説明

複合成形体の製造方法

【課題】ガラス繊維間に多数の気孔を存在させ軽量性と吸音性、強度を確保できる複合成形体の製造方法を提供。
【解決手段】無機繊維と耐熱有機繊維からなる繊維マット(I)1の少なくとも一方の表面に、合成樹脂フィルム(II)2を積層し、一対の搬送ベルトで搬送し、所定の温度に加熱して、繊維マットと合成樹脂フィルム(II)を圧接し、繊維マット内の結着樹脂繊維cを溶融しつつ、合成樹脂フィルムの結着樹脂dの少なくとも一部を、繊維マットの内部に含浸させた後冷却して、繊維マット内部の無機繊維と耐熱性有機繊維を結着させるとともに、合成樹脂フィルムの一部を繊維マットに含浸結着させた複合シートを得る第1工程と、複合シートを常圧下又は減圧下で、前記温度Tで加熱して、バックリング現象を生じさた後、冷却金型にて賦型加圧成形する第2工程を有する複合成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンダーカバー等の車両外装材として用いられる複合成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両底面に取り付けられるアンダーカバーには、(i)車両底面の凹凸形状を覆って空気抵抗を小さくする整流効果、(ii)車両室内側への音の反射を減ずる吸音効果、(iii)車体下面側でのタイヤ接地発生音の車外への飛散を減ずる吸音効果、さらに(iv)燃費増加を避けるために出来るだけ軽量であること、(v)取り付けるために必要な強度を有すること、(vi)地面から跳ねる飛び石などの衝突に耐える堅牢性、たとえば「耐チッピング性能」等、が要求されている。
【0003】
従来、射出成型によるアンダーカバーが広く採用されているが、重量が重く吸音性にも乏しいと言った問題点がある。
また、繊維系複合材によるアンダーカバーが提案されている。(例えば、特許文献1、特許文献2)
特許文献1に記載のアンダーカバーは、グラスファイバー等の補強材とオレフィン系樹脂を混合し、グラスファイバー等の補強繊維を膨張させることにより、また、特許文献2に記載のアンダーカバーは、ガラス繊維間に多数の気孔を存在させることにより、軽量化がなされ、かつ吸音性も向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−240408号公報
【特許文献2】国際公開WO2010−110312A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された繊維系複合材においては、軽量性、吸音性、及び成形体の強度特性を、高度にバランスさせることは容易なことではなかった。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、ガラス繊維間に多数の気孔を存在させ軽量性と吸音性を具備しながら、必要な材料の強度を確保できる複合成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題を解決するため鋭意検討した結果、繊維マット(I)内部の無機繊維aと耐熱性有機繊維bとを結着樹脂繊維cで結着させるとともに、少なくとも一方の表面に結着樹脂dを含有する合成樹脂フィルム(II)と接する側の繊維マット(I)とを含浸結着させた複合シート(III)を得る第1の工程において、温度Tにおける結着樹脂dの溶融粘度が20,000Pa・s以下とする複合成形体の製造方法によって解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、次の〔1〕の製造方法を提供するものである。
〔1〕(1)無機繊維aと、融点Mbが200℃以上の耐熱性有機繊維bと、無機繊維a及び有機繊維bを結着する融点Mcの結着樹脂繊維cとを混合してなる繊維マット(I)の少なくとも一方の表面に、融点Mdの結着樹脂dを含有する合成樹脂フィルム(II)を積層し、一対の搬送ベルト間に供給して搬送しながら、耐熱性有機繊維bの融点Mb未満で、結着樹脂繊維cの融点Mc以上及び結着樹脂dの融点Md以上の温度Tに加熱して、繊維マット(I)と合成樹脂フィルム(II)を圧接し、繊維マット(I)内の結着樹脂繊維cを溶融しつつ、合成樹脂フィルム(II)の結着樹脂dの少なくとも一部を、繊維マット(I)の内部に含浸させた後冷却して、繊維マット(I)内部の無機繊維aと耐熱性有機繊維bを結着させるとともに、合成樹脂フィルム(II)の一部を繊維マット(I)に含浸結着させた複合シート(III)を得る第1の工程と、
(2)この複合シート(III)を常圧下又は減圧下で、前記温度Tで加熱して、少なくとも無機繊維aと耐熱性有機繊維bにバックリング現象を生じさた後、冷却金型にて賦型加圧成形する第2の工程とを、
有する複合成形体の製造方法であって、
前記第1の工程において、温度Tにおける結着樹脂dの溶融粘度が20,000Pa・s以下である、こと特徴とする複合成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法は、ガラス繊維及び耐熱性有機繊維間に多数の気孔を存在させ、軽量性と吸音性を具備しながら、必要な材料強度を確保できるアンダーカバー等の複合成形体
を提供できる。
特に、繊維マットが無機繊維及び耐熱性有機繊維を含有しているので機械的強度に優れている。更に、本発明の製造方法で得られる複合成形体は、耐熱性有機繊維によって優れた弾性が付与されており、飛び石の衝突などによる衝撃を効果的に吸収し、破れにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の複合成形体の製造方法の第1の工程で得られた複合シートの一例を模式的に示した縦断面図である。
【図2】本発明の複合成形体の製造方法の第1の工程で得られた複合シートの他の一例を示した縦断面図である。
【図3】本発明の複合成形体の製造方法の第1の工程の製造装置の一例を示した模式側面図である。
【図4】本発明の複合成形体の製造方法の第2の工程の一例を示した模式図である。
【図5】本発明の複合成形体の製造方法の第1の工程において積層面材を介在させた複合シートの一例を模式的に示した縦断面図である。
【図6】本発明の複合成形体の製造方法の第1の工程において積層面材を介在させる場合の製造装置の一例を示した模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の複合成形体の製造方法は、(1)無機繊維aと、融点Mbが200℃以上の耐熱性有機繊維bと、無機繊維a及び有機繊維bを結着する融点Mcの結着樹脂繊維cとを混合してなる繊維マット(I)の少なくとも一方の表面に、融点Mdの結着樹脂dを含有する合成樹脂フィルム(II)を積層し、一対の搬送ベルト間に供給して搬送しながら、耐熱性有機繊維bの融点Mb未満で、結着樹脂繊維cの融点Mc以上及び結着樹脂dの融点Md以上の温度Tに加熱して、繊維マット(I)と合成樹脂フィルム(II)を圧接し、繊維マット(I)内の結着樹脂繊維cを溶融しつつ、合成樹脂フィルム(II)の結着樹脂dの少なくとも一部を、繊維マット(I)の内部に含浸させた後冷却して、繊維マット(I)内部の無機繊維aと耐熱性有機繊維bを結着させるとともに、合成樹脂フィルム(II)の一部を繊維マット(I)に含浸結着させた複合シート(III)を得る第1の工程を有している。以下、本発明の製造方法の構成要素及び各工程について説明する。
