説明

複合導電性繊維の製造法と、この方法で得られる繊維と、その繊維の使用

【課題】熱処理段階を含む、熱可塑性ポリマーと導電性または半導体の粒子とをベースにした複合材から成る繊維の製造方法と、それによって得られる導電性繊維、特に、ポリアミドとカーボンナノチューブから成る繊維。
【解決手段】熱処理の温度を次第に上げることによって複合材を加熱して、得られた繊維の導電性を改良し、最初に絶縁性の繊維を導電性にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝導性の複合繊維、例えば熱可塑性ポリマーと伝導性または半導体の粒子(この粒子はカーボンナノチューブ(CNT)にすることができる)とをベースにした伝導性繊維の製造方法に関するものである。
本発明はさらに、上記方法から得られる複合伝導性繊維と、この繊維の使用とにも関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは公知で、その優れた電気および熱の導電性と機械特性が用いられている。すなわち、特にポリマータイプの材料にこれらの電気的、熱的および/または機械的特性を与えるためにその添加剤として使用されている。
【0003】
伝導性粒子のアスペクト比が大きくなると、複合材の電気伝導に必要な充填剤の含有量が大きく低下するということは公知である。これが炭素ベースの原料のカーボンブラックやその他の形と比較した時に、カーボンナノチューブを使用するのが好まれる理由である。
従来技術に関する文献は特許文献1(国際特許第WO03/079375号公報)や非特許文献1、2に記載されている。
【0004】
しかし、非特許文献3に記載されているように、カーボンナノチューブが一定方向へ配向するとパーコレーション限界が増加する。すなわち、混合物をダイを介して押し出して複合材繊維を製造する方法を使用した場合、カーボンナノチューブは一方向、特に繊維の軸線と平行に配向する。
【0005】
いずれの場合でも、押出しおよび/または引張るような処理を繊維に加える方法では繊維の軸線方向の一定方向へ伝導性粒子は配向する。従って、繊維の形で複合材のパーコレーション限界に達するのに必要なCNT濃度は非配向のフィルムまたは繊維の形より一桁高い。この配向現象の結果、複合材を伝導性にするためには、特に複合材を繊維の形で使用する時に、CNTの含有量を増やす必要がある。この結果の詳細は非特許文献4に記載されている。
【0006】
複合材繊維の製造方法は特許文献2(欧州特許第EP 1 181 331号公報)を参照できる。この特許にはカーボンナノチューブの存在下で機械特性が強化された熱可塑性ポリマーベースにした複合材の製造方法が記載されている。この方法では熱可塑性ポリマーとCNTとの混合物を作り、その混合物をポリマーの溶融温度で延伸し、固体状態(低温で)再び延伸する。従って、繊維は補強されたポリマーから作られる。
【0007】
特許文献3(国際特許第WO 2001/063028号公報)にも複合材繊維の製造方法が記載されている。この製造方法では溶剤中にCNTを分散させ、ノズルを通してポリマーから成る凝結剤中に噴射し、引抜し、必要に応じてアニーリングする。しかし、この場合には非特許文献5に記載のように最初に伝導性であった繊維が引抜加工後に伝導性でなくなる。
【0008】
すなわち、複合材または複合材でできた繊維が伝導性を有する場合でも、繊維形成後に引抜加工をすると伝導度のグレードが50%低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際特許第WO03/079375号公報
【特許文献2】欧州特許第EP 1 181 331号公報
【特許文献3】国際特許第WO 2001/063028号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】D. Zhu, Y. Bin, M. Matsuo,‘’Electrical conducting behaviors in polymeric composites with carbonaceous fillers‘’, J. of Polymer Science Part B, 45, 1037, 2007、
【非特許文献2】Y. Bin, M. Mine, A. Koganemaru, X. Jiang, M. Matsuo,‘’Morphology and mechanical and electrical properties of oriented PVA-VGCF and PVA-MWNT composites‘’, Polymer, 47, 1308, 2006)
