説明

複合分離膜の製造方法

【課題】 透水性能、化学的強度、物理的強度の諸性能が優れた複合分離膜を製造するための方法を提供する。
【解決手段】 実質的に樹脂Aからなる層1の表面に樹脂B溶液を塗布することにより、実質的に樹脂Bからなる層2を層1に積層させて複合分離膜を製造する方法において、層1表面に、樹脂Aの貧溶媒であってかつ樹脂B溶液と混じり合う貧溶媒を塗布した後、樹脂Aの良溶媒を含有する樹脂B溶液を塗布し、次いで、樹脂Bの非溶媒中に浸漬して樹脂B溶液を凝固させて層2を層1に積層させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野、医薬品製造分野、食品工業分野、血液浄化用膜分野等に好適な複合分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分離膜は、飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野、食品工業分野等様々な方面で利用されている。飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野においては、分離膜が従来の砂ろ過、凝集沈殿過程の代替として水中の不純物を除去するために用いられるようになってきている。また、食品工業分野においては、発酵に用いた酵母の分離除去や液体の濃縮を目的として、分離膜が用いられている。各分野で用いられる分離膜には、経済的な観点から、優れた透水性能が求められる。優れた透水性能を有していれば、膜面積を減らすことが可能となり、装置がコンパクトになるため設備費を節約でき、膜交換費や設置面積の点からも有利になるからである。
【0003】
さらに、浄水処理では、膜のバイオファウリング防止の目的で次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤を膜モジュール部分に添加したり、酸、アルカリ、塩素、界面活性剤などで膜そのものを洗浄するため、分離膜には耐薬品性も求められる。さらに、分離膜には、使用中に破断が起こらないように高い物理的強度が要求されている。
【0004】
このように、分離膜には、優れた分離性能、化学的強度(耐薬品性)、物理的強度および透水性能が求められる。そこで、化学的強度(耐薬品性)と物理的強度を併せ有するフッ素樹脂系高分子を用いた分離膜が使用されるようになってきた。
【0005】
これまでに、優れた透水性能、物理的強度、化学的強度を有する中空糸膜の創出を課題とし、種々の方法が開示されている。例えば、特許文献1にはフッ素樹脂系高分子を良溶媒に溶解した高分子溶液を、該樹脂の非溶媒を含む液体中に接触させて凝固させる非溶媒誘起相分離法が開示されている。しかしながら、この方法では膜厚方向に均一に相分離させることが困難であり、通常マクロボイドを含む非対称三次元網目構造の膜となるため、物理的強度が十分でなかった。また、物理的強度を向上させるために膜厚を厚くすると透水性能が低下してしまう欠点があった。このため、非溶媒誘起相分離法単独による膜は、優れた透水性能と優れた物理的強度を両立することが困難であった。
【0006】
また、特許文献2には、フッ素樹脂系高分子を含む溶液中に非水溶性アルコールや親水性無機微粉末を添加して製膜し次いでそれらを抽出して分離膜を得る方法が開示されている。これらの方法によって、マクロボイドを含まない緻密層を有する分離膜を得ることができる。しかし、抽出には特別な操作が必要であり、添加物が膜中に異物として残存する恐れがあった。また、分離膜の透水性能を高めるために膜厚を薄くした場合、上述した用途に好適な程度の物理的強度を発現させることが困難であった。
【0007】
一方、物理的強度を担わす基体と分離機能を担わす機能層を有する複合膜を得る方法も開示されている。例えば、特許文献3には、多孔質膜の上にさらにフッ素樹脂系高分子製の限外ろ過膜を積層させた複合膜についての記載がある。この複合膜は、基材となる多孔質膜への限外ろ過膜の結合性を高めるために、グリセリンのアルコール溶液で処理後、乾燥してポリマーを塗布し、非溶媒で凝固して限外ろ過膜を形成させるものである。得られた複合膜は、基材の種類によって優れた物理的強度を発現させることができるが、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に対してグリセリンが非溶媒であるために界面に緻密層が形成してしまうこと、さらに乾燥工程を経ることから優れた透水性能を発現させることが困難であった。
【0008】
また、特許文献4には、物理的強度に優れた内層部の上に、分離機能を有する表層部を被覆してなる複合膜が開示されている。しかしながら、内層部を形成する高分子に対する良溶媒を用いて表層部を被覆するために、内層部表面が良溶媒によって溶解し、結果として界面に緻密層を形成し、優れた透水性能を発現させることが困難であった。
【0009】
【特許文献1】特公平1−22003号公報
【特許文献2】特許第2899903号公報
【特許文献3】特開昭63−23703号公報
【特許文献4】国際公開第03/106545号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来の技術の上述した問題点に鑑み、透水性能、化学的強度、物理的強度の諸性能が優れた複合分離膜を製造することができる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、下記(1)〜(7)の構成からなる本発明によって達成される。
