説明

複合撚糸

【課題】 糸強力に優れ、高速で製編織でき、しかも高い伸縮性、良好な風合、感触、軽量性、通気性などの特性を有する弾性糸不使用の織編物の製造に有用な複合撚糸、およびそれを用いて製造した高伸縮性の弾性糸不使用の織編物の提供。
【解決手段】 紡績糸と水溶性糸を撚り合わせた複合撚糸であって、複合撚糸の撚り方向が紡績糸の撚り方向と逆であり、紡績糸の撚数Aに対する複合撚糸の撚数Bの比(B/A)が1.3〜3であり、且つ複合撚糸の質量に基づいて紡績糸の割合が98〜20質量および水溶性糸の割合が2〜80質量%である複合撚糸、及び該複合撚糸を含む織編物から水溶性糸を水で溶解除去した織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合撚糸およびその複合撚糸を用いてなる織編物に関する。より詳細には、本発明は、紡績糸と水溶性糸の2種類の糸を撚り合わせた複合撚糸、並びに該複合撚糸から形成した織編物から水溶性糸を水で溶解除去した織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
紡績糸を用いた織編物では、織編物に伸縮性を付与するために、紡績糸とポリウレタン弾性糸を組み合わせた複合糸が広く用いられている。代表的なものとしては、ポリウレタン弾性糸からなる芯糸の周りを紡績用綿で被覆して撚を与えたコアスパンヤーン、ポリウレタン弾性糸からなる芯糸の周りに紡績糸を単層または複層に巻き付けたシングルカバードヤーンやダブルカバードヤーン、2本以上の紡績糸とポリウレタン弾性糸を撚り合わせたプライヤーンがあり、これらの複合糸を用いて伸縮性の織編物を作製することが一般に行われている。
【0003】
しかしながら、上記した従来の複合糸は、伸縮性の大きなポリウレタン弾性糸を用いているため、糸の取り扱い時や製編織時に特殊な装置および高い技術を必要とする。また、ポリウレタン弾性糸は熱や光などによって経時劣化を引き起こし易いため、ポリウレタン弾性糸を用いた複合糸やそれからなる織編物は伸縮性が徐々に失われ易い。更に、ポリウレタン複合糸を用いて作製した織編物は、柔軟性、ふっくらとした風合、軽量性などが不足することが多い。
【0004】
上記の点から、ポリウレタン弾性糸を用いずに伸縮性の羊毛布帛を製造する方法が提案されている(特許文献1を参照)。この特許文献1の方法では、羊毛繊維と水溶性ポリビニルアルコール繊維よりなる混用紡績糸から布帛を形成し、その布帛を水中に浸漬し撹拌下に昇温して水溶性ポリビニルアルコール繊維を収縮させた後に水溶性ポリビニルアルコール繊維を溶解除去して羊毛繊維のみの布帛とし、その布帛をセット処理して、伸縮性の羊毛布帛を製造している。しかしながら、この方法で用いている羊毛繊維と水溶性ポリビニルアルコール繊維よりなる混用紡績糸は、糸強力が十分ではなく、高速の織機や編機を使用して製編織した際に糸切れなどのトラブルが発生し易い。また、該混用紡績糸から形成した布帛から水溶性ポリビニルアルコール繊維を除去して得られる伸縮性の羊毛布帛は、伸縮性が未だ十分ではなく、しかも強度などが不足している。さらに、羊毛の代わりに例えば木綿や合成繊維などの他の繊維を用いてこの方法を実施した場合には、伸縮性の布帛が得られにくい。
【0005】
また、カシミヤ糸の製編織性を向上させて、カシミヤ製の布帛を円滑に製造することを目的として、カシミヤ糸と弱酸性水溶液に溶解性の糸を組み合わせて複合糸とし、その複合糸を製編織して織編物を作製し、該織編物から前記した弱酸溶解性の糸を酸で溶解除去してカシミヤ100%の布帛を製造する方法が提案されている(特許文献2を参照)。しかしながら、この方法により得られるカシミヤ100%の布帛も、伸縮性が未だ十分であるとはいえず、しかも酸により一方の糸を除去しているため、残留する糸の劣化などを生じ易い。
【0006】
【特許文献1】特開平11−241269号公報
【特許文献2】欧州特許第1061162B1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ポリウレタン弾性糸を使用しなくても高い伸縮性を有し、しかも軽量性、柔軟性、風合などの特性にも優れる織編物を得ることのできる複合糸を提供することである。
さらに、本発明の目的は、高速の織機や編機を使用した際にも糸切れなどのトラブルの発生がなくて製編織性に優れ、天然繊維製の紡績糸、合成繊維製の紡績糸、半合成繊維製の紡績糸などの種々の紡績糸を使用でき、小ロット多品種に高い生産性で対応でき、しかも細番手から太番手まで任意の太さの複合糸を得ることができる、伸縮性の織編物の製造に有用な、ポリウレタン弾性糸不使用の複合糸を提供することである。
そして、本発明の目的は、前記した複合糸から形成した、伸縮性に優れ、且つ軽量性、風合、柔軟性などの特性に優れる、ポリウレタン弾性糸不使用の織編物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記した目的を達成するために鋭意検討を重ねてきた。そして、紡績糸と水溶性糸を特定の質量比で使用して、紡績糸の撚り方向とは逆の撚り方向に両方の糸を撚り合わせ、その際に紡績糸の撚数と両方の糸を撚り合わせる際の撚数の比を特定の範囲にして特定の複合撚糸を製造した。そして、それにより得られた複合撚糸から織編物をつくり、該織編物中の水溶性糸を水に溶解して除去したところ、ポリウレタン弾性糸を使用していないにも拘わらず、紡績糸の糸長が水溶性糸に比べて長いため、水溶解処理後に、その長い分、伸縮性が得られ、更に水溶性糸が溶け出たところに隙間が生じ、その隙間を埋めようと更に糸に縮む力が生じ、結果として布帛に高い伸縮性が付与されること、しかもその布帛は、ふっくらとしていて良好な感触および風合を有し、軽量性、通気性などの特性にも優れることを見出した。
