストリン(シクロヘキサアミロース)、グルコース分子7個から構成されるβ−シクロデキストリン(シクロへプタアミノース)、グルコース分子8個から構成されるγ−シクロデキストリン(シクロオクタアミロース)、グルコース分子9個から構成されるδ−シクロデキストリン(シクロノナアミロース)等が挙げられる。
シクロデキストリンとしては、このほかにグルコース側鎖が化学的に修飾されたシクロデキストリンを用いてもよく、例えば、メチルシクロデキストリン、ジメチルシクロデキストリン、エチルシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン、ジエチルアミノエチルシクロデキストリン、マルトシルシクロデキストリン等が挙げられる。
本発明の複合体においては、包摂が容易な点から、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンを用いることが好ましく、γ−シクロデキストリンを用いることがより好ましい。
尚、シクロデキストリンは一種のみを用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
本発明の複合体は、反応性基を有する2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体として、上記一般式(1)で表わされる化合物(以下、本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体ともいう)を用いる。尚、本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体は、一種のみを用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
上記一般式(1)における、R1〜R3が表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
R1〜R3が表す炭素原子数1〜12のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、アミル、第三アミル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、第三オクチル、ベンジル、α−メチルベンジル、α,α−ジメチルベンジル等が挙げられる。
R1〜R3が表す炭素原子数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、第二ブチルオキシ、第三ブチルオキシ、イソブトキシ、アミルオキシ、第三アミルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、オクチルオキシ、第三オクチルオキシ、ベンジルオキシ、α−メチルベンジルオキシ、α、α−ジメチルベンジルオキシ等が挙げられる。
Zが表す炭素原子数1〜6のアルキレンとしては、メチレン、エタンジイル、プロピレンジイル、ブタンジイル、ペンタンジイル、ヘキサンジイルが挙げられ、これらのアルキル鎖は分岐していてもよい。
【0019】
上記一般式(1)で表わされる化合物の中でも、容易にシクロデキストリンに包摂される点から、上記一般式(1)におけるR1が、水素原子、ハロゲン原子、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2である化合物、特に水素原子、塩素原子又は−Z−OCO−C(R4)=CH2である化合物が好ましい。
【0020】
上記一般式(1)で表わされる化合物の中でも、 容易にシクロデキストリンに包摂される点から、上記一般式(1)におけるR2及びR3が各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2である化合物(但し、R2又はR3の一方が、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2である場合、もう一方の基は−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2ではない)、特に水素原子、塩素原子又は−Z−OCO−C(R4)=CH2(但し、R2又はR3の一方が、−Z−OCO−C(R4)=CH2である場合、もう一方の基は−Z−OCO−C(R4)=CH2ではない)である化合物が好ましい。
【0021】
上記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、下記の化合物No.1〜No.9が挙げられるが、これらの化合物によって本発明は何等制限されない。
【0022】
【化4】

【0023】
本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体の製造方法は、特に制限されず、例えば、 特許文献3に記載の方法に準じて製造することができる。
【0024】
本発明による複合体では、上述したシクロデキストリンの疎水性キャビティに、本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体が包摂されており、シクロデキストリンとベンゾトリアゾール誘導体の混合物とは明確に区別される。
