説明

複合加工糸

【課題】軽量性、吸湿性、吸水性、寸法安定性に優れ、ソフトな清涼感を有し、イラツキ感や杢感のない布帛製品を提供でき、インナー、スポーツ衣料品などに幅広く活用できる複合加工糸を提供する。
【解決手段】ポリアミドマルチフィラメントとポリプロピレンマルチフィラメントが芯鞘型に配置された複合加工糸であって、該ポリアミドマルチフィラメントの複合比率が10wt%〜70wt%であり、かつ該ポリアミドマルチフィラメントがポリアミドに対しポリビニルピロリドンを3〜15wt%含有することを特徴とする複合加工糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドマルチフィラメントとポリプロピレンマルチフィラメントとを芯鞘型に配置した複合加工糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、インナー、スポーツウェアなどの汗処理性を求められる衣料分野では、吸汗作用の良い、綿、麻、レーヨン、キュプラなどの親水性繊維、またはポリエステルなどの疎水性繊維に吸水性を付与した繊維が用いられてきた。
【0003】
しかし、前者の親水性繊維のみを用いた布帛は、吸汗性、熱の放散性は良好であるものの、水分の保持性が大きいため、発汗量の大きい夏期などにこれを衣服として用いた場合には、べとつきや蒸れが生じるという問題があった。また、後者の疎水性繊維に吸水性を付与した繊維を用いた布帛は、繊維自身は水を保持しないため吸汗量が充分でなく、衣服として着用した場合には、衣服と体の間に汗が残ってしまうという問題があった。
【0004】
これらの問題を解決するために、前者と後者を複合した繊維およびこれら繊維と一般的な合成繊維各種とを複合した機能性複合繊維が提供されてきた。例えば、特許文献1および特許文献2には、2層以上の多層構造糸で鞘部に疎水性繊維、芯部または中間部の少なくとも一部がセルロースマルチフィラメント繊維およびリヨセル繊維で構成されている複合加工糸がそれぞれ提案されている。
【0005】
これらは、鞘部が疎水性繊維のため水分が吸水性に優れている芯部のセルロース繊維およびリヨセル繊維に移行し、さらに吸水率の差で水分を芯部に保持することができ、べとつき感を改善できるというものである。しかし、セルロース繊維、リヨセル繊維とも親水性のため、マルチフィラメントの拡散性があるにしろ、夏場、激しい運動時など、多量発汗時には、繊維の吸水量が多く、速乾性が悪いため、べとつき感が発生する。さらに肌表面に疎水性の合繊繊維が接するために、天然繊維に比べソフト感に劣り、サラサラ感はあるものの、粗硬感があり肌触りが悪いという問題もあった。また、セルロース繊維およびリヨセル繊維を使用すると、吸水、吸湿性は向上するものの、周知の通りコストが高くなり、製品の値段が高くなるという消費者に対して最も大きな問題があった。
【0006】
また、鞘部にポリアミドとポリプロピレンの混合物、芯部にポリプロピレンを用いた芯鞘型複合繊維が特許文献3に提案されている。吸湿性のないポリプロピレンの欠点を補うために鞘部に親水性のポリアミドとポリプロピレンの混合物を配したものであるが、吸湿性も染色性もまだ不充分であった。
【特許文献1】特開平10−25637号公報
【特許文献2】特開平10−25638号公報
【特許文献3】特開昭60−81316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、従来得られなかった、ソフトな清涼感および軽量性、吸湿性、吸水性、速汗性、寸法安定性、染色性に優れた布帛製品を提供でき、インナー、スポーツ衣料品などに幅広く活用できる複合加工糸を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の加工糸は上記の課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、
[1]ポリアミドマルチフィラメントとポリプロピレンマルチフィラメントが芯鞘型に配置された複合加工糸であって、該ポリアミドマルチフィラメントの複合比率が10wt%〜70wt%であり、かつ該ポリアミドマルチフィラメントがポリアミドに対しポリビニルピロリドンを3〜15wt%含有することを特徴とする複合加工糸。