さらに、本発明者らは、上記した複合撚糸では、紡績糸として、羊毛繊維よりなる紡績糸だけではなく、天然繊維製の紡績糸、合成繊維製の紡績糸、半合成繊維製の紡績糸などの種々の紡績糸を使用できること、また該複合撚糸は製編織性に優れていて、高速の織機や編機を使用して製編織した際にも糸切れなどのトラブルが発生しないこと、細番手から太番手まで任意の複合撚糸を製造できることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)(i) 紡績糸と水溶性糸を撚り合わせた複合撚糸であって;
(ii) 複合撚糸の撚り方向が紡績糸の撚り方向と逆であり;
(iii) 紡績糸の撚数Aに対する複合撚糸の撚数Bの比(B/A)が1.3〜3であり;且つ、
(iv) 複合撚糸の質量に基づいて、紡績糸の割合が98〜20質量および水溶性糸の割合が2〜80質量%である;
ことを特徴とする複合撚糸である。
そして、本発明は、
(2) 水溶性糸が、水溶性のフィラメント糸である前記(1)の複合撚糸である。
【0010】
さらに、本発明は、
(3) 前記(1)または(2)の複合撚糸を含む織編物から、複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去したことを特徴とする織編物;および、
(4) 前記(1)または(2)の複合撚糸を10質量%以上の割合で含む織編物から、複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去してなる前記(3)の織編物;
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合撚糸は、ポリウレタン弾性糸を使用していないにも拘らず、該複合撚糸から織編物を作製し、その織編物中の水溶性糸を水に溶解して除去することにより、高い伸縮性を有し、しかもふっくらとしていて良好な感触および風合を有し、且つ軽量性、通気性などの特性にも優れる布帛を得ることができる。
本発明の複合撚糸では、紡績糸として、羊毛繊維よりなる紡績糸だけではなく、天然繊維製の紡績糸、合成繊維製の紡績糸、半合成繊維製の紡績糸などの種々の紡績糸を使用できる。
本発明の複合撚糸は糸中に水溶性糸が存在するために、毛羽が少なく、さらに補強の役割を果たすことから、高速の織機や編機を使用して、糸切れなどのトラブルを発生することなく、更には整経の際に糊付け処理を行わなくても、織編物を高い生産性で円滑に製造することができる。
本発明の複合撚糸は、細番手から太番手まで任意の紡績糸を使用して製造できる。
本発明の複合撚糸および伸縮性の織編物は、ポリウレタン弾性糸を含まないため、ポリウレタン弾性糸の使用に起因する熱や光などによる経時劣化がない。
本発明の複合撚糸を含む織編物を水で処理して複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去して得られる本発明の織編物は、紡績糸の糸長が水溶性糸に比べて長いため、水溶解処理後の布帛では、その長い分、伸縮性が得られ、さらに水溶性糸が溶け出たところに隙間が生じ、その隙間を埋めようとして糸に縮む力が生ずることにより、高い伸縮性を有し、しかも外観、感触、通気性、軽量性に優れる。そのため、本発明の織編物は、前記した特性を活かして、衣類用途、医療用途、工業資材などの広範な分野に有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の複合撚糸は、紡績糸および水溶性糸の2種類の糸から構成されている。
複合撚糸を構成する紡績糸は、水(熱水、温水、冷水)に溶解しない繊維から形成された紡績糸であればいずれでもよく、例えば、木綿、麻、絹、ウールなどの天然繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、水(熱水)不溶性のポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維などの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維などから選ばれる1種の繊維からなる単独紡績糸、前記した繊維の2種以上からなる混紡紡績糸のいずれであってもよい。複合撚糸およびそれを用いて製造する織編物の用途などに応じて、適当な紡績糸を選択して使用すればよい。
【0013】
紡績糸は、単糸、双糸または3本以上の合撚糸のいずれであってもよい。
ここで、本発明でいう「紡績糸の撚数」とは、紡績糸を製造するに当たって最後にかけられた撚りの撚数をいう。例えば、紡績糸が単糸である場合は単糸を製造するために紡績時にかけられた撚数をいい、双糸の場合は双糸を製造するために2本の糸を撚り合わせたときの撚数をいい、3本以上の合撚糸の場合は合撚糸を製造するために3本以上の糸を撚り合わせたときの撚数をいう。
紡績糸の撚数は特に制限されないが、撚数をT(単位:回/2.54cm)、綿番手をS(単位:番手)とすると、K=T/√Sで表される撚係数Kが2〜4の紡績糸が、紡績糸の品質安定性、複合撚糸製造時の生産性、紡績糸の入手容易性などの点から好ましく用いられる。
【0014】
紡績糸が双糸または3本以上の合撚糸である場合は、それらの紡績糸を製造した際の最後の撚りの撚方向が、双糸または合撚糸の製造に用いた単糸の撚方向と逆方向になっていること、また該最後の撚りの撚数(本発明でいう紡績糸の撚数;双糸または合撚糸を製造した際の撚数)が、双糸または合撚糸の製造に用いた単糸の撚数の0.3〜0.9倍であることが、撚糸の生産性、糸のハンドリング性、風合、紡績糸の入手容易性などの点から好ましい。
