説明

複合多層基板

【課題】小型化可能で、高周波での伝送損失が小さい複合多層基板を提供すること。
【解決手段】導体回路層と誘電体層とが交互に積層されてなり、前記誘電体層が少なくとも1層のセラミック層Cと少なくとも1層の樹脂層Pとから構成される複合多層基板であって、前記樹脂層Pが脂環式構造含有ポリマーを含む架橋性樹脂成形体を硬化してなるものである複合多層基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器用の基板材料、特に高周波領域で用いられる機器に使用される電子部品及び回路基板の製造に好適な複合多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される通信用携帯端末の普及に伴い、扱われる情報は大量となり、各電子機器は大量の情報を処理するため、小型化と共に性能の向上、つまり高速化が求められており、処理能力の指標となるクロック周波数は高周波化が進んでいる。従って、小型化・高性能化を実現すべく、電子機器に組み込まれるプリント回路板にはより一層の小型化・高密度化が求められているのが現状である。
小型化の一つの手段として、複数のプリント回路板を厚み方向に積み上げ積層する、多層化の方法が知られている。多層化の手段としては、無機材料からなる誘電体層を積層する方法や有機材料からなる誘電体層を積層する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱硬化型のポリフェニレンエーテルとシリカまたは/およびガラスとからなる低誘電率層と、熱硬化型のポリフェニレンエーテルとチタン酸ストロンチウムとからなる高誘電率層とを含む積層板を用いた多層配線基板が開示されている。また、特許文献2には、セラミック基板と樹脂積層体とが接合された複合多層基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−017861号公報
【特許文献2】特開2005−223226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが、特許文献1に記載の方法で多層配線基板を作製・評価したところ、充分な誘電特性が得られず小型化が困難であることが明らかになった。一方、特許文献2に記載の方法で複合多層基板を作製・評価したところ、小型化に有効な誘電特性を有するが、高周波での伝送損失が大きくなり、高速化が困難であることが明らかになった。
【0006】
本発明の目的は、小型化可能で、高周波での伝送損失が小さい複合多層基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決すべく、プリント回路板の誘電体層を構成する材料及び誘電率に着目して鋭意検討した結果、高誘電率が求められる層をセラミックで形成し、低誘電率が求められる層を脂環式構造含有ポリマーを含む組成物で形成し、誘電体層として、それらの層を組合せることで、誘電率の設計自由度を向上でき、誘電特性が安定で、高周波での伝送損失が小さい多層基板が得られることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば、
〔1〕導体回路層と誘電体層とが交互に積層されてなり、前記誘電体層が少なくとも1層のセラミック層Cと少なくとも1層の樹脂層Pとから構成される複合多層基板であって、前記樹脂層Pが脂環式構造含有ポリマーを含む架橋性樹脂成形体を硬化してなるものである複合多層基板、
〔2〕最外層に位置する2つの誘電体層のいずれもがセラミック層Cからなる前記〔1〕記載の複合多層基板、
〔3〕セラミック層Cの合計厚さと樹脂層Pの合計厚さとの比(樹脂層Pの合計厚さ/セラミック層Cの合計厚さ)が1以下である前記〔1〕又は〔2〕記載の複合多層基板、
並びに
〔4〕誘電体層がガラス繊維を含まないものである前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載の複合多層基板、
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小型化可能で、高周波での伝送損失が小さい複合多層基板が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の複合多層基板は、導体回路層と誘電体層とが交互に積層されてなり、前記誘電体層が少なくとも1層のセラミック層Cと少なくとも1層の樹脂層Pとから構成される複合多層基板であって、前記樹脂層Pが脂環式構造含有ポリマーを含む架橋性樹脂成形体を硬化してなるものである。
【0011】
(導体回路層)
導体回路層は、高導電材料からなる導体パターンで構成される。高導電材料としては、特に限定されないが、例えば、銀、銅又は金が挙げられる。中でも、製造コストを抑える観点から、銅が好ましい。導体回路層は、例えば、公知のコア基板上の導体層や、誘電体層上に積層された、銅箔などの金属箔のベタパターン上に、フォトリソグラフィーの手法を用いて、所望の導体パターンが形成されるようにパターニングされたエッチングレジストを形成し、続いて、エッチングを行うことにより形成することができる。導体パターンは、ランド等の層間接続端子や、ストリップライン等の層内伝送線路の他、キャパシタ及びインダクタ等の集中素子や、λ/4ストリップライン共振器及びλ/2ストリップライン共振器等の分布定数素子などを構成するために用いられる。
【0012】
(誘電体層)
本発明の複合多層基板において誘電体層は少なくとも1層のセラミック層Cと少なくとも1層の樹脂層Pとから構成される。セラミック層Cと樹脂層Pはそれぞれ単層からなっても、複数層からなってもよい。また、1層の誘電体層が、1又は複数のセラミック層Cと1又は複数の樹脂層Pとから形成されていてもよい。
本発明の複合多層基板中、セラミック層Cと樹脂層Pとの積層位置の関係は特に制限されず、誘電体層について見た場合、セラミック層Cと樹脂層Pとは交互に積層されていてもよく(例えば、C/P/C/P;Cはセラミック層、Pは樹脂層、導体回路層は省略。以下、同じ。)、セラミック層C及び/又は樹脂層Pが連続して積層されていてもよい(例えば、C/C/P/P)。樹脂層Pは、セラミック層Cとは異なり接着能を発揮しうることから、積層プロセスを簡略化する観点から、セラミック層C及び/又は樹脂層Pを連続して積層するのが好ましい。
【0013】
誘電体層は、少なくとも1層のセラミック層Cと少なくとも1層の樹脂層Pとから構成されていればよく、誘電体層として、セラミック層Cや樹脂層P以外の誘電体層Oが含まれていてもよい。本発明の複合多層基板中、誘電体層Oの積層位置は、特に制限されるものではない。誘電体層Oの材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、シアネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、フッ素樹脂、スチレン樹脂、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、トリアジン樹脂、及び液晶樹脂などが挙げられる。なお、誘電体層Oの1GHzで20℃の条件での誘電正接としては、通常、0.008以下、好ましくは0.005以下、より好ましくは0.003以下、2GHzで−30〜100℃の範囲で温度変化する条件での比誘電率の温度変化率としては、絶対値で、好ましくは200ppm/℃以下、より好ましくは100ppm/℃以下である。
本発明の複合多層基板の誘電特性の安定性を高める観点から、本発明の複合多層基板の全誘電体層の総層数中、誘電体層Oの層数の割合は、通常、30%以下、好ましくは20%以下である。本発明の複合多層基板の誘電体層は、セラミック層Cと樹脂層Pのみから構成されているのが特に好ましい。
【0014】
本発明の複合多層基板において基板の反りを抑える観点から、最外層に位置する2つの誘電体層のいずれもがセラミック層Cからなるか、及び/又はセラミック層Cの合計厚さと樹脂層Pの合計厚さとの比(樹脂層Pの合計厚さ/セラミック層Cの合計厚さ)が1以下であるのが好ましい。
【0015】
(セラミック層C)
セラミック層Cを構成するセラミックとしては、通常、ガラス粉末とセラミック粉末とを混合してなるガラスセラミック粉末が使用される。
前記ガラス粉末としては、例えば、ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸バリウムガラス、ホウケイ酸ストロンチウムガラス、ホウケイ酸亜鉛ガラス、及びホウケイ酸カリウムガラス等を挙げることができる。前記セラミック粉末としては、例えば、クォーツやクリストバライト等のシリカや、アルミナ、ジルコニア、ムライト、フォレステライト、エンスタタイト、スピネル、マグネシア、ジルコン酸カルシウム、ケイ酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、及びチタン酸バリウム等を挙げることができる。これらの粉末の平均粒子径としては、セラミック層Cの平滑化を高める等の理由から、0.3μm以上1μm以下であるのが好ましい。当該平均粒子径は、後述の無機充填剤の平均粒子径と同様にして求められる。
【0016】
ガラスセラミック粉末を使用する場合には、例えば、ホウケイ酸ガラス粉末と、セラミックフィラー粉末とを混合し、セラミック組成物とすることができる。セラミック層Cは、かかるセラミック組成物を焼結することにより得られるが、ガラス粉末とセラミック粉末との配合割合としては、ガラス粉末を60〜80体積%、骨材であるセラミック粉末を40〜20体積%とすると、強度や焼結性の点で有利である。
【0017】
セラミック層Cは高誘電体層として機能しうるため、本発明の複合多層基板には、当該層の一部を電極で挟み込みキャパシタを形成し、内蔵することが可能である。セラミック層Cを内蔵キャパシタの誘電体として用いる場合には、高誘電体粉末を配合するのが好ましい。高電体粉末としては、例えば、BaTiO、SrTiO、MgTiO、及びBaZrOなどの化合物を挙げることができ、これらの結晶構造がペロブスカイト型構造であるものを、好適に使用することができる。高誘電体粉末の配合量としては、セラミック層C中、通常、5〜70重量%、好ましくは20〜50重量%である。高誘電体粉末の配合量が5重量%未満であると、高誘電率化が難しく、高誘電体粉末の配合量が70重量%を越えると、低温での焼結が難しくなる恐れがある。
【0018】
以下、セラミック層Cの形成方法を、誘電体層であるセラミック層Cと導体回路層とを一括積層する態様を例に説明する。
セラミック層Cの形成にあたっては、まず、所望の配合に調整したセラミックに、分散媒と添加剤とを配合して混練し、スラリーを調製する。
セラミックをスラリー化する分散媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、ブロムクロロメタン、エタノール、ブタノール、プロパノール、トルエン、キシレン、及びその他の有機溶剤、並びにα−テルピネオール等の精油成分を挙げることができる。添加剤としては、結合剤、可塑剤、解膠剤、界面活性剤、湿潤剤、及び焼結助剤等を挙げることができる。焼結助剤としては、例えば、SiO−B系ガラス、SiO−B−Al系ガラス、SiO−B−Al−αO系ガラス(但し、αはCa、Sr、Mg、Ba又はZnを示す。)、SiO−B−βO系ガラス(但し、βはLi、Na又はKを示す。)、SiO−B−Al−βO系(但し、βは上記と同じである。)、Pb系ガラス、及びBi系ガラス等のガラス、又はCuO等の金属酸化物を挙げることができる。こうした焼結助剤は、粒径の小さいものであることが好ましい。いずれの添加剤も公知のものを適宜使用可能である。
【0019】
次いで、調製されたスラリーに適当な有機樹脂バインダーを添加した後、所望の成形手段、例えば、ドクターブレード、圧延法、及び金型プレス等によりシート状に任意の形状に成形し、導体回路層となる導体パターンを印刷した後焼成する。
【0020】
例えば、ドクターブレードによる成形の場合、スラリーと有機樹脂バインダーとの混合物をポリエチレンテレフタレートフィルムなどのバックシート上に塗布し、適度に乾燥させて、グリーンシート用基板を得る。次いで、導体回路層となる導体パターンをグリーンシート用基板上に印刷形成する。例えば、グリーンシート用基板に対して、銅、銀、ニッケル、パラジウム、及び金のうちの1種以上からなる金属粉末に有機バインダー、可塑剤、及び溶剤を添加混合して得た金属ペーストを前記グリーンシート用基板に公知のスクリーン印刷法により所定パターンに印刷塗布する。また、所望により、前記グリーンシート用基板に適当な打ち抜き加工を行ってスルーホールを形成し、スルーホール内にもメタライズペーストを充填する。
