説明

複合化光触媒による水浄化技術

【課題】二酸化チタンの分散触媒を用いた水処理装置において、水中の有機不純物を分解する光触媒反応の効率と、ハイドロサイクロンによる固液分離の効率を両立させること。
【解決手段】二酸化チタン超微粒子23は石英から成る担持微粒子21の表面上に固定化することにより複合化されているため、ハイドロサイクロンを用いて複合化二酸化チタンの大部分を水中から再利用できる形で回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の浄化技術に関する。より詳しくは、被処理水の中に含まれる汚染物質を、二酸化チタン光触媒によって分解し処理する水処理装置及び水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業、農業及び人間の生活によって排水される種々の汚染水の浄化処理や、あるいは産業や医療に用いられる純水の製造過程に用いられる水処理過程では、水中に含まれる微生物や有機不純物を殺菌又は分解する必要がある。具体的な水処理技術としては、オゾン、過酸化水素と紫外光、紫外線のみ、さらには二酸化チタンと紫外光といった技術に代表される高度酸化処理技術(AOT: Advanced oxidation technology)が挙げられる。
【0003】
上記で列挙したAOTの中で、二酸化チタンと紫外光による酸化過程は、水中に含まれる微生物や有機不純物の殺菌又は分解するという点に関して優れた特性を有することが知られている。二酸化チタンと紫外光による酸化過程を利用した水浄化装置において、二酸化チタンを使用する形体及び方式は大きく分けて二つの種類が存在する:(1)固定触媒;二酸化チタンの光触媒粒子をバインダー等を用いて基板に固定するか又はチタニウムアルコキシド等からゾルゲル法などによって基板の表面に二酸化チタン薄膜を形成する方法で、二酸化チタンが水中でバルク状の形体として存在することを特徴とする方式。(2)分散触媒;二酸化チタンの光触媒粒子を被処理水中に分散させる方法で、二酸化チタンが水中で懸濁状態の形体として存在することを特徴とする方式。
【0004】
従来、上記の固定触媒又は分散触媒を用いて、水中の有機不純物を分解する試みが数多くなされてきた。光触媒反応は触媒粒子の表面における表面光化学反応であるので、より大きい表面積を得られる分散触媒の方が優れた性能を示す場合が多いことが明らかになっている。例えば二酸化チタンの表面積を増大させると、二酸化チタンの表面に吸着する有機不純物の分子量が増大するため、水中の有機不純物の分解反応において著しく大きい反応速度を得ることが出来ると考えられる。
【0005】
しかしながら分散触媒を用いる場合は、水中に分散している二酸化チタンと処理後の被処理水を固液分離し、被処理水(浄化された水)は目的の流路に流し、一方で二酸化チタンは未処理の被処理水と混合し再利用する必要がある。二酸化チタンの粒子径はナノメートルオーダーであるため、例えば水中から酸化チタンを分離する目的で高分子製のフィルターなどを用いると、フィルターは直ちに目詰まりを起こす。別の方法として、重力に起因した自然沈降による固液分離が挙げられるが、ナノメートルオーダーの二酸化チタン粒子が沈降する速度は非常に遅く、現実的な時間内には非常に困難な作業となる。従って、分散触媒は二酸化チタンの繰り返しの使用に大きな難点を有するという課題が広く知られている。
【0006】
ナノメートルオーダーよりも大きいサイズの二酸化チタン粒子を用いれば、いくらかの触媒性能を犠牲にするが、二酸化チタンと処理後の被処理水の固液分離が容易になると考えられる。一方、二酸化チタンの粒子径と光触媒活性の間には逆の相関があり、一般的に優れた性能を有する結晶系がアナターゼ型の二酸化チタンは、合成上の制限から粒子径が最大でも数百ナノメートルの粒子に限られる。粒子径が1μmを超える二酸化チタンの大部分は、光触媒活性の低い結晶系がルチル型のものである。従って、光触媒活性の高いアナターセ型の二酸化チタンを用いる場合には、粒子径を大きくして固液分離の問題を解決することは出来ないと考えられている。
【0007】