(1)実質的に樹脂Aからなる層1の表面に樹脂B溶液を塗布することにより、実質的に樹脂Bからなる層2を層1に積層させて複合分離膜を製造する方法において、層1表面に、樹脂Aの貧溶媒であってかつ樹脂B溶液と混じり合う溶媒を塗布した後、樹脂Aの良溶媒を含有する樹脂B溶液を塗布し、次いで、樹脂Bの非溶媒中に浸漬して樹脂B溶液を凝固させて層2を層1に積層させる複合分離膜の製造方法。
(2)樹脂Aがフッ素樹脂系高分子である上記(1)記載の複合分離膜の製造方法。
(3)樹脂Bがフッ素樹脂系高分子である上記(1)記載の複合分離膜の製造方法。
(4)樹脂Aと樹脂Bが同種の樹脂である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の複合分離膜の製造方法。
(5)層1表面に塗布する溶媒が、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、イソホロン、フタル酸ジメチルから選ばれる少なくとも1種を含有する溶媒である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の複合分離膜の製造方法。
(6)複合分離膜における層1が球状構造からなり、かつ、層2が三次元網目構造からなる上記(1)〜(5)のいずれかに記載の複合分離膜の製造方法。
(7)層1の球状構造における固形分の略球状の平均直径が0.1μm〜5μmである上記(6)記載の複合分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明法によれば、実質的に樹脂Aからなる層1の表面に樹脂B溶液を塗布することにより、実質的に樹脂Bからなる層2を層1表面に積層させて複合分離膜を製造する際、樹脂Aの良溶媒が含有される樹脂B溶液を用いても、樹脂B溶液塗布の前の層1表面に、樹脂Aの貧溶媒であってかつ樹脂B溶液と混じり合う溶媒を塗布することにより、樹脂B溶液塗布による層1表面の溶解を低減させることができる。その結果、層1と層2の界面のろ過抵抗が減少し、得られる複合膜に優れた透水性能を発現させることが可能になる。
【0013】
従って、本発明の製造方法によって得られる複合膜は、透水性能、化学的強度、物理的強度の諸性能を従来膜よりも高くすることが可能になる。この膜を用いることにより、長期間安定してろ過運転を実施することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の複合分離膜の製造方法は、実質的に樹脂Aからなる層1の表面に樹脂B溶液を塗布することにより、実質的に樹脂Bからなる層2を層1に積層させて複合分離膜を製造する方法において、層1表面に、樹脂Aの貧溶媒であってかつ樹脂B溶液と混じり合うという特定の溶媒を塗布した後、樹脂Aの良溶媒を含有する樹脂B溶液を塗布し、次いで、樹脂Bの非溶媒中に浸漬して樹脂B溶液を凝固させて層2を層1に積層させることを特徴とする。
【0015】
本発明法において、樹脂B溶液を塗布する前の層1表面に、上記した特定の溶媒(即ち、樹脂B溶液と混じり合う樹脂Aの貧溶媒、以下、単に塗布貧溶媒とも表現する)を塗布することにより、続いて塗布される樹脂B溶液の中に含まれる、樹脂Aの良溶媒による層1表面の溶解を低減させることができる。
【0016】
本発明における複合分離膜では、層1は実質的に樹脂Aからなり、層2は実質的に樹脂Bからなるが、樹脂Aと樹脂Bは同種の樹脂でも良い。樹脂Aに用いられる樹脂は特に限定されないが、得られる複合分離膜の化学的耐久性が樹脂の種類によって大きく影響を受けるため、用途に応じた化学的耐久性を有するように選択すれば良い。例えば、水処理用途では、酸、アルカリ、塩素等の薬品洗浄が頻繁に行われるため、これらに対する耐性を有する樹脂を選択することが好ましく、フッ素樹脂系高分子を用いることが特に好ましい。
【0017】
本発明におけるフッ素樹脂系高分子とは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有する樹脂のことである。複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有していても良い。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれる少なくとも1種とフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。また、フッ素樹脂系高分子の重量平均分子量は、要求される複合分離膜の強度と透水性能によって適宜選択すれば良いが、重量平均分子量が大きくなると透水性能が低下し、重量平均分子量が小さくなると強度が低下する。このため、重量平均分子量は5万以上100万以下が好ましい。複合分離膜が薬液洗浄に晒される水処理用途の場合、重量平均分子量は10万以上70万以下が好ましく、さらに15万以上60万以下が好ましい。また、本発明の複合分離膜には、発明の目的を阻害しない範囲で他の成分、例えば、有機物、無機物、高分子などが含まれていても良い。
【0018】