【0010】
〔繊維マット(I)〕
繊維マット(I)は、無機繊維aと、融点Mbが200℃以上の耐熱性有機繊維bと、無機繊維a及び有機繊維bを結着する融点Mcの結着樹脂繊維cとを混合し、これら絡合させてなる。以下、繊維マット(I)の構成要素について説明する。
繊維マット(I)中における無機繊維aの含有量は、軽量で十分な機械的強度を有するアンダーカバー等の車両外装材としての複合成形体が得られるので、50〜80質量%が好ましく、55〜80質量%がより好ましく。60〜75質量%がさらに好ましい。
【0011】
(無機繊維a)
繊維マット(I)を構成する無機繊維aとしては、例えば、ガラス繊維、ロックウール、金属繊維、炭素繊維などが挙げられる。無機繊維aは、取り扱いやすいことからガラス繊維、ロックウールが好ましく、ガラス繊維がより好ましい。なお、無機繊維aは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
無機繊維aの長さは、5〜250mmが好ましく、30〜150mmがより好ましい。無機繊維aの太さは、3〜30μmが好ましく、5〜20μmがより好ましく、6〜15μmがさらに好ましい。
【0012】
(耐熱性有機繊維b)
また、繊維マット(I)を構成している融点Mbが200℃以上の耐熱性有機繊維bとしては、融点が200℃以上である必要があり、製造工程中において溶融することなく形態を保持できるものであればよい。
すなわち、耐熱性有機繊維bは、当該耐熱性有機繊維bの融点Mb未満で、結着樹脂繊維cの融点Mc以上及び結着樹脂dの融点Md以上の温度Tにおいて不織布が繊維形態を保ち、溶融はしない耐熱性を有している必要がある。
より具体的には、耐熱性有機繊維bとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリウレタン繊維などの合成樹脂繊維や、綿、麻、ケナフ、羊毛などの天然繊維が挙げられる。なお、耐熱性有機繊維bの融点Mbは、JIS K 7121に準拠して測定されたものをいう。耐熱性有機繊維bは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0013】
耐熱性有機繊維bの長さは、5〜250mmが好ましく、30〜150mmがより好ましい。耐熱性有機繊維b中における長さが30〜150mmの耐熱性有機繊維bの含有量は、繊維マット(I)に十分な強度を与えられるので、3〜20質量%以上が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。耐熱性有機繊維bの含有量が少ないと、車両外装材の耐衝撃性が低下することがある。耐熱性有機繊維の含有量が多いと、車両外装材の機械的強度が低下することがある。
また、耐熱性有機繊維bの繊度は、繊維を均質に混合分散できるので、1〜30dtexが好ましく、1.5〜20dtexがより好ましい。
【0014】
(結着樹脂繊維c)
繊維マット(I)中には結着樹脂繊維cが含有されており、この融点Mcの結着樹脂繊維cによって無機繊維aと、融点が200℃以上の耐熱性有機繊維bとが結着されている。結着樹脂繊維cを構成している合成樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
結着樹脂繊維cの形態としては、単一の合成樹脂から形成された繊維の他に、芯鞘構造の繊維であってもよい。芯鞘構造の繊維の場合には、繊維表面を構成している合成樹脂によって無機繊維aと融点が200℃以上の耐熱性有機繊維bとが結着される。
【0015】
単一の合成樹脂から形成された結着性樹脂繊維cの融点Mc及び芯鞘構造繊維の表面を構成している合成樹脂の融点Mcは、低いと耐熱性が低下することがあり、高いと、無機繊維aと融点が200℃以上の耐熱性有機繊維bの結着が不充分となり、複合成形体の強度が低下することがあるので、70〜170℃が好ましい。なお、本発明において、合成樹脂の融点は、JIS K 7121に準拠して測定されたものをいう。
結着樹脂繊維cの長さは、5〜250mmが好ましく、30〜150mmがより好ましい。結着樹脂繊維cの繊度は、繊維に均一に分散させ易く取り扱い易いので、1〜50dtexが好ましく、1.5〜30dtexがより好ましい。
【0016】
繊維マット(I)中における結着樹脂繊維cの含有量は10〜30質量%が好ましい。結着樹脂繊維cの含有量を調整することにより、車両外装材等の複合成形体の機械的強度を十分に発現させることできる。
【0017】
繊維マット(I)の目付は、軽量化と機械的強度を両立させ易いので、100〜1200g/m2が好ましく、300〜1000g/m2がより好ましい。
上記繊維マット(I)の少なくとも一方の表面、好ましくは両面に合成樹脂フィルム(II)が積層一体化されており、合成樹脂フィルム(II)の一部が溶融して繊維マット(I)内に含浸している。以下、合成樹脂フィルム(II)について説明する。
【0018】
〔合成樹脂フィルム(II)〕
(結着樹脂d)
合成樹脂フィルム(II)を構成している合成樹脂は、繊維マット(I)内に含浸して、無機繊維aと融点が200℃以上の耐熱性有機繊維bとを結着させることができる結着樹脂dを含有している。
そして、この結着樹脂dは、温度Tに加熱して、繊維マット(I)と合成樹脂フィルム(II)を圧接する際の繊維マット(I)への含浸のし易さの観点から、温度Tにおける溶融粘度が20,000Pa・s以下であることを要する。さらには、溶融粘度は、15,000Pa・s以下が好ましい。
なお、本発明において、温度Tにおける溶融粘度は、せん断速度(角周波数)が0.1(1/sec)の時の複素粘度(Pa・s)をいう。溶融粘度はコーンプレートを用いた粘弾性測定装置(例えば、Anton Paar社製モジュラーコンパクトレオメーター:Physica MCR301)を用いて測定することができる。
複合シート(III)は、常圧下又は減圧下で、結着樹脂繊維cの融点Mc以上及び結着樹脂dの融点Md以上の温度Tで加熱すると、複合シート(III)中の結着樹脂繊維c及び結着樹脂dが溶融して、無機繊維a及び耐熱性有機繊維bを結着する力が弱くなり、特に無機繊維aは、剛性を有しているので、自らの復元力で繊維マットとして絡合された状態に膨張(膨化)して戻る、いわゆるバックリング現象を呈し厚みを回復させる。