【非特許文献3】F. Du, J.E. Fischer, K.I. Winey, ‘’Effect of nanotube alignment on percolation conductivity in carbon nanotube/polymer composite‘’, Physical Review B, 72, 121404, 2005
【非特許文献4】R. Andrews, D. Jacques, M. Minot, T. Rantell, entitled‘’Fabrication of carbon multiwall nanotube/polymer composites by shear mixing‘’, Macromolecular Materials and Engineering, 287, 395, 2002
【非特許文献5】R. Haggenmueller, H.H. Gommans, A.G. Rinzler, J.E. Fischer, K.I. Winey、‘’Aligned single-wall carbon nanotubes in composites by melt processing methods‘’, published in Chemical Physics Letters, 330, 219, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記の各種方法の欠点を克服して、伝導性複合繊維の電気特性を改善し、または、最初に絶縁性であった繊維を伝導性にする方法を提供することにある。
上記目的は、複合材繊維の製造プロセスで、温度を徐々に上げながら熱処理段階を実施することによって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一つの対象は、熱可塑性ポリマーと伝導性または半導体の粒子とをベースにした複合材から成る繊維を熱処理段階を含む方法で製造する方法であって、上記の熱処理を温度を徐々に上げて複合材を加熱することを徳著とする方法にある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】は温度を関数とするPA6/CNT複合材繊維の固有抵抗率の変化を示す図。
【図2】は5℃/分の速度で外界温度から120℃まで加熱し、その後この温度を1時間保つ加熱サイクルを有する、CNTの20重量%含むPA−6繊維の固有抵抗率の変化を示す図。
【図3】は伸びを関数とする、250℃まで5℃/分の速度で熱処理した3重量%のCNTを含む繊維の応力および固有抵抗率の変化を示す図。
【図4】は伸びを関数とする、250℃まで5℃/分の速度で熱処理した103重量%のCNTを含む繊維の応力および固有抵抗率の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
温度の上昇は毎分50℃以下、好ましくは毎分30℃以下、さらに好ましくは毎分10℃以下の速度で行うのが好ましい。
好ましくは温度の上昇を毎分5℃の速度で行う。
必要な加熱温度が熱可塑性ポリマーのガラス遷移温度以上である。
複合材中の伝導性の粒子の含有量を減らした時の必要な加熱温度は熱可塑性ポリマーの溶融温度以上の温度である。
【0015】
熱処理は紡糸時および/または紡糸後に複合材に行い、それから、得られた繊維を構成する材料をアニールする。
紡糸後に熱処理を行う場合には、後熱処理を行い、いわゆる加熱温度がアニール温度である。
【0016】
いずれを選択するにせよ、紡糸中または紡糸後に、加熱温度またはアニール温度を徐々に上げて熱処理を行うことで、得られた繊維の伝導性が改良し、現在まで提案されている熱処理の欠点なしに、しかも、繊維のマクロ組織の劣化なしに、最初は絶縁体であった繊維が伝導性とすることができる。
【0017】
繊維組成物中に導入される伝導性粒子はロッド、小片、球、ストリップまたはチューブの形をした伝導性または半導体のコロイド粒子から選択される。伝導性コロイド粒子は下記の中から選択できる:
(1)カーボンナノチューブ、
(2)金属、例えば金、銀、白金、パラジウム、銅、鉄、亜鉛、チタン、タングステン、クロム、炭素、シリコン、コバルト、ニッケル、モリブデンおよびこれら金属の合金および化合物、
(3)酸化物、例えば酸化バナジウム(V2O5)、ZnO、ZrO2、WO3、PbO、In2O3、MgOおよびY2O3
(4)コロイド状の導電性または半導体のポリマー。
【0018】
伝導性粒子がカーボンナノチューブで、充填剤含有量が7重量%以下の場合、加熱温度を少なくともポリマーの溶融温度以上にする。
カーボンナノチューブの充填剤含有量が7重量%以上の場合、加熱温度は少なくともポリマーのガラス遷移温度以上にする。
