説明

複合微粒子ならびにその分散液および成形体

【課題】金属または金属化合物の超微粒子を凝集することなくポリマー中に分散した複合微粒子を提供すること。
【解決手段】本発明の複合微粒子は、金属または金属化合物のコア超微粒子と、金属イオン配位性基を有し、該コア超微粒子を包囲する重合体とを含む。好ましくは、重合体は架橋されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属または金属化合物のコア超微粒子と該コア超微粒子を包囲する重合体とを含む複合微粒子、ならびにその分散液および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止膜や導電膜などの機能膜は、従来、真空蒸着法やスパッタリング法等の真空製膜工程で作製されているが、工程のコストダウンや大面積に対応するためにコーティング法が望まれている。このコーティング法では、金属超微粒子や金属化合物超微粒子を有機ポリマー溶液中に分散して用いることになるが、金属超微粒子や金属化合物超微粒子は表面エネルギーが非常に大きいため凝集しやすく、これらを安定に均一分散することは容易でない。あるいは、仮に溶液に均一分散できたとしても溶媒がなくなると表面エネルギーの小さいポリマー中では凝集を起こしやすい。
【0003】
こうした超微粒子は、表面エネルギーが高いことに起因して、一旦凝集すると融合して大粒子となりやすく、そうなると超微粒子で発現される特異な物理的性質が消滅してしまう。そこで、ポリマー溶液またはポリマー中での凝集を防ぐために、シランカップリング剤のような粒子表面に化学結合する有機化合物を反応させて粒子表面に有機層を形成し、粒子の表面エネルギーをポリマーに近づけることが行われている。
【0004】
しかし、粒子表面に有機層を形成させる方法では、粒子サイズが小さくなるほど比表面積は増大するので、それを被覆するために必要な有機層の量も増大する。そうなると、ポリマーと超微粒子との2成分系であったものが、さらに有機層の加わった3成分系となり、有機層の影響を無視できなくなるという問題が生じる。
【0005】
金属超微粒子や金属化合物超微粒子を直接ポリマーへ含有させる方法として、特許文献1には、媒体に溶解した貴金属塩を還元して金属コロイドを形成させ、その分散媒をモノマーと置換したのちに重合する方法が記載されている。
【0006】
特許文献2には、液状モノマーに可溶な金属塩を溶解させたのち、これを重合し、次いで該貴金属のコロイド形成温度以上の温度で加熱処理する方法が記載されている。
【0007】
特許文献3には、界面活性剤を含む水系媒体中に金属錯体あるいは金属イオンを生成する金属化合物を添加した後、この水系媒体中でモノマーを乳化重合して金属超微粒子が重合体中に均一に分散して含有されている金属含有重合体エマルジョンを得、当該金属含有重合体エマルジョンから媒体を除去することにより金属含有高分子重合体を得る方法が記載されている。
【0008】
上記いずれの方法においても、生成する金属超微粒子や金属化合物超微粒子を安定化することが行われていないため、それらをポリマー中に凝集することなく分散させることは困難である。上記特許文献3では、「均一に含有、溶解または分散」している状態とは、目視において金属含有高分子重合体に色斑が認められない状態と定義されていることからも明らかである。
【0009】
また、特許文献4には、粒子表面の電荷を利用して、選択されたポリマーを粒子表面に静電的に結合させて被覆する技術が記載されている。無機微粒子は弱いながらも表面電荷を持っているため、この方法によれば、カップリング剤などで表面処理することなくポリマー被覆が可能となる。このポリマーが微粒子を分散すべきマトリックスポリマーと同じならば、2成分系となり粒子表面層の影響は無視できる。しかし、この方法は被覆すべき微粒子の凝集が弱い場合のみに有効であって、強く凝集する超微粒子では凝集状態で被覆される問題がある。
【0010】
以上のように、上記従来の技術では、金属超微粒子や金属化合物超微粒子をポリマー中に凝集することなく分散させることは困難である。
【特許文献1】特開昭61−133202号公報
【特許文献2】特開平1−113464号公報
【特許文献3】特開2001−49128号公報
