説明

複合半透膜およびその製造方法

【課題】添加剤を使用しない場合でも、実用性のある脱塩を可能にし、高透過流束を有する複合半透膜の提供する。
【解決手段】微多孔性支持膜と架橋芳香族ポリアミドからなる複合半透膜であって、微多孔性支持膜の平均表面孔径が30nm以上40nm以下であることを特徴とする複合半透膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択分離に有用な複合半透膜に関し、特に高脱塩性と高透水性とをあわせ持ち海水やかん水の脱塩にあたって好適に用いることができる、微多孔性支持膜上にポリアミド分離機能層を形成した複合半透膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合半透膜は、液状混合物の成分を選択的に分離するものであり、超純水の製造、海水またはかん水の脱塩、染色や電着塗料廃水の除去・分離回収による工業用水のクローズドシステム構築、食品工業での有効成分の濃縮等に用いられている。具体的には、多官能アミンと多官能酸誘導体(例えば塩化物)との界面重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる薄膜層を微多孔性支持膜上に接触させた複合半透膜は、透水性や選択分離性の高い複合半透膜として注目されている(特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、実用的な複合半透膜に対する要求は、年々高まり、省エネルギーという観点から、高い溶質排除性を維持したまま、より低圧運転が可能な透過流束の高い複合半透膜の開発が望まれている。そのため、高い透過流束を発現するために、界面重縮合反応で添加剤を用いて製造する複合半透膜も開発されている。該添加剤としては、水酸化カリウムやリン酸三ナトリウムなど界面反応にて生成する酸性物質を系外に除去するための化合物や、アシル化触媒、溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm20.5の化合物などが提案されている(特許文献3、4、5、6)。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、添加剤が高価であるため製造コストが高くなることや、製膜工程が複雑になるため作業も煩雑になりがちである。また、製膜に伴って添加剤を含む廃液が大量に排出されるため、環境への負荷が大きくなる。そのため、添加剤を使用せずに高い塩阻止率と高い透過流束を有する複合半透膜およびその製造方法の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開昭55−14706号公報
【特許文献2】特開平5−76740号公報
【特許文献3】特開昭63−12310号公報
【特許文献4】特開平6−47260号公報
【特許文献5】特開平9−85068号公報
【特許文献6】特開平13−179061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の欠点を解消しようとするもので、添加剤を使用しない場合でも、実用性のある脱塩を可能にし、高い透過流束を有する複合半透膜およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成をとる。すなわち、
(1)微多孔性支持膜と架橋芳香族ポリアミドからなる複合半透膜であって、上記微多孔性支持膜の平均表面孔径が30nm以上40nm以下であることを特徴とする複合半透膜。
(2)基材上に、ポリスルホンを含む有機溶媒溶液を塗布し、凝固液に浸漬して微多孔性支持膜を形成し、微多孔性支持膜上に多官能アミン水溶液を接触させた後、多官能酸ハロゲン化物を含む、水と非混和性の有機溶媒溶液を接触させ、界面重縮合によって微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成させる複合半透膜の製造方法であって、前記凝固液が30℃〜50℃であることを特徴とする複合半透膜の製造方法。
(3)上記(1)に記載の複合半透膜を有していることを特徴とする複合半透膜エレメント。
(4)上記(3)に記載の複合半透膜エレメントを設けたことを特徴とする流体分離装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高透過流束を発現させるための添加剤を使用しない場合でも、実用性のある高脱塩率、高透過流束を達成できるので、添加剤使用量低減によるコストの削減、また、従来と同等に添加剤を使用した場合では、さらなる高透過流束を達成できるので、海水またはかん水の脱塩、染色や電着塗料廃水の除去・分離回収による工業用水のクローズドシステム構築、食品工業での有効成分の濃縮等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る複合半透膜は、微多孔性支持膜上に多官能アミン水溶液を接触させた後、多官能酸ハロゲン化物を含む、水と非混和性の有機溶媒溶液を接触させ、界面重縮合によって微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成させた複合半透膜であり、微多孔性支持膜は平均表面孔径が30nm以上40nm以下のものを用いる。33nm以上が好ましく、35nm以上がより好ましい。また38nm以下が好ましい。かかる微多孔性支持膜は下記の製膜方法によりを得ることができる。
【0009】
まず、所定の寸法,形状に裁断した基材の片面に、支持膜の構成材料となる高分子材料を有機溶媒に溶解して成る樹脂液を所定の厚みで塗布し、ついで、この有機溶媒を揮散せしめて微多孔性支持膜を形成する。微多孔性支持膜に使用する高分子材料やその形状は特に限定されないが、例えばポリエステルまたは芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも一種を主成分とする布帛により強化されたポリスルホンや、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、あるいはそれらを混合したものが好ましく使用される。使用される素材としては、化学的、機械的、熱的に安定性の高いポリスルホンを使用するのが特に好ましい。
【0010】
具体的には、次の化学式に示す繰り返し単位からなるポリスルホンを用いると、孔径が制御しやすく、寸法安定性が高いため好ましい。
【0011】
【化1】

【0012】