【0019】
本発明はさらに、熱可塑性ポリマーと伝導性または半導体の粒子とをベースにした複合材から成る繊維にも関するものである。
伝導性粒子は下記にすることができる:
(1)カーボンナノチューブ、
(2)金属、例えば金、銀、白金、パラジウム、銅、鉄、亜鉛、チタン、タングステン、クロム、炭素、シリコン、コバルト、ニッケル、モリブデンおよびこれら金属の化合物または合金、
(3)酸化物、例えば酸化バナジウム(V2O5)、ZnO、ZrO2、WO3、PbO、In2O3、MgOおよびY2O3
(4)コロイド状の導電性または半導体のポリマー。
【0020】
伝導性粒子がカーボンナノチューブ(CNT)の場合、熱可塑性ポリマーとカーボンナノチューブとをベースにした複合材のCNTの含有量は30重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10〜0.1重量%である。
【0021】
本発明の熱処理によって体積抵抗が10E12オーム.cm以下、、好ましくは10E8オーム.cm以下、さらに好ましくは10E4オーム.cm以下の繊維を構成する複合材を得ることができる。
【0022】
熱可塑性ポリマーはポリアミド、ポリオレフィン、アセタール樹脂、ポリケトン、ポリエステルまたは、ポリフルオロポリマーまたはそれの混合物およびそれのコポリマーから成る群の中から選択できる。
繊維を構成する複合材はポリアミドPA-6、ポリアミドPA-12またはポリエステルをベースにし、30重量%以下のCNTの含有量を有する。
【0023】
本発明で得られる複合伝導性繊維は、織物、エレクトロニクス、機械、電気機械の分野で使用できる。
【0024】
熱可塑性ポリマーとカーボンナノチューブとをベースにした複合材から成る伝導性繊維の使用の例は、有機および無機マトリックスの強化、防弾保護服(防護服、手袋、保安帽、その他)の補強、帯電防止衣類、伝導性織物、帯電防繊維および織物、電気化学センサー、電子機械的アクチュエータ、電磁遮蔽塗布、包装およびバッグでの使用である。
本発明の伝導性繊維は特に変形感知センサーの製造できる。
【0025】
本発明の上記以外の特徴および利点は添付図面を参照した以下の実施例の説明からより明らかになるであろう。しかし、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【0026】
下記の方法を用いることで熱可塑性ポリマーと伝導性または半導体の粒子とから成る複合材から成る繊維を製造することができる。しかし、他の方法を使用することもできる。
【0027】
本発明では、体積抵抗率が10E12 オーム.cm以下の時に伝導性とみなし、体積抵抗率が10E12 オーム.cm以上の時に絶縁体と見なす。多くの用途、例えば静電電の散逸分野では10E8オーム.cm以下の値が要求される。
【0028】
使用可能な伝導性または半導体の粒子
伝導性または半導体の粒子の中で下記を選択できるが、これらに限定されるものではない:
(1)ロッド、小片、球、ストリップまたはチューブの形をした伝導性または半導体のコロイド粒子:
(2)金属、例えば金、銀、白金、パラジウム、銅、鉄、亜鉛、チタン、タングステン、クロム、炭素、シリコン、コバルト、ニッケル、モリブデンおよびこれら金属の化合物または合金
(3)酸化物、例えば酸化バナジウム(V2O5)、ZnO、ZrO2、WO3、PbO、In2O3、MgOおよびY2O3
(4)コロイド状の導電性または半導体のポリマー。
【0029】
カーボンナノチューブ
本発明で使用可能なカーボンナノチューブは公知で、例えば下記文献に記載されている
【非特許文献6】Plastic World, Nov. 1993, page 10
【特許文献4】国際特許第WO 86/03455号公報
【0030】
カーボンナノチューブは比較的高いアスペクト比を有し、アスペクト比は10〜約1000である。しかし、この値に制限されるものではない。また、本発明で使用可能なカーボンナノチューブの純度は90%以上である。
【0031】
熱可塑性ポリマー
本発明で使用可能な熱可塑性ポリマーはポリアミド、アセタール樹脂、ポリケトン、ポリアクリル酸、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリフルオロポリマー、ポリウレタン、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリアリールスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニール、ポリエーテルイミド、テトラフルオロエチレン樹脂、ポリエーテルケトン、フルオロポリマーおよびこれらのコポリマーまたは混合物から製造される全てである。