【特許文献4】特開2006−213592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、超微粒子を凝集することなくポリマー中に分散した複合微粒子ならびにその分散液および成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、金属イオン配位性基を有する重合体微粒子中で金属または金属化合物の超微粒子を生成させて複合微粒子を形成することにより、当該超微粒子を凝集することなく重合体中に分散させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の複合微粒子は、金属または金属化合物のコア超微粒子と;金属イオン配位性基を有し、該コア超微粒子を包囲する重合体と;を含む。
【0014】
好ましい実施形態においては、上記複合微粒子の直径は5〜500nmである。好ましい実施形態においては、上記重合体は架橋されている。好ましい実施形態においては、上記コア超微粒子の長径は0.1〜200nmである。好ましい実施形態においては、上記コア超微粒子は0.1重量%以上含有されている。
【0015】
本発明の別の局面によれば、分散液が提供される。この分散液は、上記複合微粒子が溶媒に分散している。本発明のさらに別の局面によれば、成形体が提供される。この成形体は、上記複合微粒子を用いて成形されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の複合微粒子は、金属または金属化合物超微粒子が金属イオン配位性基を有する重合体に周囲を囲まれて存在しているので、当該超微粒子は重合体中で凝集することがないという効果を奏する。さらに、本発明の成形体は、金属または金属化合物超微粒子が重合体中で凝集することがないので、それらが有する特異な物理的性質を成形後も発揮することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0018】
<複合微粒子の全体構成>
本発明の複合微粒子は、金属または金属化合物のコア超微粒子(代表的には、ナノメーターサイズの微粒子)と;金属イオン配位性基を有し、該コア超微粒子を包囲する重合体と;を含む。すなわち、当該コア超微粒子は、複合微粒子内部で金属イオン配位性基を有する重合体に周囲を囲まれた状態にある。当該重合体に包囲されるコア超微粒子は、1個であってもよく、複数個であってもよい。包囲されるコア超微粒子が複数個である場合、好ましくは、それらは重合体によって個々に隔絶されている。このような構成により、非常に表面エネルギーの大きい金属または金属化合物の超微粒子であっても、それらは凝集することなく複合微粒子中に存在できる。
【0019】
上記複合微粒子の大きさは、その直径が好ましくは5〜500nm、さらに好ましくは10〜200nm、特に好ましくは15〜100nmである。複合微粒子全体の直径をこのような範囲とすることにより、成形体とした場合に、当該成形体中のコア超微粒子の分布の均一性が高まる。
【0020】
上記コア超微粒子は、いわゆるナノ粒子である。コア超微粒子の大きさは、その長径が好ましくは0.5〜200nm、さらに好ましくは0.5〜50nm、特に好ましくは1〜30nmである。コア超微粒子の長径をこのような範囲とすることにより、量子ドット、光学的性質、触媒活性などの粒子サイズに依存する物理的性質を良好に発揮することができる。なお、本明細書において「長径」とは、コア超微粒子が実質的に球形の場合には直径を意味し、非球形の場合には長手方向の長さを意味する。
【0021】
上記コア超微粒子の複合体微粒子中の含有量は、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5〜99重量%、特に好ましくは1〜99重量%である。含有量が0.1重量%より小さい場合には、コア超微粒子に特有の性質を十分に発揮できない場合がある。含有量が99重量%よりも大きい場合には、コア超微粒子同士の凝集を防止できない場合がある。
【0022】
<重合体>
上記重合体は、分子構造中に金属イオン配位性基を有する限りにおいて、目的に応じて任意の適切な重合体が選択され得る。例えば、光学材料分野では、透明性などの点からポリ(メタ)アクリレートやシクロオレフィンポリマーが選択される。
【0023】
金属イオン配位性基としては、錯体化学の分野で配位子として知られている有機分子、例えば酢酸のようなカルボン酸類、サリチル酸のような芳香族ヒドロキシカルボン酸類、カテコールのような芳香族アルコール類、ピリジンのような含窒素複素環化合物、トリフェニルホスフィンのようなホスフィン類、メルカプタン類、アセチルアセトン、エチレンジアミン四酢酸などの分子構造を骨格に持つ基を挙げることができ、これらは単独または組合せて用いることができる。
