説明

複合半透膜の製造方法

【課題】 耐薬品性に優れ、かつスキン層浮きが生じ難い複合半透膜の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 エポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面に大気圧プラズマ処理を施し、その後当該表面にスキン層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキン層とこれを支持する多孔性支持体とからなる複合半透膜の製造方法に関する。かかる複合半透膜は、超純水の製造、かん水または海水の脱塩などに好適であり、また染色排水や電着塗料排水などの公害発生原因である汚れなどから、その中に含まれる汚染源あるいは有効物質を除去・回収し、排水のクローズ化に寄与することができる。また、食品用途などで有効成分の濃縮、浄水や下水用途等での有害成分の除去などの高度処理に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
現在、複合半透膜としては、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物との界面重合によって得られるポリアミドからなるスキン層が多孔性支持体上に形成されたものが多く提案されている。
【0003】
前記多孔性支持体としては、例えば、基材の表面に実質的に分離機能を有する微多孔層が形成されたものが挙げられる。基材としては、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドなどを素材とする織布、不織布、メッシュ状ネット、及び発泡焼結シートなどが挙げられる。また、微多孔層の形成材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリイミド、ボリフッ化ビニリデンなど種々のものが挙げられ、特に化学的、機械的、熱的に安定である点からポリスルホン、特にポリアリールエーテルスルホンが好ましく用いられている。
【0004】
これら複合半透膜は、造水プラントなどをはじめ各種水処理におけるより安定した運転性や簡易な操作性および膜寿命の長期化による低コストの追求から、各種の酸化剤、特に塩素による洗浄に耐えうる耐薬品性が求められている。
【0005】
前記複合半透膜は、実用的な耐薬品性を有するが、いずれも定常的あるいは間欠的な塩素殺菌に対して長期的に耐え得る耐薬品性を有しているとはいえない。このため、より高い耐薬品性と実用レベルの透水性及び塩阻止性を合わせ持つ複合半透膜、特に耐薬品性に優れる多孔性支持体の開発が望まれている。
【0006】
一方、ダイオキシンやPCB(ポリ塩化ビフェニル)などの平面分子構造を有する物質を選択的に見分けることが可能で、背圧が低く、大量処理が可能な分離媒体であるエポキシ樹脂硬化物多孔体が開発されている(特許文献1)。該エポキシ樹脂硬化物多孔体は、柱状の三次元分岐構造からなる非粒子凝集型の多孔体であって、多孔体の空孔率が20〜80%、平均孔径が0.5〜50μmであることを特徴としている。
【0007】
本出願人は、複合半透膜の多孔性支持体としてエポキシ樹脂多孔体を用いることを以前提案した(本出願の優先日において未公開)。
【0008】
多孔性支持体としてエポキシ樹脂多孔性支持体を用いた場合には、エポキシ樹脂多孔性支持体とスキン層の密着性にやや難があり、スキン層浮きが生じやすい傾向にある。「スキン層浮き」とは、エポキシ樹脂多孔性支持体とスキン層の間に水が浸入するなどして、スキン層が半円状に膨らむ現象を言う。スキン層が膨らんだ状態で通水し続けると、スキン層が破れてスキン層に欠陥が生じる可能性がある。
【0009】
ここで、特許文献2では、ポリサルホン膜支持体の表面にフルフリルアルコール重合体薄膜を均一に形成するために、薄膜形成前にポリサルホン膜支持体の表面を窒素ガスで低温プラズマ処理して該表面を親水化することが提案されている。
【0010】
また、特許文献3には、予め、水溶性アルコールを含有する溶液に多孔性支持体を接触させて親水化させておくことにより、その後の純水又はイオン交換水を用いた膜洗浄時におけるスキン層と多孔性支持体との界面での剥がれを抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2006/073173号パンフレット
【特許文献2】特開昭62−262711号公報
【特許文献3】特開2008−246419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、耐薬品性に優れ、かつスキン層浮きが生じ難い複合半透膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、多孔性支持体としてエポキシ樹脂多孔性支持体を用い、予めエポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施しておくことにより、耐薬品性に優れ、かつスキン層浮きが生じ難い複合半透膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、多孔性支持体の表面にスキン層を形成するスキン層形成工程を含む複合半透膜の製造方法において、
多孔性支持体は、エポキシ樹脂多孔性支持体であり、
スキン層形成工程の前に、エポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施すプラズマ処理工程を含むことを特徴とする複合半透膜の製造方法、に関する。
【0015】
大気圧プラズマ処理は、窒素ガス及び/又はアンモニアガスを含む気体中で行うことが好ましい。また、希ガスを含む気体中で行うことも好ましい態様である。
【0016】
また、大気圧プラズマ処理は、0.1〜5Wsec/cmの放電強度で行うことが好ましい。
【0017】