焼成にあたっては、まず、グリーンシート用基板成形のために配合したバインダー成分を除去する。バインダーの除去は、100〜700℃の水蒸気を含有する窒素雰囲気中で行われる。この時、成形体の収縮開始温度は750〜850℃程度であることが望ましい。収縮開始温度がこれより低いとバインダーの除去が困難となる傾向があり、成形体中のガラスの特性、特に屈伏点を制御する必要性が生じる。
焼成は、通常、800℃〜1100℃の窒素雰囲気中で行われ、これにより相対密度90%以上まで緻密化される。焼成温度が800℃より低いと緻密化することができず、1100℃を超えると導体パターンとの同時焼成が難しくなる傾向がある。但し、導体パターンの材料として銅を用いる場合には、940℃〜980℃の非酸化性雰囲気中で行うのが好ましい。
セラミック層Cの厚さとしては、通常、10〜300μm、好ましくは100〜200μmである。セラミック層Cの厚さが10μm未満であると、成形が難しく、300μmを越えると、耐衝撃性が低下する恐れがある。
【0021】
(樹脂層P)
樹脂層Pは、脂環式構造含有ポリマーを含む架橋性樹脂成形体を硬化してなるものである。
【0022】
(脂環式構造含有ポリマー)
本発明に用いる脂環式構造含有ポリマーとは、主鎖及び/又は側鎖に脂環式構造を有するポリマーをいう。機械的強度や耐熱性などを高める観点から、主鎖に脂環式構造を有するものが好ましい。
前記脂環式構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械的強度や耐熱性などを向上させる観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造がより好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、同様の観点より、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲である。脂環式構造含有ポリマー中の、脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、目的に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有ポリマー中の、脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、得られるポリマーの透明性や耐熱性が向上し、好ましい。
【0023】
脂環式構造含有ポリマーとしては、特に限定はないが、例えば、シクロオレフィンモノマーの開環重合体、シクロオレフィンモノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体、シクロオレフィンモノマーの付加重合体、シクロオレフィンモノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとの付加共重合体、及びスチレンやα−メチルスチレンなどのビニル芳香族系モノマーからなるポリマーの芳香環部分の水素添加物などが挙げられる。中でも、機械的強度や耐熱性に優れることから、シクロオレフィンモノマーの開環重合体が好ましい。本発明に用いる架橋性樹脂成形体中、これらの脂環式構造含有ポリマーは、それぞれ単独で、又は2種以上が含まれていてもよい。なお、本明細書において、シクロオレフィンとは、炭素−炭素二重結合を含む脂環式構造を有するオレフィンを、シクロオレフィンモノマーとは、シクロオレフィンからなる単量体をいう。
【0024】
脂環式構造含有ポリマーの分子量は、目的に応じて適宜選択すればよいが、テトラヒドロフランを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲であれば、機械的強度と樹脂加工性とが良好にバランスされ好適である。
【0025】
脂環式構造含有ポリマーとしては、得られる複合多層基板においてピール強度と配線埋め込み性を向上させる観点から、その主鎖及び/又は末端にカップリング剤の親水基を有する脂環式構造含有ポリマー(以下、脂環式構造含有ポリマー(A)という場合がある。)が好ましい。
脂環式構造含有ポリマー(A)中、ポリマーに結合しているカップリング剤の親水基は、特に限定されるものではない。カップリング剤の構造は一般に、TiやAl等の金属元素やSiなどに結合したアルコキシ基等からなる親水基と、樹脂などの疎水性表面と相互作用する疎水基とからなる。親水基中のアルコキシ基等の部分は加水分解し、縮合することで無機物表面と結合しうるため、脂環式構造含有ポリマーに結合しているカップリング剤の親水基は、得られる複合多層基板において層間密着性、例えば、樹脂層と金属箔との密着性の向上に寄与するものと推定される。
【0026】
本発明においてカップリング剤の親水基としては、無機物表面への結合反応性が良好であることから、Ti、Al、又はSiに結合した、ヘテロ原子が含まれていてもよい、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜5の、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキロイル基、又はアルケノイル基からなる親水基(X)が好ましく、Siに結合した、ヘテロ原子が含まれていてもよい、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜5の、アルコキシ基、又はアルケニルオキシ基からなる親水基(x)がより好ましい。へテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びハロゲン原子が挙げられる。親水基部分にTiを含むカップリング剤としてはチタネートカップリング剤が、親水基部分にAlを含むカップリング剤としてはアルミネートカップリング剤が、親水基部分にSiを含むカップリング剤としてはシランカップリング剤が、それぞれ挙げられ、前記親水基(X)は、これらのカップリング剤の親水基部分に相当する。脂環式構造含有ポリマー(A)中、親水基は、1種類の親水基からなっても、相異なる2種類以上の親水基からなってもよい。
【0027】
前記チタネートカップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリステアロイルチタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルジアクリルチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネートなどが挙げられる。
【0028】
前記アルミネートカップリング剤としては、例えば、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリプロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム等のアルコキシアルミニウムなどが挙げられる。
【0029】
前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリ(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン類;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン類;β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ジメトキシメチルシリルプロピル)エチレンジアミン、N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン等のアミノシラン類などが挙げられる。
【0030】
カップリング剤の親水基は、当該親水基の、アルコキシ基等ではなく、アルコキシ基等が結合している、TiやAl等の金属元素やSiなどと脂環式構造含有ポリマーとが、直接的に、又は、例えば、2価の炭素数1〜20の有機基を介して間接的に結合することで、脂環式構造含有ポリマーの主鎖及び/又は末端に結合している。前記有機基としては、例えば、へテロ原子を含んでいてもよい、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、へテロ原子を含んでいてもよい、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルケニレン基、及びアリーレン基などが挙げられる。へテロ原子は前記と同様である。脂環式構造含有ポリマー(A)中、カップリング剤の親水基は、1つのモノマー単位に2以上結合していてもよく、また、必ずしも脂環式構造を有するモノマー単位に結合していなくてもよい。
【0031】
脂環式構造含有ポリマー(A)の全モノマー単位100モル%中、カップリング剤の親水基が結合したモノマー単位の割合は、特に限定されないが、得られる複合多層基板においてピール強度と配線埋め込み性とを効率よく高める観点から、通常、0.005〜15モル%、好ましくは0.01〜10モル%、より好ましくは0.05〜8モル%である。なお、カップリング剤の親水基が結合したモノマー単位の割合が15モル%を超えると、得られる効果は、当該割合が15モル%の場合と実質的に同じである。カップリング剤の親水基が結合したモノマー単位の割合は、例えば、NMR(核磁気共鳴)法により求めることができる。かかる割合は、脂環式構造含有ポリマーへのカップリング剤の親水基の結合量を適宜調整することで調整可能である。
【0032】
脂環式構造含有ポリマー(A)中、末端にカップリング剤の親水基が結合した脂環式構造含有ポリマーの割合は、特に限定されないが、例えば、後述の連鎖移動基を有するカップリング剤を用いる架橋性樹脂成形体の製造方法において、連鎖移動基を有するカップリング剤と、当該カップリング剤を除く他の連鎖移動剤との配合割合を適宜調整することで調整可能である。
【0033】
本発明における樹脂層Pは、以上の脂環式構造含有ポリマーを含む架橋性樹脂成形体を硬化してなるものである。架橋性樹脂成形体には、樹脂成分として、本発明の効果の発現が阻害されない範囲であれば、前記したような、脂環式構造含有ポリマー以外の公知の任意の樹脂が含まれていてもよい。当該樹脂成分は、架橋性樹脂成形体の基材樹脂をなす。基材樹脂は、通常、脂環式構造含有ポリマーを50重量%以上含有してなり、好ましくは脂環式構造含有ポリマーのみからなる。なお、前記架橋性樹脂成形体には、前記任意の樹脂の他、脂環式構造含有ポリマー以外のその他の成分が含まれていてもよい。
【0034】
樹脂層Pの厚さとしては、通常、20〜400μm、好ましくは50〜200μmである。樹脂層Pの厚さが20μm未満であると、厚みの制御が難しく、400μmを越えると、薄型化が難しくなり、またセラミック層Cとの積層時に反りが発生する恐れがある。また、樹脂層Pの1GHzで20℃の条件での比誘電率としては、好ましくは7以下、より好ましくは5以下、1GHzで20℃の条件での誘電正接としては、通常、0.008以下、好ましくは0.005以下、より好ましくは0.003以下、2GHzで−30〜100℃の範囲で温度変化する条件での比誘電率の温度変化率としては、絶対値で、好ましくは200ppm/℃以下、より好ましくは100ppm/℃以下である。
【0035】
樹脂層Pの表面及び/又は内部には能動素子及び/又は受動素子を設けても良い。能動素子とは、入力と出力を持ち、外部からのエネルギー供給によりエネルギーの変換を行う機能を有する、電子回路に用いられる電子部品を指し、具体的にはトランジスタ、電界効果トランジスタ(FET)、集積回路(IC)、大規模集積回路(LSI)、送信増幅器(Power Amp)、低雑音増幅器(Low Noise AMP)、及び電圧制御発振器(VCO)等が挙げられる。受動素子とは、エネルギー供給源及びエネルギーの変換機能を持たない、電子回路に用いられる電子部品を指し、具体的にはキャパシタ、インダクタ、抵抗、共振回路、及びこれらの組み合わせからなる各種フィルタが挙げられる。
【0036】
(架橋性樹脂成形体)