【0009】
[2]前記ポリアミドマルチフィラメント及び前記ポリプロピレンマルチフィラメントが染色されたものであり、かつ両者の染色差が下記の式で表されることを特徴とする[1]に記載の複合加工糸。
ΔE*ab<3.0
[3]前記ポリアミドマルチフィラメントの染色前の黄色度が10以下であり、かつ水溶性成分の溶出率が5%以下であることを特徴とする[1]または[2]のいずれかに記載の複合加工糸。
【0010】
[4]流体噴射加工が施されていることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の複合加工糸。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軽量性、吸湿性、吸水性、寸法安定性、染色性に優れ、ソフトな清涼感を有する布帛製品を提供でき、さらにはコスト面にも優れ、インナー、スポーツ衣料品などに幅広く活用できる素材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0013】
本発明は、ポリアミドマルチフィラメントとポリプロピレンマルチフィラメントが芯鞘型に配置された複合加工糸であって、前記ポリアミドマルチフィラメントの複合比率が10wt%〜70wt%であることが重要である。ポリアミドとポリプロピレンを用いることで、ソフトかつ軽量性のある布帛を得ることが可能となる。ポリアミドマルチフィラメントが10wt%以下では、ソフト感がなく、風合いも粗悪な布帛となる。また、70wt%以上であると、軽量感がなく、単なるナイロン素材と区別のつかないものとなる。よって、ポリアミドマルチフィラメントの複合比率は、10wt%〜70wt%であることが必要である。
【0014】
本発明では、ポリアミドマルチフィラメントに用いるポリアミドとしては、ナイロン6やナイロン66などの公知のポリアミドを用いることができる。さらには、ポリアミドに対しポリビニルピロリドン(以下PVPともいう)を3〜15wt%の量で含有するポリアミドマルチフィラメントであることが好ましい。
【0015】
本発明で用いるポリアミドマルチフィラメントには、所望の高吸湿特性を繊維に付与するために、PVPをポリアミドに対し3〜15wt%含有させることが重要であり、特に4〜8wt%が好ましい。PVPの含有率が3wt%未満と少な過ぎると十分な吸湿性が得られない。また15wt%を超える程に多過ぎるとべたつき感が発現し感触不良となり、しかも、製糸性が不良となって安定して製糸することができなくなる。
【0016】
また、PVP中のピロリドンの含有率はPVP量の0.1wt%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.05wt%以下であり、さらに好ましくは0.03wt%以下である。ピロリドンの含有率が上記の範囲内にある場合は、ポリアミド繊維の染色前の黄色度を10以下とすることができる。染色前の黄色度が10を超えると、染色後の色調にくすみ感が出てしまい、衣料用に適した色調良好な繊維が得られない。すなわち、染色前のポリアミド繊維やその布帛の黄色度が10以下であると、染色後の色調にくすみ感がなく、色調良好で高級感のある布帛が得られるのである。
【0017】
本発明で用いるピロリドン含有率0.1wt%以下のPVPはイソプロピルアルコールを重合時溶媒として用いる方法によって製造することができる。また、その際、重合開始剤として過酸化水素系の触媒を含まないことが、黄色度の原因となる副生物のピロリドンの発生を抑制するために好ましい。その他の条件は通常の複合方法を採用すればよい。
【0018】
また、本発明で用いるポリアミドフィラメントは水溶成分の溶出率が5%以下であることが好ましく、特に3%以下がより好ましい。この溶出率は、後述するように、本発明で用いるポリアミドフィラメントを沸騰水中で30分間処理した際の重量変化率から求めた水溶性成分溶出率の値である。
【0019】
