説明

複合捲縮糸及び織物

【目的】 織物にしたとき、ウール織物調のソフトなふくらみ感や腰・ハリと共に、ポリエステルフィラメント特有のドレープ性を与えるようにしながら、縫製性を良好にする適度な伸縮性を与えることができる複合捲縮糸を提供する。
【構成】 少なくとも2種類のマルチフィラメント糸から構成された複合捲縮糸であり、その1種類が互いに熱収縮性の異なる2成分のポリエステル重合体が接合した捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸Aであって、前記複合糸の内層に主成分として配置され、また他の1種類が合成重合体単成分からなる捲縮マルチフィラメント糸Bであって、前記複合捲縮糸の外層に主成分として配置されている。さらに捲縮糸Bの糸長を、捲縮糸Aよりも5〜35%長くすると共に、内層の捲縮糸Aに捲縮糸Bの一部を混繊させ、また外層の捲縮糸Bに捲縮糸Aの一部を混繊させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、2種類以上のマルチフィラメント糸から構成された複合捲縮糸及びそれから得られる織物に関し、さらに詳しくは、ウール織物調のソフトなふくらみ感と腰・ハリと共に、ポリエステルフィラメント糸特有のドレープ性を有するようにしながら、縫製性を良好にする適度な伸縮性を備えた織物への製織を可能にする複合捲縮糸及びそれから得られる織物に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリエステルフィラメント糸は、他の合成繊維に比べてシワがつきにくく、プリーツ性に優れるという特性を有している。従来、このような特性のポリエステルフィラメント糸を、中肉地や厚地のウール織物が多く使用されているスーツやボトム(ズボン,スカート等)等の分野へ応用する開発努力がなされてきた。このポリエステル織物をウール織物がもつソフトなふくらみ感と腰・ハリからなる質感に近づける目的は、ポリエステルフィラメント糸を仮撚加工するウーリー加工法とか、特性の異なる2種類のポリエステルフィラメント糸を複合仮撚り加工する方法により一応達成された。しかし、開発は更に進められ、このようにウール織物の質感に近づけるだけでなく、ウール織物には表現できないポリエステルフィラメント独自の質感であるドレープ性を付与することが試みられ、例えば特公昭61−19733号公報等に記載されるような技術が開発された。
【0003】このようにウール織物調のソフトな風合や腰・ハリに加えて、ポリエステルフィラメント糸特有のドレープ性を付与するための方法は、伸度の異なる2種類のポリエステルフィラメント未延伸糸や半延伸糸を引き揃えて複合仮撚加工し、それから得られた複合捲縮糸を織物にするとき、その複合捲縮糸に予め追撚(加撚)を行うというものであった。加撚された複合捲縮糸は、その加撚数(追撚数)を増加することにより、内層側のマルチフィラメント糸に外層側のマルチフィラメント糸がランダムに巻きついた2層の芯鞘構造になり、その外表面に数ミクロンから数十ミクロンのわん曲した単繊維を存在させるようになる。したがって、この複合捲縮糸を織物にすると、その織物にソフトなふくらみ感が与えられると共に、追撚された撚りによりマルチフィラメント糸の密度が充填化されることによってドレープ性が与えられることになる。
【0004】しかし、従来の芯鞘構造からなる複合捲縮糸は、織物にソフトなふくらみ感とドレープ性は与えるけれども、そのドレープ性を与えるために与えた加撚によって芯部のマルチフィラメント糸の捲縮発現が拘束されるため、伸縮性が大きく低下するという欠点があった。したがって、この複合糸を中肉地や厚地の織物にしたとき、その織物の伸縮性も不十分になるため、縫製時の縫糸張力が吸収できなくなり、縫目の部分にパッカリングと称するシワを発生し、縫製の仕立て映えが悪くなるという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、織物に製織したとき、ウール織物調のソフトなふくらみ感や腰・ハリと共に、ポリエステルフィラメント糸特有のドレープ性を与えるようにしながら、縫製性を良好にする適度な伸縮性をも与えることを可能にする複合捲縮糸を提供することにある。
【0006】本発明の他の目的は、ウール織物調のソフトなふくらみ感や腰・ハリと共に、ポリエステルフィラメント糸特有のドレープ性を有し、しかも適度の伸縮性と優れた縫製性を有する織物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成する本発明の複合捲縮糸は、少なくとも2種類のマルチフィラメント糸から構成され、その1種類が互いに熱収縮性の異なる2成分のポリエステル重合体が接合した捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸であって、前記複合捲縮糸の内層に主要成分として配置され、また他の1種類が合成重合体単成分からなる捲縮マルチフィラメント糸であって、前記複合捲縮糸の外層に主要成分として配置されている。このような複合捲縮糸の構成において、この複合捲縮糸に追撚が加えられて織物に製織されると、その織物は風合いがウール織物調のソフトなふくらみ感と腰・ハリを有すると共に、ポリエステルフィラメント糸特有の質感であるドレープ性を有するものとなる。
【0008】本発明の複合捲縮糸は、さらに上記捲縮マルチフィラメント糸の糸長を、上記捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸よりも5〜35%長くすると共に、上記内層の捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸に上記捲縮マルチフィラメント糸の一部を混繊させ、また上記外層の捲縮マルチフィラメント糸に上記捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸の一部を混繊させるようにしている。このように内層の捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸に、外層の捲縮マルチフィラメント糸の一部を混繊させたことにより、捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸の三次元捲縮が個々の構成フィラメント毎に位相のずれた状態になり、加撚による拘束力が加えられても、コンジュゲートマルチフィラメント糸の捲縮発現力が撚の拘束力に打ち勝ち、伸縮性を発揮するようになる。
