説明

複合光学素子、複合光学素子の製造方法、複合光学素子を備えた撮像装置および複合光学素子を備えた光学式記録再生装置

【課題】樹脂組成物を紫外線硬化する際、収縮が大きくなるため、硬化時に歪が発生する。また、透過率が低いため光学用途に使用しづらく劣化しやすい。
【解決手段】(a)以下の[化1]で表され、分子量が1500以上3000未満であり、かつ、両端の(メタ)アクリル酸エステル結合(CH2=CY−CO−Op−)の間に(O-CHo(CH3)r-(CH2)q-CHs(CH3)t-(CH)l)基を含むジ(メタ)アクリレートと、
(b)多官能イソシアヌレート化合物と、
(c)エポキシ(メタ)アクリレートと、
(d)重合開始剤と、
を含む樹脂組成物が重合された樹脂層を備えることを特徴とする複合光学素子である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスの表面に樹脂層が接合された構造を持つ複合光学素子、複合光学素子の製造方法、複合光学素子を備えた撮像装置および複合光学素子を備えた光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス等の光学基材(以後、レンズ基材という)に、レンズ基材とは異なる材料(例えば樹脂等)の層を接合した構造を複合光学素子と一般的に呼んでいる。たとえば、表面形状が球面のレンズ基材の上に樹脂層を接合して、その樹脂層の表面を非球面形状に形成した複合光学素子が代表的なものとしてある。
【0003】
上記複合光学素子に使用されている樹脂材料には、硬化速度・透明性などの観点からアクリレートが使用される場合が多い。
【0004】
例えば、特許文献1には、母材と、該母材表面に形成された、感光性樹脂組成物の硬化物からなる樹脂層とを備えた光学素子についての開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第01/007938号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1の光学素子は、樹脂の硬化収縮が大きいため樹脂の硬化時に発生する歪が大きい。
【0007】
そこで、硬化時の収縮を低減する方法として、分子量を大きくする方法があるが、その場合は同時に透過率特性が低下してしまうという課題もある。
【0008】
そこで、本発明は、硬化収縮が小さくかつ透過率特性の良い複合光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、a)以下の[化1]で表され、分子量が1500以上3000未満であり、かつ、両端の(メタ)アクリル酸エステル結合(CH2=CY−CO−Op−)の間に(O-CHo(CH3)r-(CH)-CHs(CH)t-(CH)l)基を含むジ(メタ)アクリレートと、(b)多官能イソシアヌレート化合物と、(c)エポキシ(メタ)アクリレートと、(d)重合開始剤と、を含む樹脂組成物が重合された樹脂層を備えることを特徴とする
【0010】
【化1】

【0011】
(ただし、m+nは5以上、pとqとlとuとvとwは0または1、rとoとtとsはともに0以上2以下の整数でr+o=2かつt+s=2、Yは水素又はメチル基であり、Xは芳香環または脂肪族炭化水素または脂肪族環状炭化水素のいずれかを含む)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造時における重合硬化時の樹脂層の収縮が小さく、かつ、透過性能の高い高性能な複合光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態1の複合光学素子の断面図
【図2】実施形態1の複合光学素子(複合光学素子)の製造工程の概略を示す断面図
【図3】各実施例および比較例について、それぞれ製造条件ならびに各実施例および比較例についての収縮率等の測定結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図を参照しながら説明する。
【0015】
[第1実施形態]
1、複合光学素子
図1は、第1実施形態の複合光学素子の断面図である。図1の1点鎖線aは、複合光学素子11の光軸である。複合光学素子11は、図1の断面図の形状を光軸回りに回転させてできる回転体の形状である。図1に示すように、複合光学素子11は、光学基材であるレンズ基材12と、当該レンズ基材の表面上に接合された樹脂層13とを有している。レンズ基材12は、例えばガラス、石英、セラミックス等の材料により形成することができる。樹脂層13は、樹脂組成物を重合硬化させてレンズ基材12の表面に形成したものである。
【0016】
なお、第1実施形態では、レンズ基材12は、両面が凸面となっているが、一方又は両方の面が凹面であってもよい。また、樹脂層13はレンズ基材12の両面に形成してもよい。第2実施形態、第3実施形態も第1実施形態と同様である。
【0017】
また、レンズ基材12の樹脂層13が接合された面を球面とし、さらに、樹脂層13のレンズ基材12に接合された面と反対の面を非球面とすることにより、容易に非球面レンズを製造することができる。そのようにして製造された複合光学素子の樹脂層13は、場所ごとに異なる厚みを複数もっていることで、球面だけでなく、非球面形状の複合光学素子を形成することが可能となる。
【0018】
また、樹脂層の厚みは50μm以上1mm以下であることが好ましく、その範囲を外れると強度・重合硬化性(成型性)などが劣る。