PVPは極めて水溶性が高いので、ポリマー中に含有させた後でも、ポリマー表面へブリードアウトし易い性質を持っている。また、副生物のピロリドンも極めて水溶性が高く、同様にブリードアウトし易い。
【0020】
したがって、PVPの含有による高吸湿性ポリアミド繊維では、その中に含有するPVPやピロリドンの溶出を抑えることが、吸湿特性の保持、および良好な繊維風合いや感触の保持の点で好ましい。例えば、溶出率が5%以下のポリアミド繊維では、繊維製品とした後の着用時にPVPが繊維表面に実質的に析出せず、しなやかな風合いとなめらかな感触の点で極めて良好なものとなる。
【0021】
溶出率を所望の低水準とするためにはPVPとナイロンポリマーとの分子鎖の絡み合いを強くする手段をとることが好ましい。例えば、PVPをエクストルーダーによりポリアミド中に練り込みマスタポリマーとする方法が、ポリアミド分子鎖とPVP分子鎖の絡み合いを強くすることができ好ましいものである。
【0022】
その練り込みは低い酸素濃度の条件下での練り込み法により行うことが紡糸時の糸切れを低減させるために好ましい。これに対し、大気中の酸素濃度(約20%)と同水準あるいはそれ以上の高い酸素濃度の環境下で練り込みをしたマスタポリマーを用いる場合は、紡糸時の糸切れが多発し、安定した生産が困難となる。その低酸素濃度の水準は、例えば15%以下、好ましくは10%以下であれば良くそのためには窒素のごとき不活性気体をホッパーやシリンダーに流して酸素濃度を低減させる方法をとれば良い。
【0023】
マスタポリマー中のPVPの練り込み濃度は10〜15wt%とする。10wt%未満ではマスタポリマーの本来の効果が奏し難しく生産性が劣る。15wt%を超えると安定して練り込むことが困難である。
【0024】
このようにして得られたPVP含有ポリアミドマスタポリマーをチップとし、実質的にPVP無添加のポリアミドチップとチップブレンドされて濃度調整するチップブレンド法によって濃度調整された後に溶融紡糸に供給され、本発明に用いるPVPを含有するポリアミドマルチフィラメントが提供される。ここで、通常のポリアミドマルチフィラメントの紡糸速度と同じ速度で生産できる利点により、低速でしか生産できないセルロース繊維に比べ、大幅に安い値段になる。
【0025】
次に、ポリアミドマルチフィラメントとポリプロピレンマルチフィラメントの染色差ΔE*ab が3.0以下であることが必要である。ポリアミドとポリプロピレンの染色差ΔE*ab が3.0以上であると、人の目においても、はっきりと区別できるため、布帛においても、イラツキ感や杢感となるため、その用途が限定される。よって、ΔE*ab は3.0以下が好ましく、より好ましくは、1.5以下である。なお、本発明において染色差ΔE*abは、次のようにして測定する。すなわち、混繊前の状態でのポリアミドフィラメント、ポリプロピレンフィラメントを27ゲージ筒編み試料を作製する。得られた布帛をミノルタ(株)製[CM−3600d]により、同測定器所定の方法にて3刺激値L*,a*,b*を測定した。測定は、ポリアミド側の染色箇所(L1*,a1*,b1*)とポリプロピレン側の染色箇所(L2*,a2*,b2*)を測定し、下記式により染色差(ΔE*ab)を求めた。
ΔE*ab=√{(L1*−L2*)+(a1*−a2*)+(b1*−b2*)2
ポリアミドマルチフィラメントとポリプロピレンマルチフィラメントの染色差を近似させる方法として、ポリプロピレンポリマーに顔料もしくは染料を練り込む方法や、染色加工、プリント染色が可能な改質型ポリプロピレンを使用する方法などがある。顔料は有機物、無機物のどちらでも差し支えないが一般的にはカーボンブラック、ベンガラ、フタロシアニン系の顔料が好ましく用いられる。ポリプロピレンを染色させる方法としては、特に限定されたものではないが、ポリプロピレンに非結晶機能性高分子および準結晶機能性高分子を混合させる方法などがある。非結晶機能性高分子としては、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、レゾシノール、ヒドロキノンなど、準結晶機能性高分子としては、エチレンビニルアルコール共重合体、アクリル系共重合体、ポリエステル系共重合体などが挙げられる。染色加工、プリント染色が可能な改質型ポリプロピレンとして、例えば、東洋産業(岐阜県安八郡)製可染型ポリプロピレン“ポレフィン”がある。