【0019】
結着樹脂dとしては、融点Mdは温度T以下であり、耐熱繊維bの融点Mb以下であることが好ましい。例えば、70〜280℃の熱可塑性樹脂を例示することが出来、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート共重合樹脂、無水マレイン酸変性ポリエチレンなどが挙げられる。合成樹脂フィルム(II)を構成している合成樹脂は、結着樹脂dから構成されていることが好ましい。合成樹脂フィルム(II)を構成している合成樹脂中における結着樹脂dの含有量は、少ないと、繊維マット(I)の機械的強度が低下することがあるので、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。なお、合成樹脂は無機繊維aと耐熱性有機繊維bとの結着を阻害しない範囲内で、結着樹脂d以外の合成樹脂を含有してもよい。結着樹脂d以外の合成樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂が挙げられる。なお、合成樹脂フィルム(II)を構成している合成樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0020】
合成樹脂フィルム(II)を構成している結着樹脂dの例としては、ポリプロピレン樹脂があげられる。温度Tにおける溶融粘度が20,000Pa・s以下、さらには15,000以下が好ましい。結着樹脂の溶融粘度が高いと溶融した樹脂が繊維マット内に充分に含浸せず吸音性能に有効な表面層の細孔が形成されず吸音性能に劣る結果となる場合がある。また、結着樹脂の溶融粘度が低い場合は、表面層での樹脂成分が不足する結果となり表面強度、即ちチッピング性能が劣る結果となることや、温度Tでの溶融粘度低いためにガラス繊維や耐熱性有機繊維間の孔の発生が過多になり吸音性が充分に発現されない結果となることがある。
結着樹脂繊維cがポリプロピレン繊維、耐熱性有機繊維が融点155℃のPET繊維である場合、温度Tは、170〜220℃、さらには、180〜210℃が好ましい。
この時、結着樹脂dの例としては、たとえば、日本ポリプロ(株)のポリプロピレン樹脂MG2T、FY6C、旭化成ケミカルズ(株)のポリエチレン樹脂, サンテックJ240、J340などのオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0021】
(合成樹脂フィルム(II)の層構成)
上述では、合成樹脂フィルム(II)が単層である場合を説明したが、図2に示したように、合成樹脂フィルム2は、複数の合成樹脂層21、21・・・から構成された合成樹脂フィルムであってもよい。この場合、合成樹脂フィルム2のうち、最内層の合成樹脂層21a、即ち、繊維マット(I)に接している合成樹脂層21aには、単層の合成樹脂フィルム(II)を構成している合成樹脂と同様の合成樹脂が用いられる。なお、繊維マット(I)の両面に合成樹脂フィルム(II)積層一体化されている場合、何れか一方の合成樹脂フィルム(II)のみが複層の合成樹脂フィルムであっても、或いは、両方の合成樹脂フィルム(II)が複層の合成樹脂フィルムであってもよい。なお、図2では、一方の合成樹脂フィルム(II)が複層の合成樹脂フィルムである場合を示した。
【0022】
また、最内層以外の合成樹脂層の少なくとも一層の合成樹脂の溶融粘度は、最内層の合成樹脂フィルム層21aを構成している合成樹脂の溶融粘度の2倍以上であることが好ましい。このように構成することによって、吸音性と車両外装材等の複合成形体の表面の耐衝撃性を向上させることができる。
【0023】
単層又は複層の合成樹脂フィルム(II)の全体厚みは30〜500μmが好ましく、100〜400μmがより好ましい。合成樹脂フィルム(II)の厚みが薄いと、耐衝撃性の高い複合成形体が得られにくく、複合成形体の表面平滑性が低下して車両外装材等として寒冷地での使用時に着氷しやすくなることがある。合成樹脂フィルム(II)の厚みが厚いと、複合成形体が成形しにくくなることがある。
【0024】
なお、複合シート(III)を構成している合成樹脂フィルム(II)は、少なくとも結着樹脂dからなるフィルム、あるいは結着樹脂dと他の材料を含む混合体よりなるフィルムである。
他の材料としては、一般に合成樹脂に混合される微粒子や繊維(これらを併せて「フィラー」ということがある。)を必要に応じて混合して用いることができる。
微粒子や繊維としては、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、マイカ、タルク、ガラス繊維のミルドファイバー、ガラス短繊維、グラファイト粒子、カーボンナノチューブ、粒子状のゴムなどを挙げることができる。
微粒子や繊維は、結着樹脂dと複合しての強度の増加効果を有する。
微粒子の平均粒径は、大き過ぎると溶融した合成樹脂と一緒に繊維マットに含浸していきにくいので微細な形状が好都合であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは50μm以下、さらには20μm以下が好ましい。
また、これらのフィラーは、結着樹脂の繊維マット(I)への含浸に伴い、表面層側により多く構成されることになり表面層の耐チッピング特性などの強化効果を発現する。
【0025】
さらに、結着樹脂dに加えて、他の合成樹脂を混合して用いることもできる。
他の合成樹脂としては、超高分子量ポリエチレン樹脂やフッ素樹脂、合成ゴム樹脂などが挙げられ、溶融混合されたり、粒子状で混合することが可能である。
これらの合成樹脂は、フィラーと同様に耐チッピング特性の強化効果を有する。
これらのフィラーや合成樹脂などを混合使用する量的割合は、結着樹脂成分100質量部に対して1〜20質量部、さらには10質量部以下が好ましい。
さらにまた、合成樹脂フィルム(II)には、カーボンブラックなどの顔料、酸化防止剤、スリップ剤、結晶化核剤などが含有されていてもよい。
【0026】
本発明の複合成形体の製造方法では、少なくとも一方の合成樹脂フィルム(II)と繊維マット(I)との間に、不織布、織布、及びネットから選ばれる少なくとも1種を積層一体化することができる。本発明において、これらの不織布、織布、及びネットをまとめて積層面材という。積層面材について以下に説明する。
【0027】
(積層面材)
不織布は、合成樹脂の溶融層と接してベルト間に挟まれて加熱下で押圧されて一体化した複合層を形成する。無数の不織布繊維の間隙には合成樹脂が満たされると同時に無数の細孔が発生する構造となる。不織布で表面層に合成樹脂との複合層を形成することにより外層材として取付られる時の、取付強度の補強効果を発現する。また無数の細孔の発生効果として吸音性を発現する。
