説明

複合材及びその製法

【課題】 光触媒として繊維状酸化チタン超微粒子を使用することによりシリカ系発泡体粒子への付着性を良好とし、噴霧した繊維状酸化チタンは網目状に付着するので通気性を有しており、網目状の繊維状酸化チタン超微粒子層を通して内部のシリカ系発泡体層の効果は表面側へ発現されると共に、シリカ系発泡体層に液状繊維状酸化チタン超微粒子を吹きつける簡単な作業のみでこれらの複合材が得られるようにする。
【解決手段】
シリカ系発泡体を含む層と繊維状酸化チタン超微粒子からなる光触媒層とからなる複合材及びその製法であって、前記シリカ系発泡体の平均粒子径が10〜200μmで、前記繊維状酸化チタン超微粒子が、平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100、比表面積が30m/g以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、病院、老人ホーム、食品加工工場、畜産施設、スポーツ施設等の建築基材に使用して、遮熱・断熱・吸遮音等に効果のあるシリカ系発泡体(中空ガラス体、シラスバルーン、フライアッシュバルーン等)を含む層と、脱臭・殺菌等に効果のある光触媒層とからなる複合材及びその製法に関するものである。
【発明の背景】
【0002】
シリカ系発泡体、例えばシラスバルーンは、火山ガラス質堆積物の微粒子とこの微粒子の親水性を減少させる親水性減少剤との混合物を作成し、流動層式加熱炉を用いて、前記混合物を900℃〜1200℃で熱処理することによって平均粒径20μm以下の微粒シラスバルーンを得る方法並びにこのような微粒シラスバルーンが軽量建築材料に適し、遮熱・断熱・吸遮音等の効果に優れていることが知られている。
【0003】
しかしながら、上記シラスバルーンは、比重が0.4以下と非常に小さいため、合成エマルジョン樹脂液に配合させたとき液面近くに浮上分離しやすく、シラスバルーン中に含まれる欠損バルーンは逆に沈降分離し、シラスバルーン自体の非親和性と相俟って均一に分散させることができない。また、部分欠損バルーン内部への水の浸入による分散系の外観変化(粘度アップや固化)、或いはチキソ性により塗装作業に支障をきたす。このため、塗装時には常時攪拌してシラスバルーンを合成エマルジョン樹脂液中に均一に分散させる必要があるが、この攪拌によりシラスバルーンの新たな破損をまねくこととなり、天然物である安価なシラスバルーンであるにも係らず使用上に制約を受ける。
【0004】
そこで、本発明者は特許文献1において、シリカ系発泡体であるシラスバルーンと、シラノール基を有するシリカ水分散体と、水性樹脂エマルジョンとからなる塗材組成物とし、前記シラノール基を有するシリカ水分散体中のシリカ成分を平板状シリカとし、シラノール基を有するシリカ水分散体中のシリカ成分をシリカ系発泡体であるシラスバルーンに対して固形分で3〜30重量%としたことにより、水分散シリカのシラノール基による水素結合の強い相互作用によりシラスバルーンを水分散体中に分散捕捉させると共に、シリカどうしの親和力と相俟って水性樹脂エマルジョン中に均一に分散させて適度のチクソ性や流動性を常に一定に保持できるようにした塗材組成物を提案している。
【0005】
一方、近時酸化チタンの光触媒作用を利用した脱臭及び殺菌機能を備えた各種製品が開発されている。これらの製品は、酸化チタン等の光触媒作用により、製品表面に付着した微生物や臭気物質が分解されることにより防菌、防臭する効果をねらったものである。この酸化チタンの光触媒作用は、酸化チタン粒子に紫外線を照射することにより、光触媒の表面に発生した正孔が、光触媒表面の吸着水と反応して、ラジカルOH(水酸基ラジカル)が生成され、このラジカルOHが有機物の分子結合を切断することにより、これが粒子表面へ拡散して周囲の有機物質へ酸化又は還元作用としてはたらくものと考えられている。
【0006】
酸化チタンは、その化学的特性を利用した用途が広く、例えば酸素と適当な結合力を有すると共に耐酸性を有するため、酸化還元触媒あるいは担体、紫外線の遮断力を利用した化粧材料またはプラスティックの表面コート剤、さらには高屈折を利用した反射防止コート剤、導電性を利用した帯電防止材として用いられたり、これら効果を組み合わせて機能性ハードコート材に用いられたり、さらに光触媒作用を利用した防菌剤、防汚剤、超親水性被膜などに用いられている。
【0007】