本発明に用いる架橋性樹脂成形体は脂環式構造含有ポリマーを必須成分としてなり、所望によりその他の成分を含む。架橋性樹脂成形体の製造方法としては、特に限定されないが、当該成形体を効率的に製造可能であることから、シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、及び架橋剤を含む重合性組成物を開環重合する方法が好ましい。脂環式構造含有ポリマーを脂環式構造含有ポリマー(A)とする場合は、例えば、少なくとも1つのシクロオレフィン構造を有するカップリング剤及び/又は少なくとも1つの連鎖移動基を有するカップリング剤を重合性組成物に配合し開環重合すればよい。
【0037】
(シクロオレフィンモノマー)
前記シクロオレフィンモノマーの脂環構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環及びこれらの組み合わせ多環などが挙げられる。シクロオレフィンモノマーとしては、得られる複合多層基板の機械的強度を向上させる観点から、多環のシクロオレフィンモノマーが好ましい。各環構造を構成する炭素原子数に特に限定はないが、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。シクロオレフィンモノマーは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、及びアリール基などの炭素数1〜30の炭化水素基や、カルボキシル基や酸無水物基などの極性基を置換基として有していてもよい。
【0038】
本発明において、前記シクロオレフィンモノマーとしては、得られる複合多層基板の機械的強度を向上させる観点から、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するものが好適に用いられる。本明細書において架橋性炭素−炭素不飽和結合とは、メタセシス開環重合には関与せず、架橋反応に関与する炭素−炭素不飽和結合をいう。
【0039】
前記架橋性炭素−炭素不飽和結合としては、芳香族炭素−炭素不飽和結合を除く炭素−炭素不飽和結合、すなわち、脂肪族炭素−炭素二重結合又は三重結合が挙げられ、本発明においては、通常、脂肪族炭素−炭素二重結合をいう。架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するシクロオレフィンモノマー中、該不飽和結合の位置は特に限定されるものではなく、炭素原子で形成される脂環構造内の他、該脂環構造以外の任意の位置、例えば、側鎖の末端や内部に存在していてもよい。例えば、前記脂肪族炭素−炭素二重結合は、ビニル基、ビニリデン基、又はビニレン基として存在し得、良好にラジカル架橋性を発揮することから、ビニル基及び/又はビニリデン基として存在するのが好ましく、ビニリデン基として存在するのがより好ましい。
【0040】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーとしては、特に、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーとは、ノルボルネン環構造を分子内に有するシクロオレフィンモノマーをいう。例えば、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、及びテトラシクロドデセン類などが挙げられる。
【0041】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、3−ビニルシクロヘキセン、4−ビニルシクロヘキセン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロへキサジエン、1,4−シクロへキサジエン、5−エチル−1,3−シクロへキサジエン、1,3−シクロへプタジエン、1,3−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィンモノマー;5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−アリルノルボルネン、5,6−ジエチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができる。これらの中では、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0042】
本発明においてシクロオレフィンモノマーとしては、前記架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーの他、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーが用いられる。
【0043】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3,5−ジメチルシクロペンテン、3−クロロシクロペンテン、シクロへキセン、3−メチルシクロへキセン、4−メチルシクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロヘキセン、3−クロロシクロヘキセン、シクロへプテンなどの単環シクロオレフィンモノマー;ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−プロピルノルボルネン、5,6−ジメチルノルボルネン、1−メチルノルボルネン、7−メチルノルボルネン、5,5,6−トリメチルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、テトラシクロドデセン、1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−ヘキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−フルオロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,5−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−シクロへキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジクロロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−イソブチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,2−ジヒドロジシクロペンタジエン、5−クロロノルボルネン、5,5−ジクロロノルボルネン、5−フルオロノルボルネン、5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメチルノルボルネン、5−クロロメチルノルボルネン、5−メトキシノルボルネン、5,6−ジカルボキシルノルボルネンアンハイドレート、5−ジメチルアミノノルボルネン、5−シアノノルボルネンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができる。これらの中でも、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0044】
以上のシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、シクロオレフィンモノマーとして、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーと架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの混合物が用いられる。
【0045】
重合性組成物に用いるシクロオレフィンモノマー中、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーと架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの配合割合は所望により適宜選択すればよいが、重量比(架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマー/架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマー)で、通常、5/95〜100/0、好ましくは10/90〜95/10、より好ましくは15/85〜90/15の範囲である。当該配合割合がかかる範囲にあれば、得られる複合多層基板において耐熱性や機械的強度がバランス良く向上し、好適である。
【0046】
なお、本発明に用いる重合性組成物には、本発明の効果の発現が阻害されない限り、以上のシクロオレフィンモノマーと共重合可能な任意のモノマーが含まれていてもよい。
【0047】
(メタセシス重合触媒)
本発明に用いるメタセシス重合触媒は、前記シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合可能なものであれば、特に限定されない。
メタセシス重合触媒としては、遷移金属原子を中心にして、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表、以下同じ。)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては、好ましくはタンタルが挙げられ、6族の原子としては、好ましくは、モリブデン及びタングステンが挙げられ、8族の原子としては、好ましくは、ルテニウム及びオスミウムが挙げられる。
【0048】
これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体が好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性に優れるため、残留未反応モノマーに由来する臭気が少ない架橋性樹脂成形体を効率的に生産することができる。また、8族のルテニウムやオスミウムの錯体は、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも架橋性樹脂成形体の生産が可能である。
【0049】
ルテニウムカルベン錯体の具体例としては、以下の式(1)又は式(2)で表される錯体が挙げられる。
【0050】
【化1】

【0051】
式(1)及び(2)において、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。X及びXは、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示す。L及びLはそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物又はヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物を表す。また、RとRは互いに結合して、ヘテロ原子を含んでいてもよい、脂肪族環又は芳香族環を形成してもよい。さらに、R、R、X、X、L及びLは、任意の組合せで互いに結合して多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0052】
ヘテロ原子とは、周期表15族及び16族の原子をいう。ヘテロ原子の具体例としては、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、砒素原子、及びセレン原子などが挙げられる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、窒素原子、酸素原子、リン原子、及び硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。
【0053】
ヘテロ原子含有カルベン化合物は、カルベン炭素原子の両側にヘテロ原子が隣接して結合した構造を有するものが好ましく、さらにカルベン炭素原子とその両側のヘテロ原子とを含んでヘテロ環が形成された構造を有するものがより好ましい。また、カルベン炭素原子に隣接するヘテロ原子に嵩高い置換基を有するものが好ましい。
【0054】
ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、以下の式(3)又は式(4)で示される化合物が挙げられる。
【0055】
【化2】

【0056】
式(3)又は式(4)において、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20個の炭化水素基を表す。また、R〜Rは任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0057】