また、有機溶媒は、高分子材料を溶解するものである。有機溶媒は、高分子材料および開孔剤に作用してそれらが微多孔性支持膜を形成するのを促す。有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、メチルエチルケトンなどを用いることができる。なかでも、樹脂の溶解性の高いNMP、DMAc、DMF、DMSOを好ましく用いることができる。
【0013】
さらに、原液には、非溶媒を添加することもできる。非溶媒とは、高分子材料を溶解しない液体である。非溶媒は、高分子材料の凝固の速度を制御して細孔の大きさを制御するように作用する。非溶媒としては、水や、メタノール、エタノールなどのアルコール類、あるいはこれらの混合溶媒を用いることができる。
【0014】
開孔剤とは、凝固液に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤は、凝固液への溶解性の高いものであるのが好ましい。たとえば、塩化カルシウム、炭酸カルシウムなどの無機塩を用いることができる。また、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類や、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸などの水溶性高分子や、グリセリンを用いることができる。
【0015】
本発明において、例えば、上記ポリスルホンを高分子材料として用いる場合は、その所定量をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解せしめて、所定濃度のポリスルホンを含む有機溶媒溶液を調製する。ポリスルホンの濃度は5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%の範囲である。ポリスルホンの濃度がこの範囲であれば、ポリスルホンを含む有機溶媒溶液の粘度が適当であるため、製膜性が良く膜欠点が生じにくく好ましい。
【0016】
ついで、このポリスルホンを含む有機溶媒溶液を基材上に所定の厚みで塗布したのち、水などの凝固液中に浸漬する。これにより、凝固液と接触する表面部分などは、溶媒のDMFが迅速に揮散するとともに、ポリスルホンの凝固が急速に進行し、DMFの存在した部分を核とする微細な連通孔が生成する。また、上記の表面部分から基材側へ向かう内部においては、DMFの揮散とポリスルホンの凝固は表面に比べて緩慢に進行するので、DMFが凝集して大きな核を形成しやすく、したがって、生成する連通孔が大径化する。勿論、上記の核生成の条件は、膜表面からの距離によって徐々に変化するので、明確な境界のない、滑らかな孔径分布を有する微多孔性支持膜が形成されることになる。
【0017】
微多孔性支持膜および基材の厚みは、複合半透膜の強度およびそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、基材の厚みは、50〜300μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは75〜200μmの範囲内である。また、微多孔性支持膜の厚みは、10〜200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30〜100μmの範囲内である。
【0018】
凝固液には、水やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、またDMFやNMPなどといった有機溶媒、あるいはこれらの混合溶媒を用いることができる。
【0019】
また、本発明では、基材上に、ポリスルホンを含む有機溶媒溶液を塗布し、30〜50℃の凝固液に浸漬して微多孔性支持膜を形成する。凝固液の温度が30〜50℃の範囲であれば微多孔性支持膜の平均表面孔径を30nm以上にすることができ、複合半透膜を製膜した際に、透過流束が増加する。
【0020】
次に、基材上に、ポリスルホンを含む有機溶媒溶液を塗布し、凝固液に浸漬するまでの時間であるが、0.1〜5秒間の範囲であることが好ましい。凝固液に浸漬するまでの時間がこの範囲であれば、ポリスルホンを含む有機溶媒溶液が基材の繊維間にまで充分浸透したのち固化されるので、そのアンカー効果により微多孔性支持膜が基材に強固に接合する。なお、凝固液に浸漬するまでの時間の好ましい範囲は、用いる高分子材料などによって適宜調整すればよい。
【0021】
微多孔性支持膜の平均表面孔径は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、原子間顕微鏡により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば、微多孔性支持膜サンプルに白金または白金−パラジウムまたは四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングして3〜6kVの加速電圧で高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)で観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、日立製S−900型電子顕微鏡などが使用できる。本発明における平均表面孔径とは得られた電子顕微鏡デジタル画像を、画像解析することで、孔と認識される黒色部分の面積と孔数を計算し、その黒色部分を円と見なした場合の直径の平均値ことである。
画像解析により得られた微多孔性支持膜の平均表面孔径は30nm以上40nm以下であることが好ましく、これらの範囲であると添加剤を使用しない場合でも、実用性のある高透過流束を達成できる。
【0022】
次に、本発明の複合半透膜の製造方法について説明する。複合半透膜を構成する分離機能層は、例えば、多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する、水と非混和性の有機溶媒溶液とを用い、上記微多孔性支持膜の表面で界面重縮合を行うことによりその骨格を形成できる。分離機能層は微多孔性支持膜の両面に設けられても良く、複数の分離機能層を設けても良いが、通常、片面に1層の分離機能層があれば十分である。分離機能層の厚みは、十分な分離性能および透過流束を得るために、通常0.01〜1μmの範囲内、好ましくは0.1〜0.5μmの範囲内である。
【0023】