また、紡績糸の番手としては、綿番手5番〜200番のものが、複合撚糸を製造する際の工程性、紡績糸の入手の容易性、市場の要求などの点から好ましく用いられる。
【0015】
水溶性糸としては、大気圧下で、水の沸騰温度(約100℃)までの温度で水(熱水)に溶解する糸が、本発明の複合撚糸を用いて製造した織編物から水溶性糸を水で溶解除去する際の除去の容易性、取扱性などの点から好ましく用いられる。特に、水溶性糸としては、水溶性糸自体を単独で温度80℃以上の水に浸漬して30分放置したときに、浸漬前の水溶性糸の質量に対して、85質量%以上、特に95質量%以上が前記水に溶解する水溶性糸(水不溶性の残渣が15質量%未満、特に5質量%未満である水溶性糸)がより好ましく用いられる。水溶性糸の水溶解性が低いと、複合撚糸を用いて製造した織編物を水で処理して複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去する際に、水溶性糸の除去が不十分となり、織編物に充分な伸縮性、軽量性などを付与しにくくなる。
【0016】
水溶性糸を構成する繊維としては、前記した水溶解性を水溶性糸に与える繊維であればいずれも使用でき、例えば、水可溶性ポリビニルアルコール系繊維、水可溶性エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維、水可溶性ポリアミド繊維などを挙げることができる。そのうちでも、水可溶性ポリビニルアルコール系繊維、水可溶性エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維が、繊維強力、水(熱水)への高い溶解性、生分解性、入手容易性などの点から好ましく用いられる。水可溶性ポリビニルアルコール系繊維は、従来から広く知られており、例えば、水溶性ビニロンなどとして販売されている。特に、水可溶性ポリビニルアルコール系繊維は生分解性であるため、織編物からポリビニルアルコール系繊維を水で溶解除去した際に排出する廃液を微生物により円滑に処理して浄化することができる。
【0017】
水溶性糸は、水溶性である限りは、フィラメント糸であってもまたは紡績糸であってもいずれでもよい。そのうちでも、水溶性のフィラメント糸を用いることが、複合撚糸における水溶性糸の混率が低い場合にも複合撚糸から作製した織編物を水で処理して水溶性糸を溶解除去する際に水溶性糸の除去が速やかに且つ良好に行われる点、本発明の複合撚糸の糸強力が高くなる点、細い番手の紡績糸が使用し易い点、低混率で使用できコストを低減できる点などから好ましい。
【0018】
水溶性糸の太さは、15〜200dtex、特に25〜100dtexであることが、紡績糸との撚り合わせの容易性、複合撚糸の強力、紡績毛羽の低減、複合撚糸から形成した織編物からの水溶性糸の溶解除去の容易性、水溶性糸を溶解した後の生地の伸縮性、水溶性糸の生産性などの点から好ましい。
【0019】
本発明の複合撚糸において、除去用糸として、アルカリや酸に溶解または分解する糸ではなくて水に溶解する糸(水溶性糸)を使用した理由としては、織編物を形成している複合撚糸の一部を除去するためにアルカリや酸で処理した場合は、複合撚糸を構成している紡績糸の変質や分解などを生ずる恐れがあるが、水で処理した場合には紡績糸の変質や分解を生ずる恐れがないことが挙げられる。本発明では、複合撚糸を構成する除去用糸(織編物にした後に除去する糸)として、アルカリや酸により溶解または分解する糸ではなくて、水に溶解する水溶性糸を使用していることにより、複合撚糸を構成する紡績糸として広範囲の種々の紡績糸を使用することができる。すなわち、本発明では、複合撚糸を構成する紡績糸として、水に溶解しない糸である限りは、アルカリや酸によって溶解または分解し易い糸であっても使用することができ、複合撚糸を構成する紡績糸の種類や選択の幅が広がり、ひいては複合撚糸から形成される織編物の種類、特性、風合を色々なものにすることができる。
【0020】
特に、水溶性糸として水可溶性ポリビニルアルコール系繊維または水可溶性エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維からなる糸を用いた場合には、水溶性ポリビニルアルコールまたは水可溶性エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維は生分解性を有するため、溶解後の廃液を微生物などにより分解して処理することができる。
【0021】
本発明の複合撚糸は、複合撚糸の質量に基づいて、紡績糸を98〜20質量%および水溶性糸を2〜80質量%の割合で含む。本発明の複合撚糸では、紡績糸が95〜30質量%および水溶性糸が5〜70質量%の割合であることが好ましく、紡績糸が90〜50質量%および水溶性糸が10〜50質量%であることがより好ましい。
紡績糸および水溶性糸の割合を前記範囲にすることによって、製編織性、糸強力、撚の安定性などに優れる複合撚糸が得られる。しかも、複合撚糸から作製した織編物から複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去する際に、水溶性糸の除去が良好に行われ、しかも水溶性糸の除去された隙間を埋めようとする収縮力が織編物に働いて、伸縮性を向上させることができ、併せて織編物の風合、感触、軽量性、通気性なども向上する。
複合撚糸における水溶性糸の割合が上記範囲よりも少ないと(紡績糸の割合が上記範囲よりも多いと)、複合撚糸から製造した織編物から水溶性糸を除去した後の織編物の伸縮性、軽量性、通気性などが低下し、しかも硬くて劣った風合になり易い。一方、複合撚糸における水溶性糸の割合が上記範囲よりも多いと(紡績糸の割合が上記範囲よりも少ないと)、複合撚糸から製造した織編物から水溶性糸を除去した後の織編物は、形態安定性に劣るようになって、目寄れなどが生じ易くなる。