【0024】
金属イオン配位性基は、重合体の主鎖に存在してもよく、側鎖に存在してもよく、主鎖および側鎖の両方に存在してもよい。金属イオン配位性基の含有割合は、重合体を構成するモノマー単位を基準にして、好ましくは0.01〜99.99モル%、さらに好ましくは0.1〜99.99モル%、特に好ましくは1〜99.99モル%である。このような範囲で金属イオン配位性基が重合体中に存在することにより、コア超微粒子を凝集させることなく分散することができる。
【0025】
上記重合体は、好ましくは架橋されている。架橋することにより、コア超微粒子をより安定して隔絶することができる。架橋度は、重合体を構成するモノマー単位を基準にして、好ましくは0.01〜50モル%、さらに好ましくは0.1〜20モル%、特に好ましくは0.2〜10モル%である。このような範囲の架橋度を有することにより、コア超微粒子をさらに安定して隔絶することができる。
【0026】
<コア超微粒子>
上記コア超微粒子における金属は、元素周期表中の典型金属元素および遷移金属元素から選択される少なくとも一つの金属元素である。好ましくは、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Pd、Ag、Pt、およびAuから選ばれる遷移金属元素である。また、これらの合金であってもよい。
【0027】
上記コア超微粒子における金属化合物は、元素周期表中の典型金属元素および遷移金属元素から選択される少なくとも一つの金属元素の酸化物、硫化物または複合酸化物である。好ましくは、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、La、Se、Sm、Eu、Gd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Ta、Pb、およびBiから選ばれる金属元素の酸化物、硫化物または複合酸化物である。
【0028】
コア超微粒子の形状は、目的に応じて任意の適切な形状が採用され得る。具体例としては、球状、ロッド状、板状、繊維状が挙げられる。
【0029】
<複合微粒子の作製方法>
本発明の複合微粒子は、例えば、金属イオン配位性基を有する重合体の微粒子(好ましくは、架橋微粒子)を作った後、この(架橋)微粒子に金属イオンを吸収させ、次いで金属イオンから金属または金属化合物を生成する試薬を反応させることによって作製される。
【0030】
金属イオン配位性基を有する重合体の(架橋)微粒子は、分散重合、乳化重合、転相乳化、ミニエマルション重合などによって作製することができる。分散重合が好ましい。乳化剤などが不純物として残らないからである。
【0031】
分散重合で金属イオン配位性基を有する重合体の(架橋)微粒子を作製する場合、金属イオン配位性基を有する重合性モノマーおよび必要に応じて架橋モノマーを有機溶媒中、分散安定剤の存在下でラジカル重合することにより(架橋)微粒子を得ることができる。あるいは、アクリル酸、グリシジルメタクリレート、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、クロロメチルスチレンのような反応性基を有するラジカル重合性モノマーおよび架橋モノマーを有機溶媒中、分散安定剤の存在下でラジカル重合して架橋微粒子を得た後、これに錯体化学の分野で配位子として知られている有機分子を結合させることで目的とする金属イオン配位性基を有する重合体の架橋微粒子を作製することもできる。
【0032】
金属イオン配位性基を有する重合性モノマーとしては、錯体化学の分野で配位子として知られている有機分子の構造を分子骨格中に持ち、かつ(メタ)アクリロイル基のようなラジカル重合性基を有する化合物であれば用いることが出来る。このようなモノマーとして、例えば、アクリル酸、ビニルピリジン、ヒドロキシエチルアクリレート、2−アセトアセトキシエチルメタクリレートなどを挙げることができ、こうしたモノマーを単独または組合せて用いることができる。
【0033】