光触媒として使用される酸化チタンは無定型酸化チタンのみならず、アナタース型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、ルチル型酸化チタン及びこれらの混晶体、共晶体などの結晶性の酸化チタンが好ましく、特にアナタース型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタンはバンドギャップが高いので広く利用されている。
【0008】
また、前記酸化チタン粒子及び酸化チタンと酸化チタン以外の酸化物からなる酸化チタン系複合酸化物粒子の水分散ゾルの濃度としては特に制限はないが、酸化物として5〜40重量%の範囲にあり、このような濃度範囲にあれば、ゾルは安定であり、アルカリ処理時に粒子が凝集することがなく、効率的に酸化チタン粒子を製造できることが知られている。さらに、酸化チタン被膜の形成方法としては、酸化チタン塗布液を基材表面にスピナー法、バーコーター法、スプレー法、ディップ法、フレキソ法などで塗布した後、乾燥して高温で過熱硬化することが知られている。
【0009】
従来、例えば特許文献2には、「中空状ガラス粒子基体の表面に、無機物質を結合材として光触媒粒子を固定させた光触媒体」が提供されている。そして、この特許文献2には、「前記中空状ガラスがSiOを60〜80%含有し、かつ当該ガラス粒子の平均粒径が10〜500μm、嵩比重が0.13〜0.70であること、前記中空状ガラス粒子基体が中空シラスバルーン及び/又はその造粒物であること、前記中空状シラスバルーン造粒物の平均粒径が1〜50mmである」旨記載されている。
【0010】
また、「前記光触媒粒子が酸化チタン・・・であること、前記無機物質が、シリカ、アルミナ、粘土及びフリットからなる群より選ばれる少なくとも1種である」旨記載されている。さらに、ケイ酸エステル及び水に光触媒粒子を分散させた塗料に中空状ガラス粒子基体を浸漬してその表面に前記光触媒粒子を分散させた塗料を付着させた後、100〜900℃で過熱処理する光触媒体の製造方法」が記載されている。
【0011】
そして、該公報段落46には、「基体が中空シラスバルーンであり結合材である無機質がシリカの場合、基体であるシラスバルーン表面の光触媒粒子含有のシリカ膜とシリカを主成分とするシラスバルーンとの固定性は特に良好である・・・一方このシリカ膜の膜厚が0.1μmより薄くなると結合剤としての役割を果たさなくなるため、膜厚0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。」旨説明されている。
【0012】
また、該公報段落53には、「本発明の光触媒体の結合剤をシリカとした場合、ケイ酸エステルの加水分解で生成したシリカゾルからの脱水やアルコールの蒸発及び有機溶剤の蒸発で多孔質となったシリカ膜に包含された光触媒粒子が雰囲気のガス、表面に付着した細菌等と接触し易いため、これらを効率よく分解することが可能となる」旨説明されている。
【0013】
また、該公報段落55には、「すなわち、粘土、フリット及び光触媒粒子。もしくはフリット及び光触媒粒子からなる粉末を混合し、水又は有機溶媒を用いてペースト状に練り、これをパッドにとり、この中に中空状ガラス粒子基体(特に、中空シラスバルーン及び/又はその造粒物)の適量を入れ、横振動を与えることにより基体表面への光触媒粒子の固定を進行させ、これを450〜1000℃、好ましくは450〜800℃、さらに好ましくは450〜600℃で加熱させることができる」旨説明されている。
【0014】
したがって、特許文献2の光触媒体は、シラスバルーン粒子基体の表面に光触媒粒子を加熱して固定化させたものであって、シラスバルーン層と光触媒粒子層とからなる複合材ではない。故に、光触媒粒子とシラスバルーン粒子との固着性が良好であっても、シラスバルーン粒子基体の表面に無機物質を結合剤として光触媒粒子を加熱して固定化させるため、前述の如く光触媒を含む結合剤としての膜厚が問題となる等複雑な工程を必要とする。
【0015】
また、このようなシラスバルーン粒子基体の表面に光触媒粒子を加熱して固定化させた光触媒体は、シラスバルーン造粒物の平均粒径が1〜50mmと塗装膜としては極めて大きく、そのままでは建築基材の表面に塗装することはできない。さらに、塗布したとしても、該公報段落93に説明されているように光触媒粒子がシリカ膜に包含されており、したがって、塗布面内方のシラスバルーン粒子の効果はほとんど役目を果たさず、シラスバルーン粒子及び光触媒粒子の各効果は塗布表面のみとなる。
