説明

複合光触媒粒子及びその製造方法並びに複合光触媒皮膜及びその製造方法

【課題】高い光触媒能を発揮できる複合光触媒皮膜を安価に且つ大量に得ることができる製造方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム部材1を水熱加圧処理して、アルミニウム部材1表面にベーマイト皮膜2を形成する、ベーマイト皮膜形成工程と、アナタース型の二酸化チタンの粒子を過マンガン酸カリウム溶液に懸濁させ、この懸濁溶液に上記ベーマイト皮膜2を浸漬し、これらを水熱加圧処理する、処理工程と、を有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒粒子、及びその製造方法、並びに、二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒皮膜、及びその製造方法、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒は、環境分野やエネルギー分野で有効に利用できるため、非常に注目されている。具体的には、光触媒は、例えばNOx等の有害物を分解できるので、環境浄化の手段として利用できる。また、光触媒は、例えばチタニアナノアレイや色素増感太陽電池等に利用できる。そして、光触媒としては、二酸化チタンが注目されている。
【0003】
ところで、二酸化チタンに関しては、その光触媒能を向上させるための方法が種々検討されている。その一つとして、白金、金、パラジウム等の貴金属を二酸化チタンに担持させることが行われている。
【特許文献1】特開2005−296830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、二酸化チタンに貴金属を担持させる方法は、貴金属が高価であるため、生産コストが高く、よって、大量生産には適していなかった。
【0005】
一方、粒子として合成される二酸化チタンは、基板に固定して皮膜として使用することが、望まれている。
【0006】
本発明は、高い光触媒能を発揮できる光触媒粒子及び光触媒皮膜を提供すること、及びそれらを安価に大量生産できる製造方法を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、光触媒能を有する二酸化チタンに金属化合物が担持されてなる複合光触媒粒子であって、金属化合物が二酸化マンガンであることを特徴としている。
【0008】
請求項2記載の発明は、光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒粒子を、製造する方法であって、アナタース型の二酸化チタンの粒子を過マンガン酸カリウム溶液に懸濁させ、この懸濁溶液を水熱加圧処理することを特徴としている。
【0009】
請求項3記載の発明は、光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒粒子を、製造する方法であって、シュウ酸チタン酸アンモニウムと過マンガン酸カリウムとの混合溶液を水熱加圧処理することを特徴としている。
【0010】
請求項4記載の発明は、光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒粒子を、製造する方法であって、シュウ酸と硫酸チタニルと過マンガン酸カリウムとの混合溶液を弱酸性に調整し、この混合溶液を水熱加圧処理することを特徴としている。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項2ないし4のいずれかに記載の発明において、水熱加圧処理を、180℃〜210℃の温度、及び、10気圧〜20気圧の圧力の下で、行うものである。
【0012】
請求項6記載の発明は、光触媒能を有する二酸化チタンに金属化合物が担持されてなる複合光触媒皮膜であって、ベーマイト皮膜表面に形成されており、金属化合物が二酸化マンガンであることを特徴としている。
【0013】