さらに、金属イオン配位性基を有する重合性モノマーを他の重合性モノマーと共重合することもできる。共重合割合は、重合体を構成するモノマー単位を基準にして、金属イオン配位性基を有する重合性モノマーが好ましくは0.01〜99.99モル%、さらに好ましくは0.1〜99.99モル%、特に好ましくは1〜99.99モル%の範囲である。0.01モル%未満であると本発明が想定する技術分野で必要とされる性能が得られない場合が多い。共重合可能な重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸の直鎖アルキル、環状アルキル、アルコキシシリルアルキル、アラルキル、アリールまたはフェノールエステル、芳香族ビニル化合物、メタクリロキシプロピルヘプタシクロペンチル−T8−シルセスキオキサンなどを挙げることができる。
【0034】
架橋モノマーは、2つ以上のビニル基、(メタ)アクリロイル基のようなラジカル重合性基を有しかつ非極性溶媒に溶解する化合物あれば用いることができる。そのような架橋モノマーとして、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレートなどを挙げることができる。
【0035】
分散重合を行う際の有機溶媒は、金属イオン配位性基を有する重合性モノマーの共重合割合と共重合モノマーの性質によって適切に選択することが好ましい。これは、多くの場合、金属イオン配位性基を有する重合性モノマーまたは反応性基を有するラジカル重合性モノマーから生成する重合体は極性溶媒に溶解しやすいので、極性溶媒中では粒子が生成しにくいためである。金属イオン配位性基を有する重合性モノマーを単独または主成分として用いる場合、トルエン、ペンタンのような非極性溶媒が好ましい。共重合する重合性モノマーの単独重合体が非極性溶媒に溶解しやすい場合は、エタノールのような極性溶媒を用いてもよい。
【0036】
分散安定剤は、重合溶媒に溶解するポリマーであれば用いることができる。本発明の複合微粒子を他のポリマーと混合して用いる場合、複合微粒子とポリマーとの親和性を確保する観点から、複合微粒子の重合体あるいは当該重合体に近い表面自由エネルギーを有するポリマーを分散安定剤として用いることが好ましい。
【0037】
ラジカル重合を行うための重合開始剤は、重合溶媒に溶解するアゾ化合物、過酸化物を用いることが出来る。
【0038】
分散重合条件は、重合性モノマーの性質、目的とする粒子径、分散安定剤の種類、重合開始剤の種類などに応じて分散重合の理論に従って適切に設定することが出来る。
【0039】
重合終了後、遠心分離、限外濾過などを用いて生成(架橋)微粒子を洗浄して分散安定剤や残存モノマーなどを除くことが好ましい。
【0040】
次に、こうして得られた金属イオン配位性基を有する重合体の(架橋)微粒子を有機溶媒に分散させて、金属イオンを吸収させる。この時、(架橋)微粒子を溶剤で膨潤させることが好ましい。膨潤することにより、(架橋)微粒子内部まで金属イオンが吸収されやすくなるためである。(架橋)微粒子を膨潤させる溶剤としては、金属イオン配位性基を有する重合体を溶解させる溶剤が好ましい。そのような溶剤として、水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、アセトンなどの極性溶剤を挙げることができる。こうした膨潤用溶剤は、単独でまたは非極性溶媒と混合して用いることが出来る。
【0041】
(架橋)微粒子に吸収させる金属イオンは、上記膨潤用溶剤に溶解させて供給することが好ましい。そうすることにより、(架橋)微粒子内部まで金属イオンを送り込むことが出来る。金属イオンを膨潤用溶剤に溶解させるには、膨潤用溶剤に可溶な金属塩や金属錯体を用いればよい。ただし、金属錯体の場合、その配位子の結合が強いと金属イオンが重合体の金属イオン配位性基に結合できなくなるので、配位子の結合が弱い錯体、例えばアンミン錯体、アクア錯体などを用いることが好ましい。
【0042】
金属イオンを吸収させる時間は、金属イオンによって異なるが、例えば、反応液を1晩攪拌放置すれば十分である。金属イオン吸収後、遠心分離、限外濾過などを用いて(架橋)微粒子を洗浄して残存金属イオンを除くことが好ましい。
【0043】
次いで、金属イオンを吸収した(架橋)微粒子中の金属イオンに適切な試薬を反応させて(架橋)微粒子内部に金属または金属化合物のコア超微粒子を生成させる。金属のコア超微粒子を生成させる場合は、水素、アスコルビン酸、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、アルキルアミンのような金属イオンを還元可能な試薬を反応させればよい。金属化合物のコア超微粒子を生成させる場合、金属酸化物ならば、水酸化リチウムや水酸化カリウムのような極性有機溶剤に可溶なアルカリ金属水酸化物と少量の水で金属イオンを水酸化物とした後、酸化物とすることが出来る。この時、常圧または加圧下で加熱処理することにより迅速に酸化物を得ることが出来る。あるいは、過酸化水素のような酸化剤を用いることも出来る。金属硫化物ならば、金属イオンに硫化ナトリウムや硫化水素を反応させることで得ることが出来る。
