説明

複合成形体および複合成形体の製造方法

【課題】自動車車体パネルなどの比較的大きな面積を有するパネルでも曲げ剛性が優れた、軽量な複合成形体を提供する。
【解決手段】芯材発泡樹脂3bの両面に、表面に多数の凹凸6を有する金属板2a、2bが各々接合され、これら積層された芯材発泡樹脂3bと金属板2a、2bとが一体として所定のパネル形状に成形されている複合成形体1bであって、これら金属板2a、2bにおける凹凸6の内、互いに同じ方向に向かう凹部6b、6b同士か、凸部6a、6a同士かの相対する位置を各々一致させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体や部品などに適し、曲げ剛性が優れた、軽量な複合板および複合成形体、複合成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウム合金板を単体で用いるよりも軽量化するとともに、制振性能・遮音性能などを付与するために、芯材として発泡樹脂を2枚のアルミニウム合金板間に挟んで積層した軽量複合板あるいは軽量複合成形パネルが提案されている。
【0003】
これらの軽量複合成形パネルは、先ず、芯材として発泡性樹脂(発泡可能樹脂)を、接着用樹脂を介して、2枚の平坦なアルミニウム合金板間に挟んで積層して素材積層板として、接着、一体化させる。その後、素材積層板を、プレスまたはロールフォーミングなどの塑性加工により、所望の成形体形状に成形し、この成形後あるいは成形前に、接着時よりも高い、発泡性樹脂の発泡温度で加熱することにより、発泡性樹脂を発泡させたものである。ここで、発泡性樹脂とは、加熱により発泡する乃至加熱により発泡が可能な樹脂を意味する。
【0004】
この基本構造に対して、この軽量複合成形パネルの外観性、軽量性、耐衝撃性、耐熱性、保温性、耐久性などの諸特性を向上させるために、これら発泡樹脂の発泡倍率を制御して、異なる発泡倍率の発泡樹脂を積層することなども提案されている(特許文献1参照)。また、発泡性樹脂層の発泡後の剥離を抑制するために、アルミニウム合金板と発泡性樹脂層との間に、接着剤層と非発泡性樹脂層とを介在させることも提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
ここで、具体的な用途として、自動車車体用パネルの分野にも、このような軽量複合成形パネルが適用できれば、軽量化が図れ、燃費や操縦性を向上させることができる。しかし、自動車車体用パネルは、フード、ドアなどのアウタパネルやインナパネル、ルーフパネル、アンダーカバーパネル、あるいは、デッキボード、バルクヘッドなど、周知の通り、2m2 以上の比較的大きな面積を有し、また複雑な外周形状や曲面あるいは大きな成形面積を有する。このため、実際にこれら自動車車体用パネル材料として使用されている鋼板単体や、鋼板よりも成形性が劣るアルミニウム合金板単体でも、張出成形や絞り成形などのプレス成形が比較的難しい場合がある。
【0006】
この点、前記発泡樹脂による軽量複合成形パネルも、自動車の吸音部材や制振部材などの比較的単純な形状や、成形面積が小さい場合には、成形できる。しかし、前記した比較的大きな面積を有する自動車車体用パネルの場合には、しわや割れが発生することなく、大きな面積を有するパネルが成形できることが必要となる。このため、未発泡状態の発泡性樹脂を積層した積層板の、前記した所定形状の各種自動車車体用パネルへの成形性を向上させる課題がある。
【0007】
これに対して、更に、形状・施工場所・重量に制限を受けることがないとともに、積層板全体として薄く、プレス加工などの塑性加工性がよく、加熱発泡工程を経た最終の使用状態で十分な制振性能などを備え、防音性能を発揮する軽量複合成形パネル(発泡樹脂積層防音板)も提案されている(特許文献3)。
【0008】
また、一般には、鋼板に比して成形性の低いアルミニウム合金板のプレス成形性を向上させるために、アルミニウム合金板にエンボス加工を施して、板表面に多数の凹凸を設けた軽量成形パネルも提案されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開平10−29258号公報
【特許文献2】特開2006−56121号公報
【特許文献3】特開2004−42649号公報
【特許文献4】特開2005−246418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記した特許文献3によれば、素材積層板を加熱して、発泡性樹脂シートを板厚方向に膨張させることによって、断面二次モーメントが増大して、曲げ剛性を高めることができる。この素材積層板は、発泡性樹脂が未発泡状態では、積層板の厚さを薄くできる。したがって、この素材積層板の状態でプレス成形などにより所定パネル形状とし、その後、この複合パネルを加熱し、樹脂発泡温度として、発泡性樹脂を発泡樹脂とし、厚みを増大させることが可能である。この結果、軽量で高剛性な軽量複合成形パネルを得ることができる。これは、発泡性樹脂に積層するアルミニウム合金板表面にエンボス加工を施す、特許文献4でも同様である。
【0010】
ただ、前記した比較的大きな面積を有する自動車車体用パネルには、軽量であることが要求されるとともに、構造材としての耐久性や衝突安全性のための曲げ剛性が要求される。このような要求に対応し、曲げ剛性を向上させるためには、アルミニウム合金板に比べて密度の低い発泡樹脂層の厚さを増大させ、アルミニウム合金板の板厚を相対的に薄くする必要がある。しかし、このような自動車車体用パネルに対して、前記した従来の軽量複合成形パネルは、未だ要求される曲げ剛性を満足するとは言い難い。
【0011】
また、発泡性樹脂に積層する金属板は、上記したように薄肉化され、また、成形性の良い、伸びが比較的高いアルミニウム合金材や鋼材が用いられるので、素材積層板や複合成形パネルの表面に、成形やハンドリングの際に、凹みや傷がつきやすいという問題もある。
【0012】
この点、特に、樹脂が発泡した状態では、軽量複合成形パネル表面に、衝撃や力が負荷されて、金属板が押えられた際に、この金属板の裏にある発泡樹脂がクッションの役割を果たして、更に凹みなどの変形しやすくなるという問題がある。
【0013】