また、エポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施した後、24時間以内に該表面にスキン層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエポキシ樹脂多孔性支持体は、エポキシ樹脂の架橋体からなるため耐薬品性に優れており、また連続する三次元網目状骨格により高い空孔率を有するにもかかわらず高強度(高耐圧)であり、多孔性支持体として好適に用いられる。また、本発明の製造方法のように、予めエポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施して該表面を表面改質(例えば、親水性の向上、表面粗さの増大など)しておくことにより、エポキシ樹脂多孔性支持体とスキン層の密着性が向上し、スキン層浮きが生じ難い複合半透膜を製造することができる。なお、前記大気圧プラズマ処理はエポキシ樹脂多孔性支持体に対して十分な効果が発現し、従来の多孔性支持体に対しては十分な効果が発現しない。また、コロナ放電処理、水溶性アルコールを用いた親水化処理、又はケン化処理をエポキシ樹脂多孔性支持体に施した場合は、本発明の方法と比べて効果が非常に低く、エポキシ樹脂多孔性支持体に対しては大気圧プラズマ処理が非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】比較例2で得られた複合半透膜のスキン層をレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK−9710)を用いて観察した時のスキン層の浮き状態を示す写真(10倍)である。
【図2】比較例2で得られた複合半透膜に、ベーシックバイオレット含有水溶液(東京化成工業(株)製)を1.5MPaで加圧通水し、その後、スキン層をデジタルマイクロスコープ(HIROX製、KH−3000)を用いて観察した時のスキン層の欠損部分の状態を示す写真(35倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
本発明においては、多孔性支持体としてエポキシ樹脂多孔性支持体を用いる。エポキシ樹脂多孔性支持体の原料としては、例えば、エポキシ樹脂、硬化剤、及びポロゲンを含むエポキシ樹脂組成物を用いる。
【0022】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、及びテトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、複素芳香環(例えば、トリアジン環など)を含有するエポキシ樹脂などの芳香族エポキシ樹脂;脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂などの非芳香族エポキシ樹脂が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
これらのうち、均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を形成するため、また耐薬品性や膜強度を確保するために、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、及びトリグリシジルイソシアヌレートからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族エポキシ樹脂;脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の脂環族エポキシ樹脂を用いることが好ましい。特に、エポキシ当量が6000以下で、融点が170℃以下であるビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、及びトリグリシジルイソシアヌレートからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族エポキシ樹脂;エポキシ当量が6000以下で、融点が170℃以下である脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の脂環族エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0024】
硬化剤としては、例えば、芳香族アミン(例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなど)、芳香族酸無水物(例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸など)、フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、複素芳香環含有アミン(例えば、トリアジン環含有アミンなど)などの芳香族硬化剤;脂肪族アミン類(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミンなど)、脂環族アミン類(イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、これらの変性品など)、ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミンなどの非芳香族硬化剤が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
これらのうち、均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を形成するため、また膜強度と弾性率を確保するために、分子内に一級アミンを2つ以上有するメタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、及びジアミノジフェニルスルホンからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族アミン硬化剤;分子内に一級アミンを2つ以上有するビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、及びビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンからなる群より選択される少なくとも1種の脂環族アミン硬化剤を用いることが好ましい。
【0026】