不織布に用いられる繊維は、一種類の繊維から構成されても良いし、複数の種類の繊維の混合構成でも良い。
この時、複数の繊維の混合構成の場合は、その繊維の太さ・長さなどの形状は、一種類の繊維を用いても良いし、複数の形状の繊維の混合構成でも良い。
不織布に用いられる繊維の単繊維の太さは、1〜50dtexが好ましく、さらには1.5〜30dtexがより好ましい。また、複数の形状の繊維を混合した構成であっても良い。
かかる混合した構成では、1〜10dtexの繊維と25〜50dtexの2種類の繊維を混合したものが用いられる。
【0028】
不織布の形態としては、繊維長さが15〜100mmのステーブル・ファイバーをカーデイング方式やエアレイ方式で薄いシート状に形成しニードルパンチにより繊維の絡み合わせを与えた不織布や、熱可塑性高分子を溶融させ、連続した長繊維状に吐出しながら形成し、高圧水流を使用し繊維を絡み合わせたスパンレースなどが用いられる。
繊維の種類としては、ポリエステル繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維などが用いられる。
不織布の目付量としては、積層された複合シート(III)及び複合成形体の軽量性と機械的強度の補強性能、吸音性能等の観点から30〜200g/m2が好ましくさらには、50〜150g/m2がより好ましい。目付量が20g/m2未満では、取付強度の補強効果が得られない。
また、目付量が200g/m2超えると、表面層に合成樹脂成分が不足し外装材として取り付けられた時、表面の吸水が過多となり極寒時にその水分が凍結するなどして車の走行に支障をきたすことがある。
【0029】
なお、本発明において、不織布は、合成樹脂フィルムと耐熱性合成繊維との複合層を、形成をするための強化材料として用いるのであるが、合成樹脂フィルムが前記加熱温度Tで溶融した合成樹脂と積層構成される材料が複合一体化するものであれば、不織布のみに限らず、不織布と組み合わせて、或いは不織布に替えて、耐熱性合成繊維からなる織布或いは、ガラス繊維等からなる網目状ネットや織布形態のネットも使用することができる。
織布の場合、繊維交点が賦型加圧成型時に固定されず、移動可能な結節交点を有するものが好適である。
例えば、ガラス長繊維やポリエステル長繊維からなるからみ織や平織と呼ばれる織布や、ユニチカ社製のガラス長繊維製直交ネットが好適に用いられる。なお、合成樹脂の含浸性から、目のあいた目開きタイプの織布が好適である。
これらの織布やネットの目付は20〜400g/m2のものが、さらには30〜300g/m2のものが好適であり、これらの厚さは、概ね0.03〜0.4mmである。
【0030】
また、アンダーカバーは、マフラーやエンジンの近辺では、アンダーカバーに耐熱性が求められる。このような場合においても、耐熱性合成繊維からなる不織布、耐熱性合成繊維や無機繊維の長繊維からなる、からみ織や平織の織布、或いは、ガラス長繊維が直交した積層ネット面材等から選ばれる少なくともいずれかを積層することにより、熱による変形や、脱落等のトラブルを防止することができる。
これらの不織布や織布やネット等の積層面材は、少なくとも一方の合成樹脂フィルム(II)と繊維マット(I)との間に、積層されてもよい。
たとえば、前記の第一工程において、図6に示すように、長尺状に巻かれた積層面材11,12を、所望とする積層部位に供給して、図6に示す装置を用いて積層することができる。
同図においては、図5に示す如き複合成形体Aを得るべく、積層面材11、12を、合成樹脂フィルム2の上部及び、合成樹脂フィルム2と繊維マット1の間に積層する場合を示しているが、積層面材11、12の積層位置は、合成樹脂フィルム2の上層、又は下層の合成樹脂フィルム2の下、或いは、上層又は下層の合成樹脂フィルム2と繊維マット1の間の何れか、又は双方であってよく、積層面材11、12も互い異なるものを組み合わせて用いても良い。
合成樹脂フィルムの結着樹脂は繊維マットに含浸してガラス繊維や耐熱性有機繊維との間に微細な孔を生成するが、これらの積層面材はこれを妨げることなく吸音性能は保持され、かつ、表面層の耐チッピング性や取付強度特性を強化する。
また、合成樹脂フィルム(II)が2層以上からなる場合は、積層面材は、いずれかの層間に積層されてもよい。
さらにまた、部位によっては吸音性よりは耐熱性をより強く求められるエンジン下部のような場合は、アルミガラスクロスやアルミ箔などの面材を積層することも可能である。
このような場合は、面材は複合成型体の最も外側に位置するように積層されるのが好ましい。面材は、熱を反射する機能を有してもよく、アルミニウム、ステンレス、鉄、銅、黄銅などの金属類からなるフィルム、あるいはこれらの金属が蒸着あるいは積層されている積層樹脂フィルムなどが挙げられる。面材の厚さは、特に限定されないが0.05〜0.5mmであることが好ましい。
【0031】
〔第1の工程〕
次に、本発明の複合成形体の製造方法の第1の工程について説明する。先ず、繊維マット(I)の製造方法について説明する。
(繊維マット(I)の製造)
繊維マット(I)の製造方法としては、例えば、無機繊維aと、融点が200℃以上の耐熱性有機繊維bと、結着樹脂繊維cとを混合してなる混合繊維をカード機に供給してマットとした後、繊維同士を交絡させて繊維マットを製造する方法が挙げられる。
繊維同士を交絡させる方法としては、マットにニードルパンチを施すニードルパンチ法、マットに水流を衝突させる水流交絡法などが挙げられる。なお、マットにニードルパンチを行う場合、ニードルパンチは、1cm2当り1〜150箇所が好ましく、10〜100箇所がより好ましい。
【0032】
繊維マット(I)には、無機繊維aと耐熱性有機繊維bとの結着性を向上させるために、無機繊維aと耐熱性有機繊維bとを結着可能な熱可塑性樹脂粉末を含有させてもよい。このような熱可塑性樹脂粉末を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、無水マレイン酸変性ポリエチレンが挙げられる。
【0033】
(繊維マット(I)と合成樹脂フィルム(II)との積層)
次に、繊維マット(I)の片面又は両面に合成樹脂フィルム(II)を直接、積層して複合シート(III)を形成する。なお、繊維マット(I)上に合成樹脂フィルム(II)を積層するにあたって、押出機から押し出した直後の溶融状態の合成樹脂フィルム(II)を連続的に繊維マット(I)上に供給して、繊維マット(I)上に合成樹脂フィルム(II)を積層してもよい。
【0034】
なお、合成樹脂フィルム(II)が複数の合成樹脂層から構成されている場合、繊維マット(I)上に積層した合成樹脂フィルム(II)は、無機繊維aと、融点が200℃以上の耐熱性有機繊維bとを結着させることができる結着樹脂dを含有する合成樹脂層が繊維マット(I)に直接、接触した状態となるように、積層する必要がある。
