説明

複合半透膜

【課題】 高い透水性を有する複合半透膜を提供する。
【解決手段】 多孔性支持膜と高分子化された液晶薄膜からなる複合半透膜であって、該高分子化された液晶が双連続キュービック構造を呈することを特徴とする、複合半透膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な複合半透膜に関する。
【背景技術】
【0002】
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法の利用が拡大している。膜分離法に使用される膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などがあるが、なかでもナノろ過膜および逆浸透膜は、低分子量の有機物やイオンの除去が可能であるため、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などから飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などに用いられている。
【0003】
ナノろ過膜および逆浸透膜の形態としては、膜に物理的強度を与える微多孔性支持膜と、実質的な分離性能を与える分離機能層とからなる複合半透膜が主流となっており、微多孔性支持膜および分離機能層についてそれぞれ最適な素材を選択できる利点がある。
【0004】
分離機能層素材の一つとして液晶が知られている。液晶は自己組織化によって規則的な周期構造を形成するため、この特性を利用することで均一な大きさのチャンネルを有する高性能な分離膜の作製が可能であると考えられる。特許文献1および特許文献2には、液晶を分離機能層に用いた分離膜が開示されている。しかしながら、これらの分離膜は透水性が低いために水処理用の分離膜として実用的なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/060531号パンフレット(特許請求の範囲)
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/173693号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、透水性の高い複合半透膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、下記(1)〜(4)で構成される。
(1)微多孔性支持膜と高分子化された液晶薄膜からなる複合半透膜であって、該高分子化された液晶が双連続キュービック構造を呈することを特徴とする、複合半透膜。
(2)前記高分子化された液晶が、式1で表される化合物を高分子化して得られたものであることを特徴とする、(1)に記載の複合半透膜。
【0008】
【化1】

(式1中、
X-は、Cl-、Br-、I-、F-、BF4-、PF6-、CF3SO3-、(CF3SO2)2N-のいずれかであり、
1R、2R、3Rは、同一でも異なっていてもよく、(CH2)k-1CH3、(CF2)k-1CF3、(CH2)l(CF2)k-l-1CF3、または(CH2CH2O)lCH3であり、
kは1から18までの数、lは0から4までの数、mは1から5までの数、nは6から22までの数、k-lは1以上の数である。)
(3)前記高分子化された液晶が、式2で表される化合物を高分子化して得られたものであることを特徴とする、(1)に記載の複合半透膜。
【0009】
【化2】

(式2中、
X-は、Cl-、Br-、I-、F-、BF4-、PF6-、CF3SO3-、(CF3SO2)2N-のいずれかであり、
1R、2R、3Rは、同一でも異なっていてもよく、(CH2)k-1CH3、(CF2)k-1CF3、(CH2)l(CF2)k-l-1CF3、または(CH2CH2O)lCH3であり、
kは1から18までの数、lは0から4までの数、mは1から5までの数、nは6から22までの数、k-lは1以上の数である。)
(4)前記高分子化された液晶が、式3で表される化合物を高分子化して得られたものであることを特徴とする、(1)に記載の複合半透膜。
【0010】
【化3】