また、エポキシ樹脂と硬化剤の組み合わせとしては、芳香族エポキシ樹脂と脂環族アミン硬化剤の組み合わせ、又は脂環族エポキシ樹脂と芳香族アミン硬化剤の組み合わせが好ましい。これらの組み合わせにより、得られるエポキシ樹脂多孔性支持体の耐熱性が高くなり、複合半透膜の多孔性支持体として好適に用いられる。
【0027】
ポロゲンとは、エポキシ樹脂及び硬化剤を溶かすことができ、かつエポキシ樹脂と硬化剤が重合した後、反応誘起相分離を生ぜしめることが可能な溶剤をいい、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類、及びポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
これらのうち、均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を形成するために、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、分子量600以下のポリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いることが好ましく、特に分子量200以下のポリエチレングリコール、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いることが好ましい。
【0029】
また、個々のエポキシ樹脂又は硬化剤と常温で不溶又は難溶であっても、エポキシ樹脂と硬化剤との反応物が可溶となる溶剤についてはポロゲンとして使用可能である。このようなポロゲンとしては、例えば臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート5058」)などが挙げられる。
【0030】
エポキシ樹脂多孔性支持体の空孔率、平均孔径、孔径分布などは、使用するエポキシ樹脂、硬化剤、ポロゲンなどの原料の種類や配合比率、及び反応誘起相分離時における加熱温度や加熱時間などの反応条件により変化するため、目的とする空孔率、平均孔径、孔径分布を得るために系の相図を作成して最適な条件を選択することが好ましい。また、相分離時におけるエポキシ樹脂架橋体の分子量、分子量分布、系の粘度、架橋反応速度などを制御することにより、エポキシ樹脂架橋体とポロゲンとの共連続構造を特定の状態で固定し、安定した多孔構造を得ることができる。
【0031】
また、エポキシ樹脂多孔性支持体を構成する全炭素原子に対する芳香環由来の炭素原子比率が0.1〜0.65の範囲になるように、エポキシ樹脂及び硬化剤の種類と配合割合を決定することが好ましい。上記値が0.1未満の場合には、エポキシ樹脂多孔性支持体の特性である分離媒体の平面構造の認識性が低下する傾向にある。一方、0.65を超える場合には、均一な三次元網目状骨格を形成することが困難になる。
【0032】
また、エポキシ樹脂に対する硬化剤の配合割合は、エポキシ基1当量に対して硬化剤当量が0.6〜1.5であることが好ましい。硬化剤当量が0.6未満の場合には、硬化体の架橋密度が低くなり、耐熱性、耐溶剤性などが低下する傾向にある。一方、1.5を超える場合には、未反応の硬化剤が残留したり、架橋密度の向上を阻害する傾向にある。なお、本発明では、上述した硬化剤の他に、目的とする多孔構造を得るために、溶液中に硬化促進剤を添加してもよい。硬化促進剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの三級アミン、2−フェノール−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェノール−4,5−ジヒドロキシイミダゾールなどのイミダゾール類などが挙げられる。
【0033】
エポキシ樹脂多孔性支持体の平均孔径は、その表面に半透膜となるスキン層を形成するために0.01〜0.4μmであることが好ましい。平均孔径を0.01〜0.4μmに調整するためには、エポキシ樹脂、硬化剤、及びポロゲンの総重量に対してポロゲンを40〜80重量%用いることが好ましい。ポロゲンの量が40重量%未満の場合には平均孔径が小さくなりすぎたり、空孔が形成されなくなる傾向にある。一方、ポロゲンの量が80重量%を超える場合には平均孔径が大きくなりすぎて均一なスキン層を支持体上に形成することができなくなったり、塩阻止率が著しく低下する傾向にある。エポキシ樹脂多孔性支持体の平均孔径は、0.03〜0.2μmであることがより好ましい。そのためにはポロゲンを60〜70重量%用いることが好ましく、より好ましくは60〜65重量%である。
【0034】
また、エポキシ樹脂多孔性支持体の平均孔径を0.01〜0.4μmに調整する方法として、エポキシ当量の異なる2種以上のエポキシ樹脂を混合して用いる方法も好適である。その際、エポキシ当量の差は100以上であることが好ましい。
【0035】
また、エポキシ樹脂多孔性支持体の平均孔径は、全体のエポキシ当量とポロゲンの割合、硬化温度などの諸条件を適宜設定することにより目的の範囲に調整できる。
【0036】
前記エポキシ樹脂多孔性支持体は、例えば、以下の方法で作製することができる。
【0037】
1)エポキシ樹脂、硬化剤、及びポロゲンを含むエポキシ樹脂組成物を基板上に塗布し、その後、塗布したエポキシ樹脂組成物を加熱してエポキシ樹脂を三次元架橋させる。その際に、エポキシ樹脂架橋体とポロゲンとの相分離により共連続構造が形成される。その後、得られたエポキシ樹脂シートからポロゲンを洗浄除去し、乾燥することにより、三次元網目状骨格と連通する空孔とを有するエポキシ樹脂多孔性支持体を作製する。使用する基板は特に制限されず、例えば、プラスチック基板、ガラス基板、及び金属板などが挙げられる。
【0038】
2)エポキシ樹脂、硬化剤、及びポロゲンを含むエポキシ樹脂組成物を基板上に塗布し、その後、塗布したエポキシ樹脂組成物上に別の基板を被せてサンドイッチ構造体を作製する。なお、基板間に一定の厚みを設けるために、基板の四隅にスペーサー(例えば、両面テープ)を設けておくことが好ましい。そして、該サンドイッチ構造体を加熱してエポキシ樹脂を三次元架橋させる。その際に、エポキシ樹脂架橋体とポロゲンとの相分離により共連続構造が形成される。その後、得られたエポキシ樹脂シートを取り出し、ポロゲンを洗浄除去し、乾燥することにより、三次元網目状骨格と連通する空孔とを有するエポキシ樹脂多孔性支持体を作製する。使用する基板は特に制限されず、例えば、プラスチック基板、ガラス基板、及び金属板などが挙げられるが、特にガラス基板を用いることが好ましい。