【0032】
特に下記を挙げることができる:ポリスチレン(PS)、ポリオレフィン、特にポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)、ポリアミド、例えばポリアミド6(PA-6)、ポリアミド6,6(PA-66)、ポリアミド11(PA-11)、ポリアミド12(PA-12)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエーテルテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、フルオロポリマー、例えばポリ弗化ビニリデン(PVDF)またはVDF/HFEコポリマー、ポリスチレン/アクリロニトリル(SAN)、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)、ポリ塩化ビニール(PVC)、ポリエーテル・ジオール残基である軟いポリエーテル・ブロックと、少なくとも一つの短いジオールと少なくとも一つのジイソシアナートとの反応で得られる硬いブロック(ポリウレタン)とから成るポリウレタン(短いジオール鎖伸長基は上記のグリコールから選択でき、ポリウレタンブロックおよびポリエーテル・ブロックはイソシアネート官能基とポリエーテル・ジオールのOH官能基との反応で得られる結合で連結される)、ポリエステル・ウレタン、例えばジイソシアナート単位と、非晶形のポリエステル・ジオールに由来する単位と、例えば上記グリコールの中から選択され短いジオール鎖伸長基単位とから成るもの、ポリエーテル-ブロック・ポリアミド(PEBA)等のコポリアミド、例えば反応性末端基を有するポリアミド・ブロックと反応末端基を有するポリエーテル・ブロックとの共重縮合で得られるコポリマー、特に下記の組合せ:
1) ジカルボン酸鎖端を有するポリオキシアルキレン・ブロックとジアミン鎖端を有するポリアミド・ブロック、
2) ジカルボン酸鎖端を有するポリアミド・ブロックのシアノエチル化で得られるジアミン鎖端を有するポリオキシアルキレン・ブロックと脂肪族水素化ポリエーテル・ジオールとして公知のα、ω−ジヒドロキシ化されたポリオキシアルキレンブロック、
3) ジカルボン酸鎖端を有するポリアミド・ブロックとポリエーテル・ジオール、この特定の場合に得られる化合物がポリエーテル・エステル・アミドおよびポリエーテル・エステルである。
【0033】
さらに下記も挙げられる:、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−スチレン(AES)、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン(MBS)、アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸メチル−スチレン(ABMS)およびアクリロニトリル−n-アクリル酸ブチル−スチレン(AAS)ポリマー、変成ポリスチレン・ガム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、酢酸セルロース、ポリフェニレンオキシド、ポリケトン、シリコーンポリマ、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール誘導体、ポリオレフィンタイプのエラストマー、カルボキシレート−ポリエチレン、エチレン−エチルアクリレート、塩素化ポリエチレン、スチレンタイプのエラストマー、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン(SEBS)コポリマー、スチレン-ブタジエンまたはその水素化物、PVC、ポリエステル、ポリアミド、ポリブタジエンタイプのエラストマー、例えば1,2-ポリブタジエン、1,4-ポリブタジエン、フッ素化エラストマー。
【0034】
また、制御されたラジカル重合で得られるコポリマー、例えばSABuS (ポリスチレン-co- ポリアクリル酸ブチル-co- ポリスチレン)、MABuM(ポリメタクリル酸メチル-co- ポリアクリル酸ブチル-co- ポリメタクリル酸メチル)タイプのコポリマーおよびその全ての官能化誘導体も挙げられる。
【0035】
「熱可塑性ポリマー」とは対応するホモポリマーから得られるランダム、傾斜、ブロック共重合体の全てを意味する。
【0036】
以下、カーボンナノチューブ(CNT)を含む繊維と、当業者に公知の紡糸法によるその繊維の製造方法、例えば熱可塑性ポリマーとカーボンナノチューブとをベースにした複合材の押出し紡糸法を説明する。