上記のような二酸化チタンの分散触媒における使用上の難点を解決する従来技術として、特許文献1には、粉末状光触媒による水の浄化方法が開示されている。この文献では、二酸化チタンの粉末と水酸化鉄微粒子及び/又は水酸化アルミニウム微粒子とを水中で共存させる。水処理後の任意のタイミングで高分子凝集剤を添加することにより、二酸化チタンと上記の微粒子は凝集する。この複合粒子は沈降分離速度が二酸化チタン単体と比べると早いため、高い分離効率を得ることが出来る。複合粒子の状態の二酸化チタンは、その表面活性サイトが高分子凝集剤や前記微粒子に覆われているため、光触媒の性能が失活している状態にある。従って二酸化チタンを再度活性化する目的で、光化学反応容器内において複合粒子に紫外光を照射し、高分子凝集剤を二酸化炭素まで分解する必要がある。すなわち、この再活性化プロセスは相当な量の紫外線が必要となり、水処理装置全体のエネルギー効率が低下してしまうという大きな欠点がある。
【0008】
一方特許文献2には、ハイドロサイクロンを用いて二酸化チタンと処理後の被処理水を固液分離する方法が開示されている。ハイドロサイクロンは従来からスラリーなどの固液分離に用いられてきた典型的な方法である。高性能なハイドロサイクロンにおける固液分離の分離限界は、二酸化チタンの比重4.2から見積もると、およそ1から3μmと試算することができる。特許文献2では、これよりも十分大きい500μmの巨大な二酸化チタンを用いて固液分離を可能にしているが、前述のように、500μmの巨大な二酸化チタンは光触媒活性の低いルチル型であり、さらに数ナノメートルの二酸化チタンと比べるとその表面積は非常に小さい。従ってこの方法では有機不純物の分解反応の効率が数桁も低くなることが予想される。この性能の低下を補うためには、紫外光の強度を著しく上昇させるか、紫外光を照射し続ける時間、すなわち処理時間を著しく長くする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9-174067号公報
【特許文献2】特開2003-18450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、二酸化チタンの分散触媒を用いた水の浄化技術において、水中の有機不純物を分解する光触媒反応の効率と、ハイドロサイクロンによる固液分離の効率を両立させた技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記従来の課題を解決するために、本発明の水処理方法は、二酸化チタン超微粒子は担持微粒子の表面上に固定化することにより複合化されており、光反応容器内において前記複合化ニ酸化チタンと前記被処理水を含む懸濁液に紫外光を照射することを特徴とする。光反応容器内で前記懸濁液が処理された後に、ハイドロサイクロンによって水中から前記複合化ニ酸化チタンを回収し、再び被処理水と混合させ再利用する。前記の担持微粒子は、大きさが5μm以上30μm以下の石英から成る微粒子である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水処理方法によれば、大きさが10nm程度の二酸化チタン超微粒子は、従来例の500μmの二酸化チタン粒子に比べて、単位質量当たりの個数が1.3×1017倍になる。その結果として、触媒性能に直結するパラメータである単位質量当たりの総表面積で試算すると、従来例の5.0×105倍の総表面積が得られる。加えて、本発明の二酸化チタン微粒子は、触媒性能が高いアナターセ型で作成することが可能である。
【0013】
本発明の直径1cmのサイクロン素子を用いたハイドロサイクロンでは、大きさ約4μm以上の石英粒子を懸濁液から分離することができる。従って、複合化二酸化チタンの大部分を水中から再利用できる形で回収することができる。
【0014】
担持微粒子は石英から成るので、複合化二酸化チタンを含む懸濁液は二酸化チタンが光応答を示すλ=350 nm以下の紫外光を遮ることはない。さらに石英微粒子に照射された紫外光は、水と石英の間の屈折率の差に起因する光導波路効果によって石英微粒子の内部に閉じ込められる。この光閉じ込め効果は、二酸化チタンによる効率的な光吸収を誘起し、有機不純物の分解反応における量子効率の上昇を見込むことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1における水処理方法の図
【図2】本発明の実施の形態1における複合化に酸化チタンの構造模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における水処理方法の概念図である。図1において複合化二酸化チタンのスラリー液11を、有機不純物を含む被処理水12と混合し、懸濁液16の状態で光反応容器13に導入する。光反応容器13は、紫外光ランプ14と攪拌装置15を備える。
【0018】