【0026】
次に本発明の複合化加工糸の繊度、また本発明に用いるポリアミドマルチフィラメントおよびポリプロピレンマルチフィラメントの繊度、単繊維繊度、フィラメント数は、特に限定されたものではないが以下の条件を満たしていることが好ましい。
【0027】
本発明の複合加工糸の繊度としては、40〜220dtexまでが好ましい。インナー、スポーツ衣料品などの衣料分野で要求される生地の厚みを満たす本発明の複合加工糸の繊度は、布帛が一層の場合は120〜180dtexがより好ましく、2層の場合は40〜110dtexがより好ましい。また、綿等、他の繊維と交編する場合には、その繊維の機能および太さによって、本発明の複合加工糸を多少太くしたり、細くしても良い。
【0028】
ポリアミドマルチフィラメントとポリプロピレンマルチフィラメントのそれぞれの繊度については、複合加工後に上記繊度の範囲を満たせば良く、ポリアミドマルチフィラメントの含有比率が10wt%〜70wt%であることが好ましく、より好ましくは30wt%〜60wt%の範囲が好ましい。含有比率が大き過ぎると、ポリプロピレンマルチフィラメントの含有比率が小さくなり、寸法安定性が低下し、軽量感のないものとなる。また、ポリアミドマルチフィラメントの含有比率が小さ過ぎるとポリアミドマルチフィラメントに含まれるPVPの含有比率が小さくなり、十分な吸湿性がなく、ソフト感のないものとなる。
【0029】
ポリプロピレンマルチフィラメントの断面形状については、特に限定されるものではないが、3葉以上の多葉断面、好ましくは3、4、5、6葉断面などのように丸型断面より表面積が大きくなる異形断面形状の方が、繊維間に微細な空隙を多数形成するため毛細管現象による吸水力が増しより好ましい。なお、異形断面としてはY、W、C、H、X等でもよい。また、繊維間に微細な空隙を多数作り出す、丸型と異形断面を組み合わせたマルチフィラメントでも良い。ポリプロピレンマルチフィラメントの単繊維繊度は0.5〜10dtexであることが好ましく、より好ましくは0.8〜5dtexである。単繊維繊度が細すぎると、毛細管現象により吸い上げた水が繊維間に溜まってしまい、べとつき感になったり、速乾性、吸水性が低下する。また、単繊維繊度が太すぎると、繊維間の空隙が大きくるため、十分な毛細管現象が得られず、吸水性が低下する。
【0030】
ポリアミドマルチフィラメントの単繊維繊度および断面形状はポリプロピレンマルチフィラメントと同様、単繊維繊度は0.5〜10dtex、断面形状はY、W、C、H、Xなどのように丸型断面よりも表面積が大きい形状の方が好ましい。
【0031】
本発明の複合加工糸は、芯部と鞘部が完全に分離・独立している必要はなく、各部を構成する糸条の単繊維と部分的に混ざっていても、また多少逆転していても構わないものである。ポリアミドが鞘部にある場合には、十分な吸湿性を得るためのみならず、PVPには肌触りをソフトにする効果があるため、得られた布帛は清涼感、吸湿感のあるソフトな風合いとなる。一方、ポリプロピレンが鞘部にある場合には、ポリアミド独特のヌメリ感が少ない、速乾性のあるサラリとした風合いとなる。
【0032】
本発明の複合加工糸は、特に限定されるものではないが、流体噴射ノズルを用いた流体噴射加工方法により、2種類の異なるフィラメントにフィード差を付けて送り出すことにより一方が他方に巻き付きカバーするような状態となり層構造をなす。流体噴射加工は2種の糸条が芯部、鞘部にそれぞれ配置されやすく、また、鞘部の糸条はループ形成することから、編物等の布帛にした際の風合い向上にもつながる。また、他の製造方法としては、流体噴射加工後に仮撚加工を行う、複合仮撚加工により、それぞれの捲縮度合いによって一方のフィラメントが他方を覆うような構造をとり、その結果層構造を構成するものや、一方のみを仮撚し、仮撚しないもう一方の繊維と流体噴射加工により複合繊維とする方法などもある。また、カバーリング機を用いたカバーリング方法等がある。
【0033】
