説明

複合加工糸及びその織編物

【課題】本発明は、アセテート繊維独自の清涼感あるドライな風合いを有し、発色性及び光沢感に優れ、適度なストレッチ性をも有する複合加工糸及びその織編物を提供する。
【解決手段】単繊維の断面がセルローストリアセテートの間にセルロースジアセテートが挟まれた三層接合構造からなり、セルロースジアセテートの少なくとも一部が繊維の表面に露出し、且つ繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有するセルロースアセテート複合マルチフィラメント糸と、溶融粘度の異なる2種類のポリエステルポリマーがサイドバイサイド型に接合したポリエステル複合マルチフィラメント糸を含有する複合糸加工糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアセテート繊維とポリエステル繊維の複合加工糸および該加工糸を用いてなるドライ感とフクラミ感のあるストレッチ織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からセルロースアセテート繊維は、基質の屈折率が衣料用繊維の中で最も低い事から、色の深みや発色性、鮮明性が優れ、かつ、いわゆる菊型断面と言われている特徴ある繊維断面構造を有し、吸湿性が適度に有ることから、ドライでさわやかな風合いを兼ね備えており、特に婦人ファッション素材としてその優れた特性を発揮してきた。
【0003】
さらに、従来のセルロースアセテートのドライでさわやかな風合いを有すると共に、更なる風合いを一層向上し、適度なストレッチ性を付与するために、これまでにいくつかの提案がなされている。例えば、特許文献1には溶融粘度の異なる2種類のポリエステルポリマーがサイドバイサイド型に接合したポリエステル複合マルチフィラメント糸と、アセテート繊維の合撚糸が記載されている。
【0004】
このような複合糸を染色する場合、分散染料を用い高圧高温条件下で染色を行うが、セルロースジアセテート繊維は、100℃以上の高温染色処理を行うと、染料の吐き出し現象が起こり濃色に染まりにくく発色性の低下が起こりやすい。 また、セルローストリアセテート繊維は熱による可塑性が大きく、染色温度の設定には繊維物性や風合いとの兼ね合いから十分な考慮が必要であった。
【0005】
またアセテート繊維として、特許文献2には吸水性や吸湿性の向上を目的とし、セルロースジアセテート成分を中間層にセルローストリアセテート成分を該中間層の外側に配置した、三層接合型のアセテート繊維が開示されている。しかしこの方法では通常のアセテート繊維のように、繊維断面が菊型断面にならないことから菊型断面に起因する繊維軸表面の不均一な畝上隆起部がほとんど発現せず、セルロースアセテート繊維特有のドライな風合いが不足しやすい。
【0006】
さらに、特許文献3には、繊維表面に繊維軸方向に沿った複雑な凹凸と、繊維軸とほぼ直角方向の微細な隆起を有する、ドライ感、発色性に優れたセルロースアセテート繊維が開示されている。しかしこの方法では、繊維表面に繊維軸方向に沿った畝状の複雑な凹凸が形成され、風合いや光沢に強く寄与するものとなりドライ感が強すぎ、また光沢感が失われることから鮮明性が不十分となりやすい。
【特許文献1】特開2000−34635号公報
【特許文献2】特開2001−55629号公報
【特許文献3】特開平8−60432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような従来技術における問題点を解決するものであり、アセテート繊維独自の清涼感あるドライな風合いを有し、発色性及び光沢感に優れ、適度なストレッチ性をも有する複合加工糸及びその織編物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、単繊維の断面がセルローストリアセテートの間にセルロースジアセテートが挟まれた三層接合構造からなり、セルロースジアセテートの少なくとも一部が繊維の表面に露出し、且つ繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有するセルロースアセテート複合マルチフィラメント糸と、溶融粘度の異なる2種類のポリエステルポリマーがサイドバイサイド型に接合したポリエステル複合マルチフィラメント糸を含有する複合加工糸にある。
【0009】