請求項7記載の発明は、光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒皮膜を、製造する方法であって、アルミニウム部材を水熱加圧処理して、アルミニウム部材表面にベーマイト皮膜を形成する、ベーマイト皮膜形成工程と、アナタース型の二酸化チタンの粒子を過マンガン酸カリウム溶液に懸濁させ、この懸濁溶液に上記ベーマイト皮膜を浸漬し、これらを水熱加圧処理する、処理工程と、を有することを特徴としている。
【0014】
請求項8記載の発明は、光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒皮膜を、製造する方法であって、アルミニウム部材を水熱加圧処理して、アルミニウム部材表面にベーマイト皮膜を形成する、ベーマイト皮膜形成工程と、シュウ酸チタン酸アンモニウムと過マンガン酸カリウムとの混合溶液に上記ベーマイト皮膜を浸漬し、これらを水熱加圧処理する、処理工程と、を有することを特徴としている。
【0015】
請求項9記載の発明は、光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒皮膜を、製造する方法であって、アルミニウム部材を水熱加圧処理して、アルミニウム部材表面にベーマイト皮膜を形成する、ベーマイト皮膜形成工程と、シュウ酸と硫酸チタニルと過マンガン酸カリウムとの混合溶液を弱酸性に調整し、この混合溶液に上記ベーマイト皮膜を浸漬し、これらを水熱加圧処理する、処理工程と、を有することを特徴としている。
【0016】
請求項10記載の発明は、請求項7ないし9のいずれかに記載の発明において、ベーマイト皮膜形成工程において、水熱加圧処理を、硝酸アルミニウム又は硫酸アルミニウムを含む浴で行うものである。
【0017】
請求項11記載の発明は、請求項7ないし9のいずれかに記載の発明において、水熱加圧処理を、180℃〜210℃の温度、及び、10気圧〜20気圧の圧力の下で、行うものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明によれば、二酸化チタンが二酸化マンガンを担持しているので、次のような効果を発揮できる。
(1)二酸化チタンの光触媒能に加えて、二酸化マンガン自体の酸化触媒能も発揮できる。
(2)吸収端の波長を短い方へシフトでき、それにより、可視光を吸収して低い光エネルギーで励起電子を発生させることができ、しかも、その励起電子の再結合を抑制できる。したがって、高い光触媒能を発揮できる。
【0019】
請求項2ないし4に記載の発明によれば、極めて簡単に実施でき、しかも、比較的安価な原材料を大量に用いることができる。したがって、請求項1記載の複合光触媒粒子の大量生産を極めて簡単に且つ安価に実施でき、よって、安価な複合光触媒粒子を大量に得ることができる。
【0020】
請求項5記載の発明によれば、請求項1記載の複合光触媒粒子を確実に得ることができる。
【0021】
請求項6記載の発明によれば、二酸化チタンが二酸化マンガンを担持しているので、次のような効果を発揮できる。
(1)二酸化チタンの光触媒能に加えて、二酸化マンガン自体の酸化触媒能も発揮できる。
(2)吸収端の波長を短い方へシフトでき、それにより、可視光を吸収して低い光エネルギーで励起電子を発生させることができ、しかも、その励起電子の再結合を抑制できる。したがって、高い光触媒能を発揮できる。
【0022】
また、請求項6記載の発明によれば、複合光触媒皮膜が、花弁状のベーマイト皮膜の表面に形成されているので、大きな比表面積を有している。したがって、この点からも、本発明の複合光触媒皮膜は、高い光触媒能を発揮できる。更に、ベーマイト皮膜が増膜された場合には、本発明の複合光触媒皮膜は、更に大きな比表面積を有することができ、したがって、より高い光触媒能を発揮できる。
【0023】
請求項7ないし9に記載の発明においては、図1に示すように、アルミニウム部材1の表面に花弁状のベーマイト皮膜2が形成され、ベーマイト皮膜2の表面に請求項6記載の複合光触媒皮膜3が形成される。このとき、ベーマイト皮膜2も複合光触媒皮膜3も、水熱加圧処理によって形成される。したがって、請求項7ないし9に記載の発明によれば、極めて簡単に実施でき、しかも、比較的安価な原材料を用いることができるので、安価に且つ大量に実施できる。