ここで、多官能アミンとは、一分子中に少なくとも2個の一級および/または二級アミノ基を有するアミンをいい、たとえば、2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼンに結合したフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸などの芳香族多官能アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族アミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、1,3−ビスピペリジルプロパン、4−アミノメチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。中でも、膜の選択分離性や透過流束、耐熱性を考慮すると芳香族多官能アミンであることが好ましく、このような多官能芳香族アミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m−フェニレンジアミン(以下、m−PDAと記す)を用いることがより好ましい。これらの多官能アミンは、単独で用いたり、混合して用いてもよい。
【0024】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。たとえば、3官能酸ハロゲン化物では、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物では、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、ビフェニレンカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。
【0025】
多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能酸塩化物であることが好ましく、また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、多官能芳香族酸塩化物であることが好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとより好ましい。これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いたり、混合して用いてもよい。
【0026】
ここで、多官能アミン水溶液における多官能アミンの濃度は0.1〜10重量%の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜5.0重量%の範囲内である。この範囲であると、十分な塩除去性能および透過流束を得ることができる。多官能アミン水溶液には、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や有機溶媒、アルカリ性化合物、酸化防止剤などが含まれていてもよい。界面活性剤は、微多孔性支持膜表面の濡れ性を向上させ、アミン水溶液と非極性溶媒との間の界面張力を減少させる効果があり、有機溶媒は界面重縮合反応の触媒として働くことがあり、添加することにより界面重縮合反応を効率よく行える場合がある。
【0027】
界面重縮合を微多孔性支持膜上で行うために、まず、上述の多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜に接触させる。接触は、微多孔性支持膜面上に均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、たとえば、多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜にコーティングする方法や微多孔性支持膜を多官能アミン水溶液に浸漬する方法を挙げることができる。微多孔性支持膜と多官能アミン水溶液との接触時間は、1〜10分間の範囲内であることが好ましく、1〜3分間の範囲内であるとさらに好ましい。
【0028】
多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜に接触させたあとは、膜上に液滴が残らないように十分に液切りする。液滴が残ると、膜形成後に液滴残存部分が膜欠点となって膜性能の低下を招きやすい。液切りの方法としては、たとえば、特開平2−78428号公報に記載されているように、多官能アミン水溶液接触後の微多孔性支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの風を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させ、水溶液の水の一部を除去することもできる。
【0029】
次いで、多官能アミン水溶液接触後の支持膜に、多官能酸ハライドを含む有機溶媒溶液を接触させ、界面重縮合により架橋ポリアミド分離機能層の骨格を形成させる。
有機溶媒溶液中の多官能酸ハライドの濃度は、0.01〜10重量%の範囲内であると好ましく、0.02〜2.0重量%の範囲内であるとさらに好ましい。この範囲であると、十分な反応速度が得られ、また副反応の発生を抑制することができる。さらに、この有機溶媒溶液にDMFのようなアシル化触媒を含有させると、界面重縮合が促進され、さらに好ましい。
【0030】
有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ酸ハロゲン化物を溶解し微多孔性支持膜を破壊しないことが望ましく、アミノ化合物および酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればよい。好ましい例としては、たとえば、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカンなどの炭化水素化合物が挙げられる。多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液のアミノ化合物水溶液相への接触の方法は、多官能アミン水溶液の微多孔性支持膜への被覆方法と同様に行えばよい。
【0031】
上述したように、酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を接触させて界面重縮合を行い、微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成したあとは、余剰の溶媒を液切りするとよい。液切りの方法は、たとえば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法を用いることができる。この場合、垂直方向に把持する時間としては、1〜5分間の間にあることが好ましく、1〜3分間であるとより好ましい。この範囲であれば、分離機能層が完全に形成させることができ、有機溶媒の過乾燥による欠点の発生を防ぐことができる。
【0032】