本発明の複合加工糸はこのようなフィラメントの組み合わせにより、吸水性、吸湿水性および速乾性に優れ、かつPVPの作用により清涼感を有するソフトな肌触り、さらにはセルロース繊維を用いた場合に比べ、大幅にコストダウンになるため、スポーツ、インナーなどの分野で広く活用できる素材を提供することができる。
【0034】
なお、本発明における各種特性値は次の方法で測定するものである。
【0035】
(1)ピロリドン含有率
繊維試料100mgにヘキサフルオロイソプロパノール3mlとクロロホルム1mlとを加え、繊維を溶解した。得られた溶液に、エタノールを加えてポリマ成分を再沈させ20mlに定溶した。溶液成分を定法によりガスクロマトグラム分析を行う。装置はGC14A(島津製作所製)、カラムはNB−1(15m)を使用する。ピロリドンの定量にはバレロラクタムの検量線をあらかじめ作成し、用いる。下記式によりピロリドン含有率を求める。
ピロリドン含有率(wt%)=
[(GCピーク面積/検量線係数)(mg/ml)×溶液量(ml)/試料量(mg)]×100
(2)溶出率
ポリアミドフィラメントを110℃で8時間乾燥した後、重量を測定する。その後、沸騰水で30分間処理した後、再度110℃で8時間乾燥し、処理前後の重量減少率を溶出率とする。
【0036】
(3)黄色度
27Gの筒編み機により、編み密度45本/インチの筒編地を作成する。得られた布帛をミノルタ(株)製[CM−3600d]により、同測定器所定の方法にて3刺激値L*,a*,b*を測定し、下記式により黄色度(YI)を求めた。
【0037】
(4)最高吸湿率と標準吸湿率との差(ΔMR(%))
試験対象とする糸条の27ゲージ筒編み試料を作製する。作製した試料を精練し、油剤を除去した後、その約1gをガラス秤量瓶(風袋重量F)にいれ、乾燥機中110℃2時間の条件で乾燥する。ガラス秤量瓶を密封し、デシケータ中で30分間放冷した後、試料の入ったガラス秤量の総重量(K)を測定する。次に、20℃65%RHに設定された恒温恒湿槽((株)田葉井製作所製の恒温恒湿槽“レインボー”)に秤量ビンを開放状態で入れ、24時間放置する。その後再び密封状態でデシケーター30分間放置後、試料の入った秤量瓶の重量(H)を測定する。引続き、30℃90%RHに設定された恒温恒湿槽に開放状態にした秤量瓶を入れ、24時間後の総重量(S)を同様に測定する。以上の各値から下記式により算出する。
最高吸湿率=[(S−K)/(K−F)]×100(%)
標準吸湿率=[(H−K)/(K−F)]×100(%)
ΔMR=最高吸湿率−標準吸湿率
ΔMR≧2.0以上で、インナーとして快適と感じる、十分な吸湿性を有すると判断される。
【0038】
(5)乾燥時間
試験対象とする糸条の27ゲージ筒編み試料を作製する。作製した試料を精練し、油剤を除去した後、20℃×65%RHに設定された恒温恒湿槽に開放状態で48時間放置し、乾燥させる。その後、幅40cm×長さ40cmの試験片を5枚採取する。試験片が完全に水中に浸るように沈め、10分間放置する。その後、家庭用洗濯機の脱水装置により30秒脱水する。脱水後、試料の重量を測定し、WT0とする。この後、20℃×65%RHに設定された恒温恒湿槽に試験片をしわのないように均一に広がるように洗濯ばさみでつるし、放置する。その後5分毎に測定していく。この時の試験片の重量をWTm(m:放置時間)とすると、
水分率=(WTm−WT0)×100
が5%以下になるまでにかかる時間を求める。5枚の試料が乾燥するのにかかった時間の平均値を乾燥時間とする。
【0039】
(6)染色差ΔE*ab
混繊前の状態でのポリアミドフィラメント、ポリプロピレンフィラメントを27ゲージ筒編み試料を作製する。得られた布帛をミノルタ(株)製[CM−3600d]により、同測定器所定の方法にて3刺激値L*,a*,b*を測定した。測定は、ポリアミド側の染色箇所(L1*,a1*,b1*)とポリプロピレン側の染色箇所(L2*,a2*,b2*)を測定し、下記式により染色差(ΔE*ab)を求めた。
ΔE*ab=√{(L1*−L2*)+(a1*−a2*)+(b1*−b2*)2
(7)蒸れ感、べとつき感