2.樹脂層
2−1.樹脂組成物の構成
以下の[化1]で表され、分子量が1500以上3000未満であり、かつ、両端の(メタ)アクリル酸エステル結合(CH=CY−CO−O−)の間に(O-CHo(CH3)r-(CH2)q-CHs(CH)t-(CH)l)基を含むジ(メタ)アクリレート(a)と、多官能イソシアヌレート化合物(b)と、エポキシ(メタ)アクリレート(c)と、重合開始剤(d)と、を含む樹脂組成物が重合された樹脂層13は、通常のアクリレートに比べて重合硬化時の収縮が小さい。また、ジ(メタ)アクリレート(a)は、一般的に分子量が大きくなると樹脂層の透過性能が劣るが、本実施形態では、ジ(メタ)アクリレート(a)の分子量を1500以上3000未満としている。
【0019】
そのため、光透過率が大きくなり、樹脂層13だけでなくレンズ基材12をも含む複合光学素子11全体の信頼性の向上を図ることができる。
【0020】
【化1】

【0021】
(ただし、m+nは5以上、pとqとlとuとvとwは0または1、rとoとtとsはともに0以上2以下の整数でr+o=2かつt+s=2、Yは水素又はメチル基であり、Xは芳香環または脂肪族炭化水素または脂肪族環状炭化水素のいずれかを含む)
樹脂層13は、樹脂組成物を重合硬化させて作製される。具体的に、樹脂組成物は、以下の成分を含む。
(a)ジ(メタ)アクリレート
(b)多官能イソシアヌレート化合物
(c)エポキシ(メタ)アクリレート
(d)光重合開始剤
より具体的には、樹脂組成物に紫外線が照射されると、(d)光重合開始剤によって重合が開始され、(a)ジ(メタ)アクリレートと、(b)多官能イソシアヌレート化合物と、(c)エポキシ(メタ)アクリレートと、(d)光重合開始剤と、を含む樹脂組成物が重合されて、樹脂層13が形成される。
【0022】
樹脂組成物は、さらに、以下の化合物を含んでもよい。
(e)シルセスキオキサン化合物1
(f)シルセスキオキサン化合物2
(g)有機シラン化合物
(h)フッ素化合物
2−2.(a)ジ(メタ)アクリレート
ここで、成分(a)ジ(メタ)アクリレートは、[化1]で示された化合物である。本発明におけるジ(メタ)アクリレートは、例えば以下の[化4]、[化5]、[化6]、[化8]、[化9]、[化11]、[化12]のいずれかで示されるような化合物が使用できる。
【0023】
【化2】

【0024】
【化3】



【0025】
【化4】

【0026】
【化5】

【0027】
【化6】

【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
【化9】

【0031】
【化10】

【0032】
【化11】

【0033】
【化12】

【0034】
上記成分(a)は、単独でも2種類以上組み合わせて使用してもよい。
なお、ジ(メタ)アクリレート(a)の含有量は、樹脂組成物全体を重量百分率で100wt%とすると、5wt%以上60wt%以下含有することが好ましい。60wt%より多いと、樹脂組成物全体の屈折率や粘度を下げ過ぎてしまうため、好ましくない。また、5wt%より少ないと樹脂層13の収縮率が大きくなり、レンズ基材12から樹脂層13が剥離しやすくなるため、好ましくない。
【0035】
なお、成分(a)として使用可能な化合物は上記[化4]、[化5]、[化6]、[化8]、[化9]、[化11]、[化12]のいずれかに限ったものではない。
2−3.(b)多官能イソシアヌレート化合物
また、成分(b)は、以下の[化13]で示した一般的な多官能イソシアヌレート化合物が使用可能である。
【0036】
【化13】

