説明

複合撚糸及びこれを用いた織編物

【課題】毛羽が少なく通気性と太陽光線遮蔽性が高く清涼であり、主として夏物衣類に好適な複合撚糸及びこれを用いた織編物を提供する。
【解決手段】紡績糸の表面にマルチフィラメント糸を紡績糸の撚り方向と同方向にカバーリングして撚り、さらに紡績糸の撚り方向及びマルチフィラメント糸の撚り方向と同方向に追撚した複合撚糸であって、紡績糸はメートル式番手で48-72番手単糸の範囲であり、マルチフィラメント糸はトータル繊度が22-83dtexの範囲であり、紡績糸の撚係数Kは50-120[但し、撚数(T/M)=K×メートル番手1/2]であり、マルチフィラメント糸の撚数は300-800T/Mの範囲であり、追撚数は200-1000T/Mであり、マルチフィラメント糸の撚数と追撚数の合計撚数は900-1800T/Mである。この複合撚糸を用いて織編物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛羽が少なく通気性と太陽光線遮蔽性が高く、主として夏物衣類に好適な複合撚糸及びこれを用いた織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の夏は梅雨期から始まり、数ヶ月間高湿度と高温が続き、人体の環境にとっては過酷な季節である。このような高温・高湿度においても通常の社会人は背広などの上着を着用する必要があり、着用者からは清涼な衣服を求められてきた。同様に、編み物も清涼で着心地のよい編み物も求められている。
【0003】
従来、このような夏期用の衣服としては、細番手のウールを使用したり、ウールに合成繊維を混紡したり、強撚糸を使用して、紗組織のような目の粗い織物を製造し、背広を縫製することが行われていた。
【0004】
下記特許文献1〜2では長繊維と短繊維の複合撚糸が提案されているが、これらはいずれも弾性糸を混合するもので、夏期用の衣類を開発するものではない。また、下記特許文献3〜4では長繊維と短繊維の複合撚糸が提案されているが、これらはいずれも生物分解性繊維を混合するもので、夏期用の衣類を開発するものではない。
【特許文献1】特開2003−328239号公報
【特許文献2】特開平5−214634号公報
【特許文献3】特開2000−303283号公報
【特許文献4】特開2001−64839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、毛羽が少なく通気性が高く清涼であり、好ましくは太陽光線遮蔽性が高く、主として夏物衣類に好適な複合撚糸及びこれを用いた織編物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の複合撚糸は、紡績糸の表面にマルチフィラメント糸を前記紡績糸の撚り方向と同方向にカバーリングして撚り、さらに前記紡績糸の撚り方向及びマルチフィラメント糸の撚り方向と同方向に追撚した複合撚糸であって、
前記紡績糸はメートル式番手で48番手単糸〜72番手単糸の範囲であり、
前記マルチフィラメント糸はトータル繊度が22dtex〜83dtexの範囲であり、
前記紡績糸の撚係数Kは50〜120[但し、撚数(T/M)=K×メートル番手1/2]であり、
前記マルチフィラメント糸の撚数は300T/M〜800T/Mの範囲であり、
前記追撚数は200T/M〜1000T/Mであり、
前記マルチフィラメント糸の撚数と前記追撚数の合計撚数は900T/M〜1800T/Mであることを特徴とする。
【0007】
本発明の織編物は、前記の複合撚糸を用いて構成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合撚糸は細番手で強撚がかかっており、毛羽が少ない。この複合撚糸を用いた織物は、通気性が高く清涼であり、主として夏物衣類に好適な衣服となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の複合撚糸は、紡績糸の表面にマルチフィラメント糸を前記紡績糸の撚り方向と同方向にカバーリングして撚り、さらに前記紡績糸の撚り方向及びマルチフィラメント糸の撚り方向と同方向に追撚して得られる。カバーリングは例えば図1に示す装置を用いておこなう。図1において、芯糸1には紡績糸を用い、送り出しロール2,3とドラフトロール4,5との間で適正な伸長を付与し、カバーリング糸8(マルチフィラメント糸)が巻かれたボビン7の中空スピンドル6中を通過させる。この際にマルチフィラメント糸が回転し、繰り出されたマルチフィラメント糸がガイド9を経て芯糸1の周囲に巻きつき、複合糸となり、デリベリローラ10,11で引き取り、テークアップローラ12からからカバーリング糸巻体13に巻き取られる。また、追撚はダブルツィスターなどの撚糸機により行う。