これらの点に鑑み、本発明は、積層する金属板に比べて発泡樹脂層の厚さを増大させ、金属板の板厚を相対的に薄くしても、曲げ剛性が優れ、かつ、表面に凹みや傷がつきにくい、軽量な複合成形パネルおよび素材積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための、本発明複合板の要旨は、芯材発泡樹脂の両面に、表面に多数の凹凸を有する金属板が各々接合され、芯材発泡樹脂が発泡された複合板であって、これら金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させたことである。
【0015】
ここで、前記互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させるためには、前記複合板の、互いの金属板表面の前記凹凸において、凹同士および/または凸同士の形状、ピッチを略同じとすることが好ましい。また、複合板の曲げ剛性向上のためには、前記複合板の、互いの金属板表面の前記凹凸が波形形状であることが好ましい。また、この波形形状の凹凸加工による金属板の加工硬化を促進させるためには、前記複合板の、互いの金属板表面の前記凹凸における前記波形形状の曲率半径をR、前記金属板の板厚をtとした時、このRとtとの比R/tが1〜25の範囲であることが好ましい。また、前記複合板の、互いの金属板における互いに同じ方向に向かう凹凸同士の相対する位置を各々一致させるためには、前記複合板が、芯材発泡樹脂となる未発泡状態の発泡性樹脂が接着用樹脂を介して金属板同士の間に積層された素材積層板とされるとともに、この素材積層板に対する塑性加工によって、前記互いの金属板表面に多数の凹凸が形成されるとともに、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた凹凸付き素材積層板とされ、更に、この凹凸付き素材積層板の発泡性樹脂が加熱されて芯材発泡樹脂とされていることが好ましい。
【0016】
上記目的を達成するための、本発明複合成形体の要旨は、芯材発泡樹脂の両面に、表面に多数の凹凸を有する金属板が各々接合され、芯材発泡樹脂が発泡されるとともに、所定形状に塑性加工されている複合成形体であって、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させたことである。
【0017】
ここで、前記複合成形体の、互いの金属板表面の前記凹凸において、凹同士および/または凸同士の形状、ピッチを略同じとすることが好ましい。また、前記複合成形体の、互いの金属板表面の前記凹凸が波形形状であることが好ましい。また、前記複合成形体の、互いの金属板表面の前記凹凸における前記波形形状の曲率半径をR、前記金属板の板厚をtとした時、このRとtとの比R/tが1〜25の範囲であることが好ましい。また、前記複合成形体が、芯材発泡樹脂となる未発泡状態の発泡性樹脂が接着用樹脂を介して金属板同士の間に積層された素材積層板とされるとともに、この素材積層板に対する塑性加工によって、前記互いの金属板表面に多数の凹凸が形成されるとともに、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた凹凸付き素材積層板とされ、この凹凸付き素材積層板の前記発泡性樹脂が加熱されて芯材発泡樹脂とされる前に、前記所定形状に塑性加工されていることが好ましい。また、前記複合成形体が、芯材発泡樹脂となる未発泡状態の発泡性樹脂が接着用樹脂を介して金属板同士の間に積層された素材積層板とされるとともに、この素材積層板に対する塑性加工によって、前記互いの金属板表面に多数の凹凸が形成されるとともに、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた凹凸付き素材積層板とされ、この凹凸付き素材積層板の前記発泡性樹脂が加熱されて芯材発泡樹脂とされた後に、前記所定形状に塑性加工されていることが好ましい。
【0018】
更に、上記目的を達成するための、本発明複合成形体の製造方法の要旨は、芯材発泡樹脂となる未発泡状態の発泡性樹脂を、接着用樹脂を介して、金属板同士の間に積層して、素材積層板とするとともに、この素材積層板に対して塑性加工を施して、前記互いの金属板表面に多数の凹凸を形成するとともに、これら金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた凹凸付き素材積層板とし、更に、この凹凸付き素材積層板を、前記発泡性樹脂を加熱して芯材発泡樹脂とする前に所定成形体形状に塑性加工して、芯材発泡樹脂の両面に、表面に多数の凹凸を有する金属板が各々接合され、芯材発泡樹脂が発泡された複合成形体であって、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた複合成形体を製造することである。また、芯材発泡樹脂となる未発泡状態の発泡性樹脂を、接着用樹脂を介して、金属板同士の間に積層して、素材積層板とするとともに、この素材積層板に対して塑性加工を施して、前記互いの金属板表面に多数の凹凸を形成するとともに、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた凹凸付き素材積層板とし、更に、この凹凸付き素材積層板を、前記発泡性樹脂を加熱して芯材発泡樹脂とした後に所定成形体形状に塑性加工して、芯材発泡樹脂の両面に、表面に多数の凹凸を有する金属板が各々接合され、芯材発泡樹脂が発泡された複合成形体であって、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた複合成形体を製造することである。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、金属板における凹凸について、発泡性樹脂あるいは発泡樹脂に対する、上下のいずれかの側かの金属板の位置によらず、互いの金属板における凹凸の内、上方向に凸な部分を凸あるいは凸部と称し、下方向に凸な部分を凹あるいは凹部と称する。言い換えると、互いの金属板における凹凸において、各々の凸あるいは凸部は、共通して(絶対的に)上に凸であり、各々の凹あるいは凹部は、共通して(絶対的に)下に凸である。したがって、例えば、水平な複合板あるいは複合成形体において、発泡性樹脂あるいは発泡樹脂の上下のいずれの側に位置する金属板の凹凸部分であっても、上方向に凸な部分は共通して(いずれも)本発明で言う凸乃至凸部であり、下方向に凸な部分は共通して本発明で言う凹乃至凹部である。