【0024】
請求項10記載の発明によれば、ベーマイト皮膜を増膜できる。
【0025】
請求項11記載の発明によれば、請求項6記載の複合光触媒皮膜を確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(第1実施形態)
本実施形態の複合光触媒粒子は、光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなるものである。そして、本実施形態の複合光触媒粒子は、次の方法によって製造される。
【0027】
すなわち、アナタース型の二酸化チタンの粒子を過マンガン酸カリウム溶液に懸濁させ、この懸濁溶液を水熱加圧処理する。水熱加圧処理は、180℃〜210℃の温度及び10気圧〜20気圧の圧力の下で、行う。
【0028】
これにより、本実施形態の複合光触媒粒子が、得られる。
【0029】
ところで、二酸化マンガン自体は、過酸化水素分解作用、脱臭作用、ダイオキシンの脱塩素作用、COD等の有害物質の除去作用等の、酸化触媒能を発揮する。したがって、本実施形態の複合光触媒粒子は、二酸化チタンが二酸化マンガンを担持しているので、二酸化チタンの光触媒能に加えて、二酸化マンガン自体の酸化触媒能も発揮できる。
【0030】
更に、本実施形態の複合光触媒粒子は、二酸化チタンが二酸化マンガンを担持しているので、吸収端の波長を短い方へシフトでき、それにより、可視光を吸収して低い光エネルギーで励起電子を発生させることができ、しかも、その励起電子の再結合を抑制できる。したがって、本実施形態の複合光触媒粒子は、高い光触媒能を発揮できる。
【0031】
また、本実施形態の製造方法によれば、原材料を懸濁させて水熱加圧処理するだけであるので、極めて簡単に実施でき、しかも、比較的安価な原材料を大量に用いることができる。したがって、本実施形態の製造方法によれば、本実施形態の複合光触媒粒子の大量生産を極めて簡単に且つ安価に実施でき、よって、安価な複合光触媒粒子を大量に得ることができる。
【0032】
(第2実施形態)
本実施形態の複合光触媒粒子は、光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなるものである。そして、本実施形態の複合光触媒粒子は、次の方法によって製造される。
【0033】
すなわち、シュウ酸チタン酸アンモニウムと過マンガン酸カリウムとの混合溶液を水熱加圧処理する。水熱加圧処理は、180℃〜210℃の温度及び10気圧〜20気圧の圧力の下で、行う。
【0034】
これにより、本実施形態の複合光触媒粒子が、得られる。
【0035】
本実施形態の複合光触媒粒子も、第1実施形態と同様に、二酸化チタンの光触媒能に加えて、二酸化マンガン自体の酸化触媒能も発揮でき、また、高い光触媒能を発揮できる。
【0036】
また、本実施形態の製造方法によれば、原材料の混合溶液を水熱加圧処理するだけであるので、極めて簡単に実施でき、しかも、比較的安価な原材料を大量に用いることができる。したがって、本実施形態の製造方法によれば、第1実施形態と同様に、本実施形態の複合光触媒粒子を安価且つ大量に得ることができる。
【0037】
(第3実施形態)
本実施形態の複合光触媒粒子は、光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなるものである。そして、本実施形態の複合光触媒粒子は、次の方法によって製造される。
【0038】
すなわち、シュウ酸と硫酸チタニルと過マンガン酸カリウムとの混合溶液を弱酸性に調整し、この混合溶液を水熱加圧処理する。弱酸性は、pH5程度である。水熱加圧処理は、180℃〜210℃の温度及び10気圧〜20気圧の圧力の下で、行う。
【0039】
これにより、本実施形態の複合光触媒粒子が、得られる。
【0040】
本実施形態の複合光触媒粒子も、第1実施形態と同様に、二酸化チタンの光触媒能に加えて、二酸化マンガン自体の酸化触媒能も発揮でき、また、高い光触媒能を発揮できる。