【0022】
複合撚糸を構成する紡績糸および水溶性糸の本数(糸本数)としては、撚糸機のクリル本数の制限、品質管理の点から、紡績糸が1〜3本および水溶性糸が1〜3本であることが好ましく、紡績糸が1〜2本および水溶性糸が1〜2本であることがより好ましく、紡績糸1本および水溶性糸1本を撚り合わせて複合撚糸を形成することが更に好ましい。
【0023】
本発明の複合撚糸では、複合撚糸の撚り方向(紡績糸と水溶性糸の2種類の糸を撚り合わせる際の撚り方向)(以下複合撚糸の撚りを「上撚」ということがある)が、複合撚糸を構成する紡績糸の撚り方向(以下紡績糸の撚りを「下撚」ということがある)と逆になっていて、且つ紡績糸の撚数A(単位:回/m)に対する複合撚糸の撚数B(単位:回/m)の比(B/A)が1.3〜3の範囲、すなわち複合撚糸の撚数(上撚の数)が紡績糸の撚数(下撚の数)の1.3〜3倍であることが必要である。
撚糸のトルクの低減、風合の向上などの点から、上撚の撚り方向と下撚の撚り方向とを逆にすることは従来からも行われているが、従来は、その際の上撚の撚数は下撚の撚数の0.3〜0.9倍程度であって、上撚の撚数の方が下撚の撚数よりも少ないのが一般的である。
それに対して、本発明の複合撚糸では、上撚の撚数(複合撚糸の撚数A)の方を、下撚の撚数(紡績糸の撚数B)よりも多くし、しかも両撚数の比(B/A)を前記した1.3〜3という特定の範囲にしている点で、上撚の撚数の方が下撚の撚数よりも少ない前記した従来技術と大きく相違する。
【0024】
本発明の複合撚糸では、上撚の撚数が下撚の撚数の1.3〜3倍であることにより、複合撚糸を製造するための合撚時(上撚を行った際)に、複合撚糸の形態安定性(撚りの安定性)を保ちながら、上撚が紡績糸の撚り(下撚)を解撚する方向に働き、その上撚の際に、紡績糸の糸長が長くなり、一方で水溶性糸は加撚されて糸長が短くなるため、紡績糸の撚が0からさらに加撚されるようになっても、紡績糸の糸長>水溶性糸の糸長の関係が保たれた状態で撚糸される。それによって複合撚糸から織編物を作製する際の製編織を良好に行うことができ、しかも製編織により得られた織編物から水溶性糸を水で溶解除去したときに、伸縮性が大きくなり、ふっくらとした風合を有し、軽量性、通気性に優れる布帛が得られる。
【0025】
複合撚糸における上撚の撚数が下撚の撚数の0.8倍未満であると、複合撚糸を製造するための合撚時に紡績糸の解撚が不十分であり、さらには水溶性糸の加撚も不十分であるため、そのような複合撚糸を用いて作製した織編物から水溶性糸を水で溶解除去しても伸縮性のある布帛が得られない。また、複合撚糸における上撚の撚数が下撚の撚数の0.8倍以上1.3倍未満の場合は、複合撚糸を製造する際の紡績糸の解撚は行われるものの、複合撚糸自体の撚りが不十分になるため、織編物を作製する際の製編織性に劣るようになり、しかも製編織して得られた織編物から水溶性糸を水で溶解除去した後に残留する紡績糸の撚りが不足し、形態の安定な布帛が得られず、例えば引っ張ったときに糸が素抜けするような布帛となる。
一方、上撚の撚数が下撚の撚数の3倍を超えると、上撚をかける際の撚糸工程(複合撚糸を製造するための合撚工程)で糸切れなどのトラブルを生じて、複合撚糸の生産性の低下、得られた複合撚糸の強度低下、複合撚糸を用いての織編時の工程不良などを招き、更には複合撚糸のトルクが強くなり過ぎて、紡績糸と水溶性糸との合撚工程や製編織工程での工程不良、生産性の低下などが生ずる。
本発明の複合撚糸では、上撚の撚数が下撚の撚数の1.4〜3倍(B/A=1.4〜3)であることが好ましく、1.5〜2倍(B/A=1.5〜2)であることがより好ましい。
なお、本明細書でいう「複合撚糸の撚数」(上撚の撚数)とは、紡績糸と水溶性糸を撚り合わせたときの撚数のことであり、実際には撚糸工程時の設定撚数に準じた値となる。
【0026】
紡績糸と水溶性糸を撚り合わせる際の撚糸機の種類は特に制限されず、例えば、ダブルツイスター、リングツイスター、アップツイスターなどの従来汎用の撚糸機を使用することができる。
【0027】
上記により得られる本発明の複合撚糸は、一般にトルクを有している。トルクを有していても製編織工程に支障を及ぼさない場合は、トルクを減ずることなくそのまま織編物の製造に使用することができる。もし、トルクを有していることにより製編織工程に支障を及ぼす場合は、熱処理を施してトルクを減じることが好ましい。その際の熱処理温度は、複合撚糸を構成する紡績糸および水溶性糸の種類、複合撚糸のトルクの強さになどによって決める必要がある。
【0028】
本発明の複合撚糸を用いることによって、高い伸縮性を有する織編物を製造することができ、織編物の種類や組織の内容などは特に制限されない。
織編物の製造に当っては、織編物の種類、用途、織編物に要求される伸縮の程度などに応じて、本発明の複合撚糸の使用割合を調節することができる。高い伸縮性を有する織編物を得るためには、織編物を形成している複合撚糸中の水溶性糸を水に溶解して除去する処理を行う前の織編物において、本発明の複合撚糸の使用割合を該織編物の質量に対して10質量%以上にすることが好ましく、20質量%以上にすることがより好ましい。それによって、該織編物を水(熱水)で処理して織編物を形成している複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去したときに、高い伸縮性を有する織編物を得ることができる。織編物における複合撚糸の使用割合が低すぎると、織編物を水(熱水)で処理して織編物を形成している複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去しても、伸縮性のある布帛が得られにくくなる。