【0020】
本発明では、発泡性樹脂に積層する金属板表面に多数の凹凸を設けて、この金属板が薄肉化され、かつ、この金属板に、成形性の良い、伸びが比較的高いアルミニウム合金材や鋼材が用いられても、複合板あるいは複合成形体の曲げ剛性が優れるようにする。かつ、素材積層板や複合板あるいは複合成形体の表面に、成形やハンドリングの際の、凹みや傷がつきにくくする。
【0021】
但し、本発明者らは、発泡性樹脂に積層する金属板表面に前記多数の凹凸を設けた場合、凹凸の設け方によっては、複合板あるいは複合成形体の曲げ剛性の向上効果が却って低下することを知見した。例えば、水平な複合板あるいは複合成形体において、仮に発泡樹脂の上側金属板の凹乃至凹部と、発泡樹脂の下側金属板の凸乃至凸部との(発泡樹脂の上側金属板の凸乃至凸部と、発泡樹脂の下側金属板の凹乃至凹部との)、相対する位置を各々一致させた場合、この一致する部分ではパネル板厚が薄くなる。更に、互いに隣接する凸乃至凸部間の距離が一定である場合、このパネル板厚が薄くなる谷部が一直線上に並ぶようになるために、この谷部の配列部分で折れるか、折れ曲がりやすくなる。したがって、このような凹凸の設け方では、複合板あるいは複合成形体の曲げ剛性が却って低下する。
【0022】
即ち、発泡樹脂層の厚さを増大させ、金属板の板厚を相対的に薄くした、複合板あるいは複合成形体の場合で、発泡性樹脂に積層する金属板表面に前記多数の凹凸を設ける場合には、表面の凹みや傷つき防止と、曲げ剛性向上とが相矛盾する技術的な課題となる。
【0023】
この矛盾を解決するために、本発明では、発泡性樹脂に積層する、これら互いの金属板における凹凸同士の相対する位置を各々一致させる。本発明においては、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部(下に凸な凹部)同士か、凸部(上に凸な凸部)同士かの相対する位置を各々一致させる。即ち、後述する通り、互いの金属板における、上方向なら上方向同士(上に凸な凸部同士)、下方向なら下方向同士(下に凸な凹部同士)の、互いに同じ方向に向かう各凹と各凹同士や、互いに同じ方向に向かう各凸と各凸同士の相対する位置をそれぞれ一致させる。これは、言い換えると、互いの金属板における、互いに違う方向を向く、凸と凹同士の(上に凸な凸部と下に凸な凹部との)相対する位置をそれぞれ一致させないことである。
【0024】
これによって、芯材発泡樹脂層の厚さを増大させるとともに、積層した金属板の板厚を相対的に薄くした、軽量化効果は有した(発揮した)ままで、複合板あるいは複合成形体表面に凹みや傷がつきにくく、曲げ剛性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(基本構造)
以下、本発明の実施の形態について、図を用いて説明する。図1〜3は、本発明の複合板あるいは複合成形体の前提となる、複合乃至積層の基本構造を示す。図1は、本発明複合板あるいは複合成形体の素材である、金属板に凹凸を設けた凹凸付き素材積層板を示す斜視図である。ここで、凹凸付き素材積層板と言う場合は、図1に示す通り、金属板表面に多数の凹凸が付いた状態の積層板のことを言い、単に素材積層板と言う場合は、金属板表面に多数の凹凸が付いていない状態の積層板のことを言う。
【0026】
図1に示すように、本発明複合板あるいは複合成形体の素材である、凹凸付き素材積層板1は、2枚の金属板2a、2bの間に、図の上から順に、接着用樹脂(樹脂層)4a、発泡性樹脂(未発泡の樹脂層)3a、接着用樹脂(樹脂層)4bを積層した形で、挟み込んでいる。即ち、接着用樹脂4aは、金属板2aと発泡性樹脂(樹脂層)3aとの間に介装され、接着用樹脂4bは、金属板2bと発泡性樹脂3aとの間に介装されている。そして、これら2枚の金属板2a、2bの表面は、凹凸加工によって、凹凸6が表面に設けられた、凹凸付き素材積層板1とされている。
【0027】
図2は、図1の凹凸付き素材積層板1を、所望形状に塑性加工(成形加工)した、凹凸付き素材積層成形体1aを示す斜視図である。この図2の凹凸付き素材積層成形体1aでは、芯材発泡樹脂3aはまだ未発泡状態である。
【0028】
図3は、図2の凹凸付き素材積層成形体1aの、芯材発泡性樹脂3aを加熱により発泡させ、芯材発泡樹脂3bとした形態の、複合成形体1bの実施態様を示す斜視図である。なお、図1の凹凸付き素材積層板1aを所望形状に塑性加工せず、芯材発泡性樹脂3aを発泡させて芯材発泡樹脂3bとした、平板状の複合板が、本発明複合板である。
【0029】
このように、2枚の金属板2a、2bを用い、この2枚の金属板2a、2b間に、未発泡状態の発泡性樹脂3aと接着用樹脂4bとを積層した(挟み込む)場合には、金属板が2aか2bだけの片側1枚のみ(単一)の態様に比して、プレス成形性向上効果や、樹脂発泡後の複合板あるいは複合成形体の曲げ剛性向上効果が大きい。
【0030】
(金属板表面の凹凸)
以上の複合板あるいは複合成形体、あるいは凹凸付き素材積層板の複合乃至積層の基本構造を前提として、本発明の特徴的な構成である、金属板における凹凸の相対する位置を各々一致させる態様につき、図4〜図7を用いて、以下に説明する。
【0031】
図4は、本発明例の、金属板表面に凹凸を設けた複合板(芯材となる発泡性樹脂の発泡後)あるいは複合成形体(芯材となる発泡性樹脂の発泡後、パネル成形後)の断面を部分的に示す。図6は、本発明例の図4の複合板あるいは複合成形体の素材である、金属板表面に凹凸を設けた、凹凸付き素材積層板(芯材となる発泡性樹脂の発泡前、パネル成形前)の断面を部分的に示す。これに対して、図5は、比較例の、金属板表面に凹凸を設けた複合板(芯材となる発泡性樹脂の発泡後)あるいは複合成形体(芯材となる発泡性樹脂の発泡後、パネル成形後)の断面を部分的に示す。また、図7は、比較例の図5の複合成形体の素材である、金属板表面に凹凸を設けた、凹凸付き素材積層板(芯材となる発泡性樹脂の発泡前、パネル成形前)の断面を部分的に示す。
【0032】
この図4〜図7の態様では、金属板2a、2b表面の凹凸6を、凸部6aと凹部6bとが、金属板2a、2b表面に、連続的しかも交互に存在しており、波形の凹凸としている。しかも、この凸部6aと凹部6bとは、金属板2a、2bとも、略同じ形状、略同じピッチとしている。
【0033】