【0009】したがって、本発明の複合捲縮糸は、ドレープ性の付与のため多数の撚を与えられても、適度の伸縮性を生ずるようにすることができる。すなわち、この複合捲縮糸は、撚係数αが6,700〜20,200の範囲の撚りが与えられた状態において、捲縮復元率CRが18以上、また捲縮発現伸長率TRが8以上の伸縮性を発揮する。好ましくは、この複合捲縮糸は、捲縮復元率CRを18〜50%、さらに好ましくは18〜35%、また捲縮発現伸長率TRを8〜25%、さらに好ましくは8〜20%にすることができる。
【0010】本発明の織物は、上記のように撚りの与えられた複合捲縮糸が経糸又は緯糸或いは経糸と緯糸の双方に使用されて織成され、その織成ののち染色工程で捲縮発現処理されることによって得られる。このようにして得られた織物内の複合捲縮糸が有する撚りは、撚係数αが7,100〜21,300の状態になり、前記経糸又は/及び緯糸の糸方向の伸長率が3〜25%の伸縮性を有するものとなる。なお、織物内の複合捲縮糸は、製織後の染色工程での捲縮発現処理により収縮するため、その撚係数αは織物への加工前に追撚で与えた6,700〜20,200の範囲から、7,100〜21,300の範囲へ変化したものとなる。
【0011】このように織物の伸縮性が、伸長率3〜25%となるため、縫製時の縫糸張力がその伸縮性によって吸収され、パッカリング(シワの発生)を生ずることがなくなり、縫製の仕立て映えを良好にすることができる。以下に本発明の詳細を説明するが、本発明にはその特定のために幾つかのパラメーターが使用されている。これらのパラメーターは、それぞれ以下に説明する定義によるものを意味する。
【0012】捲縮マルチフィラメント糸の捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸に対する糸長差△Lとは、次に説明する方法により測定された値である。すなわち、試料の複合捲縮糸に見掛繊度Dの0.1倍の荷重(0.1×D(g))をかけ、フィラメント相互の交絡が普通の状態の試料の場合は試長5cm程度、また交絡が強い状態の試料の場合は3cm程度をサンプリングする。この場合、試料に撚が入っている場合は、引っ張らず解撚した状態にする。次に、その試料を撚が入らないようにビロード板の上で、分解針と先の細いピンセットを使用して単繊維をほぐす。そして、試長目盛の入っている測長ガラス板上にグリセリンを薄くぬり、上記単繊維をクリンプが自然に伸びた状態になるように、かつ繊維自身が伸びないように張力をかけて目盛を読む。この時測定した捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸の長さをL1 、捲縮マルチフィラメント糸の長さをL2 とすると、次の式(1) によって計算された値を糸長差△Lという。
△L=〔(L2 −L1 )/L1 〕×100 (%) (1) 撚係数αとは、次の式(2) によって定義される値をいう。
【0013】
α=T√D (2) 但し、T:撚数(回/m)
D:複合捲縮糸の繊度(デニール)捲縮復元率 CR とは、JIS L1090 (合成繊維マルチフィラメントかさ高加工糸試験法) に規定された方法により測定された値をいう。
【0014】捲縮発現伸長率 TR とは、次に説明する方法により測定された値をいう。すなわち、試料の複合捲縮糸をカセに5回巻きして、まず見掛け繊度Dの0.02倍の初荷重(0.02×D (g) ) をかけた状態で、150±2℃、5分間の乾熱処理をしたときの長さL4 を測定する。次いで、その複合捲縮糸に見掛繊度Dの0.1倍の定荷重(0.1×D (g) )をかけたときの長さL3 を測定し、これら両長さL3 とL4 とから、次の式(3) によって計算された値を捲縮発現伸長率TRという。
TR(%)=〔(L3 −L4 )/L4 〕×100 (3) 伸長率STとは、JIS L1096 (伸縮織物の伸縮性測定法) に規定されたA法 (定速伸長法) に従って、荷重1.8kgで測定したときの値をいう。
【0015】さて、本発明の複合捲縮糸は、図1に示すモデルのように、熱収縮特性の異なる2成分のポリエステル重合体から構成された捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸Aを複合捲縮糸の内層側に主として配置し、合成重合体単成分からなるランダムな捲縮を有する捲縮マルチフィラメント糸Bを複合捲縮糸の外層側に主として配置して構成されている。勿論、捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸Aを2種類以上、及び/又は捲縮マルチフィラメント糸Bを2種類以上混在させるようにしても差し支えない。
【0016】さらに特徴的なことは、第1に、捲縮マルチフィラメント糸Bの糸長が、捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸Aよりも5〜35%長い糸長差ΔLを有する状態になっており、かつ第2に、内層の捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸Aと外層の捲縮マルチフィラメント糸Bとは、従来の芯鞘構造糸のように明確な2層構造に分離されておらず、内層の主要成分である捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸Aに外層の捲縮マルチフィラメント糸Bの一部が混繊し、また外層の主要成分である捲縮マルチフィラメント糸Bに内層の捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの一部が混繊した状態になっていることである。