【0029】
本発明の複合撚糸を用いて作製した織編物から、複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去する処理は、織編物を染色する工程の前および織編物に樹脂を付着する工程の前に行うのがよい。染色工程や樹脂付着工程中またはこれらの工程の後に複合撚糸を構成している水溶性糸の水溶解処理を行うと、染色工程や樹脂付着工程に支障を与え易くなり、しかも水溶性糸の溶解除去が充分に行われにくくなる。織編物を形成する複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去する処理は、通常、最初の段階で行うことが、次に続く生産工程の円滑性、織編物の品質の点から好ましい。
織編物を形成している複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去する際の水の温度は、水溶性糸を構成する水溶性繊維の種類や水に対する溶解度、糸の形態や太さなどに応じて調節できる。水溶性糸が水溶性ポリビニルアルコール系繊維から形成されている場合は、通常、温度70〜100℃の水を用いて処理を行うと、水溶性糸を短い時間で速やかに織編物から溶解除去することができる。
【0030】
本発明の複合撚糸を用いて作製した織編物から、織編物を形成している複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去して得られる布帛は、高い伸縮性とふくらみのある良好な感触を有し、しかも軽量性、通気性などにも優れており、それらの性質を活かして、例えば、スポーツ衣料、肌着、ファンデーション、その他の衣料用、弾性包帯などの医療用途、車輛内装材、ベルトコンベア用生地、その他の工業資材などに有効に使用することができる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において、織物(平織生地)の伸長率は次のようにして測定した。
【0032】
[平織生地の伸長率]
(1) 以下の例で製造した平織生地から、生地の経方向の寸法が15cm(長さ)で緯方向の寸法が2.5cm(幅)である試験片(a)と、生地の経方向の寸法が2.5cm(幅)で緯方向の寸法が15cm(長さ)である試験片(b)をそれぞれ切り取った。
(2) 上記(1)で切り取った試験片(a)の長さ方向の一方の端部の中央(幅方向の中央)に1gの重りを取り付けて、重りを付けた端部を下にして試験片を垂直に吊してその状態で1分間放置し、その時の試験片(a)の長さ(La1)を測定した。
次いで、前記1gの重りを試験片(a)の端部から取り去り、代わりに300gの重りを同じ箇所に取り付けて垂直に吊してその状態で3分間放置し、その時の試験片(a)の長さ(La2)(cm)を測定して、下記の数式(i)から平織生地の経方向の伸長率(%)を求めた。
経方向の伸長率(%)={(La2−La1)/La1}×100 (i)
(3) 上記(1)で切り取った試験片(b)の長さ方向の一方の端部の中央(幅方向の中央)に1gの重りを取り付けて、重りを付けた端部を下にして試験片を垂直に吊してその状態で1分間放置し、その時の試験片(b)の長さ(Lb1)を測定した。
次いで、前記1gの重りを試験片(b)の端部から取り去り、代わりに300gの重り取りを同じ箇所に取り付けて垂直に吊してその状態で3分間放置し、その時の試験片(b)の長さ(Lb2)(cm)を測定して、下記の数式(ii)から平織生地の緯方向の伸長率(%)を求めた。
緯方向の伸長率(%)={(Lb2−Lb1)/Lb1}×100 (ii)
【0033】
《実施例1》
(1)(i) 紡績糸として、撚数が600回/m(Z撚)の木綿100%の20番手紡績糸(都築紡績社製「TS20単糸」)を準備した。なお、この紡績糸は、2.54cm当りの撚数T=15.24回であり、番手S=20であることにより、式:K=(T/√S)から求められる撚り係数Kは、15.24/√20=15.24/4.47=3.24である。
(ii) 水溶性糸として、ポリビニルアルコールマルチフィラメント糸(56dtex)(80℃の水に溶解)(株式会社クラレ製「水溶性ビニロン」)を準備した。
【0034】
(2) 上記(1)で準備した紡績糸1本と水溶性糸1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して、撚数(上撚)が1000回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造した[複合撚糸の撚数Bと紡績糸の撚数の撚数Aの比(B/A)=約1.67]。
(3) 上記(2)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸と水溶性糸の2種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、該複合撚糸は紡績糸84質量%および水溶性糸16質量%からなっていた。
【0035】
(4) 上記(2)で得られた複合撚糸を経糸および緯糸として使用して、経25本/cm、緯20本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率100%)。その際に、経糸にサイジング処理を施すことなく製織工程を実施したが、糸切れなどのトラブルを全く生ずることなく、平織生地を高速で織ることができ、製織量産性において何ら問題がなかった(織速度0.1m/分)。