ここで、本発明では、発泡性樹脂3aあるいは芯材発泡樹脂3bに対する、上下のいずれの側の金属板2a、2bであっても、これらの凹凸6の内、図面上で上に凸な部分を凸乃至凸部6aと言い、図面上で下に凸な部分を凹乃至凹部6bと言う。このように、本発明の説明および図面において、金属板2a、2bの凹凸6における、各々の凸あるいは凸部6aは、共通して上に凸であり、各々の凹あるいは凹部6bは、共通して下に凸であるとして説明する。
【0034】
図4の発明例において、複合成形体1b(複合板でも良い)は、芯材発泡樹脂(発泡後の樹脂)3bを挟む、互いの金属板2a、2bにおける、互いに上方向か下方向かの同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させている。より具体的には、互いに上方向の同じ方向に向かう、金属板2aの凸部6aと、金属板2bの凸部6aとの相対する位置を各々一致させている。また、更に、互いに下方向の同じ方向に向かう、金属板2aの凹部6bと、金属板2bの凹部6bとの相対する位置を各々一致させている。
【0035】
この結果、図4の通り、金属板2aの凸部6aと金属板2bの凸部6aとの距離t2と、金属板2aの凹部6bと金属板2bの凹部6b同士の距離t1とが略同一である。即ち、両金属板の凸部と凸部同士、凹部と凹部同士の相対する位置を各々一致させている。このため、複合成形体1b(複合板)の全体に亙って、金属板2aと2b間の間隔=発泡樹脂(発泡後の樹脂)厚みが均一となり、複合成形体1b(複合板)の全体に亙っての厚みが均一となる。この結果、複合成形体1b(複合板)全体に亙っての曲げ剛性が向上する。
【0036】
一方、図5の比較例においては、複合成形体20b(複合板でも良い)は、発泡樹脂(発泡後の樹脂)3bを挟む、互いの金属板2a、2bにおける、互いに上方向か下方向かの同じ方向に向かう凹凸同士の相対する位置を各々一致させていない。より具体的には、金属板2aの上方向に向かう凸部6aと、金属板2bの下方向に向かう凹部6bとの相対する位置を各々一致させている。また、金属板2aの下方向に向かう凹部6bと、金属板2bの上方向に向かう凸部6aとの相対する位置を各々一致させている。この結果、これらの一致する部分では、金属板2aの凸部6aと金属板2bの凹部6bとの距離t3と、金属板2aの凹部6bと金属板2bの凸部6aとの距離t4とが互いに大きく異なり、t3に比して、t4が著しく小さくなる。即ち、距離t4の部分では、複合成形体20b(複合板)の厚み(板厚)が薄くなる。
【0037】
このため、図5の比較例においては、複合成形体20b(複合板)の全体に亙って、金属板2aと2b間の間隔=発泡樹脂(発泡後の樹脂)厚みが不均一となり、複合成形体20b(複合板)の全体に亙っての厚みが不均一となる。この結果、厚みの薄い、金属板2aの凹部6bと金属板2bの凸部6aとの距離t4の部分では、曲げ剛性が低下し、複合成形体1b全体に亙っての曲げ剛性が低下する。更に、互いに隣接する凸部6aと凸部6aとの間(距離)が一定である場合、このパネル板厚が薄くなる谷部(t4部分)が一直線上に並ぶようになるために、この谷部の配列部分で折れるか、折れ曲がりやすくなる。
【0038】
このような凹凸の配列状態は、複合成形体(図4、図5)の各素材である、図6と図7の発明例と比較例の凹凸付き素材積層板(樹脂発泡前、パネル成形前)でも同様である。図6の発明例において、凹凸付き素材積層板1は、発泡性樹脂(発泡前の樹脂)3aを挟む、互いの金属板2a、2bにおける、同じ方向に向かう凹凸同士の相対する位置を各々一致させている。より具体的には、金属板2aの上に凸な凸部6aと、金属板2bの上に凸な凸部6aとの相対する位置を各々一致させている。また、金属板2aの下に凸な凹部6bと、金属板2bの下に凸な凹部6bとの相対する位置を各々一致させている。この結果、金属板2aの凸部6aと金属板2bの凸部6aとの距離t2と、金属板2aの凹部6bと金属板2bの凹部6bとの距離t1とが略同一である。即ち、両金属板の凸部と凸部同士、凹部と凹部同士の相対する位置を各々一致させている。このため、凹凸付き素材積層板1の全体に亙って、金属板2aと2b間の間隔=発泡性樹脂(発泡前の樹脂)厚みが均一となり、凹凸付き素材積層板1の全体に亙っての厚みが均一となる。
【0039】
一方、図7の比較例では、凹凸付き素材積層板20は、発泡性樹脂(発泡前の樹脂)3aを挟む、互いの金属板2a、2bにおける、同じ方向に向かう凹凸同士の相対する位置を各々一致させていない。即ち、互いに違う方向を向く、凸と凹との(上に凸な凸部と下に凸な凹部との)相対する位置をそれぞれ一致させている。より具体的には、互いに反対方向に向く、金属板2aの上に凸な凸部6aと、金属板2bの下に凸な凹部6bとの相対する位置を各々一致させている。また、金属板2aの下に凸な凹部6bと、金属板2bの上に凸な凸部6aとの相対する位置を各々一致させている。この結果、金属板2aの凸部6aと金属板2bの凹部6bとの距離t4と、金属板2aの凹部6bと金属板2bの凸部6aとの距離t3とが互いに大きく異なり、t4に比して、t3が著しく小さくなる。このため、凹凸付き素材積層板20の全体に亙って、金属板2aと2b間の間隔=発泡性樹脂(発泡前の樹脂)厚みが不均一となり、凹凸付き素材積層板20の全体に亙っての厚みが不均一となる。
【0040】
(凹凸形状)
前記した図4、図6の態様では、金属板2a、2b表面の凹凸6を板の断面でみると、波形の凹凸としているが、凹凸の形状(断面形状)は波形でなくても、半円形、三角形、四角形、多角形の縁形状を有する凹みである凹部形状と、円形、三角形、四角形、多角形の山形状を有する膨らみである凸部形状、これらが各々組み合わされた不定形の縁形状乃至山形状を有する凹凸形状などであっても良い。
【0041】
ただ、金属板表面に設ける多数の凹凸は、金属板2a、2b表面全体に亙って、規則的あるいは均一な配列、規則的あるいは均一な凹凸パターンで、略同じ形状、略同じピッチが、繰り返されるように設けられることが好ましい。これらが金属板2a、2b表面全体に亙って異なると、互いの金属板2a、2b表面に形成された、同じ方向を向く凹凸6同士、金属板2aの凸部6aと金属板2bの凸部6a同士、金属板2aの凹部6bと金属板2bの凹部6b同士、の相対する位置を各々一致させることが困難となる。このため、前記した図4、図6の態様では、金属板2a、2b表面全体に亙って、凸部6aと凹部6bとは、略同じ形状、略同じピッチとしている。