【0016】
したがって、特許文献2の光触媒体は造流物であって、該公報段落59、61に説明されるように、「・・・水の浄化や水耕栽培培養液の殺菌・・・」「・・・工場廃水、鉱業排水、工業用排水、農業用水、飲料水、湖沼、河川水、海水等を含むものである。これらの存在する湖岸、川岸、海岸、流水路、貯水槽内、濾過器内、下水道、あるいは水棲生物の飼養域内に本発明の光触媒体を用いて水の浄化を行うに当たり、これらの水と接触しうる箇所に、前記光触媒体を設置したり、あるいは前記の光触媒体を水に投入したりして配置する」ようにして使用されるもので、各種建築基材やその塗装に使用できるものではない。
【0017】
また、特許文献3には、「粒状担体の表面に光触媒が担持されてなる光触媒担持粒体であって、当該粒状担体が、セラミックス製担体原料と無機中空体を含む混合物を5.01mm〜30mmの粒径に造粒した後に焼成して得られることを特徴とする光触媒担持粒体」が提供されている。
【0018】
そして、「前記無機中空体が、中空ガラス体、シラスバルーン、フライアッシュバルーンまたはこれらの組合せからなるグループから選択され、前記無機中空体の粒径が5〜600μmであり、前記光触媒が二酸化チタンである」旨が記載されている。
【0019】
さらに、粒状担体の表面にチタン含有溶液をコーティングし、当該粒状担体を乾燥及び/または焼成してその表面に二酸化チタンを形成することによって、二酸化チタンを粒状担体の表面に固定する工程を有する光触媒担持粒体の製造方法」が記載されている。
【0020】
しかしながら、特許文献3の光触媒担持粒体は、前記特許文献2の光触媒体と同様に、シラスバルーン粒子基体の表面に光触媒粒子を加熱して固定化させた造流物であって、シラスバルーン層と光触媒粒子層とからなる複合材ではない。故に、粒状担体の表面に光触媒粒子を乾燥・加熱して固定化させて造粒物とする複雑な工程を必要とする。
【0021】
また、このようなシラスバルーン粒子基体の表面に光触媒粒子を乾燥・加熱して固定化させた光触媒担持粒体は、シラスバルーン造粒物の平均粒径が5.01〜30mmと塗装膜としては極めて大きく、そのままでは建築基材の表面に塗装することはできない。さらに、塗布したとしても、シラスバルーン粒子及び光触媒粒子の効果は塗布表面のみであって、塗布面内方のシラスバルーン粒子の効果はほとんど役目を果たさない。したがって、該公報段落1に説明されるように、光触媒担持粒体(造粒物)は流体中に分散させて「流体中に含まれる環境汚染物質の分解及び無害化に有用な、耐久性に優れた光触媒担持粒体とその製造方法」に関するものであり、各種建築基材の塗装に使用できるものではない。
【0022】
また、特許文献4には、「繊維状酸化チタンを造粒し多孔質粒子にしたことを特徴とする光触媒体、繊維状酸化チタン及び粒子状酸化チタンの混合物を造粒し多孔質粒子にしたことを特徴とする光触媒体」が提供されている。
【0023】
そして、該公報段落12には「これらの繊維状酸化チタンの形状としては、平均繊維径0.05〜30μm、好ましくは0.1〜5μm、平均繊維長3〜500μm、好ましくは5〜200μm、平均アスペクト比3〜1000、好ましくは6〜200のものを例示できる」旨説明されている。
【0024】
しかしながら、この発明においては、造粒体を多孔質粒子として被処理物に対する接触面積を増大させ、高い光触媒活性が得られるようにしようとするものであるが、シラスバルーン層に噴霧した場合に、繊維径が粗く繊維長さが長くナノメートル単位の粒子でないために充分に分散せず付着力が弱い。また、ナノメートルの分散体でなく多孔質体であるので、酸化チタンの比表面積が制限され、粒子表面の露出割合が全体として極めて少なく、高い光触媒活性作用を得ることができない。
【0025】
また、特許文献5には、「二酸化チタン(TiO)を用いた光触媒において、該二酸化チタンは、空孔率が5〜90%である多孔質のチタン(Ti)合金を焼結することにより酸化して形成したアナターゼ型の二酸化チタンであることを特徴とする光触媒」が記載されている。
【0026】
そして、該公報段落24には「本発明の二酸化チタン触媒101・・・で1200〜1350℃で焼結することにより形成したチタン合金であり、チタン微粉末は20nm〜200μm程度の微粒子である」旨、また「このチタン合金は、その後800℃以下の酸化雰囲気中で酸化させることにより、・・・空孔率(又は気孔率)が5〜90%であるアナターゼ型の多孔質の二酸化チタン合金となる」旨説明されている。