一方、樹脂Bに用いられる樹脂は、適当な溶媒に溶解して樹脂B溶液を調製できることが必要である。樹脂B溶液調製時に用いられる溶媒が、層1を実質的に形成する樹脂Aに対して良溶媒である場合、樹脂B溶液の塗布によって層1表面が溶解し、得られる複合分離膜の透水性能が低下する。このため、本発明法においては、樹脂B溶液の塗布の前の層1表面へ、樹脂B溶液と混じり合う樹脂Aの貧溶媒を塗布して、層1表面の溶解を低減させる。他方、樹脂B溶液調製時に用いられる溶媒が、層1を実質的に形成する樹脂Aに対して貧溶媒または非溶媒である場合、樹脂B溶液の塗布によって層1表面が実質的に溶解しないのでこの場合には、層1表面への樹脂B溶液と混じり合う樹脂Aの貧溶媒を塗布する必要性はない。
【0019】
本発明において、樹脂Aの貧溶媒とは、その樹脂Aを、60℃以下の低温では、5重量%以上溶解させることができないが、60℃以上かつ高分子の融点以下(例えば、樹脂がフッ化ビニリデンホモポリマー単独で構成される場合は178℃程度)の高温領域で5重量%以上溶解させることができる溶媒と定義することができる。また、貧溶媒に対し、60℃以下の低温領域でも樹脂を5重量%以上溶解させることが可能な溶媒を良溶媒、樹脂の融点または溶媒の沸点まで、樹脂を溶解も膨潤もさせない溶媒を非溶媒と定義することができる。
【0020】
例えば、フッ素樹脂系高分子の場合、貧溶媒としては、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、フタル酸ジメチル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジアセトンアルコール、グリセロールトリアセテート等の中鎖長のアルキルケトン、エステル、グリコールエステルおよび有機カーボネート等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。非溶媒と貧溶媒の混合溶媒であっても、上記貧溶媒の定義を満足するものは、本発明法における貧溶媒として使用することができる。特に、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、イソホロン、フタル酸ジメチルは安価で容易に入手できるため、樹脂Aの貧溶媒として好ましく用いられる。
【0021】
また、樹脂Aの良溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアキド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等の低級アルキルケトン、エステル、アミド等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。特に、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドはフッ素樹脂系高分子の溶解性が高いので好ましく用いられる。
【0022】
さらに、樹脂Bの非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o−ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0023】
なお、本発明法では、非溶媒中に浸漬することにより、相分離を生じさせて構造を固定化するため、塗布貧溶媒及び樹脂B溶液を構成する樹脂Aの良溶媒はともに、浸漬時の非溶媒によって抽出されるものであることが好ましい。
【0024】
本発明法において樹脂B溶液塗布前に、層1表面に塗布する塗布貧溶媒(樹脂B溶液と混じり合う樹脂Aの貧溶媒)は、上述した樹脂Aの貧溶媒の定義を満足するものから選ばれ、樹脂B溶液と混じり合うことが必要である。これに対し、層1表面に塗布する溶媒として、樹脂Aの貧溶媒でかつ樹脂B溶液と混じり合わない溶媒を用いた場合、層1と層2の界面に空隙が生じ、得られる複合分離膜の物理的強度が低下する。これは、層1と層2の剥離強度が低下するためであると推察される。一方、本発明法で特定した溶媒、即ち、樹脂B溶液と混じり合う樹脂Aの貧溶媒、を用いた場合、層1表面に塗布された樹脂Aの貧溶媒と樹脂B溶液とが対流拡散によって互いに混じり合いながら、非溶媒の滲入によって相分離するため、層1と層2の界面に実質的な空隙が生じず、十分な剥離強度が得られる。
【0025】
ここで、樹脂Aの貧溶媒と樹脂B溶液とが混じり合うとは、両者を接触させた場合に界面が生じないことを目視により観察することで確認できるが、樹脂Aの貧溶媒の溶解度パラメーター(a)と樹脂B溶液を構成する溶媒(樹脂Aの良溶媒)の溶解度パラメーター(b)を用いて表現することができる。溶解度パラメーターは、(Allan F. M. Barton著、“CRC Handbook of solubility parameters and other cohesion parameters”、CRC Corp.出版、1991年発行)に記載のHansenのパラメーターδtを使用することができる。樹脂Aの貧溶媒と樹脂B溶液とが混じり合うには、a−b=±6が良く、a−b=±3が特に好ましい。ここで、a、bはそれぞれ、樹脂Aの貧溶媒の溶解度パラメーター、樹脂B溶液を構成する溶媒の溶解度パラメーターを表す。
【0026】