(式3中、
X-は、Cl-、Br-、I-、F-、BF4-、PF6-、CF3SO3-、(CF3SO2)2N-のいずれかであり、
1R、2R、3Rは、同一でも異なっていてもよく、(CH2)k-1CH3、(CF2)k-1CF3、(CH2)l(CF2)k-l-1CF3、または(CH2CH2O)lCH3であり、
4R、5R、6Rは、同一でも異なっていてもよく、CH2=CH-COO-、CH2=CCH3-COO-、CH2=CH-CH=CH-、Hのいずれかであり、
kは1から18までの数、lは0から4までの数、mは1から5までの数、nは6から22までの数、k-lは1以上の数である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い透水性を有する複合半透膜を得ることができる。本発明の複合半透膜は、例えば海水やかん水の淡水化、硬水の軟水化などに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)〜(c)は本発明を構成する高分子化された液晶の双連続キュービック液晶構造を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
本発明の複合半透膜は、微多孔性支持膜と高分子化された液晶薄膜により構成され、この高分子化された液晶薄膜が微多孔性支持膜上に被覆されたものである。
【0015】
本発明において微多孔性支持膜は、実質的にイオン等の分離性能を有する分離機能層に強度を与えるためのものである。本発明に用いる微多孔性支持膜の表面の孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一な細孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな細孔を持ち、かつ、分離機能層が形成される側の表面で微細孔の大きさが1nm以上100nm以下であるような支持膜が好ましい。微多孔性支持膜表面の細孔径がこの範囲であれば、得られる複合半透膜が高い透水性を有し、かつ加圧運転中に分離機能層が微多孔性支持膜の孔内に落ち込むことなく構造を維持できる。
【0016】
ここで、微多孔性支持膜表面の細孔径は、電子顕微鏡写真により算出できる。写真撮影し、観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めた値を指す。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求めることができる。別の手段としては、示差走査熱量測定(DSC)により求めることができる(石切山他、ジャーナル・オブ・コロイド・アンド・インターフェイス・サイエンス、171巻、p103、アカデミック・プレス・インコーポレーテッド(1995))にその詳細が記載されている。
【0017】
微多孔性支持膜の厚みは、1μm〜5mmの範囲内にあると好ましく、10〜100μmの範囲内にあるとより好ましい。厚みが小さいと微多孔性支持膜の強度が低下しやすく、その結果、複合半透膜の強度が低下する傾向にある。厚みが大きいと微多孔性支持膜およびそれから得られる複合半透膜を曲げて使うときなどに取り扱いにくくなる。また、複合半透膜の強度を上げるため、微多孔性支持膜は布、不織布、紙などで補強されていてもよい。これら補強する材料の好ましい厚みは50〜150μmである。
【0018】
微多孔性支持膜に用いる素材は特に限定されない。たとえばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーが使用できる。これらのポリマーを単独で、またはブレンドして用いることができる。上記のうち、セルロース系ポリマーとしては、酢酸セルロース、硝酸セルロースなどが例示される。ビニル系ポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが好ましいものとして例示される。中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマーやコポリマーが好ましい。さらに、これらの素材の中でも、化学的安定性、機械的強度、熱安定性が高く、成型が容易であるポリスルホン、ポリエーテルスルホンを用いることが特に好ましい。
【0019】
本発明の分離機能層は、複合半透膜において実質的に分離性能を有する層であって、高分子化された液晶薄膜により形成される。
【0020】
本発明の複合半透膜における高分子化された液晶薄膜の厚みは5〜500nmの範囲内にあると好ましい。下限としてはより好ましくは10nmである。上限としてより好ましくは200nmである。薄膜化することによりクラックが入りにくくなり、欠点による溶質除去性能の低下を回避できる。さらにそのように薄膜化した液晶薄膜は高い透水性を有する。
【0021】
本発明における高分子化された液晶は、例えば以下の式1または式2または式3で表される化合物を高分子化して得られる。
【0022】
【化4】

(式1中、X-は、Cl-、Br-、I-、F-、BF4-、PF6-、CF3SO3-、(CF3SO2)2N-のいずれかであり、
1R、2R、3Rは、同一でも異なっていてもよく、(CH2)k-1CH3、(CF2)k-1CF3、(CH2)l(CF2)k-l-1CF3、または(CH2CH2O)lCH3であり、
kは1から18までの数、lは0から4までの数、mは1から5までの数、nは6から22までの数、k-lは1以上の数である。)
【0023】
【化5】

(式2中、X-は、Cl-、Br-、I-、F-、BF4-、PF6-、CF3SO3-、(CF3SO2)2N-のいずれかであり、
1R、2R、3Rは、同一でも異なっていてもよく、(CH2)k-1CH3、(CF2)k-1CF3、(CH2)l(CF2)k-l-1CF3、または(CH2CH2O)lCH3であり、
kは1から18までの数、lは0から4までの数、mは1から5までの数、nは6から22までの数、k-lは1以上の数である。)
【0024】
【化6】