【0037】
具体的には以下の[化14]から[化16]に示すような化合物が使用されるが、これに限定されるものではない。
【0038】
【化14】

【0039】
【化15】

【0040】
【化16】

【0041】
なお、(b)多官能イソシアヌレート化合物の含有量は、樹脂組成物全体を重量百分率で100wt%とすると、5wt%以上50wt%以下が好ましい。50wt%より多い場合は、粘度が低くなり、樹脂組成物中に大量の泡が発生する。一方、5wt%より小さいは、収縮率が大きくなり、樹脂層が剥離しやすくなる。
【0042】
2−4.(c)エポキシ(メタ)アクリレート
成分(c)は、以下の[化17]と[化18]に示した一般的なエポキシ(メタ)アクリレートが使用可能である。
【0043】
【化17】

【0044】
【化18】

【0045】
なお、(c)エポキシ(メタ)アクリレートの含有量は、樹脂組成物全体を重量百分率で100wt%とすると、樹脂組成物の5wt%以上50wt%以下が好ましい。50wt%より多い場合は、粘度が高くなり、樹脂組成物中に混入した泡を除去することが困難になる。一方、5wt%より小さい場合は、収縮率が大きくなり、樹脂層13が剥離しやすくなる。
【0046】
2−5.(d)光重合開始剤
成分(d)光重合開始剤は、重合硬化する樹脂組成物の種類に応じて選択したものが用いられる。例えば、ラジカル性光重合開始剤、カチオン性光重合開始剤等を用いることが出来る。
【0047】
ラジカル性光重合開始剤として、公知の物が使用可能であり、例えば、アセトフェノン系やベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チオキサン系、アシルフォスフィンオキサイド系等の物質を用いることができる。
【0048】
また、上記のラジカル性光重合開始剤としては、選択された1種類を用いてもよく、2種類以上を適宜組み合わせてもよい。(d)ラジカル性光重合開始剤の含有量は、樹脂組成物全体を重量百分率で100wt%とすると、0.1wt%以上10wt%以下であることが望ましい。この範囲を満たす場合、樹脂組成物の特性・信頼性を低下せずに安定的に重合硬化して樹脂層13ができる。
【0049】
2−6.(e)シルセスキオキサン化合物1
さらに、シルセスキオキサン化合物1を含んでいてもよい。
シルセスキオキサン化合物1は、例えば以下に表される化合物が挙げられる。
【0050】
【化19】

【0051】
シルセスキオキサン化合物1は、シルセスキオキサン化合物1の両端にオキセタニル基を有するので、他のエポキシ樹脂と同様、重合開始剤を使用すれば重合・硬化させることが可能である。また、他のエポキシ化合物と一緒に用いても良いし、上記に示したシルセスキオキサン化合物1だけを用いても良い。
シルセスキオキサン化合物1は、樹脂組成物全体を重量百分率で100wt%とすると、樹脂組成物の5〜50wt%使用することが好ましい。シルセスキオキサン化合物1をさらに添加することで、複合光学素子の高温信頼性が向上する。
50wt%を超えると、樹脂組成物の粘度が低くなり、重合硬化の際に発生した泡を除去するのが困難になる。
【0052】
2−7.(f)シルセスキオキサン化合物2
また、シルセスキオキサン化合物2を含んでいてもよい。
シルセスキオキサン化合物2は、例えば以下に表される化合物が挙げられる。
は以下で表される。
【0053】
【化20】