【0010】
前記において、芯糸1の紡績糸はメートル式番手で48番手単糸〜72番手単糸の範囲である。前記カバーリング糸8のマルチフィラメント糸はトータル繊度が22dtex〜83dtexの範囲であり、好ましくは33dtex〜56dtexである。また、前記紡績糸の撚係数Kは50〜120[但し、撚数(T/M)=K×メートル番手1/2]である。前記マルチフィラメント糸の撚数は300T/M〜800T/Mの範囲である。前記追撚数は200T/M〜1000T/Mである。前記マルチフィラメント糸の撚数と前記追撚数の合計撚数は900T/M〜1800T/Mとする。カバーリング撚数と追撚数の合計撚数が900T/M未満であると所望の通気度が得られず,1800T/Mを超えると風合いが粗硬になる。
【0011】
前記紡績糸は、ウール、カシミヤ、モヘヤ、キャメル、レーヨン、麻、綿及びこれらの混紡糸から選ばれる少なくとも一つの紡績糸、またはこれらと合成繊維との混紡糸であることが好ましい。また、前記マルチフィラメント糸は、ポリエステル、ナイロン又はアセテートであることが好ましい。これらの中でもとくに芯糸はウールからなる紡績糸とし、カバーリングヤーンはポリエステルマルチフィラメント糸を使用する組み合わせが好ましい。ウールは温湿度調節作用があり、夏期用の衣服においてもサマーウールとして好適であり、表面に配置されるポリエステルマルチフィラメント糸は速乾性があり、汗で濡れても乾きやすい性質がある。したがって全体としては着心地のよい衣服にできる。
【0012】
前記複合撚糸における前記ウールの割合は10〜50重量%の範囲が好ましい。
【0013】
本発明の複合撚糸は、織物以外にもニットやトリコットなどの編み物にし、Tシャツ、スポーツシャツ等に有用である。とくに前記複合撚糸をたて糸とよこ糸に使用した平組織の織物とするのが好ましい。前記平織物の糸込み数は、仕上がり品でたて糸:68〜85本/inch、好ましくは75〜78本/inch、よこ糸:58〜72本/inch、好ましくは64〜66本/inchの範囲である。また、前記平織物の目付け(仕上がり品の重量)は120g/m2〜150g/m2の範囲が好ましい。これらの織物は、先染め(トップ染め,糸染め)品、後染め(反染め)品等としてもよい。編み物にする場合も目付け(仕上がり品の重量)は120g/m2〜150g/m2の範囲が好ましい。
【0014】
フィラメント糸には酸化チタンを1〜5重量%含ませると、さらに太陽光線遮光性が高くなり、好ましい。通常ポリエステルなどには「セミダル」タイプとして0.5重量%の酸化チタンが添加されているが、本発明では好ましくは太陽光遮蔽性(赤外線遮蔽)を得るために酸化チタンの含有量を「ダル」タイプの1重量%から「フルダル」タイプの2重量%以上に多くする。酸化チタン含量が1重量%未満では十分な太陽光遮蔽性が得られず、5重量%を超えると紡績工程でガイドの磨耗が発生する恐れがあるうえ、繊維が強度低下したり、重合工程で粗大凝集粒子となる問題があり、多量に加えること自体に困難性を伴う。
【実施例】
【0015】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
【0016】
(実施例1)
紡績糸として、メリノウール100%、60番単糸、撚数650T/M(撚係数K=84)を用い、マルチフィラメント糸として、酸化チタンを1重量%含むポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント、トータル繊度:33dtex、フィラメント数:12本を用いて、図1に示すカバーリング装置により、紡績糸の周囲に紡績糸の撚り方向と同方向にポリエステルカバーリング糸をカバーリング撚(撚数400T/M)した後、ダブルツィスターにより前記カバーリング撚の撚方向と同方向に追撚回数(700T/M)で追撚した。得られたウール混率16.7重量%の複合撚糸をシキボウ製F-INDEX TESTERにより毛羽数を測定した。結果は後にまとめて示す。