【0039】
3)エポキシ樹脂、硬化剤、及びポロゲンを含むエポキシ樹脂組成物を所定形状のモールド内に充填し、その後、加熱してエポキシ樹脂を三次元架橋させて、円筒状又は円柱状樹脂ブロックを作製する。その際に、エポキシ樹脂架橋体とポロゲンとの相分離により共連続構造が形成される。その後、該ブロックを円筒軸又は円柱軸を中心に回転させながら該ブロックの表面を所定厚みで切削して長尺状のエポキシ樹脂シートを作製する。そして、エポキシ樹脂シート中のポロゲンを洗浄除去し、乾燥することにより、三次元網目状骨格と連通する空孔とを有するエポキシ樹脂多孔性支持体を作製する。
【0040】
エポキシ樹脂組成物を加熱する際の条件は特に制限されないが、温度は100〜150℃程度であり、加熱時間は10分〜5時間程度である。加熱処理後にエポキシ樹脂架橋体の架橋度を高めるためにポストキュアを行ってもよい。
【0041】
得られたエポキシ樹脂シートからポロゲンを除去するために用いられる溶剤としては、例えば、水、DMF、DMSO、THF、及びこれらの混合溶剤などが挙げられ、ポロゲンの種類に応じて適宜選択する。
【0042】
ポロゲンを除去したエポキシ樹脂多孔性支持体の乾燥条件は特に制限されないが、温度は40〜120℃程度であり、乾燥時間は0.2〜3時間程度である。
【0043】
エポキシ樹脂多孔性支持体の厚さは特に制限されないが、強度、実用的な透水性及び塩阻止性の観点から50〜250μm程度である。また、エポキシ樹脂多孔性支持体は織布、不織布などで裏面を補強してもよい。
【0044】
本発明の複合半透膜の製造方法においては、エポキシ樹脂多孔性支持体の表面にスキン層を形成する前に、エポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施しておくことが必要である。
【0045】
大気圧プラズマ処理において使用するガスは特に制限されず、例えば、酸素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、及びヘリウム、アルゴンなどの希ガスが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのガスのうち、窒素ガス及び/又はアンモニアガスを用いることが好ましい。窒素ガス及び/又はアンモニアガスのみ、又はこれらを含むガスを用いると、エポキシ樹脂多孔性支持体の表面に窒素官能基が導入されるため、ポリアミド系樹脂を含むスキン層との親和性が向上し、エポキシ樹脂多孔性支持体とスキン層との密着性が向上すると考えられる。その結果、スキン層浮きが生じ難い複合半透膜が得られる。また、希ガスを用いることも好ましい態様である。希ガスを含むガスを用いると、エポキシ樹脂多孔性支持体の表面がエッチングされるか、又はエポキシ樹脂多孔性支持体表面の低分子量成分が除去されるなどして支持体表面の表面粗さが変化してエポキシ樹脂多孔性支持体とスキン層との密着性が向上すると共に、スキン層浮きが生じ難い複合半透膜が得られる。さらに、希ガスに少量の酸素ガスを混合して使用することも好ましい方法である。酸素ガスを混合することにより、エポキシ樹脂多孔性支持体の親水性が向上する。
【0046】
また、大気圧プラズマ処理における放電強度は特に制限されないが、0.1〜5Wsec/cmであることが好ましく、より好ましくは0.3〜4Wsec/cm、さらに好ましくは0.5〜3Wsec/cmである。放電強度が0.1Wsec/cm未満の場合には、表面改質が不十分であるためスキン層浮きを効果的に防止することが困難になり、一方、5Wsec/cmを超える場合には、プラズマ放電が安定し難く、処理効果が不均一になりやすい。また、窒素ガス及び/又はアンモニアガスを含むガスを用いた際には、エポキシ樹脂多孔性支持体の表面にアンモニウム塩が生成しやすくなるため、所望の効果を得難くなる。また、大気圧プラズマ処理における放電時間は特に制限されないが、通常0.1〜5秒程度である。
【0047】
大気圧プラズマ処理後のエポキシ樹脂多孔性支持体の表面の接触角は、十分な親水性を付与するために30度以下であることが好ましく、より好ましくは20度以下である。
【0048】
また、エポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施した後、24時間以内に該表面にスキン層を形成することが好ましく、より好ましくは3時間以内である。24時間を超えるとエポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面の親水化効果が低下する傾向にある。
【0049】
一方、スキン層の形成材料は特に制限されず、例えば、酢酸セルロール、エチルセルロース、ポリエーテル、ポリエステル、及びポリアミドなどが挙げられる。
【0050】
本発明においては、多官能アミン成分と多官能酸ハロゲン成分とを重合してなるポリアミド系樹脂を含むスキン層であることが好ましい。
【0051】
多官能アミン成分とは、2以上の反応性アミノ基を有する多官能アミンであり、芳香族、脂肪族、及び脂環式の多官能アミンが挙げられる。
【0052】
芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、N,N’−ジメチル−m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0053】
脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、n−フェニル−エチレンジアミン等が挙げられる。
【0054】
脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、4−アミノメチルピペラジン等が挙げられる。
【0055】