前記式(3)又は式(4)で表される化合物の具体例としては、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1−シクロヘキシル−3−メシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0058】
また、前記式(3)又は式(4)で示される化合物のほかに、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、1,3,4−トリフェニル−4,5−ジヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、3−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−2,3−ジヒドロチアゾール−2−イリデンなどのヘテロ原子含有カルベン化合物も用い得る。
【0059】
前記式(1)及び式(2)において、アニオン(陰イオン)性配位子XとXは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、弗素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0060】
また、中性電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子であればいかなるものでもよい。その具体例としては、カルボニル類、アミン類、ピリジン類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、チオエーテル類、芳香族化合物、オレフィン類、イソシアニド類、及びチオシアネート類などが挙げられる。これらの中でも、ホスフィン類、エーテル類及びピリジン類が好ましく、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
【0061】
前記式(1)で表される錯体化合物としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)[(フェニルチオ)メチレン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−ピロリドン−1−イルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、ヘテロ原子含有カルベン化合物及びヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物が各々1つ結合したルテニウム錯体化合物;
【0062】
ベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)ビス(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、ヘテロ原子含有カルベン化合物以外の2つの中性電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物;
【0063】
ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドなどの、2つのヘテロ原子含有カルベン化合物が結合したルテニウム錯体化合物;などが挙げられる。
【0064】
前記式(2)で表される錯体化合物としては、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(フェニルビニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(t−ブチルビニリデン)(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリン−2−イリデン)フェニルビニリデンルテニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0065】
これらの錯体化合物の中でも、前記式(1)で表され、かつ配位子として前記式(4)で表される化合物を1つ有するものが最も好ましい。
【0066】
メタセシス重合触媒の使用量は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常、1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0067】
メタセシス重合触媒は所望により、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶剤としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では、工業的に汎用な芳香族炭化水素や脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素の使用が好ましい。また、メタセシス重合触媒としての活性を低下させないものであれば、液状の老化防止剤、液状の可塑剤、液状のエラストマーを溶剤として用いてもよい。
【0068】
メタセシス重合触媒は、重合活性を制御し、重合反応率を向上させる目的で活性剤(共触媒)と併用することもできる。
【0069】
活性剤としては、アルミニウム、スカンジウム、スズの、アルキル化物、ハロゲン化物、アルコキシ化物及びアリールオキシ化物などを用いることができる。その具体例としては、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。
【0070】
活性剤の使用量は、(触媒中の金属原子:活性剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0071】
また、メタセシス重合触媒として、5族及び6族の遷移金属原子の錯体を用いる場合には、メタセシス重合触媒及び活性剤は、いずれもモノマーに溶解して用いるのが好ましいが、生成物の性質を本質的に損なわない範囲であれば少量の溶剤に懸濁又は溶解させて用いることができる。
【0072】
(架橋剤)
架橋剤は、本発明に用いられる架橋性樹脂成形体中、基材樹脂において架橋反応を誘起する目的で用いられる。本発明において、架橋剤としては、特に限定されないが、通常、ラジカル発生剤が好適に用いられる。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物、及び非極性ラジカル発生剤などが挙げられる。
【0073】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;などが挙げられる。中でも、開環重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド類及びペルオキシケタール類が好ましい。
【0074】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルホン、4,4’−ジアジドジフェニルメタン、2,2’−ジアジドスチルベンなどが挙げられる。
【0075】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジフェニルブタン、1,4−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2,2−テトラフェニルエタン、2,2,3,3−テトラフェニルブタン、3,3,4,4−テトラフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルプロパン、1,1,2−トリフェニルエタン、トリフェニルメタン、1,1,1−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニルプロパン、1,1,1−トリフェニルブタン、1,1,1−トリフェニルペンタン、1,1,1−トリフェニル−2−プロペン、1,1,1−トリフェニル−4−ペンテン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0076】
これらのラジカル発生剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上のラジカル発生剤を併用し、その量比を調整することで、架橋性樹脂成形体の基材樹脂のガラス転移温度や溶融状態を任意に制御することが可能である。ラジカル発生剤の1分間半減期温度としては、特に限定はないが、通常、150〜300℃、好ましくは180〜250℃の範囲である。ここで1分間半減期温度とは、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。ラジカル発生剤の1分間半減期温度は、例えば、各ラジカル発生剤メーカー(例えば、日本油脂株式会社)のカタログやホームページを参照すればよい。
【0077】
架橋剤の配合量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。架橋剤の配合量がかかる範囲にあれば、架橋性樹脂成形体の硬化時に基材樹脂が充分な架橋密度を有し、所望の物性を有する多層基板が効率的に得られるので、好適である。
【0078】
(シクロオレフィン構造を有するカップリング剤)
前記少なくとも1つのシクロオレフィン構造を有するカップリング剤とは、カップリング剤の疎水基部分に少なくとも1つのシクロオレフィン構造を含むカップリング剤をいう。かかるカップリング剤は、シクロオレフィン構造の存在によりシクロオレフィンモノマーとして機能し、その存在下にシクロオレフィンモノマーを開環重合すると、得られるポリマー鎖中にモノマー単位として組み込まれうる。シクロオレフィン構造を有するカップリング剤としては、特に限定されないが、シクロオレフィンモノマーとして前記したシクロオレフィンに、カップリング剤の親水基が、好ましくは前記親水基(X)が、より好ましくは前記親水基(x)が、結合してなる化合物が挙げられる。シクロオレフィンとカップリング剤の親水基との結合様式は、脂環式構造含有ポリマーとカップリング剤の親水基との結合様式と同様である。少なくとも1つのシクロオレフィン構造を有するカップリング剤としては、例えば、6−トリエトキシシリル−2−ノルボルネンや2−(ビシクロヘプタ−5−エン−2−イル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。少なくとも1つのシクロオレフィン構造を有するカップリング剤の配合量は、特に限定されないが、得られる脂環式構造含有ポリマー(A)の全モノマー単位100モル%中、カップリング剤の親水基が結合したモノマー単位の割合が前記範囲となるように重合性組成物に配合するのが好ましい。
【0079】
(連鎖移動基を有するカップリング剤)
前記少なくとも1つの連鎖移動基を有するカップリング剤とは、カップリング剤の疎水基部分に少なくとも1つの連鎖移動基を含むカップリング剤をいう。かかるカップリング剤は、連鎖移動基の存在により、その存在下にシクロオレフィンモノマーを開環重合すると、連鎖移動剤として機能し、得られるポリマーにおいて末端に位置するモノマー単位に結合しうる。連鎖移動基としては、例えば、ビニル基などが挙げられる。連鎖移動基を有するカップリング剤としては、特に限定されないが、連鎖移動剤として後述する化合物に、カップリング剤の親水基が、好ましくは前記親水基(X)が、より好ましくは前記親水基(x)が、結合してなる化合物が挙げられる。連鎖移動剤として後述する化合物とカップリング剤の親水基との結合様式は、脂環式構造含有ポリマーとカップリング剤の親水基との結合様式と同様である。連鎖移動基を有するカップリング剤としては、例えば、スチリルシラン、アリルシラン、及びアクリロキシシランなどが挙げられる。少なくとも1つの連鎖移動基を有するカップリング剤は、得られる脂環式構造含有ポリマー(A)中の、末端にカップリング剤の親水基が結合した脂環式構造含有ポリマーの割合を調整する観点から、連鎖移動基を有するカップリング剤を除く他の連鎖移動剤と併用してもよい。
【0080】
(その他の成分)
本発明の架橋性樹脂成形体の製造に用いられる重合性組成物には、前述の、シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、少なくとも1つのシクロオレフィン構造を有するカップリング剤、及び少なくとも1つの連鎖移動基を有するカップリング剤の他、所望により、少なくとも1つの架橋性基を有するカップリング剤、無機充填剤、重合調整剤、重合反応遅延剤、連鎖移動剤、反応性流動化剤、架橋助剤、老化防止剤、及び着色料等のその他の成分を配合してもよい。
【0081】
(架橋性基を有するカップリング剤)