【0037】
本発明方法では、粗CNT(製造したまま、または、洗浄後または処理後のもの)か、ポリマー粉末を混合したCNTか、ポリマー、その他の添加剤を混合したCNTから繊維を作ることができる。
【0038】
本発明の繊維を構成する複合材中のCNTの量は30重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。
【0039】
従って、本発明はCNTを含む熱可塑性複合材、特に組成物のCNT含有量が10重量%以下の場合に伝導度を増加させることができる。
この効果が複合材を加熱する熱処理段階を変えること、温度を徐々に上げることによって得られるということは驚くべきことである。
【0040】
本発明はCNTを含んだ熱可塑性複合繊維(必要に応じて延伸されていてもよい)の伝導度を悪くしない(あるいは改善する)または最初に絶縁体であった繊維を伝導性にするプロセスを提案する。
【0041】
実際の紡糸(スピニング)法は最初にCNTを30重量%以下含む熱可塑性ポリマーを押出す段階を有し、その後に必要に応じて延伸加工する。
【0042】
本発明は紡糸中および/または紡糸後に熱処理を実行する。この熱処理では温度を徐々に増加させる。それによってCNTを含む熱可塑性複合繊維の伝導度が改良される。他の実施例では、最初に絶縁体であった複合材繊維を伝導性にすることができる。
【0043】
以下で説明する実施例では、CNTを含む熱可塑性複合繊維の固有抵抗率は温度上昇中に低下し、冷却段階時には達したレベルに維持される。
【0044】
本発明方法による伝導度の改善はほぼ瞬間的である。加熱温度で1時間維持しても、達した伝導度のレベルは改善しない。
【0045】
以下の実施例は、熱処理温度を一定にセットした場合にしても全く効果はなく、熱処理温度を徐々に上昇した時に3%〜20%の範囲でCNTを含む熱可塑性複合繊維の伝導度が組織的に改善できることを示している。
【0046】
所定の加熱温度条件およびCNT充填レベルの時に、最初に絶縁体であった繊維が伝導性になるということも見られる。
【0047】
本発明方法では、CNTの含有量が30重量%以下、好ましくは0.1重量%〜10重量%の間の時に熱可塑性ポリマーとカーボンナノチューブ(CNT)とをベースにした伝導性の複合繊維を製造することができる。
【0048】
すなわち、固有抵抗が10E12 オーム.cm以下、好ましくは10E8オーム.cm以下、さらに好ましくは10E4オーム.cm以下の繊維が得られる。
この複合繊維は伝導性粒子と熱可塑性ポリマーとをベースにした複合材を溶融紡糸して得られる。得られる繊維の直径は1〜1000μmである。
【0049】
より細い繊維を得るためには溶融紡糸以外の他の技術、例えばエレクトロスピニング(electrospinning)、遠心スピニング等が使用できる。
【実施例】
【0050】
以下の実施例は種々のCNT含有量を有するポリアミド繊維に関するものである。3重量%および7重量%のCNTから成る繊維はAMNO TLD PA−12をベースにしたものであり、10重量%および20重量%のCNT含有量から成る繊維はDonamid 27 PA−6をベースにしたものである。抵抗値はKeithley 2000マルチメータ(電圧・電流・抵抗・静電容量計)を使用して測定した。
【0051】
実施例1
熱可塑性ポリマーとCNTとをベースにした複合材繊維の伝導度を改良する、または最初絶縁体であった繊維を伝導性にするためのプロセス条件
この実施例では種々のCNT含有量を有する繊維を用いた。繊維の伝導度を改良するために、本発明の熱処理効果を示すために繊維に2つの異なる熱処理を加えた。すなわち、
(1)繊維を一定温度で熱処理する:この場合、繊維の両端に銀ラッカーを付け、平らなアルミニウム製のサンプルホルダー上に配置し、加熱器中で選択したアニーリング温度で30分間放置し、その後、冷却し、室温で抵抗値を測定するか、
(2)繊維を徐々に上昇する温度で熱処理する:この場合、繊維を取付けたインバール・ロッドにマルチメータを連結した。端子との接触は銀ラッカーで行う。組立体全体を温度調節器で制御された加熱器中に置く。熱処理は繊維を外界温度から250℃まで5℃/分の速度で徐々に加熱して行う。その後、繊維を加熱器から出し、冷却する。この処理中、温度の関数として抵抗値を連続的に直接記録する250℃で記録された繊維の抵抗値と冷却後に記録された抵抗値との間の顕著な相違はない。
【0052】
両方の場合で、2つの加熱温度を考慮した。すなわち、ポリアミドのガラス遷移温度より上の温度である120℃と、ポリアミドの溶融温度より上の温度である250℃とを考慮した。結果は[表1]にまとめて示してある。
【0053】