【0044】
これらの試薬を反応させる場合、(架橋)微粒子を溶剤で膨潤させることが好ましい。膨潤することにより、(架橋)微粒子内部まで試薬を送り込むことができる。(架橋)微粒子を膨潤させる溶剤としては、金属イオン配位性基を有する重合体を溶解させる溶剤が好ましい。そのような溶剤として、水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、アセトンなどの極性溶剤を挙げることができる。こうした膨潤用溶剤は、単独でまたは非極性溶媒と混合して用いることが出来る。試薬が固体または液体の場合は、上記膨潤用溶剤に溶解させて供給することが好ましい。そうすることにより、(架橋)微粒子内部まで試薬を送り込むことができる。
【0045】
試薬を反応させる時間は、金属や金属硫化物のコア超微粒子を生成させる場合、反応液を1晩攪拌放置すれば十分である。金属酸化物のコア超微粒子を生成する場合は、反応液を常圧または加圧容器中で50℃以上に加熱処理することが好ましい。反応終了後、遠心分離、限外濾過などを用いて(架橋)微粒子を洗浄して残存試薬を除くことが好ましい。
【0046】
上記のようにして得られた複合微粒子の分散液は、そのまま用いることもできる。このような分散液も、本発明の1つである。
【0047】
<成形体>
本発明の成形体は、上記本発明の複合微粒子を用いて成形される。その結果、金属または金属化合物の超微粒子を内包する成形体を作製することができる。成形体の形態としては、フィルム、コーティング膜、多孔質体およびバルク体を挙げることができる。それぞれの形態に対して、複合微粒子を単独で、他のポリマーと混合して、あるいは熱処理物として使用することができる。なお、以下の説明においては、便宜上、分散液を成形体に含めて説明することもある。
【0048】
複合微粒子を単独で用いる場合、上記複合微粒子分散液をそのまま用いることができる。あるいは、分散液をキャスティングすることでフィルムを作製できる。また、分散液を基板上へコーティングした後、常温または加熱乾燥することでコーティング膜とすることができる。分散液から乾燥させた複合微粒子を加熱成形することでフィルムやバルク体を作製できる。また、複合微粒子を後から除去可能な無機塩や有機物などと共に成形後、それらを除去すると多孔質体とすることができる。
【0049】
複合微粒子を他のポリマーと混合して用いる場合、複合微粒子分散液に他のポリマーを溶解後、そのまま用いることができる、あるいは、分散液に他のポリマーを溶解後、それをキャスティングすることでフィルムを作製できる。また、それを基板上へコーティングした後、常温または加熱乾燥することでコーティング膜とすることができる。分散液から乾燥させた複合微粒子を他のポリマーとドライブレンド後、加熱混合し、さらに成形することでフィルムやバルク体を作製できる。他のポリマーの混合量は、目的に応じて異なるが、成形体中の複合微粒子濃度が0.1〜99.9重量%の範囲で用いることができる。混合するポリマーは、目的によって選択することができ、例えば、光学材料分野ならポリカーボネートやポリシクロオレフィンのような光学用途のポリマーおよびエポキシ樹脂、電子材料分野なら低または高誘電率ポリマー、導電性ポリマー、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂、などを挙げることができる。
【0050】
熱処理物として用いる場合、まず複合微粒子を、例えば、不活性雰囲気下で400℃以上の温度で熱処理する。これにより複合微粒子から熱処理物として、金属または金属化合物超微粒子を内包するシリカ化物または炭化物が得られる。シリカ化物を作る場合、例えば、金属イオン配位性基を有する重合性モノマーとメタクリロキシプロピルトリエトキシシランやメタクリロキシプロピルヘプタシクロペンチル−T8−シルセスキオキサンのようなケイ素を含むモノマーとから作製した重合体を含む複合微粒子を用いることができる。炭化物は、例えば、炭化収率のよいアクリル酸、アクリロニトリルなどの重合性モノマーと金属イオン配位性基を有する重合性モノマーとから作製した重合体を含む複合微粒子を用いることができる。