本発明に用いる少なくとも1つの架橋性基を有するカップリング剤とは、カップリング剤の疎水基部分に少なくとも1つの架橋性基を含むカップリング剤をいう。かかるカップリング剤は、架橋性基の存在により、本発明の架橋性樹脂成形体の架橋時に架橋反応に関与して脂環式構造含有ポリマーに結合しうる。従って、架橋性基を有するカップリング剤を含む架橋性樹脂成形体を硬化してなる樹脂層Pの基材樹脂は脂環式構造含有ポリマー(A)の硬化物と実質的に同じものとなる。脂環式構造含有ポリマーに結合しているカップリング剤の親水基は無機物表面と結合しうるため、得られる多層基板において層間密着性の向上に寄与するものと推定される。
少なくとも1つの架橋性基を有するカップリング剤としては、特に限定されないが、架橋性基と、カップリング剤の親水基、好ましくは前記親水基(X)、より好ましくは前記親水基(x)とが結合してなる化合物が挙げられる。架橋性基としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ基、アミノ基、ラジカル重合性不飽和基、カルボキシル基、イソシアネート基、ヒドロキシル基、アルコキシシリル基等が挙げられる。中でも、脂環式構造含有ポリマーとの架橋反応性に優れることから、ラジカル重合性不飽和基が好ましく、ビニリデン基がより好ましい。ビニリデン基を含む架橋性基としては、イソプロペニル基やメタクリル基などが挙げられる。架橋性基とカップリング剤の親水基との結合様式は、脂環式構造含有ポリマーとカップリング剤の親水基との結合様式と同様である。架橋性基を有するカップリング剤としては、例えば、メタクリルシランなどが挙げられる。架橋性基を有するカップリング剤の配合量は、特に限定されないが、脂環式構造含有ポリマー(A)の全モノマー単位100モル%中、カップリング剤の親水基が結合したモノマー単位の割合が前記範囲となるように架橋性樹脂成形体に配合するのが好ましい。
【0082】
また、本発明の架橋性樹脂成形体には、得られる複合多層基板においてピール強度と配線埋め込み性をバランスよく高める観点から、テトラアルコキシシラン化合物、テトラアルケニロキシシラン化合物、及びテトラアリーロキシシラン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のシラン化合物を含有させるのが好ましい。シラン化合物において、アルコキシ基、アルケニロキシ基、及びアリーロキシ基の炭素数としては、通常、1〜10の範囲である。シラン化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、及びテトラフェノキシシランなどが挙げられ、加水分解及び縮合の反応性に優れることから、テトラエトキシシランが好ましい。シラン化合物の配合量は、特に限定されないが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対し、通常、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。
【0083】
(無機充填剤)
本発明に用いる無機充填剤としては、特に限定されないが、例えば、誘電体フィラー、低線膨張フィラー、及び非ハロゲン難燃剤などが挙げられる。
【0084】
誘電体フィラーとは誘電体層Pの誘電率を調整する為に用いられる無機フィラーである。
誘電体フィラーとしては、工業的に使用されるものであれば格別な限定なく用いることができる。比誘電率は、インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー社製)により測定することが出来る。かかる誘電体フィラーとしては、例えば、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸ストロンチウム、ジルコン酸鉛、及びジルコニアなどのジルコン酸化物;チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸コバルト、チタン酸亜鉛、及びチタニアなどのチタン酸化物;などを挙げることができる。
【0085】
低線膨張フィラーとは線膨張係数が概して低い無機フィラーである。低線膨張フィラーを架橋性樹脂成形体に配合することで、得られる複合多層基板において機械的強度が向上し、線膨張係数を低減させることができ、好適である。
低線膨張フィラーの線膨張係数としては、通常、15ppm/℃以下である。線膨張係数は、熱機械分析装置(TMA)により測定することができる。かかる低線膨張フィラーとしては、工業的に用いられるものであれば格別な限定なく用いることができる。例えば、シリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、及びストロンチウムフェライト等の無機酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、及びガラスバルーン等の無機ケイ酸塩;などが挙げられ、好ましくはシリカである。
【0086】
非ハロゲン難燃剤は、ハロゲン原子を含まない難燃性化合物からなる。非ハロゲン難燃剤を架橋性樹脂成形体に配合すれば、得られる複合多層基板の難燃性を向上でき、しかも複合多層基板の燃焼時にダイオキシン発生の心配がなく、好適である。非ハロゲン難燃剤としては、工業的に用いられるものであれば格別な限定なく用いることができる。例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物難燃剤;ジメチルホスフィン酸アルミニウムやジエチルホスフィン酸アルミニウムなどのホスフィン酸塩難燃剤;酸化マグネシウムや酸化アルミニウム等の金属酸化物難燃剤;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、及びビスフェノールAビス(ジクレジル)ホスフェートなどの、ホスフィン酸塩以外の含燐難燃剤;メラミン誘導体類、グアニジン類、及びイソシアヌル類等の含窒素難燃剤;ポリ燐酸アンモニウム、燐酸メラミン、ポリ燐酸メラミン、ポリ燐酸メラム、燐酸グアニジン、及びフォスファゼン類等の燐及び窒素の双方を含有する難燃剤;などが挙げられる。非ハロゲン難燃剤としては、金属水酸化物難燃剤、ホスフィン酸塩難燃剤、及びホスフィン酸塩以外の含燐難燃剤が好ましい。含燐難燃剤としては、トリクレジルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、及びビスフェノールAビス(ジクレジル)ホスフェートが特に好ましい。
【0087】
また、本発明においては、比誘電率の温度変化率が正の無機充填剤、及び比誘電率の温度変化率が負の無機充填剤を組み合わせて用いることが好ましい。かかる2種類の無機充填剤を配合することで、樹脂層Pの比誘電率の温度変化が効果的に抑制され、好適である。
【0088】
本発明において、比誘電率の温度変化率とは、2GHzでの−30〜100℃の温度範囲における比誘電率の温度変化率をいう。
無機充填剤の比誘電率の温度変化率は、試料をオーブンに導入して所定の温度範囲にて誘電率を測定し、該誘電率を比誘電率に変換し、温度変化に対する比誘電率変化の割合として求めることができる。本明細書において、比誘電率の温度変化率が正の値となる場合を、比誘電率の温度変化率が正と、比誘電率の温度変化率が負の値となる場合を、比誘電率の温度変化率が負と、それぞれいう。
【0089】
かかる無機充填剤の具体例としては、特開平8−269229号公報に記載されるものを格別な限定なく用いることができる。比誘電率の温度変化率が正の無機充填剤としては、例えば、アルミナ(比誘電率11)、シリカ(比誘電率3.8)、酸化マグネシウム(比誘電率12)、チタン酸マグネシウム(比誘電率18)、水酸化アルミニウム(比誘電率9)、水酸化マグネシウム(比誘電率11)などが挙げられる。これらの比誘電率の温度変化率が正の無機充填剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。かかる無機充填剤は、難燃効果を発揮する場合、難燃剤としての機能を兼ねてもよい。
【0090】
比誘電率の温度変化率が負の無機充填剤としては、例えば、チタニア(比誘電率90)、チタン酸カルシウム(比誘電率180)、チタン酸ストロンチウム(比誘電率250)などが挙げられる。これらの比誘電率の温度変化率が負の無機充填剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。かかる無機充填剤は、難燃効果を発揮する場合、難燃剤としての機能を兼ねてもよい。
【0091】
比誘電率の温度変化率が正の無機充填剤と比誘電率の温度変化率が負の無機充填剤の好適な組合せとしては、本発明の所望の効果を向上させる観点から、前者としてチタン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種と、後者としてチタン酸カルシウム及び/又はチタン酸ストロンチウムとの組合せが挙げられる。
【0092】
本発明の重合性組成物中での、比誘電率の温度変化率が正の無機充填剤と比誘電率の温度変化率が負の無機充填剤との配合割合は、得られる第一の誘電体層の比誘電率の温度変化が最低になるように適宜選択すればよいが、重量比(比誘電率の温度変化率が正の無機充填剤/比誘電率の温度変化率が負の無機充填剤)で、通常、5/95〜95/5、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは20/80〜80/20の範囲である。また、比誘電率の温度変化率が正の無機充填剤と比誘電率の温度変化率が負の無機充填剤との合計配合量は、所望により適宜選択すればよいが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、20〜600重量部、好ましくは40〜400重量部、より好ましくは60〜300重量部の範囲である。
【0093】
無機充填剤の形状は特に限定はされず、球状、粒状、不定形状、樹枝状、針状、棒状、扁平状、中空状であってもよい。本発明に使用される無機充填剤の粒子径(平均粒子径)は、所望により適宜選択すればよいが、粒子を三次元的にみたときの長手方向と短手方向の長さの平均値として、通常、0.001〜50μm、好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.1〜5μmの範囲である。
【0094】
以上の無機充填剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの無機充填剤は、その表面が公知のカップリング剤で処理されたものであってもよい。
【0095】
(連鎖移動剤)
本発明に用いる重合性組成物には、所望により連鎖移動剤を配合してもよい。得られる架橋性樹脂成形体では、加熱硬化時に表面の樹脂追従性が向上しうるため、かかる成形体を積層し、加熱して溶融、架橋して得られる複合多層基板では、層間密着性及び配線埋め込み性が高まり、好ましい。
【0096】
連鎖移動剤は、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有していてもよい。連鎖移動剤の具体例としては、1−ヘキセン、2−ヘキセン、スチレン、ビニルシクロヘキサン、アリルアミン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、及び4−ビニルアニリンなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たない連鎖移動剤;ジビニルベンゼン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ウンデセニル、アクリル酸スチリル、及びエチレングリコールジアクリレートなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1つ有する連鎖移動剤;アリルトリビニルシランやアリルメチルジビニルシランなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を2以上有する連鎖移動剤などが挙げられる。これらの中でも、得られる多層基板において、配線埋め込み性と耐熱性とを高度にバランスさせる観点から、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するものが好ましく、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1つ有するものがより好ましい。かかる連鎖移動剤の中でも、ビニル基とメタクリル基とを1つずつ有する連鎖移動剤が好ましく、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、及びメタクリル酸ウンデセニルなどが特に好ましい。