【0017】上述の構成からなる複合捲縮糸は、織物に織成される前に予め加撚されて、図2に示すように、内層側のコンジュゲートマルチフィラメント糸Aに外層側のマルチフィラメント糸Bが巻きついた状態にされる。すなわち、撚係数αが6,700〜20,200の範囲の撚が与えられる。このように加撚された複合捲縮糸が、織物に製織されると、その織物はウール織物調のソフトなふくらみ感や腰・ハリと共に、ポリエステルフィラメント糸独特のドレープ性を有するものとなるのである。
【0018】この場合、従来の芯鞘複合捲縮糸では、上述の加撚による撚の拘束力によって、芯部のコンジュゲートマルチフィラメント糸の捲縮発現が抑制されるため、伸縮性を発揮することができなかった。しかし、本発明の複合捲縮糸は、上述のように加撚されても、内層側のコンジュゲートマルチフィラメント糸Aにマルチフィラメント糸Bの一部が混繊されているため、コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの各構成フィラメントの三次元捲縮があまり集束することなく互いに位相をずらせ、かつ部分的に複合捲縮糸の表面に出現するようになる。そのためコンジュゲートマルチフィラメント糸Aの捲縮発現が撚の拘束力に対して打ち勝つことができ、撚数が増加しても、無撚のときに発現する捲縮復元率 CR や捲縮発現伸長率 TR に比較して、これら捲縮復元率 CR や捲縮発現伸長率 TR の低下を小さくし、優れた伸縮性を示すようになる。
【0019】さらに捲縮マルチフィラメント糸Bの糸長を捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸Aのそれよりも5〜35%長い糸長差ΔLにしてあるため、上述のような内層のコンジュゲートマルチフィラメント糸Aの捲縮発現作用が有効に働くようになっている。この糸長差ΔLが5%よりも少なくては、撚の拘束力により内層のコンジュゲートマルチフィラメント糸Aの捲縮発現は乏しくなる。また、糸長差が35%よりも大きくなると、加撚操作時の加撚張力が増大して外層のマルチフィラメント糸Aの拘束力が大きくなりすぎるため、コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの捲縮発現力が低下し、伸縮性を乏しくする。このようにして得られる本発明の複合捲縮糸は、撚係数αが6,700〜20,200の撚を与えた状態において、捲縮復元率 CR が18〜50%及び捲縮発現伸長率 TR が8〜25%の伸縮性を示すようになる。
【0020】上述のような特性を備えた本発明の複合捲縮糸は、撚係数αが6,700〜20,200の範囲となる撚を予め与えられたのち、織物の経糸又は緯糸、或いは経糸および緯糸の双方に使用して製織し、染色工程で捲縮発現処理を行うことにより、ソフトなふくらみ及びドレープ性と共に、優れた伸縮性を有する織物とすることができる。染色工程ではカセイソーダなどのアルカリで処理することによりポリエステル重合体繊維の表面を一部溶解させることにより、織物の風合を一層改善するようにすることもできる。
【0021】上記染色工程後の織物内の複合捲縮糸が有する撚は、当初の撚係数α=6,700〜20,200の範囲から7,100〜21,300の範囲に変化しており、かつ織物の伸長率STが、上記複合捲縮糸が使用されている経糸方向又は緯糸方向、或いは経糸および緯糸方向に3〜25%になっている。撚係数αが上記のように変化するのは、製織における染色工程で複合捲縮糸に収縮が生じるためである。撚係数及び伸長率が、上記の範囲外であると、織物はドレープ性に劣ると共に品位は低下し、かつ着用したときの快適性が低下する。また、織物の伸長率が3%未満では、ミシン縫製時に縫目にパッカンリングが発生し、仕立て映えが低下する。また、織物の伸長率が25%を越えると、着用時の快適性が低下する。
【0022】織物が上記のような伸長率を発生するためには、この織物に使用される複合捲縮糸が加撚による撚の存在下にも伸縮性を有することと、織物が経糸と緯糸との交叉状態で染色加工で加工収縮することとが必要である。この織物の加工収縮は、複合捲縮糸自身の捲縮発現を伴って初めて可能となる。織物の伸長率を3〜25%にするには、織物内の加工収縮率が5%以上あることか好ましい。
【0023】上述した織物を構成する本発明の複合捲縮糸において、内層の主要成分を構成する捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸は、ポリエステル重合体から構成されるが、外層の主要成分を構成する重合体単成分の捲縮マルチフィラメント糸としては、好ましくはポリエステル重合体がよいが、他の合成重合体であっても差し支えない。例えば、ナイロンや染色性を異にするカチオン可染型ポリエステルなどの使用が可能である。また、ナイロンとポリエステルなど異種の合成重合体を組合せた易割繊型の極細フィラメント糸も使用可能である。
【0024】また、外層の主要成分を構成する重合体単成分の捲縮マルチフィラメント糸としては、その仮撚加工前の原糸としてシックアンドシンヤーンを使用することが望ましい。かつ、このシックアンドシンヤーンは、ポリエステル重合体から構成される場合、その複屈折が太い部分で15×10-3〜80×10-3、好ましくは30×10-3〜80×10-3、さらに好ましくは40×10-3〜80×10-3の範囲とし、細い部分で90×10-3〜200×10-3、好ましくは90×10-3〜150×10-3、さらに好ましくは90×10-3〜120×10-3の範囲とするのがよい。このようなシックアンドシンヤーンを使用することにより、仮撚加工時に太い部分が細い部分よりも長く延伸され、内層の捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸側へのマイグレーションを促進するため、伸縮性の発現効果を一層高めることができる。