(式3中、X-は、Cl-、Br-、I-、F-、BF4-、PF6-、CF3SO3-、(CF3SO2)2N-のいずれかであり、
1R、2R、3Rは、同一でも異なっていてもよく、(CH2)k-1CH3、(CF2)k-1CF3、(CH2)l(CF2)k-l-1CF3、または(CH2CH2O)lCH3であり、
4R、5R、6Rは、同一でも異なっていてもよく、CH2=CH-COO-、CH2=CCH3-COO-、CH2=CH-CH=CH-、Hのいずれかであり、
kは1から18までの数、lは0から4までの数、mは1から5までの数、nは6から22までの数、k-lは1以上の数である。)
【0025】
式1の構造式から明らかなように、これらの化合物は高極性部位と低極性部位とを分子内に併せ持っている。相分離によってそれぞれの部位が連続的に分子間で連結され、双連続キュービック液晶構造が形成される。高極性部位の連結により親水性のチャンネルが形成され、低極性部位の連結によりチャンネル以外の疎水性部分が形成される。
【0026】
ここで、図1は液晶薄膜の双連続キュービック液晶構造を示す図である。
【0027】
双連続キュービック液晶構造は、立方晶の対称性を有する液晶構造であり、3つの空間群(Ia3d, Pn3m, Im3n)に分類される。
【0028】
図1(a)に示すように、Ia3d型の双連続キュービック液晶相は、3本で連結したシリンダーの連続的な格子(分岐点から3本)が2つ組み合わさって立方晶を形成している。別名でジャイロイド構造とも呼ばれる。
【0029】
図1(b)に示すように、Pn3m型の双連続キュービック液晶相は、4本で連結したシリンダーの連続的な格子(分岐点から4本)が2つ組み合わさって立方晶を形成している。ダイヤモンド構造に類似している。
【0030】
図1(c)に示すように、Im3n型の双連続キュービック液晶相は、6本で連結したシリンダーの連続的な格子(分岐点から6本)が2つ組み合わさって立方晶を形成している。
【0031】
双連続キュービック構造に関する記載のある文献として、参考文献1(公開特許第2008-37823号公報)、参考文献2(T. Ichikawa, M. Yoshio, A. Hamasaki, T. Mukai, H. Ohno and T.Kato, J. Am. Chem. Soc. 129, 10662-10663 (2007))、参考文献3(A. D. Benedicto and D. F. O’Brien, Macromolecules, 30, 3395-3402 (1997).)、参考文献4(C. Tschierske, J. Mater. Chem., 8, 1485-1508 (1998).)などが挙げられる。
【0032】
次に、本発明の複合半透膜の製造方法について説明する。
【0033】
分離機能層である高分子化された液晶薄膜を微多孔性支持膜上に形成するために例示される方法は、微多孔性支持膜上に液晶薄膜を形成する工程と液晶を重合して高分子化する工程からなる。
【0034】
微多孔性支持膜上に液晶薄膜を形成する方法は特に限定されない。例えば、液晶溶液を微多孔性支持膜上に塗布後、溶媒を除去する方法、剥離性基材上に形成した液晶薄膜を微多孔性支持膜上へ転写する方法などが挙げられる。
【0035】
液晶溶液を微多孔性支持膜上に塗布する方法は特に限定されないが、均一に塗布できる方法が好ましく、例えば、液晶溶液をスピンコーター、ワイヤーバー、フローコーター、ダイコーター、ロールコーター、スプレーなどの装置を用いて塗布する方法が挙げられる。液晶溶液の溶媒としては、微多孔性支持膜を溶解せず、液晶および必要に応じて添加される重合開始剤を溶解するものであれば、特に限定されない。液晶溶液の溶媒除去は公知の方法により可能であり、特に限定されるものではないが、液晶の自己組織化を妨げないように加熱や減圧によって十分に除去することが好ましい。
【0036】
剥離性基材上での液晶薄膜の形成は公知の方法により可能であり、特に限定されるものではないが、液晶溶液を剥離性基材上に塗布後、溶媒を除去する方法が好ましく用いられる。この方法では、液晶濃度等の塗布条件により液晶薄膜の膜厚を容易に制御することができる。また剥離性基材としては、ガラス、金属、シリコンウェハ、高分子等の材料が特に限定されることなく使用できる。また、必要に応じて、シリコンコートやコロナ放電等により表面処理された剥離性基材を用いることもできる。液晶溶液を剥離性基材上に塗布する方法は特に限定されないが、均一に塗布できる方法が好ましく、例えば、液晶の溶液をスピンコーター、ワイヤーバー、フローコーター、ダイコーター、ロールコーター、スプレーなどの装置を用いて塗布する方法が挙げられる。液晶溶液の溶媒としては、剥離性基材を溶解せず、液晶および必要に応じて添加される重合開始剤を溶解するものであれば、特に限定されない。液晶溶液の溶媒除去は公知の方法により可能であり、特に限定されるものではないが、液晶の自己組織化を妨げないように加熱や減圧によって十分に除去することが好ましい。
【0037】
つづいて、剥離性基材上に形成した液晶薄膜の表面と微多孔性支持膜の表面を接触させてから、液晶を重合して高分子化した後、剥離性基材を剥離することにより、目的とする複合半透膜が得られる。
【0038】
液晶を重合して高分子化する方法としては、熱処理、電磁波照射、電子線照射、プラズマ照射などが挙げられる。ここで電磁波とは赤外線、紫外線、X線、γ線などを含む。重合方法は適宜最適な選択をすればよいが、ランニングコスト、生産性などの点から電磁波照射による重合が好ましい。電磁波の中でも赤外線照射や紫外線照射が簡便性の点からより好ましい。実際に赤外線または紫外線を用いて重合を行う際、これらの光源は選択的にこの波長域の光のみを発生する必要はなく、これらの波長域の電磁波を含むものであればよい。しかし、重合時間の短縮、重合条件の制御し易さなどの点から、これらの電磁波の強度がその他の波長域の電磁波に比べ高いことが好ましい。
【0039】
電磁波は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、UVランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプ、希ガス蛍光ランプ、水銀灯などを用いて発生させることができる。電磁波のエネルギーは重合が進行するものであれば特に制限されないが、装置及び取り扱いの簡便さから紫外線を用いることが好ましい。本発明に係る分離機能層の厚み、形態はそれぞれの重合条件によっても大きく変化することがあり、電磁波による重合であれば電磁波の波長、強度、被照射物との距離、処理時間により変化することがある。そのためこれらの条件は適宜最適化を行う必要がある。特に、反応温度は液晶の秩序構造を維持するために重要な因子であり、液晶の構造に応じて液晶相を呈する温度範囲内に制御する必要がある。
【0040】
本発明の製造方法においては、重合反応速度を高める目的で液晶に重合開始剤、重合促進剤等を添加することが好ましい。ここで、重合開始剤、重合促進剤とは特に限定されるものではなく、液晶の構造、重合手法などに合わせて適宜選択されるものである。
【0041】
重合開始剤としては、使用する溶媒に溶解するものであれば、公知のものを特に制限無く用いることができる。例えば、電磁波による重合の開始剤としては、ベンゾインエーテル、ジアルキルベンジルケタール、ジアルコキシアセトフェノン、アシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシド、α−ジケトン(例えば、9,10−フェナントレンキノン)、ジアセチルキノン、フリルキノン、アニシルキノン、4,4’−ジクロロベンジルキノンおよび4,4’−ジアルコキシベンジルキノン、およびショウノウキノンが、例示される。熱による重合の開始剤としては、アゾ化合物(例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)もしくはアゾビス−(4−シアノバレリアン酸)、または過酸化物(例えば、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル、過オクタン酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチルもしくはジ−(tert−ブチル)ペルオキシド)、さらに芳香族ジアゾニウム塩、ビススルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アルキルリチウム、クミルカリウム、ナトリウムナフタレン、ジスチリルジアニオンなどが例示される。なかでもベンゾピナコールおよび2,2’−ジアルキルベンゾピナコールは、ラジカル重合のための開始剤として特に好ましい。
【0042】
過酸化物およびα−ジケトンは、開始反応を加速するために、好ましくは、芳香族アミンと組み合わせて使用される。この組み合わせはレドックス系とも呼ばれる。このような系の例としては、過酸化ベンゾイルまたはショウノウキノンと、アミン(例えば、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチル−アミノ安息香酸エチルエステルまたはその誘導体)との組み合わせである。さらに、過酸化物を、還元剤としてのアスコルビン酸、バルビツレートまたはスルフィン酸と組み合わせて含有する系もまた好ましい。
【0043】
重合開始剤の添加量は、多すぎると液晶の自己組織化を阻害してしまうため、液晶に対して5重量%以下であることが好ましい。
【0044】
このようにして得られた複合半透膜はこのままでも使用できるが、使用する前に例えばアルコール含有水溶液、アルカリ水溶液によって膜の表面を親水化させることが好ましい。
【0045】
上記の方法により形成される本発明の複合半透膜は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0046】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0047】
流体分離装置の操作圧力は高い方が塩阻止率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、0.1MPa以上、10MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると塩阻止率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0048】
本発明の複合半透膜によって処理される原水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L〜100g/Lの塩を含有する液状混合物が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下において実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0050】
実施例および比較例における膜の特性は、複合半透膜に、濃度500ppm、温度25℃、pH6.5に調整した塩化ナトリウム水溶液を操作圧力0.75MPaで供給して膜ろ過処理を行い、透過水、供給水の水質を測定することにより求めた。
【0051】
(塩阻止率)
塩阻止率(%)=100×{1−(透過水中の塩濃度/供給水中の塩濃度)}
(膜透過流束)
膜造水量(L/m/h/bar)=1時間あたりの造水量/膜面積/有効圧力
(実施例1)
ポリエステル不織布上にポリスルホンの15.7重量%ジメチルホルムアミド溶液を200μmの厚みで、室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって微多孔性支持膜を作製した。
【0052】
式4で表される液晶を2.0重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.02重量%を含むエタノール溶液をスピンコートにより微多孔性支持膜上に塗布した後、真空乾燥して液晶薄膜を形成した。(この液晶薄膜を構成する液晶は、−5〜21℃の範囲で双連続キュービック構造を呈した。)波長365nmの紫外線を液晶薄膜表面に30分間照射して液晶薄膜を高分子化し、複合半透膜を作製した。高分子化された液晶薄膜は双連続キュービック構造を有していた。得られた複合半透膜を用いて加圧膜ろ過運転を行った結果を表1に示した。
【0053】
【化7】