これらの多官能アミンは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。高塩阻止性能のスキン層を得るためには、芳香族多官能アミンを用いることが好ましい。
【0056】
多官能酸ハライド成分とは、反応性カルボニル基を2個以上有する多官能酸ハライドである。
【0057】
多官能酸ハライドとしては、芳香族、脂肪族、及び脂環式の多官能酸ハライドが挙げられる。
【0058】
芳香族多官能酸ハライドとしては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、ベンゼンジスルホン酸ジクロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0059】
脂肪族多官能酸ハライドとしては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライド等が挙げられる。
【0060】
脂環式多官能酸ハライドとしては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0061】
これら多官能酸ハライドは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。高塩阻止性能のスキン層を得るためには、芳香族多官能酸ハライドを用いることが好ましい。また、多官能酸ハライド成分の少なくとも一部に3価以上の多官能酸ハライドを用いて、架橋構造を形成するのが好ましい。
【0062】
また、ポリアミド系樹脂を含むスキン層の性能を向上させるために、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などのポリマー、ソルビトール、グリセリンなどの多価アルコールなどを共重合させてもよい。
【0063】
ポリアミド系樹脂を含むスキン層を前記エポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面に形成する方法は特に制限されず、あらゆる公知の手法を用いることができる。例えば、界面縮合法、相分離法、薄膜塗布法などが挙げられる。界面縮合法とは、具体的に、多官能アミン成分を含有するアミン水溶液と、多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液とを接触させて界面重合させることによりスキン層を形成し、該スキン層をエポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面上に載置する方法や、エポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面上での前記界面重合によりポリアミド系樹脂のスキン層をエポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面上に直接形成する方法である。かかる界面縮合法の条件等の詳細は、特開昭58−24303号公報、特開平1−180208号公報等に記載されており、それらの公知技術を適宜採用することができる。
【0064】
本発明においては、多官能アミン成分を含むアミン水溶液からなる水溶液被覆層をエポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面上に形成し、次いで多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液と水溶液被覆層とを接触させて界面重合させることによりスキン層を形成する方法が好ましい。
【0065】
前記界面重合法において、アミン水溶液中の多官能アミン成分の濃度は特に制限されないが、0.1〜5重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜4重量%である。多官能アミン成分の濃度が0.1重量%未満の場合にはスキン層にピンホール等の欠陥が生じやすくなり、また塩阻止性能が低下する傾向にある。一方、多官能アミン成分の濃度が5重量%を超える場合には、膜厚が厚くなりすぎて透過抵抗が大きくなって透過流束が低下する傾向にある。
【0066】
前記有機溶液中の多官能酸ハライド成分の濃度は特に制限されないが、0.01〜5重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜3重量%である。多官能酸ハライド成分の濃度が0.01重量%未満の場合には、未反応多官能アミン成分が残留しやすくなったり、スキン層にピンホール等の欠陥が生じやすくなって塩阻止性能が低下する傾向にある。一方、多官能酸ハライド成分の濃度が5重量%を超える場合には、未反応多官能酸ハライド成分が残留しやすくなったり、膜厚が厚くなりすぎて透過抵抗が大きくなり、透過流束が低下する傾向にある。
【0067】
前記有機溶液に用いられる有機溶媒としては、水に対する溶解度が低く、エポキシ樹脂多孔性支持体を劣化させず、多官能酸ハライド成分を溶解するものであれば特に限定されず、例えば、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、及びノナン等の飽和炭化水素、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン等のハロゲン置換炭化水素などを挙げることができる。好ましくは沸点が300℃以下、さらに好ましくは沸点が200℃以下の飽和炭化水素である。
【0068】
前記アミン水溶液や有機溶液には、製膜を容易にしたり、得られる複合半透膜の性能を向上させるための目的で各種の添加剤を加えることができる。前記添加剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、及びラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤、重合により生成するハロゲン化水素を除去する水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、及びトリエチルアミン等の塩基性化合物、アシル化触媒、特開平8−224452号公報記載の溶解度パラメータが8〜14(cal/cm1/2の化合物などが挙げられる。
【0069】
エポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面上に前記アミン水溶液を塗布してから前記有機溶液を塗布するまでの時間は、アミン水溶液の組成、粘度及びエポキシ樹脂多孔性支持体の表面の孔径にもよるが、180秒以下であることが好ましく、さらに好ましくは120秒以下である。前記溶液の塗布間隔が180秒を超える場合には、アミン水溶液がエポキシ樹脂多孔性支持体の内部深くまで浸透・拡散し、未反応多官能アミン成分がエポキシ樹脂多孔性支持体中に大量に残存する恐れがある。また、エポキシ樹脂多孔性支持体の内部深くまで浸透した未反応多官能アミン成分は、その後の膜洗浄処理でも除去し難い傾向にある。なお、前記エポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面上に前記アミン水溶液を被覆した後、余分なアミン水溶液を除去してもよい。
【0070】
本発明においては、アミン水溶液からなる水溶液被覆層と有機溶液との接触後、エポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面上の過剰な有機溶液を除去し、該処理表面上の形成膜を70℃以上で加熱乾燥してスキン層を形成することが好ましい。形成膜を加熱処理することによりその機械的強度や耐熱性等を高めることができる。加熱温度は70〜200℃であることがより好ましく、特に好ましくは80〜130℃である。加熱時間は30秒〜10分程度が好ましく、さらに好ましくは40秒〜7分程度である。
【0071】
エポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面上に形成したスキン層の厚みは特に制限されないが、通常0.05〜2μm程度であり、好ましくは、0.1〜1μmである。
【0072】
本発明の複合半透膜はその形状になんら制限を受けるものではない。すなわち平膜状、あるいはスパイラルエレメント状など、考えられるあらゆる膜形状が可能である。また、複合半透膜の塩阻止性、透水性、及び耐酸化剤性等を向上させるために、従来公知の各種処理を施してもよい。
【0073】
また、本発明においては、加工性や保存性に優れているという観点から、乾燥タイプの複合半透膜としてもよい。乾燥処理を行う際に、半透膜はその形状になんら制限を受けるものではない。すなわち平膜状、あるいはスパイラル状など、考えられるあらゆる膜形状において乾燥処理を施すことが可能である。例えば、半透膜をスパイラル状に加工して膜ユニットを作製し、該膜ユニットを乾燥してドライスパイラルエレメントを作製してもよい。
【実施例】
【0074】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0075】
〔測定方法〕
(エポキシ樹脂多孔性支持体の平均孔径の測定)
エポキシ樹脂多孔性支持体の平均孔径は、水銀圧入法により、(株)島津製作所製オートポア9520型装置にて測定した。なお、平均孔径は、初期圧7kPaの条件のメディアン径を採用した。
【0076】
(スキン層浮き数の測定)
作製した平膜状の複合半透膜を純水中に3分間浸漬し、3時間室温(25℃)で乾燥した後、5×30mmの大きさに切断してサンプルを2個作製した。2個のサンプルについて、20μm以上の大きさでスキン層が浮いている部分の数をレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK−9710)を用いて観察し、その平均値をスキン層浮き数とした。スキン層浮き数は100個以下であることが好ましい。
【0077】
(塩阻止率の測定)
作製した平膜状の複合半透膜を所定の形状、サイズに切断し、平膜評価用のセルにセットした。1500mg/LのNaClを含みかつNaOHを用いてpH6.5に調整した25℃の水溶液を膜の供給側と透過側に1.5MPaの差圧を与えて膜に接触させた。この操作によって得られた透過水の電導度を測定し、塩阻止率(%)を算出した。塩阻止率は、NaCl濃度と水溶液電導度の相関(検量線)を事前に作成し、それらを用いて下式により算出した。塩阻止率は98%以上であることが好ましい。また、前記測定後の複合半透膜を35℃の純水中に6日間浸漬保存した後、前記と同様の方法で塩阻止率を測定した。浸漬保存後の塩阻止率も98%以上であることが好ましい。
塩阻止率(%)={1−(透過液中のNaCl濃度[mg/L])/(供給液中のNaCl濃度[mg/L])}×100
【0078】
実施例1
(エポキシ樹脂多孔性支持体の作製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「エピコート828」、エポキシ当量:184−194(g/eq))2.33gにポリエチレングリコール200(東京化成株式会社製)4.5gを加え、自転・公転ミキサー(商品名「あわとり練太郎」ARE−250)を用いて2000rpmで5分間撹拌し、溶解させてエポキシ樹脂/ポリエチレングリコール溶液を得た。次に、硬化剤としてビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン(東京化成株式会社製)0.52gをエポキシ樹脂/ポリエチレングリコール溶液に加え、自転・公転ミキサーを用いて2000rpmで10分間撹拌し、溶解させてエポキシ樹脂/ポリエチレングリコール/硬化剤溶液Aを得た。
四隅に両面テープを2枚重ねて一定の厚みを確保したソーダガラス板上に、調製した溶液Aを塗布し、その上に別のソーダガラス板を積層してサンドイッチ構造体を得た。その後、サンドイッチ構造体を乾燥機内に入れ、120℃で約3時間反応硬化させた。冷却後にサンドイッチ構造体からエポキシ樹脂シートを取り出し、これを水中に12時間浸漬してポリエチレングリコールを除去した。その後、該シートをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)30wt%の水溶液に浸漬して未反応のエポキシ樹脂を除去し、さらに超純水に浸漬してDMFを除去し、そして50℃の乾燥機内で約4時間乾燥させてエポキシ樹脂多孔性支持体を作製した。作製したエポキシ樹脂多孔性支持体の厚さは約150μmであり、平均孔径は0.027μmであった。