また、本発明法による効果を高めるためには、層1上に塗布した塗布貧溶媒と樹脂B溶液との接触時間、すなわち非溶媒の滲入による樹脂B溶液の相分離が起こるまでの時間が重要である。ここで、層2が薄い場合には、非溶媒の滲入による相分離が速やかに生じるため、上述した接触時間は非溶媒に浸漬するまでの時間とほぼ同等であるが、層2が厚い場合には非溶媒の滲入が遅くなるため接触時間はより長くなる。塗布貧溶媒と樹脂B溶液との接触時間が長いと、塗布貧溶媒と樹脂B溶液とが対流拡散によって互いに混じり合った結果、樹脂B溶液中の樹脂Aの良溶媒が層1表面に到達して層1表面を溶解してしまうため、層1と層2の界面のろ過抵抗が増加し本発明の効果が減少する。このため、樹脂B溶液を塗布した後、速やかに非溶媒中に浸漬させることが好ましく、樹脂B溶液を塗布後5秒以内、より好ましくは3秒以内、さらには1秒以内に浸漬させることが良い。
【0027】
層1表面への塗布貧溶媒の塗布量は、本発明の効果を発現する範囲で自由に調整できる。しかし、該塗布量が少なすぎると、樹脂B溶液中の樹脂Aの良溶媒が容易に層1表面に到達して層1表面を溶解して透水性能が低下する。逆に、該塗布量が多すぎると、塗布貧溶媒と樹脂B溶液とが対流拡散によって互いに混じり合う前に非溶媒による相分離が完結するため、層1と層2の接着強度が低下する。このため、実際の該塗布量は、得られる複合分離膜の透水性能と接着強度のバランスが取れるように実験的に設定される。この際、前述した塗布貧溶媒と樹脂B溶液との接触時間を短くすれば、樹脂B溶液中の樹脂Aの良溶媒による層1表面の溶解を低減できるので、該塗布量を少なく設定することができるようになる。従って、前述した塗布貧溶媒と樹脂B溶液との接触時間ができるだけ短くなるように設定した後、該塗布量を徐々に増加させて最適条件を探索する方法が好ましく用いられる。
【0028】
また、樹脂B溶液の塗布量が多い場合、塗布貧溶媒と樹脂B溶液との対流拡散が促進される。逆に、樹脂B溶液の塗布量が少ない場合、前記対流拡散が抑制される。このため、樹脂B溶液の塗布量を変更する場合においても塗布貧溶媒の塗布量を変更する場合と同様に、得られる複合分離膜の透水性能と接着強度のバランスが取れるように実験的に設定される。
【0029】
本発明法は、層1が球状構造からなり、層2が三次元網目構造からなる複合分離膜の製造に好適に適用することができる。ここで、三次元網目構造とは、固形分が三次元的に網目状に広がっている構造のことをいう。三次元網目構造では、網を形成する固形分に仕切られた細孔およびボイドを有する。一方、球状構造とは、多数の球状もしくは略球状の固形分が、直接もしくは筋状の固形分を介して連結している構造のことをいう。また、層1と層2以外の層、例えば多孔質基材などの支持体層が、複合分離膜中に存在しても良い。多孔質基材としては、有機材料、無機材料等、特に限定されないが、軽量化しやすい点から有機繊維が好ましい。さらに好ましくは、セルロース系繊維、酢酸セルロース系繊維、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維などの有機繊維からなる織布や不織布である。
【0030】
ここで、層1の球状構造における球状もしくは略球状の固形分の平均直径が大きくなると、空隙率が高くなり透水性能が増大するが、物理的強度が低下する。一方、平均直径が小さくなると、空隙率が低くなり、物理的強度が増大するが、透水性能が低下する。従って、球状構造の平均直径は0.1μm以上5μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上4μm以下である。球状構造における球状もしくは略球状の固形分の平均直径は、フッ素樹脂系高分子分離膜の断面を走査型電子顕微鏡を用いて10000倍で写真撮影し、10個以上、好ましくは20個以上の任意の球状構造における球状もしくは略球状の固形分の直径を測定し、数平均して求める。画像処理装置等を用いて断面写真から等価円直径を求め、球状構造の平均直径とすることも好ましく採用できる。
【0031】
三次元網目構造が分離対象側の最表層にある場合、最表層の表面をこの層の真上から観察すると、細孔が観察される。上述したように三次元網目構造が分離機能を担うため、該細孔の平均孔径や最大孔径は制御されるべきである。本発明の複合分離膜を水処理用途に用いる場合、この三次元網目構造の表面の平均孔径の好ましい値は分離対象物質にもよるが透水性能とのバランスを取るために10nm以上200nm以下であることが好ましく、より好ましくは20nm以上100nm以下である。
【0032】
三次元網目構造の表面の平均孔径は、三次元網目構造の表面を走査型電子顕微鏡を用いて60000倍で写真撮影し、10個以上、好ましくは20個以上の任意の細孔の直径を測定し、数平均して求める。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求められる。
【0033】
層1が球状構造からなり、層2が三次元網目構造からなる複合分離膜は、本発明法によって製造することができる。 例えば、層1及び層2に使用される樹脂、すなわち樹脂A及び樹脂Bがフッ素樹脂系高分子である場合には、以下の製造方法により上記した複合分離膜を製造することができる。
【0034】
まず、フッ素樹脂系高分子を20重量%以上60重量%以下の比較的高濃度で、フッ素樹脂系高分子の貧溶媒または良溶媒に80℃以上170℃以下で溶解してフッ素樹脂系高分子溶液を調製し、該高分子溶液を冷却固化して相分離せしめることにより層1を製造する。高分子濃度は高くなれば高い強度、伸度を有するフッ素樹脂系高分子分離膜が得られるが、高すぎるとフッ素樹脂系高分子分離膜の空孔率が小さくなり透過性能が低下する。また、フッ素樹脂系高分子溶液の粘度が適正な範囲に無ければ、取り扱いが困難であり、製膜することができなくなる。従って、フッ素樹脂系高分子濃度は、30重量%以上50重量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0035】