また、本発明の第2の要旨は該複合加工糸を少なくとも35%以上含む織編物にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、清涼感あるドライな風合い、発色性及び光沢感、ストレッチ性に優れた複合糸加工糸及びそのストレッチ織編物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の複合加工糸は、単繊維の断面がセルローストリアセテートの間にセルロースジアセテートが挟まれた三層接合構造からなり、セルロースジアセテートの少なくとも一部が繊維の表面に露出し、且つ繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有するセルロースアセテート複合マルチフィラメント糸と、溶融粘度の異なる2種類のポリエステルポリマーがサイドバイサイド型に接合したポリエステル複合マルチフィラメント糸を含有することが必要である。
【0012】
該セルロースアセテート複合マルチフィラメント糸はセルローストリアセテートの間にセルロースジアセテートが挟まれた三層接合構造からなることが必要である。
【0013】
単なるジアセテートとトリアセテートの2層の接合構造では、ジアセテートが繊維表面に大きい比率で露出しているため、ポリエステル繊維と複合して高圧高温条件下で染色すると、ジアセテート成分が吐き出した染料がトリアセテート成分に染着しジアセテート成分は脱色すなわち淡色化してしまうことから、繊維束全体として濃色に見えないという問題がある。
【0014】
しかし本発明では、三層構造のうちジアセテートの少なくとも一部が繊維表面に露出しているため、セルロースジアセテート成分からの染料の吐き出しを抑制し、濃染化が可能となる。なお、セルロースジアセテート成分の繊維表面に露出している割合は、5%以上30%以下が好ましい。
【0015】
また本発明では、該セルロースアセテート複合マルチフィラメント糸の繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有することが必要である。これにより、ドライ感に優れた風合いが得られると共に、スキン層の配向度が低いことによる発色性向上の効果も得られる。
【0016】
さらに本発明では、繊維断面形状が二層分割されたトリアセテートの間にジアセテートが挟まれた三層接合構造とすることで、繊維断面がアセテート繊維特有の菊型断面とならず、繊維表面に不均一な畝上隆起部が発生しないことから、通常のアセテート繊維に比べ優れた光沢感、鮮明性が得られる。
【0017】
このようなセルロースアセテート複合マルチフィラメント糸の製造方法としては、公知の接合型複合紡糸装置を用いればよく、ジアセテートとトリアセテートの紡糸原液を三層の接合型に複合し、下式(1)〜(2)を満たす条件で乾式紡糸することで得られる。
【0018】
(1)0.15<Vf/Vj<0.60
(2)1000<Vj<2000
(式中、Vfは紡出糸の引き取り速度(m/分)、Vjは紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出線速度(m/分)。また、Vjは(紡糸原液の吐出量/紡糸口金の総孔面積)で定義する。)
すなわち、アセテートの乾式紡糸法において乾燥固化過程における収縮挙動が繊維軸方向により大きく発生するような条件を採用することが重要であり、紡糸ノズルの吐出直下で形成されるスキン層は配向が小さく、更なる乾燥収縮過程において繊維軸方向への収縮が進むにつれてスキン層が皺寄せされながら固化することにより、繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを発生させることが可能となる。
【0019】
上記(1)式でVf/Vj≧0.60及び(2)式でVj≦1000では、得られる複合繊維の軸方向への収縮挙動が得られず、繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダが発生しない。また、(1)式でVf/Vj≦0.15、(2)式でVj≧2000では安定した乾燥固化挙動が得られずに糸切れが発生する。
【0020】
なお、セルローストリアセテートとは、平均酢化度56.2以上62.5%未満のものをいい、セルロースジアセテートとは平均酢化度48.8以上56.2%未満のものをいう。また、どちらか一方に酸化チタン等の艶消し剤が添加されても良いが、より鮮明性を向上させるには添加しないことが望ましい。