【0079】
(複合半透膜の製造)
大気圧プラズマ処理装置(積水化学工業株式会社製、AP−T05)を用いて、窒素ガス流量60L/min、上下誘電体間距離1mm、処理強度2.0Wsec/cm、及び処理時間約1秒の条件で、作製したエポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施した。プラズマ処理直後の処理表面の接触角を接触角測定器(協和界面化学株式会社製、Drop Master500)を用いて測定した。なお、滴下液として超純水を使用し、滴下1秒後の接触角を測定した。その結果、接触角は9度であった。
上記プラズマ処理の120分後に、m−フェニレンジアミン3g、ラウリル硫酸ナトリウム0.15g、ベンゼンスルホン酸6g、トリエチルアミン3g、及び水87.85gを含有するアミン水溶液を前記エポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面上に塗布し、その後余分なアミン水溶液をワイピング除去することにより水溶液被覆層を形成した。次に、前記水溶液被覆層の表面にトリメシン酸クロライド0.2重量%を含有するイソオクタン溶液を塗布した。その後、余分な溶液を除去し、さらに100℃の乾燥機内で2分間保持して、エポキシ樹脂多孔性支持体上にポリアミド系樹脂を含むスキン層(厚さ:約200nm)を形成して複合半透膜を作製した。当該複合半透膜を用いて前記スキン層浮き数及び塩阻止率を測定した結果を表1に示す。
【0080】
実施例2
実施例1において、窒素ガス流量60L/minの代わりに、窒素ガス流量10L/min及びアンモニアガス流量0.3L/minの条件でエポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施したこと以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。なお、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面における超純水の接触角を測定したところ10度であった。また、当該複合半透膜を用いて前記スキン層浮き数及び塩阻止率を測定した結果を表1に示す。
【0081】
実施例3
実施例1において、窒素ガス流量60L/min及び処理強度2.0Wsec/cmの代わりに、窒素ガス流量10L/min、アンモニアガス流量0.3L/min及び処理強度4.0Wsec/cmの条件でエポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施したこと以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。なお、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面における超純水の接触角を測定したところ8度であった。また、当該複合半透膜を用いて前記スキン層浮き数及び塩阻止率を測定した結果を表1に示す。
【0082】
実施例4
実施例1において、窒素ガス流量60L/min及び処理強度2.0Wsec/cmの代わりに、Arガス流量60L/min、酸素ガス流量0.6L/min及び処理強度0.5Wsec/cmの条件でエポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施したこと以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。なお、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面における超純水の接触角を測定したところ7度であった。また、当該複合半透膜を用いて前記スキン層浮き数及び塩阻止率を測定した結果を表1に示す。
【0083】
実施例5
(エポキシ樹脂多孔性支持体の作製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)、エピコート828)139重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)、エピコート1010)93.2重量部、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン52重量部、及びポリエチレングリコール200(三洋化成(株))500重量部を容器に入れ、スリーワンモーターを用いて400rpmで15分間撹拌してエポキシ樹脂組成物を得た。
調製したエポキシ樹脂組成物を円筒状モールド(外径35cm、内径10.5cm)内に高さ30cmまで充填して25℃で12時間室温硬化し、さらに130℃で18時間反応硬化させて円筒状樹脂ブロックを作製した。その後、この樹脂ブロックを円筒軸を中心に回転させながら切削装置(東芝機械社製)を用いて、その表面を厚さ135μmで連続的にスライスし、長尺状のエポキシ樹脂シート(長さ:100m)を得た。そして、このエポキシ樹脂シートを純水中に12時間浸漬してポリエチレングリコールを除去し、50℃の乾燥機内で約4時間乾燥させてエポキシ樹脂多孔性支持体を作製した。作製したエポキシ樹脂多孔性支持体の厚さは約120μmであり、平均孔径は0.04μmであった。
【0084】
(複合半透膜の製造)
実施例1で用いたエポキシ樹脂多孔性支持体の代わりに前記エポキシ樹脂多孔性支持体を用いた以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。なお、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面における超純水の接触角を測定したところ10度であった。また、当該複合半透膜を用いて前記スキン層浮き数及び塩阻止率を測定した結果を表1に示す。
【0085】
比較例1