フッ素樹脂系高分子溶液を冷却固化するにあたっては、口金からフッ素樹脂系高分子溶液を冷却浴中に吐出する方法が好ましい。この際、冷却浴に用いる冷却液体としては温度が5〜50℃であり、濃度が60〜100重量%の貧溶媒もしくは良溶媒を含有する液体を用いて固化させることが好ましい。冷却液体には、貧溶媒、良溶媒以外に非溶媒を含有していても良いが、冷却液体に非溶媒を主成分とする液体を用いると、冷却固化による相分離よりも非溶媒滲入による相分離が優先し、球状構造が得られにくくなる。フッ素樹脂系高分子を比較的高濃度で、フッ素樹脂系高分子の貧溶媒もしくは良溶媒に比較的高温度で溶解し、急冷して冷却固化することによって、得られるフッ素樹脂系高分子分離膜の構造は、球状構造、もしくは、緻密な網目構造となる。球状構造を形成させるためには、フッ素樹脂系高分子溶液の濃度および温度、用いる溶媒の組成、冷却液体の組成および温度の組み合わせで相分離を制御しなければならない。
【0036】
分離膜の形状を中空糸膜とする場合には、フッ素樹脂系高分子溶液を調製した後、二重管式口金の外側の管から吐出するとともに、中空部形成流体を二重管式口金の内側の管から吐出しながら冷却浴中で固化して、中空糸膜とする。この際、中空部形成流体には、通常気体もしくは液体を用いることができるが、本発明においては、冷却液体と同様の濃度が60〜100重量%の貧溶媒もしくは良溶媒を含有する液体を用いることが好ましく採用できる。なお、中空部形成流体は冷却して供給しても良いが、冷却浴の冷却力のみで中空糸膜を固化するのに十分な場合は、中空部形成流体は冷却せずに供給しても良い。
【0037】
また、フッ素樹脂系高分子分離膜の形状を平膜とする場合には、フッ素樹脂系高分子溶液を調製した後、スリット口金から吐出し、冷却浴中で固化し平膜とする。
【0038】
以上のようにして製造した層1の表面に、特定の塗布貧溶媒を塗布する。この場合の塗布貧溶媒は、フッ素樹脂系高分子溶液と混じり合い、かつフッ素樹脂系高分子の貧溶媒であり、前述した定義を満足するものの中から選択し、前述した方法で塗布すれば良い。
【0039】
次いでフッ素樹脂系高分子の良溶媒を含有するフッ素樹脂系高分子溶液を塗布する。フッ素樹脂系高分子溶液に用いるフッ素樹脂系高分子の良溶媒は、上述した定義を満足するものの中から選択して用いれば良い。フッ素樹脂系高分子溶液は、フッ素樹脂系高分子の濃度、溶媒の種類、後述する添加剤の種類・濃度によって溶解温度が異なる。再現性良く安定な該溶液を調製するためには、溶媒の沸点以下の温度で攪拌しながら数時間加熱して、透明な溶液となるようにすることが好ましい。さらに、該溶液を塗布する際の温度も重要であり、フッ素樹脂系高分子分離膜を安定して製造するためには、該溶液の安定性を損なわないように温度を制御しつつ、系外からの非溶媒の侵入を防止することが好ましい。
【0040】
また、フッ素樹脂系高分子溶液は次のような方法で塗布すれば良い。フッ素樹脂系高分子分離膜の形状が中空糸膜である場合、例えば、中空糸膜をフッ素樹脂系高分子溶液中に浸漬したり、中空糸膜に該高分子溶液を滴下したりする方法が好ましく用いられ、中空糸膜の内表面側に該高分子溶液を塗布する場合には、該高分子溶液を中空糸膜内部に注入する方法などが好ましく用いられる。さらに、フッ素樹脂系高分子溶液の塗布量を制御する方法としては、該高分子溶液の塗布量自体を制御する以外に、層1を該高分子溶液に浸漬したり、層1に該高分子溶液を塗布した後に、該高分子溶液の一部を掻き取ったり、エアナイフを用いて吹き飛ばしたりする方法も好ましく用いられる。
【0041】
そして、フッ素樹脂系高分子の非溶媒中に浸漬して、塗布したフッ素樹脂系高分子溶液を凝固させて層2を層1に積層させる。フッ素樹脂系高分子の非溶媒は、上述した定義を満足するものの中から選択すれば良い。
【0042】
表面の平均孔径を前記の範囲に制御する方法は、例えば以下の方法で行うことができる。フッ素樹脂系高分子溶液に、孔径を制御するための添加剤を入れ、三次元網目構造を形成する際に、または、三次元網目構造を形成した後に、該添加剤を溶出させることにより、表面の平均孔径を制御することができる。該添加剤としては、有機化合物および無機化合物が挙げられる。有機化合物としては、該高分子溶液に用いる溶媒および非溶媒誘起相分離を起こす非溶媒の両方に溶解するものが好ましく用いられる。例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、デキストランなどの水溶性ポリマー、界面活性剤、グリセリン、糖類などを挙げることができる。無機化合物としては、該高分子溶液に用いる溶媒および非溶媒誘起相分離を起こす非溶媒の両方に溶解するものが好ましく、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、硫酸バリウムなどを挙げることができる。また、フッ素樹脂系高分子溶液に非溶媒を添加することも、相分離速度の制御に有効である。
【0043】