【0051】
複合微粒子の熱処理条件により、熱処理物を粉体またはバルク体とすることができる。粉体の場合、他のポリマーとドライブレンド後、加熱混合し、さらに成形することでフィルムやバルク体を作製できる。熱処理物分散液に他のポリマーを溶解後、それをキャスティングすることでフィルムを作製できる。熱処理物分散液に他のポリマーを溶解後、それを基板上へコーティングした後、常温または加熱乾燥することでコーティング膜とすることができる。他のポリマーの混合量は、目的に応じて異なるが、成形体中の熱処理物濃度が0.1〜99.9重量%の範囲で用いることができる。混合するポリマーは、目的によって選択することができ、例えば、電子材料分野なら低または高誘電率ポリマー、導電性ポリマー、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂、などを挙げることができる。
【0052】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0053】
(参考例1:架橋微粒子の作製)
反応容器中で、トルエン40mlにビニルピリジン1.9g、ジビニルベンゼン0.1g、エチルセルロース2gおよび過酸化ベンゾイル0.02gを溶解後、反応容器内部を窒素置換して攪拌しながら80℃で15時間重合を行った。生成した重合微粒子を遠心分離機を用いてメタノールで洗浄後、アセトン分散液とした。別途、生成粒子を透過型電子顕微鏡で観察したところ、100nm前後の球状微粒子であった。
【0054】
(参考例2:架橋微粒子の作製)
ビニルピリジンをアクリル酸に変えた以外は、参考例1と同様にして重合を行った。生成した重合微粒子を遠心分離機を用いてメタノールで洗浄後、アセトン分散液とした。別途、生成粒子を透過型電子顕微鏡で観察したところ、90nm前後の球状微粒子であった。
【0055】
(参考例3:架橋微粒子の作製)
反応容器中で、トルエン40mlにビニルピリジン1.0g、スチレン0.9gおよびジビニルベンゼン0.1g、エチルセルロース2gおよび過酸化ベンゾイル0.02gを溶解後、反応容器内部を窒素置換して攪拌しながら80℃で15時間重合を行った。生成した重合微粒子を遠心分離機を用いてメタノールで洗浄後、アセトン分散液とした。別途、生成粒子を透過型電子顕微鏡で観察したところ、120nm前後の球状微粒子であった。
【0056】
(参考例4:架橋微粒子の作製)
反応容器中で、トルエン40mlにビニルピリジン1.0g、メタクリロキシプロピルヘプタシクロペンチル−T8−シルセスキオキサン0.9gおよびジビニルベンゼン0.1g、エチルセルロース2gおよび過酸化ベンゾイル0.02gを溶解後、反応容器内部を窒素置換して攪拌しながら80℃で15時間重合を行った。生成した重合微粒子を遠心分離機を用いてメタノールで洗浄後、アセトン分散液とした。別途、生成粒子を透過型電子顕微鏡で観察したところ、120nm前後の球状微粒子であった。
【0057】
(参考例5:架橋微粒子の作製)
反応容器中で、シクロヘキサン40mlにメタクリロイルオキシエチルイソシアネート1.9gおよびジビニルベンゼン0.1g、シクロオレフィンポリマー2gおよび過酸化ベンゾイル0.02gを溶解後、反応容器内部を窒素置換して攪拌しながら80℃で15時間重合を行った。生成した重合微粒子を遠心分離機を用いてメタノールで洗浄後、トルエン分散液とした。別途、生成粒子を透過型電子顕微鏡で観察したところ、150nm前後の球状微粒子であった。
【0058】
次いで、架橋微粒子分散液にメルカプトエチルアミン1gのエタノール溶液を加えて1晩攪拌した。次いで、エタノールで希釈した後、遠心沈降させ、沈澱を再びトルエンに再分散させた。この操作を計3回行って生成微粒子を洗浄し、メルカプト基を有する架橋微粒子を得た。
【0059】
(実施例1:複合微粒子の作製)
参考例1で作製した架橋微粒子分散液に塩化金酸0.01gのエタノール溶液を加えて5時間攪拌した。反応後、遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄し、薄黄色粒子のメタノール分散液を得た。
次いで、この分散液に水素化ホウ素ナトリウムのエタノール溶液を加えて金イオンを還元し、遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄して赤紫色の粒子分散液を得た。