【0025】内層の主要成分として配置されるコンジュゲートマルチフィラメント糸は、重量比率で複合糸全体の30〜70%を占めるようにすることが好ましい。30%未満では加撚した撚の拘束力下での捲縮発現が小さくなり、また70%を越えると風合面でソフトさやふくらみに欠けるようになる。また、コンジュゲートマルチフィラメント糸の単糸繊度は、2〜10デニールであることが好ましい。2デニール未満であると、十分な捲縮が得られず、10デニールを越えると織物の風合いが固くなる。
【0026】外層の主要成分となるマルチフィラメント糸の単糸繊度は、主として織物の風合いに寄与するため、0.01〜3デニールの細繊度であることが好ましい。この外層側のマルチフィラメント糸の単糸繊度に対して、コンジュゲートマルチフィラメント糸の単糸繊度は同じか、または太くするのが良い。両マルチフィラメント糸間の単糸繊度の差としては、10デニール以内が好ましく、さらに好ましくは1〜6デニールの範囲にするのがよい。
【0027】本発明に使用されるコンジュゲートマルチフィラメント糸は、熱収縮性の異なる2成分のポリエステル重合体を並列的に貼り合わせて複合させるか、或いは芯成分を鞘成分に偏心配置するように複合させたもので、紡糸延伸後に加熱することによってスパイラル状の3次元捲縮を発現する糸である。このコンジュゲートマルチフィラメント糸に、さらに仮撚加工を与えると、捲縮復元率や捲縮発現伸長率を一層増大させることができる。
【0028】熱収縮性の異なる2成分のポリエステル重合体としては、一方を低粘度ポリエステル成分とし、他方を高粘度ポリエステル成分とするものが好ましく使用される。上記低粘度ポリエステル成分の極限粘度は0.43〜0.55の範囲にし、また上記高粘度ポリエステル成分の極限粘度は0.68〜0.85の範囲にすることが好ましい。低粘度ポリエステル成分の極限粘度が0.43未満であると、コンジュゲートマルチフィラメント糸の捲縮発現が乏しくなり、加撚状態にしたときの複合捲縮糸の伸縮性がが得られにくくなる。また、高粘度ポリエステル成分の極限粘度が0.85を越えると、溶融粘度が高くなるためコンジュゲート紡糸が難しくなる。低粘度ポリエステル成分と高粘度ポリエステル成分の両者間の極限粘度の差は0.20〜0.40の範囲が好ましい。極限粘度の差が0.20未満であると、コンジュゲートマルチフィラメント糸の捲縮発現が乏しくなるため、複合捲縮糸としての伸縮性が得られにくくなる。また、極限粘度の差が0.40を越えると、口金からコンジュゲート糸を吐出する際に曲りが大きくなり、紡糸が不安定になる。
【0029】ここで極限粘度IVとは、温度25℃においてオルソクロロフェノール10mlに対しポリエステル試料0.8gを溶解し、オストワルド粘度計を用いて 下式(4) により相対粘度ηrを求め、その相対粘度ηrから下式(5) により算出した値である。
ηr= (η/ηo)− (t・d/to・do) (4) IV =0.0243ηr+0.2634 (5) 但し、η :ポリエステルの溶液粘度ηo:溶媒の粘度t :溶液の落下時間 (秒)d :溶液の密度 (g/cm3 )to:オルソクロロフェノールの落下時間 (秒)do:オルソクロロフェノールの密度 (g/cm3 )また、コンジュゲートマルチフィラメント糸の低粘度ポリエステル成分と高粘度ポリエステル成分との複合比は、重量比で40:60〜60:40にすることが好ましい。この範囲外では、この捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸を重合体単成分の捲縮マルチフィラメント糸と共に仮撚加工して複合捲縮糸にしたとき、その後に追撚する撚数が増加するとともに捲縮発現伸長率 TR が小さくなる。この傾向は、捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸と他の捲縮マルチフィラメント糸との糸長差ΔLが大きくなるほど顕著になる。
【0030】熱収縮性の異なるポリエステル重合体としては、ポリエチレンテレフタレート単独又はポリエチレンテレフタレート80モル%以上を含むコポリエステルが好ましい。コポリエステルのコポリマー成分としては、イソフタル酸、金属スルフォネート基を有するイソフタール酸、ビスフェノール類、ネオペンチルグリコールあるいは1,6−シクロヘキサンジオールなど公知の成分が使用可能である。これらポリエステル重合体には、艶消剤、紫外線吸収剤、防汚剤など公知の化合物を本発明の効果を防げない範囲で添加することができる。
【0031】上述した本発明の複合捲縮糸の製造方法としては、図3や図4に示す複合仮撚加工法が使用可能である。この複合仮撚加工法には、少なくとも2種類のマルチフィラメント原糸を互いフィード差を与えて同時に仮撚加工する方法と、伸度の異なる少なくとも2種類のマルチフィラメント原糸を同時に仮撚加工する方法とがある。フィード差複合仮撚加工方法においては、コンジュゲートマルチフィラメント原糸に対して、重合体単成分のマルチフィラメント原糸を15%程度までのオーバーフィード率にして供給するのがよい。
【0032】また、伸度差複合仮撚方法においては、コンジュゲートマルチフィラメント原糸と、これよりも55%以下の範囲で伸度の高い重合体単成分マルチフィラメント原糸とを引き揃えて複合仮撚り加工することが好ましい。このように伸度差を55%以内に抑えることにより、コンジュゲートマルチフィラメント原糸と重合体単成分マルチフィラメント原糸とを互いに一部ずつをマイグレーションさせ、芯部と鞘部とに明確に分離しない複合捲縮糸にすることができる。伸度差が55%を越えるマルチフィラメント原糸同士の組合せにおいては、伸度の高い方を仮撚加工ゾーンに供給する前に予め熱延伸して伸度を55%以内の伸度差にしたのち、複合仮撚加工するようにするとよい。また、マルチフィラメント原糸同士の間の伸度差を40%以内にすると、複合仮撚加工後の複合捲縮糸におけるコンジュゲートマルチフィラメントと単成分マルチフィラメントとの相互のマイグレーションの度合いを大きくすることができる。この場合、前述したように単成分マルチフィラメントとしてシックアンドシンヤーンを使用すると、上記マイグレーションの度合いを更に高めることができる。