【表1】

【0054】
この[表1]は種々のCNT含有量を有するPAベースの複合遷移の固有抵抗率ρの平均値を、受けた熱処理のタイプの関数として、すなわち、一定温度で30分間処理した場合と、外界温度から加熱温度まで5℃/分の速度で徐々に加熱した場合とで比較したものである。両方の場合で120℃と250℃の2つの加熱温度を考慮し、3つの異なるサンプルから得られた平均値を示す。固有抵抗率は5℃/分の速度で熱処理した120℃の場合を除いて外界温度で測定した。
ρi:熱処理前の初期固有抵抗率
−:固有抵抗が検出限界を超えた。
【0055】
最初に伝導性でない繊維、すなわちCNTを10重量%まで含む繊維は、一定温度でアニーリングした場合には繊維を伝導性にすることはできないことが分かる。最初に伝導性であるCNTを20重量%含む繊維の場合、一定温度でアニーリングすると、伝導度はわずかに改善するが、加熱温度の影響は現れない。また、得られる伝導度のレベルは高温でよくなく、温度を徐々に上昇させた場合に得られる値より劣る。
【0056】
温度を5℃/分の速度で徐々に上昇させた熱処理は、CNTの含有量が3重量%〜20重量%までの全ての複合繊維で有効であることがわかる。CNTの含有量がそれより低い(3重量%および7重量%)では、ポリマーの溶融温度以上の温度にする必要がある。この熱処理でCNTを10重量%含む繊維を120℃から伝導性にすることができる。5℃/分の速度勾配20分での温度に達し、処理は効果的である。しかし、250℃で30分間処理しても効果はない。
【0057】
これらの結果は、加熱温度を徐々に上昇させることの重要性を示し、PA/CNT複合繊維を伝導性にし、および/または、導電性を改良することができることを明らかに示している。高温で単にアニーリングしたり、ポリマーの溶融温度以上にしても効果がないことがわかる。
【0058】
実施例2
熱可塑性ポリマーとCNTとをベ―スにした複合繊維の熱処理中の典型的な固有抵抗率の変化
この実施例は最初に伝導性であったDonamid 27 PA−6とCNTとをベースにした複合繊維を5℃/分の速度で外界温度から250℃まで熱処理する間の固有抵抗率の典型的な固有抵抗率の変化を示す。最初の加熱サイクルを実行した後、繊維を約2℃/分の速度で50℃以下の温度まで冷却する。次いで、第1回目と全く同じ第2回目の加熱サイクルを実行する。
【0059】
[図1]は温度を関する上記熱処理間の繊維の相対固有抵抗率の典型的な変化を示す。相対固有抵抗率(ρ/ρ0)はその温度での繊維の固有抵抗率(ρ)と室温での固有抵抗率(ρ0)との比である。
【0060】
最初の温度上昇時に固有抵抗率の大きな変化が観測される。固有抵抗率は最初の段階に徐々に減少し、それから200℃を越える、すなわち、ポリマーの溶融温度(この場合には221℃)に接近すると、急激に低下する。上記の改善は冷却中概して維持される。第2回目の温度上昇効果は相対的に制限される。
【0061】
実施例3
熱可塑性ポリマーとCNTとをベースにした複合繊維の固有抵抗率のアニーリング時間の効果
これまでは熱処理は一定温度で実行されたが、本発明者は温度を徐々に増加することで伝導度が改良できるということに気がついた。この実施例では本発明者が観測した固有抵抗率の時間パラメータの影響を示す。
【0062】
CNTを20重量%含むDonamid 27 PA−6をベースにした繊維は加熱器に置き、外界温度から120℃まで5℃/分の速度で加熱し、それからこの温度で1時間維持した。[図2]は固有抵抗率の変化を経過時間の関数で記録したものである。これは外界温度から120℃まで5℃/分の速度で加熱し、この温度で1時間保持するサイクルでのCNTを20重量%含むPA-6繊維の固有抵抗率の変化である。
【0063】
最初のステップ時に、温度が増加すると共に固有抵抗率が大きく減少するのが観測される(実施例2参照)。一方、温度を一定に維持した時には固有抵抗率の変化は殆どないことが観測される。それから固有抵抗率は1時間約7%だけ変化するが、温度上昇中に20分で56%変化する。このことは熱処理の伝導度での効果が温度の関数だけでなく、ほぼ瞬間的であることを示している。これが実施例2で示された第2回目の温度上昇で効果が相対的に限られることとと一致している。
【0064】
実施例4
熱処理済の熱可塑性ポリマーとCNTとをベースにした複合繊維の変形センサーとしての使用
この実施例ではインサイチュー(in situ)でアニールされた複合繊維の張力を関数とする固有抵抗率の変化を示す。熱処理された繊維を紙のサンプルに結合する。マクチメータを2本の銅線で同じくサンプルに連結し、接点は銀ラッカーで接触した。繊維を1分間に1%の速度で引っ張り、引張試験と同時に抵抗値を記録する。伸びによる繊維の直径を補正することで、伸びの関数として固有抵抗の変化を演繹できる。