さらに、合成樹脂フィルム(II)の表面に前記の不織布を積層することができる。
【0035】
また、複数の合成樹脂層から構成された合成樹脂フィルム(II)の代わりに、繊維マット(I)上に、複数枚の合成樹脂フィルムを積層させてもよい。この場合、繊維マット(I)に直接、接触した状態となる合成樹脂フィルムは、繊維マット(I)の無機繊維aと、融点が200℃以上の耐熱性有機繊維bとを結着可能な結着樹脂dを含有している必要がある。
【0036】
しかる後、例えば、図3に示すように積層シートを一対の搬送ベルト3間に供給して搬送しながら、熱風加熱炉4に通して、積層シートの繊維マット(I)中の結着樹脂繊維c、及び、合成樹脂フィルムの結着樹脂dが溶融し且つ繊維マット(I)中の耐熱性有機繊維bが溶融しない温度Tに加熱し、積層シートをその厚み方向に、好ましくは0.5〜3mmに平板プレス5で圧接して、合成樹脂フィルム(II)から結着樹脂dを繊維マット(I)内に含浸させる。なお、合成樹脂フィルム(II)中に耐熱性合成樹脂層が形成されている場合には、耐熱性合成樹脂が溶融しない温度に設定する必要がある。
温度Tは、結着とバックリング現象の観点で設定すれば良く特に制限は無いが、樹脂の劣化などを考慮して、120〜300℃の範囲を例示することが出来る。
【0037】
次に、積層シートに加えている圧力を除くと、積層シートの繊維マット中の交絡した無機繊維aの復元力によって積層シートはその厚み方向に拡がり、積層シートの繊維マット中に空隙が無数に形成された状態となり、軽量な複合シート(III)が得られる。
【0038】
この際、積層シートを一対の搬送ベルト3間に供給した場合、搬送ベルト3を介して積層シートを上下真空拡開装置6で吸引し、搬送ベルトに積層シートを吸着させた状態で一対の搬送ベルト間の間隔を広げることによって積層シートをその厚み方向に強制的に拡げてもよい。
【0039】
しかる後、積層シートを冷却装置7に通して冷却・固化することによって複合シート(III)を得ることができる。得られた複合シート(III)の繊維マット中の結着樹脂繊維cは溶融して無機繊維aと、融点が200℃以上の耐熱性有機繊維bとを結着させていると共に、合成樹脂フィルム(II)の結着樹脂dの一部が繊維マット中に含浸して無機繊維aと、融点が200℃以上の耐熱性有機繊維bとを相互に結着している。特に、繊維マット中に含浸した合成樹脂フィルム(II)の結着樹脂dは、繊維マットの表面部に集中して存在しており、繊維マット(I)の表面部が強化される。
【0040】
なお、上記上下真空拡開装置6では、軽量化と機械的強度の向上の観点から、複合シート(III)の空隙率が30〜90%となるように調整することが好ましい。
【0041】
従って、複合シート(III)の表面部は、厚み方向の中心部分に比して耐衝撃性などの機械的強度に優れており、複合シート(III)を成形して得られる複合成形体は、飛び石などの衝突によって破れなどの破損が生じにくい。
【0042】
〔第2の工程〕
本発明の複合成形体の製造方法は、複合シート(III)を得るための前記第1の工程の後、
この複合シート(III)を常圧下又は減圧下で、結着樹脂繊維cの融点Mc以上及び結着樹脂dの融点Md以上の温度Tで加熱して、無機繊維aと耐熱性有機繊維bにバックリング現象を生じさた後、冷却金型にて賦型加圧成形する第2の工程を有している。
【0043】
本発明の複合成形体の製造方法において、この第2の工程は、前記の第1の工程に連続して行うことを意味するものではなく、第1の工程で得られた成形材料としての複合シートを、時間、場所等を変えて、冷却金型にて賦型加圧成形する工程を含んでいる。
複合シート(III)は、常圧下又は減圧下で、結着樹脂繊維cの融点Mc以上及び結着樹脂dの融点Md以上の温度Tで加熱すると、複合シート(III)中の結着樹脂繊維c及び結着樹脂dが溶融して、無機繊維a及び耐熱性有機繊維b結着する力が弱くなり、特に無機繊維aは、剛性を有しているので、自らの復元力で繊維マットとして絡合された状態に膨張(膨化)して戻る、いわゆるバックリング現象を呈し厚みを回復させる。このような作用によって厚みが回復した複合シート(III)は、複雑な形状の複合成形体に加熱成形することができる。
すなわち、この加熱によりバックリング現象が生じている複合シートを、得ようとする成形体の形状に対応する冷却金型にセットして、賦型加圧成形することで、所望の複合成形体を得ることができる。
【0044】
〔第2の工程の具体例〕
図4は、本願発明の第2の工程の一例を示している。同図(A)は複合シート(III)の加熱工程、同図(B)は冷却金型による賦型加圧成形工程、同図(C)は成形品としての複合成形体を示している、図4(A)に示す符号8は複合シートAを加熱するための加熱装置で、加熱温度は、結着樹脂繊維cの融点Mc以上及び結着樹脂dの融点Md以上である温度Tに制御される。熱源としては、熱風や遠赤外線ヒーター等を挙げることができる。加熱装置8は、ネット状のコンベアベルト81を備え、熱風吹き出し口82から熱風が循環する構造のものである。加熱装置8で所定時間加熱された複合シートAは、無機繊維のバックリング現象により厚み方向に膨張した状態の成形用加熱体(ホットブランク)A'となる。これを、図4(B)に示す、得ようとする成形の形状に対応した空隙部を有する冷却金型9A、9Bを備えたプレス装置9の下金型9B上に供給して、賦型加圧成形し、金型より取り出して賦型された成形品としての複合成形体10とされる。
【0045】
(複合成形体)
複合成形体は、車両外装材としては、例えば、車両アンダーカバー、車両のフェンダーカバー、タイヤハウジングなどが挙げられる。車両アンダーカバーは、車両の底部を全面的に被覆し或いは部分的に被覆して、車両の底部の空気抵抗を軽減し、或いは、車両の底部を保護するために用いられる。
【0046】
従って、得られる車両外装材等の複合成形体は、繊維マットの内部に空隙が多数形成されており非常に軽い。更に、複合成形体は、適度な厚み、具体的には、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上の厚みを有していると優れた弾力性を持ち、飛び石などの衝突によって破損しにくい。
【0047】
また、上記複合シート(III)において、最内層以外の少なくとも一層の合成樹脂層が、融点が200℃以上の耐熱性合成樹脂層である場合には、加熱成形後も繊維マットの表面に厚く合成樹脂層を残存させておくことができるので、車両外装材等の複合成形体の表面における機械的強度をさらに向上させることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものでない。
なお、以下の実施例において、溶融粘度の測定は、粘弾性測定機(Anton Paar社製、レオプラス Physica MCR301)を用い、せん断速度0.1(1/sec)、温度Tにおける溶融粘度は測定チャートから読み取った。