【0042】
(凹凸のR)
今、代表的な波形の凹凸について言うと、波形の凹凸の曲げ剛性向上効果を大きくするためには、前記波形の凹凸の曲率半径をR、前記金属板の板厚をtとして時、このRとtとの比R/tが1〜25の範囲であることが好ましい。
【0043】
図8に、この波形の凹凸6のRとtとを示す。図8においては、図4における複合成形体1bと、この複合成形体1bの金属板2aの側の凹凸6の拡大図と、凸部6aの拡大図とを、同時に示している。凸部6aの拡大図において、波形の凹凸6の凸部6aの曲率半径をR、金属板2aの板厚をtとして示している。
【0044】
ここで、tが所定の範囲(例えば0.05〜0.6mm)であるとすると、前記R/tが1未満では、Rが小さく、凹凸が小さすぎ、金属板に対する凹凸加工の際のひずみ付与効果が小さく、波形の凹凸の曲げ剛性向上効果が出ない。一方、前記R/tが25を超えると、Rが大きすぎ、凹凸が大きすぎ、金属板に対する凹凸の形成自体が困難となる。
【0045】
後述する、金属板表面に多数の凹凸を設ける加工は、金属板を塑性加工してひずみを付与することとなり、ひずみが付与された場合には、通常、金属板の耐力が向上する。金属板の耐力がどの程度向上するかは、凹凸の形状や金属板の組成と物性によるが、金属板表面に凹凸を設ける際の加工によって、金属板の耐力を向上できれば、硬く、傷つきにくく、図8の右側の図のように、指先による指圧などの圧力が、図の上方から(矢印方向に)負荷された際にも、複合成形体1bを凹みにくくすることができる。
【0046】
例えば、波形の凹凸の加工の場合、ひずみを2%付与するには、金属板板厚tの25倍の前記Rを有する形状とする。一方、ひずみを25%付与するには、金属板板厚tの2倍の曲率半径Rを有する、前記R/tが2以上の形状とする。
【0047】
(凹凸の大きさ、ピッチ)
好適な凹凸の凸部6aの高さ(凹部6bの深さ)、凹凸同士のピッチ(凹凸間、凸凸間、凹凹間のピッチ) は、アルミニウム合金板など金属板の板厚にもよる。今、凸部6aの高さ(凹部6bの深さ)をh、凸部6a(凹部6b)同士の幅(ピッチ) をwとする。この場合、金属板の板厚が、前記0.05〜0.6mmの範囲であるとすると、曲げ剛性向上効果を出すためには、hは0.1〜0.5mmの範囲、ピッチwは0.1〜0.5mmの範囲とすることが好ましい。
【0048】
金属板の板厚に対して、この凸部6a(凹部6b)の高さhが小さ過ぎる、あるいはピッチwが大き過ぎると、前記成形性向上や曲げ剛性向上の効果が小さくなる。また、金属板の板厚に対して、このhが大き過ぎるあるいはピッチwが小さ過ぎると、板の凹凸加工自体が困難となる。
【0049】
(凹凸同士を一致させる方法)
互いの金属板表面に形成された、同じ方向を向く凹凸同士の相対する位置を各々一致させるためには、予め、発泡性樹脂と接着用樹脂とが、表面が平坦な金属板同士の間に各々積層された素材積層板とされ、その後に、互いの金属板表面への多数の凹凸の形成と、同じ方向を向く凹凸同士の相対する位置を各々一致させるための加工を、同時に施すことが好ましい。この際、加工方法によって、発泡性樹脂、接着用樹脂と金属板との積層が、前記凹凸の形成と同時であっても良い。
【0050】
これに対して、予め互いの金属板表面に多数の凹凸を形成し、この凹凸を形成した金属板と、発泡性樹脂と接着用樹脂とを積層した場合には、凹凸が細かく(小さく) 、多数になるほど、同じ方向を向く凹凸同士の相対する位置を各々一致させることは、非常に難しくなる。このため、金属板表面の凹凸による、凹凸付き素材積層板、複合成形体や複合板の曲げ剛性向上効果を損なうこととなる。
【0051】
また、予め多数の凹凸を表面に形成した金属板を、発泡性樹脂と接着用樹脂とを積層する製法の場合には、金属板と発泡性樹脂との界面に空気溜まりができ、金属板と発泡後の樹脂との密着性を損なう。即ち、図12に、比較例である凹凸付き素材積層板1と複合成形体1bとの断面を示すように、予め多数の凹凸6を表面に形成した金属板2a、2bを、発泡性樹脂3aと積層すると、凹凸6の大きさにもよるが、図面の上側となる金属板2aの凸部6a内の空間は、図面の上側となる金属板2bの凹部6b内の空間とともに、空気溜まり20となる。このような空気溜まり20ができると、凹凸付き素材積層板1の発泡性樹脂3aを発泡させ、複合成形体1bとした際にも残留して、金属板2a、2bと発泡樹脂3bとの密着性を損なう。
【0052】
このため、凹凸付き素材積層板1の成形中に、金属板2a、2bと発泡性樹脂3aとが剥離したり、使用中に金属板2a、2bと発泡樹脂3bとが剥離するような可能性もある。また、金属板表面の凹凸による、複合板や複合成形体の曲げ剛性向上効果も損なうこととなる。
【0053】
したがって、互いの金属板表面に形成された、同じ方向を向く凹凸同士の相対する位置を各々一致させるためにも、また、金属板と発泡後の樹脂との密着性を確保するためにも、予め、発泡性樹脂と接着用樹脂とが、表面が平坦な金属板同士の間に各々積層された素材積層板とされ、その後に、互いの金属板表面への多数の凹凸の形成と、凹凸同士の相対する位置を各々一致させるための加工を、同時に施すことが好ましい。
【0054】
なお、互いの金属板表面に形成された、同じ方向を向く凹凸同士の相対する位置を各々一致させた後は、発泡性樹脂の発泡によっても、発泡性樹脂は、板の上下方向(一方向)に膨張するだけなので、位置合わせをしている、凹凸同士の相対する位置はズレにくい。
【0055】
(凹凸加工方法)
図9、10に、互いの金属板表面への多数の凹凸の形成と、凹凸同士の相対する位置を各々一致させるための加工を、同時に施す態様を例示する。図9はプレス10を用いた態様を示している。また、図10はロールを用いた態様を示している。
【0056】