実施例1において、エポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施す代わりに、コロナ放電処理装置(春日電機株式会社製)を用いて、処理速度2m/min及び処理強度280W・min/mの条件で、コロナ放電処理を施したこと以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。なお、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面における超純水の接触角を測定したところ38度であった。また、当該複合半透膜を用いて前記スキン層浮き数及び塩阻止率を測定した結果を表1に示す。
【0086】
比較例2
実施例1において、エポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施す代わりに、エポキシ樹脂多孔性支持体をイソプロピルアルコール20wt%の水溶液に10分間浸漬して親水化処理を施したこと以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。なお、親水化処理を施したエポキシ樹脂多孔性支持体は湿った状態であり、接触角を測定できなかった。また、当該複合半透膜を用いて前記スキン層浮き数及び塩阻止率を測定した結果を表1に示す。
【0087】
比較例3
(ポリスルホン系多孔性支持体の作製)
ポリスルホン(Solvay社製、P−3500)18重量%をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した製膜ドープをポリエステル系不織布(阿波製紙社製、厚み0.09mm、密度0.8g/cm)上にウエット厚み200μmで均一に塗布した。その後、すぐに40〜50℃の純水浴中に3分間浸漬させることにより凝固させ、同時に溶媒であるDMFを完全に抽出洗浄することによって、不織布上にポリスルホン微多孔層を有するポリスルホン系多孔性支持体(厚み140μm)を作製した。
【0088】
(複合半透膜の製造)
実施例1において、エポキシ樹脂多孔性支持体の代わりに前記ポリスルホン系多孔性支持体を用い、窒素ガス流量60L/minの代わりに、窒素ガス流量10L/min及びアンモニアガス流量0.3L/minの条件で大気圧プラズマ処理を施したこと以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。なお、実施例1と同様の方法でポリスルホン系多孔性支持体の処理表面における超純水の接触角を測定したところ35度であった。また、当該複合半透膜を用いて前記スキン層浮き数及び塩阻止率を測定した結果を表1に示す。
【0089】
比較例4
実施例1において、エポキシ樹脂多孔性支持体の代わりに前記ポリスルホン系多孔性支持体を用い、大気圧プラズマ処理の代わりにポリスルホン系多孔性支持体をイソプロピルアルコール20wt%の水溶液に10分間浸漬して親水化処理を施したこと以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。なお、親水化処理を施したポリスルホン系多孔性支持体は湿った状態であり、接触角を測定できなかった。また、当該複合半透膜を用いて前記スキン層浮き数及び塩阻止率を測定した結果を表1に示す。
【0090】
比較例5
実施例1において、エポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施す代わりに、エポキシ樹脂多孔性支持体をNaOH10wt%の水溶液(60℃)に30秒間浸漬し、その後純水で30秒間洗浄し、さらに室温で乾燥してケン化処理を施したこと以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。なお、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂多孔性支持体の処理表面における超純水の接触角を測定したところ115度であった。また、当該複合半透膜を用いて前記スキン層浮き数及び塩阻止率を測定した結果を表1に示す。ただし、スキン層浮き数については、支持体上にスキン層が十分に形成されていなかったため測定できなかった。
【0091】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の複合半透膜は、超純水の製造、かん水または海水の脱塩などに好適に用いられ、また染色排水や電着塗料排水などの公害発生原因である汚れなどから、その中に含まれる汚染源あるいは有効物質を除去・回収し、排水のクローズ化にも好適に用いられる。さらに、食品用途などで有効成分の濃縮、浄水や下水用途等での有害成分の除去などの高度処理にも好適に用いられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持体の表面にスキン層を形成するスキン層形成工程を含む複合半透膜の製造方法において、
多孔性支持体は、エポキシ樹脂多孔性支持体であり、
スキン層形成工程の前に、エポキシ樹脂多孔性支持体のスキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理を施すプラズマ処理工程を含むことを特徴とする複合半透膜の製造方法。
【請求項2】
大気圧プラズマ処理は、窒素ガス及び/又はアンモニアガスを含む気体中で行う請求項1記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項3】
大気圧プラズマ処理は、希ガスを含む気体中で行う請求項1記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項4】
大気圧プラズマ処理は、0.1〜5Wsec/cmの放電強度で行う請求項1〜3のいずれかに記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項5】
プラズマ処理工程後、24時間以内にスキン層形成工程を行う請求項1〜4のいずれかに記載の複合半透膜の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−101878(P2011−101878A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229744(P2010−229744)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】