【0021】
さらに本発明の複合加工糸は、該セルロースアセテート複合マルチフィラメント糸と、溶融粘度の異なる2種類のポリエステルポリマーがサイドバイサイド型に接合したポリエステル複合マルチフィラメント糸を含有することが必要である。該ポリエステル複合マルチフィラメント糸を含有することで、ストレッチ性を付与することが可能となる。
【0022】
該ポリエステル複合マルチフィラメント糸は、溶融粘度の異なる組合せであればどの様な組合せでも良く、同一ポリマー組成の組合せでも、異なるポリマーの組合せでも良い。
【0023】
なお本発明では、溶融粘度の異なる2種類のポリエステルポリマーのうち、溶融粘度の高い方のポリエステルポリマーAが、第三成分を5〜15モル%共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。第三成分が5モル%未満では捲縮発現力が充分ではなく、15モル%を超えると融点低下が著しく、複合紡糸の製造安定化が図りにくい。
【0024】
第三成分としては、テレフタル酸成分以外の芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸等の酸成分、エチレングリコール成分以外の脂肪族ジオール、脂環式ジオール、芳香族ジオール等のジオール成分が挙げられ、具体的にはイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−ブタンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスフェノールAエチレンオキシド付加物、スルフォイソフタル酸金属塩、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル] プロパン等が挙げられ、特にイソフタル酸、アジピン酸、スルフォイソフタル酸金属塩、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル] プロパンが好ましいものとして挙げられる。これらの第3成分を2種以上の組合せで共重合したポリエステルポリマーであっても良い。また溶融粘度の低いポリエステルポリマーBとしては、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0025】
また、該ポリエステル複合マルチフィラメント糸は、マルチフィラメントを構成する単繊維が繊維軸方向に太細斑を有し、マルチフィラメント繊維中の任意の断面における単繊維断面積の最小/最大比が1.4以上4.5以下であり、かつ糸条の太さ斑変動係数(CV)が0.30以上1.20以下であって、沸水処理により発現する捲縮の位相が単繊維間で揃っておらず、実質的にマルチフィラメント糸条としての一体化した螺旋状のリンプ形態を有さないことがさらに好適である。
【0026】
このようなポリエステル複合マルチフィラメント糸は、単繊維の繊維軸方向に太部と細部が混在することにより、繊維軸方向に配向差を有している。この配向差によって、仮撚、混繊、染色等の後加工の際に付与される熱により単繊維内に収縮差が生じ、これらの単繊維が集合したマルチフィラメント糸にさらに膨らみ感を与えることができ、また太部への染料吸尽が高いため発色性が向上することとなり、織編物とした場合、充分な膨らみ感と発色性を得ることができる。
【0027】
また、該ポリエステル複合マルチフィラメント糸中の任意の断面における単繊維断面積の最小/最大比が1.4以上4.5以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.7以上3.4以下が望ましい。単繊維断面積の最小/最大比が1.4未満であると、繊維長手方向での繊度の太細差が小さい事から、繊維配向斑に起因した収縮差や捲縮形態差を得がたく、4.5を超えると繊維長手方向での配向度差が大きすぎるために、太部と細部の伸度差が大きくなり、製織編や染色等の後加工の際の工程安定性も不良となりやすい。
【0028】
さらに、該ポリエステル複合マルチフィラメント糸の太さ斑変動係数(CV)は.30以上1.20以下、より好ましくは0.35以上1.0以下が望ましい。0.30未満ではマルチフィラメント繊維内の単繊維の太細差が小さくなり、繊維配向斑に起因した収縮差や捲縮形態差を得がたく、1.20を超えるとマルチフィラメント繊維長手方向での太細部が局在化して存在することとなり、後加工の際に付与される熱により、マルチフィラメント繊維の太部では著しい収縮に伴う粗野な風合いと、スラブ調の外観を呈してしまう事から、本発明の目的には適切ではない。