【0049】
また、実施例1〜8、比較例1〜9では、複合シート(III)を得て、これを加熱して冷却金型で賦型加圧成形して、車両外装材としてのフロアアンダーカバーを得て、その性能を、以下の項目について測定して評価した。
車両外装材の評価方法
(1)軽量性の評価
複合シート(III)の目付が1500g/m2以下のものを合格「〇」とし、1500g/m2を超えるものを「×」とした。
(2)吸音性の評価
成形品(複合成形体)について、車両に取付け時の方向性として、「車両側」と「路面側」について、JIS 1405に準拠して垂直入射吸音法を用いて吸音性を測定した。測定された9点の各周波数における吸音率の合計を、吸音率とした。(0.8kz、1.0kz、1.25kz、1.6kz、2.0kz、2.5kz、3.15kz、4.0kz、5.0kz)平均で吸音率が30%以上となるもの(約−3dB)を合格とし、したがって、9点の各周波数における吸音率の合計が270%以上を合格とした。
(3)取付強度
大きさ1500×650mmのフロアアンダーカバーを10個の取付ボルトで固定することを想定して、9000サイクル以上を合格とした。JIS K7128−3に準拠した引き裂き試験に使用する直角形引裂試験片(サンプル)をダンベルで打ち抜き、このサンプルにつき引張応力120Nを5サイクル/secで負荷する疲労試験を行い、取付ボルト孔部に亀裂が生じる迄の回数を計測した。
(4)飛び石耐性
成形品から試験片を縦220mm、横290mmの長方形に切り出し、この試験片を金属製の額縁状枠体内に固定した。次に、試験片の中央部に、直径6mmの鋼球を市販のモエアガンを用いて衝突させた。
試験片の同一個所に鋼球を30回繰返し衝突させ、鋼球を衝突させることによって破壊の有無を測定した。
【0050】
実施例1
無機繊維aとして、長さが40〜75mmで且つ直径が10μmのガラス繊維60質量%と、繊度が6.6dtexで且つ長さが64mmのポリプロピレン繊維(融点:160℃)30質量%と、繊度が1.7dtexで且つ長さが64mmのポリエチレンテレフタレート繊維(融点:255℃)10質量%とによって、850g/m2の目付量となるように混合しカード機に供給して解繊及び混繊して長尺状のマットを得た。得られたマットにニードルパンチを1cm2当たり20箇所打って繊維同士を交絡させて目付が850g/m2の長尺状の繊維マット(I)を得た。
【0051】
次に、長尺状の繊維マット(I)の上下面に積層する、結着樹脂dからなる以下の単一層の合成樹脂フィルム(II)を準備した。結着樹脂は、200℃において、せん断速度を0.1(1/sec)として、溶融粘度が3,000Pa.sのポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)のポリプロピレン樹脂MG2T)からなる厚さが200μm(目付:180g/m2)の長尺状の合成樹脂フィルム(II)である。合成樹脂フィルム(II)、(II)を連続状の繊維マット(I)の上下面に連続的に積層して厚みが6mmの積層シートBを得た。
【0052】
図3に示すように、ポリテトラフルオロエチレンで表面が被覆された上下一対の無端状の搬送ベルト3、3を用意した。この一対の搬送ベルト3、3の間に積層シートBを連続的に供給し、積層シートBを200℃の熱風加熱炉4内を通過させて5分間に亘って加熱した。
【0053】
続いて、積層シートBを200℃に加熱された一対の平板プレス5、5間に供給して、積層シートBを加圧面圧6kg/cm2で、10秒間加圧して、合成樹脂フィルムを構成しているポリプロピレン樹脂の一部を繊維マット内に含浸させると共に、ポリプロピレン繊維を溶融させた。
【0054】
次に、積層シートBを平板状の上下真空拡開装置6、6間に供給して、積層シートBを一対の搬送ベルト3、3を介して真空吸引して積層シートBをその厚み方向に拡げた後、積層シートBを冷却装置7内に供給し、表面温度が60℃以下となるまで冷却して厚みが4mmで、且つ目付が1210g/m2の複合シート(III)を得た。
【0055】
得られた複合シート(III)は、繊維マットの両面にポリプロピレン樹脂からなる合成樹脂フィルムが積層され加熱プレスにより溶融化し含浸一体化していた。繊維マットのガラス繊維とポリエチレンテレフタレート繊維は、ポリプロピレンによって部分的に結着されており、繊維マットの表面部には合成樹脂フィルムを構成しているポリプロピレン樹脂の一部が含浸して繊維マットの繊維同士を結着していた。
【0056】
得られた複合シート(III)を、所定の大きさに2m×1.5mに切断し、図4に示す熱風加熱装置8により200℃で3分間加熱して、ガラス繊維がバックリングした厚み8mmのホットブランクとして、これを型温60℃の上下金型を備えたプレス9で、型圧10kg/cm2で型締めして賦型し、60℃以下で成形された車両外装材としてのフロアアンダーカバーを型から取り出した。得られたフロアアンダーカバーは、最薄部で1.0mm、最厚部で5mmであった金型のクリアランスに対応した厚みを備えていた。
【0057】
実施例2
実施例1において、繊維マット(I)の上下面に積層するポリプロピレン樹脂からなる合成樹脂フィルムの厚みを、200μmから150μmとした他は実施例1と同様にして目付が1120g/m2の複合シート(III)を得た。得られた複合シート(III)により、実施例1と同一条件で車両外装材としてのフロアアンダーカバーを成形した。
【0058】
実施例3
合成樹脂フィルムを3層の構成とし、繊維マット(I)と接する最内層を200℃における溶融粘度が1500Pa・sのポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)のMA1B)で厚みが75μmのもの、中間層を200℃における溶融粘度が3000Pa・sのポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)のMG2T)で厚みが50μm、最外層を200℃における溶融粘度が6000Pa・sのポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)のノバテックPP MA3)で厚みが75μm、合成樹フィルム全体厚みを200μmとした他は、実施例1と同様にして目付が1210g/m2の複合シート(III)を得た。得られた複合シート(III)により、実施例1と同一条件で車両外装材としてのフロアアンダーカバーを成形した。
【0059】
実施例4