【0017】
(比較例1)
紡績糸[メリノウール100%、60番単糸、撚数Z650T/M(撚係数K=84)]とマルチフィラメント糸[酸化チタンを1重量%含むポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント、トータル繊度:33dtex、フィラメント数:12本]を紡績糸の周囲に紡績糸の撚り方向と同方向(Z方向)にダブルツイスターで1100T/Mで1度に撚った。
【0018】
実施例1と比較例1の糸の比較を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表1から明らかなとおり、実施例1の糸は比較例1の糸と比べて各長さにおける毛羽数が少なく、毛羽立ちの少ない糸であった。
【0021】
実施例1の複合撚糸と比較例1の複合撚糸を用いて緯編の天竺編(平編)とし、目付けは145g/m2とし、この編み物をTシャツに縫製した。このTシャツを夏期の運動時を想定した、温度:30℃、相対湿度70%RH環境下で、スポーツジムのジョッギングマシンで時速6kmの歩行を1時間行った後のアンケートを取った。試験者は5名である、着用直後と発汗時と運動後の肌触り、清涼感、通気性感などの着心地感をヒアリングしたところ、全員から他の素材と比べて優位性があるとの結果が得られた。
【0022】
(実施例2)
紡績糸として、メリノウール100%、60番単糸、撚数650T/M(撚係数K=84)を用い、カバーリング糸としてポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸(酸化チタン3.5重量%含有、トータル繊度:56dt、フィラメント数:48本を用い、実施例1と同様にカバーリング撚(撚数400T/M)の後、追撚回数(700T/M)で追撚した。
【0023】
得られたウール混率26.4重量%の複合撚糸を用いて、仕上がりのたて糸込み数72.5本/インチ、よこ糸込み数62本/インチ、重量143g/m2の平織物を得た。
【0024】
(比較例2)
紡績糸[メリノウール100%、60番単糸、撚数Z650T/M(撚係数K=84)]とカバーリング糸[酸化チタンを1重量%含むポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント、トータル繊度:33dtex、フィラメント数:12本]を比較例1と同様にZ1100T/Mで1度に撚った。この撚糸を用いて仕上がりのたて糸込み数77.5本/インチ、よこ糸込み数66本/インチ、重量138g/m2の平織物を得た。
【0025】
実施例2と比較例2はともに糸染めで同じ色相・濃度に染色した.
実施例2と比較例2の織物の比較を、JIS1096 8.27.1に準拠したフラジール型通気測定機で測定した通気度を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2から明らかなとおり、本発明の実施例品は、比較例2に比べて約23%通気度が高かった。
【0028】
また、図2に示す測定装置を用いて熱遮蔽性を測定した。図2に示す測定装置は、上面以外の5面を断熱材(発泡スチロール製、外側寸法、縦:100mm、横:100mm、高さ40mm、断熱材の厚さ:20mm)で構成された箱の上面(空いた面)に織物(試料)を貼り付け、その40cm離れた上方から写真用500Wランプで照射し、箱の内側底面に設置した温度センサーで織物を通過した放射熱を測定した。すなわち、箱内の底面に入れた温度センサーにより温度を測定し、熱遮蔽性を測定した。
【0029】
その結果を図3に示す。図3から明らかなとおり、本発明の実施例品は、比較例2に比べて温度上昇カーブが低く、熱遮蔽性は高かった。
【0030】
以上から本発明の実施例2の織物は比較例2の織物と比べて通気性が高く、かつ熱遮蔽性に優れていることが確認できた。
【0031】
次に実施例2の複合撚糸と比較例2の複合撚糸を用いて緯編の鹿の子とし、目付けは145g/m2とし、この編み物をTシャツに縫製した。このTシャツを夏期の運動時を想定し、被験者に高温の照明を照射し、温度:30℃、相対湿度70%RH環境下で、スポーツジムのジョッギングマシンで時速6kmの歩行を30分間行った後のアンケートを取った。試験者は5名である、着用直後と発汗時と運動後の肌触り、清涼感、通気性感、遮光性などの着心地感をヒアリングしたところ、全員から他の素材と比べて優位性があるとの結果が得られた。