【0065】
[図3][図4]は5℃/分の速度で250℃で熱処理したCNTの含有量が3重量%および10重量%の繊維の伸びを関数とする応力および固有抵抗率の変化を示す。これらの2つの数量は「補正」値すなわち伸びによる断面の変化を考慮に入れられた値である。
【0066】
繊維はわずかに減少した後に、固有抵抗は伸びと一緒に繊維が破断するまで増加する。従って、機械的応力下でのこの電気特性の変化を変形感応素子(センサー)またはストレス感応素子として利用できる。
【0067】
本発明繊維の用途と利点
上記の伝導性繊維には多くの用途があり、特に下記の用途が挙げられる:
(1)外部応力に応答しまたはある種の刺激下で機能を励起する「インテリジェンス」とよばれるテキスタイルまたは衣類の技術、
(2)ジュール効果で加熱される織物、複合材および繊維、
(3)帯電防止織物、複合材および繊維(バッグ、包装、家具、その他)、
(4)電気機械センサー(変形ハンサーまたはストレス感応素子)用織物、複合材および繊維、
(5)電磁遮蔽用織物、複合材および繊維、
(6)ディスプレイ、キーボードまたは衣服組込み式の伝導性繊維および織物、
(7)電磁波受信または送信用アンテナ。
【0068】
従来の伝導性繊維と比較した本発明繊維の利点としては下記が挙げられる:
(1)金属繊維(銅、鉄、金、銀、金属合金)と比較した場合、本発明の複合繊維と違って、金属繊維は織るのが難しく、重く、腐食して劣化し、テクニカル織物または軽量衣服(高性能衣類)の生産には適していない。
(2)炭素繊維と比較した場合、本発明の複合繊維と違って、炭素繊維は繊維の軸線方向に高い電気伝導率および高い引張強度を有するが、可撓性を欠き、特定プロセスでしか織成できない。さらに、炭素繊維は大きな変形を受ける用途(引張、フォールディング、節止)に適していない。
(3)伝導性粒子で表面を被覆したポリマー繊維と比較した場合、銀粒子でおおわれている織物および繊維は、加熱織物または帯電防止バッグとして市販されているが、銀メッキはコストがかかり、寿命が限られ、繊維および織物の伝導性は時間とともに劣化する。特に、洗濯後に劣化する。
(4)導電性高分子繊維と比較した場合、導電性高分子繊維は軽くて伝導性であるが、耐薬品性が悪く、実際の利用が制限される。
【0069】
本発明の複合伝導繊維は上記の繊維の弱点のない第5のカテゴリーを構成する。下記の[表2]は各種カテゴリーを比較したものである。
【0070】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理段階を含む、熱可塑ポリマーと伝導性または半導体の粒子とをベースにした複合材から成る繊維を製造する方法において、
上記の熱処理を徐々に温度を上げながら複合材を加熱して行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
温度の上昇を毎分50℃以下、好ましくは毎分30℃以下、さらに好ましくは毎分10℃以下の速度で行う請求項1に記載の複合材繊維の製造方法。
【請求項3】
温度の上昇を毎分5℃の速度で行う請求項2に記載の複合材繊維の製造方法。
【請求項4】
必要な加熱温度が熱可塑性ポリマーのガラス遷移温度以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
必要な加熱温度が熱可塑性ポリマーの溶融温度までの温度である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
伝導性の粒子がロッド、小片、球、ストリップまたはチューブの形をした伝導性または半導体のコロイド粒子の中から選択される請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
伝導性のコロイド粒子を下記(1)〜(4)の中から選択する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法:
(1)カーボンナノチューブ、
(2)金属、例えば金、銀、白金、パラジウム、銅、鉄、亜鉛、チタン、タングステン、クロム、炭素、シリコン、コバルト、ニッケル、モリブデンおよびこれら金属の合金および化合物、
(3)酸化物、例えば酸化バナジウム(V2O5)、ZnO、ZrO2、WO3、PbO、In2O3、MgOおよびY2O3
(4)コロイド状の導電性または半導体のポリマー。
【請求項8】
熱可塑性ポリマーがポリアミド、ポリオレフィン、アセタール樹脂、ポリケトン、ポリエステルまたはポリフルオロポリマーまたはこれらの混合物およびコポリマーの中から選択される請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