【0054】
(実施例2)
ポリエステル不織布上にポリスルホンの15.7重量%ジメチルホルムアミド溶液を200μmの厚みで、室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって微多孔性支持膜を作製した。
【0055】
上記式4で表される液晶を2.0重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.02重量%を含むエタノール溶液をスピンコートによって剥離性基材であるシリコンでコートされたPETフィルム上に塗布した後、真空乾燥して液晶薄膜を形成した。(この液晶薄膜を構成する液晶は、−5〜21℃の範囲で双連続キュービック構造を呈した。)液晶薄膜表面に微多孔性支持膜表面を接触させた後、波長365nmの紫外線を剥離性基材側から30分間照射して液晶薄膜を高分子化した。得られた複合物から剥離性基材を剥離し、目的とする複合半透膜を作製した。高分子化された液晶薄膜は双連続キュービック構造を有していた。
【0056】
このようにして得られた複合半透膜に、pH6.5に調整した500ppm食塩水を、0.75MPa、25℃の条件下で供給して加圧膜ろ過運転を行い、透過水、供給水の水質を測定することにより、表1に示す結果が得られた。
【0057】
(比較例1)
特許文献1(国際公開第2004/060531号パンフレット)に記載の実施例2から算出される膜造水量を表1に示した。
【0058】
(比較例2)
特許文献2(米国特許出願公開第2009/173693号公報)に記載の実施例2から算出される膜造水量を表1に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
以上のように、本発明により得られる複合半透膜は、既存の液晶膜では達成できなかった高い透水性を有しており、実用性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の複合半透膜は、特に、かん水や海水の脱塩や硬水の軟水化などに有用な半透膜の製造に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔性支持膜と高分子化された液晶薄膜からなる複合半透膜であって、該高分子化された液晶が双連続キュービック構造を呈することを特徴とする、複合半透膜。
【請求項2】
前記高分子化された液晶が、式1で表される化合物を高分子化して得られたものであることを特徴とする、請求項1に記載の複合半透膜。
【化1】