【0054】
シルセスキオキサン化合物2はメタアクリレートの一種である。よって、一般的な(メタ)アクリレートと同様、重合開始剤を使用すれば重合・硬化させることが可能である。また、他の(メタ)アクリレート化合物と混合して用いても良いし、シルセスキオキサン化合物2だけを用いても良い。シルセスキオキサン化合物2は、樹脂組成物全体を重量百分率で100wt%とすると、樹脂組成物の5〜50wt%使用することが好ましい。シルセスキオキサン化合物2を添加することで、複合光学素子の高温信頼性が向上する。
一方、50wt%を超えると、樹脂組成物の粘度が高くなる。その結果、樹脂組成物の重合硬化時において、応力が発生し、金型から離型する可能性がある。
【0055】
2−8.(g)有機シラン化合物
レンズ基材12上に、樹脂層13とレンズ基材12との密着性を向上させるための層が設けられており、その層はシラン化合物からなる。具体的には、2-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン・3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン・N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン・3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン・3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン・3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどの一般的な化合物が使用できる。シラン化合物を含むレンズの形成方法としては、前記シラン化合物を樹脂組成物中に含有させておき、樹脂成型と同時に樹脂層13を形成する方法、または予めレンズ基材12上に塗布し、樹脂層13を形成する方法等があり、いずれの方法でも良い。
【0056】
2−9.(h)フッ素化合物
また、金型からの樹脂層の離型性を向上させるために、メチルトリフルオロアセテートなどの一般的なフッ素化合物を使用してもよい。具体的には、樹脂組成物にフッ素化合物を添加してもよい。
【0057】
3.製造方法
次に、複合光学素子の製造方法について説明する。複合光学素子の製造工程を図2に示す。
【0058】
まず、成分(a)ジ(メタ)アクリレートと、成分(b)多官能イソシアヌレート化合物と、成分(c)エポキシ(メタ)アクリレートと、成分(d)光重合開始剤とを用意する。そして、これらを混合し、樹脂組成物43を用意する。図2(a)のように、複合光学素子11の樹脂層13の形状に合わせた型41の表面に、ディスペンサ42から樹脂組成物43を滴下する。次に図2(b)のように、樹脂組成物43上にレンズ基材12を載せて、レンズ基材12の上から重さをかけて樹脂組成物43を塗り広げる。その後、図2(c)のようにレンズ基材12を型41に対して所定の高さに設置した状態で紫外線44を照射して樹脂組成物43を重合硬化させる。より具体的には、型41上に本樹脂組成物43を塗布し、レンズ基材12を所定の位置で保持したまま紫外線を照射(3000mJ/cm)して樹脂層13を作成した。
【0059】
以上のステップにより、レンズ基材12に樹脂層13を設けた複合光学素子11を得る。
【0060】
なお、成分(A)の粘度は、25℃の状態において、200mPa・s以上3000mPa・s以下であることが望ましい。粘度が3000mPa・sより大きいと樹脂組成物43を混合する際に発生した気泡が除去しにくく、樹脂層13に気泡が残留しやすい。また、粘度が200mPa・sより小さいと、樹脂組成物43を混合する際に気泡が多く発生しやすい。
【0061】
4.実施例
以下、複合光学素子11の実施例を説明する。
【0062】
各実施例および比較例について、それぞれ製造条件ならびに各実施例および比較例についての収縮率、透過率、屈折率等の測定結果を図3に示す。
【0063】
図3に記載したジ(メタ)アクリレートの骨格とは、[化1]に示すジ(メタ)アクリレートのXにおける構造がビスフェノールA、脂環式炭化水素、脂肪族炭化水素であることを示している。
【0064】
なお、収縮率とは、樹脂組成物43がレンズ基材12に滴下された後、重合硬化される際の樹脂組成物43の収縮率である。重合硬化時の収縮率の測定は、紫外線による重合硬化(3000mJ/cm)前後の比重測定値を用いて算出した。具体的には、収縮率は、重合硬化前を基準にした比重の変化量を%で表わしたものである。なお、樹脂層13が形成できなかった等の理由により収縮率が測定できなかったものについて、“−”と記載した。