実施例1において、繊維マット(I)の上下面に200℃における溶融粘度が8000Pa・sのポリプロピレン樹脂(旭化成ケミカルズ社のサンテックJ345)からなり、合成樹脂フィルムの厚みを、200μmから150μmとした他は実施例1と同様にして目付が1120g/m2の複合シート(III)を得た。得られた複合シート(III)により、実施例1と同一条件で車両外装材としてのフロアアンダーカバーを成形した。
【0060】
実施例5
実施例1と同じ繊維マット(I)、合成樹脂フィルム(II)を用い、一方の合成樹脂フィルムの上のポリエステル樹脂からなる目付100g/m2のスパンボンド不織布を積層して厚み約6mmの積層シートBを得た。これを、以下、実施例1と同様にして目付が1310g/m2の複合シート(III)を得た。得られた複合シート(III)により、実施例1と同一条件で車両外装材としてのフロアアンダーカバーを成形した。
【0061】
実施例6
無機繊維aとして、長さが40〜75mmで且つ直径が10μmのガラス繊維75質量%と、繊度が6.6dtexで且つ長さが64mmのポリプロピレン繊維(融点:160℃)20質量%と、繊度が1.7dtexで且つ長さが64mmのポリエチレンテレフタレート繊維(融点:255℃)5質量%とによって、850g/m2の目付量となるように混合しカード機に供給して解繊及び混繊して長尺状のマットを得た。得られたマットにニードルパンチを1cm2当たり20箇所打って繊維同士を交絡させて目付が850g/m2の長尺状の繊維マット(I)を得た。
この繊維マット(I)を用いた他は実施例1と同様にして、目付が1210g/m2の複合シート(III)を得た。
得られた複合シート(III)により、実施例1と同一条件で車両外装材としてのフロアアンダーカバーを成形した。
【0062】
実施例7
無機繊維aとして、長さが40〜75mmで且つ直径が10μmのガラス繊維80質量%と、繊度が6.6dtexで且つ長さが64mmのポリプロピレン繊維(融点:160℃)15質量%と、繊度が1.7dtexで且つ長さが64mmのポリエチレンテレフタレート繊維(融点:255℃)5質量%とによって、950g/m2の目付量となるように混合し、カード機に供給して解繊及び混繊して長尺状のマットを得た。得られたマットにニードルパンチを1cm2当たり20箇所打って繊維同士を交絡させて目付が950g/m2の長尺状の繊維マット(I)を得た。
この繊維マット(I)を用いた他は実施例1と同様にして、目付が1310g/m2の複合シート(III)を得た。
得られた複合シート(III)により、実施例1と同一条件で車両外装材としてのフロアアンダーカバーを成形した。
【0063】
実施例8
無機繊維aとして、長さが40〜75mmで且つ直径が10μmのガラス繊維80質量%と、繊度が6.6dtexで且つ長さが64mmのポリプロピレン繊維(融点:160℃)15質量%と、繊度が1.7dtexで且つ長さが64mmのポリエチレンテレフタレート繊維(融点:255℃)5質量%とによって、850g/m2の目付量となるように混合しカード機に供給して解繊及び混繊して長尺状のマットを得た。得られたマットにニードルパンチを1cm2当たり20箇所打って繊維同士を交絡させて目付が850g/m2の長尺状の繊維マット(I)を得た。
次に、長尺状の繊維マット(I)の上下面に積層する、結着樹脂dからなる以下の単一層の合成樹脂フィルム(II)を準備した。結着樹脂は、200℃において、せん断速度を0.1(1/sec)として、溶融粘度が15,000Pa.sのポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)のFY6C)からなる厚さが100μm(目付:90g/m2)の長尺状の合成樹脂フィルム(II)である。合成樹脂フィルム(II)、(II)を連続状の繊維マット(I)の上下面に連続的に積層して厚みが約6mmの積層シートBを得た。
この繊維シートBを用いた他は実施例1と同様にして、目付が1030g/m2の複合シート(III)を得た。
得られた複合シート(III)により、実施例1と同一条件で車両外装材としてのフロアアンダーカバーを成形した。
以上、各実施例の複合シート、複合成形体の製造条件及び評価結果をまとめて表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1から本発明の複合成形体の製造方法により得られたフロアアンダーカバーとしての車両外装材は、十分な軽量性、吸音性、耐疲労性、飛び石耐性を有していることが確認された。
【0066】
比較例1〜比較例2
実施例1と同一の繊維マット(I)を用い、合成樹脂フィルム(II)の結着性樹脂として、比較例1が200℃の溶融粘度が15000Pa・sのポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)、ノバテックPP FY6C)、比較例2が同溶融粘度が300Pa・sのポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)、ノバテックPP MG03B)による、実施例1と同一の厚みの合成樹脂フィルム(II)を用いた他は実施例1と同様にして目付が1210g/m2の複合シート(III)を得た。
得られた複合シート(III)により、実施例1と同一条件で車両外装材としてのフロアアンダーカバーを成形した。
【0067】
比較例3〜5
無機繊維aとして、長さが40〜75mmで且つ直径が10μmのガラス繊維40質量%、(比較例3)、80質量%(比較例4)、及び90質量%(比較例5)と、繊度が6.6dtexで且つ長さが64mmのポリプロピレン繊維(融点:160℃)30質量%(比較例3)、19質量%(比較例4)、及び5質量%(比較例5)、繊度が1.7dtexで且つ長さが64mmのポリエチレンテレフタレート繊維(融点:255℃)30質量%(比較例3)、1質量%(比較例4)、及び5質量%(比較例5)とによって、850g/m2の目付量となるように混合しカード機に供給して解繊及び混繊して比較例3〜5の長尺状の繊維マットを得た。得られた繊維マットにニードルパンチを1cm2当たり20箇所打って繊維同士を交絡させて目付が850g/m2の長尺状の繊維マット(I)を得た。
繊維マット(I)が異なる他は、実施例1と同様にして目付が1210g/m2の複合シート(III)を得た。
得られた複合シート(III)により、実施例1と同一条件で車両外装材としてのフロアアンダーカバーを成形した。
【0068】
比較例6
実施例1において、繊維マット(I)の耐熱性有機繊維bとして、繊度が1.7dtexに代えて35dtexのポリエチレンテレフタレート繊維とした他は同様にして実施例1と同一目付の繊維マット(I)を得、他も同様にして同一目付の複合シート(III)を得た。
得られた複合シート(III)により、実施例1と同一条件で車両外装材としてのフロアアンダーカバーを成形した。
【0069】
比較例7