尚、シクロデキストリンの疎水性キャビティに、本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体が包摂されているかどうかは、粉末X線回折(XRD)、熱分析DSC、円色性スペクトル、NMRスペクトル等により確認することができる。
【0025】
シクロデキストリンに本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体を包摂させる包摂方法は特に限定されないが、混練法、乳化法、飽和水溶液法、混合粉砕法等が挙げられ、中でも、混練法が容易に製造できるため好ましい。
【0026】
本発明の複合体におけるシクロデキストリンと本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体の比率は、モル比で、1:1〜1:0.2であることが好ましく、1:1〜1:0.3であることがより好ましい。
シクロデキストリンに対する本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体の比率が0.2より小さいと、重合速度が遅くなったり、重合開始剤の量を増やす必要が生じたりし、1より大きいと、包摂されていないベンゾトリアゾール誘導体を含むことになる。
【0027】
本発明の複合体には、必要に応じ、添加剤として、界面活性剤、改良剤、分解防止剤、結合剤を添加することができる。これらの添加剤の添加量は、本発明の複合体100質量部に対し、好ましくは合計で30質量部以下とする。
【0028】
上記界面活性剤としては、非イオン系界面活性剤、それらの塩酸塩、リン酸塩及びアルキルベンゼンスルホン酸塩やアルキル硫酸塩等のアニオン系界面活性剤が挙げられる。
また上記改良剤又は分解防止剤としては、イソプロピルアシッドホスフェート、高級脂肪酸及びその金属塩、高級アルコール、大豆油等が挙げられる。
また上記結合剤としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0029】
次に、本発明の複合体の好ましい製造方法について説明する。
本発明の複合体は、シクロデキストリン及び本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体を含む混合物に水を添加し、混練する工程により容易に製造できる。
【0030】
上記混合物におけるシクロデキストリンと本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体の比率は、モル比で1:1〜1:0.1であることが好ましく、1:1〜1:0.2であることがより好ましい。シクロデキストリンに対する本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体の比率が0.1より小さいと、包摂に関与しないシクロデキストリンが増えるため非効率又は非経済的であり、1より大きいと、包摂されていないベンゾトリアゾール誘導体の量が増えることになる。
【0031】
また、上記混合物に対する水の添加量は、シクロデキストリンの濃度が、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%となるように水を添加すると、混練が容易であるため好ましい。
また、上記複合体で説明したその他の添加剤は、上記工程中、任意に添加することができる。
【0032】
本発明の複合体の製造方法における混練は、瑪瑙、アルミナ等からなる乳鉢中で、乳棒を用いて加圧混練する方法、ボールミル、ニーダー、石臼、カレンダーロール等のローラー、スクリュー、すりつぶし機、ミキサー、混練機等を用いる方法が挙げられる。
【0033】
本発明の複合体の製造方法では、水の添加と混練の工程の間に、超音波攪拌を行ってもよく、また、混練したものは、直接使用してもよく、濾過、遠心分離、乾燥、粉砕、選別、篩別、造粒、タブレット化により、単離及び後処理することもできる。
【0034】
以上説明した本発明の複合体を用いることにより、水系溶媒に対して難溶である本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体を水系溶媒中で重合させることが可能となる。
【0035】
次に、本発明に係るベンゾトリアゾールを1種以上重合して得られる重合物(以下、本発明に係る重合物ともいう)の製造方法について説明する。
本発明に係る重合物は、上述した本発明の複合体と、重合開始剤を水系溶媒中で反応させることにより製造できる。
【0036】
上記重合開始剤としては、水溶性熱開始剤、レドックス開始剤等が挙げられる。上記水溶性熱開始剤としては、有機過酸化物、過酸化水素、水溶性アゾ化合物等が挙げられ、中でも取扱いが比較的容易であることから、水溶性アゾ化合物が好ましい。かかる水溶性アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’−アゾビス(2−メチルプロプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]4水和物、2,2’−アゾビス[2−{1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル}プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2-メチル−N−{1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等が挙げられる。