【0041】
また、本実施形態の製造方法によれば、原材料の混合溶液のpHを調整した後に混合溶液を水熱加圧処理するだけであるので、極めて簡単に実施でき、しかも、比較的安価な原材料を大量に用いることができる。したがって、本実施形態の製造方法によれば、第1実施形態と同様に、本実施形態の複合光触媒粒子を安価且つ大量に得ることができる。
【0042】
(第4実施形態)
本実施形態の複合光触媒皮膜は、光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなるものである。そして、本実施形態の複合光触媒皮膜は、次の方法によって製造される。
【0043】
すなわち、まず、アルミニウム部材を水熱加圧処理して、アルミニウム部材表面にベーマイト皮膜を形成する(ベーマイト皮膜形成工程)。水熱加圧処理は、210℃の温度及び20気圧の圧力の下で行うのが、好ましい。更に、水熱加圧処理は、硝酸アルミニウム又は硫酸アルミニウムを含む浴で行うのが、好ましい。これによれば、形成されるベーマイト皮膜の膜厚を増大できる。具体的には、硝酸アルミニウム又は硫酸アルミニウムを用いない場合には数μmである膜厚を、20μm〜30μm程度に増膜できる。なお、形成されたベーマイト皮膜は、花弁状を呈している。
【0044】
次に、アナタース型の二酸化チタンの粒子を過マンガン酸カリウム溶液に懸濁させ、この懸濁溶液に上記ベーマイト皮膜を浸漬し、これらを水熱加圧処理する(処理工程)。水熱加圧処理は、180℃〜210℃の温度及び10気圧〜20気圧の圧力の下で、行う。
【0045】
これにより、本実施形態の複合光触媒皮膜が得られる。
【0046】
ところで、二酸化マンガン自体は、上述したように、過酸化水素分解作用、脱臭作用、ダイオキシンの脱塩素作用、COD等の有害物質の除去作用等の、酸化触媒能を発揮する。したがって、本実施形態の複合光触媒皮膜は、二酸化チタンが二酸化マンガンを担持しているので、二酸化チタンの光触媒能に加えて、二酸化マンガン自体の酸化触媒能も発揮できる。
【0047】
また、本実施形態の複合光触媒皮膜は、二酸化チタンが二酸化マンガンを担持しているので、吸収端の波長を短い方へシフトでき、それにより、可視光を吸収して低い光エネルギーで励起電子を発生させることができ、しかも、その励起電子の再結合を抑制できる。したがって、本実施形態の複合光触媒皮膜は、高い光触媒能を発揮できる。
【0048】
しかも、本実施形態の複合光触媒皮膜は、花弁状のベーマイト皮膜の表面に形成されているので、大きな比表面積を有している。したがって、この点からも、本実施形態の複合光触媒皮膜は、高い光触媒能を発揮できる。更に、ベーマイト皮膜が増膜された場合には、本実施形態の複合光触媒皮膜は、更に大きな比表面積を有することができ、したがって、より高い光触媒能を発揮できる。
【0049】
また、本実施形態の製造方法によれば、原材料を懸濁させベーマイト皮膜を浸漬させて水熱加圧処理するだけであるので、極めて簡単に実施でき、しかも、比較的安価な原材料を用いることができるので、安価に且つ大量に実施できる。
【0050】
(第5実施形態)
本実施形態の複合光触媒皮膜は、光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなるものである。そして、本実施形態の複合光触媒皮膜は、次の方法によって製造される。
【0051】
すなわち、まず、第4実施形態と同様にして、アルミニウム部材表面にベーマイト皮膜を形成する(ベーマイト皮膜形成工程)。
【0052】
次に、シュウ酸チタン酸アンモニウムと過マンガン酸カリウムとの混合溶液に上記ベーマイト皮膜を浸漬し、これらを水熱加圧処理する(処理工程)。水熱加圧処理は、180℃〜210℃の温度及び10気圧〜20気圧の圧力の下で、行う。
【0053】
これにより、本実施形態の複合光触媒皮膜が得られる。
【0054】
本実施形態の複合光触媒皮膜は、二酸化チタンが二酸化マンガンを担持しているので、第4実施形態と同様に、二酸化チタンの光触媒能に加えて、二酸化マンガン自体の酸化触媒能も発揮でき、また、第4実施形態と同様に、高い光触媒能を発揮できる。