(5) 上記(4)で得られた平織生地を、80℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、生地を形成している複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去し、次いで生地を水から取り出して150℃で乾燥した。これにより得られた生地の経方向および緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ、経方向の伸長率が20%および緯方向の伸長率が22%であり、高い伸縮性を有していた。しかも、この生地は、ふっくらとしていて風合に優れ、軽量性よび通気性にも優れていた。
【0036】
《実施例2》
(1) 木綿40番双糸を経糸として使用し、実施例1の(2)で得られた複合撚糸を緯糸として使用し、経25本/cm、緯20本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40%)。その際に、経糸にサイジング処理を施すことなく前記製織工程を実施したが、糸切れなどのトラブルを全く生ずることなく、平織生地を高速で織ることができ、製織量産性において何ら問題がなかった(織速度0.1m/分)。
(2) 上記(1)で得られた平織生地を、80℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、生地の緯糸をなす複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去し、次いで生地を水から取り出して150℃で乾燥した。これにより得られた生地の経方向および緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ、経方向の伸長率が11%および緯方向の伸長率が23%であり、緯方向に高い伸縮性を有していた。その上、この生地は、ふっくらとしていて風合に優れ、しかも軽量性および通気性にも優れていた。
【0037】
《実施例3》
(1)(i) 撚数が800回/m(Z撚)の木綿100%の40番手紡績糸(都築紡績社製「TS40単糸」)を準備し、この紡績糸2本をダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して撚数600回/m(S撚)で撚糸して双糸を製造した。
(ii) 水溶性糸として、ポリビニルアルコールマルチフィラメント糸(56dtex)(80℃の水に溶解)(株式会社クラレ製「水溶性ビニロン」)を準備した。
【0038】
(2) 上記(1)で準備した双糸(紡績糸)と水溶性糸を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して、撚数(上撚)が1000回/m(Z撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造した[複合撚糸の撚数Bと紡績糸の撚数Aの比(B/A)=約1.67]。
(3) 上記(2)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸(双糸)と水溶性糸の2種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、該複合撚糸は紡績糸(双糸)85質量%および水溶性糸15質量%からなっていた。
【0039】
(4) 木綿40番双糸を経糸として使用し、上記(2)で得られた複合撚糸を緯糸として使用して、経25本/cm、緯20本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40%)。その際に、経糸にサイジング処理を施すことなく製織工程を実施したが、糸切れなどのトラブルを全く生ずることなく、平織生地を高速で織ることができ、製織量産性において何ら問題がなかった(織速度0.1m/分)。
(5) 上記(4)で得られた平織生地を、80℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、生地を形成している複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去し、次いで生地を水から取り出して150℃で乾燥した。これにより得られた生地の経方向および緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ、経方向の伸長率が10%および緯方向の伸長率が21%であり、緯方向に高い伸縮性を有していた。また、この生地は、ふっくらとしていて風合に優れ、軽量性および通気性にも優れていた。
【0040】
《比較例1》
(1) 撚数が600回/m(Z撚)の木綿100%の20番手紡績糸(都築紡績社製「TS20単糸」)と、実施例1で使用したのと同じポリビニルアルコールマルチフィラメント糸(56dtex)よりなる水溶性糸を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して、撚数(上撚)が400回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造した[複合撚糸の撚数Bと紡績糸の撚数Aの比(B/A)=約0.67]。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸と水溶性糸の2種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、該複合撚糸は紡績糸84質量%および水溶性糸16質量%からなっていた。
【0041】
