説明

複合型中空電波吸収体及びそれを用いた電波吸収壁、電波暗室

【課題】 30MHz〜3GHz程度の広い周波数帯域に渡って−20dB以上の反射減衰量を得ることの出来る電波吸収壁を構成する複合型中空電波吸収体およびそれを用いた電波吸収壁、電波暗室を提供する。
【解決手段】 導電性薄板2を、中空部を有する楔型またはピラミッド型に形成した中空電波吸収体と、フェライトタイル3とで構成した複合型中空電波吸収体1の中空部に複素誘電率の虚数部ε”が0.1〜2.0の範囲である誘電損失体4を備え、誘電損失体4は中空部の先端に配置する上部損失体41と、フェライトタイル3から距離lをおいて配置する下部損失体42からなり、上部損失体41は波長λの12分の1以上の厚みdを有し、距離lはフェライトタイル3の共振点を挟んで電波の反射減衰量が−20dBとなる周波数のうち高い方の周波数における波長λの6分の1以上である複合型中空電波吸収体を得て、前記複合型中空電波吸収体を用いた電波吸収壁、電波暗室を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はEMI測定などを行う電波暗室の内壁面等に主に用いられる電波吸収体およびそれを用いた電波吸収壁、電波吸収体に関し、更に詳しくは30MHzから3GHzの周波数範囲で優れた電波吸収特性を示す複合型中空電波吸収体およびそれを用いた電波吸収壁、電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
電波暗室はアンテナの指向性測定や電波伝搬実験、電磁妨害波の評価試験等多様な目的に利用されており、使用目的などによって要求条件が異なるものの、いずれの場合も壁面に電波吸収体を貼って電磁波の反射のない状態を作っている。とりわけ、EMC用に用いられる電波暗室では、30〜300MHz程度の広い周波数帯域に渡って電磁波の反射を抑え、少なくとも−20dB程度の反射減衰量を確保する必要があった。
【0003】
このような広い周波数帯域に対応できる電波暗室に用いられる電波吸収壁には、一般的に複合型の電波吸収壁が用いられ、シールド板上にフェライトタイルを設置し、その上にピラミッド型や楔型のカーボン含浸誘電材料からなる電波吸収体(以下「中実電波吸収体」と称する。)が組み合わせられている。このような複合型電波吸収壁は現在でも多用されているが、電波吸収体コストの削減、軽量化による輸送コストの削減、組み立て作業の利便性向上等の観点から中実電波吸収体に換えて、内部に空洞を有する電波吸収体(以下「中空電波吸収体」と称する。)が用いられるようになってきている。
【0004】
ピラミッド型や楔型の電波吸収体は、自由空間から電磁波が入射する際、インピーダンスの変化が徐々に為されるようにすることで反射を抑えるものであるが、充分な性能を得るために電波吸収体が大型化すると、中実電波吸収体では重量が非常に大きくなるという欠点を有していた。これに対し、導電性薄板でピラミッド型もしくは楔型を構成し、中空化することによって反射減衰量を確保しつつ軽量化を図ったのが中空電波吸収体である。
【0005】
このような中空電波吸収体として、特許文献1にはオーム損失体で構成されており各々が四角形状を有する電波吸収体板と、該2つの電波吸収体板が互いに斜めに対向して楔型状となるように、その先端部及び底部で着脱可能にそれぞれ指示する先端部支持部材及び底部指示部材とを備えたことを特徴とする電波吸収体が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には対をなす電波吸収体板の先端部を互いに付き合わせ、かつ楔形状となるように当該対をなす電波吸収体板の後端部を底部支持部材で支持し、該底部指示部材の前記対をなす電波吸収体板の後端部間に、先端に向かって幅または太さが細く形成された内部電波吸収体を設けたことを特徴とする電波吸収体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−069676号公報
【特許文献2】特開平06−275981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、電子機器の小型化高速化に伴う電磁ノイズの高周波化が顕著になり、より広い範囲の周波数帯域にも対応できる電波暗室が求められている。このような電波暗室に用いる電波吸収壁は、要求特性として、従来の30MHz程度の低い周波数領域のみならず3GHz程度の高い周波数領域についても−20dB以上の反射減衰量を確保する必要があるとされているが、特許文献1に記載の中空電波吸収体を用いても、特に1GHzを超える領域で前記要求特性をクリアすることは困難であるという課題がある。
【0009】