【0033】シックアンドシンヤーンは、通常のフィラメントが均一な配向度を有するのに対し、比較的配向度の低い未延伸部と比較的配向度の高い延伸部とにより構成されているので、仮撚加工工程において未延伸部は比較的伸長されやすく、一方延伸部は比較的伸長され難いものとなる。したがって、シックアンドシンヤーンをコンジュゲートマルチフィラメント糸と引き揃えて仮撚加工すると、シックアンドシンヤーンの未延伸部は伸長されて複合捲縮糸の外層部に配置されるように、また延伸部は複合捲縮糸の内層部に配置されるように作用し、結果として、コンジュゲートマルチフィラメント糸と一部混繊し、主として外層に配置された複合捲縮糸になるのである。
【0034】また、シックアンドシンヤーンの有する未延伸部・延伸部というフィラメント長さ方向の配向斑に起因して、仮撚加工においてはシックアンドシンヤーンが複数のランダムな個所で延伸・仮撚が開始されるため、シックアンドシンヤーンが効果的にコンジュゲートフィラメント糸の内側に絡み合ったり、外側に出たりするようになるので、マイグレーション効果が大きくなるのである。
【0035】また、複合捲縮糸におけるシックアンドシンヤーンの捲縮形態は未延伸部の作用で外層において大きくなるので、加撚された時にコンジュゲートマルチフィラメントを締めつけることが少なくなり、複合捲縮糸の伸縮特性に効果的に寄与することになるのである。仮撚加工装置は、両マルチフィラメント糸間の糸長差が小さい複合捲縮糸を得る場合には、スピンドル方式を使用することが可能である。しかし、糸長差が大きい複合捲縮糸を得る場合には、フリクション方式を使用することが好ましい。糸長差の大きい複合捲縮糸を得る場合であっても、両マルチフィラメント原糸に予め交絡(interlace)処理を施し、高い加撚数によって仮撚加工するようにすれば、スピンドル方式を使用することができる。
【0036】図3は、本発明に係る複合捲縮糸を伸度差複合仮撚加工法によって製造する場合の工程を示すものである。図3において、1は高速紡糸法によって得た比較的伸度の高い重合体単成分マルチフィラメント原糸Bを巻いたパッケージであり、2は熱収縮性を異にするポリエステル重合体からなるコンジュゲートマルチフィラメント原糸Aを巻いたパッケージである。
【0037】マルチフィラメント原糸Bは、予めローラ3と5の間で低倍率に熱延伸されると共に、ヒータ4で熱処理されることによりシックアンドシンヤーンに形成され、かつコンジュゲートマルチフィラメント原糸Aとの伸度差が55%以下になるようにしたのち、供給ローラ3′より供給されるコンジュゲートマルチフィラメント原糸Aとローラ6で引き揃えられる。次いで、両マルチフィラメント原糸A,Bは、ローラ6と8の間に設けられた交絡ノズル7により圧空により交絡処理されたのち、ローラ8と11との間に設けられた仮撚ヒータ9と仮撚スピンドル10により仮撚加工され、複合捲縮糸となって巻取装置12により巻取られる。伸度の高いマルチフィラメント原糸Bは上記のローラ8と11との間の仮撚ゾーンおいて伸長され、伸度の低いコンジュゲートマルチフィラメント原糸Aとの間に糸長差を発生することにより、図1に示すような複合捲縮糸となる。
【0038】また、図4は、本発明に係る複合捲縮糸をフィード差複合仮撚加工法、或いは仮撚り加工前の熱延伸を必要としない伸度差複合仮撚加工法により製造する場合の工程を示すものである。図4において、パッケージ1′のマルチフィラメント原糸Bとパッケージ2のコンジュゲートマルチフィラメント原糸Aとは、フィード差複合仮撚加工法の場合には、それぞれ供給ローラ3,3′から前者の原糸Bを後者の原糸Aよりもオーバーフィードしながらローラ6で引き揃えられる。次いで、ローラ6と11との間に設けられた仮撚ヒータ9と仮撚スピンドル10により延伸と同時に仮撚加工され、複合捲縮糸となり、ローラ11と11′の間に設けられた交絡ノズル7により圧空により交絡処理されたのち巻取装置12により巻取られる。また、伸度差複合仮撚加工法の場合には、供給ローラ3,3′から両原糸A,Bを同じ供給速度で仮撚ゾーンへ送り出して、同様の仮撚加工をする。
【0039】一方、上述した本発明の織物において、複合捲縮糸における上述の捲縮マルチフィラメント糸Bを特殊な構成にし、かつ染色工程においてアルカリによる減量処理を行うことにより、さらに新しい効果を付与することが出来る。たとえば、上述の捲縮マルチフィラメント糸Bとしてポリエテスル重合体からなるシックアンドシン形態のマルチフィラメント糸を使用すると、染色工程におけるアルカリ減量処理によってシックアンドシン・マルチフィラメント糸に毛羽を発生するため、得られた織物をスパン調織物の風合いにすることができる。アルカリ減量処理後の織物内の複合捲縮糸は、その撚が上記アルカリ減量により撚係数αが6,700〜18,000の範囲になる。また、この織物は伸長率3〜20%の伸縮性と共に、ドレープ性を有することは変わらない。
【0040】このようなスパン調織物を得るための複合捲縮糸は、シックアンドシン・マルチフィラメント糸Bの原糸として半延伸糸を使用し、図3の工程の複合仮撚方法において仮撚加工前の延伸においてウースター糸むらU%値を2〜20%にし、さらに仮撚加工後にウースター糸むらU%値を1.4〜5%になるように加工するのがよい。予めシックアンドシンに加工したマルチフィラメント糸Bの原糸として延伸糸を使用する場合は、図4R>4に示すフィード差複合仮撚加工法によって同様の加工をすることができる。