【0055】
しかも、本実施形態の複合光触媒皮膜は、花弁状のベーマイト皮膜の表面に形成されているので、第4実施形態と同様に、高い光触媒能を発揮でき、ベーマイト皮膜が増膜された場合には、第4実施形態と同様に、より高い光触媒能を発揮できる。
【0056】
また、本実施形態の製造方法によれば、原材料の混合溶液にベーマイト皮膜を浸漬させて水熱加圧処理するだけであるので、極めて簡単に実施でき、しかも、比較的安価な原材料を用いることができるので、安価に且つ大量に実施できる。
【0057】
(第6実施形態)
本実施形態の複合光触媒皮膜は、光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなるものである。そして、本実施形態の複合光触媒皮膜は、次の方法によって製造される。
【0058】
すなわち、まず、第4実施形態と同様にして、アルミニウム部材表面にベーマイト皮膜を形成する(ベーマイト皮膜形成工程)。
【0059】
次に、シュウ酸と硫酸チタニルと過マンガン酸カリウムとの混合溶液を弱酸性に調整し、この混合溶液に上記ベーマイト皮膜を浸漬し、これらを水熱加圧処理する(処理工程)。水熱加圧処理は、180℃〜210℃の温度及び10気圧〜20気圧の圧力の下で、行う。
【0060】
これにより、本実施形態の複合光触媒皮膜が得られる。
【0061】
本実施形態の複合光触媒皮膜は、二酸化チタンが二酸化マンガンを担持しているので、第4実施形態と同様に、二酸化チタンの光触媒能に加えて、二酸化マンガン自体の酸化触媒能を発揮でき、また、第4実施形態と同様に、高い光触媒能を発揮できる。
【0062】
しかも、本実施形態の複合光触媒皮膜は、花弁状のベーマイト皮膜の表面に形成されているので、第4実施形態と同様に、高い光触媒能を発揮でき、ベーマイト皮膜が増膜された場合には、第4実施形態と同様に、より高い光触媒能を発揮できる。
【0063】
また、本実施形態の製造方法によれば、原材料の混合溶液にベーマイト皮膜を浸漬させて水熱加圧処理するだけであるので、極めて簡単に実施でき、しかも、比較的安価な原材料を用いることができるので、安価に且つ大量に実施できる。
【実施例】
【0064】
(第1実施例)
第1実施形態に該当する実施例である。本実施例の複合光触媒粒子は、次のように製造した。
【0065】
すなわち、アナタース型の二酸化チタンの粒子1gを0.05mol/lの過マンガン酸カリウム溶液50mlに懸濁させ、この懸濁溶液を、簡易型オートクレーブ(ポータブルリアクターTVS−1型、耐圧硝子工業株式会社製)に入れて、210℃及び20気圧の下で水熱加圧処理した。処理後、溶液中に懸濁している粒子を濾取した。0.93gの複合光触媒粒子を得ることができた。
【0066】
[複合光触媒粒子の同定]
図2はTEMで見た本実施例の複合光触媒粒子の写真である。図2からわかるように、本実施例の複合光触媒粒子では、約50nmの二酸化チタン粒子を、約2〜3nmの厚さの二酸化マンガンからなる膜が覆っている。すなわち、本実施例の複合光触媒粒子では、二酸化チタンが二酸化マンガンを担持している。
【0067】
[光触媒能の評価]
本実施例の複合光触媒粒子の光触媒能を、次のようにして評価した。すなわち、所定濃度の過酸化水素水溶液中に本実施例の複合光触媒粒子を分散させ、紫外線を照射して、過酸化水素水溶液の濃度の変化を30分毎に調べた。具体的には、過酸化水素水溶液の初期濃度を0.02mol/l、紫外線の波長を280nmとした。比較例としては、市販のアナタース型二酸化チタン粒子を用いた。また、本実施例の複合光触媒粒子及び市販のアナタース型二酸化チタン粒子は、それぞれ0.1g用いた。図3はその結果を示す。
【0068】
図3からわかるように、比較例に比して、本実施例は、過酸化水素の分解能が10倍以上優れている。したがって、本実施例の複合光触媒粒子の光触媒能は、高い。
【0069】
(第2実施例)
第2実施形態に該当する実施例である。本実施例の複合光触媒粒子は、次のように製造した。
【0070】