一方、特許文献2に記載されているように、中空電波吸収体の底部に内部電波吸収体を組み合わせることで高周波領域の電波吸収特性を改善することは可能である。しかしながら、中空電波吸収体のみで構成する場合(内部電波吸収体のない場合)に比べ、低周波領域の電波吸収特性は劣ることから、前記要求特性を満足することが困難であるという課題がある。
【0010】
本発明は上記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、30MHz〜3GHz程度の広い周波数帯域に渡って−20dB以上の反射減衰量を得ることの出来る電波吸収壁を構成する複合型中空電波吸収体およびそれを用いた電波吸収壁、電波暗室を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、導電性を有する薄板を備え、中空部を有する楔型もしくはピラミッド型に形成した中空電波吸収体と、平板状のフェライト材からなるフェライトタイルとを接合して構成する複合型中空電波吸収体であって、前記中空部に複素誘電率の虚数部ε”が0.1〜2.0の範囲である誘電損失体を備え、前記誘電損失体は前記中空部の先端に配置する上部損失体と、前記フェライトタイルおよび前記中空電波吸収体の接合面から距離lをおいて配置する下部損失体からなり、前記距離lは前記フェライトタイルの共振点を挟んで電波の反射減衰量が−20dBとなる周波数のうち高い方の周波数における波長λの6分の1以上であることを特徴とする複合型中空電波吸収体が得られる。
【0012】
本発明によれば、前記上部損失体は前記波長λの12分の1以上の厚みdを有していることを特徴とする複合型中空電波吸収体が得られる。
【0013】
本発明によれば、前記複合型中空電波吸収体を用いた電波吸収壁が得られる。
【0014】
本発明によれば、前記複合型中空電波吸収体を備える電波吸収壁を用いた電波暗室が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、30MHz〜3GHz程度の広い周波数帯域に渡って−20dB以上の反射減衰量を確保することの出来る電波吸収壁を構成する中空電波吸収体を提供することが可能となる。また、広い周波数帯域に渡って優れた反射減衰性を有する中空電波吸収体を用いることにより、軽量で組み立て利便性が高く低コストであるという中空電波吸収体の利点を生かした上で要求特性を満足することができる電波吸収壁を提供することが可能となる。更に、前記電波吸収壁を用いた電波暗室を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による複合型中空電波吸収体の第1の実施形態を示す概略断面図である。
【図2】第1の実施形態におけるフェライトタイルの反射減衰量の周波数特性の一例を示す図である。
【図3】本発明による複合型中空電波吸収体の第2の実施形態を示す概略断面図である。
【図4】本発明による複合型中空電波吸収体の第3の実施形態を示す概略断面図である。
【図5】本発明による複合型中空電波吸収体の構成を電波飛来方向から見た概略上面図である。図5(a1)はピラミッド型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た誘電損失体全体の概略上面図であり、図5(a2)はピラミッド型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た下部損失体のみの概略上面図であり、図5(a3)はピラミッド型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た上部損失体のみの概略上面図である。図5(b1)は楔型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た誘電損失体全体の概略上面図であり、図5(b2)は楔型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た下部損失体のみの概略上面図であり、図5(b3)は楔型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た上部損失体のみの概略上面図である。図5(c1)は別の楔型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た誘電損失体全体の概略上面図であり、図5(c2)は別の楔型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た下部損失体のみの概略上面図であり、図5(c3)は別の楔型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た上部損失体のみの概略上面図である。
【図6】本発明による複合型中空電波吸収体の比較例1を示す概略図である。図6(a)は概略断面図、図6(b)は電波飛来方向から見た誘電損失体の概略上面図である。