本発明の製造方法によって得られる複合分離膜は、50kPa、25℃における純水透過性能が0.3m/m・hr以上10m/m・hr以下、強力5N以上、かつ、破断伸度が50%以上の性能を有することが好ましい。純水透過性能は、より好ましくは0.5m/m・hr以上7m/m・hr以下である。強力は、より好ましくは6N以上である。破断伸度は、より好ましくは70%以上である。以上の条件を満たすことで、水処理分野、医薬品製造分野、食品工業分野、血液浄化用膜分野等の用途に好適に用いることができる。
【0044】
本発明の製造方法によって得られる複合分離膜は、中空糸膜形状、平膜形状いずれの形態でも好ましく用いることができるが、中空糸膜は効率良く充填することが可能であり、単位体積当たりの有効膜面積を増大させることができるため好ましく用いられる。
【0045】
純水透過性能の測定は、中空糸膜では、中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製して行った。温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、逆浸透膜ろ過水の外圧全ろ過を10分間行い、透過量(m)を求めた。その透過量(m)を単位時間(h)および有効膜面積(m)あたりの値に換算し、さらに(50/16)倍することにより、圧力50kPaにおける値に換算することで純水透過性能を求めた。平膜では、例えば、膜を直径43mmの円形に切り出し、円筒状のろ過ホルダー(アドバンテック社製攪拌型ウルトラホルダーUHP−43K)にセットし、その他は中空糸膜と同様の操作をすることで求めることができる。純水透過性能は、ポンプ等で加圧や吸引して得た値を換算して求めても良い。水温についても評価液体の粘性で換算しても良い。純水透過性能が0.10m/m・hr未満の場合には、透水性能が低すぎ、複合分離膜として実用的でない。また、逆に純水透過性能が10m/m・hrを超える場合には、複合分離膜の孔径が大きすぎて、不純物の阻止性能が低くなり好ましくない。
【0046】
強力と破断伸度の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、引っ張り試験機を用い、測定長さ50mmの試料を引っ張り速度50mm/分で引っ張り試験を試料を変えて5回以上行い、強力の平均値と破断伸度の平均値を求めることで測定することができる。強力5N未満、または破断伸度50%未満の場合には、複合分離膜を扱う際のハンドリング性が悪くなり、かつ、ろ過時における膜の破断、糸切れおよび圧壊が生じやすくなるので好ましくない。一般に、破断強度や破断伸度が大きくなると、透過性能が低下する。従って、複合分離膜の破断強度や破断伸度は、上述したハンドリング性とろ過時における物理的耐久性が達成される範囲であれば良く、透過性能や運転コストなどとのバランスによって決定される。
【0047】
上述の複合分離膜は、原液流入口や透過液流入口などを備えたケーシングに収容され膜モジュールとして使用される。膜モジュールは、膜が中空糸膜である場合には、中空糸膜を複数本束ねて円筒状の容器に納め、両端または片端をポリウレタンやエポキシ樹脂等で固定して、透過液を回収できるようにしたり、平板状に中空糸膜を固定して透過液を回収できるようにする。膜が平膜状である場合には、平膜を集液管の周りに封筒状に折り畳みながらスパイラル状に巻き取り、円筒状の容器に納め、透過液を回収できるようにしたり、集液管の両面に平膜を配置して周囲を密に固定し、透過液を回収できるようにする。
【0048】
そして、膜モジュールは、少なくとも原液側に加圧手段または透過液側に吸引手段を設け、水などを分離する分離装置として用いられる。加圧手段としてはポンプを用いても良いし、水位差による圧力を利用してもよい。また、吸引手段としては、ポンプやサイフォンを利用すればよい。
【0049】
この分離装置は、水処理分野であれば浄水処理、上水処理、排水処理、工業用水製造などで利用でき、河川水、湖沼水、地下水、海水、下水、排水などを被処理水とする。
そして、上記の複合分離膜を血液浄化用膜として用いると、血中老廃物の除去性向上や、破断強度が高いことによる血液浄化用膜の耐久性向上などが期待できる。
【0050】
以下に具体的実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
以下の実施例で製造したフッ素樹脂系高分子分離膜における層1の球状構造の平均直径は、フッ素樹脂系高分子分離膜の断面を走査型電子顕微鏡(S−800)(日立製作所製)を用いて10000倍で写真撮影し、30個の任意の略球状の直径を測定し、数平均して求めた。また、層2の三次元網目構造の表面の平均孔径は、フッ素樹脂系高分子分離膜の表面を上記の走査型電子顕微鏡を用いて60000倍で写真撮影し、30個の任意の細孔の孔径の直径を測定し、数平均して求めた。
【0052】
純水透過性能は、次のように求めた。まず、フッ素樹脂系高分子分離膜が中空糸膜の場合には、中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製し、また、フッ素樹脂系高分子分離膜が平膜の場合には、直径43mmの円形に切り出し、円筒型のろ過ホルダーにセットし、温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、逆浸透膜ろ過水の外圧全ろ過を10分間行い、透過量(m)を求めた。次に、その透過量(m)を単位時間(h)および有効膜面積(m)あたりの値に換算し、さらに(50/16)倍することにより、圧力50kPaにおける値に換算することで純水透過性能を求めた。