【0029】
さらに単繊維断面積の最小/最大比が1.4以上4.5以下でありかつ、太さ斑変動係数(CV)が0.30以上1.20以下であることで、単繊維の太細部における配向度の差が充分に存在しながら、マルチフィラメント糸条としては局在化せずに、高度に分散していることとなり、沸水処理により発現する捲縮が実質的にマルチフィラメント糸条としての一体化した螺旋状のクリンプ形態を有さず、単繊維毎に繊維長手方向で大きさの変化した捲縮でかつランダムなピッチで分散した捲縮、つまり位相が単繊維間で揃っていない捲縮が形成されるため、膨らみ感とストレッチ性を兼ね備える事が可能となる。
【0030】
なお、本発明で沸水処理により発現する捲縮の位相が単繊維間で揃っておらず、実質的にマルチフィラメント糸条としての一体化したクリンプ形態を有さないとは、沸水処理前の原糸の状態で初加重1.76×10−3cN/dtexを付与し、1cm間隔で印を付け、荷重を付与したまま沸水処理を10分おこない、濾紙上に平置きで風乾後、初加重1.76×10−3cN/dtexを付与した状態で吊るし捲縮形態を目視にて観察し、螺旋状クリンプ形態の長さ、個数を測定する。
【0031】
単繊維の太細部がマルチフィラメント糸条内部に局在化した状態では、大きな捲縮状態とマルチフィラメント糸条が一体化した螺旋状クリンプ形態を有する細かな捲縮状態を明瞭に観察する事ができる。本発明では、螺旋状クリンプ形態が沸水処理後の状態で3cm以下でありかつ3個/m以内であることが好ましい。この場合に単繊維の太細部がマルチフィラメント糸条内部に局在化せず高度に分散している状態になる。
【0032】
本発明のポリエステル複合マルチフィラメント糸の製造方法の一例を説明する。該ポリエステル複合マルチフィラメント糸は下記式(3)を満足するポリエステルAとポリエステルBとを、2500m/分以下の引き取り速度で紡糸したサイドバイサイド型に接合した複合繊維の未延伸糸を、下記式(4)〜(8)を満足する条件下で加熱ローラー延伸することが必要である。
【0033】
[η]A―[η]B >0.145 (3)
MDR×0.45 ≦DR1≦ MDR×0.65 (4)
1.000 ≦DR2 ≦ 1.300 (5)
DR1>DR2 (6)
Tg≦TDR1≦Tc (7)
Tg+20℃≦TDR2≦Tc (8)
(但し、式中[η]A、[η]Bはそれぞれのポリマーの固有粘度、MDRは延伸温度85℃における未延伸糸の最大倍率を示す。DR1、DR2は1段目及び2段目の延伸倍率、TDR1は1段目の延伸時のローラー温度、TDR2は2段目の延伸時の熱セット温度、Tgは未延伸糸のガラス転移温度(℃)、Tcは未延伸糸の結晶化温度(℃))
また本発明に用いる溶融粘度の異なる2種類のポリエステルポリマーA,Bの染色特性に関して特に限定はなく、同染色特性のポリマーの組合せや、或いはカチオン染料可染性ポリマーと非カチオン染料可染性ポリマー(一般の分散染料可染型ポリマー)等の異染性を有するポリマーの組合せ等目的に応じて選択すれば良いが、鮮明な発色が得られやすいカチオン染料可染性ポリマーをどちらか一方または両方のポリマーに用いることがより好ましい。
【0034】
なお、カチオン可染ポリエステルとしては、エチレンテレフタレートにナトリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸等の金属塩スルホネート基等の酸基含有エステル形成性化合物を共重合した変性ポリエステル、好ましくはエチレンテレフタレートに5−ナトリウムスルホイソフタ−ル酸を1.3〜3.5モル%共重合した変性ポリエステルが挙げられる。
【0035】