上述の方法により得られた複合半透膜は、50〜150℃の範囲内、好ましくは70〜130℃の範囲内で1〜10分間、より好ましくは2〜8分間熱水処理する工程などを付加することで、複合半透膜の脱塩性能や透水性能をより一層向上させることができる。
【0033】
このように形成される本発明の複合半透膜は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0034】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水から飲料水などの透過水と、膜を透過しなかった濃縮水を分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0035】
流体分離装置の操作圧力は高い方が脱塩率は向上するが、運転に必要なエネルギーも上昇すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、海水脱塩条件では1MPa以上、10MPa以下が好ましい。またかん水脱塩条件では0.3MPa以上、5MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると脱塩率が低下するが、低くなるにしたがい透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると、海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、低くなると膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【実施例】
【0036】
実施例および比較例における測定は次のとおり行った。
【0037】
(脱塩率)
複合半透膜に、温度25℃、pH6.5に調整したTDS濃度約3.5%の海水を操作圧力5.5MPaで供給するときの透過水塩濃度を測定することにより、次の式から求めた。
【0038】
脱塩率=100×{1−(透過水中の塩濃度/供給水中の塩濃度)}。
(膜透過流束)
供給水として海水を使用し、膜面1平方メートル当たり、1日の透水量(立方メートル)から膜透過流束(m/m・日)を求めた。
【0039】
(実施例1)
ポリエステル不織布(通気度0.5〜1cc/cm・sec)上にポリスルホンの15.7重量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を200μmの厚みで室温(25℃)でキャストし、ただちに30℃の純水凝固液中に浸漬して5分間放置することによって微多孔性支持膜を作製した。得られたポリスルホン微多孔性支持膜の表面を高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(日立製S−900型)を用いて60,000倍で観察し、電子顕微鏡デジタル画像を、画像解析ソフトにより解析した結果、微多孔性支持膜の平均表面孔径は35nmであった。次に、このようにして得られた微多孔性支持膜(厚さ210〜215μm)を、m−フェニレンジアミン(以下mPDAという)3.4重量%水溶液中に2分間浸漬した。次に該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド(以下TMCという)0.165重量%のn−デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。次に膜から余分な溶液を除去するために、膜を1分間垂直に把持して液切りした。その後、90℃の熱水で2分間洗浄した。得られた複合半透膜を評価したところ、透過流束が0.89m/m・日、脱塩率は99.75%であり、添加剤を使用しない場合でも海水脱塩用途として使用できる複合半透膜が得られた。
【0040】
(実施例2)
純水凝固液の温度を50℃に変える以外は、実施例1と同様の方法で複合半透膜を製造した。微多孔性支持膜の平均表面孔径は38nmであった。膜性能評価を行ったところ、透過流束が0.86m/m・日、脱塩率は99.73%であり、添加剤を使用しない場合でも海水脱塩用途として使用できる複合半透膜が得られた。
【0041】
(比較例1)
純水凝固液の温度を25℃に変える以外は、実施例1と同様の方法で複合半透膜を製造した。微多孔性支持膜の平均表面孔径は20nmであった。膜性能評価を行ったところ、透過流束が0.66m/m・日、脱塩率は99.76%であり、透過流束が低下した。
【0042】
(比較例2)
純水凝固液の温度を5℃に変える以外は、実施例1と同様の方法で複合半透膜を製造した。微多孔性支持膜の平均表面孔径は18nmであった。膜性能評価を行ったところ、透過流束が0.68m/m・日、脱塩率は99.75%であり、透過流束が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の複合半透膜は、高透水性を発現させるための添加剤を使用しない場合でも、実用性のある高脱塩率、高透過流束を達成できるので、添加剤使用量低減によるコストの削減、また従来と同等に添加剤量を使用した場合では、さらなる高透過流束を達成できるので、海水またはかん水の脱塩、染色や電着塗料廃水の除去・分離回収による工業用水のクローズドシステム構築、食品工業での有効成分の濃縮等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔性支持膜と架橋芳香族ポリアミドからなる複合半透膜であって、上記微多孔性支持膜の平均表面孔径が30nm以上40nm以下であることを特徴とする複合半透膜。
【請求項2】
基材上に、ポリスルホンを含む有機溶媒溶液を塗布し、凝固液に浸漬して微多孔性支持膜を形成し、微多孔性支持膜上に多官能アミン水溶液を接触させた後、多官能酸ハロゲン化物を含む、水と非混和性の有機溶媒溶液を接触させ、界面重縮合によって微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成させる複合半透膜の製造方法であって、前記凝固液が30℃〜50℃であることを特徴とする複合半透膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の複合半透膜を有していることを特徴とする複合半透膜エレメント。
【請求項4】
請求項3に記載の複合半透膜エレメントを設けたことを特徴とする流体分離装置。

【公開番号】特開2009−226320(P2009−226320A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75140(P2008−75140)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】