【0065】
さらに、複合光学素子における光透過率は島津製作所社製分光光度計UV−3150
で測定した。より具体的に説明すると、測定サンプルとしてガラス基板上に各実験例およ
び各比較例における樹脂層を厚さ100μmに形成した。この測定サンプルにおける光透
過率を複合光学素子の透過率として評価した。
【0066】
また、樹脂層13の屈折率は株式会社アタゴ社製アッベ屈折計DR−M4で測定した。
【0067】
光透過率と同様に、ガラス基板上に各実験例および各比較例における樹脂層を厚さ100
μmに形成した。この測定サンプルの樹脂層から、所定の大きさにカットして厚み100
μmのフィルムを作成した。これを測定サンプルとして使用した。
【0068】
表面硬度は、鉛筆硬度試験機KT-VF2391を用いて測定した。ガラス基板上に樹脂
層を厚み100μmに形成したものを測定サンプルとし、樹脂層の表面を鉛筆で接触させ
て評価した。
【0069】
また、樹脂組成物の粘度(mPa・s)は、E型粘度計を用いて25℃で測定し
た。
【0070】
<実験1>
実験1に係る複合光学素子11について説明する。図1は、本実施形態の複合光学素子11の断面図である。複合光学素子11は、ガラス製のレンズ基材12と、レンズ基材12の表面に樹脂組成物43からなる樹脂層13を接合したものである。
実験1ではまず、次の(a)、(b)、(c)、(d)の各成分を混合して樹脂組成物43を得た。
(a)ジ(メタ)アクリレート[化5] 40重量部
(b)多官能イソシアヌレート化合物[化15] 20重量部
(c)エポキシ(メタ)アクリレート[化18] 35重量部
(d)光重合開始剤(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 5重量部
なお、説明の便宜のため、樹脂組成物43全体の重量を100とした場合の樹脂組成物43の各成分の重量比率を単に「重量部」という。「重量部」は重量百分率に対応しており、重量部と重量百分率とは同じ値をとる。
【0071】
実験1では、(a)、(b)、(c)、(d)の混合により得られた樹脂組成物を100重量部とした内の40重量部が(a)ジ(メタ)アクリレートであり、20重量部が(b)多官能イソシアヌレート化合物であり、35重量部が(c)エポキシ(メタ)アクリレートであり、5重量部が(d)光重合開始剤である。つまり、40wt%が(a)ジ(メタ)アクリレートであり、20wt%が(b)多官能イソシアヌレート化合物であり、35wt%が(c)エポキシ(メタ)アクリレートであり、5wt%が(d)光重合開始剤である。
【0072】
さらに、25℃における全組成物である樹脂組成物43の粘度は、1500mPa・sであった。
【0073】
この樹脂組成物43上にレンズ基材12を配置し、紫外線を照射すると光重合開始剤(d)によって(a)と(b)と(c)とが重合を開始し、(a)と(b)と(c)とがレンズ基材12上で重合硬化され、樹脂層13が形成された。このようにして、実験1の複合光学素子11を作成した。
【0074】
本実験では、重合硬化時の収縮率を測定すると4.8%であった。
また、複合光学素子11における光透過率を測定したところ、透過率は92%であった。さらに、複合光学素子11における屈折率は1.51、複合光学素子11における樹脂層13の表面硬度はHBであった。
【0075】
<実験2>
本実験では、(b)、(c)、(d)における各成分の種類および重量部は実験1と同様であるため、省略する。実験1と異なる点は以下の通りである。
(a)ジ(メタ)アクリレート[化6] 40重量部
本実験では、(a)、(b)、(c)、(d)の各成分を混合して樹脂組成物を得た。この樹脂組成物上にレンズ基材を配置し、紫外線を照射すると光重合開始剤によって(a)と(b)と(c)とが重合を開始し、(a)と(b)と(c)と(d)とがレンズ基材上で重合硬化され、樹脂層が形成された。このようにして、実験2の複合光学素子を作成した。
【0076】
樹脂組成物の粘度は3000mPa・sであった。この樹脂組成物43にレンズ基材12を配置し、紫外線を照射して重合硬化時の収縮率を測定すると、4.6%であった。また、複合光学素子11における光透過率を測定したところ、透過率は90%、屈折率は1.53、表面硬度は2Hであった。
【0077】
<実験3>