すなわち、0.05mol/lのシュウ酸チタン酸アンモニウム溶液50mlと0.05mol/lの過マンガン酸カリウム溶液50mlとの混合溶液を、簡易型オートクレーブ(同上)に入れて、210℃及び20気圧の下で水熱加圧処理した。処理後、溶液中に懸濁している粒子を濾取した。0.6gの複合光触媒粒子を得ることができた。
【0071】
(第3実施例)
第3実施形態に該当する実施例である。本実施例の複合光触媒粒子は、次のように製造した。
【0072】
すなわち、0.05molのシュウ酸と0.05molの硫酸チタニルと0.05mol/lの過マンガン酸カリウム溶液50mlとの混合溶液を、アンモニア水によってpH5程度に調整し、この混合溶液を、簡易型オートクレーブ(同上)に入れて、210℃及び20気圧の下で水熱加圧処理した。処理後、溶液中に懸濁している粒子を濾取した。0.4gの複合光触媒粒子を得ることができた。
【0073】
(第4実施例)
第4実施形態に該当する実施例である。本実施例の複合光触媒皮膜は、次のように製造した。
【0074】
(1)ベーマイト皮膜形成工程
まず、アルミニウム板(A1085材、25×50×0.4mm)を、ノニオン系界面活性剤の浴に入れ、50℃で5分間、脱脂処理した。次に、脱脂処理後のアルミニウム板を、0.04mol/lの硝酸アルミニウムの浴に浸漬させた状態で、簡易型オートクレーブ(同上)に入れて、210℃及び20気圧の下で30分間、水熱加圧処理した。これにより、アルミニウム板の表面に、厚さ27μmのベーマイト皮膜が形成された。
【0075】
(2)処理工程
アナタース型の二酸化チタンの粒子1gを0.05mol/lの過マンガン酸カリウム溶液50mlに懸濁させた。次に、その懸濁溶液に、上記工程(1)後のアルミニウム板を浸漬させた。そして、これらを、簡易型オートクレーブ(同上)に入れて、210℃及び20気圧の下で30分間、水熱加圧処理した。これにより、ベーマイト皮膜の表面に、本実施形態の複合光触媒皮膜が形成された。
【0076】
(第5実施例)
第5実施形態に該当する実施例である。本実施例の複合光触媒皮膜は、次のように製造した。
【0077】
(1)ベーマイト皮膜形成工程
第4実施例と同様に処理した。
【0078】
(2)処理工程
0.05mol/lのシュウ酸チタン酸アンモニウム溶液50mlと0.05mol/lの過マンガン酸カリウム溶液50mlとの混合溶液を作製した。次に、その混合溶液に、上記工程(1)後のアルミニウム板を浸漬させた。そして、これらを、簡易型オートクレーブ(同上)に入れて、210℃及び20気圧の下で30分間、水熱加圧処理した。これにより、ベーマイト皮膜の表面に、本実施形態の複合光触媒皮膜が形成された。
【0079】
[複合光触媒皮膜の同定]
X線光電子分光法により、本実施例の複合光触媒皮膜のMn及びTiの結合エネルギーを調べた。図4はその結果を示す。図4から、二酸化チタン及び二酸化マンガンが生成していることが確認できた。しかし、二酸化マンガンのピークが、通常の場合に比して、1.5eVほど、高エネルギー側にシフトしていること、及び、二酸化チタンのピークが、通常の場合に比して、1.1eVほど、高エネルギー側にシフトしていること、が確認できた。このことから、二酸化チタンと二酸化マンガンとはカップリングしていると考えられる。
【0080】
[光触媒能の評価]
本実施例の複合光触媒皮膜の光触媒能を、次のようにして評価した。すなわち、所定濃度のマラカイトグリーン水溶液中に本実施例の複合光触媒皮膜を浸漬し、光を照射して、マラカイトグリーン水溶液の濃度の変化を10分毎に調べた。表1は具体的な評価条件を示す。また、図5はその結果を示す。なお、比較例としては、上記工程(1)後のアルミニウム板に対して、ゾルゲル法によって二酸化チタンのみを固着してなる皮膜を用いた。
【0081】
【表1】

【0082】
図5からわかるように、比較例Aに比して、本実施例Bは、マラカイトグリーンの分解能が優れている。したがって、本実施例の複合光触媒皮膜の光触媒能は、高い。
【0083】
[光触媒皮膜の吸収端]