(3) 木綿40番双糸を経糸として使用し、上記(1)で得られた複合撚糸を緯糸として使用して、経25本/cm、緯20本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40%)(織速度0.1m/分)。
(4) 上記(3)で得られた平織生地を、80℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、生地を形成している複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去し、次いで生地を水から取り出して150℃で乾燥した。これにより得られた生地の経方向および緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ、経方向の伸長率が11%および緯方向の伸長率が12%であって伸縮性が低いものであった。
【0042】
《比較例2》
(1) 撚数が600回/m(Z撚)の木綿100%の20番手紡績糸(都築紡績社製「TS20単糸」)と、実施例1で使用したのと同じポリビニルアルコールマルチフィラメント糸(56dtex)よりなる水溶性糸を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して、撚数(上撚)が700回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造した[複合撚糸の撚数Bと紡績糸の撚数Aの比(B/A)=約1.17]。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸と水溶性糸の2種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、該複合撚糸は紡績糸84質量%および水溶性糸16質量%からなっていた。
【0043】
(3) 木綿40番双糸を経糸として使用し、上記(1)で得られた複合撚糸を緯糸として使用して、経25本/cm、緯20本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40%)(織速度0.1m/分)。
(4) 上記(3)で得られた平織生地を、80℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、生地を形成している複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去し、次いで生地を水から取り出して150℃で乾燥した。これにより得られた生地を緯方向に引っ張ったところ、糸が抵抗感なく素抜けしてしまい、実用価値のないものであった。
【0044】
《比較例3》
撚数が600回/m(Z撚)の木綿100%の20番手紡績糸(都築紡績社製「TS20単糸」)と、実施例1で使用したのと同じポリビニルアルコールマルチフィラメント糸(56dtex)よりなる水溶性糸を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して、撚数(上撚)が3500回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造しようとしたところ[上撚の撚数Bと紡績糸の撚数Aの比(B/A)=約5.93]、糸切れが多くて撚糸が困難で、複合撚糸を製造することができなかった。
【0045】
《比較例4》
(1)(i) 撚数が350回/m(Z撚)の木綿100%の10番手紡績糸(都築紡績社製「TS10単糸」)を準備し、この紡績糸2本をダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して撚数300回/m(S撚)で撚糸して双糸を製造した。
(ii) 水溶性糸として、ポリビニルアルコールマルチフィラメント糸(56dtex)(80℃の熱水に溶解)(株式会社クラレ製「水溶性ビニロン」)を準備した。
【0046】
(2) 上記(1)で準備した双糸(紡績糸)と水溶性糸を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して、撚数(上撚)が600回/m(Z撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造した[複合撚糸の撚数Bと紡績糸の撚数Aの比(B/A)=2.0]。
(3) 上記(2)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸(双糸)と水溶性糸の2種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、該複合撚糸は紡績糸(双糸)98.2質量%および水溶性糸1.8質量%からなっていた。
【0047】
(4) 木綿40番双糸を経糸として使用し、上記(2)で得られた複合撚糸を緯糸として使用して、経25本/cm、緯13本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率50%)。
(5) 上記(4)で得られた平織生地を、80℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、生地を形成している複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去し、次いで生地を水から取り出して150℃で乾燥した。これにより得られた生地の経方向および緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ、経方向の伸長率が10%および緯方向の伸長率が13%であって伸縮性が低いものであった。
【0048】
《比較例5》