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明に用いる重合性組成物への連鎖移動剤の配合量としては、得られる多層基板の配線埋め込み性と耐熱性とのバランスを考慮し、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0097】
(反応性流動化剤)
本発明に用いられる反応性流動化剤とは、本発明の架橋性樹脂成形体の基材樹脂において、流動化剤として該樹脂のガラス転移温度(Tg)を低下させ、かつ架橋剤により架橋反応が誘起された後においては当該反応に関与して該樹脂に結合反応性を示す化合物をいう。例えば、本発明に用いる架橋性樹脂成形体が反応性流動化剤を含む場合、当該成形体を金属箔などと積層する際、当該成形体を加熱することで容易に溶融積層することができ、しかも得られる多層基板においては充分な層間密着性が得られる。さらに、反応性流動化剤は、積層する際の加熱で架橋剤により誘起される架橋反応に関与して基材樹脂に結合し得るため、当該加熱以後は、該樹脂中で実質的に遊離の状態で存在することはなく、従って、いわゆる可塑剤のように、得られる複合多層基板の耐熱性を低下させる因子となることもない。むしろ、得られる複合多層基板において耐熱性や耐クラック性を高める効果を奏し得る。
【0098】
本発明に使用される反応性流動化剤としては、シクロオレフィンモノマー中の重合性の炭素−炭素二重結合や、ビニル基などの、開環重合反応に関与し得る脂肪族炭素−炭素不飽和結合を持たず、かつ架橋剤により誘起される架橋反応に関与して重合体に結合し得る脂肪族炭素−炭素不飽和結合や有機基を1つ有する単官能化合物、中でも、重合性の脂肪族炭素−炭素不飽和結合を持たず、かつ架橋性の脂肪族炭素−炭素不飽和結合を1つ有する単官能化合物が好ましい。架橋剤により誘起される架橋反応に関与して脂環式構造含有ポリマーに結合し得る、架橋性の脂肪族炭素−炭素不飽和結合としては、反応性流動化剤を構成する化合物中、例えば、末端ビニリデン基として、特に、イソプロペニル基やメタクリル基として存在するのが好ましく、メタクリル基として存在するのがより好ましい。前記有機基としては、エポキシ基、イソシアネート基、及びスルホ基などが挙げられる。
【0099】
かかる反応性流動化剤としては、例えば、ラウリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、及びメトキシジエチレングリコールメタクリレートなどの、メタクリル基を1つ有する単官能化合物;イソプロペニルベンゼンなどの、イソプロペニル基を1つ有する単官能化合物;などが挙げられ、好ましくはメタクリル基を1つ有する単官能化合物である。これらの反応性流動化剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。反応性流動化剤の配合量は、所望により適宜選択すればよいが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対し、通常、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部である。
【0100】
(架橋助剤)
本発明に用いられる架橋助剤は、開環重合に関与せず、架橋剤により誘起される架橋反応に関与可能な架橋性炭素−炭素不飽和結合を2以上有する化合物が好ましい。かかる架橋性炭素−炭素不飽和結合は、架橋助剤を構成する化合物中、例えば、末端ビニリデン基として、特に、イソプロペニル基やメタクリル基として存在するのが好ましく、メタクリル基として存在するのがより好ましい。
【0101】
架橋助剤の具体例としては、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、o−ジイソプロペニルベンゼンなどの、イソプロペニル基を2以上有する多官能化合物;エチレンジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、1,4−ブチレンジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を2以上有する多官能化合物などを挙げることができる。中でも、架橋助剤としては、得られる多層基板の耐熱性や耐クラック性を向上させる観点から、メタクリル基を2以上有する多官能化合物が好ましい。メタクリル基を2以上有する多官能化合物の中では、特に、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレートやペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を3つ有する多官能化合物がより好適である。
【0102】
前記架橋助剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋助剤の配合量としては、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部である。
【0103】
反応性流動化剤と架橋助剤とを共に配合する場合、両者の配合割合は、所望により適宜選択すればよいが、重量比(反応性流動化剤/架橋助剤)で、通常、5/95〜90/10、好ましくは10/90〜70/30、より好ましくは15/85〜70/30の範囲である。配合割合がかかる範囲にあれば、架橋性樹脂成形体においては樹脂の流動性が向上し、また、複合多層基板においては配線埋め込み性と耐熱性とがバランスされ、好適である。本発明において特に好適な反応性流動化剤と架橋助剤との組合せとしては、ベンジルメタクリレート(反応性流動化剤)とトリメチロ−ルプロパントリメタクリレート(架橋助剤)とからなる組合せが挙げられる。
【0104】
反応性流動化剤と架橋助剤とからなる組合せの、重合性組成物への配合量(反応性流動化剤と架橋助剤との合計配合量)としては、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.2〜200重量部、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは2〜60重量部である。
【0105】
本発明に用いる重合性組成物は、上記成分を適宜混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、メタセシス重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)を、シクロオレフィンモノマー、及び適宜、その他の成分等を配合した液(モノマー液)に添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0106】
(架橋性樹脂成形体の製造方法)
架橋性樹脂成形体は、前記重合性組成物を開環重合することにより効率よく調製可能である。重合性組成物を開環重合して架橋性樹脂成形体を得る方法としては、例えば、(a)重合性組成物を支持体上に塗布し、次いで塊状重合する方法、(b)重合性組成物を成形型内に注入し、次いで塊状重合する方法、(c)重合性組成物を繊維状強化材に含浸させ、次いで塊状重合する方法などが挙げられる。
【0107】
(a)の方法によれば、フィルム状や板状等の架橋性樹脂成形体が得られる。支持体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、及びナイロンなどの樹脂からなるフィルムや板;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、及び銀などの金属材料からなるフィルムや板;などが挙げられる。中でも、金属箔又は樹脂フィルムの使用が好ましい。金属箔又は樹脂フィルムの厚さは、作業性などの観点から、通常、1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜75μmである。金属箔としては、その表面が平滑であるものが好ましく、その表面粗度(Rz)としては、通常、10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。金属箔の表面粗度が上記範囲にあれば、例えば、得られる高周波回路基板において、高周波伝送におけるノイズ、遅延、及び伝送ロス等の発生が抑えられ、好ましい。金属箔の表面は、シランカップリング剤、チオールカップリング剤、及びチタネートカップリング剤などの公知のカップリング剤や接着剤などで処理されていてもよい。(a)の方法によれば、例えば、支持体として銅箔を用いた場合、樹脂付き銅箔〔Resin Coated Copper (RCC)〕を得ることができる。なお、本明細書において表面粗度(Rz)は、AFM(原子間力顕微鏡)により測定することができる。
【0108】
支持体上に重合性組成物を塗布する方法としては、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、及びスリットコート法などの公知の塗布方法が挙げられる。
【0109】
支持体上に塗布された重合性組成物を所望により乾燥させ、次いで塊状重合する。塊状重合は重合性組成物を所定の温度で加熱して行われる。重合性組成物の加熱方法としては特に制約されず、支持体に塗布された重合性組成物を、加熱プレート上に載せて加熱する方法、プレス機を用いて加圧しながら加熱(熱プレス)する方法、加熱したローラーで押圧する方法、加熱炉内で加熱する方法などが挙げられる。
【0110】
(b)の方法によれば、任意の形状の架橋性樹脂成形体を得ることができる。その形状としては、シート状、フィルム状、柱状、円柱状、及び多角柱状等が挙げられる。
【0111】
ここで用いる型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造、すなわち、コア型とキャビティー型を有する成形型を用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型は、目的とする成形品の形状にあった空隙部を形成するように作製される。成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。さらに、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入し塊状重合することにより、シート状又はフィルム状の架橋性樹脂成形体を得ることもできる。
【0112】
重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力(注入圧)は、通常、0.01〜10MPa、好ましくは0.02〜5MPaである。充填圧力が低すぎると、キャビティー内周面に形成された転写面の転写が良好に行われない傾向にあり、充填圧が高すぎると、成形型の剛性を高くしなければならず経済的ではない。型締圧力は、通常、0.01〜10MPaの範囲内である。重合性組成物の加熱方法としては、成形型に配設された電熱器やスチームなどの加熱手段を利用する方法や、成形型を電気炉内で加熱する方法などが挙げられる。
【0113】
(c)の方法は、シート状又はフィルム状の架橋性樹脂成形体を得るのに好適に使用される。得られる成形体の厚さは、通常、0.001〜10mm、好ましくは0.005〜1mm、より好ましくは0.01〜0.5mmの範囲である。この範囲にあれば、積層時の賦形性、及び多層基板の機械的強度や靭性などが向上し、好適である。例えば、重合性組成物の繊維状強化材への含浸は、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、及びスリットコート法等の公知の方法により繊維状強化材に塗布し、所望によりその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。重合性組成物を繊維状強化材に含浸させた後、含浸物を所定温度に加熱することで重合性組成物を塊状重合させ、所望の架橋性樹脂成形体を得る。架橋性樹脂成形体中、繊維状強化材の含有量としては、通常、10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%の範囲である。この範囲にあれば、得られる多層基板の誘電特性と機械的強度がバランスされ、好適である。
【0114】