さらに、カチオン可染ポリエステルは、カチオン染料に対する易染性を向上させる目的で、エチレンテレフタレートにナトリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸等の金属塩スルホネート基等の酸基含有エステル形成性化合物以外の、その他共重合成分を共重合させた共重合ポリエステル、及びポリアルキレングリコール、アルキルスルホン酸、無機物等、少量のブレンド成分を含有するポリエステル混合物であってもよい。共重合成分としては、芳香族ジカルボン酸類、脂肪族ジカルボン酸類、脂肪族ジオール類、脂環式ジオール類、芳香族ジオール類を用いることができ、具体的にはイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−ブタンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物等を用いることができる。
【0036】
さらに本発明に用いる溶融粘度の異なる2種類のポリエステルポリマーA,Bの接合は、サイドバイサイド型の接合が好ましく、接合(重量)比率は30/70〜70/30、より好ましくは40/60〜60/40に接合されていることが良好なストレッチ性能を得る為に好ましい。
【0037】
また単繊維の繊維断面形状は特に限定されるものではなく、所望する織編物の風合いや光沢等の狙いによって丸型、三角型、多角型、マルチローバル型等いずれの断面形状でも任意選択すれば良く、また単繊維繊度は狙うべき張り腰反発感によって適宜選択すれば良く、張り腰反発感単繊維繊度が4デシテックスよりも大きいことが望ましい。
【0038】
本発明では、セルロースアセテート複合マルチフィラメント糸と、ポリエステル複合マルチフィラメント糸の複合比率は、該セルロースアセテート複合マルチフィラメント糸が30%〜90%であることが好ましく、望ましくは40〜75%が好ましい。30%未満の場合、ポリエステル繊維の割合が高く独特のぬめり感が強く影響するため、該セルロースアセテート複合マルチフィラメント糸の発色性や光沢感及びドライで清涼な風合いが得られがたい。90%を超える場合、織編物とした際にストレッチ特性、すなわち伸長率、伸長回復率等が不十分となり、また膨らみ感を得る事が難しい。
【0039】
また本発明の複合手法は適宜選択すれば良いが、合撚加工、混繊加工、仮撚複合加工、カバーリング加工等を任意選択すれば良く、更にこれらの加工糸に追撚を施す事が好適である。これらの加工条件は加工安定性や、狙うべき加工糸形態、トータル繊度(D)等を加味し行えばよいが、風合いやストレッチ性、膨らみ感を得る為には、5000×√D(T/m)以上25000×√D(T/m)以下が好ましく、更に好ましくは7000×√D(T/m)以上21000×√D(T/m)以下が望ましい。5000×√D(T/m)未満の場合、糸の自由度が大きくストレッチ性は得られるものの、撚糸効果の反発感や張腰感に乏しい。25000×√D(T/m)を超える場合では、撚糸効果が高すぎる為充分なストレッチ性や膨らみ感が得られにくいものとなる。
【0040】
また、他の繊維と混用してストレッチ織編物とする場合、本発明の複合加工糸を少なくとも35%以上好ましくは50%以上含むことが必要である。35%未満の場合、セルロースアセテート複合マルチフィラメント糸の発色性や光沢感及びドライで清涼な風合いとストレッチ性が得られがたいものとなる。
【0041】
織物とする場合、本発明の目的を達するためには該複合加工糸を経緯共に用いる事が最も望ましいが、経糸及び/又は緯糸の片方のみに本発明の複合加工糸を用いても良い。
なお本発明の織物の組織は、特に限定されるものではなく、平、綾、サテン、およびこれらの変化組織による織物が可能であり、目的の風合いや意匠性を考慮して選択すれば良い。また織密度は目的の伸縮特性、風合いを考慮して適宜設定すればよい。
【0042】
さらに本発明の織物は伸縮特性として、複合加工糸を用いた方向に伸長率10%以上50%以下、伸長回復率70%以上100%以下、好ましくは伸長率20%以上40%以下、伸長回復率80%以上100%以下が好ましい。伸長率10%未満の場合、織物のストレッチ性は充分でなく、50%を超える場合、衣料とした場合、寸法安定性に問題が生じやすい。また伸長回復率70%未満若しくは100%を超える場合は寸法安定性に問題が生じやすく、製品とした際の形態安定性が劣るものとなる。
【0043】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。なお各評価は以下の方法に従った。
(繊維表面及び繊維断面の観察)
セルロースアセテート複合マルチフィラメント糸の繊維表面は走査型電子顕微鏡で3000倍に拡大し観察を行った。三層複合形態の観察には以下に示す条件でアルカリ処理し、ジアセテート成分のみをセルロース化させることで、トリアセテート成分との光透過性に差を持たせ、繊維断面を光学顕微鏡にてセルロース成分、すなわち、ジアセテート成分が占める断面形状および繊維表面への露出状態の観察を行った。