本実験では、(b)、(c)、(d)における各成分の種類および重量部は実験1と同様であるため、省略する。実験1と異なる点は以下の通りである。
(a)ジ(メタ)アクリレート[化8] 40重量部
本実験では、(a)、(b)、(c)、(d)の各成分を混合して樹脂組成物を得た。この樹脂組成物上にレンズ基材を配置し、紫外線を照射すると光重合開始剤によって(a)と(b)と(c)とが重合を開始し、(a)と(b)と(c)と(d)とがレンズ基材上で重合硬化され、樹脂層が形成された。このようにして、実験2の複合光学素子を作成した。
【0078】
樹脂組成物の粘度は2000mPa・sであった。この樹脂組成物43にレンズ基材12を配置し、紫外線を照射して重合硬化時の収縮率を測定すると、5.2%であった。また、複合光学素子11における光透過率を測定したところ、透過率は91%、屈折率は1.52、表面硬度はHであった。
【0079】
<実験4>
本実験では、(b)、(c)、(d)における各成分の種類および重量部は実験1と同様であるため、省略する。実験1と異なる点は以下の通りである。
(a)ジ(メタ)アクリレート[化2] 28.8重量部
(f)シルセスキオキサン化合物[化20] 7.2重量部
(g)2-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン 1重量部
(h)メチルトリフルオロアセテート 1重量部
シルセスキオキサン化合物[化18]とジ(メタ)アクリレート[化2]との重量部比を1:4で混合したものを用いた。樹脂組成物の粘度は、3000mPa・sであった。
本実験では、(a)、(b)、(c)、(d)、(f)、(g)、(h)の各成分を混合して樹脂組成物を得た。この樹脂組成物上にレンズ基材を配置し、紫外線を照射すると光重合開始剤によって(a)と(b)と(c)と(f)と(g)と(h)とが重合を開始し、(a)と(b)と(c)と(d)と(f)と(g)と(h)とがレンズ基材上で重合硬化され、樹脂層が形成された。このようにして、実施例2の複合光学素子を作成した。
この樹脂組成物にレンズ基材を配置し紫外線を照射して得られた樹脂サンプルの硬化時の
収縮率は5.2%であった。また、全光線透過率は91%、屈折率は1.50、表面硬度は3Hであった。型41からの離型性も良好であった。
【0080】
<比較例1>
本比較例では、(b)、(c)、(d)における各成分の種類および重量部は実験1と同様であるため、省略する。実施例1と異なる点は以下の通りである。
(a)ジ(メタ)アクリレート[化3] 40重量部
樹脂組成物の粘度は、1000mPa・sであった。
【0081】
本比較例では、(a)、(b)、(c)、(d)の各成分を混合して樹脂組成物を得た。この樹脂組成物上にレンズ基材を配置し、紫外線を照射すると光重合開始剤によって(a)と(b)と(c)とが重合を開始し、(a)と(b)と(c)と(d)とがレンズ基材上で重合硬化され、樹脂層が形成された。このようにして、比較例12の複合光学素子を作成した。この樹脂組成物にレンズ基材を配置し紫外線を照射して得られた樹脂サンプルの硬化時の収縮率は8.2%であった。また、光透過率は88%、屈折率は1.50、表面硬度はHであった。
【0082】
<比較例2>
比較例2ではまず、次の(a)、(b)、(c)、(d)の各成分を混合して樹脂組成物を得た。
(a)ジ(メタ)アクリレート[化5] 10重量部
(b)多官能イソシアヌレート化合物[化15] 20重量部
(c)エポキシ(メタ)アクリレート[化18] 65重量部
(d)光重合開始剤(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 5重量部
本比較例では、(a)、(b)、(c)、(d)の各成分を混合して樹脂組成物を作成したところ、25℃における樹脂組成物の粘度が9000mPa・sとなり、粘性が大きくなった。この樹脂組成物をディスペンサで塗布したが、樹脂組成物内に気泡が多数混入し、除去できなかった。その結果、樹脂層の作成がうまくいかなかった。
【0083】
[第2実施形態]
第1実施形態で成型された複合光学素子11をカメラやムービーなどの撮像装置やプロジェクター、光学式記録再生装置に搭載すると、ガラスレンズでは成型できなかった形状の非球面レンズが成型できるため、光学特性の向上や軽量化が可能になった。
【0084】
すなわち、第1実施形態の複合光学素子11を備えた撮像装置は、光学特性の向上や軽量化が可能であることがわかった。黄変に関するレンズ成型後における長期的信頼性およびレンズ製造段階における短期的信頼性の両方を高めることができた。