繊維状強化材としては、無機系及び/又は有機系の繊維が使用できる。例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、アラミド繊維、超高分子ポリエチレン繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、及び液晶ポリエステル繊維などの有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、ブデン繊維、チタン繊維、スチール繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、及びシリカ繊維などの無機繊維;などが挙げられる。これらの中でも、有機繊維やガラス繊維が好ましく、特にアラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、及びガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、Eガラス、NEガラス、Sガラス、Dガラス、及びHガラス等の繊維を好適に用いることができる。これらは1種単独で、又は2種以上を組合せて用いることができる。繊維状強化材の形態としては、特に限定されず、例えば、マット、クロス、及び不織布などが挙げられる。
【0115】
繊維状強化材に重合性組成物を含浸させてなる含浸物の加熱方法としては、例えば、含浸物を支持体上に設置して前記(a)の方法のようにして加熱する方法、予め型内に繊維状強化材を設置しておき、該型内で重合性組成物を含浸させて含浸物を得、前記(b)の方法のようにして加熱する方法などが挙げられる。
【0116】
なお、本発明の複合多層基板においては、誘電率の均一性並びに表面の平滑性という観点から、誘電体層がガラス繊維を含まないのが好ましく、従って、ガラス繊維を含まない架橋性樹脂成形体により樹脂層Pを形成するのが好ましい。
【0117】
前記(a)、(b)及び(c)のいずれの方法においても、重合性組成物を重合させるための加熱温度は、通常、30〜250℃、好ましくは50〜200℃、より好ましくは90〜150℃の範囲であって、かつ架橋剤、通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以下、好ましくは1分間半減期温度の10℃以下、より好ましくは1分間半減期温度の20℃以下である。また、重合時間は適宜選択すればよいが、通常、1秒間〜20分間、好ましくは10秒間〜5分間である。重合性組成物をかかる条件で加熱することにより未反応モノマーの少ない架橋性樹脂成形体が得られるので好適である。
【0118】
本発明に用いる架橋性樹脂成形体は、その構成樹脂の一部分が架橋されたものであってもよい。例えば、型内で重合性組成物を塊状重合したときには、型の中心部分は重合反応熱が発散しにくいので、型内の一部の温度が高くなりすぎる場合がある。高温部では架橋反応が起き、架橋が生ずることがある。しかし、熱を発散しやすい表面部が架橋性の樹脂で形成されていれば、本発明に用いられる架橋性樹脂成形体は所望の効果を充分に発揮し得る。
【0119】
以上のようにして得られる架橋性樹脂成形体は、例えば、プリプレグとして、本発明の多層基板の製造に好適に用いられる。
【0120】
(多層基板の製造方法)
本発明の複合多層基板において、セラミック層Cと樹脂層Pとは、直接的に、又は誘電体層Oや導体回路層を介して間接的に積層される。それらの積層方法は特に制限されない。例えば、(E1)公知の接着剤を用いて、セラミック層C、導体回路層、及び樹脂層Pを積層接着し、複合多層基板を得てもよいし、(E2)接着剤を用いることなく、セラミック層C、導体回路層、及び樹脂層Pを積層接着し、複合多層基板を得てもよい。小型化の観点から、(E2)の方法により複合多層基板を製造するのが好ましい。以下、(E2)の方法について説明する。
【0121】
本発明の複合多層基板の製造は、生産効率を高める観点から、前述のようにして得られる架橋性樹脂成形体からなるプリプレグを用いて行うのが好適である。その場合、セラミック層C及び/又は導体層となる金属箔と当該プリプレグとを積層し、加熱プレスして基材樹脂を架橋し硬化すればよい。得られる複合多層基板のQ値を向上させる観点から、金属箔としては、表面粗度(Rz)が2μm以下であるものが好ましい。金属箔の厚さは、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、通常、0.5〜50μm、好ましくは1〜30μm、より好ましくは2〜20μm、最も好ましくは2〜15μmの範囲である。金属箔は、その表面が、シランカップリング剤、チオールカップリング剤、チタネートカップリング剤、各種接着剤などで処理されていてもよく、シランカップリング剤で処理されていることが好ましい。、シランカップリング剤で処理されていることで架橋性樹脂成形体との接着力が向上する。加熱プレス時の温度は、基材樹脂において、架橋剤により架橋反応が誘起される温度以上である。例えば、架橋剤としてラジカル発生剤を使用する場合、通常、1分間半減期温度以上、好ましくは1分間半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分間半減期温度より10℃以上高い温度である。典型的には、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。加熱時間は、通常、0.1〜180分間、好ましくは0.5〜120分間、より好ましくは1〜60分間の範囲である。加熱プレス時の圧力は、通常、0.5〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。加熱プレスは、真空又は減圧雰囲気下で行ってもよい。加熱プレスは、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて行なうことができる。
【0122】
導体回路層は、金属箔のベタパターン上に、フォトリソグラフィーの手法を用いて、所望の回路パターンが形成されるようにパターニングされたエッチングレジストを形成し、続いて、エッチングを行うことにより形成することができる。なお、セラミック層C上に積層される導体回路層は、前記のようにして、セラミック層Cの形成と同時に当該層の表面に形成しておくのが好ましい。
【0123】
なお、得られた複合多層基板に対し、前記プリプレグを介するセラミック層C及び/又は導体層となる金属箔の積層、及び回路パターンの形成を1回以上さらに繰り返して行ってもよい。また、得られた複合多層基板に対し、所望により、公知の方法に従って、ビアホール及び/又はスルーホールを形成してもよい。また、形成されたホール内に導電性ペーストを充填して、層間の回路パターンを電気的に接続する為の電気的接続導体や放熱路を形成しても良い。ビアホール及び/又はスルーホールが必要とされる場合には、加工性の観点から、あらかじめ樹脂層P及び/又はセラミック層Cにビアホール及び/又はスルーホールを形成したのち樹脂層Pとセラミック層Cとを積層するのが好ましい。
【0124】
以上のようにして本発明の複合多層基板は効率的に製造可能であるが、当該多層基板は、例えば、高速伝送、マイクロ波の周波数での使用に対応した回路基板、ストリップライン伝送路、キャパシタ、インダクタ、LCフィルタ、ストリップライン共振フィルタ、及び誘電体アンテナ等の誘電体デバイスの製造に好適に用いることができる。キャパシタの用途としては、カップリングおよびデカップリング、バイパス、インピーダンスマッチングおよびシグナルマッチング等が挙げられる。デカップリング、バイパスなどの目的では大容量とすることが好ましい。
ストリップライン伝送路のように高速性が求められるデバイスは樹脂層Pに、ストリップライン共振フィルタや誘電体アンテナ等の小型化が求められる素子や、デカップリングキャパシタのように大容量が求められる素子は、セラミック層Cに形成するのが好ましい。
本発明の複合多層基板は低誘電かが容易な樹脂層Pと高誘電化が容易なセラミック層Cを有することから、電子機器の高速・小型化が可能となる。
【0125】
また、一つの多層基板に複数の誘電体デバイスを形成してモジュール化することで、電子機器の小型化が可能となる。組み合わせる誘電体デバイスは、適宜選択できる。モジュールの例としては、パワーアンプモジュール(PA)、マルチチップモジュール(MCM)、アンテナスイッチモジュール(ASM)、RF−ICモジュール(RFIC)、フロントエンドモジュール(FE)及びRFモジュール(RF)等が挙げられる。本発明の多層基板は低誘電正接を有することから、PA等の無線通信機器の送信部に適用されるモジュールの製造に好適に用いられる。
【0126】
本発明の複合多層基板の表面には固体電子部品を搭載し実装することができる。なお、本明細書において「実装」という場合、電子部品を複合多層基板の導体回路に接続することをいう。また、複合多層基板の表面とは、複合多層基板の上面、すなわち、種々のチップ部品が搭載される主面を言う。
【0127】
固体電子部品としては、特に限定はないが、例えば、大規模集積回路(LSI)、送信増幅器(Power Amp)、低雑音増幅器(Low Noise AMP)、電圧制御発振器(VCO)、又はそれらが多段に集積化されたICなどの能動素子、バンドパスフィルタを始めとする各種高周波フィルタ(バンドエミッションフィルタ、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、ダイプレクサ、及びデュプレクサ等)、及びバランやカプラなどの受動素子の他、ディスクリートタイプのトランジスタ、コンデンサ、レジスタ、コイルも含まれる。
【0128】
固体電子部品を複合多層基板の表面に搭載して実装する場合、実装領域が小さくて済み、高密度実装を可能にできることから、電子部品をチップ状態のまま基板上に実装するベアチップ実装によるのが好ましい。ベアチップ実装の方法としては、リード線を設けたフィルムを用いて基板側の電極とチップ側の電極とを接続するTAB(Tape Automated Bonding)実装、基板側の電極とチップ側の電極とをワイヤによって接続するワイヤボンディング実装、及びチップの電極部分にバンプ(突起電極)を形成して基板側の電極とチップ側の電極とを直接接続するフリップチップ実装等が挙げられる。中でも、フリップチップ実装によるのが好ましい。
【0129】
例えば、本発明の複合多層基板の表面に、LSIチップなどの半導体部品を搭載し実装することにより半導体パッケージを製造することができる。本発明の複合多層基板の少なくとも片面上に、半導体部品を前記実装方法により実装し、半導体部品電極と複合多層基板との接続部分をエポキシ樹脂等の封止材料で封止する。なお、封止材料として、本発明に係る、前記重合性組成物を用いることもできる。次に、上記半導体部品が実装された基板には、片面に金属配線によって複数の電極がエリア上に配置され、例えば、ハンダボール等の接続部材が設置される。このような半導体パッケージとしては、例えば、2個以上の複数の半導体部品を実装してなるマルチ・チップ・モジュール(MCM)などが挙げられる。MCMは、例えば、コンピューターや通信機器に使用したり、接続部材を介して、さらにマザーボード(通常のプリント配線板)に接続したり、そのままマザーボードとして使用することができる。
【実施例】
【0130】
以下、実施例により、比較例と対比して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は当該実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における「部」及び「%」は、特に断らない限り、重量基準である。
【0131】
実施例及び比較例において積層体の物性評価はそれぞれ、以下の方法に従って行った。
(比誘電率)
インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー社製、型番号E4991A)を用いて周波数1GHzで20℃における誘電率(ε)を容量法で測定し、比誘電率(εr)を算出して以下の基準で評価した。
A:7以上
B:5以上、7未満
C:5未満
(誘電正接)
インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー社製、型番号E4991A)を用いて周波数1GHzで20℃における誘電正接を容量法にて測定し、以下の基準で評価した。
A:0.003以下
B:0.003超、0.008以下
C:0.008超
(耐熱性)