【0041】また、別の方法として、上述した捲縮マルチフィラメント糸Bの原糸として、レギュラーのポリエステルマルチフィラメント半延伸糸とカチオン可染型ポリエステルマルチフィラメント半延伸糸からなる伸度が互いに異なる2種類の混繊マルチフィラメント糸を使用しても、同様のスパン調の織物を得ることができる。この混繊マルチフィラメント糸を、図3の工程に従って予め熱延伸した後、コンジュゲートマルチフィラメント糸Aと複合仮撚加工して複合捲縮糸にし、この複合捲縮糸を、前述したように予め加撚してから製織し、得られた織物を染色工程でアルカリにより減量処理(表面の溶解処理)をするのである。アルカリで減量処理した織物は、複合捲縮糸内のカチオン可染型ポリエステルマルチフィラメントに毛羽が発生し、その複合捲縮糸の内層や外層に混在した構造となる。したがって、織物は適度の毛羽を有するスパン調織物の風合いを有するものとなる。この織物を構成する複合捲縮糸の撚は、上記アルカリ減量によって撚係数αが6,700〜18,000の範囲となる。この織物が伸長率3〜25%となる本来の伸縮性と共に、ドレープ性を有することは勿論である。
【0042】
【実施例】
実施例1極限粘度が0.475のポリエチレンテレフタレート100%からなる低粘度成分と、極限粘度が0.780のポリエチレンテレフタレート100%からなる高粘度成分とを、重量複合比50:50で並列型に貼り合わせた未延伸コンジュゲートマルチフィラメント糸を紡糸したのち、延伸して75D−18Fのコンジュゲートマルチフィラメント糸を製造した。原糸物性は、強度3.2g/d、伸度41%、沸収4.8%であった。
【0043】他方、ポリエチレンテレフタレート100%を紡糸速度2,800m/分で溶融紡糸し、80D−48Fの単成分からなる伸度165%のマルチフィラメント半延伸糸を製造した。上記コンジュゲートマルチフィラメント糸とマルチフィラメント半延伸糸とを使用し、図3に示す伸度差複合仮撚加工法により複合捲縮糸を製造した。この伸度差複合仮撚加工法において、マルチフィラメント半延伸糸は、仮撚加工ゾーンに供給する前に170℃,1.4倍の熱延伸により、伸度91%で上記コンジュゲートマルチフィラメント糸との伸度差が50%であるシックアンドシンヤーンにした。このシックアンドシンヤーンの複屈折は、太い部分が30×10-3、細い部分が90×10-3であった。このシックアンドシンヤーンと上記コンジュゲートマルチフィラメント糸とを引き揃えた後に、0.8mmφ×2穴の交絡ノズルを用いて空気圧4kg/cm2 で交絡処理をし、次いで通常のフリクション方式により撚数2,350回/m、温度185℃、オーバーフィード率+1%で仮撚加工を行なった。
【0044】得られた複合捲縮糸は、コンジュゲートマルチフィラメント糸が主として内層側に配列し、そこに外層側のマルチフィラメント糸の一部が混繊した形態になっていた。また、この複合捲縮糸は繊度134デニール、強度2.4g/dで、かつ無撚り状態での伸縮性は、捲縮復元率 CR が32.8%、捲縮発現伸長率 TRが19.9%であった。
【0045】引き続き、上記複合捲縮糸にダブルツイスターにより8,000 r.p.m. でS方向に撚数1,000回/mの撚り (撚係数α=11,619) を施し、繊度140デニール、強度2.3g/dの加撚糸にした。この加撚糸における内層のコンジュゲートマルチフィラメント糸と外層のマルチフィラメント糸との糸長差△Lは28%であり、捲縮復元率 CR は26.7%、捲縮発現伸長率 TR は13.3%であり、上記無撚り状態での捲縮復元率、捲縮発現伸長率に対して低下が極めて小さく、優れた伸縮性を有するものであった。
【0046】次いで、この加撚糸を経糸と緯糸とに使用し、通常の製織工程によって生機密度86本/25.4mm×64本/25.4mmの平織物を製作したのち、染色工程によって捲縮発現処理をしたことろ、密度102本/25.4mm×82本/25.4mmの織物になった。得られた織物は、ソフトなふくらみとハリ・腰と共に、優れたドレープ性を有しており、かつ伸長率が15%×13%で優れた伸縮性を有していた。また、縫製したところ、パッカリングはなく、極めて優れた仕立て映えになった。
【0047】比較例1実施例1に使用したコンジュゲートマルチフィラメント糸の代わりに、75D−18Fのポリエチレンテレフタレート100%からなる延伸糸(強度5.2g/d、伸度43%)を使用して、同じ複合仮撚加工を行い、繊度138デニール、強度3.2g/dの複合捲縮糸を得た。この複合捲縮糸の無撚り状態での伸縮性は、捲縮復元率 CR が24.6%、捲縮発現伸長率 TR が5.0%であった。
【0048】引き続き、上記複合捲縮糸に実施例1と同一条件で加撚して、繊度144デニール、強度3.1g/dの加撚糸を得た。この加撚糸の捲縮復元率 CR は13.0%、捲縮発現伸長率 TR が2.0%であり、無撚りの状態のときに比べて著しく低下しており、伸縮性が著しく劣っていた。次いで、この加撚糸を実施例1と同一条件により織物に織成し、染色工程で捲縮発現処理した結果は、密度92本/25.4mm×67本/25.4mmであり、かつ伸長率は0%×0%であり、全く伸縮性を有していなかった。このため縫製したところパッカリングを生じ、外観の悪い仕立て映えとなった。
【0049】比較例2実施例1で使用したコンジュゲートマルチフィラメント糸とマルチフィラメント半延伸糸とを、そのマルチフィラメント半延伸糸を仮撚加工前に熱延伸を行わなかったこと、かつ仮撚加工ゾーンのフィード率を−4%(アンダーフィード)にしたこと以外は、実施例1と同じ条件にして仮撚加工を行った。得られた複合捲縮糸は、実施例1で得られたものよりも捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸が緊張状態になっていて、その周りに捲縮マルチフィラメント糸が交互撚り状に巻きつき、かつ未解撚糸部分を比較的多く有する構造であった。この複合捲縮糸の特性は、繊度が146.6デニール、強度1.48g/d、伸度22.1%であって、無撚り状態での伸縮性は捲縮復元率 CR が22.5%、捲縮発現伸長率 TR が12.3%であった。
【0050】次いで、上記複合捲縮糸を実施例1と同一条件でパーンワインダで巻き返し、1,000回/mの撚り (撚係数α=11,619) を施した。しかし、強度が小さいため巻き返し中に糸切れが多発したため、やや張力を低めに設定して加撚糸にした。その加撚糸の繊度は153.7デニール、強度1.56g/d、伸度21.4%で、糸長差△Lが32%、捲縮復元率 CR が11.3%、捲縮発現伸長率 TR が5.9%であった。この加撚糸は糸強度が著しく低く、製織条件に耐えられないため、織物にすることはできなかった。