紫外・可視吸収スペクトルを調べて、本実施例の複合光触媒皮膜の吸収端を求めた。図6はその結果を示す。本実施例Bの複合光触媒皮膜の吸収端は1200nmであり、比較例Aの光触媒皮膜の吸収端は380nmであった。なお、比較例Aとしては、上記工程(1)後のアルミニウム板に対して、ゾルゲル法によって二酸化チタンのみを固着してなる皮膜を用いた。本実施例の複合光触媒皮膜は、吸収端の波長を短い方へシフトでき、それにより、可視光を吸収して低い光エネルギーで励起電子を発生させることができ、しかも、その励起電子の再結合を抑制できる。したがって、高い光触媒能を発揮できる。
【0084】
[過マンガン酸カリウム溶液の濃度の検討]
本実施例において、過マンガン酸カリウム溶液の最適濃度を検討した。なお、シュウ酸チタン酸アンモニウム溶液の濃度は、0.05mol/lとし、過マンガン酸カリウム溶液の濃度は、0.01、0.02、0.03、0.04、及び0.05mol/lとした。図7はその結果を示す。
【0085】
図7において、マラカイトグリーンの分解割合は、得られた複合光触媒皮膜の光触媒能の強さを示している。図7からわかるように、0.04mol/lの過マンガン酸カリウム溶液を用いたときに、得られた複合光触媒皮膜の光触媒能が最高となっている。したがって、0.05mol/lのシュウ酸チタン酸アンモニウム溶液を用いる場合の過マンガン酸カリウム溶液の最適濃度は、0.04mol/lであった。
【0086】
[硝酸アルミニウムの濃度の検討]
ベーマイト皮膜形成工程によって得られるベーマイト皮膜の膜厚と硝酸アルミニウムの濃度との関係を調べた。具体的には、硝酸アルミニウムの濃度を0.1mol/lまで適宜設定しながら、得られるベーマイト皮膜の膜厚を測定した。図8はその結果を示す。
【0087】
図8からわかるように、硝酸アルミニウムの濃度が0.04mol/lの時に、最も厚いベーマイト皮膜が得られた。
【0088】
(第6実施例)
第6実施形態に該当する実施例である。本実施例の複合光触媒皮膜は、次のように製造した。
【0089】
(1)ベーマイト皮膜形成工程
第4実施例と同様に処理した。
【0090】
(2)処理工程
0.05molのシュウ酸と0.05molの硫酸チタニルと0.05mol/lの過マンガン酸カリウム溶液50mlとの混合溶液を、アンモニア水によってpH5程度に調整した。次に、その混合溶液に、上記工程(1)後のアルミニウム板を浸漬させた。そして、これらを、簡易型オートクレーブ(同上)に入れて、210℃及び20気圧の下で30分間、水熱加圧処理した。これにより、ベーマイト皮膜の表面に、本実施形態の複合光触媒皮膜が形成された。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の製造方法は、複合光触媒粒子や皮膜を安価に大量生産できるので、産業上の利用価値が大である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の複合光触媒皮膜の製造方法における経過を模式的に示す断面図である。
【図2】第1実施例の複合光触媒粒子の同定結果を示す写真である。
【図3】第1実施例の複合光触媒粒子の光触媒能の評価結果を示す図である。
【図4】第5実施例の複合光触媒皮膜の同定結果を示す図である。
【図5】第5実施例の複合光触媒皮膜の光触媒能の評価結果を示す図である。
【図6】第5実施例の複合光触媒皮膜の吸収端の測定結果を示す図である。
【図7】第5実施例において用いる過マンガン酸カリウム溶液の最適濃度の検討結果を示す図である。
【図8】第5実施例におけるベーマイト皮膜の膜厚と硝酸アルミニウムの濃度との関係を調べた結果を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
1 アルミニウム部材 2 ベーマイト皮膜 3 複合光触媒皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒能を有する二酸化チタンに金属化合物が担持されてなる複合光触媒粒子であって、
金属化合物が二酸化マンガンであることを特徴とする複合光触媒粒子。
【請求項2】