また、具体的な市販品の水溶性アゾ化合物としては、VA−044、VA−046B、V−50、VA−057、VA060、VA−061、VA−067、VA−080、VA−086(和光純薬社製)等が挙げられる。
【0037】
また、上記レドックス開始剤としては、過酸化物と還元剤とを組み合わせたものが挙げられ、過酸化物としては、過酸化水素、t−ブチルハイドロペルオキシドなどが挙げられ、還元剤としては、二価の鉄イオン、銅イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、セリウムイオン、バナジウムイオン等の金属イオン、ヒドロキシメタンスルフィン酸、アスコルビン酸 等が挙げられる
【0038】
本発明に係る重合物の製造方法において、上記重合開始剤の好ましい使用量は、本発明の複合体中のベンゾトリアゾール誘導体及び以下で説明する水溶性モノマーの合計モル数に対して、モル比で0.001〜0.2モルであり、より好ましくは0.01〜0.15モルである。
【0039】
上記水系溶媒としては、水又は水と水溶性有機溶剤の混合溶媒が挙げられ、水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン等が挙げられる。
上記水系溶媒としては、環境への負荷がより小さいことから、水が好ましい。
【0040】
本発明の複合体と、重合開始剤との反応温度は、通常40〜120℃であり、好ましくは50〜100℃である。
【0041】
本発明に係る重合物の製造方法において、本発明の複合体を水系溶媒中で重合させる際、水溶性モノマーを加え、本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体と共重合させてもよい。
【0042】
上記水溶性モノマーは、水系溶媒に溶解可能な重合性不飽和二重結合基を有する化合物である。かかる化合物としては、例えば、特開2010−523519号公報の〔0140〕〜〔0143〕に記載のものが挙げられる。
上記水溶性モノマーの分子量は、水系溶媒への溶解性が良好なことから、50〜1000の範囲、特に100〜800の範囲が好ましい。
【0043】
本発明に係る重合物の製造方法において、本発明の複合体は、水系溶媒における重合時に、包摂したまま重合してシクロデキストリンを含む重合物となっても、シクロデキストリンとベンゾトリアゾール誘導体重合物とに分離されてもよい。
【0044】
本発明に係る重合物の製造方法により製造される上記水溶性モノマーと本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体との共重合体は、極性が高く、紫外線吸収能を有するため、眼内レンズ、日焼け止め剤、パーソナルケア組成物等に好適に用いられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0046】
(実施例1)複合体の製造
50mlバイアルに、γ−シクロデキストリンを1.30g(1mmol)、化合物No.1を0.39g(1mmol)及び水を1.6g加えて混合物とした。この混合物に30分間超音波を照射した後、瑪瑙の乳鉢に取り出し、瑪瑙の乳棒を用いて加圧混練したところ粘稠体になった。粘稠体をオーブンで40℃で、60分間乾燥させ白色固体を得た。得られた白色固体を、粉末X線回折装置(リガク社製UltimaIV)を用いて分析したところ、原料であるγ−シクロデキストリン及び化合物No.1には無い回折角(2θ:7.38、17.02、21.02)が確認された。
【0047】
即ち、実施例1において、化合物No.1がγ−シクロデキストリンに包摂され、その結果格子パラメータが変化したことが確認されたことにより、本発明の複合体が得られたことが確認された。
【0048】
(実施例2)本発明の複合体を用いたベンゾトリアゾール誘導体の重合
実施例1で得られた複合体1gに水5gを加えたところ、沈殿物及び浮遊物が無く、均一に分散することが確認された。この分散液に重合開始剤V−50(和光純薬製)16mg(化合物No.1に対するモル比:0.1)を加え、大気中、80℃の条件で30分間反応させたところ、白色浮遊物が確認され、反応液は透明となった。白色浮遊物を赤外吸収スペクトル及びHPLC(溶媒THF)で分析したところ、化合物No.1の重合物が確認された。分析にて得られた赤外吸収スペクトル及びHPLCチャートをそれぞれ図4及び図7に示す。併せて、参考データとして、化合物No.1の赤外吸収スペクトル及びHPLCチャートをそれぞれ図6及び図9に示す。
【0049】
(比較例1)