【0027】
しかしながら、この発明においては、空孔率5〜90%の多孔質チタン合金であり、繊維状でないか、または繊維をメッシュ状に織り込んだ織物を焼成したものであり、シラスバルーン層に噴霧した場合に付着力が弱く、メッシュ状に織り込んだ焼成物はシラスバルーン層への固着力が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】 特開2005−068283号公報
【特許文献2】 特開平10−249210号公報
【特許文献3】 特開2004−130156号公報
【特許文献4】 特開2000−288405号公報
【特許文献5】 特開2001−205099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
光触媒として繊維状酸化チタン超微粒子を使用することによりシリカ系発泡体層(建築基材を含む)表面のシリカ系発泡体粒子への付着性・固着性を良好とし、噴霧した繊維状酸化チタンは網目状に堆積するので通気性を有しており、網目状の繊維状酸化チタン超微粒子層を通して内部のシリカ系発泡体層の効果は表面側へ充分に発現されると共に、繊維状酸化チタン超微粒子の堆積した網目は比表面積が極めて大きいため光触媒効果が絶大であり、さらにシリカ系発泡体層に液状繊維状酸化チタン超微粒子を吹きつける簡単な作業のみでこれらの複合材が得られるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
請求項1の発明は、少なくとも、シリカ系発泡体を含む層と繊維状酸化チタン超微粒子からなる光触媒層とからなる複合材を提供するものである。
【0031】
この発明においては、例えば、病院、老人ホーム、食品加工工場、畜産施設、スポーツ施設等に使用して、軽量建築素材として、遮熱・断熱・吸遮音等に効果のあるシリカ系発泡体(シラスバルーン等)を含む層と脱臭・殺菌等に効果のある光触媒層との2層からなる複合材を提供することができる。また、光触媒が繊維状酸化チタン超微粒子であるためシリカ系発泡体粒子に容易にかつ強化に固着できると共に、酸化チタン超微粒子が繊維状であるためシリカ系発泡体粒子上に網目のように固着するので通気性を有するため、シリカ系発泡体の上記効果が光触媒層を通して表面へ発現できる。また、繊維状酸化チタン超微粒子の堆積した網目は比表面積が極めて大きいため光触媒効果が絶大である。したがって、シリカ系発泡体の遮熱・断熱・吸遮音等の効果と、光触媒の脱臭・殺菌等の効果との両方の効果を得ることができる。
【0032】
請求項2の発明は、少なくとも前記シリカ系発泡体の平均粒子径が10〜200μmで、前記繊維状酸化チタン超微粒子が平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100、比表面積が30m/g以上である請求項1記載の複合材を提供するものである。
【0033】
この発明においては、平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100である維状酸化チタン超微粒子であるため、平均粒子径が10〜200μmと大きな球状シリカ系発泡体からなる表面層の各粒子に単独分散して強固に付着させることができる。また、比表面積が30m/g以上であり粒子表面の露出度を90%以上と極めて大きくすることができる。上記範囲外であると、繊維状酸化チタンの反応拡散が充分に行われず、高い光触媒活性作用を得ることができない。好ましくは、平均繊維幅及び厚さが10〜30nm、平均繊維長さが20〜100nm、平均アスペクト比が3〜50、比表面積が50m/g以上である
【0034】
請求項3の発明は、少なくとも、シリカ系発泡体と、シラノール基を有するシリカ水分散体と、水性樹脂エマルジョンとからなる組成物を乾燥してシリカ系発泡体を含む層を形成後、該層に対して少なくとも繊維状酸化チタン超微粒子と無機元素及び有機元素を含む液状光触媒を噴霧して30〜120℃で熱風乾燥することにより光触媒層を形成するようにした複合材の製法を提供するものである。
【0035】