【0044】
・アルカリ処理液:水酸化ナトリウム1質量%水溶液
・処理液浴比:1:100
・処理温度:60℃
・処理時間:15分
(単繊維断面積の比(太細比))
ポリエステル複合マルチフィラメント糸の長手方向の任意の位置で、光学顕微鏡により断面を観察し、単繊維断面積を測定し、最も太い部分と細い部分の断面積の比を求めた。
【0045】
(太さ斑変動係数(CV))
計測器工業(株)社製糸斑試験機KET80Cを使用し、糸速15m/分、レンジ±12.5%、ノーマルモード条件で測定した。
【0046】
(ポリエステルポリマーの固有粘度[η])
ポリマーをフェノールトテトラクロロエタンの1:1混合溶媒に溶解し、ウベローデ粘度計を用い25℃で測定した。
【実施例1】
【0047】
外側層成分として水酸基の97%が酢化されているセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合(質量混合比91/9)溶剤に溶解し、固形分濃度が22.0質量%の紡糸原液aを調製した。また、中間層成分として水酸基の80.3%が酢化されているセルロースジアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合(質量混合比88/12)溶剤に溶解し、固形分濃度が22.1質量%の紡糸原液bを調製した。
【0048】
前記2種の紡糸原液を用いて、ノズル孔形状が円形、ノズル孔径が0.026mm、ノズル孔数20の複合紡糸ノズルにて、中間層の占める割合を20容量%とし、かつ、中間層がセルロースジアセテート、外側層がセルローストリアセテートになるように配し、紡糸速度600m/分で乾式複合紡糸し、Vf/Vj=0.30、Vj=1700m/分とし、84dtex/20フィラメントの中間層がセルロースジアセテート、両外側層がセルローストリアセテートの三層接合型のセルロースアセテート複合繊維を得た。
【0049】
該繊維表面には、アセテート繊維特有のいわゆる菊型断面に起因する繊維軸方向への凹凸状のヒダがなく、さらに、繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有しており、アルカリ処理後の繊維断面にはジアセテートの一部が繊維表面に露出していた。
【0050】
該アセテート繊維からなる編地は、アセテート繊維特有のドライな清涼感を有しており、上品な光沢感に優れていた。
【0051】
一方、5−ナトリウムスルフォイソフタル酸8.0モル%をポリエチレンテレフタレートに共重合した固有粘度が0.647の共重合ポリエステルをポリマー(A)、固有粘度が0.484のポリエチレンテレフタレートをポリマー(B)とし、紡糸温度290℃で各成分の溶融流を紡糸口金の上流部で面対称に合流させ、接合比(重量)50:50で吐出孔より紡出し、冷却、オイリング後、巻き取り速度2100m/分で115dtex/12フィラメントの複合紡糸未延伸糸を得、延伸倍率2.03倍で延伸し56dtex/12フィラメントのサイドバイサイド型に接合したポリエステル複合マルチフィラメント延伸糸を得た。
【0052】
次いで三層接合型のセルロースアセテート複合繊維と、サイドバイサイド型に接合したポリエステル複合マルチフィラメント延伸糸を、撚係数13500(撚数1200T/mS方向(及びZ方向))に合撚を行い、スチームセット温度80℃×40分の条件でセットを施し、本発明の複合加工糸を得た。
【0053】
この合撚複合糸をS(Z)2本交互で経147本/2.54cm、緯95本/2.54cmの平二重織物を製織し、常法に従い以下の条件で精練、110℃リラックス、120℃の染色仕上げ加工を行い、経206本/2.54cm、緯112本/2.54cmの本発明の織物を得た。
【0054】
・精練
精錬剤:スコアロール900(花王(株)製)0.2質量%水溶液
浴比:1:100、80℃×30分
・染色
染料:Dianix Black TAN(三菱化成ヘキスト社製)6質量%対繊維質量
染色助剤:DISPER TL(明成化学(株)製)0.5g/リットル、URTRA MT−N2(大和化学(株)製)0.5g/リットル
染色温度:120℃×60分
・還元洗浄
ハイドロサルファイト(関東化学(株)製)1g/リットル