図9においては、プレス10によって、発泡性樹脂3a、接着用樹脂(図示せず)と金属板2a、2bとの積層、金属板2a、2b表面への多数の凹凸6の形成と、同じ方向を向く凹凸6同士の相対する位置を各々一致させるための加工を、同時に施している。即ち、プレス10の上型11と、下型12との各表面に、凹凸6を形成するための凹凸13、14を予め設けておく。この際、型表面の凹凸13、14における各凹凸は、上型11の凸部13aと下型12の凸部14a同士、上型11の凹部13bと下型12の凹部14b同士との、相対する位置を各々一致させるように設ける。そして、これら型内に、発泡性樹脂3a、接着用樹脂と金属板2a、2bとを各々積層した上で、プレスし、凹凸付き素材積層板1として一体化させる。そして、この際に、凹凸付き素材積層板1の、同じ方向を向いた、金属板2aの凸部6aと金属板2bの凸部6a同士、金属板2aの凹部6bと金属板2bの凹部6b同士、の相対する位置を各々一致させる。この際、熱プレスを用いて、金属板2a、2bと、接着用樹脂、発泡性樹脂3aとの接着と、金属板表面への凹凸6a、6bの加工を同時に実施しても良い。
【0057】
図10においては、一対のロール15によって、発泡性樹脂3aと接着用樹脂(図示せず)とを介した金属板2a、2bとの積層する工程、互いの金属板2a、2b表面への多数の凹凸6(6a、6b)の形成と、同じ方向を向く凹凸6(6a、6b)同士の相対する位置を各々一致させるための加工を、同時に施している。即ち、ロール15の、上ロール16と下ロール17との各表面に、凹凸6を形成するための凹凸18、19を予め設けておく。この際、ロール表面の凹凸18、19における各凹凸は、上ロール16の凸部と下ロール17の凸部同士、上ロール16の凹部と下ロール17の凹部同士との、相対する位置を各々一致させるように設ける。そして、これら型内に、発泡性樹脂3a、接着用樹脂と金属板2a、2bとを各々積層した上で、ロール15の上ロール16と下ロール17とで、挟むようにロール加工を施すことにより、凹凸付き素材積層板1として一体化させる。そして、この際に、凹凸付き素材積層板1の、同じ方向を向く、金属板2aの凸部6aと金属板2bの凸部6a同士、金属板2aの凹部6bと金属板2bの凹部6b同士、の相対する位置を各々一致させる。なお、加熱しながら加工することによって、金属板2a、2bと、接着用樹脂、発泡性樹脂3aとの接着と、金属板表面への凹凸6a、6bの加工を同時に実施しても良い。
【0058】
(芯材発泡樹脂)
前記芯材発泡樹脂3bの発泡倍率は2倍〜10倍の範囲であるとともに、その発泡後の厚みが金属板2a、2bの板厚の2倍以上であることが好ましい。前記自動車車体パネルなどの比較的大きな面積を有する複合成形体や複合板の場合、軽量化と曲げ剛性向上とを両方満足させるためには、この範囲の発泡倍率とする。
【0059】
(発泡性樹脂の種類)
発泡性樹脂3aを構成する樹脂は、熱可塑性樹脂の場合には、融点が100℃〜260℃であることが好ましい。融点がこの範囲であると、120℃〜300℃で加熱することで、発泡性樹脂3aを発泡させて、芯材発泡樹脂3bとすることができる。芯材発泡樹脂としてはポリオレフィン系を用いることが好ましい。ただ、使用温度によってその他の樹脂に変更可能である。
【0060】
例えば、樹脂に加熱分解型の発泡剤を配合し混練したものであって、ポリオレフィン系として、ポリプロピレン(ホモPPなど)、ポリエチレン、あるいはこれらの混合物(ランダムPPなど)、更には、ポリスチレン系、ポリエステル系、ビニール系などをそれぞれ単体で用いても良いし、これらを混ぜ合わせたポリマーブレンドや、無機系や金属系のフィラーを配合したものであってもよい。
【0061】
熱可塑性樹脂として好ましい発泡性樹脂は、ポリオレフィン系、ポリエチレン系、ポリエステル系、ナイロン系等が挙げられる。この中でも、極性がなく、化学反応がしにくい、ポリオレフィン系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、これらの混合系が好ましい。ポリプロピレンの融点は160℃〜170℃、ポリエチレンの融点は100℃〜140℃、ポリエステルテレフタレート(PET)の融点は250℃〜260℃、ナイロンの融点は179℃〜260℃である。このため、これら樹脂を単独、あるいは適宜混合乃至積層して使用し、発泡性樹脂としての融点を調整しても良い。
【0062】
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂ともに、発泡性樹脂3aとして使用する場合、上記発泡温度は120℃〜300℃に設定されていることが好ましい。発泡性樹脂はその融点より40〜50℃程度高温で加熱すると劣化しやすいため、発泡温度は発泡性樹脂の融点より最大40〜50℃高い温度以下に設定しておく必要がある。そうすると、120℃〜300℃で加熱することで、発泡性樹脂3aを劣化させることなく発泡させることができる。
【0063】
(接着用樹脂)
接着用樹脂4は、発泡性樹脂3aと金属板2a、2bとの接着が可能な接着用樹脂からなる。芯材発泡樹脂3bとしてポリオレフィン系樹脂を主成分として用いた場合には、接着用樹脂4として、相溶性の良い、ポリエチレンやポリプロピレンを主成分とする熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0064】
(樹脂形状)
これら発泡性樹脂、接着用樹脂は、フィルム・シートであるものに限らない。発泡性樹脂、接着用樹脂のうち、何れか一方(この場合、他方はフィルム・シートでよい)、または両方を、溶融状態または溶媒に溶解させた状態のものを、ロールやスプレーなどで塗布することによっても可能である。なお、この塗布の場合には、塗布後に乾燥する工程があることが好ましい。
【0065】
(樹脂応用例)
樹脂応用例として、樹脂の種類を選択するか添加剤を含有させることで、複合成形体の特性をより高機能、多機能とすることができる。例えば、発泡性樹脂、接着用樹脂として、制振性の高い樹脂を用いれば、制振性能や遮音性能が高まる。また、導電性物質を用いれば溶接性能が高まる。上記の発泡性樹脂3aや接着用樹脂4に導電性物質として金属粉末が添加されると、樹脂は高密度となる。このため、遮音性能が高まるとともに、導電性物質を用いれば溶接性が向上できる。
【0066】
(金属板)
発泡性樹脂と積層される金属板2a、2bの板厚は、好適には0.05〜0.6mmの範囲とする。金属板の板厚が0.05mm未満では、前記比較的大きな面積を有する複合板や複合成形体の曲げ剛性が著しく低下する。一方、金属板の板厚が0.6mmを超えると、重量が重くなり、軽量化が犠牲となるため、軽量化が主目的の用途には好ましくない。但し、軽量化が主目的でない用途では、凹凸加工が可能な板厚であれば適用できる。
【0067】