この発明においては、水分散シリカのシラノール基による水素結合の強い相互作用によりシリカ系発泡体を水分散体中に分散捕捉して、シリカどうしの親和力とも相俟って水性樹脂エマルジョン中に均一状態に分散して適度のチクソ性や流動性を常に一定に保持することのできる塗装組成物が得られる。また、このような塗装、乾燥された該シリカ系発泡体を含む層に少なくとも繊維状酸化チタン超微粒子と無機元素及び有機元素からなる液状光触媒を噴霧塗布することにより、シリカ系発泡体を含む層と維状酸化チタン超微粒子とが容易かつ強固に固着できると共に、熱風の温度を30〜120℃と極めて低い温度で乾燥固着でき、長期に渡り防臭、殺菌、防カビ効果を持続させることができる。さらに、シリカ系発泡体層に液状繊維状酸化チタン超微粒子を吹きつける簡単な作業のみでこれらの複合材が得られる
【0036】
請求項4の発明は、前記液状光触媒中の無機元素が半定量値において、少なくともTiが90〜97wt%、Siが2.3〜3.0wt%、Agが1.4〜2.2wt%、Znが0.2〜0.3wt%を含む液状光触媒である複合材の製法を提供するものである。
【0037】
この発明においては、上記の酸化物が残存することにより得られる酸化チタンの紫外線吸収領域、誘電率、光触媒活性、プロトン導電性、固体酸特性等を調整することができ、さらに熱的安定性や化学的安定性等を調節することもできる。また、Agを添加することにより、暗い密閉室内であっても高い光触媒活性作用を得ることができる。さらに、Si等の無機元素を含むことにより粘度を低くして流動性を高めることができ、繊維状酸化チタン超微粒子どうし及びシリカ系発泡体粒子とに容易にかつ強固に固着させると共に、速やかに乾燥させることができる。上記範囲外であるとこれらの効果が得られないものと思われる。
【0038】
請求項5の発明は、前記液状光触媒中の有機元素が定量値において、少なくともCが55〜65wt%、Hが8〜12wt%、Nが0.2〜0.4wt%含む液状光触媒である複合材の製法を提供するものである。
【0039】
この発明においては、CHNの有機元素が上記の範囲にあると、前記熱風の温度を30〜120℃と極めて低い温度で繊維状酸化チタンをシラスバルーン粒子に強固に固着させることができると共に、乾燥速度を極めて速くすることができる。上記範囲外であるとこれらの効果が得られないものと思われる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明を実施する為の実施形態について図1を参照して説明する。図1は本発明の複合材を建材3に適用した断面図であり、該複合材は、シリカ系発泡体、ここではシラスバルーンを含む層1と、繊維状酸化チタン超微粒子からなる光触媒層2とからなる。この2層は建材3に塗装せず、図2に示す如く、シラスバルーン自体からなる建築基材4の周囲全面に対し光触媒層2を塗布しても良い。また、上記建材3が木質等の有機基材である場合、直接光触媒層2を塗布すると有機基材が分解される恐れがあるが、シラスバルーン層1を介在させることにより直接の接触を防止するいことができる。
【0041】
図3は図1又は図2の表面部分拡大図であり、前記シラスバルーンの粒子1a・・・の平均粒子径が10〜200μmで、前記繊維状酸化チタン超微粒子2a・・・は、平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100、比表面積が30m/g以上である。したがって、このように維状酸化チタン超微粒子であるため、平均粒子径が10〜200μmと大きな球状シラスバルーンからなる表面層の各粒子に通気性を有するように網目状に分散して強固に付着させることができる。
【0042】
上記シラスバルーンは、前述の通り、シラス等の火山性ガラス質堆積物を熱処理することによって得られる球形中空状ガラス質微粒子であり、平均粒径が10〜200μmのものを使用する。好ましくは50〜120μmである。
【0043】
シラノール基を有するシリカ水分散体中のシリカとしては、平板状シリカを用いるが、好ましくは、自己造膜性、配向性、隠蔽性等の特性に優れた低結晶性の鱗片状シリカが好ましい。この鱗片状シリカは、粉末X線回析分析法により測定した結晶型遊離珪酸の測定値が10%未満、好ましくは5%未満と極めて僅かな低結晶性の鱗片板状を呈し、その厚さが0.005〜0.5μm、好ましくは0.02〜0.3μmであり、厚さに対する鱗片板状のアスペクト比の平均が少なくとも3〜10以上、好ましくは10〜30以上であり、またIRスペクトルの3600〜3700、3400〜3500cm−1にはそれぞれ一つの吸収帯をもつ反応性の高いシラノール基を有している。尚、このような鱗片状シリカは、珪酸アルカリ水溶液を脱アルカリして得られるシリカゾルを出発物質とし、これをオートクレープ等の加熱圧力容器中で過熱して水熱処理を行うことにより生成される。