無水炭酸ナトリウム(関東化学(株)製)1g/リットル
メイサノールBHS NEW(明成化学(株)製)2g/リットル
60℃×15分
得られた織物をハンドリングにより風合評価した結果、反発感、膨らみ感、張腰感を有し、アセテート繊維特有のドライな清涼感を有しており、上品な光沢感に優れていた。本発明の織物の伸縮特性は、経方向について伸長率16.5%、伸長回復率82%、緯方向について伸長率24.5%、伸長回復率80%であるストレッチ性を有していた。
【0055】
(比較例1)
実施例1において、ノズル孔形状が円形、ノズル孔径が0.038mm、ノズル孔数20の複合紡糸ノズルにて、中間層の占める割合を20容量%とし、かつ、中間層がセルロースジアセテート、外側層がセルローストリアセテートになるように配し、紡糸速度600m/分で乾式複合紡糸し、Vf/Vj=0.75、Vj=800m/分とし、84dtex/20フィラメントの中間層がセルロースジアセテート、両外側層がセルローストリアセテートの三層接合型のセルロースアセテート複合繊維を得る以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0056】
該セルロースアセテート複合繊維の表面には、繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダが発現せず、滑らかな繊維表面を有していた。このため得られた織物をハンドリングにより風合評価した結果、反発感、膨らみ感、張腰感を有するもの、光沢感を強く有するものであり、セルロースアセテート特有のドライな風合いが不十分であった。
【実施例2】
【0057】
巻き取り速度を変更した以外は、実施例1と同様の条件で92dtex/12フィラメントのポリエステル複合紡糸未延伸糸を得、以下の条件で延伸を行い、56dtex/12フィラメントのサイドバイサイド型に接合した太細ポリエステル複合マルチフィラメント延伸糸を得たこのマルチフィラメントの太細比は1.42、変動係数CVは0.53、湿熱処理にてマルチフィラメントとして全体的に分散した捲縮であり、収束した細かな捲縮状態は1〜2cmの長さで3個/m程度存在するものであった。(最大延伸倍率:MDR 2.95、DR1:1.63倍、DR2:1.12、TDR1:95℃、TDR2:120℃、Tg:70℃、Tc:145℃)
この太細ポリエステル複合マルチフィラメント延伸糸と実施例1のセルロースアセテート複合繊維を1:1の供給量でインターレース混繊後、撚係数13500(撚数1200T/mS方向(及びZ方向))に合撚を行い、スチームセット温度80℃×40分の条件でセットを施し、本発明のセルロースアセテート複合加工糸を得た以外は実施例1と同様にして織物を得た。
【0058】
得られた織物をハンドリングにより風合いを評価した結果、特に膨らみ感にすぐれ、反発感、張腰感を有しつつ、アセテート繊維特有のドライな清涼感を有しており、上品な光沢感が優れていた。本発明の織物の伸縮特性は、経方向について伸長率13.0%、伸長回復率85%、緯方向について伸長率20.5%、伸長回復率85%であるストレッチ性を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維の断面がセルローストリアセテートの間にセルロースジアセテートが挟まれた三層接合構造からなり、セルロースジアセテートの少なくとも一部が繊維の表面に露出し、且つ繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有するセルロースアセテート複合マルチフィラメント糸と、溶融粘度の異なる2種類のポリエステルポリマーがサイドバイサイド型に接合したポリエステル複合マルチフィラメント糸を含有する複合加工糸。
【請求項2】
請求項1記載の複合加工糸を35%以上含む織編物。
【請求項3】
請求項1記載の複合加工糸を経糸及び/又は緯糸に用いた織物であって、該複合加工糸を用いた方向に伸長率10〜50%、伸長回復率70〜100%を満足する請求項2記載の織物。

【公開番号】特開2006−249585(P2006−249585A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64186(P2005−64186)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】