【0032】
(実施例3、比較例3)
実施例2と比較例2におけるポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸の酸化チタン含有量を0.5重量%のものに代えた以外は、実施例2と比較例2とそれぞれ同様に複合撚糸を製造し、同様な織物を作成した。通気性は表2と同様なデータが得られた。また得られた複合撚糸を用いて鹿の子組織に編み、目付けは145g/m2とし、この編み物をTシャツに縫製した。このTシャツを夏期の運動時を想定し、温度:30℃、相対湿度70%RH環境下で、スポーツジムのジョッギングマシンで時速6kmの歩行を30分間行った後のアンケートを取った。試験者は5名である、着用直後と発汗時と運動後の肌触り、清涼感、通気性感などの着心地感をヒアリングしたところ、全員から他の素材と比べて優位性があるとの結果が得られた。とくに通気性がよいとの評価であった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例で用いるカバーリング装置の概略構成を示す図。
【図2】本発明の実施例2で用いる熱遮蔽性を測定する装置の概略断面図。
【図3】本発明の実施例2と比較例2で得られた織物の熱遮蔽性測定結果図。
【符号の説明】
【0034】
1 芯糸(紡績糸)
2,3 送り出しロール
4,5 ドラフトロール
6 中空スピンドル
7 ボビン
8 カバーリング糸(マルチフィラメント糸)
9 ガイド
10,11 デリベリローラ
12 テークアップローラ
13 カバーリング糸巻体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡績糸の表面にマルチフィラメント糸を前記紡績糸の撚り方向と同方向にカバーリングして撚り、さらに前記紡績糸の撚り方向及びマルチフィラメント糸の撚り方向と同方向に追撚した複合撚糸であって、
前記紡績糸はメートル式番手で48番手単糸〜72番手単糸の範囲であり、
前記マルチフィラメント糸は、トータル繊度が22dtex〜83dtexの範囲であり、
前記紡績糸の撚係数Kは50〜120[但し、撚数(T/M)=K×メートル番手1/2]であり、
前記マルチフィラメント糸の撚数は300T/M〜800T/Mの範囲であり、
前記追撚数は200T/M〜1000T/Mであり、
前記マルチフィラメント糸の撚数と前記追撚数の合計撚数は900T/M〜1800T/Mであることを特徴とする複合撚糸。
【請求項2】
前記紡績糸は、ウール、カシミヤ、モヘヤ、キャメル、レーヨン、麻、綿及びこれらの混紡糸から選ばれる少なくとも一つの紡績糸、またはこれらと合成繊維との混紡糸である請求項1に記載の複合撚糸。
【請求項3】
前記マルチフィラメント糸は、ポリエステル、ナイロン又はアセテートである請求項1に記載の複合撚糸。
【請求項4】
前記紡績糸はウールであり、前記マルチフィラメント糸はポリエステルである請求項1〜3のいずれかに記載の複合撚糸。
【請求項5】
前記複合撚糸における前記ウールの割合は10〜50重量%の範囲である請求項4に記載の複合撚糸。
【請求項6】
前記マルチフィラメント糸は酸化チタンを1〜5重量%含む請求項1〜5のいずれかに記載の複合撚糸。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの複合撚糸を使用した織編物。
【請求項8】
前記織編物が平組織の織物であり、前記平織物の糸込み数は、仕上がり品でたて糸:68〜85本/inch、よこ糸:58〜72本/inchの範囲である請求項7に記載の織物。
【請求項9】
前記平織物の目付け(仕上がり品の重量)は120g/m2〜150g/m2の範囲である請求項7又は8に記載の織物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−291427(P2006−291427A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117442(P2005−117442)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(390018153)日本毛織株式会社 (8)
【Fターム(参考)】