【図7】本発明による複合型中空電波吸収体の比較例2を示す概略図である。図7(a)は概略断面図、図7(b)は電波飛来方向から見た誘電損失体の概略上面図である。
【図8】本発明による複合型中空電波吸収体の比較例3を示す概略図である。図8(a)は概略断面図、図8(b)は電波飛来方向から見た誘電損失体の概略上面図である。
【図9】本発明による複合型中空電波吸収体の実施例及び比較例1乃至3における低周波領域の反射減衰特性を示す図である。凡例aは実施例、凡例bは比較例1、凡例cは比較例2、凡例dは比較例3である。
【図10】本発明による複合型中空電波吸収体の実施例及び比較例1乃至3における高周波領域の反射減衰特性を示す図である。凡例aは実施例、凡例bは比較例1、凡例cは比較例2、凡例dは比較例3である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
図1は本発明による複合型中空電波吸収体の第1の実施形態を示す概略断面図である。
【0018】
図1に示すように、本発明による複合型中空電波吸収体1は、フェライトタイル3上に導電性薄板2で楔型もしくはピラミッド型を構成する。複合型中空電波吸収体1の先端は電波飛来方向(図示せず)に向けて設置する。中空部には誘電損失体4が上部損失体41と下部損失体42に分割されて設置されており、上部損失体41は複合型中空電波吸収体1の先端に配置する。本実施形態では下部損失体42の断面は台形状に構成されており、その上底と下底はフェライトタイルと平行に設置されている。また、上部損失体41の断面は二等辺三角形状で、この三角形の底辺の距離だけ、下部損失体42は互いに離れて導電性薄板2に取り付けられている。これにより、電波飛来方向から見たときの誘電損失体4の形状は、全体として一つの大きな矩形で表される。
【0019】
本発明に用いられる導電性薄板2は特に材質を限るものではないので従来使用されているもので良く、例えば不燃紙や不燃ボードにカーボンを含むスラリーを塗布したもの、不織布やガラスクロスに含浸させたもの、各種樹脂にカーボン粉末を分散させて板状に構成したものなどが挙げられる。導電率は含有するカーボンの量で適宜調整することが出来る。必要に応じて補強材などを併せて用いても構わない。
【0020】
本発明に用いられるフェライトタイルは要求特性を満足すれば特に材料を限定するものではないが、Ni−Zn系、Ni−ZnーCu系の焼結フェライト等が好ましい。フェライトタイルの厚みは余り薄すぎると割れや欠けが発生しやすくなり、加工のコストが上昇する。厚すぎると重量が増し電波吸収壁を構成するのに適さなくなり、材料コストが上昇する。1〜20mm程度の厚みが好ましい。
【0021】
本発明に用いられる誘電損失体4はウレタンやスチロール、ポリエチレンなどの発泡樹脂にカーボンスラリーを含浸したもの等が挙げられる。誘電損失体の複素誘電率の虚数部ε”は0.1〜2.0の範囲のものが好ましく、ε”が0.1より小さいと非常に大きいものにしないと充分な減衰が得られず、2.0より大きいと整合性が損なわれ特性が劣化するためである。
【0022】
中空電波吸収体の内部に高周波領域で複素誘電率の虚数部ε”の大きい誘電損失体4が設置されることによって、誘電損失体4の厚みが薄い場合でも高周波領域の反射減衰特性が改善されるが、電磁波が誘電損失体4の内部を通過することによってより減衰されるため、更にはε”が大きく薄いものを設置するよりもε”が小さく厚いものを用いた方が空間との整合性に優れるため、特性面から言えば誘電損失体4の厚みは出来るだけ厚い方が好ましい。
【0023】
誘電損失体4のうち上部損失体41の厚みdは、波長λの12分の1以上の厚みであることが好ましい。これは、電磁波が上部損失体41の内部を通過することによる減衰の効果を十分に得るためには、一定以上の損失体の厚みが必要であり、発明者らによる検証では、少なくとも波長λの12分の1以上の損失体厚みが必要なためである。また、上部損失体41は高周波領域でより反射減衰特性を向上させることの出来る位置に配置されるため、一定以上の損失体の厚みを備えることにより効率的に電磁波の内部通過による減衰効果を発揮することができる。
【0024】
また、下部損失体42はフェライトタイル3に最も近いところでフェライトタイル3との距離lが、波長λの6分の1以上であることが好ましい。これは、フェライトタイル3が空間のインピーダンスに合わせて設計されていることから、フェライトタイル3の直上に空間よりも大きいインピーダンスを有する誘電損失体が設置されると、インピーダンスの整合性を損ない、フェライトタイルが担う低周波領域の反射減衰特性が低下するためである。発明者らの検証によれば、下部損失体42のフェライトタイル3との距離lは、少なくとも波長λの6分の1以上の距離を離すことによって整合性の劣化を抑えられることが分かっている。