【0044】
また、シリカの分散媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチルプロパノール、エチレングリコールなどの低級アルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類;ジメチルアセトアミド、トルエン、キシレンアセトン等を用いる。そして、このようなシラノール基を有する水分散体中のシリカ成分は、上記シリカ系発泡体に対して3〜30重量%、好ましくは1.5〜15重量%である。
【0045】
尚、シラノール基を有するシリカ水分散体は、シリカ系発泡体を水性エマルジョン中に均一状態に分散保持する。分散保持するメカニズムについては明らかでないが、シリカのシラノール基は水素結合に強い相互作用を有することから、中空微粒状のシリカ系発泡体を捕捉すると共に、シリカどうしの親和力によって、シラスバルーンの表面に絡まり、水性樹脂エマルジョン中に均一に分散して流動性を常に一定にできるものと推察する。
【0046】
水性樹脂エマルジョンとしては、例えば、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n・ブチル、アクリリ酸エチル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸・プロピル、メタクリル酸n・ブチル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸n・プロピル、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸アミド、メタクリル酸エチル、エチレン、ブタジエン等より選ばれた不飽和単量体の1種又は2種以上を乳化重合させて得られるホモ重合体又は共重合体のエマルジョン、さらにはこれらの重合体エマルジョンの2種以上の混合物が用いられる。また、水性エポキシエマルジョンのような硬化性樹脂の水性エマルジョンも使用できる。さらに、ウレタンエマルジョン、ウレタン水溶液、シリコンエマルジョンも使用できる。尚、水性樹脂エマルジョンのTgは5℃以下が好ましく、より好ましくは−30〜0℃である。また、水性樹脂エマルジョンは、シリカ系発泡体に対して固形分で120〜600重量%の割合で配合する。
【0047】
一方、繊維状酸化チタン超微粒子の生成は、酸化チタン系複合酸化物が水に分散してなる水分散ゾルを、少なくともSiO、AgO、ZnOのアルカリ金属水酸化物の存在下で水熱処理することにより得られる。これら繊維状酸化チタンの粒子径は、繊維幅及び厚さが1〜50nm、繊維長さが10〜1000nm、アスペクト比が2〜100以上が好ましく、酸化チタン系複合酸化物粒子の水分散ゾルを用いる。上記粒子径であれば安定な水分散ゾルが得られ、非常に高いレベルで単独の粒子分散性に優れた繊維状酸化チタン超微粒子が得られる。
【0048】
前記酸化チタン粒子、酸化チタンと酸化チタン以外の酸化物からなる酸化チタン系複合酸化物粒子の水分散ゾルの濃度としては、酸化物として2〜50重量%の範囲にあることが好ましい。このような濃度範囲であれば、ゾルは安定であり、アルカリ処理時に粒子が凝集することもなく、効率的に繊維状酸化チタン超微粒子を生成させることができる。
【0049】
上記のように、特にSiO、AgO、ZnOのアルカリ金属水酸化物が含まれると、繊維状酸化チタン超微粒子が生成しやすく、繊維状酸化チタン超微粒子の紫外線吸収領域や光触媒活性を調整することができ、さらに熱的安定性や化学的安定性を得ることができる。上記酸化チタン以外の酸化物の含有量は1〜25重量%、好ましくは3〜8重量%である。このような範囲において繊維状酸化チタン超微粒子は高いレベルで生成する。
【0050】
本実施例では、複合酸化チタン超微粒子に対してチタン過酸化物または複合チタン過酸化物と、有機高分子化合物とからなるバインダーを使用する。このようなチタン過酸化物または複合チタン過酸化物は通常溶液状態(透明液状光触媒)となる。このようなチタン過酸化物または複合チタン過酸化物は、前記複合酸化チタン微粒子と同程度の屈折率を有しているので、被膜構成成分による光の散乱がなく、透明性に優れた液状光触媒とすることができる。すなわち、シリカ系発泡素材を含む層の表面に図柄を施しても光触媒が透明性に優れているので視覚に影響がない。
【0051】
「繊維状酸化チタン超微粒子含有透明液状光触媒の作成」