(1)(i) 紡績糸として、撚数が1500回/m(Z撚)の木綿100%の120番手紡績糸[Royal Textile Mills Ltd.(インド)製「Royal 120」]を準備した。
(ii) 水溶性糸として、ポリビニルアルコールマルチフィラメント糸(330dtex)(80℃の水に溶解)(株式会社クラレ製「水溶性ビニロン」)を準備した。
(2) 上記(1)で準備した紡績糸1本と水溶性糸1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して、撚数(上撚)が2500回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造した[複合撚糸の撚数Bと紡績糸の撚数の撚数Aの比(B/A)=約1.67]。
(3) 上記(2)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸と水溶性糸の2種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、該複合撚糸は紡績糸17質量%および水溶性糸87質量%からなっていた。
【0049】
(4) 木綿40番双糸を経糸として使用し、上記(2)で得られた複合撚糸を緯糸として使用して、経25本/cm、緯20本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40質量%)(織速度0.1m/分)。
(5) 上記(4)で得られた平織生地を、80℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、生地を形成している複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去し、次いで生地を水から取り出して150℃で乾燥した。これにより得られた生地は、形態安定性に劣っていて目寄れが生じ易く、実用価値の低いものであった。
【0050】
《参考例1》
(1) 経糸として木綿40番双糸の1本を使用し、緯糸として実施例1の(2)で得られた複合撚糸と木綿30番双糸を1本:4本の割合で使用して、経25本/cm、緯13本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率8%)。
(2) 上記(1)で得られた平織生地を、80℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、生地を形成している複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去し、次いで生地を水から取り出して150℃で乾燥した。これにより得られた生地の経方向および緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ、経方向の伸長率が11%および緯方向の伸長率が10%であり、伸縮性の低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の複合撚糸は製編織性に優れ、織物や編物を作製する際に糸切れなどのトラブルが生じず、しかもから本発明の複合撚糸から織編物を作製し、その織編物中の水溶性糸を水に溶解して除去することにより、高い伸縮性を有し、ふっくらとしていて良好な感触および風合を有し、軽量性、通気性などの特性にも優れる布帛が得られるので、本発明の複合撚糸は、前記した高伸縮性布帛の製造に有効に用いることができる。
本発明の複合撚糸を含む織編物を水で処理して複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去して得られる本発明の織編物は、その高い伸縮性、優れた風合、感触、軽量性、通気性などの特性を活かして、スポーツ衣料、肌着、ファンデーション、その他の衣料用、弾性包帯などの医療用途、車輛内装材、ベルトコンベア用生地、その他の工業資材などの広範な分野に有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) 紡績糸と水溶性糸を撚り合わせた複合撚糸であって;
(ii) 複合撚糸の撚り方向が紡績糸の撚り方向と逆であり;
(iii) 紡績糸の撚数Aに対する複合撚糸の撚数Bの比(B/A)が1.3〜3であり;且つ、
(iv) 複合撚糸の質量に基づいて、紡績糸の割合が98〜20質量および水溶性糸の割合が2〜80質量%である;
ことを特徴とする複合撚糸。
【請求項2】
水溶性糸が、水溶性のフィラメント糸である請求項1に記載の複合撚糸。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合撚糸を含む織編物から、複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去したことを特徴とする織編物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の複合撚糸を10質量%以上の割合で含む織編物から、複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去してなる請求項3に記載の織編物。

【公開番号】特開2006−144183(P2006−144183A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338000(P2004−338000)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(591121513)クラレトレーディング株式会社 (30)
【出願人】(504101005)浅野撚糸株式会社 (10)
【Fターム(参考)】