伝導性粒子がカーボンナノチューブ(CNT)である場合に、熱可塑性ポリマーとカーボンナノチューブとをベースにした複合材がCNTの重量含有量が30%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量以下、さらに好ましくは0.1化合物10重量%で、熱処理によって体積抵抗率が10E12オーム.cm以下、好ましくは10E8オーム.cm以下、さらに好ましくは10E4オーム.cm以下の繊維を含む複合材を得る請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
伝導性の粒子がカーボンナノチューブで、充填剤含有量が7重量%以下の場合に、加熱温度を少なくともポリマーの溶融温度以上にする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
カーボンナノチューブの含有量が7重量%以上の場合に、加熱温度を少なくともポリマーのガラス遷移温度以上にする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
さらに溶融紡糸段階を有し、上記熱処理を複合材の紡糸時および/または遠心後に実行する請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
熱可塑性ポリマーと伝導性または半導体の粒子とをベースにした複合材から成り、この複合材の体積抵抗が10E12 オーム.cm以下、好ましくは10E8オーム.cm以下、さらに好ましくは10E4オーム.cm以下である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法で得られる伝導性繊維。
【請求項14】
上記の伝導性の粒子がロッド、小片、球、ストリップまたはチューブの形の伝導性または半導体のコロイド粒子から選択される請求項13に記載の伝導性繊維。
【請求項15】
伝導性のコロイド粒子を下記(1)〜(4)の中から選択する請求項14に記載の伝導性繊維:
(1)カーボンナノチューブ、
(2)金属、例えば金、銀、白金、パラジウム、銅、鉄、亜鉛、チタン、タングステン、クロム、炭素、シリコン、コバルト、ニッケル、モリブデンおよびこれら金属の合金および化合物、
(3)酸化物、例えば酸化バナジウム(V2O5)、ZnO、ZrO2、WO3、PbO、In2O3、MgOおよびY2O3
(4)コロイド状の導電性または半導体のポリマー。
【請求項16】
カーボンナノチューブ(CNT)を含み、CNT充填剤の含有量が30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは0.1〜10重量%である請求項15に記載の伝導性繊維。
【請求項17】
ポリアミド、ポリオレフィン、アセタール樹脂、ポリケトン、ポリエステルまたはポリフルオロポリマーまたはこれらの混合物およびコポリマーから成る群の中から選択される熱可塑性ポリマーから成る請求項13に記載の伝導性繊維。
【請求項18】
ポリアミドとカーボンナノチューブとから成る請求項16または17に記載の伝導性繊維。
【請求項19】
請求項13〜17のいずれか一項に記載の複合伝導性繊維の、織物、電子部品、機械部品および電気機械部品での使用。
【請求項20】
熱可塑性ポリマーとカーボンナノチューブとをベースにした複合材から成る請求項13〜17のいずれか一項に記載の伝導性繊維の、有機および無機マトリックスの強化、防弾保護服(防護服、手袋、保安帽、その他)の補強、帯電防止衣類、伝導性織物、帯電防繊維および織物、電気化学センサー、電子機械的アクチュエータ、電磁遮蔽塗布、包装およびバッグでの使用。
【請求項21】
変形感知センサー製造での請求項20に記載の伝導性繊維の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−526660(P2011−526660A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515564(P2011−515564)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051225
【国際公開番号】WO2010/001044
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【出願人】(505252333)サントル・ナシヨナル・ド・ラ・ルシエルシユ・シヤンテイフイク (24)
【Fターム(参考)】