(式1中、
X-は、Cl-、Br-、I-、F-、BF4-、PF6-、CF3SO3-、(CF3SO2)2N-のいずれかであり、
1R、2R、3Rは、同一でも異なっていてもよく、(CH2)k-1CH3、(CF2)k-1CF3、(CH2)l(CF2)k-l-1CF3、または(CH2CH2O)lCH3であり、
kは1から18までの数、lは0から4までの数、mは1から5までの数、nは6から22までの数、k-lは1以上の数である。)
【請求項3】
前記高分子化された液晶が、式2で表される化合物を高分子化して得られたものであることを特徴とする、請求項1に記載の複合半透膜。
【化2】

(式2中、
X-は、Cl-、Br-、I-、F-、BF4-、PF6-、CF3SO3-、(CF3SO2)2N-のいずれかであり、
1R、2R、3Rは、同一でも異なっていてもよく、(CH2)k-1CH3、(CF2)k-1CF3、(CH2)l(CF2)k-l-1CF3、または(CH2CH2O)lCH3であり、
kは1から18までの数、lは0から4までの数、mは1から5までの数、nは6から22までの数、k-lは1以上の数である。)
【請求項4】
前記高分子化された液晶が、式3で表される化合物を高分子化して得られたものであることを特徴とする、請求項1に記載の複合半透膜。
【化3】

(式3中、
X-は、Cl-、Br-、I-、F-、BF4-、PF6-、CF3SO3-、(CF3SO2)2N-のいずれかであり、
1R、2R、3Rは、同一でも異なっていてもよく、(CH2)k-1CH3、(CF2)k-1CF3、(CH2)l(CF2)k-l-1CF3、または(CH2CH2O)lCH3であり、
4R、5R、6Rは、同一でも異なっていてもよく、CH2=CH-COO-、CH2=CCH3-COO-、CH2=CH-CH=CH-、Hのいずれかであり、
kは1から18までの数、lは0から4までの数、mは1から5までの数、nは6から22までの数、k-lは1以上の数である。)

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−255255(P2011−255255A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129412(P2010−129412)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託研究「省水型・環境調和型水循環プロジェクト/水循環要素技術研究開発/革新的膜分離技術の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】