25℃65%RHに調温調湿された部屋内で、Tシャツに縫製したサンプルを被験者20名が試験し、それぞれ4段階(むれ感やべとつき感を感じる0点、少し感じる2点、あまり感じない4点、全く感じない5点)でもって評価した。
着用者のタイムスケジュール; 20分:安静状態→ 10分:歩行(ランニング機械使用、100m/分)→ 10分:安静状態で評価
(8)風合い
上記(7)項と同様に被験者20名が試験し、20分安静後の風合いについてそれぞれ4段階(サラサラかつソフト5点、サラサラあるいはソフトの片方のみ2.5点、着心地が悪い0点)でもって評価した。
【実施例】
【0040】
(実施例1〜3)
(1)ポリアミドマルチフィラメント
PVPとして、イソプロピルアルコールを溶媒として通常の方法で合成されたPVP(BASF社製“ルビスコール”K30スペシャルグレード:以下K30SPと略記する)を用いた。このPVP(K30SP)中のピロリドン含有量は0.02wt%であった。このPVPをエクストルーダー(φ40mm、2条、2軸)を用いて、98%硫酸相対粘度ηr が2.72のナイロン6に練り混み、ガット状に押し出し、冷却後にペレタイズすることで、PVP濃度30wt%のマスタポリマチップとした。
【0041】
回転式真空乾燥機中で、ナイロン6チップと上記マスタポリマチップとを所定の割合でブレンドしながら通常の方法で乾燥した。乾燥して得られたブレンドチップにおけるナイロン6に対するPVPの含有率は、6wt%とした。
【0042】
得られたポリマーを直接紡糸延伸法により製糸して、丸断面で、44デシッテクス34フィラメント、88デシテックス68フィラメントのPVP含有ポリアミドマルチフィラメント延伸糸を得た。44デシテックスの延伸糸では、黄色度が7.9、水溶性成分溶出率が1.3とともに十分に低く、ΔMRも3.8であり、88デシテックスの延伸糸は、黄色度が8.3、水溶性成分溶出率も1.4と、ともに十分に低く、ΔMRも3.6と高い値になった。
【0043】
(2)ポリプロピレンマルチフィラメント
ポリプロピレンマルチフィラメントは、84デシッテクス、36フィラメントで丸断面の延伸糸(東洋産業(岐阜県安八郡)製可染型ポリプロピレン“ポレフィン”)を使用した。
【0044】
(3)流体噴射加工
図1に示す流体噴射加工工程において、ポリアミドマルチフィラメントを鞘糸側給糸B、ポリプロピレンマルチフィラメントを芯糸側給糸Cとし、それぞれフィードローラ1および2を介して、4の流体乱流ノズルに送り込み混繊させる。この時、より密に混繊させるために、芯糸側のポリプロピレンマルチフィラメントに、水付与ガイド3を用いて、水を付与する。その後デリベリローラ5とフィードローラ7の間で、ヒータ6を用いてループセットした後、テイクアップローラ8に巻き取る。条件の詳細は表1の通りである。
【0045】
次に、該加工糸を実施例1及び2に関しては、32Gシングル編機、実施例3に関しては26Gシングル編機で天竺編地を作製し、98℃の浴槽でリラックス精練し、120℃のテンターでセット後、酸性染料で98℃で染色し、120℃でセットした。表1に布帛の物性を示す。優れた吸水性および速乾性を有しており、かつ快適性の基準となるΔMR2.0%以上もクリアーしている。また、その効果として、触感試験により、濡れ・べとつき感および肌触りの風合いにおいて、スポーツ、インナー素材として好適な結果を得ていることが分かる。
【0046】
(実施例4)
(1)ポリアミドマルチフィラメント
実施例1と同様に丸断面44デシテックス34フィラメント延伸糸を用いた。
(2)ポリプロピレンマルチフィラメント
実施例1と同様のポリプロピレンマルチフィラメント(84デシテックス36フィラメント延伸糸)を使用した。
(3)流体噴射加工
実施例1〜3と同様の加工方法において、ポリアミドマルチフィラメントを芯糸、ポリプロピレンマルチフィラメントを鞘糸に使用した。作成した加工糸を32Gシングル編機にて布帛を作成し、実施例1〜3と同様の方法で染色、評価を行った。条件の詳細は表1に示す。優れた吸水性及び速乾性を有しており、かつ快適性の基準となるΔMR2.0%以上もクリアーしている。
【0047】
(実施例5)
(1)ポリアミドマルチフィラメント
実施例1と同様に丸断面44デシテックス34フィラメント延伸糸を用いた。