この赤紫色の粒子を透過型電子顕微鏡で観察したところ、球状の粒子内部に多数の2〜7nmの金ナノ粒子が凝集することなく存在している様子を観察することができた。さらに、赤紫色の粒子を熱分析したところ、金属金が17重量%含まれていた。
【0060】
(実施例2:複合微粒子の作製)
参考例3で作製した架橋微粒子分散液に塩化金酸0.01gのエタノール溶液を加えて5時間攪拌した。反応後、遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄し、薄黄色粒子のメタノール分散液を得た。
次いで、この分散液に水素化ホウ素ナトリウムのエタノール溶液を加えて金イオンを還元し、遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄して赤紫色の粒子分散液を得た。
この赤紫色の粒子を透過型電子顕微鏡で観察したところ、球状の粒子内部に多数の5〜12nmの金ナノ粒子が凝集することなく存在している様子を観察することができた。さらに、赤紫色の粒子を熱分析したところ、金属金が9重量%含まれていた。
【0061】
(実施例3:複合微粒子の作製)
参考例4で作製した架橋微粒子分散液に塩化金酸0.01gのエタノール溶液を加えて5時間攪拌した。反応後、遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄し、薄黄色粒子のメタノール分散液を得た。
次いで、この分散液に水素化ホウ素ナトリウムのエタノール溶液を加えて金イオンを還元し、遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄して薄赤紫色の粒子分散液を得た。
この赤紫色の粒子を透過型電子顕微鏡で観察したところ、球状の粒子内部に多数の4〜10nmの金ナノ粒子が凝集することなく存在している様子を観察することができた。
【0062】
(実施例4:複合微粒子の作製)
塩化金酸を硝酸銀に変えた以外は実施例1と同様にして銀イオンを吸収させ、次いで還元して黄褐色の粒子分散液を得た。
この黄褐色の粒子を透過型電子顕微鏡で観察したところ、球状の粒子内部に多数の2〜5nmの銀ナノ粒子が凝集することなく存在している様子を観察することができた。さらに、粒子を熱分析したところ、金属銀が19重量%含まれていた。
【0063】
(実施例5:複合微粒子の作製)
参考例2で作製した架橋微粒子分散液に硫酸銅0.01gのメタノール溶液を加えて5時間攪拌した。反応後、遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄し、青色粒子のメタノール分散液を得た。
次いで、この分散液に水素化ホウ素ナトリウムのエタノール溶液を加えて銅イオンを還元し、遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄して赤褐色の粒子分散液を得た。
この赤褐色の粒子のラマンスペクトルを測定したところ酸化第一銅が生成していることがわかった。さらに赤褐色の粒子分散液にヒドラジンを加えて還元を行ったところ、暗い赤紫色の粒子分散液となった。この暗赤紫色粒子を透過型電子顕微鏡で観察したところ、球状の粒子内部に多数の1〜3nmの銅ナノ粒子が凝集することなく存在している様子を観察することができた。なお、暗赤紫色粒子は、空気に晒すと次第に褐色に変化し酸化銅が生成した。
【0064】
(実施例6:複合微粒子の作製)
参考例2で作製した架橋微粒子分散液に塩化ニッケル0.01gのメタノール溶液を加えて5時間攪拌した。反応後、遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄し、無色粒子のメタノール分散液を得た。
次いで、この分散液に水素化ホウ素ナトリウムのエタノール溶液を加えてニッケルイオンを還元し、遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄して黒色の粒子分散液を得た。粒子を熱分析したところ、金属ニッケルが16重量%含まれていた。
【0065】
(実施例7:複合微粒子の作製)
参考例2で作製した架橋微粒子分散液にオキシ塩化ジルコニウム0.01gのメタノール溶液を加えて18時間攪拌した。反応後、遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄し、無色粒子のエタノール分散液を得た。