積層体を20mm角に切断し、試験片を得た。該試験片を260℃の半田浴上に20秒間フローさせた。かかる操作を別々の試験片を用いて3回繰り返し(n=3)、それぞれの試験片表面の膨れを目視により観察し、以下の基準で評価した。
A:n=3で膨れなし
B:n=2で膨れなし
C:n=2以上で膨れ発生
(吸水率)
JIS K7209の方法に準拠して、積層体から40mm×20mm×厚み2mmの試験片(誘電体層)を切り出し、23℃、48時間、蒸留水に浸漬した。浸漬前後での試験片の重量変化を測定することにより、以下の基準に従って吸水率を評価した。
A:0.1%以下
B:0.1%超
(ピール強度)
積層体から銅箔を引き剥がすときの強度を、JIS C6481に準拠して測定し、以下の基準に従ってピール強度を評価した。
A:0.6kN/m超
B:0.4kN/m超0.6kN/m以下
C:0.4kN/m以下
(配線形成性)
積層体の銅箔をエッチングして、配線を形成し下記基準で評価した。ここで、配線形成ができなかったとは、エッチングした後の樹脂面に銅箔の残りが観測されることを表す。
A:25/25μmラインアンドスペース(L/S)の配線形成ができた。
B:30/30μmラインアンドスペース(L/S)の配線形成ができた。
C:40/40μmラインアンドスペース(L/S)の配線形成ができた。
D:配線ができなかった。
(配線埋込性)
セラミック層Cの一方の面にL/S=15μmの配線を15本形成し、樹脂層Pを重ね、205℃で10分間、3MPaにて加熱プレスを行い試験用多層板を得た。該試験用多層板を、配線方向に対し垂直な方向で任意に3箇所で切断した。得られた試験用多層板の切断面を目視により観察し、セラミック層上の配線に対する埋め込み性について以下の基準で評価した。
A:埋込不良が2本以下
B:埋込不良が2本超え、5本以下
C:埋込不良が5本超え
(容量変化)
積層体について、130℃、85%RH、100時間の高温高湿試験を行い、容量変化を、以下の基準で評価した。なお、試験は加速試験機(タバイエスペック社製 HASTチャンバー EHS−221MD)を用いて行った。変化率は、式:変化率(%)=〔(試験前の値−試験後の値)/試験前の値〕×100により求められる値である。
A:容量変化が5%以下
B:容量変化が5%超
(比誘電率の面内分布)
積層体を300mm×300mmに切り出し、任意の10箇所について比誘電率を測定し、ばらつきを以下の基準で評価した。
A:ばらつきが3%以下
B:ばらつきが3%を超え、5%以下
C:ばらつきが5%を超える
(線膨脹係数)
誘電体層のXY方向の線膨張係数をセイコーインスツル社製EXSTAR6000 TMA/SSを用いて、昇温速度5℃/分にて測定し、以下の基準で評価した。
A:30ppm/℃以下
B:30ppm/℃を超え50ppm/℃以下
C:50ppm/℃を超える
【0132】
実施例及び比較例において多層基板の物性評価はそれぞれ、以下の方法に従って行った。
(耐クラック性)
多層基板について、−65〜150℃の温度範囲で所定回数の冷熱衝撃試験を行った後に外観観察を行い、絶縁層の剥離の有無を以下の基準に従って評価した。なお、冷熱衝撃試験は、冷熱衝撃試験装置(エスペック社製、型番TSA−71H−W)により行った。
A:剥離なし
B:一部微小な剥離があり、実質上問題なし
C:一部微小な剥離があり、実質上使用不可
D:剥離、使用不可
(絶縁信頼性)
多層基板に100μmの間隔をあけて一直線上に10個並んだ、互いに電気的に接続されたビアホールの列を、100μmの間隔をあけて平行に2列作製したものを、サンプル基板として用いた。
130℃で85%RHの環境下、互いに絶縁が確保されている、一方のビアホールの列と他方のビアホールの列との間に100Vの電圧を所定時間印加し、導通が確認されるまでの時間を測定し、以下の評価基準に従って絶縁信頼性を評価した。
A:500時間以上
B:200時間以上500時間未満
C:100時間以上200時間未満
D:100時間未満
(反り状態の評価)
多層基板を150mm角に切り出し、260℃の炉内に30秒投入した後、常温で3分間放置した。上記操作を3回繰り返した。反り量の測定は、多層基板の凸面を下にして平面に置き、片方の端を1点で押さえ、最大の高さをデータとした。以下の基準で評価した。
A:0.5mm以下
B:0.5mmを超え、2mm以下
C:2mmを超える
【0133】
(製造例1)架橋性樹脂成形体1の作製
ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド51部と、トリフェニルホスフィン79部とを、トルエン952部に溶解させて触媒液を調製した。これとは別に、シクロオレフィンモノマーとしてテトラシクロドデセン(TCD)80部及びジシクロペンタジエン20部、酸化ケイ素粒子(アドマテックス社製、商品名SOC02、平均粒子径0.5μm)200部、連鎖移動剤としてスチレン0.74部、架橋剤としてジ−t−ブチルペルオキシド(1分間半減期温度186℃)2部、反応性流動化剤としてベンジルメタクリレート15部、架橋助剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート20部、フェノール系老化防止剤として3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール1部、並びにメタクリルシラン2部を混合してモノマー液を調製した。ここに上記触媒液をシクロオレフィンモノマー100gあたり0.12mLの割合で加えて撹拌し、重合性組成物を調製した。
ついで、得られた重合性組成物をガラスクロス(Eガラス)に含浸させ、これを120℃にて5分間で重合反応を行い、厚さ0.15mmの架橋性樹脂成形体1を得た。
【0134】
(製造例2)架橋性樹脂成形体2の作製
重合性組成物にメタクリルシランを配合しなかった以外は製造例1と同様にして、厚さ0.15mmの架橋性樹脂成形体2を得た。
【0135】
(製造例3)架橋性樹脂成形体3の作製
ガラスクロスへの含浸を行わなかった以外は製造例1と同様にして、厚さ0.05mmの架橋性樹脂成形体3を得た。
【0136】
(製造例4)架橋性樹脂成形体4の作製
多官能エポキシ20部、硬化剤5部、酸化ケイ素粒子75部を含むトルエン溶液を用いて、ダイコータにより厚さ0.15mmの架橋性樹脂成形体4を得た。
【0137】
(製造例5)架橋性樹脂成形体5の作製
多官能エポキシ20部、硬化剤5部、ジルコン酸化物75部を含むトルエン溶液を用いて、ダイコータにより厚さ0.15mmの架橋性樹脂成形体5を得た。
【0138】
(製造例6)樹脂配線板P1の作成
架橋性樹脂成形体1の両面を銅箔1(厚さ12μm、F2銅箔、シランカップリング剤処理電解銅箔、光沢面粗度Rz=1,600nm、古河サーキットホイル社製)で挟み、210℃で20分間、3MPaにて加熱プレスを行い積層体1を得た。
次に、リソグラフィー法を用いて積層体1の一方の銅箔に、所定のパターンでドライフィルムを被覆して、露光および現象プロセスによって、所望のエッチング部分のみを露出させた後、エッチング液でエッチングすることによって、回路パターンを形成した。次に、積層体1のもう一方の銅箔に、同様にリソグラフィー法を用いて、回路パターンを形成した。さらにドリルでスルーホールを形成した後、ビアホールに導電性ペーストを充填して層間回路を接続して樹脂配線板P1を得た。
【0139】
(製造例7)樹脂配線板P2の作製
架橋性樹脂成形体1の代わりに架橋性樹脂成形体2を用いた以外は製造例1と同様にして積層体2を得た。積層体1に代えて、積層体2を用いた以外は製造例1と同様にして樹脂配線板P2を得た。
【0140】
(製造例8)樹脂配線板P3の作製
架橋性樹脂成形体1の代わりに架橋性樹脂成形体3を用いた以外は製造例1と同様にして積層体3を得た。積層体1に代えて、積層体3を用いた以外は製造例1と同様にして樹脂配線板P3を得た。
【0141】
(製造例9)樹脂配線板P4の作製
架橋性樹脂成形体1の代わりに架橋性樹脂成形体4を用いた以外は製造例1と同様にして積層体4を得た。積層体1に代えて、積層体4を用いた以外は製造例1と同様にして樹脂配線板P4を得た。
【0142】
(製造例10)セラミック層Cの作成
常法に従い、セラミック粉体とバインダを混合してスラリーを調製し、これをポリエステルフィルム上に塗布して厚さ0.15mmのグリーンシート1を作製した。
次いで、所定の箇所にレーザによりビアホールを設け、該ビアホールに導電性ペーストを充填した。
次いで、スクリーン印刷により回路パターンを形成した後、回路パターン上に他のグリーンシート1を積層し、800℃で一時間焼成しセラミック層Cを得た。
【0143】
(実施例1)
(複合多層基板1の作製)
セラミック層C、架橋性樹脂成形体1、及び樹脂配線板P1をこの順番に配置し、210℃で20分間、3MPaにて加熱プレスを行い複合多層基板1を得た。
【0144】
(実施例2)
実施例1において樹脂配線板P1の代わりに樹脂配線板P2を用いた以外は実施例1と同様にして、複合多層基板2を得た。
【0145】
(実施例3)
実施例1において樹脂配線板P1の代わりに樹脂配線板P3を用いた以外は実施例1と同様にして、複合多層基板3を得た。
【0146】
(実施例4)
セラミック層C、架橋性樹脂成形体1、樹脂配線板P3、架橋性樹脂成形体1、及びセラミック層Cをこの順番で、210℃で20分間、3MPaにて加熱プレスを行い複合多層基板4を得た。
【0147】
(比較例1)多層セラミック基板の作製
常法に従い、セラミック粉体とバインダを混合してスラリーを調製し、これをポリエステルフィルム上に塗布してグリーンシート1を作製した。
セラミック粉体と中空シリカ粒子とバインダを混合してスラリーを調製し、これをポリエステルフィルム上に塗布してグリーンシート2を作製した。
次いで、グリーンシート1及びグリーンシート2の所定の箇所にレーザによりビアホールを設け、該ビアホールに導電性ペーストを充填した。
次いで、スクリーン印刷により回路パターンを形成した後、グリーンシートを重ね合わせ、800℃で一時間焼成し多層セラミック基板を得た。
【0148】
(比較例2)多層樹脂基板の作製
架橋性樹脂成形体4の両面を銅箔1(厚さ12μm、F2銅箔、シランカップリング剤処理電解銅箔、光沢面粗度Rz=1,600nm、古河サーキットホイル社製)で挟み、210℃で20分間、3MPaにて加熱プレスを行い積層体5を得た。
【0149】
次に、リソグラフィー法を用いて積層体5の一方の銅箔に、所定のパターンでドライフィルムを被覆して、露光および現象プロセスによって、所望のエッチング部分のみを露出させた後、エッチング液でエッチングすることによって、回路パターンを形成した。
【0150】
次に、積層体5の回路が形成された面に、架橋性樹脂成形体5及び銅箔1をこの順に配置し、210℃で20分間、3MPaにて加熱プレスを行い多層板1を得た。
【0151】
次に、前記積層プロセスによって得られた多層板1の一方の外層銅箔に、通常のリソグラフィー法を用いて、回路パターンを形成した。同様に、リソグラフィー法を用いて、前記多層板1の他方の銅箔に、回路パターンを形成した。
【0152】
さらにドリルでスルーホールを形成した後、導電性ペーストを充填して層間回路を接続して多層樹脂基板を得た。
【0153】
【表1】

【0154】
表1より、本発明の複合多層基板は、誘電特性に優れ、高周波での伝送損失が小さい基板であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体回路層と誘電体層とが交互に積層されてなり、前記誘電体層が少なくとも1層のセラミック層Cと少なくとも1層の樹脂層Pとから構成される複合多層基板であって、前記樹脂層Pが脂環式構造含有ポリマーを含む架橋性樹脂成形体を硬化してなるものである複合多層基板。
【請求項2】
最外層に位置する2つの誘電体層のいずれもがセラミック層Cからなる請求項1記載の複合多層基板。
【請求項3】
セラミック層Cの合計厚さと樹脂層Pの合計厚さとの比(樹脂層Pの合計厚さ/セラミック層Cの合計厚さ)が1以下である請求項1又は2記載の複合多層基板。
【請求項4】
誘電体層がガラス繊維を含まないものである請求項1〜3いずれか記載の複合多層基板。

【公開番号】特開2012−216684(P2012−216684A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80940(P2011−80940)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】