【0053】
強力と破断伸度は、引っ張り試験機(東洋ボールドウィン製TENSILON/RTM−100)を用い、測定長さ50mmの試料を引っ張り速度50mm/分で引っ張り試験を試料を変えて10回測定し、強力の平均値と破断伸度の平均値を求めた。
【0054】
<実施例1>
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ−ブチロラクトンとを、それぞれ40重量%と60重量%の割合で170℃の温度で溶解した。この高分子溶液をγ−ブチロラクトンを中空部形成液体として随伴させながら100℃の口金から吐出し、温度27℃のγ−ブチロラクトン80重量%水溶液からなる冷却浴中で固化して球状構造からなる中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜を80℃の熱水浴中で1.5倍に延伸し、中空糸状の層1を得た。
【0055】
次いで、層1の外表面にシクロヘキサノン(Hansenのパラメーターδt=19.6)を表面積1cmあたり0.5mlとなるように塗布した。続いて、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを13重量%、ポリエチレングリコール(分子量20、000)を5重量%、N、N−ジメチルホルムアミド(Hansenのパラメーターδt=24.8)を79重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して調製した高分子溶液を、シクロヘキサノンを塗布した層1表面上に塗布し、2秒後に5重量%N、N−ジメチルホルムアミド水溶液からなる凝固浴中に浸漬することにより、球状構造からなる層1の上に三次元網目構造からなる層2を20μmの厚みで形成させた中空糸状複合分離膜を作製した。
【0056】
得られた複合分離膜は、外径1200μm、内径690μm、層1の球状構造の平均直径2.8μm、層2の三次元網目構造層の表面の平均孔径40nm、純水透過性能0.62m/m・hr、強力10N、破断伸度75%であった。
【0057】
得られた中空糸膜の横断面写真を図1に示す。図1において、下の層が層1、上の層が層2である。また、層2表面を示す表面写真を図2に示す。
なお、得られた複合分離膜の評価結果を表1にまとめた。
【0058】
<実施例2>
まず、実施例1と同様の方法で層1を作製した。
次いで、層1の外表面にγ−ブチロラクトン(Hansenのパラメーターδt=26.3)を表面積1cmあたり0.5mlとなるように塗布した。続いて、実施例1と同様の方法で、γ−ブチロラクトンを塗布した層1表面上に層2用高分子溶液を塗布し凝固浴浸漬させて、層1に層2が積層させた複合分離膜を作製した。
【0059】
得られた中空糸状の複合分離膜は、外径1200μm、内径690μm、層1の球状構造の平均直径2.8μm、層2の三次元網目構造層の表面の平均孔径40nm、純水透過性能0.95m/m・hr、強力10N、破断伸度75%であった。
なお、得られた複合分離膜の評価結果を表1にまとめた。
【0060】
<実施例3>
まず、実施例1と同様の方法で層1を作製した。
次いで、層1の外表面にイソホロン(Hansenのパラメーターδt=19.9)を表面積1cmあたり0.5mlとなるように塗布した。続いて、実施例1と同様の方法で、イソホロンを塗布した層1表面上に層2用高分子溶液を塗布し凝固浴浸漬させて、層1に層2が積層させた複合分離膜を作製した。
【0061】
得られた中空糸状の複合分離膜は、外径1200μm、内径690μm、層1の球状構造の平均直径2.8μm、層2の三次元網目構造層の表面の平均孔径40nm、純水透過性能0.63m/m・hr、強力10N、破断伸度75%であった。
なお、得られた複合分離膜の評価結果を表1にまとめた。
【0062】
<実施例4>
まず、実施例1と同様の方法で層1を作製した。
次いで、層1の外表面にフタル酸ジメチル(Hansenのパラメーターδt=22.1)を表面積1cmあたり0.5mlとなるように塗布した。続いて、実施例1と同様の方法で、フタル酸ジメチルを塗布した層1表面上に層2用高分子溶液を塗布し凝固浴浸漬させて、層1に層2が積層させた複合分離膜を作製した。
【0063】
得られた中空糸状の複合分離膜は、外径1200μm、内径690μm、層1の球状構造の平均直径2.8μm、層2の三次元網目構造層の表面の平均孔径40nm、純水透過性能0.80m/m・hr、強力10N、破断伸度75%であった。なお、得られた複合分離膜の評価結果を表1にまとめた。
【0064】
<実施例5>
実施例1と同様にして層1を作製した。
【0065】
次いで、層1の外表面にシクロヘキサノン(Hansenのパラメーターδt=19.6)を表面積1cmあたり0.5mlとなるように塗布した。続いて、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを13重量%、ポリエチレングリコール(分子量20、000)を5重量%、N、N−ジメチルホルムアミド(Hansenのパラメーターδt=24.8)を79重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して調製した高分子溶液を、シクロヘキサノンを塗布した層1表面上に、表面積1cmあたりの塗布溶液量0.5mlで均一に塗布し、60秒後に5重量%N、N−ジメチルホルムアミド水溶液中からなる凝固浴中に浸漬し、球状構造からなる層1の上に三次元網目構造からなる層2を形成させた中空糸状複合分離膜を作製した。