光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒粒子を、製造する方法であって、
アナタース型の二酸化チタンの粒子を過マンガン酸カリウム溶液に懸濁させ、この懸濁溶液を水熱加圧処理することを特徴とする複合光触媒粒子の製造方法。
【請求項3】
光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒粒子を、製造する方法であって、
シュウ酸チタン酸アンモニウムと過マンガン酸カリウムとの混合溶液を水熱加圧処理することを特徴とする複合光触媒粒子の製造方法。
【請求項4】
光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒粒子を、製造する方法であって、
シュウ酸と硫酸チタニルと過マンガン酸カリウムとの混合溶液を弱酸性に調整し、この混合溶液を水熱加圧処理することを特徴とする複合光触媒粒子の製造方法。
【請求項5】
水熱加圧処理を、180℃〜210℃の温度、及び、10気圧〜20気圧の圧力の下で、行う、請求項2ないし4のいずれかに記載の複合光触媒粒子の製造方法。
【請求項6】
光触媒能を有する二酸化チタンに金属化合物が担持されてなる複合光触媒皮膜であって、
ベーマイト皮膜表面に形成されており、
金属化合物が二酸化マンガンであることを特徴とする複合光触媒皮膜。
【請求項7】
光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒皮膜を、製造する方法であって、
アルミニウム部材を水熱加圧処理して、アルミニウム部材表面にベーマイト皮膜を形成する、ベーマイト皮膜形成工程と、
アナタース型の二酸化チタンの粒子を過マンガン酸カリウム溶液に懸濁させ、この懸濁溶液に上記ベーマイト皮膜を浸漬し、これらを水熱加圧処理する、処理工程と、を有することを特徴とする複合光触媒皮膜の製造方法。
【請求項8】
光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒皮膜を、製造する方法であって、
アルミニウム部材を水熱加圧処理して、アルミニウム部材表面にベーマイト皮膜を形成する、ベーマイト皮膜形成工程と、
シュウ酸チタン酸アンモニウムと過マンガン酸カリウムとの混合溶液に上記ベーマイト皮膜を浸漬し、これらを水熱加圧処理する、処理工程と、を有することを特徴とする複合光触媒皮膜の製造方法。
【請求項9】
光触媒能を有する二酸化チタンに二酸化マンガンが担持されてなる複合光触媒皮膜を、製造する方法であって、
アルミニウム部材を水熱加圧処理して、アルミニウム部材表面にベーマイト皮膜を形成する、ベーマイト皮膜形成工程と、
シュウ酸と硫酸チタニルと過マンガン酸カリウムとの混合溶液を弱酸性に調整し、この混合溶液に上記ベーマイト皮膜を浸漬し、これらを水熱加圧処理する、処理工程と、を有することを特徴とする複合光触媒皮膜の製造方法。
【請求項10】
ベーマイト皮膜形成工程において、水熱加圧処理を、硝酸アルミニウム又は硫酸アルミニウムを含む浴で行う、請求項7ないし9のいずれかに記載の複合光触媒皮膜の製造方法。
【請求項11】
水熱加圧処理を、180℃〜210℃の温度、及び、10気圧〜20気圧の圧力の下で、行う、請求項7ないし9のいずれかに記載の複合光触媒皮膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−330878(P2007−330878A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164856(P2006−164856)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年 5月14日 社団法人軽金属学会主催の「第110回春期大会」において文書をもって発表 平成18年 4月13日 社団法人軽金属学会発行の「第110回春期大会講演概要集」に発表
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】