【0051】実施例2実施例1で製造した75D−18Fのコンジュゲートマルチフィラメント糸と、通常の方法で製造した50D−72Fで、強度5.3g/dのポリエチレンテレフタレート100%のマルチフィラメント延伸糸とを、図4に示すスピンドル式仮撚装置により複合仮撚りして複合捲縮糸を得た。仮撚加工条件は、スピンドル回転数25万r.p.m.、撚数2,300回/m、温度185℃、フィード率をコンジュゲートマルチフィラメント糸側−2%(アンダーフィード)、マルチフィラメント延伸糸側+5%(オーバフィード)であった。
【0052】得られた複合捲縮糸は、無撚り状態で繊度129デニール、強度3.6g/dであって、捲縮復元率 CR が30.7%、捲縮発現伸長率TRが20.0%で、糸長差△Lが7%であった。次いで、この複合捲縮糸にダブルツイスターにより、それぞれ撚数が600回/m(撚係数α=6,810)と1,000回/m(撚係数α=11,350)との加撚をして、2種類の加撚糸にした。各加撚糸の物性は、前者が繊度130デニールで、捲縮復元率 CR が30.6%、捲縮発現伸長率 TR が12.2%であり、後者が繊度134デニールで、捲縮復元率 CR が20.8%、捲縮発現伸長率 TR が7.4%であり、いずれも優れた伸縮性を有していた。
【0053】比較例3実施例2において、コンジュゲートマルチフィラメント糸の代わりに、通常のの方法で製造した75D−18Fのポリエチレンテレフタレート100%のマルチフィラメント延伸糸を使用し、この75D−18Fのマルチフィラメント延伸糸のフィード率を0%とした以外は実施例2と同一条件にして複合仮撚加工して複合捲縮糸を製造した。
【0054】得られた複合捲縮糸は、無撚り状態において繊度130デニール、捲縮復元率CR が28.3%、捲縮発現伸長率 TR が10.5%であった。この複合捲縮糸を、実施例2と同じようにそれぞれ撚数が600回/mと1,000回/mとの加撚をしたところ、前者の加撚糸の物性は、繊度135デニールで、捲縮復元率CR が8.6%、捲縮発現伸長率 TR が1.3%であり、後者が繊度138デニールで、捲縮復元率 CR が2.4%、捲縮発現伸長率 TR が0.5%であり、いずれも捲縮発現力が弱く、伸縮性に乏しいものであった。
【0055】また、繊度159デニールで、捲縮復元率 CR が23.3%、捲縮発現伸長率TR が13.8%である通常のポリエテルウーリー加工糸(150D−48F−セミダル)を用いて、上記と同様にに600回/mの加撚を行い、繊度163デニール、捲縮復元率 CR が13.3%、捲縮発現伸長率 TR が5.0%である加撚糸を得た。
【0056】コンジュゲート糸を使用した本発明の加撚糸は、コンジュゲート糸を用いないものに比べて加撚糸の捲縮復元率 CR 、捲縮発現伸長率 TR が高く、加撚された状態の捲縮発現力がきわめて高いことがわかる。
実施例3実施例1で製造した75D−18Fのコンジュゲートマルチフィラメント糸と80D−48Fのポリエステルマルチフィラメント半延伸糸とを使用し、図3の複合仮撚工程によって仮撚加工するに当り、上記80D−48Fのポリエステルマルチフィラメント半延伸糸を、予め仮撚加工ゾーン前の延伸工程において、延伸倍率1.4倍、熱ピン温度75℃で延伸して、伸度78%で、上記コンジュゲートマルチフィラメント糸との伸度差が37%のシックアンドシンヤーンにした。このシックアンドシンヤーンの複屈折は、太い部分が40×10-3、細い部分が100×10-3であった。このシックアンドシンヤーンと上記コンジュゲートマルチフィラメント糸とを引き揃え、仮撚加工ゾーンで撚数2,350回/m、温度185℃、オーバーフィード率+1%で仮撚加工した。得られた複合捲縮糸の物性は、繊度144.6デニール、強度2.7g/dであって、捲縮復元率 CR が34.0%、捲縮発現伸長率 TR が18.5%、糸長差△Lが13%であった。
【0057】引続き、ダブルツイスターによって8,000r.p.m.で、S方向に撚数1,000回/m(撚係数α=12,020)の加撚をして、加撚糸にした。この加撚糸は繊度147デニール、強度2.8g/dであり、かつ捲縮復元率 CR23.5%、捲縮発現伸長率 TR 9.1%であった。この加撚糸を経糸と緯糸とに使用し、通常の製織工程により生機密度86本/25.4mm×64本/25.4mmの平織物を織成した。次いで、染色工程において、98℃でリラックス処理、180℃で中間セットしたのち、アルカリ溶液で28%の減量処理をし、水洗ののち130℃で染色を実施した。その結果、密度が102本/25.4mm×82本/25.4mmとなり、表面に毛羽を有するスパン調の織物となり、かつ伸長率が15%×13%の優れた伸縮性を有していた。
【0058】実施例4実施例1と同じ75D−18Fのコンジュゲートマルチフィラメント糸と、3,000m/分の高速紡糸によって製糸した85D−24F,伸度131%の常圧カチオン可染型ポリエステルのマルチフィラメント半延伸糸とを引揃えたマルチフィラメント糸を、図3におけるマルチフィラメント原糸Aとする一方、実施例1と同じ80D−48Fのポリエステル半延伸糸を、予め1.4倍で熱延伸したシックアンドシンヤーンをマルチフィラメント原糸Bとし、これら両マルチフィラメント糸A,Bを引き揃えて、交絡ノズルで交絡したのち、仮撚加工ゾーンで同時仮撚を実施し、216デニールの複合捲縮糸を得た。
【0059】得られた複合捲縮糸にS方向に800回/m(撚係数α=11,750)の加撚を施し、繊度220デニール、強度2.1g/dであり、かつ糸長差△L30%、捲縮復元率 CR 26.2%、捲縮発現伸長率 TR 9.3%の加撚糸にした。この加撚糸を経糸と緯糸とに使用し、通常の製織工程により2/2の綾組織の織物を製織した。次いで、この生機を通常の染色加工条件により染色仕上を行ない、その際にアルカリ溶液で処理して15%の減量処理を行った。