塩化チタン水溶液を純水で希釈してTiOとして濃度約5重量%の塩化チタン水溶液を調整した。この水溶液を、温度を約5℃に調整した濃度約15%のアンモニア水に添加して中和・加水分解した。ついで生成したゲルを濾過洗浄し、TiOとして濃度約9重量%のオルソチタン酸のゲルを得た。
【0052】
このオルソチタン酸のゲル100gを純水2900gに分散させた後、濃度35重量%の過酸化水素水800gを加え、攪拌しながら85℃で3時間加熱し、ペルオキソチタン酸水溶液を調整した。得られたペルオキソチタン酸水溶液のTiOとして濃度は0.5重量%であった。ついで95℃で10時間加熱して酸化チタン粒子分散液とし、この酸化チタン粒子分散液に分散液中のTiOに対するモル比が0.016となるようにテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドを添加した。ついで、SiO、AgO、ZnOを若干量添加して、230℃で5時間水熱処理して複合酸化チタン粒子分散液、即ち本発明で使用する透明液状光触媒を調整した。この時の酸化チタンは、平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100の繊維状酸化チタン超微粒子であった。
【0053】
上記透明液状光触媒の無機元素及び有機元素の組成比の測定結果を以下に示す。尚、透明液状光触媒の組成を把握するために、この透明液状光触媒から水を蒸発させて、溶解成分のみを濃縮採取し、それに含まれる無機元素及び有機元素の量を調べた。試料溶液をビーカーに入れ、120℃のホットプレートを用いて水を蒸発させ、触媒成分を濃縮採取した。有機物の存在が予想されるのでCHN分析も追加した。
【0054】
無機元素の定性・半定量(蛍光X線法);
以下の装置・条件で測定し、含有元素の定性・半定量を行った。
装置;理学電気(株)製 全自動蛍光X線分析装置、RIX−3000
管球;Rh管球 測定径;25mmφ
【0055】

【0056】
CHNの定量(燃焼熱伝導度法);
装置;ヤナコ製 MT−700CN
【0057】

【0058】
測定結果の解析
前記測定結果より、液状光触媒に含まれる元素量は、以下のように計算される。

【0059】
上記無機元素の含有量は、下記式で測定値から算出した。
無機元素含有量=無機元素測定値×(100−CHN含有量)/100
すなわち、有機物由来と考えられるCHNの含有量(約70%)を全量から除き、その残りの(約30%)を無機元素含有量で割り振った。ただし、本測定では、必ず含まれている0(酸素)の含有量を把握できないため、無機元素の含有量には“<”を付した。Tiの形態をTiOと仮定すると、含まれるTiとOとの重量比は100:67となり、上表の推算値は次表のように換算される。
【0060】

【0061】
CNは有機バインダーに由来する元素と判断され、含有物の約70%以上(その他、酸素Oが存在している可能性も高い)を占めている。Ti(TiO)は光触媒の主成分である。
【0062】
Agは、主に抗菌作用物質として添加された成分であるが、その含有量はTiOに比べて遥かに少ないものと判断される。また、Agの添加により暗い密閉室内であっても高い光触媒活性作用を得ることができる
【0063】
Znは光触媒の吸着性向上のために添加されたものである。酸性のTiOに塩基性のZnOを添加する場合もある。
【0064】
Siはバインダー成分(シリカゾル)であり、粘度を低くすることができ、流動性も高めることができる。また、シリカ系発泡体(シラスバルーン等)や酸化チタンどうしの接着・固着を向上させることができる。尚、K,Clは本質的成分ではない。
【0065】
尚、光触媒の紫外線照射は300〜400nmの波長領域である。本発明においては自然光であっても他のライトを照射環境に応じて設置することもできる。また、光触媒体にAgを含むので暗い密閉室内であっても高い光触媒活性作用を得ることができる。
【発明の効果】
【0066】
本発明においては、軽量建築素材として、少なくとも遮熱・断熱・吸遮音等に効果のあるシリカ系発泡体(シラスバルーン等)を含む層と脱臭・殺菌等に効果のある光触媒層との複合材を提供することができる。また、光触媒が繊維状酸化チタン超微粒子であるためシリカ系発泡体粒子に容易にかつ強化に固着できると共に、酸化チタン超微粒子が繊維状であるためシリカ系発泡体粒子上に網目のように固着するので通気性を有するため、シリカ系発泡体の上記効果が光触媒層を通して表面へ発現できる。したがって、シリカ系発泡体の遮熱・断熱・吸遮音等の効果と、光触媒の脱臭・殺菌等の効果との両方の効果を得ることができる。