金属板としては、汎用されるアルミニウム合金板や鋼板などが使用される。これらアルミニウム合金板や鋼板としては、通常、この種構造部材用途に汎用される、AA乃至JIS 規格に規定された、あるいは規定に類似の材料が適宜使用できる。アルミニウム合金板では、1000系、3000系、5000系、6000系などの合金板が例示され、鋼板では軟鋼板が例示され、特に、高強度や高耐力、あるいは高張力な材料を選択する必要はない。
【0068】
ただ、アルミニウム合金板でも、鋼板でも、芯材発泡樹脂を発泡させる加熱処理においてベークハードする、時効硬化型の材料が好ましい。この時効硬化型の材料として、アルミニウム合金板では、汎用される6000系などの合金板が好適に用いられる。また、鋼板ではディアルフェーズ鋼板などが好適に用いられる。
【0069】
(製造方法)
次に、凹凸付き素材積層板、複合板、複合成形体の製造方法の一例について、前記した図1〜3も用いて、以下に説明する。
【0070】
発泡性樹脂:
発泡性樹脂3aを構成する樹脂材料を先ず混練する。この材料は、樹脂と熱分解型発泡剤とを含んでおり、必要に応じて、接着強度、制振強度、潤滑性を付与する物質や、金属粉末が添加される。これらの材料が十分混練された後、フィルムあるいはシート化される。フィルム化される場合にはコイル状に巻かれる。このとき、上記材料に含まれる樹脂の融点が、発泡剤の分解温度よりも20℃〜30℃低く設定されていることが好ましい。そうすると、混練されることで樹脂の温度が上昇しても、発泡が起こることを防止することができる。
【0071】
接着用樹脂:
接着用樹脂4を構成する樹脂材料を先ず混練する。この材料は、樹脂に、必要に応じて、接着強度・制振性付与する材質や、導電性を付与するための金属粉末が添加されている。これらの材料が十分混練された後、フィルム化あるいはシート化される。フィルム化の場合には、コイル状に巻かれて別途積層されるか、金属板の表面に塗布される。なお、上記の発泡性樹脂のフィルムあるいはシートと接着用樹脂が熱融着されて、一体化された後にコイル状に巻かれてもよい。既に発泡性樹脂フィルムと接着用樹脂フィルムとが、それぞれ別のコイルとされている場合には、これら2つのコイルから各々引き伸ばすことで、金属板2に、フィルム状とした接着用樹脂4と、フィルム状とした発泡性樹脂3aとを同時に積層させることができる。
【0072】
素材積層板の製作:
切り板とされた金属板2a、2bと、同じく切り板とされた、フィルム状接着用樹脂4とフィルム状発泡性樹脂3aとを、順に積層して、積層板となす方法が最も簡便である。ただ、設備的に可能であれば、連続的に積層してもよい。即ち、金属板2a、2bのいずれか一方か両方をコイルから巻き出し、一方で、上記フィルム状接着用樹脂4とフィルム状発泡性樹脂3aとを、各々コイルから巻き出して、引き伸ばしながら、金属板2a、2bのいずれか一方からか、金属板2a、2bの間に同時に積層してもよい。
【0073】
これらの積層後、例えば熱ロールなどにより挟み込んで加熱すれば、図1における金属板2と発泡性樹脂3aとが、接着用樹脂を介して、一体に接着され、素材積層板1が製作できる。この熱ロールの温度は、発泡性樹脂3aの発泡温度よりも低く設定する。なお、これらの接着は、熱によるものと限定されず、例えば、フィルム状接着用樹脂4を貼る、あるいは接着用樹脂4を塗って、発泡性樹脂3aとの間、および接着用樹脂4と金属板2とを、例えば室温で加圧されることで、互いに接着してもよい。
【0074】
凹凸加工方法:
このように製作された積層板は、前記図9、10で説明したように、互いの金属板表面への多数の凹凸の形成と、凹凸同士の相対する位置を各々一致させるための加工を、同時に施されて、凹凸付き素材積層板1とされる。
【0075】
(塑性加工)
製造された凹凸付き素材積層板1は、全体的に塑性加工(成形加工)されて、図2に例示するような所定形状に成形されることにより、凹凸付き素材積層板の成形体1aとされる。この成形加工の方法としては、張出成形、絞り成形、曲げ成形などの、公知のプレス成形や曲げ加工を用いることができる。
【0076】
(加熱、発泡)
成形加工によって所定形状とされた凹凸付き素材積層成形体1aは、発泡温度まで加熱されることで、発泡性樹脂3aが発泡し、芯材発泡樹脂3bとなった複合成形体1bとされる。図11は、芯材発泡樹脂3bを有し、金属板2aの凸部6aと金属板2bの凸部6a同士、金属板2aの凹部6bと金属板2bの凹部6b同士、の相対する位置を各々一致させた、HAT型の複合成形体1bを斜視図で示す。
【0077】
なお、ここで、前記製造された凹凸付き素材積層板1を先ず発泡させ、この発泡後の複合板を成形加工することにより複合成形体1bを得ても良い。即ち、積層板1は、成形加工した後で加熱発泡させても、成形加工する前に加熱発泡させても、どちらでも良い。更に、ホットプレスを用いて、凹凸付き素材積層板1を金型内でプレス成形と加熱発泡とを同時に又は連続して行うことにより、複合成形体1bを得ることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上のように、本発明は、曲げ剛性が優れ、かつ、素材積層板のこれら複合成形体への成形が可能である軽量な複合成形体を提供できる。特に、本発明は、フード、ドアなどのアウタパネルやインナパネル、ルーフパネル、アンダーカバーパネル、デッキボード、バルクヘッドなどの、比較的大きな面積を有する自動車車体用パネルに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明複合成形体の素材である凹凸付き素材積層板の態様を例示する斜視図である。
【図2】図1の凹凸付き素材積層板を成形した凹凸付き素材積層成形体を示す斜視図である。
【図3】図2の成形体を発泡させた本発明の複合成形体の一実施形態を示す斜視図である。
【図4】本発明の複合成形体の互いの凹凸の位置状態を示す断面図である。
【図5】比較例の複合成形体の互いの凹凸の位置状態を示す断面図である。
【図6】図4に示す本発明の複合成形体の素材となる、凹凸付き素材積層成形板の互いの凹凸の位置状態を示す断面図である。
【図7】図5に示す本発明の複合成形体の素材となる、凹凸付き素材積層成形板の互いの凹凸の位置状態を示す断面図である。
【図8】図4の凹凸を拡大して示す説明図である。
【図9】本発明の複合成形体の素材となる、凹凸付き素材積層成形板の、凹凸の成形工程の態様を示す説明図である。