次いで、この分散液に0.01%塩酸水溶液を加えて酸性とした後、加圧容器中、100℃で24時間処理をした。遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄して無色の粒子分散液を得た。この無色粒子を透過型電子顕微鏡で観察したところ、球状の粒子内部に多数の1nm程度のジルコニウムナノ粒子が凝集することなく存在している様子を観察することができた。
【0066】
(実施例8:複合微粒子の作製)
参考例2で作製した架橋微粒子分散液に硝酸銀0.01gのメタノール溶液を加えて5時間攪拌した。反応後、遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄し、無色粒子のメタノール分散液を得た。
次いで、この分散液に水素化ホウ素ナトリウムのエタノール溶液を加えて銀イオンを還元し、遠心分離機を用いて生成粒子をメタノールで洗浄して褐色の粒子分散液を得た。
この褐色粒子を透過型電子顕微鏡で観察したところ、球状の粒子内部に多数の2〜15nmの銀ナノ粒子が凝集することなく存在している様子を観察することができた。
【0067】
(実施例9:成形体の作製)
実施例1で作製した赤紫色粒子0.5gを0.5gポリメチルメタクリレート/トルエン溶液に再分散し、ガラス基板上にスピンコートしたところ赤紫色の透明膜が得られた。
【0068】
(実施例10:成形体の作製)
実施例2で作製した赤紫色粒子を乾燥させた後、ペレット状にして110℃でプレス成形したところ、赤紫色のフィルムが得られた。
【0069】
(実施例11:成形体の作製)
実施例3で作製した薄赤紫色粒子を窒素気流下、500℃で熱処理を行ったところ、赤紫色粉体が得られた。これを透過型電子顕微鏡で観察したところ、4〜12nmの金ナノ粒子が凝集することなく存在している様子を観察することができた。
【0070】
(実施例12:成形体の作製)
実施例8で作製した褐色粒子を窒素気流下、500℃で熱処理を行ったところ、黒色粉体が得られた。これを透過型電子顕微鏡で観察したところ、4〜20nmの銀ナノ粒子が凝集することなく存在している様子を観察することができた。
【0071】
上記実施例から明らかなように、本発明によれば、金属または金属化合物の超微粒子を凝集させることなく重合体微粒子中に分散させることができる。さらに、複合微粒子の重合体とマトリックスポリマーの組成を同等または近似したものとすることにより、本発明の複合微粒子をマトリックスポリマー溶液へ分散、あるいはマトリックスポリマーへ分散させて、金属または金属化合物の超微粒子を凝集することなくマトリックスポリマー中に分散した成形体を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の複合微粒子は、光学フィルター、遮光材、反射防止膜、光学素子などの光学材料分野、光学センサー、磁気センサー、診断薬などのセンシング分野、導電材などの電子材料分野、および触媒材料に好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属または金属化合物のコア超微粒子と、
金属イオン配位性基を有し、該コア超微粒子を包囲する重合体と
を含む、複合微粒子。
【請求項2】
直径が5〜500nmである、請求項1に記載の複合微粒子。
【請求項3】
前記重合体が架橋されている、請求項1または2に記載の複合微粒子。
【請求項4】
前記コア超微粒子の長径が0.1〜200nmである、請求項1から3のいずれかに記載の複合微粒子。
【請求項5】
前記コア超微粒子が0.1重量%以上含有されている、請求項1から4のいずれかに記載の複合微粒子。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の複合微粒子が溶媒に分散されている、分散液。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の複合微粒子を用いて成形された、成形体。



【公開番号】特開2009−227883(P2009−227883A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77084(P2008−77084)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】