【0025】
なお、上部損失体41の厚みdを定めた場合であっても、下部損失体42の厚みを制限するものではなく、下部損失体42も上部損失体41と同等以上の厚みを備えていればなお良い。下部損失体42の厚みは厚い程、電磁波の反射減衰量は大きくなり、ε”が小さく厚い程空間との整合性は良好で、複合型中空電波吸収体1の反射減衰特性が向上することが分かっている。また、誘電損失体4のトータルの厚みは物理的に中空電波吸収体の高さhから下部損失体42のフェライトタイル3との距離lを除いた長さが最大となるが、重量やコストの面から言えば出来るだけ薄い方が好ましく、誘電損失体4の厚みは反射減衰特性とコスト等の兼ね合いで適宜決定される。
【0026】
誘電損失体4の設置位置は、本発明者らの検証によって中空部の先端に近い程、高周波領域の反射減衰特性が向上することが分かった。一方、誘電損失体4全体の電波飛来方向から見た中空電波吸収体に対する投影面積は、誘電損失体4による電波吸収が有効な面積と同義であり、出来るだけ広いことが求められる。下部損失体42とフェライトタイル3との距離lをλ/6以上取ることが必要であるため、距離lは出来るだけλ/6に近い方が有利である。高周波領域の反射減衰特性を向上させ、なおかつフェライトタイル3から誘電損失体4を離して整合性を確保するためには、誘電損失体4を中空部の先端に設置すればよいが、同じ体積の誘電損失体4を置くものと仮定すると投影面積が非常に小さくなり、誘電損失体4を置く効果が減じてしまう。また、距離lをλ/6の位置にのみ設置すると誘電損失体4の投影面積が確保できても厚みが薄いものとなってしまう。このため、誘電損失体4を分割して設置することが有効である。
【0027】
図2は第1の実施形態におけるフェライトタイルの反射減衰量の周波数特性の一例を示す図である。図2に示す周波数特性は、フェライトをトロイダル状に形成し1ターンコイルを取り付けてネットワークアナライザーにてインピーダンスを測定し、タイルとして使用するときの厚みに換算して反射減衰量を算出している。
【0028】
ここでフェライトタイルのみで−20dBの反射減衰量が得られるのは200MHz付近にある共振点を挟んで概ね50MHz〜500MHzの帯域である。本発明ではフェライトタイルでは補えない高周波領域の特性を向上させることが一つの目的であるので、フェライトタイルの特性が−20dBを満たさなくなる周波数のうち、高い方の周波数500MHzが当該周波数となり、この時の波長λは600mmである。
【0029】
反射減衰量の周波数特性はフェライトの組成や厚みによって異なるため、実際に使用するフェライトタイルの特性によって本発明で言う波長λの大きさは異なる。つまり、本発明の複合型中空電波吸収体では、使用するフェライトタイルの特性によって、内部に設置する誘電損失体の厚みやフェライトタイルからどのぐらい離すかで規定した設置位置が異なることになる。具体的に図2に示した例で言えば、波長λが600mmであるので、上部損失体の厚みdはd≧λ/12=50mm、下部損失体とフェライトタイルとの距離lはl≧λ/6=100mmとなる。
【0030】
(第2の実施形態)
図3は、本発明による複合型中空電波吸収体の第2の実施形態を示す概略断面図である。
【0031】
第2の実施形態は、第1の実施形態と基本的な構成は同じであるが、下部損失体42の形状が異なる例を示したものである。ここでは比較のために第1の実施形態と同じ体積の誘電損失体として説明する。本実施形態によればフェライトタイル3との整合性を損なわずに最大の投影面積をとることの出来る下部損失体42の設置位置は距離lがλ/6の場合である。
【0032】
本実施形態も第1の実施形態同様、誘電損失体全体の電波飛来方向から見た中空電波吸収体に対する投影面積と上部損失体41と下部損失体42を合わせた前記投影面積は等しくなり、電波飛来方向から見たときの誘電損失体全体が一つの大きな矩形で表されるような位置及び寸法関係で設置されている。
【0033】
(第3の実施形態)
図4は、本発明による複合型中空電波吸収体の第3の実施形態を示す概略断面図である。
【0034】
第3の実施形態も、第1および第2の実施形態と基本的な構成は同じであるが、下部損失体42の形状が異なる別の例を示したものである。ここでも第1の実施形態と同じ体積の誘電損失体として説明する。本実施形態によれば、フェライトタイル3との整合性を損なわずに最大の投影面積をとることの出来る下部損失体42の設置位置は距離lがλ/6の場合である。
【0035】
本実施形態も第1および第2の実施形態同様、誘電損失体全体の電波飛来方向から見た中空電波吸収体に対する投影面積と上部損失体41と下部損失体42を合わせた前記投影面積は等しくなり、電波飛来方向から見たときの誘電損失体全体が一つの大きな矩形で表されるような位置及び寸法関係で設置されている。