【0085】
[実施の形態のまとめ]
上述の実施例および比較例から、以下のことが分かった。
(1)
比較例1のように、樹脂組成物が[化1]で表せるジ(メタ)アクリレートの分子量が1500以上3000未満を満たさない例では、樹脂サンプルの硬化時の収縮率は8.2%であったのに対し、実験例1から実験例4のように樹脂組成物において、ジ(メタ)アクリレートの分子量が1500以上3000未満を満たす場合、樹脂サンプルの硬化時の収縮率がより小さく抑えられ、光透過率もより高かった。
【0086】
すなわち、[化1]で表されるジ(メタ)アクリレートと、多官能イソシアヌレート化合物と、エポキシ(メタ)アクリレートと、光重合開始剤と、を含む樹脂組成物が重合されている樹脂層を備える複合光学素子(ただし、m+nは5以上、pとqとlとuとvとwは0または1、rとoとtとsはともに0以上2以下の整数でr+o=2かつt+s=2、Yは水素又はメチル基であり、Xは芳香環または脂肪族炭化水素または脂肪族環状炭化水素のいずれかを含む)は、重合硬化時の樹脂層の収縮が小さく、かつ、透過性能のより高いことがわかった。特に、実験例1から実験例4において、重合硬化時の樹脂層の収縮が小さく、かつ、透過性能のより高いことがわかった。
(2)
比較例2のように、樹脂組成物において、エポキシ(メタ)アクリレートが、全樹脂組成物中の5wt%以上50wt%以下を満たしていないため、粘性が大きくなった。つまり、樹脂組成物内に気泡が多数混入し、除去できず、樹脂層の作成がうまくいかなかったのに対し、[化1]で表されるジ(メタ)アクリレートは、全樹脂組成物中の5wt%以上60wt%以下であり、多官能イソシアヌレート化合物は、全樹脂組成物中の5wt%以上50wt%以下であり、エポキシ(メタ)アクリレートは、全樹脂組成物中の5wt%以上50wt%以下を満たす場合、樹脂サンプルの硬化時の収縮率がより小さく抑えられ、光透過率もより高かった。
【0087】
すなわち、(1)の複合光学素子において、(a)前記[化1]で表されるジ(メタ)アクリレートは、全樹脂組成物中の5wt%以上60wt%以下であり、(b)多官能イソシアヌレート化合物は、全樹脂組成物中の5wt%以上50wt%以下であり、(c)エポキシ(メタ)アクリレートは、全樹脂組成物中の5wt%以上50wt%以下である樹脂組成物である場合、重合硬化時の樹脂層の収縮が小さく、かつ、透過性能のより高いことがわかった。特に実験例1から実験例1から実験例4において重合硬化時の樹脂層の収縮が小さく、かつ、透過性能のより高いことがわかった。
(3)
実験例2のように、(1)の複合光学素子において、(a)[化1]で表されるジ(メタ)アクリレートにおける構造Xは、ビスフェノール構造である樹脂組成物である場合、重合硬化時の樹脂層の収縮がより小さいことがわかった。
(4)
実験例3のように、(1)の複合光学素子において、樹脂組成物は、アクリロイル基を両端に有するシルセスキオキサン化合物をさらに含むことを特徴とする場合、樹脂層の表面硬度がより大きくなり、剛直性が増すため、より丈夫な複合光学素子を提供することができる。
(5)
実験例4のように、(1)の複合光学素子において、樹脂組成物は、オキセタニル基を両端に有するシルセスキオキサン化合物をさらに含むことを特徴とする場合、樹脂層の表面硬度がより大きくなり、剛直性が増すため、より丈夫な複合光学素子を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の複合光学素子は、カメラ・ムービー用のレンズ、プロジェクター用のレンズ、
光ディスク(CD、DVD)用レンズ等に利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
11 複合光学素子
12 レンズ基材
13 樹脂層
41 型
42 ディスペンサ
43 樹脂組成物
44 紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)以下の[化1]で表され、分子量が1500以上3000未満であり、かつ、両端の(メタ)アクリル酸エステル結合(CH2=CY−CO−Op−)の間に(O-CHo(CH3)r-(CH)-CHs(CH)t-(CH)l)基を含むジ(メタ)アクリレートと、
(b)多官能イソシアヌレート化合物と、
(c)エポキシ(メタ)アクリレートと、
(d)重合開始剤と、
を含む樹脂組成物が重合された樹脂層を備えることを特徴とする複合光学素子。
[化1]