(2)ポリプロピレンマルチフィラメント
実施例1と同様に、84デシテックス36フィラメントを使用した。
(3)流体噴射加工
図2に示す流体噴射加工工程において、ポリアミドマルチフィラメントに仮撚加工を加え、鞘糸側給糸B、ポリプロピレンマルチフィラメントを芯糸側給糸Cとし、それぞれフィードローラ1および2を介して、4の流体乱流ノズルに送り込み混繊させた。条件の詳細は表1の通りである。
作成した加工糸を32Gシングル編機にて布帛を作成し、実施例1〜3と同様の方法で染色、評価を行った。表1に得られた布帛の物性を示す。優れた吸水性および速乾性を有しており、かつ快適性の基準となるΔMR2.0%以上もクリアーしている。
【0048】
(比較例1)
84デシッテクス33フィラメントのレーヨン糸を芯糸側給糸、84デシテックス36フィラメントのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント延伸糸を鞘糸側給糸として、実施例1と同条件で加工した(表1に示す)。この複合加工糸について、28Gシングル編機にて布帛を作成し、実施例と同様の方法で染色、仕上げ加工を実施した。
【0049】
表1により、吸水性および吸湿性には優れるものの、速乾性に劣った結果となった。さらに、被着試験では、多量発汗後不快感を感じる結果となっている。
【0050】
(比較例2)
実施例1と同様のポリプロピレン84デシテックス36フィラメントを使用し、これを2本合糸仮撚することにより、繊度169デシテックスの加工糸を得た。得られた加工糸を、28Gシングル編機にて布帛を作成し、これを実施例と同条件にて染色仕上げを行った。表1に示すように、得られた布帛は、吸湿性やソフト感がない布帛であった。
【0051】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の加工糸を得るための加工工程の一例である。
【図2】本発明の加工糸を得るための加工工程の一例である。
【符号の説明】
【0053】
A:単糸断面積
S:隣接する突起部を接線で結んでできる点線で結んだ矩形型面積
θ:対抗する突起部の頂点を結んだ2本の線の交差角の大きい方の交差角度
B:鞘糸
C:芯糸
1:フィードローラ
2:フィードローラ
3:水付与ガイド
4:流体噴射ノズル
5:デリベリローラ
6:チューブヒータ
7:フィードローラ
8:テイクアップローラ
9:フィードローラ
10:フィードローラ
11:仮撚ツイスター
12:ドローローラ
13:流体噴射ノズル
14:デリベリローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドマルチフィラメントとポリプロピレンマルチフィラメントが芯鞘型に配置された複合加工糸であって、該ポリアミドマルチフィラメントの複合比率が10wt%〜70wt%であり、かつ該ポリアミドマルチフィラメントがポリアミドに対しポリビニルピロリドンを3〜15wt%含有することを特徴とする複合加工糸。
【請求項2】
前記ポリアミドマルチフィラメント及び前記ポリプロピレンマルチフィラメントが染色されたものであり、かつ両者の染色差が下記の式で表されることを特徴とする請求項1に記載の複合加工糸。
ΔE*ab<3.0
【請求項3】
前記ポリアミドマルチフィラメントの染色前の黄色度が10以下であり、かつ水溶性成分の溶出率が5%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合加工糸。
【請求項4】
流体噴射加工が施されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合加工糸。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−126768(P2007−126768A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319187(P2005−319187)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】