【0036】
第3の実施形態では、使用する誘電損失体の形状を工夫することで、嵩張らず、導電性薄板2に対してより強固な接着を可能とし、経時的にも安定で組み立て加工が容易であるという特徴がある。
【0037】
第1乃至第3の実施形態で示した、本発明による複合型中空電波吸収体における誘電損失体の配置について更に説明する。
【0038】
図5は、本発明による複合型中空電波吸収体の構成を電波飛来方向から見た概略上面図である。図5(a1)はピラミッド型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た誘電損失体全体の概略上面図であり、図5(a2)はピラミッド型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た下部損失体のみの概略上面図であり、図5(a3)はピラミッド型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た上部損失体のみの概略上面図である。図5(b1)は楔型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た誘電損失体全体の概略上面図であり、図5(b2)は楔型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た下部損失体のみの概略上面図であり、図5(b3)は楔型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た上部損失体のみの概略上面図である。図5(c1)は別の楔型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た誘電損失体全体の概略上面図であり、図5(c2)は別の楔型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た下部損失体のみの概略上面図であり、図5(c3)は別の楔型の中空電波吸収体において電波飛来方向から見た上部損失体のみの概略上面図である。
【0039】
下部損失体42の電波飛来方向から見たときの形状を図5(a2)、図5(b2)のように台形状の誘電損失体同士が接触して四角い枠を作るような構成にすることで、中空電波吸収体の強度補強にもなる。これは特に中空電波吸収体の高さが高く、導電性薄板2が長尺で撓みやすい場合には非常に有効である。
【実施例】
【0040】
本発明の実施例として、図1に示した本発明の第1の実施形態による複合型中空電波吸収体1を楔型で構成し、且つ、電波飛来方向から見た誘電損失体全体が図5(c1)のようになるように構成し、上部損失体41の厚みd=60mm、下部損失体42とフェライトタイル3の距離l=100mmの試料を作製した。誘電損失体全体の電波飛来方向から見た中空電波吸収体に対する投影面積は約90%であった。
【0041】
導電性薄板2には不燃ボードにカーボンスラリーを塗布した1260mm×300mmのものを用い、中空電波吸収体の高さhが1250mmの楔型となるように構成した。使用したフェライトタイル3は厚みが6mmのNi−Zn系焼結フェライトで、共振点を挟んで反射減衰量が−20dBとなる周波数のうち高い方の周波数が500MHz、即ち波長λが600mmである材料を使用した。誘電損失体4には発泡ウレタン樹脂にカーボンスラリーを含浸させ500MHzにおけるε”が0.3である材料を加工して用いた。
【0042】
(比較例1)
図6は本発明による複合型中空電波吸収体の比較例1を示す概略図であり、図6(a)は概略断面図、図6(b)は電波飛来方向から見た誘電損失体の概略上面図である。
【0043】
比較例1は分割されていない厚みdの誘電損失体4を中空電波吸収体の先端部のみに設置した構成である。誘電損失体4は断面が二等辺三角形状である。この時、誘電損失体全体の電波飛来方向から見た中空電波吸収体に対する投影面積は約54%であった。そのほかの構成は実施例と同様であり、使用した誘電損失体はほぼ同じ体積となるように設定した。
【0044】
(比較例2)
図7は本発明による複合型中空電波吸収体の比較例2を示す概略図であり、図7(a)は概略断面図、図7(b)は電波飛来方向から見た誘電損失体の概略上面図である。
【0045】
比較例2は分割されていない厚みdの誘電損失体4をフェライトタイル3の直上に設置した構成である。誘電損失体4は断面が台形状であり、上底と下底はフェライトタイル3と平行で下底はフェライトタイル3に接している。このため、誘電損失体全体の電波飛来方向から見た中空電波吸収体に対する投影面積は100%であった。そのほかの構成は実施例と同様であり、使用した誘電損失体はほぼ同じ体積となるように設定した。
【0046】
(比較例3)