(ただし、m+nは5以上、pとqとlとuとvとwは0または1、rとoとtとsはともに0以上2以下の整数でr+o=2かつt+s=2、Yは水素又はメチル基であり、Xは芳香環または脂肪族炭化水素または脂肪族環状炭化水素のいずれかを含む))
【請求項2】
前記樹脂組成物において、
(a)前記[化1]で表される前記ジ(メタ)アクリレートは、全樹脂組成物中の5wt%以上60wt%以下であり、
(b)前記多官能イソシアヌレート化合物は、全樹脂組成物中の5wt%以上50wt%以下であり、
(c)前記エポキシ(メタ)アクリレートは、全樹脂組成物中の5wt%以上50wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載の複合光学素子。
【請求項3】
(a)前記[化1]で表される前記ジ(メタ)アクリレートにおける構造Xは、
ビスフェノール構造であることを特徴とする
請求項1に記載の複合光学素子。
【請求項4】
(a)前記[化1]で表される前記ジ(メタ)アクリレートにおける構造Xは、
脂環式構造であることを特徴とする請求項1に記載の複合光学素子。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、
アクリロイル基を両端に有するシルセスキオキサン化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の複合光学素子。
【請求項6】
前記樹脂組成物は、
オキセタニル基を両端に有するシルセスキオキサン化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の複合光学素子。
【請求項7】
前記樹脂組成物は、
有機シラン化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の複合光学素子。
【請求項8】
前記樹脂組成物は、
フッ素化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の複合光学素子。
【請求項9】
前記樹脂組成物は、
エネルギー硬化性樹脂組成物であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の複合光学素子。
【請求項10】
前記樹脂層が表面に形成された光学基材をさらに備える請求項1から9のいずれかに記載の複合光学素子。
【請求項11】
前記光学基材は、厚みが1mm以上30mm以下であり、かつ、前記樹脂層は、厚みが50μm以上1mm以下の範囲であることを特徴とする請求項10に記載の複合光学素子。
【請求項12】
前記樹脂層の屈折率は、
1.50以上1.54以下であることを特徴とする請求項11に記載の複合光学素子。
【請求項13】
前記樹脂層の表面硬度は、
鉛筆硬度HB以上であることを特徴とする請求項11に記載の複合光学素子。
【請求項14】
(a)以下の[化1]で表され、分子量が1500以上3000未満であり、かつ、両端の(メタ)アクリル酸エステル結合(CH2=CY−CO−Op−)の間に(O-CHo(CH3)r-(CH)-CHs(CH)t-(CH)l)基を含むジ(メタ)アクリレートと、
【化1】



(ただし、m+nは5以上、pとqとlとuとvとwは0または1、rとoとtとsはともに0以上2以下の整数でr+o=2かつt+s=2、Yは水素又はメチル基であり、Xは芳香環または脂肪族炭化水素または脂肪族環状炭化水素のいずれかを含む)
(b)多官能イソシアヌレート化合物と、
(c)エポキシ(メタ)アクリレートと、
(d)重合開始剤と、
を含む樹脂組成物を用意するステップと、
(a)前記ジ(メタ)アクリレートと、(b)前記多官能イソシアヌレート化合物と、(c)前記エポキシ(メタ)アクリレートと、(d)前記重合開始剤とを光学基材の表面で重合するステップと、を備える複合光学素子の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂組成物の粘度は、
25℃の状態において、粘度が200mPa・s以上3000mPa・s以下であることを特徴とする請求項14に記載の複合光学素子の製造方法。
【請求項16】
請求項1から請求項13のいずれかに記載の複合光学素子を備えた撮像装置。
【請求項17】
請求項1から13のいずれかに記載の複合型光学素子を備えた光学式記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−247925(P2011−247925A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118000(P2010−118000)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】