【0066】
得られた中空糸膜は、外径1200μm、内径690μm、層1の球状構造の平均直径2.8μm、層2の三次元網目構造層の表面の平均孔径40nm、純水透過性能0.52m/m・hr、強力10N、破断伸度75%と、凝固浴に浸漬するまでの時間が長かったために実施例1よりは純水透過性能が低かった。
なお、得られた複合分離膜の評価結果を表1にまとめた。
【0067】
<比較例1>
層2用高分子溶液を塗布する前のシクロヘキサノンの層1外表面への塗布を行なわなかったこと以外は実施例1と同様にして複合分離膜を作製した。
【0068】
得られた中空糸状の複合分離膜は、外径1200μm、内径690μm、層1の球状構造の平均直径2.8μm、層2の三次元網目構造層の表面の平均孔径40nm、純水透過性能0.43m/m・hr、強力10N、破断伸度75%と、実施例1よりも純水透過性能が低かった。
なお、得られた複合分離膜の評価結果を表2にまとめた。
【0069】
<比較例2>
シクロヘキサノンの代わりに、フッ化ビニリデンホモポリマーの良溶媒であるアセトンを、層1外表面へ塗布した以外は実施例1と同様にして複合分離膜を作製した。
【0070】
得られた中空糸状の複合分離膜は、外径1200μm、内径690μm、層1の球状構造の平均直径2.8μm、層2の三次元網目構造層の表面の平均孔径40nm、純水透過性能0.20m/m・hr、強力10N、破断伸度75%と、良溶媒を塗布したために実施例1よりも純水透過性能が低かった。
なお、得られた複合分離膜の評価結果を表2にまとめた。
【0071】
<比較例3>
シクロヘキサノンの代わりに、フッ化ビニリデンホモポリマーの非溶媒であるグリセリン30重量%を含むイソプロピルアルコール溶液を、層1外表面へ塗布した以外は実施例1と同様にして複合分離膜を作製した。
【0072】
得られた中空糸状の複合分離膜は、外径1200μm、内径690μm、層1の球状構造の平均直径2.8μm、層2の三次元網目構造層の表面の平均孔径40nm、純水透過性能0.34m/m・hr、強力10N、破断伸度75%と、非溶媒を塗布したために実施例1よりも純水透過性能が低かった。
なお、得られた複合分離膜の評価結果を表2にまとめた。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明法によって得られる複合分離膜は、飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野、医薬品製造分野、食品工業分野、血液浄化用膜分野に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係る実施例1の方法により製造した中空糸状複合分離膜の横断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明に係る実施例1の方法により製造した中空糸状複合分離膜の層2表面を示す電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に樹脂Aからなる層1の表面に樹脂B溶液を塗布することにより、実質的に樹脂Bからなる層2を層1に積層させて複合分離膜を製造する方法において、層1表面に、樹脂Aの貧溶媒であってかつ樹脂B溶液と混じり合う溶媒を塗布した後、樹脂Aの良溶媒を含有する樹脂B溶液を塗布し、次いで、樹脂Bの非溶媒中に浸漬して樹脂B溶液を凝固させて層2を層1に積層させることを特徴とする複合分離膜の製造方法。
【請求項2】
樹脂Aがフッ素樹脂系高分子であることを特徴とする請求項1記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項3】
樹脂Bがフッ素樹脂系高分子であることを特徴とする請求項1記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項4】
樹脂Aと樹脂Bが同種の樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項5】
層1表面に塗布する溶媒が、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、イソホロン、フタル酸ジメチルから選ばれる少なくとも1種を含有する溶媒であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項6】
複合分離膜における層1が球状構造からなり、かつ、層2が三次元網目構造からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項7】
層1の球状構造における球状もしくは略球状の固形分の平均直径が0.1μm〜5μmであることを特徴とする請求項6記載の複合分離膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−117933(P2007−117933A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315917(P2005−315917)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】