図8は本発明による複合型中空電波吸収体の比較例3を示す概略図である。図8(a)は概略断面図、図8(b)は電波飛来方向から見た誘電損失体の概略上面図である。
【0047】
比較例3は中空電波吸収体の中空部に誘電損失体を持たない、すなわち、基本的に導電性薄板2とフェライトタイル3によって構成したものである。誘電損失体以外の構成は実施例と同様である。
【0048】
図9は本発明による複合型中空電波吸収体の実施例及び比較例1乃至3における低周波領域の反射減衰特性を示す図であり、図9の凡例aは実施例、凡例bは比較例1、凡例cは比較例2、凡例dは比較例3である。
【0049】
図10は本発明による複合型中空電波吸収体の実施例及び比較例1乃至3における高周波領域の反射減衰特性を示す図であり、図10の凡例aは実施例、凡例bは比較例1、凡例cは比較例2、凡例dは比較例3である。
【0050】
反射減衰量の測定は、実施例及び比較例1乃至3として作製した複合型中空電波吸収体に銅板の裏打ちをし、図9に示した低周波領域では自由空間で、図10に示した高周波領域では導波管を用いて、反射波の強度を測定し、銅板のみの時の強度との差を算出することで行った。
【0051】
誘電損失体を設置しない比較例3では、図9の低周波領域については充分な特性が得られているものの、図10の高周波領域で充分な反射減衰量が得られていない。一方、内部に誘電損失体を設置した実施例及び比較例1、比較例2では、図10の高周波領域の反射減衰量が誘電損失体を設置しない比較例3に比べ良好であり、中空電波吸収体の中空部に誘電損失体を設置することが広い周波数帯域に渡って充分な反射減衰量を得るために有効であることが確認された。
【0052】
誘電損失体を設置した構成について比較すると、比較例1では高周波領域で、比較例2では低周波領域で、各々充分な反射減衰量を得られない周波数帯域があった。これに対し、分割して誘電損失体を設置した実施例では、高周波領域も低周波領域も充分な反射減衰量を得ることが出来た。
【0053】
実施例に示した複合型中空電波吸収体を複数用いて整列配置し、電波吸収壁を構成した。前記電波吸収壁を用いて10m法電波暗室を構成したところ、暗室全体として30MHz〜3GHzに渡る広い周波数帯域において−20dB以上の反射減衰量を確保することが出来た。
【0054】
以上、本発明を実施するための形態および実施例について説明したが、本発明はこれら実施するための形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、部材や構成の変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば当然なしえるであろう各種変形や修正もまた、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0055】
1 複合型中空電波吸収体
2 導電性薄板
3 フェライトタイル
4 誘電損失体
41 上部損失体
42 下部損失体
λ 波長
d (誘電損失体の)厚み
h (中空電波吸収体の)高さ
l (下部損失体とフェライトタイルとの)距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する薄板を備え、中空部を有する楔型もしくはピラミッド型に形成した中空電波吸収体と、平板状のフェライト材からなるフェライトタイルとを接合して構成する複合型中空電波吸収体であって、前記中空部に複素誘電率の虚数部ε”が0.1〜2.0の範囲である誘電損失体を備え、前記誘電損失体は前記中空部の先端に配置する上部損失体と、前記フェライトタイルおよび前記中空電波吸収体の接合面から距離lをおいて配置する下部損失体からなり、前記距離lは前記フェライトタイルの共振点を挟んで電波の反射減衰量が−20dBとなる周波数のうち高い方の周波数における波長λの6分の1以上であることを特徴とする複合型中空電波吸収体。
【請求項2】
前記上部損失体は前記波長λの12分の1以上の厚みdを有していることを特徴とする請求項1記載の複合型中空電波吸収体。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載の複合型中空電波吸収体を用いた電波吸収壁。
【請求項4】
請求項1乃至2のいずれかに記載の複合型中空電波吸収体を備える電波吸収壁を用いた電波暗室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−108767(P2011−108767A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260603(P2009−260603)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(501353052)株式会社トーキンEMCエンジニアリング (13)
【Fターム(参考)】