【図10】本発明の複合成形体の素材となる、凹凸付き素材積層成形板の、凹凸の成形工程の態様を示す説明図である。
【図11】本発明の複合成形体の一例を示す斜視図である。
【図12】比較例の複合成形体の断面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1:凹凸付き素材積層板、1a:凹凸付き素材積層成形体(未発泡)、1b:複合成形体(発泡後)、2:金属板、3a:発泡性樹脂(発泡前の樹脂)、3b:芯材発泡樹脂(発泡後の樹脂)、4:接着用樹脂フィルム、6:凹凸、6a:凸部(図面上で上に凸)、6b:凹部(図面上で下に凸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材発泡樹脂の両面に、表面に多数の凹凸を有する金属板が各々接合され、芯材発泡樹脂が発泡された複合板であって、これら金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させたことを特徴とする複合板。
【請求項2】
前記複合板の、互いの金属板表面の前記凹凸において、凹同士および/または凸同士の形状、ピッチを略同じとした請求項1に記載の複合板。
【請求項3】
前記複合板の、互いの金属板表面の前記凹凸が波形形状である請求項1または2に記載の複合板。
【請求項4】
前記複合板の、互いの金属板表面の前記凹凸における前記波形形状の曲率半径をR、前記金属板の板厚をtとした時、このRとtとの比R/tが1〜25の範囲である請求項3に記載の複合板。
【請求項5】
前記複合板が、芯材発泡樹脂となる未発泡状態の発泡性樹脂が接着用樹脂を介して金属板同士の間に積層された素材積層板とされるとともに、この素材積層板に対する塑性加工によって、前記互いの金属板表面に多数の凹凸が形成されるとともに、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた凹凸付き素材積層板とされ、更に、この凹凸付き素材積層板の発泡性樹脂が加熱されて芯材発泡樹脂とされている請求項1乃至4のいずれか1項に記載の複合板。
【請求項6】
芯材発泡樹脂の両面に、表面に多数の凹凸を有する金属板が各々接合され、芯材発泡樹脂が発泡されるとともに、所定形状に塑性加工されている複合成形体であって、これら金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させたことを特徴とする複合成形体。
【請求項7】
前記複合成形体の、互いの金属板表面の前記凹凸において、凹同士および/または凸同士の形状、ピッチを略同じとした請求項6に記載の複合成形体。
【請求項8】
前記複合成形体の、互いの金属板表面の前記凹凸が波形形状である請求項6または7に記載の複合成形体。
【請求項9】
前記複合成形体の、互いの金属板表面の前記凹凸における前記波形形状の曲率半径をR、前記金属板の板厚をtとした時、このRとtとの比R/tが1〜25の範囲である請求項6乃至8のいずれか1項に記載の複合成形体。
【請求項10】
前記複合成形体が、芯材発泡樹脂となる未発泡状態の発泡性樹脂が接着用樹脂を介して金属板同士の間に積層された素材積層板とされるとともに、この素材積層板に対する塑性加工によって、前記互いの金属板表面に多数の凹凸が形成されるとともに、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた凹凸付き素材積層板とされ、この凹凸付き素材積層板の前記発泡性樹脂が加熱されて芯材発泡樹脂とされる前に、前記所定形状に塑性加工されている請求項6乃至9のいずれか1項に記載の複合成形体。
【請求項11】
前記複合成形体が、芯材発泡樹脂となる未発泡状態の発泡性樹脂が接着用樹脂を介して金属板同士の間に積層された素材積層板とされるとともに、この素材積層板に対する塑性加工によって、前記互いの金属板表面に多数の凹凸が形成されるとともに、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた凹凸付き素材積層板とされ、この凹凸付き素材積層板の前記発泡性樹脂が加熱されて芯材発泡樹脂とされた後に、前記所定形状に塑性加工されている請求項6乃至10のいずれか1項に記載の複合成形体。
【請求項12】
芯材発泡樹脂となる未発泡状態の発泡性樹脂を、接着用樹脂を介して、金属板同士の間に積層して、素材積層板とするとともに、この素材積層板に対して塑性加工を施して、前記互いの金属板表面に多数の凹凸を形成するとともに、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた凹凸付き素材積層板とし、更に、この凹凸付き素材積層板を、前記発泡性樹脂を加熱して芯材発泡樹脂とする前に所定成形体形状に塑性加工して、芯材発泡樹脂の両面に、表面に多数の凹凸を有する金属板が各々接合され、芯材発泡樹脂が発泡された複合成形体であって、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた複合成形体を製造することを特徴とする複合成形体の製造方法。
【請求項13】
芯材発泡樹脂となる未発泡状態の発泡性樹脂を、接着用樹脂を介して、金属板同士の間に積層して、素材積層板とするとともに、この素材積層板に対して塑性加工を施して、前記互いの金属板表面に多数の凹凸を形成するとともに、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた凹凸付き素材積層板とし、更に、この凹凸付き素材積層板を、前記発泡性樹脂を加熱して芯材発泡樹脂とした後に所定成形体形状に塑性加工して、芯材発泡樹脂の両面に、表面に多数の凹凸を有する金属板が各々接合され、芯材発泡樹脂が発泡された複合成形体であって、これら互いの金属板における凹凸の内、互いに同じ方向に向かう凹部同士か凸部同士かの相対する位置を各々一致させた複合成形体を製造することを特徴とする複合成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−190362(P2009−190362A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36027(P2008−36027)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】