複合化二酸化チタンのスラリー液における二酸化チタンの濃度は、紫外光の適度な透過性と、有機不純物の分解反応の効率を考慮して決定する必要がある。具体的な二酸化チタンの濃度は、0.5 g/L〜5 g/Lの濃度が適切な範囲内であると言え、最適値1 g/Lにすると有機不純物の分解反応の効率が最も高くなることが実験からわかっている。
【0019】
紫外光ランプは、放射される光がλ=380nm以下の波長である必要がある。市販品ではブラックライト蛍光管、キセノンランプ、低圧〜高圧水銀ランプ又はその派生ランプを用いることが出来る。ランプの選定は、有機不純物の分解反応の効率を考慮して行う必要がある。λ=380 nmとλ=310nmの紫外光を二酸化チタンの励起光として用いて、有機不純物の分解反応における量子効率を測定すると、後者の効率は前者の3〜4倍高いことが実験からわかっている。したがって、λ=254nmの低圧〜高圧水銀ランプを用いるのが最適である。実際の水処理技術では、光反応容器13内で複合化ニ酸化チタンを含む懸濁液に紫外光を照射し、複合化二酸化チタンの光触媒反応によって有機不純物を含む被処理水を浄化する。
【0020】
光反応容器13で浄化された懸濁液は、ハイドロサイクロン17に導入される。ここでは、複合化二酸化チタンと被処理水の懸濁液から、浄化された水18とスラリー状の複合化二酸化チタンを分離する。分離した複合化二酸化チタンのスラリー液11は、光触媒として再利用することが可能で、再び光反応容器13に送られる。ハイドロサイクロンに含まれるサイクロン素子は、直径が1cmの樹脂又はセラミック製のものである。サイクロン素子の水入力部における圧力は、6kg重/cm2である。
【0021】
図2は、本発明の実施の形態1における複合化ニ酸化チタンの構造模式図である。複合化二酸化チタンは、石英微粒子21(BCRR certified Reference Material、粒子径=1.20-20.00 μm)、二酸化チタン超微粒子23(デグサP25、粒子径〜10 nm)及び固着剤から成る。固着剤の原料は、シランカップリング剤(例えばテトラエトシキシラン)エタノール及び希塩酸の混合液である。二酸化チタン超微粒子23は、固着剤により石英微粒子の表面に吸着している。二酸化チタン超微粒子と固着剤の複合層は、石英微粒子の表面をほぼ被覆している(被覆率 θ≧0.9)。この複合層の厚みは、照射された紫外光を完全に散乱しない程度が好ましく、典型的には二酸化チタン超微粒子23が2〜3層積層した状態が、有機不純物の分解の効率の観点から最も良い。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明にかかる水の浄化技術は、水中の有機不純物を分解する機能を有し、排水の処理方法等として有用である。また飲料水の製造等の用途にも応用できる。
【符号の説明】
【0023】
11 複合化二酸化チタンのスラリー液
12 被処理水
13 光反応容器
14 紫外光ランプ
15 攪拌装置
16 複合化二酸化チタンと被処理水の懸濁液
17 ハイドロサイクロン
18 浄化された水

21 石英微粒子
22 石英微粒子の最表面の拡大図
23 二酸化チタン超微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタン光触媒によって水中の有機不純物を分解する水の浄化技術であって、二酸化チタン超微粒子は担持微粒子の表面上に固定化されており、光反応容器内において前記固定化ニ酸化チタンと前記被処理水を含む懸濁液に紫外光を照射することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水の浄化技術であって、光反応容器内で前記懸濁液が処理された後に、ハイドロサイクロンによって水中から前記固定化ニ酸化チタンを回収し、再び被処理水と混合させ再利用することを特徴とする水処理方法。
【請求項3】
請求項1及び2に記載の水の浄化技術であって、二酸化チタン超微粒子は石英微粒子の表面上に固定化されていることを特徴とする水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−254425(P2012−254425A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129897(P2011−129897)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】