【0067】
また、本発明においては、平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100である維状酸化チタン超微粒子であるため、平均粒子径が10〜200μmと大きな球状シリカ系発泡体からなる表面層の各粒子に単独分散して強固に付着させることができる。また、比表面積が30m/g以上であり粒子表面の露出度を90%以上と極めて大きくすることができる。
【0068】
また、本発明においては、水分散シリカのシラノール基による水素結合の強い相互作用によりシリカ系発泡体を水分散体中に分散捕捉して、シリカどうしの親和力とも相俟って水性樹脂エマルジョン中に常に均一状態に分散して適度のチクソ性や流動性を常に一定に保持することができる。また、このような該シリカ系発泡体を含む層に繊維状酸化チタン超微粒子と少なくともSiを含む無機元素及び有機元素からなる液状光触媒を噴霧塗布することにより、シリカ系発泡体を含む層と維状酸化チタン超微粒子とが容易に固着できると共に、熱風の温度を30〜120℃と極めて低い温度で乾燥固着でき、長期に渡り防臭、殺菌、防カビ効果を持続させることができる。
【0069】
また、本発明においては、上記の酸化物が残存することにより得られる酸化チタンの紫外線吸収領域、誘電率、光触媒活性、プロトン導電性、固体酸特性等を調整することができ、さらに熱的安定性や化学的安定性等を調節することもできる。また、Agを添加することにより、暗い密閉室内であっても高い光触媒活性作用を得ることができる。さらに、Siを含むことにより粘度を低くして流動性を高めることができ、繊維状酸化チタン超微粒子どうし及びシリカ系発泡体粒子とに容易にかつ強固に固着させると共に、速やかに乾燥させることができる。
【0070】
さらに、この発明においては、CHNの有機元素が上記の範囲にあると、前記熱風の温度を30〜120℃と極めて低い温度で繊維状酸化チタンをシリカ系発泡体粒子に強固に固着させることができると共に、乾燥速度を極めて速くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】 本発明の複合材2層を建材に塗布した断面図
【図2】 シラスバルーン建築基材面に光触媒層を塗布した断面
【図3】 図1又は図2の表面部分拡大図
【符号の説明】
1 シラスバルーンを含む層
2 光触媒層
3 建材
4 シラスバルーン建築基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともシリカ系発泡体を含む層と繊維状酸化チタン超微粒子からなる光触媒層とからなる複合材。
【請求項2】
前記シリカ系発泡体の平均粒子径が10〜200μmで、前記繊維状酸化チタン超微粒子が平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100、比表面積が30m/g以上である請求項1記載の複合材。
【請求項3】
少なくともシリカ系発泡体と、シラノール基を有するシリカ水分散体と、水性樹脂エマルジョンとからなる組成物を乾燥してシリカ系発泡体を含む層を形成後、該層に対して少なくとも繊維状酸化チタン超微粒子と無機元素及び有機元素を含む液状光触媒を噴霧して30〜120℃で熱風乾燥することにより光触媒層を形成するようにした複合材の製法。
【請求項4】
前記液状光触媒中の無機元素が半定量値において、少なくともTiが90〜97wt%、Siが2.3〜3.0wt%、Agが1.4〜2.2wt%、Znが0.2〜0.3wt%含む液状光触媒である請求項3記載の複合材の製法。
【請求項5】
前記液状光触媒中の有機元素が定量値において、少なくともCが55〜65wt%、Hが8〜12wt%、Nが0.2〜0.4wt%含む液状光触媒である請求項3乃至4のいずれかに記載の複合材の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−253459(P2010−253459A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123565(P2009−123565)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(506374030)株式会社 鹿児島イーデン電気 (3)
【Fターム(参考)】