【0060】得られた織物は、複合捲縮糸内層から出る毛羽と外層から出る毛羽とが表面に混在して現れ、スパン調の外観を呈していた。また、織物の風合いはソフトなふくらみを有し、優れたドレープ性を有すると共に、伸長率がタテ方向×ヨコ方向に12%×11%であって優れた伸縮性を有していた。
【0061】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の複合捲縮糸は、上述した構成とすることにより、これを加撚して織物にすることにより、その織物をソフトなふくらみ感や適度なハリ・腰と共に、優れたドレープ性を有するものとしながら、しかも適度な伸縮性を与えることができる。したがって、その伸縮性により、縫製に当りパッカリングを生ずることがなく、仕立て映えのよい縫製を行うことができ、かつ良好な着心地を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例からなる複合捲縮糸を、加撚前の状態で示すモデル図である。
【図2】本発明の実施例からなる複合捲縮糸を、加撚(追撚)された状態で示すモデル図である。
【図3】本発明の複合捲縮糸の製造方法の一例を示す工程図である。
【図4】本発明の複合捲縮糸の製造方法の他の例を示す工程図である。
【符号の説明】
A 捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸
B 捲縮マルチフィラメント糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも2種類のマルチフィラメント糸から構成される複合捲縮糸において、その1種類は互いに熱収縮性の異なる2成分のポリエステル重合体が接合した捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸であって、前記複合捲縮糸の内層に主要成分として配置され、また他の1種類は合成重合体単成分からなり且つ前記捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸よりも糸長が5〜35%長い捲縮マルチフィラメント糸であって、前記複合捲縮糸の外層に主要成分として配置されており、前記内層に配置した捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸には前記捲縮マルチフィラメント糸の一部が混繊すると共に、前記外層に配置した捲縮マルチフィラメント糸には前記捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸の一部が混繊し、かつ前記複合捲縮糸は、α=T√D〔但し、T:撚数(回/m)、D:トータル繊度(デニール) 〕で定義される撚係数αが6,700〜20,200である撚りが与えられた状態のとき、捲縮復元率が18〜50%、捲縮発現伸長率が8〜25%である複合捲縮糸。
【請求項2】 経糸及び緯糸から構成され、前記経糸及び緯糸の少なくとも一方が複合捲縮糸から構成され、該複合捲縮糸が、少なくとも2種類のマルチフィラメント糸から構成され、その1種類は互いに熱収縮性の異なる2成分のポリエステル重合体が接合した捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸であって、前記複合捲縮糸の内層に主要成分として配置され、また他の1種類は合成重合体単成分からなり且つ前記捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸よりも糸長が5〜35%長い捲縮マルチフィラメント糸であって、前記複合捲縮糸の外層に主要成分として配置されており、前記内層に配置した捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸には前記捲縮マルチフィラメント糸の一部が混繊すると共に、前記外層に配置した捲縮マルチフィラメント糸には前記捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸の一部が混繊して構成され、かつ前記複合捲縮糸に、α=T√D〔但し、T:撚数(回/m)、D:トータル繊度(デニール) 〕で定義される撚係数αが7,100〜21,300の範囲の撚りが与えられ、前記経糸及び緯糸の少なくとも一方の糸方向の前記織物の伸長率が3〜25%である織物。
【請求項3】 互いに熱収縮性の異なる2成分のポリエステル重合体が接合したコンジュゲートマルチフィラメント糸と、該コンジュゲートマルチフィラメント糸の伸度よりも55%以内の伸度差で大きい伸度を有する合成重合体単成分からなるマルチフィラメント糸とを引き揃え、該両マルチフィラメント糸を複合同時仮撚加工し、捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸と捲縮マルチフィラメント糸とからなる複合捲縮糸を形成し、前記合成重合体単成分からなる捲縮マルチフィラメント糸の糸長を前記捲縮コンジュゲートマルチフィラメント糸の糸長よりも5〜35%長い状態にする複合捲縮糸の製造方法。
【請求項4】 前記合成重合体単成分からなるマルチフィラメント糸がシックアンドシンヤーンである請求項3に記載の複合捲縮糸の製造方法。
【請求項5】 前記合成重合体単成分からなるマルチフィラメント糸がポリエステル重合体からなるシックアンドシンヤーンであって、その複屈折が太い部分で15×10-3〜80×10-3、細い部分で90×10-3〜200×10-3である請求項3に記載の複合捲縮糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平5−311533
【公開日】平成5年(1993)11月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−254979
【出願日】平成4年(1992)9月24日
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219255)東レ・テキスタイル株式会社 (4)