水5gに、γ−シクロデキストリンを0.77g、化合物No.1を0.23g、及び重合開始剤V−50を16mg(化合物No.1に対するモル比:0.1)加えたところ、浮遊物が確認された。この浮遊物を、大気中、80℃の条件で30分間加熱した後、赤外吸収スペクトル及びHPLC(溶媒THF)で分析したところ、原料の化合物No.1であることが確認された。分析にて得られた赤外吸収スペクトル及びHPLCチャートをそれぞれ図5及び図8に示す。
【0050】
図4と図6の赤外吸収スペクトルを比較すると、図6の化合物No.1のスペクトルでは、メタクリル基の二重結合に起因する934cm-1のピークを確認できるが、図4の実施例2で得られた浮遊物のスペクトルでは、934cm-1のピークは消失しており、確認できなかった。
また、エステルのカルボニル基に起因する1700cm-1付近のピークは、図6の1716cm-1から図4の1724cm-1にシフトしていた。
これらのことから、実施例2では、化合物No.1がメタクリル基を介して重合したことが確認できた。
一方、図5と図6の赤外吸収スペクトルを比較すると、図5の比較例1で得られた浮遊物のスペクトルと図6の化合物No.1のスペクトルとの間には差が無かったため、比較例1の浮遊物は、原料である化合物No.1が重合せず、そのまま残ったものであることが確認できた。
【0051】
図7と図9のHPLCチャートを比較すると、図9の化合物No.1のチャートには無いピークが、図7の実施例2で得られた浮遊物のチャートでは確認できた。このピークは、高分子量側であるため、化合物No.1の重合物であると考えられる。
尚、図7のチャートにおいても化合物No.1のピークが確認できるが、浮遊物が難溶であるため、少量残存する化合物No.1のピークが大きく見えると考えられる。
更に、実施例2で得られた浮遊物は、溶媒のTHFには完全に溶解しなかったことからも、実施例2では、高分子量体(化合物No.1の重合物)が得られていると考えられる。
一方、図8の比較例1で得られた浮遊物のチャートでは、原料である図9の化合物No.1のチャートと同様に一つのピークのみが確認された。
よって、実施例2と比較例1の対比により、本発明の複合体を用いることで水系溶媒中において、本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体が重合していることは明らかである。
【0052】
以上の結果から、シクロデキストリンと本発明に係るベンゾトリアゾール誘導体は、混練法により複合体を形成し、該複合体は、水系溶媒中におけるベンゾトリアゾール誘導体の重合に適していることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンと下記一般式(1)で表される化合物からなる複合体。
【化1】

(式中、R1〜R3は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2を表わし、Zは、炭素原子数1〜6のアルキレンを表し、R4は、水素原子又はメチル基を表わす。
但し、R1〜R3で表される基の少なくとも一つは、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2である。)
【請求項2】
上記シクロデキストリンが、β−シクロデキストリン又はγ−シクロデキストリンである請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合体の製造方法であって、シクロデキストリン及び下記一般式(1)で表される化合物を含有する混合物に、水を添加し、混練する工程を含む複合体の製造方法。
【化2】

(式中、R1〜R3は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2を表わし、Zは、炭素原子数1〜6のアルキレンを表し、R4は、水素原子又はメチル基を表わす。
但し、R1〜R3で表される基の少なくとも一つは、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2である。)
【請求項4】
下記一般式(1)で表される化合物の1種以上を重合して得られる重合物の製造方法であって、シクロデキストリンと下記一般式(1)で表わされる化合物からなる複合体と、重合開始剤とを水系溶媒中で反応させることを特徴とする重合物の製造方法。
【化3】

(式中、R1〜R3は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2を表わし、Zは、炭素原子数1〜6のアルキレンを表し、R4は、水素原子又はメチル基を表わす。
但し、R1〜R3で表される基の少なくとも一つは、−Z−OCO−C(R4)=CH2又は−O−Z−OCO−C(R4)=CH2である。)
【請求項5】
上記重合開始剤が水溶性アゾ化合物であることを特徴とする請求項4に記載の重合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−236797(P2012−236797A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106900(P2011−106900)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】