実施例1において、繊維間の質量比は変えることなく、繊維マット(I)の目付を1500g/m2とし、さらに合成樹脂フィルムの厚みを300μmとした他は、実施例1と同様にして、目付が2040g/m2の複合シート(III)を得た。
得られた複合シート(III)により、実施例1と同一条件で車両外装材としてのフロアアンダーカバーを成形した。
【0070】
比較例8
比較例5と同じ繊維マット(I)、合成樹脂フィルム(II)を用い、一方の合成樹脂フィルム上の実施例5において用いた目付100g/m2のポリエステル樹脂からなるスパンボンド不織布を目付250g/m2とした他は比較例1と同様にして目付1460g/m2の複合シート(III)を得た。
得られた複合シート(III)により、実施例1と同一条件で車両外装材としてのフロアアンダーカバーを成形した。
【0071】
比較例9
実施例1で得られた複合シート(III)を用い、前記の実施例や比較例と比較して、図4において、熱風加熱装置8を用いることなく、すなわちバックリング現象を呈したホットブランクとすることなく、プレス装置9の上下金型9A、9Bを、当初200℃迄昇温し、厚み4mmの複合シート(III)を直接、下金型9B上に載置し、しかる後上金型も下降させて、複合シート(III)を加温し、次いで型締めして、金型に冷却水を循環して60℃として、成形された車両外装材としてのフロアアンダーカバーを型から取り出した。
以上、各比較例の複合シート、複合成形体の製造条件及び評価結果をまとめて表2に示す。
【0072】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の複合成形体の製造方法は、ガラス繊維及び耐熱性有機繊維間に多数の気孔を存在させ、軽量性と吸音性を具備しながら、必要な材料強度を確保できるアンダーカバー等の車両外装材に適した複合成形体として利用できる。
本発明の製造方法で得られる複合成形体は、特に繊維マットが無機繊維及び耐熱性有機繊維を含有しているので機械的強度に優れ、更に、耐熱性有機繊維によって優れた弾性が付与されており、飛び石の衝突などによる衝撃を効果的に吸収し、破れにくくなるので、飛び石の衝突などによる衝撃を効果的に吸収し、破れにくく、車両アンダーカバー、車両のフェンダーカバー、タイヤハウジング、エンジンカバーなどの車両外装材の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 繊維マット(I)
2 合成樹脂フィルム(II)
21、21a、21b 合成樹脂層
3 搬送ベルト
4 熱風加熱炉
5 平板プレス
6 上下真空拡開装置
7 冷却装置
8 加熱装置
9 プレス装置
9A 上冷却金型
9B 下冷却金型
10 複合成形体
11,12 積層面材
81 コンベアベルト
82 熱風吹出し口
A 複合シート(III)
A' 複合シートの成形用加熱体(ホットブランク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)無機繊維aと、融点Mbが200℃以上の耐熱性有機繊維bと、無機繊維a及び有機繊維bを結着する融点Mcの結着樹脂繊維cとを混合してなる繊維マット(I)の少なくとも一方の表面に、融点Mdの結着樹脂dを含有する合成樹脂フィルム(II)を積層し、一対の搬送ベルト間に供給して搬送しながら、耐熱性有機繊維bの融点Mb未満で、結着樹脂繊維cの融点Mc以上及び結着樹脂dの融点Md以上の温度Tに加熱して、繊維マット(I)と合成樹脂フィルム(II)を圧接し、繊維マット(I)内の結着樹脂繊維cを溶融しつつ、合成樹脂フィルム(II)の結着樹脂dの少なくとも一部を、繊維マット(I)の内部に含浸させた後冷却して、繊維マット(I)内部の無機繊維aと耐熱性有機繊維bを結着させるとともに、合成樹脂フィルム(II)の一部を繊維マット(I)に含浸結着させた複合シート(III)を得る第1の工程と、
(2)この複合シート(III)を常圧下又は減圧下で、前記温度Tで加熱して、無機繊維aと耐熱性有機繊維bにバックリング現象を生じさた後、冷却金型にて賦型加圧成形する第2の工程とを、
有する複合成形体の製造方法であって、
前記第1の工程において、温度Tにおける結着樹脂dの溶融粘度が20,000Pa・s以下である、こと特徴とする複合成形体の製造方法。
【請求項2】
前記合成樹脂フィルム(II)が、2層以上の合成樹脂層からなり、繊維マットとの積層時に繊維マットと接触する最内層の合成樹脂層から最外層の樹脂層に向かって樹脂の溶融粘度が高くなる構成であり、少なくとも最外層の合成樹脂の温度Tにおける溶融粘度が20,000Pa・s以下である、請求項1に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項3】
少なくとも一方の最外層に耐熱性合成繊維からなる不織布が積層一体化されている、請求項1又は請求項2に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項4】
少なくとも一方の合成樹脂フィルム(II)と繊維マット(I)との間に、不織布、織布、及びネットから選ばれる少なくとも1種が積層一体化されている、請求項1〜3のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項5】
前記繊維マット(I)は、繊維マット(I)を100質量%とした時、前記無機繊維aが50〜80質量%、前記耐熱性有機繊維bが3〜20質量%、及び前記結着樹脂繊維cが10〜30質量%である、請求項1〜4のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項6】
前記無機繊維aと前記耐熱性有機繊維bの合計を100質量部とした場合、前記無機繊維aは70〜97質量部、前記耐熱性有機繊維bは3〜30質量部であり、これらの合計100質量部に対して、前記結着樹脂繊維cの割合が、10〜43質量部である、請求項1〜5のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項7】
前記繊維マット(I)がニードルパンチにより形成されてなるものである、請求項1〜6のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項8】
前記繊維マット(I)の目付け量が300〜1000g/m2であり、前記合成樹脂フィルム(II)の目付け量が60〜300g/m2である、請求項1〜7のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−214003(P2012−214003A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96143(P2011−96143)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】